シナリオ詳細
<月蝕アグノシア>さいごのうそ
オープニング
●追うものと、追われるもの
「逃げて! 皆、逃げるのよ!」
声をあげる。息が上がる。飛ぶ。飛ぶ。妖精たちが飛ぶ。
怪物たちがやって来る――それは、狂気に陥った魔種に指揮された、魔の軍団。
妖精郷を襲った異変。それは、瞬く間に郷全体を覆いつくした。妖精たちを狙うのは錬金術によって生み出された悍ましき怪物たちだ。
怪物たちは郷を蹂躙し、贄を収穫し始めた。主へと捧げるべく、妖精たちを狩り始めたのである。
「大変だわ! このままじゃ、皆捕まる!」
とばりの森、その木の影に隠れながら、子供のような容姿の妖精が、悲鳴を上げた。木陰に隠れているのは、妖精たちの中でも、比較的幼い者たちだ。その中でも年長の三人はリーダー格であり、その三人は、かつてイレギュラーズ達と縁を持った妖精……リンカとその友人たちであった。
リンカたちは、年長組と言う義務感だけで平静さをギリギリまで保っていたが、それももう限界だった。本当は、今すぐにでも悲鳴を上げて逃げ惑いたい。そんな極限の状態の中、一歩前へ出たのは、リンカである。
「大丈夫、私が囮になるわ!」
「リンカ! 駄目よ!」
妖精の少女、カリナが声をあげる。しかしリンカは、頭を振って、にっこりと笑った。
「大丈夫よ! 私、飛ぶのは得意なんだから! 一人で逃げる方が、皆が邪魔にならなくていいくらいよ!」
「うそつきリンカ! こんな時にまで……」
泣きじゃくる友人、ナマリを、リンカは抱きしめた。
「大丈夫だから……私がアイツらを引き付けたら、皆を連れて逃げるのよ。そしたらあの時みたいに、イレギュラーズの人に助けてもらうの。あの人たちなら、きっと助けてくれるわ……いいわね!?」
リンカは、ナマリが泣きじゃくりながらも頷いたのを確認してから、一息に木陰から飛び出した。そこから全力で空を飛んで、怪物たちの前に身をさらけ出す。
「ばーか、ばーか! 私はこっちよ! 捕まえてみなさいな!」
そう叫んで、リンカは力の限り、仲間達とは逆の方に飛んでいくのであった。
●逃げたものと、逃げられなかったもの
妖精郷へのショートカットを可能とする、『おとぎ話の門(アーカンシェル)』を巡る攻防の果て、一足先に妖精郷へとたどり着いたのは魔種、タータリクスであった。
その結果、ショートカットたるアーカンシェルは断たれ、イレギュラーズ達は大迷宮ヘイムダリオンを踏破し、妖精郷へと向かう事を余儀なくされたのだ。
そしてついに。イレギュラーズ達は妖精郷アルヴィオンへと到達し――未曽有の危機に陥った郷を目の当たりにするのであった。
妖精郷に築かれた前線基地に、妖精の子供たちが逃げてきたのは、つい先ほどの事である。
「リンカが捕まったの!」
「逃げる時に見たの……リンカが捕まったの!」
しきりに「リンカが捕まった、助けてくれ」と訴えかける二人の妖精は、カリナとナマリ、と名乗った。
彼女たちの話によれば、自分たちが逃げる際に、リンカと言う名の妖精が、囮を買って出たのだという。
だが、その果てに、リンカが捕まってしまうのを確認したのだ、と。
そしてリンカは宝石のようなものへと姿を変えられ、白い怪物の中に埋め込まれたのだと。
彼女らが言う白い怪物――それは、アルベド、と呼ばれる、イレギュラーズを模した、錬金術によって生み出された怪物だ。リンカが埋め込まれたアルベドも、あるイレギュラーズを模して造られたものであると、カリナとナマリから言質が取れている。
「リンカを助けてあげて!」
そう助けを乞う、カリナとナマリ。これは彼女たちからの依頼である。
アルベドの内部に存在する、妖精が変化させられた宝石、『フェアリーシード』を奪い去ることができれば、それは叶うだろう。
だが……同時にそれは、難しい事であることも事実だ。アルベドとの戦闘は避けられないし、無計画にアルベドを殺してしまっても、フェアリーシードは死ぬ……リンカは、助けられない。
