PandoraPartyProject

シナリオ詳細

今宵は月のねぇ素敵な夜で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鵲の橋を渡るべからず
 ざあざあ、と雨が降っている。
 丑三つ刻。
 二人の男女が手を取り合って、鵲ノ橋(かささぎのはし)を渡っていく。
「ここを抜けたら高天京の外。もはや京の守りは得られませぬ。分かっております……覚悟の上です」
「大丈夫、私がついているから……」
 それは、精霊種(ヤオヨロズ)同士の駆け落ちだった。
 身分違いの、許されぬ恋。恋に身を焦がす二人は、京を出て過ごすことを選んだ。
 たとえ、それがどれだけ無謀だとは分かっていても……。
 不意に、
「御免なすってぇ、道行くお二人」
 くらやみの中。頭上から不気味な声が聞こえてきた。
 橋の上か。欄干に立っているのだろうか?
「何者だ!」
 男が、答える。
 間。
 沈黙があった。それから……。
 ヒュン、と音がした。
 どさりと、男が倒れる。
 持っていた手燭がかき消える。
 そうすれば、あたりはとっぷりとして暗闇になる。
 呆然としていた女が、悲鳴を上げる。
「い、いやああああああ!」
 再び、音がした。
 女が倒れる。
 完璧な暗闇の中であるにしては、正確無比な狙い。
 なにかでの鋭利な一撃は、女の首を落とした。
「あっしは、お偉方には顧み見られることのない下賎の民なれば。名乗る名前の一つもなければ、仲睦まじき男女を見逃す、誇りなんてもんもねぇわけで。
京の外へ行く精霊種(ヤオヨロズ)とは珍しい。おやまあずいぶん上等な着物ですこと。ひひ……いただいていきやしょうかね」
 人斬りが剥ぎ取りを終えると、待ち構えていたとばかりにその場に漂う怨霊が、死体を食らった。

●冤罪事件
「俺じゃない! 俺じゃないんだ!
 確かに俺は鬼人である。近くの屋敷の警備にもあたっていた!
 だが俺じゃない!
 本当に俺じゃないんだ!」

 人斬りの罪を着せられ、極刑を言い渡されている、鬼人種(ゼノポルタ)の男、ゴズ。
 巨大な体躯を持ち、事件現場の近くで警備をしていた彼は、運悪く無実の罪を着せられていた。
「人斬りがようやく捕まったのですね」
「おお、なんと恐ろしい。まさしく『獄人』にふさわしいもの」
 所詮、この世界は精霊種(ヤオヨロズ)たちのもの。鬼人種(ゼノポルタ)である彼の言うことに、真剣に耳を傾ける者はいない。
 詮議が開かれることとなったが、極刑となるのは間違いがなかった。
「お待ちください。彼も長く仕えてくれました。申し開きがあれば、聞こうではありませんか。石打か打ち首か、そのくらいは選べても良いでしょうに。……何が望みですか?」
「神使を!」
 焦った鬼人の口から、とっさにどうして彼らの名前が出たのかわからない。特異な来訪者である彼らの活躍はまだ聞こえてこない。
 ただ、このままではまずいとは分かっていた。だからだろうか?
「彼らを、呼んでくれ! 俺はやってない!」

●人斬り男の独白
 はい、その通りで。
 俺ァ、精霊種として生まれやした。
 世間様からは、恵まれていると思うんでしょうか?
 ええ、きっと、思わないでしょうや。
 ”こう”はなりたくねぇでしょう?
 うまれたときから”こう”でした。
 だからこそ。
 ”こう”して生きていくしかなかったんでさぁ。

GMコメント

新天地へようこそ!
布川です。
人斬りの殺人鬼の討伐依頼です。
ちょっぴり秘匿有り系シナリオですが、それほどひねりはありません。
まあ、目的は手品の種を明かすことではありません。
力業でもなんとかなるんじゃないかな!

