PandoraPartyProject

シナリオ詳細

美塔院ーーーーーーーーーー!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世の中には三種類の奴がいる。危険から逃げる奴。危険に飛び込む奴。彼は……
『24時間以内に指定した品を届けられなかった場合、彼は君たちのもとに戻ることはないだろう』
「「美塔院ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」

 短い映像の記録された水晶玉に、円形テーブルに集まっていた全員が顔を寄せた。
 そりゃ知り合いが椅子に縛られてズタ袋被った状態で見せつけられたら誰だってこうなる。
 歪んだ水晶越しにでは悪いので、一人一人アップでご覧頂こう。
「ヤベエヨヤベエヨ」
 顔の中央にパーツを寄せながら汗を流しまくる伊達 千尋 (p3p007569)。
「……これ、ほっといたらダメだよな?」
 額に手を当ててぐええって顔をするキドー (p3p000244)。
「そ、そうねぇ……元はと言えば私たちのせいだし……」
 そっぽを向いてグラスに口をつけるアーリア・スピリッツ (p3p004400)。
「奴はやると言ったらやる美少女。一刻たりとも猶予は与えぬだろう」
 清楚なキラキラを出しながらこめかみに指をあてる咲花・百合子 (p3p001385)。
「それはええけど……どうやって手に入れるん? 『指定した品』ゆうんは」
 弱った様子で頬に手を当て、仲間の顔を見るブーケ ガルニ (p3p002361)。
「コトは急を要する。今ここに居るメンバーだけで解決しなければならないな」
 なあ嫁殿、と人形に呼びかける黒影 鬼灯 (p3p007949)。
「ま、『仕事の払い』をケチるとろくなコトがないからな。俺たちにも責任がある以上、どっちみちこいつは俺たちの手で片付けなきゃいけない案件だろ」
 シラス (p3p004421)は水晶玉をトンと指で弾いてどけると、テーブルに羊皮紙を広げた。
「幸い、優秀な顔ぶれが揃っていますしね」
 雨宮 利香 (p3p001254)はパチンと指を鳴らし、その場に集まった面々の顔を改めて見回した。
「大丈夫。行けますよ。このメンバーなら」

●闇酒場『燃える石』にて
 幻想のワルたちが集まる酒場、燃える石。
 様々な陰謀の舞台になるここで、今日も誰かの陰謀が浮かんでは消えていた。
 始まりは『燃える石』のマスターと幻想貴族モリス・ド・ヴォードリエ氏がイレギュラーズをコネクションハブにして知り合ったことであった。
 国内でも高級ワインとして有名なヴォードリエワイン(今期限定ドヤ顔モリスモデル)を仲介業者ナシで納入することで安く振る舞うという契約を結び、酒場でまともに口に出来るものが増えて万々歳だぜとキドーもアーリアも喜んだのだが……。
 契約が結ばれてからいてもたってもワインは届かない。
 モリスは確かに出荷したというが一瓶たりとも店には届いていないのだ。
 そこで名乗りを上げたのが情報屋ことアーゲイト・美塔院。
 千尋のコネでこの酒場に通うようになったという彼が、独自の情報網を駆使して『消えたワイン』の行方を捜索してくれたのだった。
 結果、彼は見事に悪徳運送業者の悪事を突き止め、ワインが違法に別の業者へ納入され本来発生しえない手間賃をかすめ取っていたことが判明したのだった。
 あとは納入されてしまったワインが売りさばかれるまえに取り返すだけ。
 じゃあ皆で押しかけてワインで乾杯よぉと思ったがそうは行かなかった。
 悪徳運送業者がある組織の末端にあったらしく、アーゲイトは意図せず虎の尾を踏んでしまったのである。
 アレイスター・クロユリーという、『悪い噂』に事欠かぬ裏社会のインフルエンサーを引っ張り出してしまったのだった。