だが、たとえ難しい依頼だとしても、イレギュラーズ達にはそれを受け止めるだけの気持ちがあるはずだ。自分たちに救いを求めるけなげな命、それを無碍にすることは、できないはずだ。
カリナとナマリに先導され、イレギュラーズ達は出発する。
目的地は、とばりの森――リンカをコアとしたアルベドが発見されたポイントだ。
●さいごのうそ
真っ暗な闇の中で、リンカは叫ぶ。
命が失われていくのを感じながら。
誰かに届くように。誰かが叶えてくれるように。
――どうか、どうか。私(アルベド)が誰かを傷つける前に、私を殺して。
- <月蝕アグノシア>さいごのうそ完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月17日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●偽・美少年
――誰か、誰か、わたしを止めて。誰か、誰か――。
「うるさいな」
憎々し気に眉をひそめるのは、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)の姿を模したアルベド――アルベド『セレマ』だ。自身の身体の内から度々聞こえる、フェアリーシードの悲鳴……コアとされてしまった妖精の声。悲痛なそれも、アルベドにとっては耳障りなノイズに過ぎない。
「大体――この美少年の一部になったことに喜びなよ。めったにない栄誉だと思うけど?」
おどけるように肩をすくめた。美少年、と言う在り様は、オリジナルであるセレマを模倣したものであり、必然、アルベドもまた、美少年たることにこだわりを持っていた。
むしろ――本人は、オリジナルを超越したとすら感じていただろう。オリジナルではなし得なかった耐久性を、アルベドは備えている。
いや、それは本人を再現しきれなかったが故の苦肉の策ではあったのだが、それを認めるほどアルベドの精神は寛容ではなかった。
――誰か、誰か――。
アルベドの言葉など聞こえぬかのように、フェアリーシードは悲鳴を上げ続けた。つまらなさそうに、アルベドは鼻を鳴らす。
一行が進むのは、『とばりの森』の中である。此処から妖精の生き残りを探した進軍の途中であり、それはつまらぬ任務の一つであるはずであった。
「――やりなおし(リテイク)」
ふと――声が響いた。木々の中を通る声。その先に視線をやれば、腕を組み、些か不快気に眉をひそめる、1人のイレギュラーズの影があったのだ。
「一目見て分かるね。キミは、ダメだ」
いっそ汚物でも見るかのように、イレギュラーズは――セレマ オード クロウリーはアルベドを見やる。
「君は――」
アルベドが身構えるのへ、しかしセレマは自然体に。その美しい眉をひそめながら、言葉を続ける。
「100歩譲って妖精に手を出すことは許そう。ボクの知らない所で誰が何をしようと人の勝手だ。美しいボクを模倣したことは、自らの美しさが為した罪ということで非を認めてやってもいい」
だが――。
「『再現できなかった』なら話は別だ。こんな醜い物が、傷ついてもいいなんて妥協が、通ってたまるか」
「なん……だって?」
ひきつった笑みを浮かべるアルベド。それは、面と向かった面罵であり、アルベドの在り様の否定である。
その言葉に反応したように、木々の木立より姿を現す、総勢八名のイレギュラーズ達。イレギュラーズ達はゆっくりと、アルベドを見据える。
「ヒヒヒヒ、その在り方では出来としては下の下よなァ、カワイソウに」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が嗤った。ぎり、とアルベドが歯をかむ。
「僕のどこにひずみがある――僕は完璧だ」
「本気でそう思っているなら、ヒヒヒ! 本当に、カワイソウになァ」
武器商人は改めて嗤い声をあげた。
「流しなよ。セレマ君なら、きっとそうするよ」
『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は冷たく言い放つ。