●目標
人斬りの討伐。

●人斬り
・男?
・高価なものが持ち去られていることから、物取り目当ての犯行のようだ。
・丑三つ時に現れることが多い。
 視界の悪い月のない夜を好むようだ。
・武器<???>
・鵲ノ橋(かささぎのはし)を狩り場にしている。
この場所は妖怪が出るとして精霊種(ヤオヨロズ)たちには忌避されているため、どちらかといえば出入りする鬼人種(ゼノポルタ)が被害に遭っている。
・鬼人種(ゼノポルタ)相手の被害では、あまり真剣に捜査してくれていないという背景がある。
・倫理観はないようだ。

また、弱い妖怪である鬼火4体ほどがハイエナのように漂い、犠牲者をまっているようだ。
協力関係にあるわけではなく、たまたま有利な人斬りは襲われていないだけである。

夜中に注意深く誘い出せば、戦闘になる。
彼は生まれつき、ある特徴を持っている。
凶器は不明。
・<特徴>、
・武器<???>
を見抜けば、戦闘で有利になるし、不意打ちもうけないことだろう。
別に見抜かなくても襲ってくるため、力押しで倒せる。

●疑われている容疑者、鬼人ゴズの証言
PL情報。面会して、信頼を得れれば話を聞ける
大柄な割に気の弱い鬼。仕事ぶりは真面目で誠実。
・たまたま薙刀を持って近くの屋敷の倉庫を警備していた
・夜中に、僅かに、鈴の音が聞こえた気がする
→たまに鈴の音が聞こえる気がするが、夜は危険なので出歩いていない。

●その他の生存者
・ごくまれに生存者が存在する。声を殺し、じっとしていて動かなかった場合は助かることもあるようだ。
生き残りの子供の中に、「夢だと思っていた。何か、きらりと光る一本の線を見た」と証言するものがいる。

●謎
一応、政府は人斬り事件を把握していて、検問をやっていた。
橋の少し手前の町で検問をしている。
被害者の駆け落ちした恋人たちは武器も持っていなかったようである。
身分については金を握らせてなんとかしたようだが、それ以外には事件の日は女子供、物乞い、身分のはっきりした使用人や商人などしか通っていなかったし、彼らは武器らしき武器も持っていなかった。
(ので、容疑者が怪しいと言われている)

●被害者の状況
老若男女、鋭い”なにか”で体を切断されている。
把握されている被害者は12名ほど。
特に身分の低いものは、被害者が行方不明で処理されている場合もあり、実際はもっと多いようだ。

●その他
・検問は一応は有効に働いており、人斬りが使っている武器は刃物ではないようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不測の事態が起きる可能性そのものは低めですが、情報精度は低めで、伏せられている情報があります。

  • 今宵は月のねぇ素敵な夜で完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月10日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)
星飾り

リプレイ

●回る回るは風車
「カムイグラ、こうして街を歩いてみると豊かな土地柄だとわかりますわねー」
 メリルナートは目を閉じ、異国の喧噪に耳を傾ける。
「とはいえ人がいる以上、諸々の問題もあるようですがー」
 風車をかざして遊ぶ童女が、往来を歩く精霊種との男とぶつかった。
 怒鳴りかけた男は、『聖断刃』ハロルド(p3p004465)がにらみを利かせると、腰を抜かしてすごすご去る。
「腰抜けか」
 斬りあうというのなら、それもいいと思ったのだが。
「大丈夫か? ……種による差別はあまりいい気はしないものだ。どれ」
『魔剣鍛冶師』天目 (p3p008364)は屈み、壊れた風車を直してやった。
 息を吹くと、元通りにからからと回る。
「ありがとう」
「頼られたからには応えないとな、それが職人の粋ってモノだろう」

