PandoraPartyProject

シナリオ詳細

鬼魂、鎮めたまえ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある誰かの最期
『どうして、私は誠心誠意、仕えております』
『言いつけて下されば、何でもいたします』
『至らぬ点があったならば直します、だからどうか』
『命だけは、お許し下さい――』

 声をからして、そう言いつづけた。
 しかしどれだけ哀訴をこぼし、涙を流そうとも、意味はなかった。
 私を見る主様――刀を振り上げたヤオヨロズの男はただ笑うだけだった。
 その眼に、その手に、躊躇はない。
 まるで藁人形に試し斬りでもするかのように、私は斬られていた。
 体が一気に熱くなる。噴き出る血の熱さか、あるいは痛みを熱さと感じているのか。
 とにかく私の体は灼熱の苦しみに襲われて、それから急激に寒くなった。
 ああ、私は死んでゆくのだな、とわかった。
 消えてゆく意識の中で最後に見たヤオヨロズの顔は、やはり笑っていた。

 ――――。
 目が覚めたとき、私は暗闇の中にいた。
 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
 しかしわかることがあった。私の周りには、私と同じような者たちが何人もいた。
 何が同じかなんてわからない。
 どんどんわからなくなってゆく。
 そもそも私は誰なのだ、何なのだ。それすらもわからない。
 だが、わからなくともイイ。何がどウでアロウトいい。
 私のすルことはひトツだけだ。

 アノ男を、否、ヤオヨロズを殺スダケ――。

●とある鬼人の願い
 怨霊を退治してほしい。
 高天京の外れ――というより幾分か京を出た荒れ野。そこに休憩所のように建っているあばら家で待っていた鬼人種の男は、そう言ってイレギュラーズに頭を下げた。
「実はこの小屋の近辺に怨霊が現れるという報告があってな……しかもその数、我らの手に負えそうもない。だからその対処をあなた方に頼みたいのだ。それも、できるだけ早急にお願いしたい」
 告げる鬼人種の表情は、曇っている。
 それどころか眉をひそめ、苦々しささえ感じさせる空気である。
 何か事情があるのだろうか――と、一同が探りを入れると、鬼人種は声を潜めた。
「怨霊は十中八九、ここの土中に埋められた我らの同胞……つまり鬼人族だ。そして彼らの怨念が向く先は間違いなくヤオヨロズだろう」
 鬼人種の男は、強く言いきった。
 なぜ怨霊の正体がわかるのか、という問いに男は『噂があるのだ』と答える。
 なんでも、ヤオヨロズの豪商が鬼人種の奴隷を殺しては、その骸をこの荒れ野に捨てているらしいのだ。どうせ遊興で斬っているのだろう、というのがまた救いようがない。
「噂は聞こえてきて久しいが……咎められる気配はない。おそらく奴めが金で役人を黙らせているのだろう。まあ、私とて期待などしていないがな……」
 ぐっ、と握られた鬼人の拳は痛々しいほど震えている。
 言葉とは裏腹に、その腹の内は悔しさで煮えたぎっているのだろう。
 そして同時に、イレギュラーズたちはこの男の言わんとするところを察した。
 早急に鬼人種の怨霊を退治してほしいというのは、つまり『ヤオヨロズがさらに鬼人種への迫害を強める理由を作らせないでほしい』ということなのだ。
 たとえば『鬼人の怨霊がヤオヨロズを殺した』となれば、それが鬼人種の立場をいっそう危うくするだろうことは想像に難くない。
 しかし同時に『その手のこと』はよくあるのではないか、とも思える。迫害によって死んだ鬼人種がヤオヨロズを恨み怨霊と化す、というのは如何にもありそうな話である。
「むろん、それぐらいはカムイグラでは重大事にならん。だが実際にヤオヨロズが鬼人の怨霊に殺されれば話は変わる。同族への情けを優先し、怨霊を放置してヤオヨロズに害をもたらしたなどと言って、この区域を警邏していた鬼人族は処刑されるだろう」
 ここにいる私も含めて――。
 そうこぼして、鬼人の男はイレギュラーズたちの眼を見た。
「ヤオヨロズの機嫌を害さぬよう……などと我ながら情けない限りだ。しかし我々にできることなど今はその程度しかない。悪しきことが起こる前に、同胞の魂を鎮めてほしい」
 退治ではなく、鎮魂。
 そう言い換えた男は、深く深く、イレギュラーズたちに再び頭を下げるのだった。

