PandoraPartyProject

シナリオ詳細

毒を持って。或いは、砂漠の大蛇と毒蠍。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●進め、砂漠の探索者
 砂漠の傭兵国家を拠点とする、とある商人からの依頼があった。
 その依頼内容とは砂漠に住む巨大な毒蛇〝ヴェノム〟の牙と、毒蠍〝セルケト〟の針の採取である。
 それぞれ、ヴェノムは10メートルほど、セルケトは5メートルほどの巨体を誇る。
 ヴェノムとセルケトは、砂漠地帯の主のような存在だ。
 また、配下の蛇や蠍を呼び出す能力を備えているという。
 そして、ヴェノムとセルケトの特徴として「同種の牙や針を喰らう」というものがあった。
 たとえば、ヴェノムの牙をへし折ったとして、放置していればヴェノム本体や配下の蛇たちがそれを喰らうのだ。
 その特性もあり、毒牙や毒針の採取は困難を極めた。
 それこそ、砂漠の傭兵たちの多くが商人の依頼を断ったほどだ。
 結果として、依頼はイレギュラーズたちへ回って来た……と、そういう経緯なのである。
「まぁ、砂漠は熱く歩きづらいですからな。日光と足場に対する対策と、水分の用意は必須でしょうな」
 顏を布で覆い隠した商人は、しゃがれた声でそう告げた。
 ヴェノムとセルケトが姿を現す時間帯は不明である。
 最悪の場合は、一昼夜砂漠を歩き回る必要も出てくるだろう。
 また、両者の縄張りは近接しているため、場合によっては蛇と蠍を同時に相手することもあるだろう。
「決して、毒牙と毒針を食われないよう注意してくだされよ?」
 あれは必ず要るのです、と。
 そう言って商人は、顏を覆う布を外した。
 そこにあったのはドス黒く変色し、石のように乾いた肌だ。
 罅割れた肌から、変色した血が滲んでいる。
「さもないと、解毒薬が作れないのです」
 と、そう告げて。
 商人は引き攣った笑みを浮かべた。

●いざ、砂塵の中へ
「好みじゃないのよ、砂漠のようなアースカラーは」
 と、そう言って『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は瞳を閉じて首を振る。
 なるほど確かに、熱く、そして日差しの強い乾いた砂漠を好んで歩きたがるような女性は少ないだろう。
 とはいえ、今回の任務の内容はプルー曰くの〝アースカラー〟を歩き回ることなのだが。
 おまけに、毒蛇と蠍の群れを相手に戦闘するというおまけつきだ。
「ヴェノムは【猛毒】【乱れ】を、セルケトは【猛毒】【暗闇】を付与するわ。まともに受けたら、顔色ブルーは確定ね」
 困ったことね、と。
 興味のなさそうな顔をしてプルーは告げた。
 それから、プルーは「思い出した」と言ってイレギュラーズへ視線を向ける。
「この時期、ヴェノムとセルケトは縄張り争いをしているそうよ。戦闘音、あるいは毒蛇や蠍を追っていけば見つかるかもしれないわ」
 その場合は、ヴェノムとセルケトを同時に相手取ることになるだろう。
 とはいえ、それは同時に蛇や蠍の集中攻撃を受ける確率が下がるということでもある。
 また、どちらか片方と交戦する場合でも時間経過によりもう片方が乱入してくることが予想される。
 縄張り争いをする2体にとって、イレギュラーズとの戦闘で弱っている状態は絶好のチャンスであるからだ。
「商人曰く、牙と針を確実に持ち帰れば構わない……とのことよ。つまり、必ずしもヴェノムやセルケトを倒す必要はないということ」
 さっさと部位を破壊して、牙と針を持ち帰る。
 依頼達成にはそれが最も確実だろうか。
 もっとも、ヴェノムやセルケトがすんなりと逃がしてくれるとは限らない。
 そして……。
「継続して体力が失われるのはきついわよね。可能なら、毒への対策を忘れないように」
 と、そう言って。
 プルーは仲間たちを送り出す。

GMコメント

●ターゲット
ヴェノム(巨大毒蛇)×1
全長10メートルを超える大蛇。
その皮膚は乾いた毒液に覆われており、防御力が高め。
毒の牙による攻撃や、長い身体を使った薙ぎ払いには注意が必要。

