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シナリオ詳細

3剣士の挑戦状。或いは、朱に染まる城跡…

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●修練の果て
 長い年月、彼らは刀を振り続けた。
 雨の日も、雪の日も、ただの1日さえも休まず、ただ愚直に刀を振り続けた。
 稽古の中、手の皮は何度もめくれ、骨が折れることもあった。
 内臓が傷つくこともあった。
 稽古に付いていけず、去って行った仲間もいた。
 気づけば、彼らはたった3人の集団となっていた。
 それぞれがそれぞれの技を磨き、実力の拮抗した3人はある日、師である老人に呼び出される。
「話がある。それは某の余命と、この道場の行く末についての話だ」
 ごくり、と。
 3人のうち1人、槍術を修めた(ラセツ)という男が喉を鳴らした。
 彼の長槍による一撃は、5メートル先の鉄板でさえ貫くという。
「それは……我らのうち誰かが、この道場を継ぐという話か?」
 知らず、ラセツの口元には笑みが浮く。
 自分自身こそが道場を、そして師の残した秘伝のすべてを継承するにふさわしいと信じて疑っていないのだ。
 そんなラセツに向け、呆れたような視線を向ける男が1人。
 禿頭に鋭い眼光、2本の小太刀を携えた男である。
「…………」
 無言のまま、男……(シュラ)は、小太刀に手を伸ばした。
 技を研鑽し、実力の拮抗した3人だ。
 師の後継を決めるのなら、真剣勝負しかないと考えたのだろう。
 ラセツも負けじと己の槍に手を伸ばす……けれど。
「話ぐらい最後まで聞きなさいってぇ」
 ため息交じりの高い声。
 黒い着流しを纏い大太刀を携えた女性……(ヨミ)である。
 長く艶やかな黒髪を掻き揚げ、師へと視線を向ける。
 視線を向けられた老人は「うむ」と、ひとつ頷くと3名の前に1通の封書を差し出す。
「挑戦状? 師よ、これは?」
「私たちに誰かが送りつけて来たものかしら?」
 と、ラセツとヨミが問いを発する。
 シュラは静かに、胸中で戦意を高めていた。
 けれど、老人は肩を揺らして呵々と笑う。
「挑戦者は、お主らよ」
 
●カムイグラからの挑戦状
 イレギュラーズたちのもとへ、挑戦状を運んできたのは鬼人種の女性であった。
「まぁ~、あそこのおじいさんにはお世話になってますんで」
 と、茶をすすりながらはにかんだ。
 彼女曰く、イレギュラーズたちには流派の跡継ぎを決める勝負の相手になってほしいとのことである。
「詳しいことは、そこの挑戦状に書かれてますけど、簡単に説明しますね」
 そう言って鬼人種の女性はイレギュラーズたちの前に地図を広げた。
 地図……否、それはとある古城跡の見取り図である。
「って言っても、残っているのは正門と、城壁ぐらいなんですけどね」
 正門を潜った先で、3人の剣士は待機している。
 門を潜った瞬間から、その者は“敵”として認識される。
 また、戦場から門の外に出た者は失格扱いとして以降の戦闘を禁止する、というものである。
「剣士たちは3人。そっちは最大8名。戦いの様子を見て、おじいさんは後継者を決めるつもりみたいです」
 件の老人は、よほど弟子たちの実力に自信があるのだろうか。
 挑戦状には、各々の武器と技についても記載されていた。
 ラセツは槍を、シュラは小太刀2本を、ヨミは大太刀を武器とする。
 また、ラセツの技には【弱点】
 シュラの技には【移】【連】
 ヨミの技には【ブレイク】
 が、それぞれ付与されている。
 また、ラセツは長いリーチを活かした広所での複数相手の戦闘を。
 シュラは障害物が多く、高低差のある不安定な場所での高速戦闘を。
 ヨミは1対1での近接戦闘を得意を。
 各々、実力は拮抗しているが得意とする戦場は大きく異なる。
「お城の跡地には瓦礫なんかもありますからね。場所によっては動き難かったりするかもですね」
 と、鬼人種の女性はそう告げた。