GMコメント

 どうも、星くもゆきです。
 速やかに、鬼人たちの怨霊を退治しましょう。

●成功条件
 鬼人の怨霊を退治する

●敵
・怨霊×15
 死んだ鬼人たちの怨念が発露した存在です。
 ヤオヨロズの豪商に奴隷として買われ、言われるがまま働いていたものの気まぐれによって斬り殺され、荒れ野に埋められていました。
 その体には痛々しい刀傷が走っています。
 言葉を発しますが、口からこぼれ出るのはヤオヨロズ(精霊種)への殺意だけです。
 そのため精霊種がいた場合、精霊種を狙う傾向があります。
 攻撃力と命中が高く、対して防御技術と回避が低くなっています。
 攻撃手段は以下。

・『みなぎる殺意』神近単【呪い】【不運】
・『怨嗟の声』神遠単【苦鳴】

●ロケーション
 時刻は夜半。荒れ果てた原野です。
 雑草がひろがり、石が転がり、人の営みは見えません。
 近くを少し探せば、骸を埋めた痕跡が見つかるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 鬼魂、鎮めたまえ完了
  • GM名星くもゆき
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
七鳥・天十里(p3p001668)
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
三國・誠司(p3p008563)
一般人

リプレイ


 深夜。
 濃い闇色に満ちた原野に、イレギュラーズの足音が聞こえていた。
「人種差別……ですか。思えば混沌で目にすることはありませんでしたが、歴史を紐解けばよくある話ですね」
「同じ命だってのに……ほんと、なんだかなぁ」
 鬼人の怨霊の姿を求めて目を凝らす『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)のため息交じりの言葉に、『強く叩くとすぐ死ぬ』三國・誠司(p3p008563)が頷く。
「ったく、これだから仕来りだの風習だのしか言わない大人は」
「どこの国にも金持ちによる横暴ってあるんですねー、やな感じです」
 吐き捨てるような誠司に呑気に返すのは『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)。
「先に張本人のヤオヨロズを抹消しにいかないと怨念がずっとおんねんってなると思うんですけど……まぁそこは私のお仕事ではないですからね! 今回はしっかり怨霊をRIPさせましょう!」
「……気に入らないね」
「あれ~?」
 挟まれた声に、しにゃこが前のめりに崩れる。
 横を向くと『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)のいかにも不機嫌な表情が見えた。
「形はどうあれ、顔も見たことない馬鹿商人の尻拭いだろ? 仕事というなら最後までやってのけるけどもさ、どう好意的に解釈しても美少年に相応しい役回りとは言えないね」
「……まー気持ちのいい内容ではないよね」
 先を歩いていた『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)も背中を向けたまま同意してくる。
「個人的にはわるーい商人とっちめる方がいいんだけどね。得意だし」
「しにゃもそっちに賛成ですけど……ゼフィラさんはどーですか?」
「申し訳ないが、見知らぬ人々の不条理に義憤を燃やせるほど私は出来た人間ではないよ」
 何の気なしに訊いてきたしにゃこに、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は苦笑いを見せた。
「この国での種族差別も、この地の積み上げてきた歴史……それをありのままに記録するだけさ。私は歴史の探求者でしか無いからね」
「ふむふむ。ゼフィラさんは超クールですね!」
「そう捉えてくれても構わない」
 涼しげに笑うゼフィラ。
 しかしその微笑は一瞬で、表情の底に引っこんだ。
 闇夜の向こうに蠢く『それら』が、はっきりと見えたからだ。
『許サナい……許さ……ナイ……!』
『どうシテ、私たチが……ドウシテ……』
 怨嗟が、列をなして歩いている。
 怨霊たちは荒れ野をあてどなく彷徨っていた。大きく無惨な刀傷が残る体をひっさげて。
 己の死の理由を、誰かに訴えるように。
 ゼフィラはほんの少し目を細めた。
「だがまあ、それでも、下らないと彼らの声を無視するほど馬鹿ではないつもりだ」
「身を焦がす程の怨みを抱えたまま永久に彷徨い続けるのは、見ていてとても哀れなものよ。せめてその無念、拙者が一刀の元に全て祓ってしんぜよう」
 『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)がゼフィラの前に歩み出る。彼女が怨霊らを見据えたまま二振りの忍刀――虚式『風雅』を抜くと、『傍らへ共に』天之空・ミーナ(p3p005003)もまた咲耶の隣に進み出た。
「そりゃあ奴隷にされた挙げ句気まぐれで殺されちゃあ成仏できねぇわな」
 小柄なミーナが、群れ動く怨霊たちの行進を見やる。
 ひどく無気力なその眼差しは、しかし白刃のように鋭い。
「……安心しな、私が一人残らずきっちり冥土に送ってやるよ」


