PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<マナガルム戦記>Ab ovo usque ad mala.

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『最初から最後まで』
 ドゥネーヴ男爵領。

 それは名の通り幻想の貴族、ドゥネーヴ男爵が治める一地域の事である。かの男爵は幻想の中でも良識派にして民からも慕われる人物である――が。近年は病に伏して王都での療養を行わざるを得ない状態に追い込まれていた。
 もはや先は長くない。
 自身の不調を勘付かれたのか、先は平穏だったはずの領内に賊も現れる次第であった。
 その時は『彼ら』の活躍によりなんとか撃退したが――
「……妻も子もいない我が身では、一度凌いでもやがて終わりが訪れましょう」
 自室。その床の上にてドゥネーヴ男爵は呟いた。
 顔色は悪く痩せこけており、あと幾何命が保つ事か……
 子がいれば爵位を継がせたろう。しかし男爵には身内がおらず継がせるべき対象はいない。このままであれば領地は召し上げられるか、あるいはどこかの誰かの管轄になるか――分かりはせぬが、いずれにせよドゥネーヴ男爵以外が頂点に立つことに民は不安を感じていた。
 そうなる前に――彼の命が尽きる前に――

「……ふむ。統治代官としてそれをイレギュラーズに、か」
「そうです――如何でしょうか」

 成すべき事を成す為に『彼ら』――イレギュラーズ達は駆けていた。
 いるはドゥネーヴ領の近隣。その中では最も有力者と言える貴族の屋敷。
 ――リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)の父。リシャール・エウリオン・ファーレルの下であった。
 ドゥネーヴ男爵は先の賊討伐において目覚ましい力と心を見せたイレギュラーズ達を信頼していた。粗暴なる者どもを追い払うだけであらず領民にも声を掛け……そして新田 寛治 (p3p005073)からの提案でベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)――かの人物に男爵領を――正確にはその代官の地位につけてはどうかと、提案されたのだ。
 無論言うに易い事ではない。
 男爵は彼らが良ければ任せたいとは思うが、幻想は『貴族と伝統』の国家である。男爵が認めても近隣の貴族が認めるとは限らず――反発は男爵と一切の血縁関係もないのであれば特に、だ。

 故に根回しの必要性を感じた彼らは近隣の有力者たるファーレル家……
 その現当主であるリシャールに助力を請うた。
 つまり『後見人』という立場に立ってくれないか、という訳である。男爵自身の願いに加え、後ろ盾を得る事で正当性を表明すれば或いは……

「難しい話だな。件のベネディクト――彼は生まれにして幻想に関わりがない所か『外』の世界の者――ウォーカーだ。如何にイレギュラーズと言えど、血無き者が代官とはいえ地位に至ろうとすれば反発もあろう」
「承知しております。しかし、領民の皆さんから『男爵からの信任もあるならば』と快諾を頂いている次第です。信無き者が上に付き統治が上手くいかねば――後々賊となる者もいるでしょう」
 それを防ぐ為にもリシャール殿に後見を、と紡ぐのは寛治だ。
 確かにウォーカーが介入してくることに貴族の反発はあるかもしれない。しかしリシャールに後見人……そう、視方によっては監視する立場に立ってもらえれば反発は抑えられよう。
「幻想の貴族は……こう言っては失礼かもしれないが『よろしくない』者も多い筈だ。彼らが男爵領の新たな統治者となるより、男爵自身からの信を。民からも得ているベネディクトにするのが良いのでは?」
「男爵領の治世が上手く行かず、更に荒れ果てれば賊も大量出現するかもな。
 そうなると近隣にとっても無視できないだろうし……ここにも不都合があるんじゃねーかな」
 続く言はベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ (p3p007867)に新道 風牙 (p3p005012)。
 メリットではなくデメリットの面もあるのだとリシャールへ紡ぐ。領民の不安とは『そういう所』にもあるのだ。慕われていたドゥネーヴ男爵以外の……碌でもない者が上に付いたら明日はどうなる?
「傭兵の立場から言わせてもらうと、あり得ない話とは思えないな」
「私も同じだ。後がなくなった連中は幾らでもやけっぱちになるもの」
 ルカ・ガンビーノ (p3p007268)とフローリカ (p3p007962)もそれを後押しする様に。
 彼以外に任せるに足る人物がいるか?
 信無き者を付けて自領への影響が全くないと思うか?
 いいやそんな事はない筈だ――
 それを防ぐには今しかないのだ。男爵の意を受けた者という名分を抱えて接触してきたイレギュラーズ達。それに応える形で後見人を引き受けるというのは、今しか。後になれば『領地の拡大を求めて男爵に接触した』と要らぬ疑惑を受ける可能性も無きにしも非ずで。
「ふ、む――」
「……御主人様」
 一寸、悩む様子を見せたリシャール。
 故にこそリュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)は決意を露わにすべきだと――