GMコメント

●ターゲット
鬼人種の剣士3名。
後継者を決めるための試験としてイレギュラーズに挑戦状を送りつけて来た。
・城跡の門を潜った瞬間から、その者は戦闘相手として認識される。
・一度、城跡後……門や城壁の外へ出た者は失格とする。
・双方、真剣勝負を旨とすること。
上記のルールのもと、剣士たちの試験は行われる。


・ラセツ
鬼人種の槍使い。
槍のリーチを活かした、広い場所での戦闘を得意とする。
また、槍を振り回すことで同時に範囲内の複数名にダメージを与えることができる。

羅刹一貫;物近貫に中ダメージ、弱点
渾身の力と気合を籠めた突き。

・シュラ
鬼人種の小太刀使い。
地形を利用した高速軌道戦を得意とする。

修羅連斬:物至単に中ダメージ、移、連
小太刀を用いた鋭い連続攻撃。

・ヨミ
鬼人種の大太刀使い。女性。
1対1での戦闘を得意とする。

黄泉断頭;物近単に大ダメージ、ブレイク
大上段に振り上げた大太刀による斬撃。
※攻撃後、自身の動きが一瞬止まるという欠点がある。



●場所
古城跡地。
時刻は夕刻。
視界に問題はない。
正門と城壁が残っている以外は、城の瓦礫が残されている。
正門付近は平坦かつ開けた土地。
その先には階段や坂が続いている。
階段と坂を抜けた先には、城の瓦礫が散らばる区画が存在している。

戦場のどこかから、3剣士の師が戦いの様子を観察している。

  • 3剣士の挑戦状。或いは、朱に染まる城跡…完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月05日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●城跡の3人
 カムイグラのとある城跡。
 壊れかけた城門を潜ったその先に、待ち構えるは3人の男女。
 1人は槍を手にした偉丈夫。
 1人は2本の小太刀を携えた、痩身禿頭の剣士。
 1人は黒い着流しを着た長髪の女性。
「あんたらが、師の用意した試合の相手か?」
 そう問うたのは、槍を手にした偉丈夫……ラセツであった。
「ほかに誰が、こんなとこに来るってぇのよ。相変わらず頭ん中まで筋肉なの?」
 呆れたような視線をラセツへと向け、黒衣の剣士……ヨミは大太刀を引き抜いた。
 無言のまま、修羅も腰の小太刀を引き抜く。
「ま、そりゃそうだよな」
 チャリ、とラセツの槍が金音を鳴らす。
 一迅、風が吹き抜けて……それが開戦の合図となった。

「今回の挑戦者は我らってことだからな! こっちから仕掛けさせてもらうぞ!」
 3メートル近い槍を構えた偉丈夫が、誰よりも先に動き出す。
ラセツを迎え討つは『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)だ。
「俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム。かの師より、槍術を学んだとされるその腕前、魅せて頂きたい!」
 マントをなびかせベネディクトは深く身を沈める。
 間合いの長いラセツの刺突に備えてのものだ。
 槍の間合いにはまだ遠い。槍とラセツの視線へ意識を向けるベネディクトだが……。
「っ……殺気! ベネディクトさん!」
焦ったように『死角無し』白薊 小夜(p3p006668)がそう声を上げる。
 直後、ベネディクトは身体の前面に向け槍を掲げる。
「うぉっ……は、速いな」
 ベネディクトの槍とラセツの槍が激しく打ち合い火花を散らす。
 小夜がラセツの殺気を素早く察知できたのは、優れた【勘】によるものか。
 盲目の剣士である小夜は、音や気配からでも正確に対象の動きを追うことができる。今回は小夜の勘とベネディクトの反射神経が上手く噛み合った形であろう。

「得意な戦術の情報まで貰って苦戦していては参謀の名が廃るというものです。全力を以てお相手しましょう、オールハンデッド!!」
 仲間たちへ術をかけつつ、『ステンレス缶』ヨハン=レーム(p3p001117)は素早く戦場全体へ視線を巡らす。
 真っ先に斬り込んで来たラセツはベネディクトがブロック。残る2人のうちヨミは、元居た場所から動かないまま、にやにや笑いで待ち構えていた。
 一方、シュラは両手に小太刀を構え後方へ。機動力を活かした高速戦闘を得意とする彼にとって、ヨミやラセツの近くは戦いづらいということか。
「予定通り狙いはシュラへ! ヨミの相手は……」
 そう言って、ヨハンは背後へ視線を受ける。
 ヨハンに小さく頷きを返し、2人の仲間がヨミのもとへと向かって行った。