・ヴェノムバイト:物近単に中ダメージ、猛毒、乱れ

セルケト(巨大蠍)×1
体長5メートルを超える大蠍。
砂の中に潜る能力を持つこともあり、回避能力に優れている。
尻尾の毒針や、ハサミによる攻撃は切れ味が鋭く速度がある。

・ポイズンショック:魔遠貫に中ダメージ、猛毒、暗闇


毒蛇&毒蠍×多数
ヴェノムやセルケトの配下である毒蛇や毒蠍。
単体では大した脅威ではないが、5体以上に同時に攻撃を受けると【毒】状態が付与される。
また、力尽きた同種の牙や針を喰らい毒を補充する性質を持つ。

●場所
砂漠の真ん中。
周辺はヴェノムとセルケトに支配されており、蠍と蛇が多数生息している。
また、両者の縄張りは隣接しているため頻繁に縄張り争いをしている。
とくにこの時期は縄張り争いが顕著。
日差しが強く、足場が悪い。
対策が不足していると、命中率や回避率が低下する。

  • 毒を持って。或いは、砂漠の大蛇と毒蠍。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
銀城 黒羽(p3p000505)
七鳥・天十里(p3p001668)
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ

●砂漠の大蛇と大蠍
 燦々と降る太陽光。
 けれど直に、それは西へと沈むだろう。砂漠を進む8名の男女。先頭を進むのは『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
 馬の下半身でしっかと砂地を踏みしめながら、地図を片手に迷いなく砂漠を進んでいく。
 彼女はこの砂漠を有する国の出身だ。目印のない砂漠を進み、目的地に辿り着くためには、彼女のように〝砂漠の歩き方〟を知っている者が必要だ。
「知り合いに聞いた話では、件の毒蛇や毒蠍はこの先によく現れるらしい。それにしても、毒か……同郷の身としてはいつ同じ目に遭うかも分からない。確実に手に入れて帰ろう」
 ラダの背……下半身の馬部分の背だ……には水の詰まった革袋が載せられていた。砂漠を踏破する能力の高い彼女は、仲間たちの荷も一部預かっているのである。
「巨大毒蛇ヴェノムの牙と、毒蠍セルケトの針、ね。確かにラサで噂にはなっていたけれど
それほどまでに難しいのね、彼らの牙と針の回収は」
ラダに並び先を進む『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)もまた、砂漠の国・ラサを拠点とするものだ。
Erstineは、顏をしかめて腰に下げた革袋へと手を伸ばす。その手には、血の滲む包帯が巻かれていた。先だって負った傷が、まだ癒えきっていないのだ。
 傷の痛みと熱が、彼女の体力を容赦なく奪う。
 否、彼女の本性は吸血鬼だ。夜を生きる種族である故、日光の下で活動するのはさほど得意ではないのかもしれない。

 西の空が朱に染まる。
 もうじき夜が訪れる。
「この辺りで待機した方が良さそうだ。四方から、無数の生物がこの先に集まり始めている」
仲間たちに向け、は『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)そう言葉を投げた。
 愛無の服装は普段のフォーマルなものから一転。日差し避けの外套や、砂漠歩きに適した靴に変えられていた。
 愛無はよく鼻が利く。すんすんと形のよい鼻をひくつかせ、毒蛇や毒蠍の臭いを探知していた。
「くれぐれも目立つ真似は止してくれ」
と、愛無は『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)へ視線を向けた。
「わかってるよ。足を引っ張るような真似はしねぇ。俺は傭兵だぜ? 仰せとありゃあ、そのようにってなもんだ」
 日除けのフードを指先でつまみ、ルカはそう言葉を返す。
 努めて声を潜めてなお、なかなかに大きな声量であった。
 ルカは戦ともなれば雄叫びと共に敵地へ切り込んでいく偉丈夫だ。その戦闘スタイルや、剣戟鳴り響く戦場を渡り歩いた経緯から、そもそもの地声が大きいのである。
 隠密行動には不向きかもしれないが、こと戦闘ともなれば頼りになることこの上ない。
 
