PandoraPartyProject

シナリオ詳細

泡と蟹と地下の洋館。或いは、蟹の巣迷宮の探索…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●蟹の巣迷宮
 その館は、長い間地面の下に埋もれていた。 
 それが発掘されたのは、単なる偶然。
 海の荒れたある夜が明けて、次の朝。
 ネオフロンティア海洋王国のとある海水浴場で、砂浜に大きな穴が空いているのが見つかった。
 すり鉢状のその穴は、蟻地獄に酷似しているとそれを見た者たちは言う。
 
 ネオフロンティアの調査によれば、すり鉢状の穴の真下に古い洋館が存在すると判明した。
 より正確に言うのなら、地下に空洞がありそこに洋館が建てられているということだ。
 4階建ての洋館は、一部が海水に浸かっているらしい。
 さらに、洋館からはぶくぶくと毒素を含んだ泡が溢れているという。
 泡の発生源は洋館の中に巣食う〝何か〟と調査を担当した兵士はそう告げた。
 曰く、その何かは洋館の中に巣食っているとのことだった。
「仲間たちと侵入を試みたのだがな……結局、館の一階で大量の蟹と罠に阻まれ引き返すことになってしまった」
 そう告げる兵士の、良く日に焼けた褐色の肌には火傷のような痣と、深い裂傷が刻まれている。
 それは泡に含まれる毒や、罠によって負った傷だ。
「館に巣食っているのは蟹なのか、って? いや、それは違う」
 小さく首を振り、兵士は苦々しげな表情を浮かべた。
 これを見てくれ、とそう言って兵士が懐から取り出したのは大粒の宝石が嵌った指輪であった。
「仲間の1人が拾ったものなのだがな、どうやら館内の扉を開く鍵らしい」
 曰く、館内の部屋の何か所かは扉に魔術的なロックがかけられており、この宝石が無ければ開けることができないという。
 その宝石には、よく見れば魔法陣のようなものが刻み込まれているのが確認できる。
「おそらくだが、洋館に住んでいるのは魔術師だ」
 果たしていつからその魔術師は、地下の館に住んでいるのか。
 また、どのような目的から館に罠を仕掛けたのか。
 それは現状、わからない……。
「だが、これだけはわかる。あの泡はいずれ、地上や近海を汚染するだろう」
 そうなっては、海水浴場やその周辺の港町は壊滅的な打撃を受ける。
 魔術師を捕え、泡を止めてもらいたい。
 そう言って、兵士は深く頭を下げた。

●洋館ダンジョン攻略指令
「サンイエローの太陽に、コバルトブルーの広い海……海水浴には絶好のロケーションね」
 なんて、言って『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は夢見心地な笑みを浮かべた。
 けれど、今回イレギュラーズたちが向かう先は太陽の光も射さぬ地下空間。
 おまけに、じめじめとした……一部は海水に沈んだ洋館の中だ。
「調査によると洋館の1階部分は海水に浸かっているそうよ」
 海水の量はさほどでもなく、膝までが浸かる程度だという。
 とはいえ、それだけの量の海水でも移動速度は大幅に低下するだろう。泳ぐか、小舟を用意すれば幾らかマシになるだろうか。
 また、洋館には幾つかの罠が仕掛けられているらしい。
「調査に向かった兵士たちが見たのは以下の4種類。館内は薄暗いそうだから、うっかり見落とすと大変なことになるかもね」
 1つは蟹の群れが巣食う落とし穴。
 1つは通路を塞ぐ毒の泡。
 1つは壁から放たれる鋼の矢。
 1つは天井から降り注ぐ強酸性の薬液。
 どれも、ダメージ自体は大きくないが【毒】や【足止】を付与する厄介なものだ。
 また、死角から襲って来る蟹の群れや、館内に溢れる泡にも気を配る必要があるだろう。
「貴方たちが館に入ってからおよそ1時間ほどで、館内は泡に飲み込まれるわ」
 つまりそれが、洋館攻略の制限時間ということだ。
 その時間を過ぎれば、もはや泡を止めることは不可能となる。
「当の魔術師は、そうなった時どうするつもりなのかしら?」
 わからないわね、と。
 そう呟いて、顎に手を当てプルーはこてりと小首を傾げる。
「魔術師の戦闘力は未知数だけれど、罠の内容から【毒】や【足止】を付与して来ることが予想されるわ」
 そして、洋館のどこに隠れ潜んでいるかはわからないという状態である。
 罠や蟹に警戒しながら、隠れ潜む魔術師を探し、捕らえるまでが今回の任務の内容だ。
「それと、今のところ手元にある指輪は1つだけ。だけど、私の予想ではきっとほかにも同じものが幾つかあるわね」
 集まったイレギュラーズたちへ向け、プルーは指輪を放って渡す。
 指輪に刻まれた魔法陣を指して、プルーは告げた。
「その指輪、4って番号が振られているわ」
 