「さあ来いよ。この死神の首取れるもんなら取ってみな!!」
 闇に紛れてうろつく怨霊たちの中に飛びこんで、ミーナが大きく声を発した。堂々たる自信に満ちた声に霊たちの首がぐるりと向けられる。
『殺す……殺シテやる!!』
『オ前を……お前ヲォ……!』
 怨霊が一人、二人とミーナへと走る。抑えようのない殺意のままに掴みかかる一人をかわしたミーナだったが、次いで飛びかかってきた怨霊に腕を掴まれた。
 手が握りこまれる。骨まで圧潰するような力。
 けれどミーナは顔色ひとつ変えはしない。
「そんなもんか?」
『ヴ……オオオオオオ!!』
 鼻を鳴らすミーナの挑発につられて、周囲の怨霊たちが集まる。
 そうして敵群は二分された。ミーナを狙って一塊になる怨霊たちと、誘引されずに辺りを徘徊する怨霊たちとに。
 ルル家としにゃこがすかさず、後者に狙いを当てる。
「ミーナ殿がひきつけてくれているうちに!」
「しにゃたちは周りの怨霊をやっちゃいますよ!」
 遠距離から二人がばらまく弾幕が、彷徨する怨霊たちの体を撃つ。数ヶ所もの孔をあけられた怨霊はうめき声をあげてよろめいた。しかし蜂の巣になるのも束の間、体の孔はまるで粘土細工のように瞬く間に塞がれてしまう。
 その光景をピンクの傘――傘型のライフルに括りつけたライトで照らして、しにゃこは困ったようにルル家を見た。
「……ちゃんとこの怨霊、銃弾効きますよね? お化け相手にするって初めてで……」
「大丈夫、効いているはずです!」
「で、ですね!」
 間髪入れず追撃の弾雨で怨霊たちを削るルル家に倣って、銃口を構えるしにゃこ。
 だが彼女が引き金を引く前に、どこかから歌声が漂ってきた。
『許さヌ……!』
『死ネ、死ネェェ……!!』
 歌に魅入られた怨霊が、近くの別の怨霊に襲いかかる。同胞の体を乱暴に掴みよせた怨霊は、抵抗する相手に振り回されながらも喰らいついて離れない。
 まるで獣だ。
 生前の、人が持つべき理性など欠片もありはしない。
 それを見たセレマは――冷たい歌声でもって怨霊を狂わせたセレマは、あからさまなため息をついた。
「ああ、まったく本意ではないよ。美少年が担うべきじゃない、こんな仕事は」
「誰が負うべき仕事でもないよ、こんなのは」
 苦々しく表情を歪ませた誠司が、怨霊たちへ向けて撃ちまくる。広く敵群の足元に着弾した射撃は地面を砕き、土と草がまるで飛沫のように飛び散ってゆく。
 弾の雨が怨霊たちの脚を喰らう。孔だらけになった脚はすぐに復元したが、その間にバランスを崩した怨霊たちは次々に前のめりに転倒した。
 だが弾幕はすべての敵を捉えてはいない。
「牽制は十分……でも数が多いな!」
 怨霊たちの様子を目で捉えたまま、誠司が仲間へ声をあげる。倒れた怨霊を踏みつけて後続の怨霊がイレギュラーズのほうへ駆けてきていた。
『ヴぁああアアああッ!!』
 おぞましい声を放つ怨霊。
 喉から内臓まで焼けただれたかのような痛々しい声。
 ――その怨嗟の声を切り裂いて、天十里のリボルバーが火を噴いた。一直線に飛んだ弾丸は的確に怨霊の頭を撃ちぬき、のけ反らせて仰向けに倒れさせる。
「悪いけど、きみらの好きにさせるわけにはいかないんだよね」
 その場の怨霊たちを見渡しながら、天十里がリボルバーの撃鉄を引き起こす。
 誠司に転倒させられた怨霊たちはむくりと起き上がっていた。刀傷以外は綺麗な体で、こちらへ近づいてくる。ミーナを押し囲んでいる連中以外は全員、天十里や仲間たちをしっかり敵として認識したようだ。
『殺ス……すべテ……!』
『ヤオヨロズも……お前タチも!』
「これはよっぽど恨みが強そうだね」
「そのようだ」
 呻きつづける怨霊に肩を竦める天十里の横で、ゼフィラが人差し指を立てる。しなやかな指に己の精神力を凝集させると、彼女はほのかな光を宿した指を怨霊へ差し向けた。
 さながら、銃口を突きつけるように。
「せめて、彼らが同族を害してしまう前に止めてやろうじゃないか」
 ゼフィラの指から力が奔る。
 銃弾のように飛ぶそれは宙を突き抜け、怨霊の胸部を穿った。
『ヴォオオ……!』
 撃ち抜かれた胸を手で覆って、怨霊がぐらりと傾ぐ。
 そこへ、風のごとく素早い影が走りこんだ。
「お主達に怨みは無いがせめて苦しまぬ様にあの世へ送ってくれよう!」
 その手に携えた二振りの忍刀を、咲耶が振るう。
 腕を伸ばして突き出される切っ先。怨霊はかわそうと横へ動いた。
 ――が、その瞬間に切っ先が視界から消える。そしてそう認識した時には、咲耶の忍刀の剣閃が怨霊の首を半ばまで切り裂いていた。
『グァアアアアア!!』
「先に、逝くがいいでござる」
 断末魔をあげた怨霊の背後に回った咲耶が、もう一振りの忍刀を逆手に持ち替え、首に突き立てる。時間にして一秒もかからぬ早業だった。
『ォォオオ…………』
 力尽きた怨霊が崩れ落ち、荒れ野の闇に霧散する。
 わずか瞑目して安寧を祈る咲耶。だがそこかしこに聞こえる怨念の声を聞いて、彼女は再び忍刀を握りなおした。
「次は、お主達の番でござるよ」