「ヨミさん、でしたか。――しばし、お相手頂きましょうか」
 夜闇に浮かぶ白い衣が風になびいた。
 その手には刀。『月下美人』久住・舞花(p3p005056)の剣の術理は、対象の動きを先の先まで見極める。
 しゃらん、と静かな音を鳴らして舞花は刀を引き抜いた。
「あぁ、構わないよぉ。剣士の相手は大得意だもの……もちろん、剣士以外の相手にも遅れを取る気はないけどさ」
 ヨミの視線は自身の背後へ向けられた。
 肩に巨大なディナーフォーク……それは彼女の愛槍だ……を担いだ『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は、ちろりと赤い舌を出す。
 視線が合ったその瞬間、マルベートの瞳が妖しく光った。
 小さな舌打ちとともに、ヨミは咄嗟に目を逸らす。
「2対1だけど、よもや卑怯とは言うまいね? 1対1の対決の高潔さを否定はしないけれど、戦とは本来こういう泥臭いものだよ」
 視線を逸らしたヨミへと向けて、マルベートは槍を突き出した。

 その様は、まるで地を這う蛇そのものだ。
 音も立てず、けれど速く。
 ぬるり、とごく自然に速度を落とさず方向転換させしてみせた。
 小太刀の閃きは目で追えない。
「速い……けど!」
逆手に構えた分厚い刃の小太刀を繰って『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719)はシュラの斬撃を防いで見せた。
 その頬に一筋、汗が伝う。
 防いだ、と威降は確かにそう思った。
 だが、実際には違う……1刀目と同じ軌道で放たれた、もう1つの斬撃が威降の腕から肩にかけてを深く抉った。
「思い切りやりますので、御三方も悔いなど残さぬよう存分にどうぞ!」
 鮮血に頬を朱に染めながら、威降はそう言葉を投げる。
威降を襲う白刃のラッシュは、更に速度を増していく。
 一撃一撃のダメージはさほど大きくはないし、受け止めきれない重さでもないが、かといって容易に捌ける速度でもなく、結果として威降は防戦一方といった状態だ。
 だが、シュラの相手は何も威降だけではない。
「好みは刀遣いの相手なんだけれど……とはいえ、魔法や鉄砲が溢れたこの世界でこうして剣士達と死合う機会に恵まれるなんて本当に素敵ね」
 繰り返される斬撃の最中、割り込むようにして小夜が刀を突き出した。
 交互に振るわれる2本の小太刀が、その一突きでピタリと止まる。
「……盲目の剣士か。よほどに勘が鋭いとみえる」
 淡々と、静かな声でシュラは語った。
 事実、シュラの技には欠点がある。
 速度と手数を重視した結果、防御が甘くなるという欠点だ。自身がダメージを受ける可能性を嫌い、シュラは攻撃の手を止めた。
その一瞬の隙を突き、『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)がシュラに近寄る。
「貴方の実力が如何ほどのものか……えぇ、存分に堪能させて貰うとしましょうか!」
 佐那が愛刀を振るえば、炎がその軌跡を描く。
 シュラは小太刀を肩の位置に掲げ、佐那の斬撃を受け流した。火炎がシュラの頬を焼くが、彼は瞬きの一つもせずに一歩前へと足を踏み出す。
 前進の速度を乗せた一撃が、佐那の胸部へと迫る。
 回避も防御も間に合わぬまま、佐那の胸部に十字の傷が刻まれた。
「……ふふ、本当に。楽しめそうで何よりだわ」
 鮮血に顔を濡らしながら、佐那はくっくと肩を揺らして笑んだ。
 強敵を前に、戦闘狂の一面を抑えることが出来なかったようである。
 だが、そこで再びシュラの動きが急停止。
 きつく瞑った右目から血が零れる。
その足元に転がり落ちる小石が1つ。
小石を撃ち出したのは『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)だ。片手に持ったいくつかの小石を、弄ぶように宙へと放りにやりと笑う。
「相当な手練れのようだ……相手にとって不足なしだね」
 帽子の位置を調整しながら、利一は腰からナイフを抜いた。
 シュラの周囲を囲む3人の剣士と探検家。これでは自由に動けぬと、シュラは小さく舌打ちを零す。
 