「……俺は、男爵へと述べたのです。『出来る限りの事はする』と」

 ベネディクトへと、視線を紡いだのだ。
「出来た縁を無為には出来ません。俺は俺の信念をもって、あの地を護りたい」
「――地位に就く事に私欲が無いと断言できるか?」
「無論」
 即答した。
 そんなモノに目は淀まない。例え黄金が目の前にあろうと眩むような彼ではない。
 決意を視た。信義を視た。で、あれば。
「成程。確かに、男爵領の今後はファーレル家としても無視は出来ない。
 ……後見人の話は受けてもいい」
 ただし。
「絶対の条件がある。『代官を任せるに足る人物である事を示せ』」
「それは――」
「明日、私の配下の騎士達と模擬戦をしてもらう。勝利を得れば話を進めよう」
 上に立つ者に必ずしも力が必要だとは思わないが。
 賊も出た男爵領だ。
 それを撃退できる力が彼に、彼らにあるのだと示すのが一番手っ取り早い。
 ……さしものリシャールも無条件で後見人という話を進めればそれはそれで貴族達からの反発を得よう。その辺りを黙らせるために『結果』を示す必要もある、と言う訳だ。それをこなせば後見人の話を進めて――
「……いや、もう一つ条件が必要だな」
 だが、と。口元に手を。
 力だけでは足りぬかもしれない。もう一つ、周辺の貴族達を黙らせるために……
「……もう一つ、とは?」
「――――いや。それは模擬戦に確かに勝利した後に『問う』としよう。
 どちらにせよ模擬戦に勝利できるだけの実力がなければ仕方のない話だ」
 なんだろうか。一瞬、リシャールがリースリットを視た気がしたが。
 一瞬の事だ――気のせいだったかもしれない。
 ともあれ、明日。リシャール麾下の精鋭騎士との戦いが行われる。

 それはきっとドゥネーヴ領の明日を決める事になるのだろう――

GMコメント

 リクエスト、ありがとうございます。お待たせしました。
 ファーレル家との模擬戦となっております。
 リシャールさんが後見人となるかどうか……ドゥネーヴ領は如何に。

 よろしくお願いします!

■依頼達成条件
 リシャール・エウリオン・ファーレル配下騎士達全員の戦闘不能。
 ……並びに『もう一つ』の条件の達成。(後述)

■戦場
 ファーレル領のある平原地帯です。時刻は昼。
 それなり以上の広さがあり、戦うには困らないでしょう。
 少し離れた所にあまり深くはない森林地帯があるようです。そこで戦おうとすれば障害物などがある場所での戦闘となるでしょう。

 皆さんは平原地帯で戦うか森林地帯で戦うか選ぶ事が出来るモノとします。
 騎士達と平原地帯で真正面から激突しても構いません。
 森林地帯という障害物の多い場所で巧みな戦闘を見せてもいいでしょう。