 砂漠の真ん中……大岩の影で待機すること数十分。
「私、メッチャクチャ暑いんですけど! こういう時は涼しい部屋に籠ってたいぞっ!」
水を喉に流し込みながら、『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は不機嫌な声でそう叫ぶ。
年齢相応、若者らしく「嫌なことを嫌と言える」性格の秋奈であるが、その実「戦神」と呼ばれる戦闘期間を束ねていた実力者である。
そんな彼女に困ったような視線を向けて、『雷剛閃斬』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は小さくため息を零した。
「蠍と蛇を両方相手にするんだ。あまり気を抜かないでくれ……毒で仲間を失うのは二度とご免だ」
 紫電の言う仲間とは、二年ほど前の戦いで命を落とした者たちのことだ。
 その者もまた、秋奈と同じ「戦神」の一員だった。
 戦いの果てに毒で命を落としたその者に対し、紫電はある種のシンパシーを抱いている。そして、同じく「戦神」である秋奈を守ることが、紫電にとっての大事である。
 過去の出来事を思い出した紫電は、首を振って思考の縁から現実へ戻る。今は目の前に迫る脅威に集中するべきだ。
「気を抜くなっていってもさ。あ! 紫電ちゃんが一緒に遊んでくれたらやる気出るかも?」
「……もう少しだけ我慢してくれ。セルケトとヴェノムが争うまではここで待機だ」
 と、そう告げて紫電は再びため息を零す。

 それからしばらく。
 蜃気楼の向こうから、巨大な蛇が現れる。その周囲には、数えきれないほどの毒蛇の群れ。
 しゅるる、と威嚇の鳴き声が零れた。
 その声に反応するように、地響きと共に砂の中から巨大な蠍が現れた。
 毒蛇ヴェノムと、大蠍セルケト……隣接する縄張りを持つ、砂漠の怪物たちである。
「おっと……出てきた出てきた。っていうか、砂漠ってよくこういう巨大生物出てこない?」
愛用の拳銃を引き抜きながら、彼……『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)はそう呟いた。
少女と見紛う大きな瞳に艶やかな髪、肌荒れのひとつも見当たらない白い顔。けれど天十里は歴とした男性である。
「改めて確認だ。目的は牙と針の確。だが、部位破壊してもすぐに他の奴に食われるみてぇだし油断はできねぇ。シンプルでわかりやすい仕事だが、集中していこう」
 ヴェノムとセルケトが争い始めた。
 牙と鋏がぶつかる音が、乾いた砂漠に響き渡る。
その足元では、配下の毒蛇や蠍たちも交戦を開始する。蛇と蠍の戦いに割り込む隙を伺いながら、銀城 黒羽(p3p000505)は黄金の闘気を身に纏い、戦闘態勢を整えた。

●第3者介入
 ヴェノムの尾が、セルケトの鋏に巻き付いた。ぎりぎりとヴェノムが身体を引き絞る度、ミシミシと何かが軋む音がする。
 鋏が砕ける直前、セルケトはその長い尾をヴェノム目掛けて刺し向ける。ヴェノムは巻き付きをほどくと、素早く後退。砂埃の中に身を隠す。
 一瞬、ヴェノムの姿を見失ったセルケトは、鋏を掲げて動きを止めた。ヴェノムの強襲を警戒しての行動だ。
 ピクリとセルケトの尾が動く。
 直後、砂煙の中から黒い影が跳び出した。
 セルケトの尾が影に向けて伸ばされる。影は素早く身を沈め、セルケトの尾を回避した。
「すこーし痛いかもしれないけれど、我慢してね? ……なんて」
 空気を切り裂く音がする。
 身を沈めた体勢のまま、振り抜かれたのは大鎌であった。ガキン、と高い音が響いて鎌を防いだセルケトの鋏が砕け散る。
 衝撃で、Erstineの黒い髪がたなびいた。確かな手応えに、彼女は薄く笑みを浮かべる。
Erstineの全力を籠めた一撃だ。いかに頑丈な身体を持つセルケトとはいえ、防ぎきることは叶わない。
さらに、Erstineの頭上を跳び越え紫電がセルケトの頭に乗った。
「ようはでかい蠍と蛇を両方倒せばいいんだろう?」
 腰溜めに構えた太刀に紫電は意識を集中させる。
 迎撃のために振り上げられた黒い鋏は、天十里の弾丸が軌道を逸らした。
 砂煙の中、毒蛇や毒蠍の攻撃を回避しながらも天十里は確かな狙いで、ベストタイミングの援護を入れてみせたのだ。
 硝煙をあげる拳銃を、指先でくるくると回転させて彼は好戦的な笑みを浮かべる。
「ぱぱっと目的達成しちゃおう! セルケトが倒れたら速攻で針を回収ね!」
 黒い長髪が、天十里の動きに合わせて流れるように舞い踊る。
「あぁ、一気に畳みかけて尾を断とう!」
 セルケトの頭部を蹴り飛ばし、紫電はまっすぐその尾へ迫る。
 その様はまるで雷光の如く。
 しゃらん、と微かな鞘鳴りの音。
 セルケトの背から跳び下りた紫電は、太刀を腰の鞘へと戻した。
 残心……そして。
 ドサリ、と重たい音を立てセルケトの尾が砂上に落ちた。

