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シナリオ詳細

骨は誇りを知っている

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●故郷をもとめて
『私が死んだら、故郷の土に埋めてください。オアシスのほとりにあった、あの活気にあふれた街の土にに。誰もが生きることに全力で、いつも自由にはしゃいでいた、あの土地に』
 霊媒師ティモンズが手をかざして延べたのは、そんな依頼人の発言だった。
 ――依頼人は『遺骨』。
 ――依頼内容は『護衛』。
 ――目的地は、彼の故郷。

 依頼人の名はバルテレミー。ラサのオアシスで生まれ、幻想貴族の執事として長年尽くした男である。
 ヒトとしては十分な年月を生き、眠るように亡くなった。
 生まれたときから彼がそばに居たという幻想貴族エドゥアール氏は彼の霊体から『遺言』を聞き、彼の望むとおりにしよう……と、エドゥアール氏はローレットへ依頼を出すことにした。
「やあ、あなたがたがローレット・イレギュラーズ? もっと屈強なソルジャーみたいなひとばかりだと思ってたけど、いろんな人達がいるんだね」
 そういって応接間で歓迎するエドゥアールは、美しい陶器でできた骨壺をテーブルへと置いた。
「彼がバルテレミー。君たちの依頼人……ってことになるのかな。
 霊体は休眠状態に入ってしまって、もう気持ちを聞くことはできないけれど、彼の最後の……いや、死後の遺言が『故郷に骨を埋めたい』だったのさ。
 彼は我が家に長く仕え、僕のよき友でありよき従者だった。彼には勉学や作法だけじゃなく、人生や哲学を教わったよ。だから彼が望むことは、なんでもかなえてやりたい。
 といっても……彼が最終的に望んだのは三つだけだがね」
 エドゥアールは苦笑して、指を三つ立てた。
「ひとつ、故郷に骨を埋めること。
 ふたつ、僕が誇り高く誠実な貴族でいること。
 みっつ、ブロッコリーを食べられるようになること」
 苦笑をより一掃深くして、『よけいなお世話だよね』といってお茶請け(?)に出されたブロッコリーにマヨネーズをかけはじめた。

●骨の護衛
 イレギュラーズはこれより馬車にのって旅立ち、バルテレミーの遺骨を彼の故郷へ……性格には彼の家族が暮らすラサのオアシス街へ届けることになる。
 道中の過ごし方はそれぞれに工夫するとして、特に気になるのはウジェーヌ砂漠地帯を通過する際に出没するというモンスターや、その先を縄張りとしている山賊への対応だろう。護衛を雇う必然的理由、ともいう。
「モンスターに関する情報は、君の所の情報屋が調べをつけたはずだ。
 過去にいくつも実績をもつ君たちのことだから、疑ってはいないけれど、バルテレミーの遺骨に傷がつくようなことは避けてくれよ? 僕の誇りを願ってくれた、最高の友なんだ」
 最後に彼はよろしくねと言って、前払いのコイン袋をテーブルに置いた。

GMコメント

■オーダー
・成功条件:遺骨の護衛。バルテレミーの故郷まで無傷で運搬すること。

■道中の障害
・カバネハイエナ
 砂漠の怨霊たちによってゾンビ化したハイエナ型モンスターの群れ。
 生者を見つけると襲いかかり、APを吸い上げるなどして死に至らしめる。
 攻撃には『Mアタック』や『HP吸収』といった効果がつき、戦闘時APに余裕を持たせて戦うのが鉄則となる。
 出没ポイントは砂漠地帯。
 完全に気配を消しつつ砂からボッと這い上がって突如現れるので、戦闘をさけて移動するのはほぼ不可能。だが再起動に数秒はかかるらしく奇襲を仕掛けてくることはないらしい。
 また、生命力があふれている人間を優先的に狙う習性がある。
 この点はほぼ言ったもん勝ちなので、プレイングで生命力をアピールするとヘイト管理が楽になるだろう。

・山賊
 砂漠地帯をある程度抜け、オアシス街の近くまできたところをナワバリとしている山賊。
 こちらは接近に気づくのが容易であるため、普通に対応可能。
 人数は少ないが戦闘力が結構ある。仲間と協力し、出し惜しみなしで戦おう。