 複雑すぎる話なので、まずはミッションをまとめよう。
「アレイスターが要求してきたのは『業の鍵』と『罪の鍵』。
 盗賊界隈ではちょっと有名な魔法のバンプキーだ。
 二つ揃えば特別な箱を開けられるらしいが、その箱がどこにあるかは誰も知らねえ。
 そして奴がなぜそれを欲してるかも関係ねえ。
 重要なのは、そいつを手に入れられるかどうかで俺たちのセキニンってやつが問われるってことだけだ」
 キドーはそんな風に語りながら、鍵の形状を書き出した。
 バンプキーというだけあって差し込み棒に凹凸の全くない鍵だった。持ち手の部分がハートとスペードの形をしていて、複雑な模様が描き込まれている。
「鍵の持ち主は分かってる。フェンデリックっつー小悪党さ」
「あぁあ、フェンでリックね……」
 シラスがげんなりした様子でコインを高く弾き上げ、片手でキャッチした。
 髪を垂らすように小首をかしげる利香。
「だれなんです?」
「賭場の支配人だよ。表向きにはキャバレーだけど、裏に隠しカジノがある。
 そこじゃあ貴族連中に製造を禁止されたヤバい酒や煙草が売り買いされてるとも聞くな。俺はヤッたことないけど」
「……それって、簡単には入れないですよね」
「モチ。会員カードが必要だ」
 シラスはそう言って、今さっきコインをキャッチしたはずの手からトランプカードをパッと出した。ハートのエースである。
「キャバレーに来てる上客がカードを持ってる。商売女に紛れてそいつを手に入れてくれ」
「…………ん?」
 利香は自分の顔を見ながら言われてることに気づいて、指で自分の顎をさした。
 ゆーっくりと頷くキドーとシラス。
 利香はゆーっくりと頷きながら、指先をアーリアへとつついっと移した。
「カードが一枚じゃ足らないだろうし、一緒にやってもらっても?」
「まあ、そういうことになるわよねぇ……」
 金持ちの客を酔わせて油断させ、場合によっては誘惑してカードを盗み取るのだ。
「俺は、どないしようかねえ」
 ブーケが悩んでいると、図に書き出されたキャバレー見取り図のうちステージ部分をトンと鬼灯がさした。
「客を酔わせるには場の空気も必要なもの。カードの『受け渡し』の隙を作る意味もこめて、ステージで芸を披露しよう」
「俺も……?」
 そっちの担当なの? と頭を抱えたが、鬼灯には勝算があった。ブーケの人徳(?)は人の心を開きやすい。彼が何かしらの芸に挑戦するだけで周りはそれを暖かく見守ろうとするだろう。そのための状況を、自分が用意してやればいいのだ。
 カードを奪い、カジノへ入れればこっちのものだ。
 キドーとシラスはフェンデリックへと近づき、鍵をすり取るのだ。
「この手、そういえば前にやったな」
「おー、あのパターンか。懐かしいぜ」
 今回はカジノの支配人ということで、周りにはボディーガードも多数存在しているというのが難点だ。だが、わざと侮らせて注意を引き、その間にスッと鍵だけ奪い取る。力では無く技でアイテムを手に入れるのだ。
「ヘッ、なるほどカンペキな作戦だぜ」
 千尋はビールを一気飲みすると、ジョッキをドンとテーブルに置いた。
「すぐに気づかれてボディーガードにボコボコにされるという点を除いてはなァ!」
「奪うことは難くとも、守ることは易い」
 ポンと肩に手を置いて優しく頷く百合子。
「えっなに、何語?」
「シラス殿が逃げる時間を稼ぐべく、戦う殿が必要であるな」
「えっなに、それ俺も!?」
 スゥっと顔を近づけて、修羅みたいな目で顔をのぞき込む百合子。
「金持ちを誘惑するほうが好みか?」
「いいえ喜んで戦わせていただきます!! シャアッス!」
 敬礼する千尋。
 こうして……ひとりの男を救うために八人総出の窃盗計画が発動したのだった。
 彼らの運命は、そして今もズタ袋を被らされている情報屋の運命やいかに!

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。
 たいへんOPが長くなりましたので内容をまとめました。
 まずはこちらをお読みください

■オーダー
 フェンデリックが所有する『鍵』を盗み取る。

●必要な手順
 今回は役割分担が最初から決まっています。

・利香、アーリア:キャバレーのホステスになって金持ちを酔わせ、財布に入っている会員カードを盗み取る。
 今回モリスのコネで一日だけここで働けるようになりました。身分を隠して。
 特に新人好きの常連客がいるので、彼を接客中に『財布を出させる』『強烈に注意を引く』『カードを盗む』というタスクを達成しましょう。
 色気とそれを発揮するテクを駆使しましょう。

