PandoraPartyProject

シナリオ詳細

戦え踊れ、漢女達

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●愛の伝承
 鉄帝のとある集落に、ある伝承が語り継がれていた。

 想いを通わせ合い、夏の始まりに結婚を約束した男女がいた。
 しかし双方の家の事情から反対され、このままでは離れ離れにされてしまうと考えた男女は、想いを遂げるために行動に出た。
 男は逞しい体格を隠し、女の踊り子の身なりをして闘技場で戦い。
 女は美しい髪を捨て、男の戦士の身なりで闘技場を戦い抜いた。
 二人はついに決勝戦で剣を交え、公衆の前で婚約を告げ、多くの観客と参加者に見守られてついに結ばれたのである。
 めでたし、めでたし。

●強さこそ正義
「その集落では結ばれた男女にあやかって、毎年夏の始まり頃に『女装の男と男装の女が戦い、最も強かった男女が戦い決着をつけると幸せになる』……という行事があるそうで。ええ。近頃は実力だけでなく、装いの出来も競うようになってきたとか」
 力を重視する鉄帝には珍しく装いにも重きが置かれ始めている行事ではあるが、やはりイベントのメインは闘技なあたり鉄帝である。
 依頼を紹介した『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)が続けて言うには、この女装男装は似合っているかどうかはあまり重視されないらしい。女装ふりふりドレス男に髭が生えていようが、男装プリンス女の胸がはち切れてボタンが飛んでいようが、最終的に強ければ全て許される。負けてもリンチされる訳ではないが、速やかに女装・男装を解かないと衣装を剥かれる……らしい。
「ただ、その集落というのが少し辺境にありましてね。外からの情報があまり入らないので、衣装がマンネリ化していて面白みが無い、というお話でした。あ、これはその集落のある娘からの、内々のご依頼なのですが」
 依頼の本題はここからだ。
 その娘は、名をエリザという。今年のイベントでどうしても勝ち残りたいらしいのだが、特に美人でもない、腕が立つわけでもない自分では他の参加者達に対して勝ちを見出せないという。集落ではこの日のために鍛錬を重ねている娘もいるくらいで、エリザもその一人ではあるのだが、彼女は咄嗟の判断が苦手、何度も同じ負け方をする、欠点がわかっても直せない、自分に合った戦い方がわからない……等々、多くの問題を抱えているらしい。
「で、ですね。各地を渡り歩いている皆様なら、きっと多様な衣装の知識と、戦いの知識をお持ちだろうと。その知恵と技術を学ばせて欲しい、というご依頼ですね」
 話を聞いていたイレギュラーズ達が徐々に納得し始める中、「依頼主が女性なら女性だけで向かった方が役に立つのでは」という声もあった。それに対して、にこりと笑って「ご心配なく」と返答するチャンドラ。
「女装男性役でのご助力も頂けると有難いそうですよ。どうにも緊張してしまう方のようで、本番前に心の準備もしたいと。可愛らしい方じゃないですか」
 そう言って説明を締めるチャンドラの笑顔は、とても、とても――楽しそうだった。

GMコメント

旭吉です。
mkmk髭女装も、ptpt盛男装も、もちろん王道も。
色んな異性装が見たいのです。

●目標
 娘を様々な観点からアドバイスし、闘技イベントで勝ち抜けるようにしてやる。

●状況
 夏の初めに女装男と男装女が戦う闘技イベントがある鉄帝の集落。
 シナリオ開始時点ではイベントまで2週間ほど。
 衣装や戦闘についてアドバイスしたり、実地訓練をしてあげたりして、彼女が勝ち抜けるようにしてあげてください。
 異性装をする場合、性別不明・なしの方は、外見性別からより離れた衣装か、敢えて『普段と変わらない』点をアピールする衣装でもいいでしょう。
 ・イベント詳細
  基本的には男同士、女同士のカードになるよう組まれ、決勝戦は必ず女装男と男装女のカードになるようになっている。
  使われる武器は本物。相手を殺す必要は無いが、死者が出る事もある。
  衣装の出来に対する評価は勝敗の裁定にほとんど影響しないが、相手を心理的に揺さぶる事はできるので無駄ではない。
  当日はドレス姿のマッチョ男とか、髭のスパルタン女とかいる。