 荒れ野に響きつづけるのは、銃火、風を切る刃。
 そして怨みの声だった。
『ウヴォオオオオ……!!』
 獣のように喉を鳴らし、怨霊が害意を飛ばす。
 形はない。だが見えぬ害意は音波兵器のように中空を渡り、後方から聖なる音色でもって仲間たちを癒やしていたゼフィラの精神をかき乱した。
 同時に、その怨嗟の源たる絶望と怒りも、わずかにゼフィラに伝播する。
 彼女は表情を変えなかった。死んだ鬼人たちの心を垣間見ようとも、そこに寄り添うことはない。あくまで彼女は探究者だから。
 けれど。
「君の痛みを理解できるとは言わないが……まあ、この痛みは覚えておくよ」
 そう告げて、ゼフィラは再び戦場に福音をもたらす。奏でる音色は夜天に散って降りそそぎ、イレギュラーズの傷を癒やした。
 戦況は悪くなかった。強烈な怨念に突き動かされる敵の攻撃は手強いが持ちこたえてはいる。その間に着実に怨霊を倒して、イレギュラーズは優位を築いていた。
『邪魔を……邪魔ヲスルな…………!』
「残念ですけど、しにゃたちもお仕事なんですよ!」
 ピンク傘から弾をぶっ放すしにゃこ。
 近づこうとしてくる怨霊を蹴散らして、なおも銃弾をばらまき続ける。
 ――と、唐突に戦場一帯に響くような雷鳴が轟いた。
 びくんと肩を揺らしたしにゃこが何事かと音の方向を見ると、バチバチと雷を帯びた得物を担ぐように振り上げるミーナの姿があった。足元には黒焦げになった怨霊が無惨に倒れている。
「とりあえず一体減ったな」
『殺ス……! 殺すッ……!』
「私を殺したいなら、もっと全力でかかってきな」
 四体の怨霊に囲まれながら、挑発ぎみに笑うミーナ。誰より怨霊たちの害意に晒されながらも二本の脚で立っている頑強な女に、しにゃこは舌を巻いた。
「やべーですねミーナさん、可愛い面して怨霊に囲まれても平気な顔してます。しにゃ的にはちょっと近づきたくな――」
『ヴォオオオオオ!!』
「って、こっちに来ました!?」
「危ない、しにゃこちゃん!」
 ミーナを眺めていたしにゃこへ、忍び寄っていた怨霊が仕掛けてきた。だがそこへ横合いから天十里が猛烈な勢いで飛んでくる。目にも止まらぬ豪速の体当たりをかました天十里はそのまま零距離から銃撃を撃ちこんだ。
 あっという間の連撃をくらった怨霊が、地に膝をつく。
『ウゥゥ……!』
「大丈夫だった?」
「いやーありがとうございます、天十里さん!」
「抜けてきた敵は僕がカバーするから、みんなは怨霊たちを撃つことに専念してね!」
 てへへと後頭部を撫でるしにゃこから視線を切って、天十里が仲間たちへ声を飛ばす。あちらこちらと動いて戦況のバランスを取っている彼の体には負傷が少なくない。
「あまり時間をかけるわけにもいかないかな……」
 遠く狙いをつけた敵群へ弾幕をお見舞いする誠司。緩慢に動いていた怨霊たちへ銃撃はことごとく命中して、低い叫びが連続して聞こえてくる。
 けれど、彼らは体勢を崩しながらも倒れない。
 体が傾くのを踏みとどまり、顔を上げる。その虚ろな目は何を捉えているかも判然としなくて、その口はうわごとのような殺意を零し続けている。