「自分の在り方に絶対の自信を持っているだろうからね。少しの言葉じゃ、揺らぎはしない――精神性も模倣できていないとなると、見た目も中身も劣化品。何なんだ? 君は」
ざわり、と周囲の木々が揺れた気がした。アルベドの内に浮かぶ怒りの感情が、周囲に布陣した人工精霊と共鳴し、空気を震わせる。
「まったく。その方が手っ取り早い」
『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)はその怒気に応じる様に、槍を構えた。
「ムカついてんのか? 奇遇だな、オレもお前らの在り方にはムカついてんだ。何の罪もない妖精を電池にするだと? ふざけんな!」
「くそくらえ、だわ! ボクはこの世界の妖精じゃないけれど、だからって、アンタたちのやってることを見過ごすなんて、絶対にできないっ!」
『あま〜いお菓子をプレゼント♡』タルト・ティラミー(p3p002298)は怒りをあらわにして、叫んだ。アルベドの体内には、フェアリーシード、つまり妖精が、その生命力のバッテリーとして封じ込められている。アルベドを放置しておけば、そのバッテリーとして使用されている妖精もまた死ぬのだ。そのような暴挙を、タルトは見過ごしてなどはいられなかった。
「あなたたちのやり方は、絶対に放っておけませんの……!」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が、むっ、とした表情で、声をあげる。
「妖精郷を埋め尽くす、白い仲間の偽者……なんて、あまりうれしくは無いからね」
と、『虹の橋を歩む者』ロゼット=テイ(p3p004150)。
「哀れな道化よ。この者が、君をここで止めて見せよう」
「道化。道化だと……この僕を! 道化と呼んだか!」
アルベドが激昂する。その様子を見たセレマが、ウンザリと肩をすくめた。
「美少年は静かに、穏やかに……と言ってもわかるまいか。無駄話は結構。くたばり晒せ」
その目に浮かんでいたものは、軽蔑の色であった。もはやわずかな時でも、この不完全な物体をこの世にとどめておくのは我慢ならない……そう感じたかもしれぬほどに。
「行きましょう、皆さん。アルベドを止め、妖精を救出します」
グリーフ・ロス(p3p008615)の言葉を合図に、イレギュラーズ、アルベド、双方が一斉に戦闘態勢に入り――戦場へ向けて駆けだした。
●偽物と本物と
「一気に斬り込むぞ! オレに続け!」
「了解だ。ついていこう」
風牙の言葉に、応じたのはセレマだ。連鎖行動の技術が輝き、瞬間、セレマの行動力を風牙のそれへと引き上げる。
駆けだす二人――だが、その行く先にあるものは、アルベドではない。後方に控える複数の人工精霊、その眼前へと、二人は飛び出したのだ!
「なっ……逃げるのか、オリジナルッ!」
「そう慌てるなよ。実に不本意だけれど、キミの相手はしてやる。もちろん、すべて片付いてからね」
浮かべる微笑が、人工精霊を貫く――たとえ人造のものであろうとも、その微笑にからめとられれば最後、逃れられるものなどはいない。
「それまでは……わたしが、お相手、いたしますの……っ!」
ノリアは大海の抱擁に身を委ねながら、その身体をアルベドの目前へと滑り込ませる。
「邪魔を……!」
忌々し気に舌打ちしつつ、近接魔術を撃ち放つアルベド――衝撃の魔術が、ノリアを強かに打ち据える。だが、ノリアは障壁を展開するとそれに受け切って、その両手を広く掲げた。
「しますのっ!」
きっ、とアルベドを睨みつけるノリア――受けたダメージを反射する障壁が、アルベドに衝撃波を与える。
「ボクも相手してやるわ! この妖精モドキ!」
続くタルトのチョコビスケットバーがミサイルじみてアルベドへと突き刺さる。口元を狙った攻撃が、頬に切り傷をつけ、真っ白な傷跡があらわとなった。
「僕に傷を……!」
「そうやって、簡単に傷つくのは、セレマさんでは、ありませんの……まるで正反対の、わたしみたいですの……!」
