PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Chase to Chase

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 いやあのかの有名なマリアさんにお会いできるなんて光栄ですよ! サイン頂けますか!?
 さぁさぁグビッと一杯飲んで下さい。ここは全て私が持ちますので!
 いやーいい飲みっぷりですねーところでマリアさん、手が非常に綺麗ですよね……
 ちょっと見せて頂いても宜しいですか? 私、最近占いに凝ってまして!
 ……ふむふむ成程! マリアさんには近日中にちょっとした不幸が訪れるかもしれませんね。
 不吉な来訪者たち現れる。むぅ、災難からは逃げた方がいいのかもしれません。
 不吉の悪魔に掴まったら何をされるか分かったものじゃないですからね!
 あはは大丈夫ですよ! 所詮占いですからね、もしかしたら外れるかも!
 ……さて、すみませんちょっと急用が出来ましたのでこれで失礼しますね。

 ではまたどこかでお会いしましょうね――マリアさん!!


「どうして……どうしてこんな事に……」
 マリア・レイシス (p3p006685)はある空き家に隠れていた。外ではけたたましく人の走る音が響いている。しかも乱暴な声と共に、だ。
「おらぁどこ言ったあのガキャア!! 金返せや――!!」
「絶対逃げられへんからな!! 覚悟しときやぁ!!」
 ヤクザか? と思えてくるようなモノばかり。いや実際そういう類のモノ達なのだろう。雰囲気からして『借金取り』というに相応しい。足音は過ぎ去り、ほっと吐息を一つつくが……しかし何故だ……何故自分がそんな連中に狙われるというのか……
「――心当たりは全くないんだな?」
「ないよぉ……でも、彼らは私の名前と指紋が入った契約書を持ってるんだよ……」
 そんなマリアへと隣にいたベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)は声を紡ぐ。困り果てた彼女から相談を受けたのだが、内容は単純に一言にすると『勝手に連帯保証人にされていた』というモノである。
 ある事柄に関する契約書があり、主となっているのはサヌクレプという人物。その連帯保証人として名を連ねているのがマリア・レイシスと成っているのだそうだ。サヌクレプは現在行方不明になっているらしく、契約書に従い連帯保証人のマリアの下へ借金取りが迫ってきている次第。
 しかし――先述した様に『勝手に』なっていたのであり、マリアにはそんな記憶一切ない。
 では契約書のサインは偽物なのか……となると、契約書内には確かにマリア本人の指紋と筆跡があり本人証明となってしまっている。どういう事なのだ……
「サヌクレプ、っていう人物とは知り合い?」
「いや……誰なのかすら分からないよ。初耳だね」
「ううむ……どこの誰なのかも分からないとなると追いかけるのも至難でしょうか……」
 いずれにせよ法的にはマリアが不利な状態であり、白薊 小夜 (p3p006668)とすずな (p3p005307)も些か悩ましい事態であると判断する。一番単純な解決法は主となっているサヌクレプ自身を探し出す事だ。連帯保証人とはいえ、本人の位置が定かなら話は別。
 ……ただどこの誰とも分からぬのでは対策の打ちようがない。
 このままではマリアは借金取りに差し押さえられ、幻想港へと拉致されてしまうのか――いや。