●磨かれた技
 城跡を囲む壁の上、1人の老人が顎に手を当て「ふむ」と頷く。
 太陽は西の空に沈んだ。まだまだ明るさは残るが、じきに周囲は夜の闇に包まれるだろう。
「ラセツには思慮が、シュラには協調性が、ヨミには警戒心が……腕は某を凌ぐほどだが、ちと強くなりすぎたかの」
 青いのぉ、と瞳を細めその老人は呵々と笑った。

 小太刀のリーチはひどく短い。
 けれど、その分取り回しがしやすく、手数を多く繰り出せるという特徴があった。身体は傷つけば傷つくほどにその機能を低下させる。一撃で致命傷を負わせずとも、じわじわとダメージを蓄積すれば、いずれ人は死に至る。
 加えて、シュラには生来の機敏さがあった。つまるところ、彼にとっての強さとは、いかに速く、いかに多く相手を斬れるかという点にある。
「豊穣郷が剣士の力、拝見させて頂きましょう。……緋道佐那、参る」
「今度は貴様か……」
 肩を激しく上下させつつ、シュラは迫る刃をかわす。
 禿頭から流れる汗が、シュラの胴着に染みを作った。
 見れば胴着のいたるところに焦げの跡。その肌にも多数の火傷を負っていた。
 炎を纏った佐那の剣筋を見切ることなどシュラにとっては容易いことだ。けれど、それを受け止め、受け流すとなれば話は変わる。
 それでも1対1なら、今よりも戦いやすかったはず……あるいは、自身の得意な戦場へイレギュラーズたちを誘導で来てさえいれば……と、後悔してもすでに手遅れ。
 瓦礫の散らばる城の跡地へ至るには、少々距離がありすぎる。
 まずは1人でも倒し、包囲を崩す必要がある。そう判断し、シュラは佐那の懐へ。
 だが、次の瞬間シュラの脇腹に痛みが走る。
 加えて、その手足は糸に絡めとられたようにピタリと動かせなくなった。
「その機動力や厄介だ……止めさせてもらうよ」
 指弾により小石を発射した姿勢のまま、利一はそう言葉を紡ぐ。
「あんた、もっと仲間に頼ることを覚えた方がいいんじゃないか?」 
 なんて、言って。
 ポケットから取り出したコインを、利一は親指で弾いてみせる。キィンと甲高い音が鳴り響く。
 そして利一は、落下するコインをキャッチすると、流れるようにそれを弾いた。
 狙いはシュラの右の手の甲。痛みと衝撃に、シュラは小太刀を取り落とす。 
 さらに……。
「命まで奪うつもりはありませんので、どうぞ安心してください」
 威降の脇差がシュラの左手を穿つ。
 視覚外からの音のない一撃に、シュラは瞳を見開いた。みれば、威降の足は地面からほんの僅かに浮いている。
 威降の身に付けた奥義の1つ【颶風穿】は、至近より無拍子で放たれる神速の突き技。その軌道を捉えることは難しく、生半可の防御など意にも介さず貫き通す威力を誇る。
 シュラの技が速度と手数を主とするように、威降の奥義は速度と威力を重視していた。
 威降の顔には優しい笑み。それを見て、シュラは恐怖に背を震わせる。
「貴様……忍か」
 と、そう呟いたシュラに薄い笑みを返して威降は後方へと跳んだ。いつの間にか、利一と佐那も元の配置へと戻っている。
 入れ替わるように、シュラの前に歩み出たのは小夜だった。
「いくら速く動こうと、私の"間合い"に入ったからには逃しはしない」
 ゆらり、と緩慢な動作で小夜は刀を下段に構え……。
 一閃。
 跳ね上げるように振り抜かれた斬撃が、シュラの胴を袈裟に斬る。