●人物
 エリザ
  外見20代頃の若い娘。普段から鍛錬しているためそれなりには強いが、本番に弱い。臨機応変とか、咄嗟の判断とかも難しい。剣で挑むつもりだが、本当は剣が向いていないのではと悩んでいる。
  取り立てて美人というほどではない。
  勝ち抜いて結婚したい相手は優しい髭マッチョの彼。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 戦え踊れ、漢女達完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

リプレイ

●蛮族鍛錬
「命短し恋せよ乙女! 恋する乙女は片手で龍をも殺す!!」
 開幕から激しい。長谷部 朋子(p3p008321)にとって龍殺しはレディの嗜みなのである。多分。
 とは言え、朋子はこの上なく真剣にエリザのことを考えていた。
「悩める乙女のラブパワーを感じたからには、あたしも全力で応えなくっちゃね!! 花の女子高生パワーを見せてやる!!!」
「それにしても、恋人を戦いで得るとは……なんとも鉄帝らしい求愛の儀式で御座いますね」
「やってることは奇祭以外のナニモノでもないんだけれどね!」
 エリザの応援に燃える朋子に、夜乃 幻(p3p000824)やイグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)も大筋では同意していたが、やはり気になるのはその内容である。鉄帝出身のイグナートですら奇祭を認めるほどだ。
「僕でしたら、こんな力技の世界で恋など、きっと無理です。幻想で恋してよかったです……紆余曲折はありましたが、もう少しで結婚式なので御座いますよ」
 仄かに頬を染めながら幸せそうに語る幻。いわゆるノロケというものであるが、如何なる形であれ恋を叶えた彼女の姿はエリザにとっては羨望の的となったようだ。
「おめでとうございます!! あぁー、私もリチャードさんと今回結婚できるかなぁ……」
「大丈夫! その為にオイラたちも頑張るからね!」
 祝福しつつもどこか心許なさげなエリザに、チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が胸を張る。どうやらエリザの意中の相手はリチャードという名のようだ。
「そうですね……よろしくお願いします!」
 エリザは両手で自分の頬を叩いて気を引き締めると、勢いよく頭を下げたのだった。

●敵情視察
 戦略とは、まず敵を知る事から始まる。
 シルヴェストル=ロラン(p3p008123)は他のイレギュラーズ達とは別行動をとっていた。
(混沌の出来事には、もう余程のことでは驚かないと思っていたんだけどね……。鉄帝という国が独特すぎるのかな……)
 まあ面白そうだからいいか、と。他所からの観光客に扮していた彼は、半分は真面目にイレギュラーズとして。半分は本当の意味での観光も兼ねて村を観察しながら、話を聞けそうな村人を探していた。
(というか、この村本当に筋肉だらけだね? 老若男女みんな……)
 ふと、気合いの声と共に鍛錬している若者と師匠らしき一行が見える。頭突きで岩を割る鍛錬の最中のようだ。
 ものの試しに師匠の方へ話しかければ、途端に始まるのは弟子自慢。他の候補も観察したいが――もう少しの間は、この怖い頭突きを見せつけられそうだ。

 同じ頃、ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も情報収集に村を回っていた。こちらは対象を女性に絞っての観察だ。
(毎週ラド・バウで試合しておりますが、他人を勝たせるとなると勝手が違うモノなのです)
 強い女性候補の話を聞いて回ったところ、共通して数人の名前が挙がった。今はその中の一人について、練習風景を密かに観察している最中だ。
(彼女は……背は低めですが、鋭い当て身が強力……)
 事実、練習相手になっているのは彼女の兄らしいが、的確に極められる肘や足技の前に屈強な兄が膝を付いている。これは要注意だ。
 注意点と、対策をいくらか考えた後。ヘイゼルは観察対象を次へと移した。

