PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花嫁の酒

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雨音に嘆息
 しとしと、しとしと、雨が降る。
 優しく包み込むような、けぶる雨が降っている。
 雨は屋根を弾み、伝って、軒下へ。

 ──その屋根の下では、1人の幻想種が手を止めていた。
「……あぁ、」
 やってしまった。そんな重い嘆息だ。気難しく寄せられた眉が歓迎し難い事態であることを示している。
 この幻想種は近々結婚する予定がある。本日も、いや本日までに準備をせねばならなかったのだが、このままでは当然終わることができない。
 準備のための材料は花婿が用意するのだが──間違って、違うものを頼んでしまったのだ。ああ、どうしてレシピを見ながら伝えなかったのか。いっそレシピを渡してしまえばよかったのではないか。全ては後の祭りである。
「えぇ……うーん、どうしよう……」
 幻想種は部屋の中をウロウロし出す。そんなことをしていても仕方がないのは自覚しているが、然りとてジッとしているのも落ち着かない。ちなみに花婿はタイミング悪く暫しこの集落を離れてしまっているのだ。
 そしてこんな時こその──。

「──イレギュラーズだ!」


●花と酒
「この集落では花嫁さんがお酒を作るらしいのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はこれなのですとイレギュラーズへ瓶を差し出す。とぷんと揺れる液体の中には草花が浸かっていた。
「で、この中身を採ってくる依頼?」
「はい! 大正解なのです!」
 じっと眺める『Blue Rose』シャルル(p3n000032)にユリーカは笑顔を浮かべる。差し出した羊皮紙にはびっしりとその効能や成分表が記載されており──どうやら、瓶の中身に関することのようだった。この集落で作られる酒は格別で、深緑から出されようものならオークションで高値がつくほど。その内容とあれば興味自体は湧くものの。
(依頼にはいらないかな)
 あくまで材料を採りに行くのであって、作るのは花嫁だ。そのはずだ。そのはずだよな?
「合ってますよ」
 作るのは花嫁の仕事──花嫁修行のひとつと言っても良いだろう。それを他人が作るだなんてとんでもない!
「あ、でも見学はして良いって言ってたのです。色々な人に見てもらって、技術や文化を広げても良いんじゃないかって話があるそうですよ」
 閉鎖的だった深緑だが、その門扉は開かれ始めている。その文化を内包し続けいつか廃れてしまうくらいなら、外へ出してしまっても良いのではないか、と。
 もちろん良い面も悪い面もあるだろうが、そればかりは幻想種にだってわからない。彼らは長命であれど、他の種族と同じように『今』を生きている。未来など知りようはずもない。
「なら折角だし、見に行こうかな。……それで、採ってくるモノは?」
「花と果実なのです。場所自体はそんなに危なくないのですけれど、美味しい匂いには色んなモノが釣られちゃうのですね」
 深緑──迷宮森林の奥に咲く花と、川辺に分布する植物の果実。どちらも良い香りをさせるため、小動物から危険なモンスターまで引き寄せてしまう。花も果実も今の季節は次々と咲き実るそうだが、早いところ採取に行かねば食べ尽くされてしまうだろう。
「花も食べられる、の?」
「なのです。一口でむしゃむしゃなのです」
 シャルルは目を瞬かせ、自分の体に絡む蔓薔薇を見下ろす。これももしや──いや、考えるのはよそう。
 花は潰れてしまわないよう、優しく袋に入れてやる必要がある。逆に果実はぎっしりみっちり、重たくなるので気をつけてほしいとのことだった。
「ボクはまだお酒を飲むことができませんが、もう少ししたら飲んでみたいのです」
 どんな味がするんだろう、とユリーカは手元の瓶を眺める。彼女が酒を飲める年頃になれば、今よりも広くにその製法が行き渡っているかもしれない。

 ちゃぽん、と。瓶の中で液体が小さく音を立てた。

GMコメント

●成功条件
 指定のものを持ち帰る

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 目的物の周囲では色々と見られるかもしれません。

●目的物
・フィリゲット
 崩れないバベルにかけて『月桃の花』です。それに近い混沌植物です。黒糖のような甘さが出ると言われています。次々に咲きほころんでいます。
 強めの甘い香りを出すため、比較的探しやすいです。袋へ潰さないよう、優しく入れましょう。

・ビルベリー
 握り拳程度の大きさをした赤い果実です。水辺を好む植物がつけます。こちらも次々となっています。あっという間に大きくなり熟れます。
 皮が硬いため、潰れる心配はありません。ぎっちりみっちり、たくさん持ち帰ってあげましょう。