GMコメント

●ターゲット
・地下洋館の魔術師×1
砂浜の地下に建てられていた洋館に住む魔術師。
洋館の何処かに潜伏しており、どういった目的か毒の泡を発生させているようだ。
また、館に住む蟹たちとの関係は不明。

毒の泡:神中範に中ダメージ、猛毒、足止
館内に仕掛けられている罠や毒泡と同様のもの。


・蟹たち×多数
館内の至る所に潜む体長30センチほどの蟹。
鋭い切れ味を誇る鋏を備えている。




●場所
砂浜の地下にある洋館。
明かりが灯されているため視界には問題ない。
1階部分は、膝の高さぐらいまで海水に浸かっている。
2階~4階は湿気ているだけで通常の洋館と同様。
各階には多数の部屋が存在しており、その一部は鍵の役割を果たす指輪が必要。
現在、手元には「4」と番号の書かれた指輪がある。

また、館内には4種類の罠が仕掛けられている。
・蟹の群れが巣食う落とし穴、小ダメージ、足止
・通路を塞ぐ毒の泡、毒
・壁から放たれる鋼の矢、小ダメージ
・天井から降り注ぐ強酸性の薬液、小ダメージ、足止

泡はじわじわと館内を侵食しており、侵入後1時間ほど(制限時間)で爆発的に増加。
館内の探索は以降不可能となる。

  • 泡と蟹と地下の洋館。或いは、蟹の巣迷宮の探索…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
銀城 黒羽(p3p000505)
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
スカル=ガイスト(p3p008248)
フォークロア
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

リプレイ

●蟹の巣食う地下迷宮
 ネオフロンティア海洋王国のとある海水浴場。砂浜に空いた穴の下、地下空間には苔むした洋館が建っていた。
 洋館の中には大量の罠と大量の蟹。そして、毒素を過分に含んだ泡が溢れ出していた。
「奇怪な。じゃがこればかりは特異運命座標になった利点じゃな――海洋に巣食う脅威を、己の手で排除にしにかかれるのじゃから」
 洋館に踏み込むは8人の男女。
先頭を進むは、オルカの海種『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)だった。クレマァダの背後には、小舟に乗った仲間たち。小舟を操縦するのは『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)である。
「敵さんの目的が謎でごぜーますが……海の平和を脅かすなら放っておけませんね。必ずや解決してみせましょー」
 マリナは小舟を進ませながら、カンテラによる明かりで周囲を照らす。海水に浸かった洋館1階部分、船の下には蟹の群れ。
「この蟹は何なんだ? 現状、目的が見えないな。それも判明すると良いんだが」
仮面をかぶった痩身の男、『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)は蟹を見やりそう呟いた。
 なんとはなしに、スカルは海水へ手を漬けようとして……。
「待って!」
その手首を『青の十六夜』メルナ(p3p002292)は掴み制止した。
「見て、どんどん増えていく毒の泡……」
 メルナの視線の先、暗い通路の奥からは紫の泡がじわじわと溢れ始めている。
何かしらの危機を察知したのか、クレマァダも海水からあがり、小舟へと退避した。
「このままじゃこの辺りの人達が困っちゃうんだから……絶対、私達で阻止しなくちゃ!」
「あぁ、メルナの言う通り。さっさと依頼を達成させる、それだけだ」
闘気を変じた鎧を纏い銀城 黒羽(p3p000505)は、両の拳を打ち鳴らす。それから黒羽は、何かの気配を察知したのか仲間を庇うように腕を掲げて小舟から身を乗り出した。
 ガキン、と甲高い音。黒羽の腕に当たり、海中へ落ちたそれは金属の矢だ。
「罠か……」
「あぁ、面倒くせぇな。だが、立ち止まってちゃあっという間に時間切れだ。さぁ、時間制限付き洋館攻略と行こうぜ」
手近な扉へ手を伸ばし、『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はそう告げる。海水による抵抗を受けながら、扉はゆっくりと外へと開く。
 瞬間……レイチェルの頭上で何かが爆ぜた。
 それはおそらく、硫酸を撒くトラップだ。
「うぉっと……自分の屋敷に硫酸トラップとは、何を考えてるんだ全く……」
いち早く罠に反応したのは『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)だ。小舟の縁を蹴り飛ばし、扉付近から遠ざけながら、自身は素早く部屋の中へと飛び込んだ。
 酸の雨を浴びたのか、火傷を負いながら、けれどアランは笑っていた。
「しゃーねェ。放置するわけにもいかねぇしサクッと片付けるか!」
 海水を跳ね飛ばしながら、大剣を手にアランは跳んだ。
 未だ酸を吐き出し続ける罠へ向け、アランは剣を一閃させる。轟音と共に天井の一部が崩壊し、酸の罠は停止した。
罠の止まった部屋の中へ、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は足を踏み入れる。海種ゆえか、腰まで海水に浸かっていながらその足取りは軽かった。
 部屋の中をぐるりと見渡し、心は小さなため息を零す。
「この部屋に、手がかりになりそうなものはありませんね」
 部屋の中には、腐り落ちた本棚が1つ転がるだけだった。