 ひとつ通りを逸れれば、脇に避けられた死体がある。
「人斬りですか。物を取るのが目的なら何も殺さなくとも良いとは思うのですが……殺すことを楽しんでしまっているのでしょうか?」
『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)はそっと死体に手を合わせる。
 この国にはびこる魔種を思い、ハロルドの手に力がこもった。
 その先にある死闘はいかばかりのものか。
「刑部省は何してんすか。ねえ汚職? ねえ汚職?」
 ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)の声はよく響き渡っていた。
 役人が、わなわなと震えて顔を赤くする。
「元とはいえナナオウギに所属してたなんて恥ずかしくて言えなーい!!」
 権力の匂いを感じ取ると慌てて居住まいを正すのだから。
 ただ、居合わせたもう一人の役人は沈痛な面持ちをしている。
 この国の、全てが腐っているわけではない。

●鬼か、それとも妖か、天女の類いだろうか
 呼ぶ声に、ゴズはぼんやり顔を上げた。
 輪郭のつかめないような影。『闇之雲』武器商人(p3p001107)がそこにいた。
「ほら、まずは我(アタシ)の眼をごらん」
 男、女?
 わからない。
 求められるままに視線をあげる。長く伸びた前髪から、紫の瞳が覗く。
「可愛い鬼のコ、キミは無実だから我(アタシ)たちを呼んだ、そうだろう?」
 つられて後ろを見やる。錬が握手に、手を差し伸べる。
「よく俺らを呼んでくれた。お前さんのその機転が犯人を追い詰めるだろう。ローレット……神使に依頼事は任せてくれ」
「あ……」
「大丈夫、我たちはキミの力になりたいんだ。だからキミの話を聞かせておくれ?」
 気がつけば、緊張で乾いた口から、ぽろぽろと言葉がこぼれている。
「私は私にできる限りのことをいたしましょう」
 沙月の声は、静かな真剣さを帯びていた。顔に出ずとも、胸中でこちらの身を案じている事を察した。
「信じてくれる、のか?」
「ええ。……無事に解決して、罪なき人々が襲われることのないようにせねばなりませんからね」
「そもそもの問題、他に下手人が現れたらちゃんと釈放されるのかしら?」
 挑発するように首をかしげるシャルロット。やれるならやってみろ、というのが役人の返事である。
 言質は取った。
「そう」
 シャルロットは美しい唇を弧に引き結んで、妖艶に嗤う。
「約束よ」
「で、遺留品ってのはどこにあるんだべか?」
「我々がもう改めた」
「どこに、って聞いてんですよ、ねぇ?」
 ラグラは、まるでトンボでもとるかのように指先をぐるりと回す。魔眼に化かされ、一瞬惚けた役人は、ふらふらと部屋の隅をさした。
 当然静止しようと思った。
 しかし「ありがとうございますー」とメリルナートが手にしていたのだった。
「確たる証拠はございませんわー。今暫くのお待ちをー」
 血の付いた帯に触れ、メリルナートは静かに歌う。
 追憶のアリエッタ。
 見えたのは、恋人たちの最後の瞬間。
 暗闇からの奇襲。
 一本の線。
……それは、ゴズの仕業ではない。
(……苦しくは、なさそうですわねー)
 せめて、それが救いだろうか。

「こんなところで、話聞いてもらって……」
「こう言ってはなんだけど、ここを見て回るのも楽しいよ。さすがに武器がたくさんあって……魔を払う音というと梓弓だが、こちらにはあるのかね? ……と、こんなものか?」
 武器談義に花を咲かせながら、錬は瞬く間にいくつも鈴を作り上げていた。
「うーん、もっと音は高かったような」
「こうか?」
 鈴の舌を調整すると、鈴は涼やかな音色を奏でる。
「おお、そっくりだ!」
「ふむ、これをこうして……」
 錬が手を加えると、鈴の音は数倍にも大きくなった。ゴズは目を白黒させるばかりである。
「けど、どうして?」
「これが鍵となるかもしれない」