「そうはさせませんわ!! マリアの潔白は私たちで必ず晴らします!」

 瞬間。空き家の裏口の方から現れたのはヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)だ。声とは裏腹に静かに扉を開けて、更にはギルオス・ホリス(p3p000016)、ジェック (p3p004755)や仙狸厄狩 汰磨羈 (p3p002831)の姿も見える。
「こんなコトもあろうかとギルオスに頼んでシラべてもらったよ、そのサヌクレプって奴をネ」
「あぁ。どうやらサヌクレプとやらは――ウォーカーであるらしい」
 えっ!? と思うのもつかの間。彼女達から語られるはサヌクレプの正体。
 それはイレギュラーズ。ただしローレット所属の、ではなく各地を転々としている所謂フリーのウォーカーである。なんでも時折こうした詐欺まがいの事を起こしている……と噂されている人物なのだとか。そしてそんなサヌクレプには特殊なギフトがあって。
「どうも観察しえた他人の『指紋』をコピーできるギフトの持ち主の様なのですよ。マリアさん、ここ最近で他人に『自分の手』を見せたことなどは――ありませんでしたか?」
「……あっ!」
 新田 寛治 (p3p005073)の言もあればマリアの思考は少し前の事を思い出していた。
 偶々訪れた酒屋でいい気分になっていた頃に話しかけて来た人物の事を――
 そういえばあの時戯れに書いたサインもあった。あれで筆跡を真似られたのだとすれば……!
「全くお酒に呑まれて油断するとはいけませんわね! これはやはりマリアとは日々から酒屋に通ってお酒に強くなっておかなくては。いいですか、よく聞いてくださいましね――お酒は『吐けば吐く程強くなる』これは主からのお告げですわよ」
 成程! 流石だね!! とヴァレーリヤに感嘆の相槌を打つマリア。どうして……
 ともあれマリアはついに己を嵌めた人物の姿へと辿り着く。
 あの時の人物が――サヌクレプという人物だったのか、と。
「ただし問題が二点ある。一つはサヌクレプ具体的な位置はまだ分かっていない事。いや、徹底的に足跡を洗った所、奴はどうやら今日、あと一時間後に出向する船のチケットを買っているのは分かったんだけどね」
「国外へ逃げるつもりでしょうか――ここから港まで、となると一時間ではギリギリですね」
 ギルオスの発言に小夜は頷く様に言葉を重ねる。
 いや、通常であれば港までは一時間もあれば間に合うが、外には借金取りがマリアを捕まえようと待ち構えている。奴らをどうにかこうにか突破しながら船へと向かうしかないが、果たしてうまく妨害を排しながら進むことが出来るかどうか……そこが焦点となるだろう。
 しかし、とベネディクトは思った。借金取りが邪魔であるのなら。
「それならばマリアはここで、我々だけで向かえば良いのでは?
 借金取りは我々には興味があるまい――」
「そこで第二の問題が出てくる。実はね……サヌクレプの『顔』が分からない」
「……なに?」
「サヌクレプという人物がいる事は分かった。しかし顔情報までは掴めなかったんだ……
 自分を隠す事に優れているのか、なんなのか……」
 サヌクレプ=アポストルは実在する。だがその風貌は不明。
 常にフードを被り、その下の顔は掴ませないという……だからこそ無意味なのだ。フードを付けている人物など幻想には幾らでもいるし、フードの下を見ても『顔』が分からないのでは確認の意味も無く。
 しかし。
「だけどマリアは別だ」
 マリアが自分の手を見せた時。それはサヌクレプが至近距離までいたという事。会話をしていてれば一切の眼が合う事が無かったとも考えられず。その時フードをしていたとしてもうっすら見える顎や顔の輪郭、雰囲気をマリアは『ぼんやりと知って』いる。
「つまり――マリアさんの記憶が頼り、と」
「成程。となるとあとは借金取り共をどうするか、だな」
 すずなと汰磨羈が外を見る。マリアがイレギュラーズである事は既に向こうは知っているのだろう……山ほど借金取りがいる。一人や二人では捕まえきれないと判断しての事だろうか……
 突破には骨が折れそうだが、仕方ない。早急に奴らを打倒して――
「――まぁお待ちください。こんな事もあろうかと、先程連中の事務所と話を付けてきまして。ギルオスさんを連帯保証人として追加して、そっちの差し押さえにも向かわせました。もう少しだけ留まっていれば敵の数が割かれて減る筈です」
「えっ? 寛治、今なんて?」
「流石寛治さん。どこにでもコネクションがあるんだなぁ……」
 マリアより賞賛され、それほどでも、と眼鏡の位置を調整する寛治――その背後で『ちょ、ちょちょっと待って?』というギルオスを『まぁまぁまぁ』と抑え込むヴァレーリヤとジェック。具体的にどんな話があったのかはまぁ気にしないでおこう。
 サヌクレプを捕まえれば全部ハッピーエンドであるから! さぁ作戦会議といこう!

GMコメント

 どうして……どうしてギルオス君まで……
 リクエストありがとうございます! さぁ頑張ろう!