●屋敷の鍵
また、理解できないことをしている人がいる。
なぜ地下に住もうと思ったの?
なぜ蟹と過ごそうと思ったの?
わたしが知りたいのは計画じゃない、動機。
あなたを動かしているのはどんな感情?
それがすごく、知りたくて……。
「ここは、開かないようね」
 と、そう呟いてココロは4の鍵を仕舞った。
 彼女の脳裏を過る疑問。答えは未だ出ないまま、一行は1階の部屋のすべてを調べた終えた。結果、発見できたのは一階奥にあった開かない部屋。
 それと、3と書かれた鍵だった。

 2階の通路に空いた穴。穴の下を蠢く蟹たち。
 それを一瞥し、アランは剣を正眼に構える。
 穴の縁から、イレギュラーズたちを襲うべく蟹の群れが這い出した。体長30センチ……蟹にしては、それなりに大きなサイズだろうか。
「蟹如きが……はは、少し持ち帰って蟹鍋にでもするか? いや、こんな所にいる奴ァ流石に不味ィか!?」
「砂浜の地下に洋館ってのも、ぶったまげたンだが、蟹と毒の泡ってのも謎の組み合わせだなァ……っと、もたもたしてると泡が来るぞ」
 ファミリア―で使役する蝙蝠からの情報を得て、レイチェルは腕に魔力を通す。彼女の右半身に刻まれた紋様が赤く揺らめき、周囲の景色を歪めるほどの熱を発した。
 指先から滴る鮮血で文字を刻み、レイチェルは蟹の群れへと魔炎を撃ち込む。
 燃えながらも前進を続ける蟹を、アランは剣による一閃で薙ぎ払った。
「落とし穴の向こうの部屋は1室だけか……それなら」
 飛び散る蟹の残骸を、太い腕で薙ぎ払い黒羽は床を踏み抜かんばかりに蹴り飛ばす。闘気により生み出した不可視の足場を伝い、黒羽の巨体は空を疾駆。
 2階最奥の部屋へと辿りつくと、その扉を力任せに殴り飛ばした。
 ガキン、と硬質な何かが震える音。
「やっぱり……鍵のかかってる扉って、鍵がなきゃ開かないんだ。きっと、破壊することもできないよ」
 直観によるものか、メルナはその扉が開かないであろうことを察していたようだ。
 その事実を仲間へ伝え、彼女は自身の考えを話す。
「たぶん、重要なのは鍵のかかった部屋だけ……なんじゃないかな?」
「じゃあ、予定通り鍵を使わないと入れ無さそうな場所は後回しにして、まずは鍵探しでごぜーますね」
 すい、と視線を階段へ。
 蟹の群れが殲滅されたこをを確認し、マリナはそちらへ歩き始めた。
 手元にある鍵に振られた番号は3と4……予想通りなら、次のフロアの開かずの扉は、きっと開くはずだった。