●鈴は導く
「す、ず」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は言葉の形状を確かめるように口にして、うんうんと頷いた。
 気になったのは、鈴の音だ。
「や、あそこのあんみつうめぇです」
 あんみつをほおばるラグラ。
「商店の主人に聞きました。やはり、同じ音を聞いた者がいると」
 聞き込みをする沙月に、店の主人と常連客は快く答えてくれた。
「生存者が聞いていたみたいね」
 イナリの言葉に、ハロルドは頷いた。
「生存者が助かった理由は要するに「音を立てなかったから」だろうな」
 下手人は、おそらく目が悪いのだろう。
 ならば、音は目印か。
「鈴の音。盲目の人間が白杖に鈴を付けて歩くという話を聞いたことがある」
「しかし、鈴鳴りを頼りにしているとしたらWhen、Whereだべか。橋、昼でも人が通りますからねえ……襲う時になって仕掛けるのかもしれまへんな」
 ラグラは顎に手をやった。

 沙月が気になる情報を得た。
「ああそう、そういえば前に急に上等な着物を持ってきたよね、あんた」
「あ、いや、あれはもらいもんでさ……ほらあそこの物乞いで」
 ふいに、男が歩いていく。
 かすかに血のにおいが混じっている、盲目の男。
 それだけで断定できないが、もしや。
 イナリは子狐に化け、後を追いかけていく。
 次第に人通りの少ない場所になっていく。
 男は不意に振り返った。
「? おや、獣ですかい?」
 呼ぶ声に、イナリは後ずさり、威嚇をする。
 男の手には、子供用の……あきらかに彼のものではない持ち物。
 盗品であるのだろう。あるいは、遺品なのか。
 彼もまた必死に搾取し、また、搾取されるものか。
(生きるための人殺し、私はそれを否定はしないわ。それしか道が無いのなら、そこを進むしかないものね……)
 でも、同情しないわよ?
 小さく鳴いた狐の声。
 はてさて、狐が何か言いたげだった気がして、男は首をひねった。
(次に会うときには、貴方の凶行を止めさせてもらうわ!)

●夜はくらやみ
 夜の橋。

 ラグラがくわっと目を見開いた。
 視える。
 初期値成功?
 いや、常人のそれよりも恐ろしく鋭く闇を見通すラグラの目は見逃さない。
 橋に渡された、一本の線。それはおそらく、鋼線。
 緩んで仕掛けてあるそれは、おそらく逃げるときにでも行く手を阻むのであろう。
 シャルロットは鋭く空を飛び、欄干に身をひそめる。
 暗闇を棲み処とするのは吸血鬼も同じ。そして、シャルロットの方が上だった。闇に潜み、訪れるものを狙う。

 ハロルドの聖剣リーゼロットが、暗闇の中、仲間を結界のうちに押しとどめる。
 二人を除いて。

 ちりん、ちりん。
 軽やかな鈴の音。
 武器商人とイナリが、仲睦まじく寄り添って橋を歩いていく。
「ああ、そこ、気を付けて」
 低い声。
「ふふ、ありがとう」
 髪をかきあげるように、武器商人は頸をさらす。
 鈴の音が転がって、止まる。
 なんだろう、と拾う気配を見せれば、不気味な気配は不意に近づいてきて……。

 武器商人は、弾いた。

 人斬りは困惑する。
 今の一撃で、首が落ちていたはずだった。
「雲の美しい夜だね? こんな日はキミの懐もさぞや暖まっただろうに、我(アタシ)みたいなのに遭うとは不運だね」
 武器商人は悠々と、そこに立っている。
「きさんのタネも仕掛けもお見通しであります!」
 ラグラが嗤う。
 見えていた。不格好に獲物を襲い、一撃が決まらなかったことに唖然としている人斬りの姿。
「どちらさ、」
 返事よりも、ハロルドの斬撃が早かった。
「御託は良い。テメェの事情なんざ知らん。おら、さっさと殺し合おうぜ!」