 力を示し、騎士達を撃破してください。

■敵戦力:ファーレル家騎士×8
 リシャール・エウリオン・ファーレル麾下の騎士達です。
 精鋭でありそれぞれが高い実力を持っています。

 防御型重騎士が三名。近接型の騎士が二名。
 弓を持つ騎士が二名。治癒術の魔導士が一名。

 内、防御型重騎士の一人として『レイネン』という人物がいます。
 ファーレル家に長く仕えている一人で、この中では最も戦闘技量が高い人物です。
 老練なる実力は冷静沈着で的確な指揮もする事でしょう。

■リシャール・エウリオン・ファーレル
 幻想東部の貴族の一人にして、ファーレル家現当主。
 彼自身は戦場に出ません。この戦いの行く末を見守る裁定役に留まります。
 何故かと言うと模擬戦とはいえ当主が出れば敗北は許されないからです。

 なおOPで言いとどまった『もう一つ』の条件とは次女リースリットとの『形式的な婚約』の話です。模擬戦に無事に勝利した時、この話はリシャールから語られます。血縁問題がこれで解消されますね!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <マナガルム戦記>Ab ovo usque ad mala.完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 人の上に立つという事は生半可な事ではないのだ。
 貴殿にその意思はあるか? 力はあるのか?

「皆――その力、この俺に貸してくれるか」

 全てを問われているのだと『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は思考する。決して簡単には手放せぬモノ。代行と言えど、代行と言う名に甘んじてはならぬモノ――
 その為の意思があるかを問う戦いに対して。
「ああ、もちろん力を貸すぜべっさん。当然だろ!
 べっさんが領主になれば、絶対平和になるって信じてるからな!」
「幻想東部に黒狼の旗を立てる、そのための重要な一歩ですね。私も力の限りを尽くしましょう」
 そしてベネディクトが視線を向けた先。にこやかなりし感情で『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)と、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がいた。
 問われているのはベネディクトなれど、決してこれは彼一人の戦いではない。
 特に『黒狼』の名を轟かせる機会にもなろうと寛治は眼を光らせており……
「というわけで、本日はよろしくお願いします!」
「よい声色だ。その意欲、期待するぞ」
 風牙が相手側の騎士に向かって礼をすると同時――リシャールより言が。
「分かっていると思うが『二度』はない。これは一度限りだ、力を尽くしたまえ」
「さすがは元武官……ははっ。分かりやすくて大歓迎だぜ」
 全ては戦い、その勝敗をもってのみと。
 そういう方が実に良いと『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は武器を構えて。彼にとっては幻想の貴族に名を売るチャンスでもあり、元より手を抜く事など考えていない。見れば向こうの騎士達も既に揃い踏み。
 いつでも戦える準備が整っている。
 リシャールが手を振りかざし、開始の合図を取らんとすれば。
 ――ああ、こういう時ぁ名乗るのが礼儀かね?