●エネミー
・横取りモンキー×6
 大きな体を持つサルです。他者のものをよく奪い取ります。その図体に反して俊敏ですが、見た目より攻撃は痛くないです。ただしBS【流血】の攻撃をしてくる時があります。囲まれないよう要注意。

・丸呑みワニ×6
 ひと口が大きなワニです。水辺を好み、ギザギザの歯で食らいつきます。攻撃力は高いですが、見た目通りに動きは遅いです。
 他の何かで体力を回復することがあります。またBS【乱れ】、或いは【足止】を付与するような攻撃もあるようです。

●ロケーション
 深緑の迷宮森林。詳しい地図はありません。
 天気は良いですが、木々が視界を邪魔して来そうです。

●NPC
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 元精霊の旅人(ウォーカー)。植物疎通を持ちます。また、そこそこ戦えます。神秘後衛型です。
 指示があれば従います。

●ご挨拶
 愁と申します。今回は深緑の花嫁さんです。
 集落で他の幻想種が作った花酒は飲んでも良いそうです。製法を見学しながら、味見など如何でしょうか?
 エネミーは全て出てくるのかも、またどのようなタイミングでどれだけの数が出てくるのかも不明です。示してあるのは最大数です。ちなみに無害な動物が集まっていることもあります。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 花嫁の酒完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
テレンス・ルーカ(p3p006820)
赤染の腕
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

リプレイ


 深緑の森に『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)の小さな笑い声が響く。視線を向けた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)にゆるりと首を振った未散は片目をつぶってみせた。
「少し報連相が、おふたりの間で為って居ない様に思えまして」
「そうねぇ、花婿さんも花嫁さんもうっかりさん」
 間違ったものを頼んでしまった花嫁と、それを鵜呑みにしてレシピなどのメモを貰わずに集めてしまった花婿。2人の間に信頼関係があるのだと思えば納得だが、確認をすること──未散の言う『報告・連絡・相談』の報連相は重要だ。
 しかしそれもこれから2人で育み、乗り越えていくものなのかもしれない。
「まずはこの依頼を成功させてからですね」
 結婚と言う祝い事を台無しにするわけにはいかない。パーティの中で唯一の男性である『赤染の腕』テレンス・ルーカ(p3p006820)は近くに木々にフィリゲットとビルベリーの場所を問うていく。同じように情報を集めるのは彼と同じ幻想種、『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)だ。
(花と果実を集めて……いいわね)
 アルメリアはまだまだうら若き乙女、外見年齢と実年齢の差は幻想種という長命な種ゆえか。酒の飲める歳ではないのである。そのためこのあと仮に『試飲しましょう』なんてことになっても飲めないのだが──飲んでみたい。大人になったら酒を──もちろん花酒も──同郷の彼女と飲んでみるのも良いだろう。
「何か掴めれば良いのですが……シャルルさんは如何ですか?」
 『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の言葉に甘い香りを揺らした『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が振り返る。ほんの少しばかり深緑色に染まった空色の瞳がぱちりと瞬いた。
「多分、他と変わらないんじゃないかな。水辺はあっちで、花は動物たちを頼りに……だって」
「それじゃ、私の出番かな?」
 『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は張り切って、近くを通りかかる小動物へと話しかける。この依頼を上手く成功させれば、ちょっとばかりのお零れにもあずかれるかも──なんて。