「来る!」
 錬が鋭く警告する。
 軌道は不可解なものではない。不意打ちはもう用をなさない。
 男は盲人、武器は鋼線。
 イレギュラーズたちの予想は当たっていた。
 パルティシオン=エグゾセが羽衣のように流れる。
 天女かと思えるほどの優雅な仕草で、ふわりとその場に降り立ったのはメリルナート。
「……」
 人斬りは、暗がりに身を潜める。だが、メリルナートは男を追っていた。その証拠に声ははっきりと男を向いて発せられている。
「わたくしも少々、耳には自信がありましてー」
 隼人明星が男を照らす。
 オールハンデッドの号令だ。

 きいん。

 暗闇を走る糸は、武器商人によってはじかれた。流れるように赤丹が走る。超高速で敵を血に染める邪剣、の見よう見まね。
 ああ、しまった、こうじゃない、とリズムを構え直すような。
 似ている。人を斬る剣。だが、武器商人は、囚われていない。清濁併せて飲み干して、それでいて悠々とたゆたうような、影。
「どうにも人斬りには縁があってね、今使っている技術も人斬りに文字通り八つ裂きにされて覚えたんだが、キミの糸もずーっと「視て」いれば覚えられるかねぇ? ヒヒヒ」
 暗闇にのがれようとする、男に。
 すぐさま、沙月の三連の、芒に月がのぼる。
 殺人の剣。まっすぐに鍛えられた正統派の筋。美しい風切りの音が、びゅ、と首筋をかすめる。一歩前にいたら首が落ちていた。
 キン、キンと糸と斬撃が交わった。
 かすかな呼吸で、沙月にはわかる。
(ああ、楽しんでいらっしゃるのですね)
 人斬りは耳を澄ませる。
 それが、彼の目だ。
 だが、沙月には、予備動作がまるでないのだ。
 繰り出される一撃が深く腹をえぐった。
「狩られる側になった気分を教えて差し上げましょう」
「いくぞ!」
 錬の、始まりの赤。式符から放たれた陽光の鑑が辺りを覆い尽くした。周りで様子をうかがっていた鬼火が、爆ぜる。じめった炎は、光線に打ち砕かれる。
 鮮やかに。鮮やかに。
(あぁ、気に入らないねぇ)
 陽の香り。それは何かを生み出す、神秘の炎。それに混じって……。
「うおー貫けジャスパー! 振りかぶって 投げる―!」
 流れ星が一閃。
 ヒュウ鬼火が打ち砕かれて暗闇に消えた。
(あぁ、軌道がふざけてやがるなぁ、読みにくい、くそっ)
 近くて遠い宙の向こう。読めない以上にぶっとんだ一撃。
「さて今からぶっ殺すわけだが。その前に盗んだものはどうしたんで? 早く吐かないと私の懐が寂しくなるので早く」
「……」
「ち、違うこれは人斬りが吐いた場所に落ちていただけでガメるわけでは決して、あ、あー」
 暗闇が増したのは、鬼火が消えたせいかとも思えた。
 イナリが構えた。
 贋作・天叢雲剣が一瞬、暗闇を飲み込むがごとく霧を出し……。
 爆炎が巻き起こる。
 天孫降臨・大黒天ノ怒。
 三者三様の炎。
 命を吹き込み、焼き直すような炎が。
 ふざけた流れ星が。
 怒りの炎が。
 辺りを照らしていく。
「逃れられるとでも?」
 そして、ハロルドの狂月が昇る。
(ああ、嫌いだ。光は……これだから)
 ハロルドの闘気が、見る間に燃え、薄く研がれる。宙空に大量に浮かび上がり、雨あられのように降り注ぐ。
 きいん。
 糸と聖剣リーゼロットが交わる。
 きいん、きいん。
 楽しい。
 愉しい。
 たのしい。
 どうしようもない感情。人間の根源的な闘争本能。
「この程度か!」
 ハロルドの声は弾んでいる。
 その影から、シャルロットの直死の一撃が襲った。