■依頼達成条件
 サヌクレプ=アポストルを捕縛する事。

■現場
 幻想国内港街。
 時刻は昼。一時間後に船が出向する予定があります。
 サヌクレプはこの船に乗り込み国外へと脱出する予定の様です。

 スタートは港の街中から。港までは真っすぐ向かった場合一時間もかからないのですが、下記の借金取り共がいますので邪魔や妨害が入り続けると時間が結構厳しいかもしれません。なんとか妨害を排しながら進んでください。

■サヌクレプ=アポストル
 マリアさんを連帯保証人に(勝手に)した張本人。
 ローレットには所属しておらず、各地を転々と旅している模様。
 種族はウォーカー。外見上はカオスシードと同じ……らしいが、常にフードを被り雰囲気も常にぼんやりと『させる』為、顔情報が圧倒的に欠落している。故に『具体的にどんな顔をしているのか?』は一切不明。

 ただし事前に接触した事のあるマリアさんだけは至近距離から見る事が出来れば『この人だ』と確定で判別できるモノとします。なお判別方法というか確定方法はマリアさんによる視認以外にも方法はある、かもしれません。

 『間近でじっくり見る事が出来た他人の指紋を一定時間コピーできる』ギフトを所有。
 これによってマリアの名を騙り連帯保証人に出来た様だ。

 一時間後に出向する船に乗り込む予定。
 乗り込む前に捕まえるか、一緒に乗り込んで捕まえるかは自由だが、後者の場合あまり時間がかかると幻想から大分離れてしまう可能性もある。小型船など戻る手段が必要になるかもしれない。
 また何らかの原因で自分が追われていることが分かった場合の行動は不明ですが、多分逃げようとするでしょう。

 戦闘能力はさほど高くはない、らしいので姿さえ捉える事ができれば……
 なお非戦スキル『アノニマス』などを活性化している可能性があります。

■借金取り×10~
 マリアとギルオスを捕まえるべく待機している面子。
 最初は10人しかいませんが、段々と増えてきます。戦闘能力はまちまちですが、基本的に攻撃力に優れている様です。威嚇というか、名乗り口上らしきスキルも保持している模様。
 囲まれると港までの道も塞がれて厄介になるかもしれません。

 マリア・レイシス特攻、並びにギルオス・ホリス特攻を彼らは所有しています。
 具体的に言うとマリアとギルオスの顔は遠くからでも分かり、若干命中や攻撃力が上昇するようです。なんで……

■ギルオス・ホリス
 ローレットに所属する情報屋。
 なぜか彼も連帯保証人にされている。どうして……
 戦闘能力は護身術程度。空き家で待ってるよ。え、待ってていいよね?

 *何かさせたい事があれば指示してみると「どうして……」と言うけどやります。

  • Chase to Chase完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月30日 22時13分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
すずな(p3p005307)
信ず刄
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


「いたぞあの野郎だ逃がすな!」
 路地裏に響き渡る怒号――借金取りたちが見つけたのはギルオスである。
 連帯保証人に追加された得物。逃がしてなるものかと奴らは現れ。
「はぁ来たね……どうしてこんな事に……」
「やれやれギルオスは本当に災難だな――まぁ安心してくれ。
 御主は、私達が責任をもって守ろう。大船に乗った気でいると良い」
「そうね。私も災難だとは思うけれど……こうなっちゃったら諦めも肝心よ」
 言うは『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)と『乱れ梅花』白薊 小夜(p3p006668)である。ギルオスは見つかった……のではなく『あえて見つかった』が正確な表現だ。それは『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)を港側へと送る為の策。
 ギルオスで引き付けその間に突破するのだ。これよりは二手に分かれる分岐点。
「ギルオスさん。すみませんがお願いしますね! ご武運を、色々な意味で……!」
 色々な意味で!? と思わず発言を『金星獲り』すずな(p3p005307)へと飛ばす。いや分かる。分かるんだけどね? ツッコミを入れずにはいられない訳で――
「ギルオス君! 君の犠牲は無駄にしないよ!
 必ず、君の保証人も解消してみせるからね! 皆もよろしくね!」
 そして当のマリア本人は自らの危機ゆえか、或いは借金取りという未知を前にしているからか分からないが半べそかいてる。涙声カワイイ。
 はっ。いけないいけない、ともあれここからは速度が重要だ。
 囮と勘付かれる前に港へ到着せねば。
 駆ける。しかしあのマリアがまさか悪意に巻き込まれ連帯保証人にされるとは……
「彼女の戦場での働きを視れば騙そうととは思わんのだろうが……
 良くも悪くも、彼女の温和な人柄が影響してしまった、と言った所だろうか」
「まったく。金策だったら私に相談してくだされば良かったのに。
 なぁに大丈夫です弊社は人を騙す事なんてしませんよ?」
 周囲の警戒を続けながら『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は進み、その言に続いて『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)もまた思考を巡らせる。金策の思考を。まぁ、その、色々。ともあれ。
「マリアさん……いい気になって呑んでるから……! これからは気を付けて下さいね? ほんとに! 一人呑みは禁止ですよ、という事でヴァレーリヤさんにお守を――いややっぱナシで! ベネディクトさんとか別の人と飲んでください!」
「ちょっとどういう事ですの!? 聞き捨てなりませんわよ、ねぇマリア!?」
 そしてマリアの護衛側に付いているすずなはマリアの事を心配し『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)を伴にする事を推薦したが秒で取りやめた。お酒と聞いて彼女が思い浮かんだのだが、やっぱり駄目だ。
 声はこっそりと。羽織るは外套、武器を隠し顔を隠し。
 ギルオス達の班が進む方向とは別の方へと足を運んでゆく。
 向こうが『目立つ』動きをする、とはいえ油断は禁物だ。万が一にもマリアの顔が見られれば厄介な事に成ろう――すずなは前を警戒し、ヴァレーリヤはやや後方側に位置。借金取り共の接近を警戒して。