 誠司は唇を引き結んだ。哀れなる復讐鬼たちの姿に。
「……なあ、僕の声が聞こえているか?」
『オォォ……』
『どウして生キテイル……許セナい……!』
「ダメか……せめて名前だけでも覚えてやれたら、と思ったんだけどな……」
 声には反応すれど言葉が届かない。やるせない気持ちに誠司は顔を伏せた。
 だが、そこへ――。
「聞け。ボク達はキミたちを止めなければならない。キミたちの無念を直接晴らさせることはできない」
 いつの間にか、セレマが来ていた。
 霊魂疎通――そのスキルによって怨霊との会話を図っていた。
「が、しかしだ。ボクはキミたちの亡骸を故郷に送り返すことはできる。遺された者達を便りがない不安から解放することはできる」
『故郷……』
 怨霊たちの口から、ぽろりと声が零れる。
 掴みかけた糸を離さぬよう、セレマはさらに彼らへ近づいた。
「だから契約しよう。ボクはキミたちを故郷に送り届ける。寄る辺なき者には然るべき弔いを行う。見返りとしてキミたちはこの国と、キミたちを殺したヤオヨロズについて教えろ。気が向いたら復讐の代行でもしておいてやる」
『ヤオよロズ……』
『やオヨロず…………』
 怨霊たちが、繰り返す。
 次の瞬間だった。
『ころ……ス……!』
『殺す殺ス……殺シテヤるッ!!』
「……やれやれだ」
 再燃した殺意で発狂する霊たちに肩を竦めるセレマ。糸は切れたと理解した美少年は払う手で魔力を放ち、眼前に飛びこまんとしてきた敵を弾き飛ばす。
 そして後退するセレマと入れ替わりに、ルル家が颯爽と飛びこんできた。
「ご無念お察し致します。ですが今を生きる鬼人殿の為にお眠り下さい!」
 握りこんだ拳が、太陽のごとく熱く輝く。
 夜闇さえも消し飛ばしそうな光。ルル家が拳を突き出すとその閃光は一直線に怨霊の体に着弾し、大地を揺るがさんばかりの大爆発を引き起こした。
『ヴォアアアアアッ!!』
「これで終わりでは……ありませんよ!!」
 爆炎に呑まれる怨霊へ向けて、再びルル家の拳が煌めく。
 猛烈な二連撃。撃ちこまれた灼熱が爆炎の中に突っこんだが終わり、荒れ野に巨塔と見紛わんばかりの火柱が立ち昇った。あまりの熱波にイレギュラーズも顔を背ける。
 怨霊たちも圧倒的な爆発に挙動を止める。
 その刹那、狼のように速く、咲耶が戦場を駆けた。
「そろそろ終わらせてもらうでござるよ」
『ヴォオ……オ……ッ』
 ルル家の荒業『超新星爆発』に怯んでいた怨霊の首を、咲耶の忍刀が刈り取る。霊ゆえに一滴の血も噴かなかったが、その一刀たるや復讐鬼の彷徨を終わらせるには十分だ。
 分離した頭がフッと消え、次いで胴から下も煙のように消えてゆく。
 ただ憎悪に身を焦がし、現世を彷徨った鬼人の本当の最期。
 咲耶は未だ残る怨霊たちへ忍刀を構えながら、しかし深い息をついていた。
「拙者忍び故に暗い仕事は幾度も受けてきた身でござるが、この国の病巣も中々深い物がござる。これは早い所、何か探りが必要かもしれぬな」