・ブーケ、鬼灯:ステージで客達を楽しませる
 仲間達がカードを手に入れるに当たって、それを気づかせないほど客の注目を集めておく必要があります。
 主に鬼灯は場を暖める係。ブーケはそれを盛り上げる係です。
 単に何をやるかで終わらずに、どういう段取りをとるかが重要になってきます。成功の鍵は『ブーケの使いどころ』です。彼の爆発力をここででは利用しましょう。

・シラス、キドー:フェンデリックから鍵をスリ取る
 フェンデリックはカジノのバーで大体酒を飲んでいます。
 周囲はゴツゴツのSPだらけなので武力による強奪はほぼ不可能。
 ですが、キドーとシラスのどちらかが『フェンデリックに近づく』というタスクをこなし、『周囲の注意を引く』というタスクへつなげることができれば、もう一人が『フェンデリックから鍵をスリ取る』というタスクを達成できます。
 これはどちらがどちらを担当してもOKです。

・百合子、千尋:追ってくるであろうボディーガードと戦って足止めする
 キドーたちはさっさと退散しますが、フェンデリックが鍵の不在に気づくのはすぐでしょう。
 SPたちが猛烈な勢いで追っかけてくるので、これと戦って足止めするのが役割になります。
 敵はそれなりに強くて数も多いので殲滅よりも足止めを目指してください。
 具体的には『鍵を盗んだ連中であることを宣言しながら目立つ』『簡単には倒せなさそうな強キャラオーラを出す』『いざとなったらバイクや美少女走りで逃げる』の三本です。
 地味に戦闘力よりロールがモノをいいます。

  • 美塔院ーーーーーーーーーー!!完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
竜剣
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

リプレイ

●ココロオドレナイ
「畜生ーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 ゴブリンがテーブルにヘッドバッドした。一斉に中に浮く皿とカップとダークマター炒め。
 だらんとさがった両腕。『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)はくずれる割り箸をあびながらもごもごしゃべり出した。
「マスターマジで何にも喋らねえからさあ、ホントに契約出来んのかって心配して……そんでも無事目出度く『燃える石』に美味い酒増えて……さあ飲むぞって思ったら……」
 むくりと頭を上げる。
 上げてからの。
「コレよ!!!!!」
 もっかいテーブルにいった。一斉に宙に浮く割り箸。コイン。サイケデリックカラーのシチュー。
「ばびぶばべんばべええぼおおおおおおお!」
「なんて?」
 手の中でコインをすり替え続ける遊びをしていたシラス(p3p004421)がふと振り返った。
 顔をサイケデリックカラーにして上げるキドー。
「あんなのどろぼーじゃん」
「どろぼーはお前だ」
 キドーのそばにあったコインをいつのまにか握っていたシラスはそれをピンと親指で高く跳ね上げた。
「ま、美味い酒に俺ァ興味ねえけど、幻想貴族の覚えがよくなるってのがいいよな。名前を売っといて損もないだろ」
「貴族に名前売ってどうするの。結婚資金でもためんの?」
「ちげえし」
 シラスがキャッチしそこねたコインをぱしりと低い位置でつかみ、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は『これは貴殿のであろう』といって突き出した。
 なんか夏場ぽっけに入れっぱなしにしてたら変形しきったチョコみたいな物体。もといコインだったものを受け取りげっそりしながらキドーに返すシラス。
 どうしょもない色になったフライドチキンを饅頭みたいにガボリっとかじり取ってもしゃつく百合子。
「しかしクロユリー……とらえた肉を生かしたまま椅子に座らせるとはなんたる美少女知能。噂は本当らしいであるな……」
「ちなみに、本当ならどうなるの?」
 ビールに口をつけ、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は百合子のほうを見た。
 百合子は二秒ほど考えた後……。
「それはもう、『キュッ☆』であるな」
 ジェスチャーが明らかに山羊を解体する手順のはやまわしだったが、千尋は顔を限界まデフォルメして『そっか~』て返した。深く触れたらいま手元にあるフライドチキンもどきみたいになりそうだったからである。
「いま美塔院なにしてるんだろーなー……灰色のスムージー飲んでるのかなー」
 アイス食ってるおじさん蹴ったわけでもないのに大変だなーって現実逃避を始めた。
 ……いや逃避じゃない。本題だこれ。
「ちょっとお」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がくてーんとテーブルに突っ伏した。
 短パンにへそのでた半袖シャツをきた控えめに言ってどすけべなお姉さんがこんな姿勢してたら震えながらガン見してしまうのも無理からぬことである。ひとの人生を狂わせかねないアーリアおねえさんであった。
 前に座ってた人があまりにセクシーな服すぎて公務員試験におちた少年の話する? しない?
「ヴォードリエワインが燃える石で飲めるのを楽しみにしてたのに! やりましょリカちゃん。カードといわずいろんなものを搾り取ってあげましょ」
「いろんな……もの……」
 震えながらガン見する千尋。
 『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が胸の下でゆるく腕を組んだ。
「最悪このダークマターしか食べられなくなりそうだしね。オッケー、根こそぎ取ってきてやろうじゃないの」
「ねこ……そぎ……」
 カラン、とグラスで氷の転がる音がした。
 『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は日本酒の注がれたコップをじっと眺めながら……というか血走った目でグラスの表面にある滴を凝視していた。
 本当にキレてるひとがやる動作である。
「俺は米でできた酒が好きだが洋酒も好きだ……。
 だから部下にだまっ……忍らしく隠密に飲みに来たというのにな? 横流しかァ……そうかァ……」
 ハァハァする鬼灯。
「万死」
『まじばんしってなあに?鬼灯くん!』
「ふふ、なんだろうね嫁殿ー」
 ちらりと『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)のほうをみる。
 ブーケは酒も飲めずメシも食えずでどうしていいやらって顔をしていたが……。
「がんばろうねブーケ殿」
「ええ……鬼灯さん、いや、ズーにゃん」
 遠くを見て、ブーケはこれから降りかかる苦難を想像した。
「俺知っとるんよ、こういうの、無茶振りっていうんやろ。
 ちゅうか、男ふたりステージの上、片や獣人ってターゲット層がニッチすぎへん?」
「率直な欲望が満たされる場所だと、ニッチがウケるのだよ?」
「そおなん……?」
 『異世界すぎる』とつぶやいて、何気なく黒い何かの炒め物を口にした。
「――まっずう!?」