 しんがりを務める『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)、そして『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)の警戒に引っかかるような魔獣もまだおらず。森は天気が良いことも相まって穏やかな雰囲気に包まれていた。
「それにしても、花嫁が酒を作る文化とは随分珍しい風習だね」
「ええ。もしかしなくても、伝統的なものなのでしょう」
 ルーキスと鶫はこれから集める材料の行く末に想いを馳せる。閉鎖的な深緑での花嫁修業。らしいと言えばらしいのか。しかし一般的なそれとはどうも違うので、外の人間たる2人としては新鮮さが勝つ。
「頼ってくれるようになったのは嬉しいわねぇ、ふふ」
 そう笑うのはファミリアーを飛ばしたアーリア。パーティの中には深緑出身である幻想種もいるが、ローレットへ依頼するという時点では誰が来るのかもわからない。それでも幻想種がローレット──深緑外の人間へ頼ろうとしてくれることが、純粋に嬉しかった。
 ばさりと空を力強く羽ばたくのは1羽の鳥。それは真っすぐにアーリアたちの向かう方へと飛んでいく。
「かなり強い香りが、あちらから」
 ルーキスやアーリアが動物との疎通で得た情報と同方向を示した未散は、再び小さくすん、と鼻を利かせる。甘い香りはもう少し歩いた場所にあるようだ。
 穏やかな森を歩いて、歩いて。一同は咲き乱れる花々へとたどり着く。わぁ、と誰かが感嘆の声を漏らした。
「本当に甘い匂いですね……」
「これなら色々寄ってくる、っていうのも納得だ」
 クラリーチェとルーキスが辺りを見回す。甘い匂いにつられて虫が花粉を採りに来ているようだ。テレンスも周囲に敵がいないか気配を探るが、今のところは無害な動物や虫ばかり。
「此れなら沢山摘んでも困る事はありますまい。丁寧に摘みましょう」
 未散の言葉に一同は花を摘み始める。アルメリアは繊細な花を殊更優しく摘み取って、預かっていた布袋へ入れた。戦闘中はとてもでないが採取できない。しかし敵襲があれば今も周囲を警戒してくれている鶫とテレンスが教えてくれるだろう。
「しかしまあ、酒作りの為とはいえこんな所まで来ないといけないとはね」
「だから花婿……男性の役目なんじゃないかな。女性が来ると危ないから」
 ルーキスとシャルルはお喋りしながら花を摘む。良い香りが鼻腔を満たしていくが、これが危ない生き物まで寄せ付けてしまうとなればなかなか気も抜いていられないだろう。採りに来る花婿も大変だ。
「ここまで甘い香りがするのなら、お菓子などにも使えたりするのでしょうか……?」
「そうかもしれませんね。食用であるのかわかりませんが」
 クラリーチェと幻もまた花弁へ花を近づけてすん、と匂いを嗅いでみたり。空中に霧散すると柔らかな香りだが、花を近づけると中々濃厚である。
「……僕もお酒を作らないといけなかったのでしょうか」
 ふと幻がそう呟いたのは、彼女がつい最近式を挙げたばかりだから。花嫁になるためのルールがこのようにあるのであれば、自分も予め作って置かなければいけなかったのかもしれない。
「必須ではないけれど、きっと作ったら幸せになれるのよぉ。2人でできあがったお酒を飲んだりして、ね?」
 アーリアが小さく笑いながら掌にフィリゲットを乗せる。花はころんと可愛らしくその掌上で転がった。
「そうですね……僕も後でご一緒して作らせて頂けないか、聞いてみましょう」
 花嫁がこれから作るというのなら、一緒に作らせてもらえば良い。そのためにもたくさん材料を集めなければ。
「此れで全て、でしょうか」
「ええ。あとはこれを──」
 ファミリアーへと布袋を下げようとしたアーリアは目をパチリ。首へかけているのだが、流石に飛びづらそうだ。
「それなら私が持って行くわ。口を閉めればそうそう持って行かれることもないだろうし」
 袋ごと持って行かれないよう警戒がひつようだが、しっかり持っていれば中身を盗られるようなことはあるいまいとアルメリアが布袋を受け取る。ふわふわと匂いの漂う口をきゅっと締め、一同は次の採集へ向かうべく歩き出した。