「傭兵団クラブ・ガンビーノ団長代理、ルカ・ガンビーノ。いざ尋常に……ってなぁ!」

 同時。すぐさま誰もが動き出した。
 敵は――やはり真っ先に前衛を取るのは重層型の騎士だ。
 戦う場は平原。障害物のある場所ではなく、己らの力をしかと見せる為に。
「ああ然り然り……ここで見せるは武の誉れ、武の真髄。実に単純明快よ!」
 『戦神凱歌』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は旗を掲げる。
 彼女は黒狼隊に組しては居るが、隊に忠誠を誓った訳では無い。それは不平不満があるという訳では無く――途中参加であるが故。他の者と比べれば決して想いが強いとは言えぬと。
 されど彼女はしかと『此処』にいる。
 それはベネディクトと言う男、そしてその周囲の者が。
「信ずるに足る者達故」
 民が友を求め、友が我が力を求めると言うのであれば!
「それに応えずして居られよう筈もない! さぁファーレルの騎士よ、我らが誓いを視るがいい!」
 至高を尽くそう。彼女が振るう旗が周囲のイレギュラーズに力を齎し。
 激突する。騎士達も本気だ。
 主君たるリシャールが見る中でどうして手が抜けようか。その一撃は重く鋭く。
「――まぁ私にとってはベネディクトがどんな領主になれるかなんて分からない、が」
 それでも『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)は撃を見極め寸で躱し。
「私は傭兵だ。雇われた分の仕事だけするさ」
 得物を振り上げ騎士へ斬撃を。
 誰ならいいとか悪いとか、そういうのを見極める能力なんぞ生憎と持ち合わせてはいない。ベネディクトなら? 勿論分かろう筈もない、が。碌でもないと分かってる連中が後を浚うよりは、多少はマシな可能性の方が高いだろうさ。
 とかく己は傭兵として、ただ職務に忠実であらん。
 理想を語る為に力を示せという事であれば。
「――あの地を納めるに相応しい力を見せつけなければなりませんね」
「ええ。外部もそうですが、ファーレル家内部に示しをつける意味でもこれは必要な一手……私も、全力を」
 『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)に異論はなく、リシャールの血筋でもある『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は尚の事。
「私の力はご主人様に捧げたモノ……どうかご自由にお使いください」
「――すまない。頼りにしている」
 リュティスは己が主人たるベネディクトへメイド服の裾を摘まみ上げ、礼をし。
 そのまま紡ぐは魔法陣。魔砲の輝きが戦場を穿ち――特にその狙いは前衛の騎士達へと。
 一方でリースリットは――ファーレルの一員である事を意識してか、援護を主に。
 その指先に絡む炎の精の行き先を、指で示して。
「民の為――往きましょう」
 重圧の砂嵐を、敵の後方へと顕現させた。