「針は僕が回収するが、誰かセルケトとヴェノムを抑えてくれ! ヴェノムが戦線に復帰するぞ!」
 仲間たちへ指示を出しつつ、愛無が走る。ちらと一瞬、愛無はルカへと視線を向けた。
 応、と短く返答し、ルカは獣の笑みを浮かべた。
 その場にルカを残し、愛無は戦場へと駆ける。その手には布の袋が握られていた。
そんな愛無より早く、砂煙を突き破ってヴェノムが戦線に復帰した。ヴェノムの視線の先には、片方の鋏と尾を失ったセルケトの姿。宿敵が弱っていることを察し、攻勢に出たのだ。
 愛無の声に反応し、ラダが即座に動き始める。ジェットパックの推進力を利用し加速。セルケトや、その周辺に集う蠍たちへライフルの銃口を向けた。
「それと蠍たちもだな……鱗も外殻も、全部まとめて打ち砕く!」
 そう言ってラダは、ライフルの引き金を引き絞る。
 空気の爆ぜる音がして、銃口から吐き出されたのは無数の弾丸。降り注ぐ鋼弾の雨が、ヴェノムや蠍たちの身体を射貫く。
 だが、動きを止めたラダは無数の蛇に囲まれた。
 蛇の牙が、ラダの脚に突き刺さる。

「この状況、厄介なのは……ヴェノムの方だな。少しでも味方から注意を逸らさねぇと」
 身に纏った闘気を手繰り、黒羽は非実体の鎖を形成。剛腕を振り上げ、それをヴェノムへと投げつけた。
 陶器の鎖がヴェノムに巻き付く。ついでとばかりに周囲の蛇も巻き込んで、その動きを阻害した。ヴェノムの意識が否応なしに黒羽へと向く。
 しゅるる、と威嚇の声をあげヴェノムは首を高くもたげた。
「っ……うぉっ!?」
 ヴェノムの巨体に引きずられ、黒羽の身体が宙へ浮く。
 黒羽の巨体が地に落ちたのは、その数秒後のことだった。

「1人じゃやっぱきついよね……それじゃ、さーて。カッコイイとこ見せちゃうぜ!」
 地面に倒れ伏しながらも、黒羽は鎖を引き続けた。動作を阻害され鈍くなったヴェノムの前に、秋奈は素早く踊り出す。
「星間守護機構「戦神」の第17強襲部隊元隊長、茶屋ヶ坂 戦神 秋奈が相手をするよ! 私と黒羽さんの友情パワーを見せてあげる!」
 抜いた刀をヴェノムに突きつけ、秋奈はそう名乗りを上げた。
 ヴェノムの視線が秋奈へ向いた、その瞬間。
「おらぁっ!」
 怒号とともに、黒羽が鎖を引き絞る。

 怒りに燃えるセルケトは、砂塵を巻き上げ暴れ狂った。
 無軌道に振り下ろされる鋏や脚が、配下の蠍や襲い来る蛇たちを踏みつぶす。
「攻撃が激しいな……依頼品の保護を優先していては、逃げる暇も見出せない」
 足に這い上がる蠍を遠くへ蹴り飛ばし、愛無は小さく舌打ちを零した。その胸にはセルケトの針を収納した布の袋が抱えられている。
 Erstineや紫電に援護を頼もうにも、蠍と蛇に群がられてそれどころではなさそうだ。
 自身の尾を取り戻すためか、それとも単なる偶然か。
 地面を蹴って、セルケトは跳んだ。その着地点には愛無の姿。
 傷口から飛び散る体液が、愛無の髪を黒く汚した。