※HPAP管理について
カバネハイエナとのバトルと山賊とのバトルにはながーく間が開いており、この間にHPAPを最大で120%回復することが可能です。
回復方法については『キャンプ』の項で後述します

■キャンプ
 道中、休憩できるポイントがあります。
 テントとはったり料理をしたり語らったり音楽をかなでたりして心と身体の回復をはかりましょう。
 ここでどのくらい回復できたかによって、HPAPの回復量が決定します。
 極端な話、全員砂の上で寝転がって飲まず食わずでいると後半の最大HPAPが50%になるペナルティがつきます。逆に十分な休息がとれたなら、最大HPAPが最大で120%まで回復(増加)します。

 馬車は二台体制で、それぞれでPCが御者を担当することになります。
 べつにどっちの馬車にのっても作戦的には一緒なので振り分けは不要です。
 また、索敵や警戒にプレイングを振ると他のことができなくなると思うので、『全員充分に警戒している』ものとして判定します。つまりプレイング不要です。心情面やバトル面にふってください。

■ゴール
 オアシス街にあるバルテレミーの家族へ遺骨を届けます。
 同時にこれは訃報を告げることにもなるので、バルテレミーの妻と息子に会いましょう。
 妻は75歳前後。息子は40歳前後です。どちらも結構な年なので、バルテレミーの死についてちゃんと受け止めてくれるでしょう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • 骨は誇りを知っている完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀

リプレイ

●ウジェーヌ砂漠にて
 陽光の激しい砂漠の丘を、砂を払い二台の馬車が走っていく。
 車輪の音か人の生命か、馬車の気配を察知した獣の耳がぴくりと動き、風にはこばれかぶり放題になっていた砂を押しのけて立ち上がる。
 自然に流れる砂が全身を埋めてしまうほど長いあいだ微動だにしなかったその魔物を、砂漠の民は『カバネハイエナ』と呼んだ。

「カバネハイエナを確認。皆起きろ、戦闘だ」
 御者席からライフルのストック部分でノックをして、乗客達を目覚めさせる。
 座椅子つきの豊かな幌馬車には三人ほどの仲間達と折りたたみテントや鍋といった旅道具をコンパクトにまとめた荷物類が収められ、さながらキャンピングカーの様相をなしていた。
 座椅子に腰掛けていた杠・修也(p3p000378)が目を覚まし、革製の吊り下げ窓をまきあげた。
 目に痛いほどの陽光と、それに混じるように見える黒ずんだ四足動物の影。
「あれが、そうか。馬車を止めるのか?」
「いえ、このまま突っ切りましょう。わざわざ歓迎パーティを開いてあげる義理はないわ」
 『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)は指輪に優しく口づけすると、手を馬車の外へと着きだした。指輪がカッと紅く光り、回転をかけながら大鎌へと変化していく。
 一度手の周りでくるりともてあそんだのち、柄の中心を握りしめる。
「近づくそばから迎撃よ」
「賛成!」
 『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)は馬車から大きく身を乗り出し、側面の長物置き場に固定していた槍を取り出した。
「オレは一旦下りて馬車を守りながら走るから、援護よろしくな!」
 ぴょんと馬車から飛び降り、砂を巻き上げて着地。
 待ってましたとばかりに食らいついてくるカバネハイエナを槍で薙ぐことで物理的に払うと、馬車と同じスピードで横を走り始めた。
「ハイエナさんはこちらよ、ほらほら……」
 馬車から手招くように自己アピールをすると、飛びかかってきたカバネハイエナを鎌の柄で防御。武器を抑えたと思わせておいて、弾丸のように発射されたペンデュラムの先端部がカバネハイエナを貫いていく。
「エネルギーを吸われるのが厄介ね……」
「悪いがしばらく耐えてくれ」
 修也は幌馬車の側面から身を乗り出した状態で腕を突き出し、グローブの甲で印をきることで仕込まれた魔術式の一部を発動。手のひらから伸びた段階式魔方陣が複数のレンズをもつ望遠鏡のごとく魔術砲身を作った。
「なにぶん、俺は魔力を吸い尽くされるとまずいんでな」
 激しい魔力が放出され、こちらへ接近しつつあるカバネハイエナ複数体を一息の内に破壊。
「ヘイトコントロールも完璧じゃないんだ。スタミナをセーブするのを忘れるなよ?」
 ラダは馬車を操作しつつも、器用にライフルを片手で構えて発砲。
 こちらに気づいて砂から飛び出したばかりのカバネハイエナの頭を的確に破壊した。