「挨拶代わりだ――たんともっていきなッ!!」
 風牙の一閃が振るわれた。前衛、更にそこから一歩踏み込み呼吸を一つ。
 全てを薙ぐように槍を振るう――武具に込められし気が鎧を通してその身を縛り。
「俺の名はベネディクト=レベンディス=マナガルム……いざ、尋常に!」
 勝負! と自らの名を高らかに宣言しながらベネディクトも眼前の騎士へと。
 魔槍の軌跡は幾末も。全力で振り抜き、彼らの注意を引き付け騎士達の陣形を乱さんとする。
 イレギュラーズ側の狙いは重装騎士――ではなく、彼らが庇っていない前衛の者達である。次いで弓を、治癒の者を。後衛よりも先に力在りし近接の者らを倒して飲み込まんとする戦術だ。
 押し切れねば不利になろうが、成し切れば壁の無くなった後衛陣に成す術はあるまい。
(とはいえ、彼らに狙いを気取られる訳にはいきませんがね)
 だが寛治の思考する通り……まだ敵に『そういう狙い』である事を悟られてはならない。
 後衛が狙われていないと分かれば彼らも攻め方を変えよう。攻撃に意識を振り切れば、より精密な射撃や、より治癒力高い魔術を放たれないとも限らない。彼らには今少し攻撃にも防御にも気を払ってもらう……為に。
 寛治の銃口は敵の治癒役へと向いている。
 発射直前にこそ騎士へと向けるが、狙いは後ろにあると言わんばかりに。
 絞り上げる引き金。されば銃弾は狙い通り前衛の騎士へと直撃し――
「ぬぅ……だが、させん!」
 しかしファーレル家の騎士達も集められた精鋭である。
 ただで崩れようモノか。銃弾にも怒涛の攻めにも折れる事なくむしろ受けて立とうとばかりに。
 老練なる騎士――レイネンの指揮の下、未だ彼らは安定した『砦』の様な戦いを見せていて。
「流石ですねレイネン……しかし、こちらにも成すべき事があります。撃ち破りましょう」
「む、お嬢様……! よろしい、全力で迎え撃ちましょうぞ!」
 引き続き炎の精霊を用いて攻撃を仕掛けていたリースリットだが――知った顔であるレイネンとの短い会話の末、その魔術の質を変える。
 炎の魔術から雷撃の一閃へとだ。射線を確保し、薙ぎ払う様に魔術を輝かせる。
 盾を用い、足を確かに。重騎士たるレイネンはソレを真正面から受け止め尚、立ち。
「動きが止まったな――悪りぃな。そいつぁ、イタダキだ!!」
 そこへルカの一撃が繰り出される。その一撃は魔性の一撃。
 膨張した黒の大顎が形作られ――その気迫は正に貪り喰うが如く。
 一寸でも隙があればそこへ攻撃を。ならばとレイネンが下すのはこちらも前へ、だ。
 守りに入れば呑まれる。故に砕こう。そう簡単には勝たせぬ為に。
 騎士達の剣が牙を剥く。弓の鳴りが響き渡り、イレギュラーズを撃ち抜かんと――
「流石だ! 如何なる時にも勝機を求めるその心、賞賛に値する!」
 だがそこへ割り込んだのはベルフラウだ。
「私を挫かぬ限りこの腕に抱く二つの花を手折る事は叶わんぞ、ファーレルの騎士よ!
 さあ! 戦を続けよう! この素晴らしき日に、互いの全てを出し合おうではないか!
 ――いざや参られろッ!」
 味方の支援と鼓舞を行っていた彼女が前に出て、その撃を引き付ける。
 抱く旗を大きく閃かせ折れぬよとばかりに自身の覚悟を示し。
 とくと御覧じろ。我らの覚悟を意思を。此処に来た確かな信念を!
「まったく。盗賊などと異なりまっとうに訓練された精鋭を相手に、よくやる。
 ま……そんな相手を前に受けに回っていては話にならんからな」
 そしてフローリカもまた後衛を狙う――様なそぶりを見せて揺さぶりを。
 だがこれはブラフであってブラフではない。ブラフと見て守護の構えを崩せばそのまま後衛を襲ってもいいのだ。勿論敵は精鋭にして練度の高い者達でもある……罠である可能性も常に頭にいれているが。
「戦場を動かすのはこちらの方だと教えてやろう」
 相手の用兵を常に視て判断を。
 相手に選択肢を与えたりなどせぬ。攻めるのは常にこちらだ。
 斬撃繰り出し地を駆け抜け、布陣の隙間を見据える戦略の眼で――彼女は戦い。
「ええ――御主人さまの願いがあるのです」
 更にリュティスの魔砲が彼らへと圧を強め続ける。
 固まった所あればそこを穿つように。必要とあれば前に出よう。
 往けば危険は無論ある。かような砲撃を放つリュティスを放っておくはずもない――しかし。
「私は、それを叶える一助となりましょう」
 彼女は恐れぬ。己に刃が向けられようと。
 恐れるべきは主人が主人の願いを果たせぬ事。
「我は――我が主の刃となりて敵を撃たん!」
 指し示した指の先へと魔法陣の一撃が突き走る。戦場を跨ぐ一閃が煌めいて。

「流石だなイレギュラーズ。だが……」

 それを見てリシャールは呟く。
 戦いは佳境へと至っているが、さて。
「レイネン卿、どうか胸をお借りしたい」
 自指揮官たるレイネンへとベネディクトは言葉を紡ぎ。
 いざや一騎打ちを挑まんとしていた。