 振り下ろされるセルケトの鋏が、愛無を襲うその寸前。
「お前さんも強かったが、相手が悪かったな!」
 砂塵を突き抜け、ルカが戦線に割り込んだ。
 腕の筋肉が隆起し、握った剣の柄がギシと軋んだ音を鳴らす。
 本来であれば片手で振るうことなど不可能なほどの大剣だが、何を思ったかルカはそれを片手で操る。
 頭上へ向けて振り抜かれた大剣が、セルケトの鋏を弾き飛ばした。
 攻撃を弾かれ、セルケトの巨体が僅かに揺らぐ。
 その懐へルカはまっすぐ駆け込んで……。
「悪ぃが、命貰うぜ!」
 大剣による追撃を、その喉元へと撃ち込んだ。
 膨張した魔力が、黒い大顎を形作る。空間ごと抉るようにして、セルケトの喉の一部が穿たれる。

●回収と逃走
 体液を撒き散らしながら、セルケトは砂へと潜っていった。
 セルケトの針は回収できたので、イレギュラーズとしてはこれ以上セルケトを追撃する必要はない。
 だが、セルケトが撤退してなお、配下の蠍たちはその場に留まり続けていた。蠍たちの目標は、主にヴェノムと、そして撤退を図る愛無だ。
「くっ…無駄な殺生は嫌いだけど……」
 蠍たちの注意を引くべく、Erstineは鎌で地表を薙いだ。砂が舞い散り、切断された蠍や蛇が宙を舞う。
 飛び散る体液と毒液をあび、Erstineは僅かに顔をしかめる。
Erstineを脅威と判断し、蛇や蠍が群がってくる。1匹1匹は弱いが、数が揃えばそれは脅威となり得るのである。身の危険を感じ、一時撤退という言葉が脳裏をよぎるが……。
 思い出すは、毒に侵された商人の顔だ。
 ドス黒く変色し、石のように乾いた肌……。
罅割れた肌から、変色した血が滲む様子……。
どれを思い出しても酷いとしか言いようがなかった。
 ここで退いては解毒薬が作れない。そう思いなおし、Erstineは鎌を振るい続ける。

 ぬるい水を喉に流して、天十里は息を吐く。
 激しく動き回った結果か、彼の顔や髪は汗と砂でどろどろだ。
「脱水には注意して……って、そんな場合でもないか」
 地面を蹴って、天十里は宙へ跳ぶ。さらにもう一度、空を蹴っての二段ジャンプ。
 空中でくるりと身体の上下を入れ替えて、両手の銃の引き金を引いた。
 放たれた弾丸は、駆ける愛無の左右へ着弾。接近していた蛇や蠍を撃ち抜いた。
「さて、お次はヴェノムの体力を削っていくよ」
着地と共に、ヴェノムへ向けて弾丸を放つ。一弾一殺の威力を誇る銃弾だ。空を切り裂く凶弾はヴェノムの右目を撃ち抜いた。
右目を撃ち抜かれたヴェノムが、大口を開けて悲鳴を上げた。
「ちゃーんす! 今日がお前の、命日じゃい!」
 今が好機と秋奈は両手に刀を構えた。兼ねてより愛用している長刀である。地面を蹴って秋奈は跳んだ。
 彼方へ沈む夕日を受けて、2振りの長刀が不気味に光る。
 必殺の威力を籠めた【戦神ノ刀】が、ヴェノムの口腔内へと迫る。
 秋奈の刀は、牙の片方に一瞬で十字の傷を刻んだ。
 けれど……。
「うぇっ!?」
 ちろり、とヴェノムの舌が虚空を舐めた。
 完璧なタイミングでの不意打ち。ヴェノムの視線は秋奈を捉えてはいなかったはずだ。だが、蛇特有の器官でもってヴェノムは秋奈の接近を察知したのだろう。
 秋奈の眼前に迫る牙。毒液に黒く塗れている。
「そうはいかない……二度と「戦神」を失わせたりするものか」
 牙が秋奈へ刺さる直前、横合いから飛び出した紫電が彼女の体を突き飛ばす。
 防御のために振り抜かれた一閃は、ヴェノムの牙に傷を刻んだ。けれど、体勢が不安定だったこともあり、へし折るには至らない。
「ぐ……ぬ!?」
 ヴェノムの咬合力は、紫電の腕力を上回る。
 その肩と腹に、ヴェノムの牙が突き刺さり、紫電の身体は毒に侵され地に落ちた。