アルベドを睨みつけながら、ノリアは言う。セレマであったなら、『傷つく』ことは無い。如何なダメージを受けたとしても、次の瞬間には傷一つなく、平然と立っている。セレマとは、そう言う在り方だ。
それは、セレマの研鑽と、研究と、探求の結果であり――一朝一夕に真似をすることなど不可能な、セレマ自身の矜持であるともいえた。
それを、イレギュラーズ達、ノリアは理解していたから、目の間のアルベドが、不完全な複製品に過ぎない事を、肌で理解できたのである。
「本物だったら、傷なんてみせないわ! やっぱりあなた、偽物なんじゃない!」
タルトの挑発。そして、
「あなたなんて、わたしのアルベドに、してやりますの……! 忍耐力が、高いからこその戦いかたの、お手本をお見せしますから……好きなだけ、攻撃してくるといいですの!」
ノリアの挑発に、アルベドは怒りに歯をかみしめた。
「ふざけるなよ……! いいさ、ならば見せてやる! 僕の力を!」
アルベドにとっても、自身が完全な複製でないことは自覚していた。しかしながら、それを『複製しきれなかった』と納得することはどうしてもできなかったのである。それは、複製として生まれたが故の、存在理由が原因であったかもしれない。
複製できなかったという、理由はなんだ。
自分は下等な存在であったからか。
違う。自分は、オリジナルを改善し、超越したのだ。
オリジナルと妖精の影響があるとはいえ、未だ発生したばかりの未熟な自我は、そう捉えることでしか、自己を確立できなかった。
つまるところ――結局この個体は、まだまだ子供であったのだ、と言える。しかして、その成長を待ってやる義理も理由も、イレギュラーズ達には存在しないのだ。
だから、イレギュラーズ達は……タルトとノリアは、アルベドの幼児性を理解して、存分にそれを煽った。自我を暴走させれば、戦闘に対して粗が出るのはもちろん、コアたる妖精との乖離が発生するのではないか、と考えたのである。
「再現しきれなかったとはいえ……相手はセレマさんのコピー。強敵です」
グリーフが声をあげた。如何にその在り方を捻じ曲げられようとも、敵の持つ力は充分に強大だ。
ならば、決して油断等は出来ない。
「分かってる……サポートは任せたわよ☆ミ」
タルトの言葉に、
「任されました。さぁ、始めましょう」
グリーフはゆっくりと頷いた――。
一方、三人にアルベドを任せ、残るイレギュラーズ達は後衛の人工精霊たちに対しての攻撃を行っていた。アルベドを盾とし、後衛の砲撃による打撃を与える……それが、敵の基本戦術であることを察したからだ。
ならば、それをわざわざ、まっとうさせてやる理由などない。敵の得意戦術があるならば、それを破壊してやるのが戦術と言う物だ。
「おやまァ、おやまァ、錬金術による人造精霊か。欲しいなァ」
ヒヒヒヒ――武器商人が笑う。何処か黒い気配をその身に纏いながら、興味深げに人工精霊たちへと視線を送る。三角錐のような形をした人工精霊が、各々の属性にその身体を仄かに光らせた。
「だって、あれは可愛い隣人(ようせい)たちと違って、合成妖精(キメラ)にして遊んでも女王様に怒られないだろ? いいなァ。ヒヒヒヒヒヒ……!」
その笑い声に、人工精霊の本能的な何かが、一斉に忌避感を示し始めた。
あれを討たなければならない。
単純な人造生命に自我が宿っているかどうかは不明だが、その薄い本能とでもいうべきものを刺激する、武器商人の纏う『何か』。本能的な部分を捉えることこそが、武器商人のスキルの見せ所である。
人工精霊たちが、その各々の纏う属性に応じた魔術を、一斉に解き放つ。直撃――多少の傷を負いながらも、しかし武器商人が倒れることは無い。
何故なら――それもまた、武器商人の『在り方』であるからだ。
「ヒヒヒ……さ、こっちは我(アタシ)がひきつけようかねぇ?」
「了解だ! 一気に片を付けてやる!」
風牙が一気に敵へと距離を詰める。瞬間、振るわれた刃が、手近にいた人工精霊を激しく打ち据え、次々と砕いて回る!