 ラダの馬車が戦い始めたのを確認したのを確認して、『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)もまた戦闘準備を始めた。
 腕の粘膜を膨張させ『巨蟹掌』の技を発動。巨大な甲殻類めいたはさみを作りだし、飛びかかってくるカバネハイエナをキャッチ。強引に握りつぶす。
「できるだけ引きつけるつもりだが、そっちに流れたらたのむぞ」
「はーい」
 ぽにぽにと音をたててバウンドしてみせる『ひとかけらの海』ロロン・ラプス(p3p007992)。
(襲撃者の遺体はもらってもいいみたいだったから、がんばる気になったよ。
 砂漠や荒野はボクにとってもあまり心地のいい場所ではないけれど、ガマンガマン)
 体内で魔術のスパークをおこすと、口のように開いた仮装銃口から放出。
 馬車へ群がろうとするカバネハイエナを打ち抜いていく。
 座席に腰かけ、膝の上に骨壺のつつみを載せていた『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)。
「『依頼人』がひとかけらでも砂漠に散ればおおごとですからね。少し、ここで待っていてください」
 依頼人の骨壺を座席にベルト固定すると、未散は立ち上がって黒曜石の短剣を抜いた。
「故郷迄の束の間の旅路の快適と安全を保証致しましょう。何せ……葬儀屋ですから」
 斬撃の動きで放たれた魔術の衝撃が、駆け寄るカバネハイエナをはじき返す。
 一方で『冥刻の翡翠』チェレンチィ(p3p008318)は馬車から飛び降りて走りつつ、両側面から飛びかかってきたカバネハイエナをナイフによって切り払った。
 ちらりと目を動かし、素早く反転。
 後方から飛びかかってきたカバネハイエナにナイフを投擲。喉にナイフが突き刺さったカバネハイエナはギャッと鳴いて墜落した。
「このくらいで良いでしょう」
 チェレンチィはナイフを回収すると美しい青緑の翼を広げ、走る馬車へと舞い戻っていった。

 馬車は無数のカバネハイエナの残骸と轍の跡だけを残して走り去っていく。
 車輪の跡も、カバネハイエナの残骸も、きっと数日とたたず砂に埋もれて消えるだろう。

●砂漠にたいた炎は思い出の中だけに残る
 満天の星の下、チェレンチィは黙々と仮眠用のテントをはっていた。
 そばではたき火を囲んで仲間達が談笑している。
 話題は必然、今回の風変わりな『依頼人』の話になった。
「遺言を叶えてあげようとする主人に、骨になって帰ってきてもあたたかく迎えてくれるであろう家族……。
 このバルテレミーという御仁、大層『運が良かった』のですねぇ。羨ましい位に」
 僕にはどちらもボクには縁のないものですから、と小声で加えて振り返る。
 ホットティーのはいった金属カップをふーふーしながら、風牙が『そうだなー』と白い息を吐いた。
 たき火の上にセットされた鍋の中では、獅子肉や根菜がぐつぐつと煮えている。
「亡くなった執事さんの遺言を聞いてあげる、か。いい主従だったんだろうな……。
 そういうことなら任しとけ、ってな!
 執事さん。短い間だけどよろしくな。しっかり護衛させてもらうぜ!」
 隣に、まるで旅の仲間であるかのように置かれた骨壺。
 挟んで反対側のErstineは鍋をおたまでかき混ぜ、だし汁の味を確かめている。
「死者からの依頼だなんて不思議だと思ったけど……バルテレミーさんの遺志の為にも、その故郷に届けて、家族の手で埋めてあげましょ!」
 Erstineの手で椀にもられた猪鍋に、風牙はヤッホーといって箸をつけた。