 指揮杖が「すい」と宙を泳いだ。
 それを操るヨハンは、シュラが倒れたことを知ると「よし」と小さく呟いた。
 彼の指揮範囲内にいるベネディクトは、ヨハンによるバフを受けながらラセツの槍を受け止めた。
 一瞬の思案の後、ヨハンは仲間たちへと号令を放つ。
「ヨミさんへ3人! 1人はこちらへ!」
 戦場に響くヨハンの指揮に、シュラを相手取っていた4名は迅速に移動を開始した。
 さらにヨハンは、ベネディクトへ盾のオーラを纏わせる。防御力を増したベネディクトに向け、ラセツは槍を突き出すが剣で弾かれ防がれた。
「まぁ、個の武力がどれだけ高くてもイレギュラーズの連携というものはそう簡単には破れないですよ?」
 得意気に指揮杖を宙に泳がせながら、したり顔でヨハンは告げた。

「ぬぅ……らぁっ!!」
 渾身の力を込めた鋭い突きが、ベネディクトの脇腹を抉る。咄嗟に軸をずらして致命傷こそ避けたものの、ベネディクトは口の端から血を零し、数歩後ろへと下がる。
 今が好機と、ラセツは大きく1歩を踏み出し、ベネディクトの腹部へと突きを放った。
「見事な腕前だ。──だが、俺もこの場を引き受けた以上はそう易々と倒れる訳にはいかん……!」
 身体を捻り、ベネディクトは自身の槍を繰り出した。空気を切り裂く音が鳴り、槍と槍とが打ち合い、金属音を響かせる。
 欠けた刃の破片が舞った。
 ギシ、と槍の軋む音。
 押し負けたのはベネディクトの方だ。槍が弾かれ、ベネディクトの身体が大きくのけ反る。
 ラセツは槍を旋回させて、石突き部分をベネディクトの肩へと叩き込む。
「ぐっ……」
 苦悶の声を零すベネディクトへ、ヨハンは告げた。
「あと5秒!」
「っ……承知した!」 
 地面を強く踏みしめて、ベネディクトはラセツの槍を掴む。
 
 ラセツは槍を引き戻し、その切っ先を頭上へ向けた。
 直後、剛腕による振り下ろし。ベネディクトの肩に槍が叩きつけられた。
 だが、ベネディクトは倒れない。
「達人の槍技を見て、受ける機会はそうは無い……俺もこの戦いの中で学ばせて貰ったよ」
「ですが、勝つのは僕たちです!」
 ベネディクトの背後でヨハンが叫ぶ。
 次の瞬間、ラセツの背を威降の放った呪いの風が切り裂いた。

 大上段からの斬り降ろし。
 それを刀で受け止めながら、舞花はきつく唇を噛む。
 一方、ヨミは歯を剥き出しにして獣のような笑みを浮かべた。
「やるじゃなぁい……それで正解。私の技を下手に避けても、真っ二つになるだけだものねぇ」
「えぇ、退屈はさせませんよ」
 ヨミの斬撃は重く、そして速かった。
 シュラのそれと違い、加速はほんの一瞬だけ。
 だが、生半可な技術ではその一撃を避けきれないし、受け止めきれない。
「舞花、大事なのは〝倒れない事〟だよ。あまり馬鹿正直に真正面から戦っては……」
 苦笑を浮かべ、マルベートはそう告げた。
 けれど、マルベートとてヨミの実力は理解している。彼女が付与した状態異常は、確実にラセツの力を弱体化させているはずなのに、ヨミは未だに優位に立っているのだから。
「これが鬼か。強靭な体を持つ侮れない獣だったはずだけど……気を引き締め直す必要があるかな?」
 なんて、言って。
 放った魔光が、ヨミの胸部を貫いた。