 直後に鳴り響くは銃声。それは引き付けている側の方から聞こえて。

「まったく――ギルオス。なんかキミ、いつも何かから逃げてない?」
「別に好きで逃げてる訳じゃないからね!?」
 溜息一つ。『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)は言葉を紡ぐ。
 見かける度にああだこうだとトラブルに巻き込まれている気がする……それがギルオスの気性なのか運命なのかなんなのか。まぁいい、どうであるにせよ今はマリアの為にも盛大に『騒ぐ』べき時なのだ。
「さぁ来なよヤクザ共。遊ぼうか――」
 狙い済ます狙撃手の一瞥。引き金を絞り上げて――もう一発。


 状況だけ整理しておこう。目的はサヌクレプの捕獲であり、それは顔を見た事のあるマリアが港へ往くは必定。共に向かうのがヴァレーリヤ、すずな、寛治である。
 一方で借金取り共を引き付けるのが餌にギルオス。寄ってきた魚共を払うのが汰磨羈、ジェック、ベネディクト、小夜の四名であり――
「付き合わせて悪いな、ギルオス。
 だが、巻き込んでしまった以上は責任は果たす、必ず無事に帰すと約束しよう。
 ――覚悟は良いか?」
「良くはないけど諦めたから大丈夫だよ!」
 なれば怪我をさせる訳にはいくまいとベネディクトはギルオスの顔を見て頷く。
 やむを得なきやんごとなき事情により何故か連帯保証人に追加された彼……マリアを救う為、囮として活動はしてもらうが意思を持ってベネディクトは借金取り共の接近を防ぐ。ファミリアーで召喚した小鳥が空より地を見据え。
「さぁ粗暴なる輩共――俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム。
 臆さず来る者はいるか?」
 追手に対し名乗りを挙げる。挑発にも似たその言葉に反応するは幾名か。
 自らに引き付けその刃を防ごう。注意深く周囲を警戒し、相手の動きを見過ごさず。
「ま、貴方達もお仕事だものね、仕方ないわ。でも貴方達……本当にマリアさんを捕まえてなんとかなると思ってるの?」
 同時。声を紡ぐは小夜である。
 言うは助言――という名の引き付けである――が。そもそもマリアを捕まえたとして確かに取り立てられると思っているのか? と。ローレットの一構成員であり大貴族の類ではないのだ……捕まえても大したお金の回収が出来るかの見込みは無く。
「けれどマリアさんと違ってギルオスさんは資産家――彼の自宅には乙女の物から各国要人の物、果てにはレリックの肌着まであるなんて噂よ。彼を捕まえた方が幾分以上に『回収』になるんじゃないかしら?」
「概ね事実なんだけどそれ以上僕の家のクローゼット事情を語るのは止めてくれ!」
 あら事実なのにどうして? 微笑み携え、彼女は追手を牽制。
 殺人剣の極意を我が身に。されば刃が生死の狭間を一閃し、対象を容易に向こう側に渡らせんとするのだ。あの一撃――受ければただではすまぬと思わせるだけでも意味がある。尻込みさせて足を止めればこっちのものだ。
「向こうはこっち……特にギルオスを殺せないのは有利な所だね。勝手に加減してくれる」
 とはいえ油断は出来ないが、と。ジェックは闘士の加護をギルオスへ。
 敵は金を回収したくてこちらを追いかけてきている。ならば殺そうとまではしてこないだろうが……万が一にもギルオスが敵の挑発などに乗って怒りのまま前線へ往くのは避けたい所だ。故に保険を。そして敵の姿をその目に捉えれば。