「罠が多いな。回避は無理だ」
 足元に迫る蟹の群れを、掬うように投げ捨てながらスカルは言った。
 冴えわたる体術を駆使しつつ、スカルは迫りくる蟹の群れへと斬り込んでいく。3階に到着してすぐのことだ。通路を塞ぐ泡と、蟹の群れが一行に襲い掛かったのである。
 回避は不可能。となれば、殲滅せねば先へ進むことはできない。
 蟹の群れを追い払いながらも、スカルは左右にある部屋の扉を開けていく。
 罠の仕掛けられていない部屋ならば、緊急の避難場所として使えると判断したからだ。
「少々出遅れたが、毒の泡の発生源があるはずじゃの。ならばそれも排除しよう」
 スカルに続こうとする仲間たちを制止し、クレマァダが前に出る。
 胸の前で手を組んで、彼女はすぅと肺一杯に空気を吸い込む。それと同時に、クレマァダを中心に渦巻く膨大な魔力の渦が発生した。何かをするつもりだ。そう判断したスカルは、手近な部屋へと転がり込んだ。
 直後、通路に響くこの世のものとは思えぬ歌声。
 その歌を聞いた蟹たちが、次々とその動作に異常を来した。仲間同士で殺し合いをはじめ、或いは自身に鋭い鋏を突き刺した。
 やがて、毒の泡の発生が止まる。
 ごとり、ごとりと。
 重たい音を立てながら、通路の奥から現れたのは1匹の巨大な蟹だった。毒の泡を発生させていたその蟹は、どうやら半ばほど魔術的な道具と化しているようだ。
 そのどす黒い甲殻に、苦悶の表情を浮かべた人の顔が張り付いていた。

 3階。扉の鍵を開けたその先。あるのは作業机と、大きな壺だ。壺の中には無数の小蟹と、それから砕けた人の骨。
 どうやらここは、館の主の実験室……あるいは、書斎のようである。
「これは……」
 罠の有無を確認しながら、ココロは机へ近づいていく。
 机の上には一冊の本。日記、だろうか。慎重な手付きでそれを手に取り、記載された内容に目を通す。
 
 その魔術師は人々を憎んでいた。
 生まれつきの醜い顔。そして、魔術の才能があった。
 異質。人が人を恐れ、虐げるには十分な理由だ。
 人より顏の造作が良い、悪い。
 人より頭が良い、悪い。
 人より力が強い、弱い。
 自分たちと使う言語が違っている。
 自分たちと肌の色が違っている。
 たったそれだけの違いでさえも、人はそれを「普通でない」と決めつける。
 普通でないから、自分たちと違っているから、だから怖い。だから、集団で石を投げつける。石を投げたのは自分じゃない。皆やってる。だから自分は悪くない。
 そんな集団の悪意にさらされて、彼は歪んでしまったのだろう。 
 彼は地下へと身を隠し、そしてこの地下空間を発見した。
 はじめは小さな小屋を建て、魔術書を集め知識を蓄え、力を磨いた。
 彼が身に付けたのは、小動物を使役する術。地下に巣食っていた蟹たちを使役し、屋敷を建てた。
 使役できる範囲は広く、そしてその支配力は強大だ。
 けれど、彼は知らなかったのだ。強大な力には、それ相応の代価が必要であることに。
 彼の身体は、次第に蟹へと変じていく。
 その思考も、次第に人のそれとは離れていく。
 やがて彼は、人としての思考を失っていったのだろう。
 
 最後のページに、粗い筆記で記されたのはたった一言。
「死なばもろとも……ね」
 自身を虐げた者たちに、彼は復讐したいのだ。
 魔術に思考を侵されながら、最後に展開した術が、つまりは毒の泡なのだ。この屋敷自体を1つの呪具に見立てた一世一代の大魔術。
 それが、無限に広がる毒の泡。
 屋敷に巣食う蟹たちも、成長すればいずれ毒泡を吐くようになるのだろう……。
「止めるわよ」
 と、囁くようにそう言って。
 ココロは周囲に魔法陣を展開した。陣から溢れる淡い燐光。
 暖かく降り注ぐそれは、仲間たちの傷を癒した。