●音なき音
 旋律。
 美しい音。
 道征きのキャロルが、律動する。
 鼓動に合わせて足を運ぶメリルナート。
(気に食わねぇなァ)
 ひらり、氷水晶の戦旗が舞う。仲間を信じてまっすぐに、どこまでもまっすぐな音。
 痛みを知らず、苦労を知らない澄んだ音?
 いや、ならばここに立っているはずはない。
 手のひらに傷が走っても、旋律は淀まない。
 舞い踊る光刃が、仲間を癒す。
 聖罰の剣が、光を集める。
 赤く焼け、罪人を断ち切る「滅炎」。
 鋼の糸と、橋の欄干を、ぐにゃりといともたやすく断ち切った。炎に惹かれて爆ぜる鬼火は、もはや飛んで火に入る夏の虫同然だった。
「ははははっ! さぁ、こっからが本番だぜ!」
 人斬りは一歩下がる。
 そして自らの侵したミスに気がついた。
 リピートサウンド。
 ただの、”音”。
 武器商人の仕掛けた誘導だった。ひっかかった。構え直すが、遅かった。一瞬の隙。
 赤丹。人斬りの剣。一撃は浅く、確かめるようで、いや、それは試し斬りに近い。
 まだ続く。
「違ったね。こっちか」
 流れるような、二撃目。
 左手で受けた。もはや左手は役に立たない。鋼をくわえて踏み込むが、しなやかな沙月の攻撃に受け流された。
(ああ、なんだ、これの手応えは?)
 雪月花。それは徒手空拳の古流武術の心構え。流れるように、あるがままに。
 沙月には自分とは違うものが”みえて”いるのだろうか。
 考える暇もなく、流れるような。まるで武道の礼でもするかのように、美しい一連の所作から攻撃が繰り出される。
 無月。
「これは見えるかしら」
 シャルロットが言う。
 ああ、見えた。だが、防ぎようがないなら、どうしろというのか。
 シャルロットが繰り出した紅流を受け止め……受け止めたからどうとなるものでもない。そこにあったのは経験の差、格の差。磨き上げられた剣術。
 耳を澄ませる。
 鈴が導く。
 だが、またしても男の攻撃は外れた。
「ァ」
 鈴の音が、見当違いの方向から聞こえた。
「どういう、ことだ?」
「俺の作品だ、いい音だろう? わざわざ月のない日を選ぶ風情のない物取りの輩には勿体ないがな」
 錬の式神が持った鈴。方向を、視覚を狂わせる。
「あああ、うるせえっ…………」
 糸を振り上げる。逃げられない。逃げられない。人斬りは悟ったのだ。
 デタラメの一撃。
(見えているわ)
 イナリはひらりと飛び上がる。
 物理障壁が攻撃を緩めた。
 とっさの判断……イナリのその判断がどこから来たものか、イナリには分からなかった。
 天啓か、生きる意思か、才能か。防御反応?
 説明はいかようにもつくだろう。
 イナリには、冷静に戦いの推移が見えている。
 とにかく、たしかなのは、今、動けるということだ。
「おおっと、忘れちゃいやですねーい」
 ラグラの黒いキューブが、男を包む。
 空気が。行動が、長らく忘れていた痛みが人斬りの身をさいなむ。