「アタシ、目がいいんだ」
 特に。たったほんの少しでも世界を妨げていた『硝子』も今やないのであれば。
 世界は、彼女の眼に透き通る。
 暗闇も遠き果てもなにもかも万象を見据える様に。
 穿つは道。徹甲弾を使い、或いは対象を『釘』の様に視て。
 はるか遠くに居ようと必ず的に当てて見せる。
 例え針の穴であろうと例外はない。見えてさえいるのであれば彼方であろうと撃ち砕かん。今日と言う日はサイレンサーによる消音も外して音を響かせて『やる』――さぁこっちへ至れよ子悪党ども。走る位置取りには注意しつつ。
「おっと――ギルオス、こっちだ」
 と、瞬間。ギルオスの首根っこを掴んで路地裏の方へと運ぶのは汰磨羈。
 奴らを囮に食いつかせるのは上手く行っているが――しかしそれはそれとして奴ら、数が多い。あまり一か所で戦っていれば包囲されそうであるが故に常に移動を試みるのだ。
「100m圏内に来ている。注意しろ! いつどこからやってきてもおかしくないぞ」
 その中でも汰磨羈は前衛として前を警戒。ギルオスの安全を優先しつつ常に位置を確認し。
「詐欺師に踊らされるうすのろめ。引っ込んで小銭でも数えていろ!」
 眼前に現れれば敵を薙ぐ。
 距離が在ろうと届かせる逃がさじの殺人剣は敵を捉え、その足を留めさせ。
 刹那に瞬く霊気の集約。跳躍し、き奴めの身体に打ち込み楔を刻んで。
 どかす。
 邪魔をするなら容赦はせぬ。追ってきているのは一人や二人でないのであればこちらが留められる訳にはいかない故に。
「くそがぁ! 舐めやがって! ラサの方に全員売り飛ばしてやらぁ……!!」
 と、随分と小汚い台詞ばかりが飛んでくるものだ。彼らの品位の底も知れるというもの。
「全く、品位もなければ知性もないのかしら……貴方達もしかしてサヌクレプ=アポストルとか言う人物の顔も知っていたりするんじゃないかしら? そいつ今、港から船で高飛びキメようとしてるらしいけれど、貴方達のメンツにかけてこれを許していいの?」
 横から跳び出してきた追手の一撃。小夜は受け止め言葉を放ち。
「私もこんなところで無駄な血を流すよりもサヌクレプを押さえたいんだけれど」
「うるせぇ! それはそれ、そこの男はそこの男だ! どっちも押えてやるよ!」
「そうか――だが悪いが、彼に手出しはさせん。そう約束したのでな」
 舞の様に円を刻み、横薙ぎの一閃。
 さればかの小夜に続くはベネディクトであり、その手には槍が。
「約束とは誓いだ。果たされるべき誓約……お前達如きに奪わせてはやれんよ」
 直後、投擲。
 魔槍が空を裂き道を往く。音の壁を突き破れば魔獣の咆哮が如き音が鳴り響いて。
 更にジェックの射撃が続く。牽制が如き一撃を奴らに執拗に加えてやれば奴らの怒号が鳴り響き。
「ははっ。益々こっちに来てるね……思うがままというか、なんというか」
 射撃、狙撃、貫通、牽制。
 数多を使い分け彼女は追手を撃ってゆく。こっちにいるギルオスという名の債務者には決して近付けさせない。近くに至る敵があればそちらを優先し、須らく銃弾の雨に巻き込ませよう。
 ああ――こちらは順調であるが、マリア達の方は無事であろうか。
「こっちも中々大変なのだ――逃がしたら頬をむにむにするからな、ダブルで」
 借金取りの顎を蹴飛ばし。港へと続く空を――汰磨羈は一瞬、眺めて呟いた。