●怨嗟の末路
 4階。4の番号が振られた部屋で、発見したのは2の鍵だ。
 その鍵を手に、一行は階段を下っていく。けれど、気づけば2階の廊下は大量の泡に包まれていた。
「ぐぅ……おぉぉっ! 毒や薬液なんかで俺を殺せると思うなよ!」
「援護するわ!」
 鍵を手に、泡の中へと黒羽が駆けこむ。その身が負ったダメージを回復させながら、ココロがその後に続く。
 そして2人は、2の扉を開け部屋の中へと飛び込んだ。
「これを」
 ココロが回収した鍵の番号は1。1階奥の開かない扉を開く鍵だ。
 
 1階の廊下を埋め尽くす蟹、蟹、蟹、蟹の群れ。
 マリナとスカルの小舟に別れ、一行は1階最奥の部屋へと向かう。蟹の相手を務めるのは、小舟の先頭で固定砲台のように魔炎を手繰るレイチェルだ。
 レイチェルが切り開いた道を、鍵を手にしたクレマァダとココロが突き進む。一度は突破した道だ。罠もすでに破壊されており、2人の進行を遮るものは無数に湧いた蟹と泡のみ。
 1の扉の鍵を開いて、その扉をあけ放ったクレマァダは、しかしそこで息を飲む。
「これは……もはや救い難し。手向けである、せめて死ぬが良い」
 薄暗い部屋の中央。
 そこにいたのは、魔術師のなれの果てだった。その身を包む黒い甲殻。片腕の皮膚は腐り落ち、骨が変化し鋏と化している。その皮膚を突き破り伸びた、白い多脚が空を掻く。
 背中を丸め、口から血の泡を吐く魔術師だが、その目は虚ろ……否、腐った魚卵のように白濁していた。
『ぁぁ……ぁああああ』
 魔術師の口腔から、意味をなさない言葉が零れる。
 クレマァダの手元に、蒼い魔力が渦巻いた。
「もはや夢より覚めよ、魔術師。さすれば我が祈りを授けてやろう」
 淡々と。
そう呟いて、クレマァダは氷の鎖を解き放つ。

氷の鎖に拘束されながら、けれど魔術師は猛り狂う。ギシ、と何かの軋む音。魔術師の腕を覆う外骨格に亀裂が走る。
 口腔内から吐き出される大量の泡が、クレマァダを襲う。けれど、部屋に飛び込んで来た黒羽がその身を挺して彼女を庇う。
「泡は俺が引き受けよう。受けて受けて受け続ける!」
 顔の前で腕を交差し、黒羽は泡の進行を全身全霊で喰い止めた。そんな黒羽の背後では、メイドロボットの橘さんが、その背をそっと支えていた。
 黒羽の作った一瞬の隙に、マリナとメルナが部屋の左右へと展開。
「こんな所に籠もって毒撒き散らして、アルバニアの真似事か何かですか?」
 マリナの指が、フリントロックの引き金を引いた。
 放たれるは魔力の弾丸。魔術師の下顎に命中し、その口を強引に閉じさせる。
 その直度、メルナは剣を振り上げ壁を蹴ってまっすぐに跳んだ。
「会話が出来るならって思ったけど……無理そうだねっ!」
 振り上げられたメルナの剣に、白い閃光が宿る。
 一閃。大上段から振り下ろされたその一撃は、魔術師の頭頂から額にかけてを切り裂いた。
 閃光が爆ぜ、魔術師の額から血が飛沫く。
「う……硬」
 勢いをつけた一撃だったが、魔術師の意識を奪うには足りなかった。氷の鎖を砕いた魔術師は、鋏と化した腕を振り抜きメルナの身体を弾き飛ばす。
「うわっ!」
「おっとー」
 吹き飛ばされたメルナは、マリナを巻き込み床に倒れる。倒れた2人のもとへ、部屋の外から無数の蟹が群がっていく。
「ちょ、メルナさん。蟹、蟹がわさわさやって来てるでごぜーます」
「わ、わかってるよ!」
 蟹の群れに向け、マリナは魔力弾を乱射する。
 マリナの射撃を回避し、近くまで迫った蟹たちはメルナが剣を追い払う。
 悲鳴をあげて騒ぎ立てる2人の元に、蟹たちは続々と集まって行った。