「燃料は補給するし、火消しもするから、いい感じに埒を開けてね」
ロゼットの治療術式が、
「サポートは任せて! 全力で動いてよ!」
ルフナが展開する『澱の森』が、イレギュラーズ達の活力をみなぎらせる。風牙はそのサポートを受けてさらに、跳躍。
「時間がないんでね、荒っぽくいくぞ!」
足元にいた人工精霊に、槍の刃を突き刺す――ぱりん、と音を立てて、人工精霊が爆ぜた。
「『澱の森』よ、力を貸してよね!」
ルフナが再度、『澱の森』を展開する。木々がその活力をイレギュラーズ達へと分け与え、
「さて、少しばかり憂さ晴らしに付き合ってもらうよ」
ぱちん、とセレマが指を鳴らせば、中空に魔法陣が描かれ、そこから放たれる聖光が地を嘗め尽くす。巻き込まれた人工精霊たちが次々とその光に焼かれ、爆散していく。ぱちん。再び指を鳴らし、二つ目の魔法陣を出現させ、別方向へ光を放つ。光に飲まれた人工精霊が次々と蒸発。セレマの内に宿る静かな苛立ちを体現するかのような苛烈な聖光が、次々と人工精霊を焼き尽くしていった――。
「ぐっ……!」
ノリアへ放つ術式の何割かが反射となってアルベドの肉体へと突き刺さる。
確かに、アルベドは倒れない。結果だけ見れば、それはセレマと同じ、と言えたかもしれない。
だが、その身体のあちこちには傷がひらき、白い血をのぞかせる。疲労にあえぐ息は荒く、額には汗がにじむ。
明確に、セレマとは違うモノである。
「どんどんボロボロになっていくわね! 妖精モドキ!」
タルトが笑ってみせる。アルベドの攻撃はいくらかこちらにも被弾していたが、完全にダウンするほどのダメージは受けてはいない。
「どうしました、の? まだ、わたしを、突破できないようですの……!」
ノリアもまた健在。アルベドは、ノリアへの決定打を見いだせずにいた。
と――。
「……待たせたね、出来損ない」
セレマは冷たく――声をかけた。
「残念ながら、人工精霊は全て、仕留めておいたよ」
ロゼットが言った。後方には、無残に砕け散った無数の人工精霊の残骸が散乱している。
「このまま一気に仕留めてやりたい所だけど――そうもいかないんだ」
と、風牙。思うのは、自分たちに助けを求めた妖精たちの姿。あの子を助けて。そう願ってやってきた、けなげな姿。
「お前の友達は無事だ! よく頑張った! あとはお前だけだ!」
風牙が叫んだ。アルベド、その内に隠された、妖精の少女へ向けて。
「何を――」
「殺して、だって? 嘘をつくな! お前の本当の気持ちを言え!」
どくん、と――アルベドの身体が脈打った。
たまらず、右胸を押さえる。
「黙れ、黙れよ……!」
アルベドが苦痛の表情を浮かべた。それもまた、セレマの決してしない表情の一つでもあった。
「そうだとも。キミの”本当”の望みはなぁに?」
武器商人が声をあげる。
「嘘つきと言うのが、キミの『在り方』なのかもしれない。でも今は、素直になるべき時だよ?」
――だめ! いまのうちに、こいつをやっつけて!
はっきりと。
イレギュラーズ達にも、声が聞こえた。
アルベドの中に捕らわれた、妖精の少女――リンカの声だった。
「なんでだよ。なんで生きようとしないで諦めるのさ」
ルフナが言った。
「献身が美しいなんて、自分はどうなっても良いなんて、独りよがりなんだよ! キミの友達は、助けてってお願いしたんだ! その子たちの気持ちはどうだっていいって言うのか!」
――けど――!