 空が白みはじめていた。
 石で仕立てた簡素な墓標から影が伸びているのを見て、誠司はようやく夜が明けていることに気づいた。
「今の僕は弱っちいから、こんなことしかしてやれない。だけどもし……もっと大きなことをできるようになったなら、その時はもう少し、ましなものを建ててあげるからね」
 墓標へ正対して手を合わせる誠司。
 その墓標の左右には同じような質素な墓が並んでいる。そこに彼らの名を刻んでやれないことを謝りながら、誠司はじっと祈りを手向けた。
 怨霊たちをすべて倒したイレギュラーズは、その足で鬼人たちの亡骸を探し当てていた。更地の中に一箇所だけ土の色が違うところがあるのを咲耶とルル家が見つけ出した。
「南無阿弥陀仏、簡素なものですまぬがどうかお主等に御仏の慈悲があります様に」
「必ずこのカムイグラを鬼人殿らが差別されぬ国と致しましょう」
 墓標に語りかける咲耶の隣で、ルル家が握った拳を胸に添える。
 その横では、しにゃこがその辺で摘んできた花をそっと供えていた。
「ナムナム! 来世ではお幸せに! いつかあなたたちの恨みの元を断つ依頼が舞いこんできたなら、しにゃが上手いことやっときますね!」
「そのときは僕も力を尽くさせてもらうよ。だから、安らかに眠ってね」
 献花された墓標に合掌する天十里。
 ゼフィラは一歩離れた所から、並ぶ墓標群を見ていた。やはり誠司が言うように貧相であることは否めないだろう。調べておいた風習に則ってはいるが、この国に生きていた鬼人たちが安らげるものではないかもしれない。
 しかし――と、ゼフィラは墓標に歩み寄る。
「少なくとも、君たちが原因で同族が虐げられることはなくなった。それだけは安心して眠ってほしい」
「死神たる私が赦す。お前達に罪はない」
 ぽつり、と聞こえてきたのは、端の墓標にそっと手を添えるミーナの呟きだ。
「……だから、ゆっくり眠りな。全て終わったら、この世界から出れるようになったら、私がきちんと冥土へ連れてってやる」
「死神のお墨付きなら、彼らも安心だろう」
 くすりと笑うゼフィラ。彼女を無言で一瞥したミーナはさっと踵を返した。
 そして、現在座標を書き留める。
 また来れるように。
 いつかカムイグラという国が変わった、そのときに。
「その記録、ボクにも貰えないかな」
「……いいぜ、別に」
 目を合わせず、そっけなく頼んできたセレマに応じるミーナ。
 墓の位置が記された地図を受け取ると、セレマはそれを懐に仕舞った。
「亡骸を故郷に帰すと、言ってしまったからね」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼へのご参加、ありがとうございました。
 亡き鬼人たちの鎮魂は、おそらく成ったことでしょう。

 皆さん、お疲れさまでした。

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