 マリナとメルナが蟹を引き付けているその隙に、スカルは床を蹴って跳ぶ。
 強化された脚力で、一瞬の間に魔術師の眼前へ。
 スカルを援護するように、クレマァダの放った青い衝撃派が毒の泡を撃ち払う。宙を舞う泡を突き破り、スカルは魔術師へと肉薄。
「殺さないようしたいとこだが……」
 鋭く放つワン・ツーが魔術師の顔面を強かに打つ。鼻の骨がへし折れる音。
 けれど、もはや痛覚さえも碌に機能していないのか、魔術師はその白濁とした目でスカルを捉え、腕を伸ばした。
 スカルの身体に鋏が届く、その直前……。
「ぐぅぅう、おらぁっ!」
 気合一声。
 魔術師の身体に組み付くと、全身のバネを使ってその身を宙へと投げ捨てた。

 宙を舞う魔術師は、大きく息を吸い込んだ。
 その胸部が、人の骨格ではあり得ないほどに大きく膨らむ。空気を吸い込み、魔力と練り合わせて毒の泡を精製しているようである。
 空を舞う魔術師の位置からなら、室内のイレギュラーズのほぼ全員を泡の射程に収められることだろう。
 けれど、しかし……。
「……魔術師としての格の違い、見せてやるよ」
 銀の髪がゆらりと揺れる。
 熱を孕んだ空気の中央、顏の前に右腕を翳したレイチェルは、犬歯を剥き出しにして笑う。
 魔術師が泡を吐き出すのと同時、レイチェルは腕を振るってその顔目掛けて魔炎を放つ。
 ごう、と空気の爆ぜる音。
 毒の泡は蒸気と化して霧散した。
 その、直後……。
「ははは! 盛り上がって来たなァ!?」
 狂暴な笑みを浮かべてアランが駆ける。その手に握る、獣の肉を変異させたかのような異形の大剣を床に突き刺し、アランは跳んだ。
 振り上げた両の腕には、2本の聖剣。
 紅と蒼の軌跡を描き、アランの斬撃は魔術師の腕を斬り飛ばす。
 さらに渦巻く魔力の奔流が、魔術師の身体を床へと叩きつけるのだった。腕を失い、その身体からは砕けた外殻の欠片が散った。
 口から血混じりの泡を吐き……そして、彼は意識を失う。
「よし、これで任務完了だな」
 着地したアランは、帽子を押さえそう言った。
 その手に持っていたはずの2本の剣は、いつの間にか消えている。

 拘束した魔術師に回復術を行使しながら、ココロは小さく首を傾げた。
「確か、捕えろと言われていたわね……でも、この状態では」
 命はある。
 呼吸をしているのか、その胸はゆっくり上下していた。
 けれど、しかし……。
「いえ……彼がこうなった理由は知れた。後は、私たちの関与するところではないわね」
 と、そう告げて。
 館内で発見した魔術師の日記を胸に抱き、ココロはくるりと踵を返した。
 魔術師の支配から解放されたのか……生き残っていた蟹たちは、続々と屋敷から退去していく。
 彼らはきっと、この広い海のどこかへ散っていくのだろう。
「貴方も……復讐なんて考えず、どこかへ逃げればよかったのにね」
 なんて、言って。
 最後に一度、理性を失った魔術師を見て、ココロは館を後にした。

成否

成功

MVP

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者

状態異常

なし

あとがき

魔術師の目的を未然に阻止し、その身柄を捕縛することに成功しました。
魔術師が捕らわれたことにより、館内の罠もおよそ停止。
依頼は成功となります。

果たして魔術師は理性を取り戻すことができるのか……。
とにもかくにも、此度の物語はこれでおしまい。
いかがでしてでしょうか? お楽しみいただけたなら幸いです。
また、いずれ、機会があれば別の依頼でお会いしましょう。

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