●自分を信じる心構え
 初日に怖い頭突きに付き合わされたシルヴェストルだが、その後は順調に情報を集められた。ヘイゼルの情報と合わせると、目指すべき方向が少しずつ見えてくる。
「『毎回新鮮な衣装が見れるから、新鮮ですよね』って。敢えてカマかけてみたけど、そっちに掛ける時間を筋トレに回したいって人が大半だったね」
「得物は様々でした。有力候補は皆さん男性との決勝戦を意識しているのか、重量系の武器も見受けられました。槍とか斧とか」
 二人の情報を聞くと、エリザが何とも言えない顔になる。
「か、勝てるのかなぁ……私……」
「心配は無用だエリザ殿。エリザ殿も得意な武器を選ぶといい」
 ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)がごろりと転がしたのは、様々な武器。ブレンダが自ら鍛えた自信作ばかりだ。
「リーチで優れる槍に対するならやはり槍だろうが、棍もいい。剣で受け流す事もできるが、得意ではないと聞いているからな。アドバイスくらいならできるぞ」
 実際に手に取らせようと勧めると、エリザは興味を持っていくつか振るって試していた。
「ブレンダさん、盾はある?」
「片手剣とセットのものなら。そうだな、盾もいいかも知れない」
 チャロロに言われてブレンダが簡素な盾を出すと、それをざっと見たチャロロがエリザに提案する。
「エリザさん、避けきれないならいっそ相手の太刀筋を受け止めて弾くのもひとつの手なんだ。当然、それだけの力は必要だからきっちり鍛えておかないとだけどね」
「盾ごと破られたらどうしよう……ううぅ自信無くなってきた元から無いけどぉぉ」
 決して華奢ではない肉体を持ちながら、どん底まで落ちた自信に頭を抱えて丸まってしまったエリザの姿は、実に小さく情けなく見えてくる。
「わかってるじゃんエリザさん!! 超偉い!!」
 その彼女を力強く褒めたのは、開幕から強火だった朋子だった。
「どうにも本番に弱い、アドリブも苦手、使ってる剣にも迷いがある、と……。それは、エリザさんが自分に自信が無いからなんだよ!!!」
「いくら鍛錬を積んでも、戦いではメンタルが弱いと勝ち抜けないと思う。劣勢になったときに踏ん張れるかどうか。それが、自信……大事な心のシンの部分じゃないかな」
 左手で己の胸を軽く叩いて、イグナートがエリザに足りない『自信』を口にする。鉄帝で拳ひとつで生き抜いてきた彼の言葉は、大きな説得力を持っていた。
「『自分はできるやればできる』! はい復唱!」
「や、やればできる……」
「『絶対できる』!!」
「絶対……できる……」
「まずはそうやって、自分を応援するんだよ!!!」
 自信が無いから、劣勢になった時に踏ん張れない。そんな自分に対してますます自信が無くなってしまう、という悪循環。それを断ち切るにはまず、そんな自分自身を応援しなければいけない――朋子の言うこれが、存外難しい。
「自信が無いから勝てないってわかってるんだろ? つまり裏を返せば、自分の負けパターンを把握しているとも言えるんじゃないか」
 イレギュラーズ達の話を聞きながら、ここまで口を挟んでこなかった杠・修也(p3p000378)が顔を上げる。
「もちろん、本番でも狙われるだろう。相手は自信が無いから簡単にビビってパニクる、なんて知られてたらな。だが、敢えてそれを利用するのはどうだ?」
「利用……って?」
「ああ、カウンターってやつだね!」
 訝しげに尋ねるエリザより先に気付いたチャロロが手を打つと、修也はニヤリと笑む。
「カウンターを決めきれなくてもいい。それがあると見せつければ、欠点は欠点でなくなる。攻撃を誘うための餌だったのか、と警戒も引き出せるかも知れない。どうだ?」
「えっと、つまり……自信が無いように見せて、攻めてきた所を?」
「ああ。まあ、カウンターするにも気合いと根性は必要だけどな。タイミングと、逃げない心だ」
 ある意味、積極的に攻勢に出る時と同じか、それ以上の攻めの心が必要とされる。攻めに出るには、やはり確たる『自信』――『自分を信じる心』が必要だ。
「自分を信じる為には、自分で信用できる経験が不可欠で御座いましょう。自分でも成功できる、という経験が」
「どれほど強くても、全方位に隙が無く強い、と云う相手はほぼ居ないのですよ。相手の弱い処に此方の強い処を押し付けていく。それが出来れば勝てるのです」
 幻とヘイゼルが、強かに見つめる。
 僕達が、私達が。力になりましょう、と。