「次は水辺……だね」
「こっちのほうみたいねぇ」
 引き続きファミリアーで空から水辺を探すアーリア。他の者も植物や動物たちと意思疎通しながら進んでいく。次は植物たちにも関係のある水であるからか、何となくであるが方角を示してくれるようだ。
「あ、聞こえてきた」
「しかし……いますね」
 ルーキスが水の流れる音を耳にして、同時にテレンスが敵意を感じ取り眉根を寄せる。

 敵意が向いているという事は、気づいているという事だ。双方に邪魔者を認識し、排除しようと動き出す──そんな中、誰よりも早く蝶が動いた。
「──邪魔しないでいただけますか」
 冷ややかな視線。その奇術が見せるのは愛おしく思うモノ。至近距離から放たれたそれにワニの1体が動きを止める。その瞳は何を見始めたのか──ワニは敵味方関係なしに暴れ始めた。
「真っ赤に熟れたベリーも、甘く香る花も。急がねばなりますまい」
 未散の掲げる宝石剣が放つは呪い。より確実に数を減らすため畳みかけていくそこへ、敵に厄介な技を使わせんとテレンスのピューピルシールが放たれる。
 ワニがのそのそと向かってくるそこへ颯爽と立ったのはアーリアだ。その手に持つのは先ほど採取したフィリゲット。
「ほらほら、欲しければ奪ってごらんなさぁい?」
 これ見よがしにフィリゲットを持って振れば、その甘い香りがワニを引き付ける。凶暴な牙が一斉にアーリアへと向いた。その鋭利な刃を、太い尻尾を避けて受け流してやりすごす。見た目の凶暴さ同様に一撃は重いが、さりとてここで引くわけにはいかない。
 そこへ走る三筋の雷撃。ルーキスはにまりと笑みを浮かべる。
「こっちだって一方的に殴られる趣味はないんだよ」
「まあ、ここまで集まれば飛んで火にいる夏の虫ですね」
 火ではなく雷撃ですが。そう告げるのは自らの纏う装甲で低空飛行する鶫。アルメリアもまた次の魔術を練りながら前髪越しに敵へ視線を向ける。
「悪いけど負けられないのよ」
 だって依頼だもの。
 小さく呟いたアルメリアはこの敵が無害なのか、有害なのかを見極めんとしていた。これでも森との調和を重んじるハーモニアである。食事中に乱入されたから気が立っているだけで、実際は無害なのであればここで殲滅する必要はない。それどころか殲滅しない方が良いまである。
「素直に撤退してくれるなら命はとりませんから……なんて、聞いてはくれなさそうです」
 クラリーチェも制止の言葉をかけながら相手の様子を見る。殺気だった彼らは1歩も引く姿勢なく、戦闘で美味しそうな匂いをまき散らすアーリアへ特に敵視を寄せているようだ。
「無害……とは言えないな。やらなきゃ喰われそうだ」
 シャルルも感情の読めぬ瞳でワニを一瞥し、身にまとった蔓薔薇を揺らす。と、そこへ──。

 キィ!
 キ、キキッ!

 後方から声。幻がすぐさま動き、花の匂いにつられたのか群生地ではなくイレギュラーズへ向かってきたサルを足止めする。すり抜けた何匹かを前で相手取るのはルーキスだ。
「いやはや、前線で身体張るってのも大変だ」
 通常は後衛職なのだが、こうも皆揃って後衛となると誰かが前へ出ねばならない。アーリアもそのようなタイプであった。
「ぐずぐずしているとお酒が不味くなって、神様が怒っちゃうわよぉ?」
 神の怒りともいえる呪いを与えて女は笑う。全ては酒の為、依頼の為、花嫁の為。こんなところで負けていられるもんですか!
 フィリゲットの布袋を背負うアルメリアは先ほどと変わらず、味方を打たぬ雷撃を放ち続ける。そこへ近づいてくるサルを未散は衝撃の青で吹き飛ばした。
「此れはあなた方の物ではありません」
「手出しはさせませんよ」
 畳みかけるようにテレンスが2丁の短銃を構えて放つ。素早い動きも彼の動体視力から完全に逃れることは不可能だ。
「形勢不利でさっさと逃げて欲しいところだけど……」
「ええ。それだけの実力を見せなければ、退かないでしょうね」
 シャルルの言葉を引き取ってクラリーチェが前線へ立つ者の傷を癒す。可哀想だから、できることなら逃げてくれた方が良いのだが。
 幻はサルの1体をブロックしながら、無数の蝶を敵へと放つ。青の群れは視界を隠すように、纏わりつくようにサルへと群がった。
 複数の雷撃が地を、そして川辺を走っていく。撃たれて倒れるモノも立ち上がるモノもいるが、ようやく半分は削ったか。退くか退かないかの睨みあい──空気の読みあいが数瞬あったのち。
 ぞろり、と動き出したのは敵だった。川を下るモノ、木を渡っていくモノ様々ではあったが──この一時ばかり、残った勝者に甘美な実を譲ったのである。