 フローリカは重騎士の一人を押し留めつつ、横に視線を。
 ベネディクトが敵将へと向かうのか――ならば余計な邪魔が入らぬ様にと。
「こっちはこっちで戦ろうか。なに、どう決着がつくにせよ長引かないだろうさ」
 ルクス・モルスの光刃を大きく振るう。
 何もかもをかなぐり捨てた『戦い』ならば一騎打ちなどする必要はない。
 しかしそもそもこれは試合でも死合いでもないのだ。これは問いであり、返答の場。
「行って来いベネディクト。お前さんにゃ力を示す責任がある。これからの為にな」
「ああ。すまないが、後は頼んだ」
 群としての力、個としての力――頭領ってのはその両方が必要だと、ルカは知っている。
 だからレイネンはベネディクトに任せよう。いや、任せるべきなのだと頷いて。
「さぁ卿の覚悟をあやつらに見せて来るがいい。黄金の輝きに目を眩ませてやれ!」
「べっさん、魅せ所だぜ! しっかり決めてきなッ!!」
 ベネディクトが引き付けていた者達はベルフラウが進み、焚き付ける。
 賛歌せよ、戦場の理を。賛歌せよ、待望に挑む彼の勇姿を。
 風牙も彼を見送る。風牙はリュティスと異なり、ベネディクトの従者でも部下でもない。
 だけれども彼に頼まれたなら幾らでも力を貸そう。
 ――ベネディクト=レベンディス=マナガルム卿一人ではない。
 常に強き友ありと地平の彼方にすら示す為に。

 進む。
 レイネンもまた受ける様に剣を構え。視線は交差し、今か今かと。
 一拍、二拍。未だ周囲で戦場は動いているというのに、極限の集中は両者から音を掻き消し。
「――ぬぅうう!!」
 直後、レイネンの剛剣が大天上より振るわれた。
 下手に受ければ防御の上から潰される。
 躱すが正道、されど臆して大きく躱せばそれは隙となる。
 目を見開き撃を見据えよ。世界から目を逸らせば、それが今の己の位置なのだと思い。
 あぁ。

 ――力が無ければ守れない事も知っている。
 力が有っても、零れ落ちる物がある事も知っている。
 どれだけ願っても、渇望しても。足りねば掴み取れぬ一筋もあろう。
 それでも。
 俺は槍を学ぶと誓った時の最初の想いを俺は忘れない。
 母を、友を、隣人達を――皆を守りたかった。

「レイネン卿」
 剣閃を最小の動きにて。
 躱し、剛剣の風をその頬に感じながら。
「我が槍に誓った信念がある故に」
 寸後に放つは己が膂力、全身全霊。
 資格が必要だと言うなら、それを得よう。
 個人でそれが難しいと言うならば、束ねよう。
 今はまだ俺が『犯した罪』に報いる方法は解らない、それでも――
「何処かに、俺の手を必要としてくれている者達が居るのであれば」
 此処で立ち止まっては居られない!
「勝たせて頂くッ!」
 後ろを振り返って、失ったものを探す様な事は出来ぬのだから。
 槍の一閃が振るわれる。その刃は重騎士の鎧の隙間を狙い済まし。
 その肉を、穿つ――

「――それまで!」

 瞬間。響いたのは、裁定役のリシャールの一声。
 刃が止まる。戦場から瞬時に音が消え、残ったのは彼が歩を進める一つのみ。
「その一撃を持ってこれにて決着とする。
 趨勢は見えた。勝者は……まごう事無く貴殿らだ!」
 それは賞賛と勝利の証明である。これを持って模擬戦は確かにイレギュラーズの勝利。
 誰に文句を言わせようか。リシャール・エウリオン・ファーレルは約定を違えぬ――が。
「しかしお父様。条件はもう一つある、と……」
「ああ。勝利したのだ、故に問おう。
 ベネディクト=レベンディス=マナガルムよ、後見を引き受けるもう一つの条件――」
 一息。