●鉄帝徹底精神
「奇抜でいいと思う。字はどうする? 皆で書くのか?」
「それもいいな。漢字なら任せろ、何せ俺は中2の時にこの世界に来たからな! エリザさんの気持ちを伝えられそうな言葉がいいか?」
「私は……その、戦闘以外のことはわからないから……本当に……」
 真白の衣装を前にブレンダと修也の密談がしばし行われた後、ブレンダはエリザと朋子の待つ鍛錬場へ向かった。

 朋子は姿勢から矯正していた。まず自分が手本を見せ、エリザに真似をさせる。それを繰り返し、決して叱らない事を意識して彼女を肯定し続けた。
「ほら背筋伸びた!! すごいじゃん背高いんじゃん!!!」
「おお。得物は片手剣と盾でいくのだな」
 鍛錬場へ来たブレンダが気付いたのは、エリザの両手にある装備。盾を前面に出して攻撃を防ぎながら斬り込んでいくスタイルに落ち着いたようだ。
「あれっ、なんで燕尾服なんて着てるの?」
「男装衣装だ。これでも剣を振るうには問題ない。私と一戦交えてみるか、エリザ殿」
 朋子に答えながらブレンダが剣を構えると、エリザも頷いて盾を構える。斬り込めばまず盾で防御し、片手剣で反撃してきた。
「踏み込みが甘いぞ!」
 ブレンダの剣に弾かれるエリザの剣。その隙を更に追い込もうとすれば、エリザは素早く盾で守る事を覚えていた。
「ふむ、なかなかの反応だ。素質はあるのではないか?」
「あ、ありがとうございます!」
 褒められれば、それが自信に繋がる。
 エリザの表情が、少し明るくなった。

 続いて相手になったのは、エリザに盾を使う事を教えたチャロロだった。
「盾は守りを固めるだけじゃない。盾を使っても、こんな風に……!」
 そう言って、頑丈そうな的を選んで盾ごと突進しブロッキングバッシュをきめる。
「すごい……こんな可愛い服が似合って体も小さいのに……」
「服? ああ、きみの特訓相手になるなら女装の方がいいと思って。なんか練達のテレビに出てくるキャラクターなんだってさ。……本当はちょっと恥ずかしいんだけど……」
 女装の感想を言われると少し目を逸らすチャロロ。その服はピンクが主体の、いわゆる魔法少女系のコスチュームである。ちなみにチャロロの女装はこれが初めてでは無い。可愛い子には何度でも女装をさせよ。閑話休題。
「さあ、オイラに攻撃を当ててみて! しっかり狙うんだよ」
「行きます! うおぉー!!」
 チャロロは初めの内は自分から攻撃はせず、回避に専念していた。エリザの集中力を高めるのと、攻撃に隙を生ませない為の鍛錬だ。
「まだまだだね。これじゃ避けられちゃうよ?」
 攻撃が当たらない内は少し厳しい言葉を投げもしたが、彼女はめげずに立ち向かってきた。更に鍛錬を続けて攻撃のタイミングが合いそうになってくると、今度は機械盾で彼女の攻撃を受け流す。
「でやー!!」
 気合いと共に、彼女が盾ごと突進してくる。彼女の膂力を乗せた一撃は、チャロロに両手での専守体勢を取らせるほどの威力を得ていた。
「すごい……エリザさんすごいよ! こんな短期間で腕を上げるなんて! これならきっと幸せをつかめるはずだよ!」
「本当……本当に……? 私、できるかな……!?」
 また一人。イレギュラーズのお墨付きを得て、彼女は自分を信じる心を得ていく。