 港に続くまでの道。遥か向こう側では戦闘の喧騒が聞こえて来ていた。
 どうやら囮の班は盛大に時間を稼いでくれている様だ――ならば。
「ヴァレーリヤ君に新田君……それにすずな君も……一緒に来てくれてとても心強いよ! サヌクレプ君の顔は瞬間記憶で覚えてある! 判別は任せて!」
 後はこちらも役目を果たすだけだ、とマリアは言葉を紡ぐ。
 変装スキルで風貌を誤魔化し、フードを被り歩き方をも変える。猫背で気だるげな様子からはとてもマリアとは思われないだろう。借金取り共は元より、サヌクレプからも気付かれにくい筈だ、と。
「ええ、ええ。お任せください! テレジアなら別にいつもの事ですので別に構いませんが、マリアを借金まみれにするのは可哀そうですものね……必ず解決してみせましょう」
「借金取り共の追跡には手を打ちました。
 効果が出るのは些か時間がかかるかもしれませんが、目暗ましには十分でしょう」
 念のため追手がこちらに気付かないか引き続き警戒するヴァレーリヤ。どこから武装した者が現れるか分かった者ではない故に、いつでも踏み込める体勢。その隣では寛治が言葉を繋いで。
 彼の打った対策――いや工作というべきか。それは偽の情報を流すという事。
 独自の情報網とコネクションを用いて『目撃者』を動員。その為の資金は既に用意しており――散財するかのように盛大にバラ撒いてやった。適当な情報を幾つも流し、真偽を一切合切不明へと。
「普段は情報を吟味できる方々でも、追いかけっこの中で真偽を確かめる余裕は無いでしょう? 『お金』と『情報』は使い方によって幾らでも武器になるものですよ」
 勿論それは人手が必要であるので超即効性がある訳では無い。しかし時間が過ぎる程――特に最初期を乗り切れば最早彼らの姿はどこへやら、だ。港に着くころには追手などいない事だろう。
 進む。念のために警戒は続けながら、怪しまれぬ様に裏道を駆けて。
 道中、怪しむ輩が全くいなかった訳では無いが――
「少々急いでいますので、御免!」
 変装工作に加え、先述の寛治の工作もあれば数など少数。
 であればすずなが全力で、かつ手早く蹴散らすものだ。声を挙げさせる暇も与えず意識を奪う。ヴァレーリヤのメイスによる一撃や、マリアの蹴撃も加われば速攻戦も難しくはなく。
「見えました……港の入り口ですよ!」
 目的地へと到達するものだ。
 予定より随分と早く港に到達出来た。これも囮達の引き付けと、慎重な進みがあった故か。
 ――だがこれからが本番でもある。サヌクレプに逃げられる前に、奴を確保せねば。
「私は船の運航会社へと参りましょう。いや……船の船長に直接交渉に行った方がいいでしょうか、いずれにせよ時間を稼ぎます。出発さえさせなければなんとかなるでしょう」
「では私の方は船への乗り口を警戒しておきますわ。最悪でもそこで止めます。
 事前にサヌクレプが誰かと分かっておく必要はありますが……!」
 故に動く。寛治は船の係員――可能であれば船長に話を繋ぎたい所だが――とにかく、理由はなんでもいい。『最終安全確認』の為でも『不審物発見』でも理由を付けて出港を現実的な範囲で遅延させよう。
 同時。ヴァレーリヤは乗り口から少し離れた所で乗船客の様子を見る。
 ここに居れば別方向へと逃げる者がいれば捕まえやすい位置だ。乗っているなら寛治が中を捜索し、乗るか降りるならばヴァレーリヤが止める。慌てて離れる人物がいれば、それがサヌクレプの可能性もあり。
「ここまで来たんだ……あとは私が、必ず見つけてみせるよ……!」
 フードを深くかぶり、しかし視線は周囲を常に巡らせるマリア。
 どこだ――港には多くの人がいるが、溢れる程密集している訳では無い。
 記憶している容姿を思い起こせ。雰囲気を想起するのだ。
 立ち姿、動き方。人は決して映像だけで他者を記憶している訳では無い故に。
 五感を持ってサヌクレプを捜索す。
「マリアさんあの人、何か怪しくないです?」
「んん……あ、いやでも違うね。あの人はサヌクレプより幾分も年若いっぽい」
「うぐぐぐ! な、中々難しいですね……!」
 すずなも手伝い候補を洗い。一人でも多く観察していく。
 見つからねば思わず焦る。
 もしや見逃していないか? さっき通ったのが実はそうなのではないか?
 時刻は進み。秒の音が額に汗を。
 皆が繋げてくれたこの時を――決して無駄には――