「私の娘、リースリットとの『婚約』だ」

 えっ――と。誰かの口元から零れた言葉があるが、成程冷静になれば『ある』話だ。
 婚約。その単語が飛び出た瞬間ルカは爆笑し、一方で寛治は。
「なるほど、次女リースリットとマナガルム卿の婚約……ファーレル卿、これは王手飛車取りとも言うべき手を打ってきましたね。中々に、喰えない御方です」
 その目的を瞬時に察す。
 領主代行というが、ドゥネーヴ男爵の病状を考えれば、実質これは後継の指名である。男爵には家族がいないのだから、代行の後に引き継ぐ者など現れず……故に、後継に令嬢の婚約という形で先鞭を付ければ。
「周囲は『ドゥネーヴ領の後継を自派閥に引き入れた』と見るでしょう」
「ふむ。そこは想像に任せるが……後見と言う立場には周囲が納得しうる立場もまた必要だ」
「ええ。それもまたそうでしょうね」
 万が一ベネディクトが資質に欠ける人物と判れば、婚約を解消すればよい。
 それで最低損切は果たせるのだと……寛治は――述べこそしなかったが、そこまで計算された妙手であると思考して。
 さて。であれば視線は件の二人に集中するものだ。
 当然というべきか――リースリットにとってはこれが初耳。
 何か視線を感じたとは思っていたが、まさか……
「……婚約……」
 そんな話であったとは。
 これは言うなれば形式的なモノだろう。貴族の間ではよくある事だ。
「へっ? 婚約? リースリットさんと? いやいやいや、ちょっと待ちなよ! 本人たちの意志と無関係にそういうの決めるってのはどうなんだ!? なぁベっさんもリースリットさんもそう思うよな!」
 よくある事――だからこそ風牙は些かその感情に棘が生える。
 理屈として分かるのと感情として納得するのは別の話だ。
 特に押し付けるようなそんな話は気に入らない――とばかり風牙は二人へと視線を寄こし……
「……べっさん? リースリットさん?」
 だが。
 二人は黙したまま視線だけを合わせて。
 一息。そして、一度だけ瞼を閉じて――開けば。

「――はい。仰せのままに、お父様」
「――謹んで、お受けしたく思います」

 リースリットは静かにそう述べ、ベネディクトもまた承諾する。
 ……まさか、俺にその様な話が出るとは思わなかったがと内心では考えるも、異存はない。
 婚約しよう。彼女と――リースリットと。
「ふむ……ご主人様の婚約……ですか。なんとも動きの速い話です」
「やれやれ。やはりお偉方の世界は血縁だの形式だの堅苦しいよ」
「ははは! だがある話ではあろう! さぁさぁ、では酒を酌み交わさねばなるまいな!」
 であればと――周囲も祝福の言葉をかけるものだ。
 貴族社会に身を置けばこういう話も起こるものだとリュティスは知っていたが、まさかそれが今日だとは思っていなかった。ともかく、後でお祝いをせねば。フローリカは吐息を一つ吐きつつ、ベルフラウは二人の目出度い門出であると大きな高笑いを。
 上等な酒を開けねばなるまい――さぁさ祝えや祝え!
「おう、貰っとけ貰っとけ! こんなべっぴん嫁に出来るチャンスなんざそうはねぇぜ!」
「さて。こうなれば次は、婚約披露パーティも必要になりそうですね。会場を抑えねば」
 そしてルカと寛治もまた二人を祝福。寛治は眼鏡を光らせ今後のプランを高速で練り、ファーレル卿の投資にリターンを生み出させねばと思考に思考を。さてさて『黒狼隊』の面々には。
「より一層の努力が求められそうですね」
 ベネディクト――彼は些か『夢見』の悪い男である。
 そんな彼には誰か、大切な者でも出来るのが一番の薬になるかもしれない。
「あいつにゃそういうのが必要だ」
 見据えた視線。
 ベネディクトとリースリット、その道のりの先には何が待ち構えている事か……
 さりとて今日、決まった事は単純明快。
 ベネディクトはドゥネーヴ男爵領代行として認められ――そして――

 ベネディクト=レベンディス=マナガルムと。
 リースリット・エウリア・ファーレルの婚約が――成立した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご婚約おめでとうございます!!

PAGETOPPAGEBOTTOM