 『良い、主従関係だったのでしょうね』。
 バルテレミーとエドゥアールの話を聞いた多くの者は、そんな風に彼らを表現した。
 貧富の差が激しく、貴族にヘイト感情が向きがちな幻想王国において、彼らのような話はやや珍しい。
 骨壺の『護衛』のみに八人つけるという時点でかなりの奇特さだが、その理由にこそ意味があるように思えた。
「生涯を以て尽くす……。簡単には、出来ない事だ。
 あなたさまは人生の師であり、時に無邪気な友であり、育ての親の様でもあると……エドゥアールさまからお話を伺って、思いました」
 たき火を囲む仲間達から骨壺を回収し、丁寧に絞った濡布で手入れをしながら語りかける未散。
 その横ではロロンがひたすらぽこぽこと浄水を作ってはスチールのボトルに注ぎ込んでいた。
「最後の願いかあ……」
 ロロンは何かを思い出すようにぽよぽよとしたが、その表情(?)からは何も読み取れなかった。
 それが悲しさなのか、切なさなのか、はたまた同情であるのか。明確に表面化しているのはせいぜい、食物の摂取と水の浄化に対する意欲くらいである。
「貴族にしては、紳士なのではないか」
 話を締めるようにそう言うと、愛無は馬車の荷台で目を閉じた。

 御者席に腰掛け、ライフルを肩に抱くようにして目を瞑っていたラダ。
 ふと薄目を開けて星を数え始めた。
 前にもこんな旅をした気がする。そうだ、ラサのオアシス跡へ幽霊の女性を送り届けた夜だった。
「故人を故郷へ送るのはこれで2度目か。
 いつか、私も同じ事を願うのだろうか……」
「この世界では、それほど珍しいことなのか?」
 客席で本を読んでいた修也が、眼鏡のつるとつまんでそんな風に問いかけてきた。
「どうだろうな。私が経験していないだけで、よくあることなのかもしれない」
「だとしたら救いのある話だ」
 修也は本を閉じ、小さくため息をついた。
「俺は一応、神職の家系に生まれてな。けれど霊の願いどころか、声の一つも聞いてはやれなかった。だから死後は誰にも思いを告げられぬまま消えるものかと思ったが……文字通り第二の人生がありうるとはな」
「誰もがこうなれるわけじゃない」
「分かってるさ。けれど、救いがある」
 命ある以上、自分たちもいずれは死に果てるだろう。
 そうしたとき、死後の意思を誰かがくみ取ってくれるかもしれない。
 そう思えるだけで、すこしは人生ってやつが明るくなるんじゃないか。
 ラダと修也はそんな風に考えて、そして深く眠りに落ちていった。