「――あっ」

 されば、ふと。
 一人の人物に目が留まった。
 遠目に捉えた一人の人物。顔はまだ見えぬが――しかし――!
「いた! あれだ、間違いない――捕まえよう!!」
 マリアは往く。傍目には只の通行人にしか見えないが、確信があった。
 跳躍、一直線。雷光駆け抜け、されば。
「……げぇ! マリアさん、なぜここに!!」
「泥棒! 泥棒でございますわ――! その人を捕まえて下さいまし! そして、どうか道を開けて下さいまし! 私の大切な……ええと、お酒が!! ローマコンティが――!」
 サヌクレプも気付く――が、遅い。
 ヴァレーリヤも飛び出したのだ。あれやそれやと言を並べて注目浴びせ。
 紛れ込ませぬ。隠蔽術に優れていようが『お前』だと分かっていれば逃がしはせぬ! ヴァレーリヤの気合の咆哮と同時、メイスの一撃が奴の腹へとホームラン。
「さて、取り立ての時間ですね。御覚悟頂きましょう」
「マリアさんを勝手に貶めるだなんて許せません……報いを此処に!」
 更に寛治の射撃がサヌクレプの足を捉え、すずなの剣撃が更に重ねられる。
 斬り、払い、突く――何時終わるとも分からぬ斬撃の波を此処に。
 殺しはしないが抵抗の力は奪い取る。さぁ――!

「お仕置きの時間だよ……私の潔白の為にも――捕まれぇ――!!」

 マリアの一撃ここに在り。
 仲間と合わせた波状攻撃がサヌクレプへと紡がれ。
「ぐ、ぐああッ! そ、そんな! あともうちょっとで……!」
「逃げられた――訳がないでしょお!」
 直後、天からの踵落とし――トドメの一撃を放ってやった。


「うわーん! ヴァレーリヤくーん! 皆――!! ありがとう――!!」
 事態解決。張本人であったサヌクレプを縛り上げてヤクザに引き渡せば、資金の返却優先は奴からだ――マリアからの取り立ては二の次。これでようやく救われたとヴァレーリヤに半べそ状態で抱き着いて。
「ふふ、良かったわねマリアさん。あとギルオスさんも」
「全くだよ、僕の家がいつ差し押さえられる所だったか……」
「本当に、お疲れ様としか言えんな……飲んでいくか? 奢るぞ」
 さすれば囮班も合流。小夜にギルオスに、肩に手を載せる汰磨羈。
「何はともあれ終わりよければ全て良し、だ。無事に全てが終わってくれてなにより」
 これでマリアもギルオスも救われた――ベネディクトは安堵し、息を一つ。

「やりましたわねマリア! これは、ええ今すぐにでも祝杯を挙げるべきですわ!!
 さぁ皆さん――酒場に行きましょう酒場に!!」

 同時。マリアと抱き合いながらヴァレーリヤは……くそ、相変わらずであるこの聖職者!
 しかし祝うべき事であるに違いはない。
 飲もう。今度は見知らぬ誰かに騙されぬ様――皆で一緒に楽しみながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 と言う訳でリクエストありがとうございました!

 マリアさんの事情は解決。何故か巻き込まれたギルオス君も救われました! どうして……
 ともあれサヌクレプは引き渡され、これで彼女に平穏が戻る事でしょう……まぁ今後もなんかトラブルに巻き込まれそうな星の下に生まれている様な気もしますが。ともかく、ありがとうございました!

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