「ああ、もういいよ」
ぱん。と。
手を叩く音が聞こえた。
そこには、ぞっとするほど冷たい目をしたセレマの姿があった。
「じれったい。キミたちは馬鹿か。死にたいなんてわめいてる、妖精なんかを助ける意味があるかい。――そもそも、奴らの無能と自業自得がこの面倒を引き起こしてるんだろ」
はぁ、と、深くため息をつく。
「聞けばそいつも嘘つきの屑らしいじゃないか。どうせ仲間が傷つく様を眺めて愉しむような奴だぜ? ……だったら、いいことを思いついた。妖精の体液には魔力が豊富に含まれるんだ。霊薬の材料になったりするくらいにね。こんなこともあとうかと一匹捕まえておいてよかったよ」
そう言って、セレマが左手に握りしめていたのは、1人の妖精。リンカの、友達の姿だ。
「こいつを痛めつけて、体液を回収すれば――」
その瞬間。
アルベドが動いた。
その手を伸ばし。セレマへと迫る。
一番信じられない、と言った表情をしていたのは、アルベド自身であった。
電池でしかないはずの妖精が。
この時、アルベドの身体を突き動かしていたのだ。
それを認めたセレマは、にぃ、と笑った。
「グリーフ君。見えるだろう?」
「ええ……確かに、右胸に、怒りの色です」
グリーフが儀式剣を突き出す。アルベドの右胸を貫いた儀式剣が、横に切り払われる――途端、その傷跡から、妖精のコアが姿を現したのだ!
「はい。頂いたよ」
ぐらり、と体勢を崩すアルベドから、セレマは右手を伸ばしてフェアリーシードを回収する。同時に、握っていた『妖精の幻影』を、消滅させた。
――だましたのね! うそつき! うそつき!
フェアリーシードから声をがする――セレマは片手で耳をふさいだ。
「悪いね。ボクは昔から大嘘つきなんだ」
つまり、先ほどのセレマの言動は、全てリンカに働きかけるためのウソだった、という訳である。アルベドを動揺させ、リンカが隠された部位のヒントがあれば、という考えだったが、どうやら良い結果を導き出せたようである。
「馬鹿な……」
アルベドが、呆然とセレマを見る。コアを失ったアルベドが、その身体を白い、どろどろとした醜いものへと変えていく。
「僕と君に……何の違いがあった……」
馬鹿を見るような目で、セレマはアルベドを見やった。
「冥途の土産に教えてやろうか。全部だ。何もかもがまるで違う」
べちゃり、とアルベドが、溶けて地に零れ落ちた。そのままじわりと地にしみていく。
「うん。今日のボクは優しいなぁ。ははは」
そう言って、セレマは肩をすくめてみせた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様のご活躍により、リンカは無事に救出され、今は療養中です。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
妖精郷をめぐる戦い。この依頼では、妖精たちの願い事をかなえていただきます。
●成功条件
敵の全滅
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
とばりの森のとあるポイントにて、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)さんを元とした錬金術モンスター、『アルベド』と、アルベドが率いる錬金術モンスターの集団が発見されました。
アルベドたちの活動を見逃すわけにはいきません。
皆さんには、この敵集団と接触し、撃破していただきます。
アルベドが出現したポイントには、前述の妖精たちが案内してくれるため、障害などなく接触できます。
また、同ポイントから逃げてきた妖精たち曰く、『リンカ』という名の妖精が、このアルベドの核にされているようです。
妖精たちには、このアルベドのコアとなったリンカを助けるようにお願いされていますが、それは容易い事ではないでしょう。ですので、依頼の成否として、リンカの生死は問いません。
が、助けることができれば、きっと、とても感謝されることでしょう。
作戦決行時刻は昼。周囲は木々が生い茂る森となっています。
●エネミーデータ
人工精霊『赤』×5
錬金術で生み出された、人工精霊です。
後衛から、『業炎』を付与する遠距離攻撃を使用してきます。
人工精霊『青』×2
錬金術で生み出された、人工精霊です。
後衛から、『氷結』を付与する遠距離攻撃を使用してきます。
人工精霊『黄』×2
錬金術で生み出された、人工精霊です。
後衛から、『ショック』を付与する遠距離攻撃を使用してきます。
アルベド『セレマ』×1
セレマ オード クロウリーさんを元とし、錬金術によって生み出された人型生物です。
セレマさんを元にした……のですが、セレマさんの特質を完全に模倣することは出来なかったようで、『傷つかない美少年』と言う在り様を、『異常な耐久力の高さ』によって再現した模様です。
前述したとおりHPが高く、反応値も高水準な他、怒りによるダメージコントロールを使用した盾役として行動します。
核である『フェアリーシード』には『リンカ』という名の妖精が使われています。
何らかの手段を以ってアルベドを無力化するなど、とても頑張れば、助け出すことができるかもしれません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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