●ゴールデンエイト
 重い扉を開いたら、身なりのよいボーイが頭を垂れる。
 酒と香水とどこか上質な革めいた香りにつつまれた、そこは会員制バーである。
 表向きにはただの酒場として登録しているが、店員である女性達は艶めかしい衣装をきて客の隣に座り、場合によっては裏手にあるホテルのキーが『特別な形で』手配されることもある。
 そんな店の常連であるディラック氏は、店にはいるなりゆっくりと周りを見回した。
「活きの良い新人はいるか」
「そう仰ると思いました。ディラック様」
 ボーイは作り笑いをうかべてあるテーブルへと彼を案内した。
「いらっしゃ~い♪ ゆっくり休んでいってね、いひひ♪」
「私たち新人なの、優しくしてね?」
 あまりにも艶めかしいチャイナドレスをきた二人が、ソファの両端で手を振った。
 にやりと笑い、その中央へと腰掛ける。
 言うまでも無かろう。この新人二人こそ、利香とアーリアである。

 アーリアたちの接客テクニックはかなりのものだった。
 単にお酒を飲ませる店員としての立ち振る舞いはもちろんのこと、『手に入れたいが簡単に手に入らない』という男心をたくみにくすぐっては、時折わかりやすいほど隙を見せてくれる。
 たとえるなら熱中しやすいテレビゲームである。つい『あともう少しだけ』という気持ちにさせるのだ。
 で、あるからして……。
「この一本はお客様にサービスよ、言い値でいいわ……お代はこ・こにお願いするわね♪」
 胸元に指を引っかけて見せる利香。
 突然見せた大胆な行動に驚いて振り返ると、アーリアもまたどこかうっとりとした表情で笑いかけてくる。
 アーリアはといえば、カードゲームで遊びながら時間と場所を書いたカードをたくみに相手の手にとらせ、パチンとウィンクをしてみせる。
 鼻息を荒くした客は今すぐにでも店を出たいという気分になり、手元の酒を乱暴に飲み干して席を立った。
「用事を思い出した。楽しかったよ、それじゃあ」
 手を振って店を出て行く客。
 アーリアがちらりと見ると、利香は裏のメンバーカードを袖の下から見せた。