「此れ位で、足りますでしょうか?」
 フィリゲットを入れた袋と、ビルベリーの詰まった袋。それを見せる未散に依頼人の幻想種は笑顔を見せて頷いた。
「早速取り掛からなきゃ! 皆さんもどうぞ、見ていって」
「一緒に作ることはできるでしょうか?」
 幻の言葉に幻想種は勿論、と首肯する。2人は早速準備をして制作に取り掛かった。
(あなたさまはお強い。ですから、頑張って)
 困難に真っ向から立ち向かい、人を頼ることを知っている彼女。きっと酒を作り、幸せに暮らすことができると未散はその様子を見ながら心の中でエールを送る。
 テーブルに材料を広げた幻想種と幻は花嫁の作る酒、通称『花酒』の制作に取り掛かった。クラリーチェやアーリア、アルメリアといった依頼に携わった面々は傍らの邪魔にならないところでそれを眺める。最も、アルメリアは深緑出身の幻想種であるが──他集落の出来事というのは、中々耳に入ってこないらしい。そんなわけで同じ国でありながらも異なる習慣に彼女は興味津々なのであった。
 まずは砂糖を瓶へ。その後フィリゲットとビルベリーを決められた配合、決められた順で入れてから濃度の高いアルコールで浸していく。瓶のふたをしっかりと閉めれば──。
「……よし。あとはこのまま暫くつけておくだけだよ」
 幻想種がどう? と幻の方を見る。彼女もまた大丈夫だと言うように頷くと、2つの瓶は保存用の部屋へ移された。これで作業は終わりだ。あっさりしているかもしれないが、本当に作業自体は終わりなのである。
「花嫁様は美味しくできましたか?」
「きっとね。正確なところは開けてからのお楽しみ、だけれど」
 美味しくなる製法で作ったのだから理論上は想定通りの味になるはずだ。あとは温度や湿度を適切に管理しなければならない。
「その管理方法、教えて頂ければ僕1人でも作れますか?」
「もちろん。羊皮紙を用意するね」
 メモが必要だろうから、と書くものを用意してくれた幻想種に礼を言い、製法のポイントを書き記していく幻。ここに書いてあることだけでは完成しないが、あとは先ほど一緒に作らせてもらった時のことを思い出せばできるはずだ。
「ありがとうございます。それと少し早いですが、ご結婚おめでとうございます」
「ふふ、ありがとう」
 くすぐったそうに笑う幻想種はとても幸せそうで。そんな彼女に自身がつい先日結婚したことを伝えれば、目を丸くした。
「そうだったの! 貴女もおめでとうだね。お幸せに」
「ありがとうございます。今度このお酒を作ってみますね」
 もらった羊皮紙を胸に微笑む幻。鶫はそんな2人の姿を見て目を細める。
(……羨ましいですね。本当に)
 鶫も1人の女である。こんな『いつか』を想わずにはいられない。
 幻想種は花酒を置いた部屋を出ると、そうだと手を叩いてイレギュラーズたちに試飲を勧めた。
「これまでの花嫁たちが作った花酒、沢山あるんだ。折角だから味見していってよ」
「まあ! 楽しみだわぁ」
 味見したいと思っていたアーリアは渡りに船と満面の笑みを見せる。そんな彼女にテレンスがちらりと視線を向けて。
「……飲み過ぎ注意ですよ?」
 と、あらかじめ釘を差しておくことを忘れない。べろんべろんになられてからでは遅いのだ。
 うふふもちろんよぉと頷くアーリアであるが、さあ果たしてその注意は守れるのか。
 まだ飲める年齢ではないから、とクラリーチェやアルメリアたちは試飲を辞退する。特にアルメリアとしては他集落の事を知る機会だっただけに惜しいものがあるかもしれないが、いかんせん年齢の壁は越えられない。
「代わりにビルベリー、ちょっと食べてみていい?」
「どうぞ。沢山持ってきてくれたから余ってるよ」
 示された先には籠に盛られたビルベリー。花酒に浸かってすっかり量はなくなってしまったが、少量口に入れるくらいは残されている。
「甘いわぁ」
「しっとりとした甘さなのですね」
 こちらは花酒を飲んだ感想だ。アーリアがほぅと息をつき、幻が目を瞬かせて揺らめくグラスの中身を見る。ほとんど色もついていない液体だが、恐らくは花の甘さが染み出ているのだろう。
「これって買って帰れる? 彼へ土産にしたいんだけれど」
 ルーキスの言葉に幻想種は少し考える素振りをして、少し待つように告げると部屋の外へ出ていく。暫しして彼女が抱えて入ってきたのは先ほどの花酒──実際に作っていたものよりは随分小さい小瓶だった。
 外へ出すことを考えて少しずつ試作をしているうちの1つだと言う彼女は、これをイレギュラーズへ安く売れると告げる。その安さはもちろん、まだ『試作品』だから。
「あ、じゃあ私もいいかしらぁ」
「……ぼくも、良いでしょうか」
 ルーキスの買うという言葉につられたのはアーリアと、未散である。相手がいるのかと視線が集まった彼女は視線をふらりと彷徨わせて。
「慕情等からはかけ離れていますが……でも。此の香りの良さを、教えてあげたい人は、居ます」
 その教えてあげたい気持ちが果たしてどんな感情へ繋がっていくのかは、きっと彼女と相手次第。
「私もいつか……なぁんてね?」
 酒の入ったグラスを小さく揺らしながらアーリアが笑う。そう、いつか。幸せなその時を迎えたい。その時にはこの深緑の酒も流通経路が確定して、混沌中の花嫁へと届けられるのかもしれない。

 そんないつかを想って、グラスを揺らした。


成否

成功

MVP

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。

 ご結婚おめでとうございますの気持ちを込めて、貴女へ称号を。素敵なお酒を作れますように。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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