●命の価値
「止まれ、そこの馬車」
 ライフルを天に向けて連射し、馬車の前に立ち塞がる髭の濃い男。ウェスタンハットの下から、目を細めてこちらをにらんでいる。
 身なりの悪さから見るに、情報にあった山賊たちだろう。
「なんだぁ? 山賊っていうから斧とかロザリオとか持ってんのかと思ったけど」
「知識が偏りすぎだ」
 客席から顔を出した風牙と、馬車を止める愛無。
 ぽよぽよしながら流れ出るロロンと、その反対側からぴょんと飛び降りる修也。
「山賊は山賊でも西部劇のやつか」
「せいぶげき?」
 再び鎌を装備し、馬車の前へ出るErstine。
 彼女たちを一通り観察するなり、山賊はライフルをこちらに向けて言った。
「男は身ぐるみを置いて去れ。女は――」
 言い終わるより早く、風牙の跳び蹴りが山賊へと炸裂した。
 反射的に発砲したライフルが空へと吠える。
「ここまできたってのに、お呼びじゃねーぜ! 愛無!」
「ああ……」
 愛無は全身の粘膜を膨張、展開すると大量の目を持つ蛇のような物体へと変化し、呪われた目で山賊をにらんだ。
 途端に血を吐いて倒れる山賊。
 仲間がやられたことで攻撃に出た山賊だが、腰から拳銃を抜いたところでロロンが自らの一部を擬似的に作成して発射。
「今のボクのとっておきだ! 晩ご飯になれー!」
 見事に命中した水弾が山賊の拳銃を腕ごと切り離し、悲鳴をあげた山賊めがけて修也が魔術砲撃を発射。
「てめぇ……!」
 ナイフをぬいた山賊が修也へ急接近をかけるが、グローブをはめた手でナイフを『握る』ようにしてロックすると、至近距離から掌底で魔術をたたき込んだ。
「砲撃した相手に近づけば勝てると思ったか。戦闘経験がだいぶ浅いらしいな」
「けど、油断は禁物よ。懲らしめてあげましょ」
 Erstineは自らの影を操ると、鎌をより巨大な鎌で覆い、獣のごとく大顎を開いた鎌の怪物が吹き飛んだ山賊の下半身を食いちぎっていく。
「やりすぎたわね、ううん……」
 あまり直視しないように布で口元を覆って顔を背けるErstine。
 そんな彼女たちに、山賊の一人が機関銃を乱射。
 激しい銃撃に晒されるも、馬車の裏からライフルで狙いをつけたラダが呼吸を止めて一瞬――不気味なまでに引き延ばされたコンマ一秒の隙間に弾頭をたたき込み、山賊の首から上を消し去った。
「死して尚尊敬され、故郷に骨を届けられる者もいれば、こうして害虫のように駆除される者もある……か」
「命は等価ではないのでしょう。悲しいことですが」
 未散は真っ青な架空の翼を広げ、山賊達『だけ』を豪快になぎ払っていく。
「ち……畜生!」
 死にたくねえ。そう叫んだ山賊が武器をすてて走り出すが、馬車の影に隠れていたチェレンチィが飛び出し、山賊の足首を切りつける。
 派手に転倒した山賊を一瞥すると、嘆息してナイフを放った。
「どうやら貴方は、『運が無かった』ようで」
 来世にご期待ください。そう祈りのようにつぶやいて、山賊の首に刺さったナイフを抜き取った。

●帰りを待っています
「天に召されたバルテレミーさまの平安をお祈りいたします」
 未散と愛無は身なりを整え、バルテレミーの家族たちへと頭を下げていた。
 骨壺を胸に、老いた妻は涙を流し、長年その面倒をみていたであろう息子もほろりと頬に涙を伝わせていた。
「毎年、手紙とお金だけが送られてくる父でした。けれど……」
「ええ」
 愛無はにっこりと笑顔を作ってみせた。
「此処に帰る事が、依頼人が、なにより望んだ事でした」
 普段とは異なる優しく丁寧な口調でそう述べて、再び頭を下げてからきびすを返す。
 馬車をとめていたラダが、こちらを見た。
「早めに辞そうか。ここからは家族の時間だろうから」
「わかっていますよ。あ、そうだ……」
 馬車に乗り込む寸前、未散は愛無へ問いかけた。
「ブロッコリーは好きですか?」
「美味いな」
「あはは。ぼくも、実は嫌いなんです。だってなんだかもさもさしてるんですもの!」
 苦笑と照れ笑いを混ぜたような顔をして述べる未散に、愛無は『いつも通りの』無表情でそうかとだけ返した。

 馬車は町を去って行く。
 死を尊ばれた者。死を打ち棄てられた者。死を奪われた者。そんな道筋をたどりながら、もときた町へと帰っていく。
 相変わらずぽよぽよしたロロンや、帰り道は読書に費やすことにした修也や、なんでもない会話で時間をつぶす風牙やチェレンチィたちを乗せて。
 そんな馬車の中、Erstineはぬいぐるみを抱いてぽふんと顔を伏せた。。
(まだ、『他人事』なのね……私の中では)
 死には形がある。万人にそれは平等ではなく、大きさもやわらかさも、そして誰が手に取ってくれるかも異なるという。
(私もこの世界では『死ねる存在』なのよね……まだ、死ぬつもりなんてないけど)
 そして多くの場合、死は想いを持ち去ってしまうらしい。
 全てを過去にして、未来へは持って行けないらしい。
「捨てられない」
 ぬいぐるみを強く抱いて、Erstineは目を閉じた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――任務完了

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