 美女達があらゆる方法で客達からカードを奪い、そして時には入れ替えるなどしていく一方で、裏カジノへの侵入方法を手に入れたキドーとシラスはボーイのふりをして裏口へとゆっくりと近づいていく。
 だが、ただカードを持っただけで裏口へは入れない。それだけの隙を作らねばならないのだ。
「紳士淑女の皆様、お集まりいただき光栄だ。俺は黒影鬼灯、こちらは嫁殿」
『ごきげんよう!』
「俺と嫁殿、そして可愛らしい兎が皆様を心ゆくまで楽しませよう!」
 片膝立ちの姿勢になった鬼灯が、あまりにも美しい動作で人形を動かし始めた。
 生きているようなと表現するのが滑稽なほど、それは鮮明でどこか浮世離れした、見る者をひきつける舞いであった。
 彼から隠れた合図をうけとったブーケは店の照明をおとし、ステージにスポットライトをあてる。
 客の注目が鬼灯へと集中していく。
(今だ――)
 鬼灯は新たなサインを出し、ブーケをステージへと呼び寄せた。
 あまりに生活力のなさそうな雰囲気をしたブーケを、新人のボーイかなにかだと思っていた客達はその動きに思わず注目した。
「さあ皆さん。今から彼が皆さんの前で芸を見せるぞ。まずはこのワインボトルに……」
 ステージに何本か立ててならべたワインボトル。
 その上に薄い木の板を置き、そのうえに乗れと人形でジェスチャーをする。
 ブーケは『ほんとうに!?』という顔でおそるおそる乗ってみせるが、なんだか瓶にのっただけで観客は拍手をはじめた。
 彼がちょっと頑張るだけで、なんか長年引きこもってた息子が職安に行ったみたいな感動が沸き起こったらしい。
 内心で『しめた』と思った鬼灯はすぐさまボトルをしたからかすめ取り、どんどん数をへらしていく。
「わ、わ、うそやん!? むり……むり……!」
 両手をばたつかせながらもなんとかバランスをとろうとするブーケ。
 しかしボトルが最後の一個になったところで、極限状態みたいなポーズでぴたりと停止した。
 これには流石の客達も声をあげ、最後にずてんと転げ落ちて大爆発を起こしたところで、観客達は立ち上がって拍手した。
 なかにはちょっと涙ぐむ者まで現れた。
「爆発力って……こういうことやったんかなあ?」
「ちがうと思うけど、うまくは行ったな」
 ぺこりと頭をさげる鬼灯とブーケ。
 その隙に、キドーたちはどさまぎで裏カジノへと侵入をはたしたのだった。

 無事にカジノへ侵入できたキドーとシラスは、トイレに入ってそれぞれ個室で必要な衣装へと着替えた。
「気張っていくぜシラス。アレイスターが目当ての品を手に入れる事によって起りうるよろしくない事態の可能性から目を背けつつ、人助けしたイイ気分と美味い酒を味わう為にな……」
「アレイスターが何かやらかせば俺らの仕事が増えるってわけだろう、歓迎だぜ」
「ホントかぁ?」
「たまには魔法使いらしいところを見せてやるぜ。飲み過ぎてコケんなよ、じゃあな」
 蝶ネクタイをきゅっとひっぱるシラス。高級スーツのネクタイをきゅっとしめるキドー。
 二人は時間差を置いてトイレを出ると、バーカウンターへと向かった。