●残滓
 漂っていた鬼火は、とうに消えていた。
 明かりはもうないはずなのに。
 やはり、目障りな月が。
 それが見たくなくてこの日を選んだはずなのに。
 まとわりつくのだ。
 武器商人の赤丹の軌道が、鋭く、ひと振るいごとに研ぎ澄まされていく。
 ハロルドは。
 ハロルドは、嗤っていた。
 そろそろ相手も限界だろう、人斬りがそう思っていたのは間違いだった。
 ハロルドの動きは、血を浴びるほどに苛烈さを増していく。
 一撃が重い。
 受け止められると踏んだ攻撃は、あっさりと糸ごと両断される。
 見誤ったというのか、動きを。音を。
 聖罰の剣。白熱する聖剣。業火があたりを、自分の顔を照らしているのだろう。
 強い光。光を得たことはないが、これほどのものなら存在はわかる。
 ただそこにあるのを感じる強固たる存在。
 負けた。
 負ける。
 ならば。
(道連れに)
 手を伸ばす。糸を張り巡らせる。一人でも多く傷つけようと。
「させるわけにはいかない」
 錬の式符・陽鏡が鋼を焼き払った。
「そう、させない」
 イナリの術式が、攻撃を和らげる。
「あと一踏ん張りですわー。治療は必要かしらー?」
 メリルナートの天使の歌が、仲間を癒やしていく。
 違う、こんな結末ではないはずだ。もっと。もっと地の底まで。
 びゅん。
 かすめる閃光。
「あいにく、それはナイナイ」
 ラグラのジャスパーが、男をおいていく。
「ァ」
「さようなら」
 猛攻の中。業火の舞う中。
 攻撃を受けながらも、音を立てずに息を潜め、沙月が、後ろに立っていた。
 一撃に、全神経を込めて、振り下ろす。
 血の、花が咲く。
 
●お天道様
 どさりと男の倒れる音。
 懐からか、鈴が転がっていった。
 橋から零れ落ちてゆく。

 あとには、川の流れる静かなせせらぎと、元の通りの静寂があった。

 イナリが、そっと男に手を合わせる。
「死んでしまえば、誰でも仏様だもの」
 男の死に様は安らかとは程遠い。だが、どこか満足そうだ。
「ここには、永久の夜はないわね」
 シャルロットは男を見下ろした。
 ハロルドは、立ち上がった。まだ、救わなければならない人物がいる。

●待ち人来りて
 男のねぐら。
「お邪魔しますわー」
 メリルナートは、そっと足を踏み入れた。人斬りのねぐらは、物乞いたちが集まる場所の隅にあった。すえたにおい。
「このへんか? んー、しけてんなァ」
 ラグラが目を付けたのは、擦り切れたござの下。
 ガラクタに混じって、僅かな金品が押し込まれていた。
「そこの、何をしている?」
「いやこれは証拠品でしてまあ用が済んだら半分くらいは……」

 ゴズは震えて、夜明けを待っていた。言い渡される評決は……死罪。それ以外にはあるまい。
「これにて大逆人の処断を言い渡す」
 それを断ち切るように、一閃。
「待たせた」
 聞き覚えのある声だった。
 ハロルドだ。
 彼はどさりと男の死体を下ろす。
「どうかな? これにて一件落着、かい? それともまだ足りないかな?」
 武器商人が首をかしげる。
「でしたら、こちらをどうぞー」
 メリルナートが取り出したのは、上等な着物の帯。金銀。
「それご覧あれ。こいつのねぐらからかっぱらってきたもんでしてねェ」
 辺りはどうしようもなくざわつき、混乱のさなか、詮議は中断されることとなった。

 当然のことながら、ゴズは解放されることとなった。
「謝罪の一つもナシってねぇ!? これだから刑部省はまーったく」
 ゴズは放心したように空を眺めていた。目じりには涙がにじんでいる。

成否

成功

MVP

武器商人(p3p001107)
闇之雲

状態異常

武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
ハロルド(p3p004465)[重傷]
ウィツィロの守護者

あとがき

秘匿系シナリオ、の、つもりでしたが、タネはあっさり見抜かれてしまいました。
ううう、ほんとうにお見事です。
みなさんがすごく真剣に読み取ってくださったのだと本当に嬉しく思います。
無実の鬼人も極刑をまぬかれたようで、これにてこの件は一件落着となりました。
気が向いたら異国の地でも、また冒険いたしましょうね!

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