 ヴェノムの視線が愛無へ向いた。
 否、正しくは愛無の抱える皮の袋だ。そこに強力な毒を蓄えた、セルケトの針があることをヴェノムは正しく理解した。
 そして、その針を喰らえば自身の力はさらに強くなるだろう、と。
 ヴェノムの本能はそう告げている。
 砂塵を散らし、ヴェノムは愛無へと迫る。
 その眼前に、鎧を纏った巨体が立った。
「行かせはしない。これが俺の仕事だからな」
 キン、と黒羽の鎧が鳴った。
 その剛腕を大きく広げ、黒羽はヴェノムの鼻先へと迫る。
 その瞬間、地面の揺れるほどの衝撃。
 数メートルも地面を抉り、黒羽の身体が後ろへ下がる。
 だが、黒羽はヴェノムの突進を見事受け止めてみせた。よほどの衝撃だったのだろう。黒羽の膝から下は、砂の中に埋もれている。
「よし、そのまま抑えとけっ!」
 そう叫んだのはルカだった。
 片手で大剣を引き摺るように持ちながら、一気呵成にヴェノムの首元へと駆ける。
 さらに、ルカとは逆の方向からラダもまたヴェノムのもとへと駆け付ける。
 地面を蹴飛ばす馬の蹄が、大量の土煙を巻き上げた。
 全力で駆けながらも、進路を塞ぐ蛇や蠍へと向けて銃弾を撃ち込むことも忘れない。時には跳弾も利用したトリッキーな銃撃だ。
「ルカよ、一気に勝負を決めるぞ!」
 そう叫んで、ラダはその場で膝を突く。
 ライフルのストックを肩に押し当て、片目を瞑り射撃の姿勢を整えた。それを確認したルカは、剣を振り上げ宙へと跳ねる。
「お前さんも強かったが、相手が悪かったな!」
 渾身の力を込めて、ルカは剣を振り下ろす。
 落下の勢いと、体重を乗せた一撃だ。
 首を狙った一撃は、僅かに逸れてヴェノムの後頭部を打った。
 硬い鱗が砕け散る。
 衝撃に、ヴェノムは大きく口を開いた。
「これで終わりだ……まだやることは残ってるんでね」
 ほんの数センチ。
 ラダが引き金を引き絞る。
 轟音と共に放たれる、大口径の魔弾がひとつ。
 さらに、もう一度ラダは引き金を引いた。
 
 ラダの弾丸は、寸分たがわず秋奈と紫電の付けた傷へと食い込んだ。
 さらに、まったく同じ軌道で放たれた第2の弾丸が1発目の銃弾を深く押し込む。
 ミシ、と軋んだ音がしてヴェノムの牙が半ばほどで砕け散る。
 地面に落ちた牙へ、蛇たちが集まっていくけれど……。
「よし、回収だ」
 蛇たちを蹴散らし、牙を拾い上げたのは無数の眼球を持つ蛇のような怪物だった。
 その背には、皮の袋が括られている。
 自身のスキルによって姿を変えた愛無であった。拾った牙を、素早く布の袋へしまうと愛無はその場で急旋回。
 ヴェノムや蛇、蠍たちに背を向けて街へ向けて駆けて行く。
「しばし残党狩りを……。ある程度離れたら、各々撤退してくれ。何時までも配下に付きまとわれても面倒ゆえ、決して追跡されぬようにな!」
 と、仲間たちへ指示を出し愛無は1人、砂漠を駆けた。

 ヴェノムの追跡を振り切り、8人は各々商人のいる街へと付いた。
 全力で砂漠を駆けた愛無は、疲労しその場に座り込んでいる。愛無から皮袋を預かったラダは、それを依頼人へと渡す。
「あんたも災難だったな。まぁ、養生してくれ」
 言葉少なにそう告げて。
 涙を流す商人の、震える肩に手を置いた。

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

状態異常

紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)[重傷]
真打

あとがき

お疲れ様でした。
ヴェノムの牙とセルケトの針の回収に成功し、無事商人に渡すことが出来ました。
依頼は成功となります。

皆さま、この度はご参加いただきありがとうございました。
今回の依頼、お楽しみいただけましたでしょうか?
お楽しみいただけたのなら幸いです。
また別の依頼でお会いしましょう。

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