●未熟な強者
 刀と刀とがぶつかった。
 舞花とマルベートの援護に訪れた佐那と利一、小夜の3名が同時にヨミへと襲い掛かった。
「皆さん、合わせて行きましょう」
「隙が出来たら見逃すなよ」
 佐那と利一は声を掛け合い、交互に攻撃を加えていく。
1対1を得意とするヨミは集団戦に不慣れなようで、じわじわと後方へ押しやられていった。
 利一の蹴りが、ヨミの膝を蹴り抜いた。姿勢を崩したヨミの肩へ、佐那が刀を振り下ろす。
 佐那の刀をヨミは避けも防ぎもしない。
「っしゃぁっ!」
 肩を斬り裂かれながら放った斬撃が、佐那の腹部を深く抉る。
 さらにヨミからの追撃。
だが、その一撃は身を挺して小夜が庇う。その隙に、利一は佐那を引き摺りながら後ろへ下がった。
 これで1対1。血を吐きながら、ヨミは小夜へと斬りかかる。
 小夜は受けも避けもせず、流れるようにヨミの斬撃の間合いから外れた。
 入れ替わるように、小夜の背後に控えていたマルベートが前進。
「多人数でも捌けたじゃないか。君には良い経験になったんじゃないかな? 〝経験〟は喰って損がないものだよ。人生は続くのだから」
 マルベートの背後には、地面に刺さったナイフとフォーク。さらに居合の姿勢で舞花が構える。
 にぃ、と口角を吊り上げた不気味な笑みを浮かべた彼女は、細い指先をヨミの眉間に突きつけた。
「……ぐ」
 ごぼり、と。
 ヨミの口から血が溢れた。
 吐血……否、全身の古傷が開き、足元には血だまりが作られる。
 だが、ヨミの闘志はまだ折れてはいない。大上段に大太刀を振り上げ、1歩前へと踏み出した。
「……一歩踏み込め、其処は極楽」
 静かに、小夜はそう呟いた。
 果たしてそれは忠告か、それともある種の激励か。
「ここで貴方が選択すべきは、仲間へ助力を求めることなのでは?」
 ヨミが大太刀を振り下ろすより、なお疾く。
 紫電を纏った一撃が、その腹部へと叩き込まれる。
 マルベートの背後より跳び出した、舞花による斬撃だ。
「貴方たち3人は協力することを覚えた方が良いと思いますし、師もそう願っているのでは? ……違いますか、ご依頼人」
 そう言って、舞花は背後へ視線を向けた。
 視線を受けた老爺は無言。
肩を揺らして笑みを浮かべる。

 威降の突きがラセツの腕を深く抉った。
 腕を赤く染めながら、ラセツは槍を急旋回。鋭い突きを威降へ放つ。
「腕競べか。怨霊退治とは違って純粋に楽しめるかと思いましたが……」
 頬を引きつらせ、威降はそう言葉を零す。
 ラセツの突きに宿る殺意は本物だった。致命傷を覚悟し、威降は歯を食いしばる。
 けれど、ラセツの槍は見えない何かに阻まれ止まった。
 それはヨハンの呼び出した、聖なる盾の守護である。
「僕がいる限り絶対に仲間はやらせない、そして僕も絶対に倒れない。これが僕の信念だ!」
 そう言ってヨハンは指揮杖を振った。
 宙に描く何かの軌跡。ベネディクトは即座にその意図を理解した。
「行くぞ!」
 ヨミとの戦闘を終えた仲間たちが駆けてくるのが視界に映る。
 防御に徹するのはここまでだ。そう判断し、ここに来てベネディクトは初めて自主的に攻勢にまわる。
 地面を蹴って、ラセツへ迫るベネディクト。ラセツは槍を引き戻し、腰の位置で力を溜めた。
「これが俺に出せる今、最大の技だ──!」
 ベネディクトの槍に雷が宿る。
 槍と槍が交差し、そして……。
 ミシ、と軋んだ音を立て、ラセツの槍がへし折れた。
 飛び散る木っ端と、瞬く紫電。
 ラセツの腹部をベネディクトの槍が打ち据える。
「……貴方が思い描く形には、我々は動けたのでしょうか」
 倒れ伏すラセツを一瞥し、ベネディクトはそう問うた。
 敗北した弟子たちを見て、老爺はくっくと肩を揺らす。
「上出来よ。弟子共も、自身の未熟さを理解したじゃろ」
 なんて、言って。
 老爺は厚く礼の言葉を告げたのだった。

成否

成功

MVP

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
3剣士との戦いはイレギュラーズの勝利です。

敗北を知った3剣士は、今後ますますの研さんを積み強くなることでしょう。
その後、後継者問題がどうなったのかは彼らのみの知るところですが、依頼は無事に成功です。

此度の物語、いかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけたなら幸いです。
また機会があれば、別の依頼でお会いしましょう。
この度はご参加、誠にありがとうございました。

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