 バーで酒をひっかけるのが日課というフェンデリック。
「へーえどっこらせっと」
 彼のすぐ隣に、キドーが腰掛けた。
 身分や顔を隠すこと無く、そのままである。
「……あんた、どこから紛れ込んだ。カードをやった覚えはないぜ」
 ウィスキーのはいったグラスをテーブルに置き、横目でにらむように見るフェンデリック。
「俺を知ってるってかい。有名になったもんだねえ。へっへっへ」
 キドーは悪びれもせずにカウンターの壁に足を引っかけ、椅子を大きく傾けた。
「俺にとっちゃこんなもんスルーパスも一緒よ。どうだい、知らんうちに入ってくるより自分から招待した方が早いと思わねえかい」
 フェンデリックのSPたちが懐の銃に手を伸ばすが、しかしフェンデリックは小さく手を上げてそれをとめた。
「おもしれえじゃねえか。俺にそんな方法でカードをねだった奴は初めてだぜ。ここがどういう場所かも知ってるんだろうなあ?」
 キドーは椅子に寄りかかったままにやりと笑い、そして大きく目を見開――いた途端椅子ごとズテーンと転倒した。
「ぐええ!? い、痛え後頭――後頭部ッ! ぐおおおおおおおお」
 床でぐねぐねとのたうちまわるキドー。
 SPたちは困惑し、フェンデリックも思わず笑った。
 その瞬間、ふわりと風がなでる。
 フェンデリックもSPたちも、打ち合わせしていたキドーでさえも気づかないほど意識の隙間をついた、シラスによる芸術的なスリが行われた瞬間であった。
 その後のこと。
 駆けつけたボーイに引き起こされ、キドーはえへへと照れ笑いをして頭をさすった。
「クソッ、カッコつかねえ。出直してくるわ」
 くるりと背を向けて歩き出すキドー。
 その背に。
「待てよ」
 と、フェンデリックの声がかかった。
 ぴたりと立ち止まるキドーとボーイ。
「カードを置いてけ」
 キドーとボーイ……もといシラスはほっと心の中でため息をついた。

 これにて完結めでたしめでたし――とはならない。
 用心深いフェンデリックのこと。『鍵』の不在にすぐに気がついた。
 そして心当たりもまた。
 大声をあげて鍵の奪還を命じるフェンデリック。SPたちはびっくりする客達を無視して店の外へと飛び出し、走って逃げるキドーたちを追いかけ始めた。
 いや、正確にはそうではない。
 追いかけようとしたところで――。
「テメーらのボスが大事に持ってた鍵は俺たちが預かったぜ……返してほしけりゃ俺とこの女を倒してから行くことだ」
 シラスから何かをパスされた千尋が、ガムを噛みながら道の真ん中で両腕を広げて見せた。
 その横でなんか骨をぺーろぺーろ舐めながらSPたちを見回す百合子。
「そう、吾とこの千『アルバニアにGo To HeLL!した』尋殿をな」
「名乗り代行どーも。具の主張が強すぎるサンドイッチだけどなあおい」
 百合子は『ハハッ! 面白い!』と豪快に笑うと胸にさしていた薔薇をむしゃあって食らった。
 説明しよう!
 薔薇の花を食らう仕草は美少女において「お前では勝てない、やめておけ」のサインである。
 ティアドロップ型のサングラスを外し、ゆーっくりとSPたちを眺める千尋。
 つい身構えてしまうSPたちに、しかし彼は構えもせずにゆっくりと歩み寄った。
「おめーらの喧嘩と俺たちの喧嘩。違いを教えてやろうか」
 ポンとSPの肩に手を置き、そしてすぐ後ろにいる百合子を親指で指し示す。
「食われるんだよ。ああやってな」
「クハッ!」
 アニメの中に出てくるクレイジーキャラがナイフ舐めるみたいになんかの骨をべろべろしていた百合子が、勢い余って骨をかみ砕いた。
「吾はどれほど喰ってよい? 右半分か? 左半分か? それとも全部か?」
「どうしよっかなあ……どうする? 俺のオーラを持ってしてもこの方の衝動を止めるのはあと20秒が限界なんだぜ」
 にっこりと笑う千尋。
「裏カジノの支配人相手と聞いておったが他愛ない!
 貴様らが大切に保存しておった鍵は既に吾が手中よ!」
 にっこり(?)と笑う百合子。
 SPたちは命と仕事を天秤にかけ、一部がサッと半歩引いた。
「それでいい。賢明だよな」
 千尋はうんうんと頷き、そして颯爽とバイクに乗った。
 あばよ! と叫びながらウィリーでかっとばす千尋。
 その横の壁をなんかすごい走り方で追っていく百合子。
 彼らの笑い声とエンジン音が、幻想の夜に消えていった。





 さて。
 かくして『業の鍵』を手に入れたキドーたち。
 ……そう。
 二つあるはずの鍵のうち、片方だけが偽物にすり替えられていたのだ。
「おっとお?」
「これはあ?」
 顔を見合わせ、キドーたちはすぐさま夜空へと振り返った。
「「美塔院ーーーーーーーーーー!!」」
 夜空に、彼の笑顔と流れ星が見えた気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――『罪の鍵』編につづく!

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