 次の相手は――ちょっとだけ、エリザは動揺した。
「……いいかい。今回の試合では何が何でも勝ちに行って、絶対に自分が優勝すると思うんだ。勝てるかな? じゃなくて、断固として勝つと言い張れるぐらいにね」
「……はい」
 銀髪ロング(※カツラ)が黒ヴェールから流れる、黒ドレスの淑女(しんし)。化粧まで完璧なシルヴェストル。
「オレからキミに教えられるココロガマエは3つ」
 黒レースゴシックロリータから精悍な両股と二の腕が覗くイグナート。
 二人とも女装でなければ男として見目が良かったり逞しかったりしているガタイなだけに圧が強い。つらい。
「ひとつ、積極的に先手を取って斬り込むこと。アイテに時間を与える程不利になるからね。駆け引きに自信が無いならフィジカル勝負に持ち込むべき!」
「……はい」
「ひとつ、斬り込み方は毎回変えるべし。適切じゃ無くてもいいから、毎回変えること。アイテのカウンターも失敗しやすくなるからね」
「……はい」
「ひとつ、悩んだらフィジカル。わからなくなったらもうとにかく体力で押し切る! 全身全霊でね!」
「……はい!」
 しばらく視界の暴力に苦しんでいたエリザだったが、最後のココロガマエを聞いて心が決まったようだ。悩んだら体力で押し切る。
「お相手、お願いします!」
 エリザが盾と剣を構えると、先にイグナートが片手剣を構える。衣装が女装であろうが、纏う空気は男の戦士のもの。そうとわかれば、エリザも剣を振るいやすくなったようで迷わず攻めてくる。盾の扱いも慣れてきたのか、積極的に攻撃としても使ってきた。
「随分自信がついてきたみたいだね」
「じゃあ、より実践的な訓練といこうか」
 入れ替わったシルヴェストルが淑女姿から繰り出すのは、情報収集で得た参加者の特徴を複数組み合わせたもの――盾をも砕きそうな斧と拳だ。間違っても頭突きはやらない。
「積極的に、先手……私が、絶対に勝つ……」
 エリザは斧の前に僅かに竦んだものの、もう試合放棄まではしない。相手が誰であろうと、勝つのは――自分!
「私が、勝つ――!」
 盾を砕く斧だろうと、斧ごと押し切ってしまえばいい。二人の男達から学んだ、攻めの形だ。

 渋い着流し姿のヘイゼルと、常と変わらない燕尾服姿の幻の姿は、先程の二人のような視界の圧力は感じられない。
 ただ、ある種の緊張感はあった。これまでの皆もそうだったが、この二人は鍛錬と言えど容赦しないだろうと。
「遠慮は不要ですので殺す気で来て結構なのですよ。私に届くのでしたら、それは此度対戦相手の誰にでも届くと云う事なのです」
「エリザ様の欠点は、自分の予想した攻撃しか想像できない想像力の欠如と、周りが見えていないことによる不注意で御座います。その想像力を鍛えましょう」
 大会の対戦相手がイレギュラーズのような技を使う事は無いだろう。しかし、幻は想像力の鍛錬の為として距離を取ると奇術の青い蝶を飛ばした。青い蝶は寄り集まると人型を取り、髭の生えた大柄な男性となる。
「り、リチャードさん!? どうして、え……」
「奇術に捕まっていますよ。集中するのです、あなたの強さとは何ですか」
 エリザの意識が奪われると、ヘイゼルが棒きれで打ち据える。奇術に惑わされ防御体勢を取れなかった彼女にとっては痛い一撃だ。
「私の、強さ……」
 考える間にも、今度は大きな花が足元から開いてエリザを包み込もうとする。危険を察知した彼女は、『咄嗟に』盾で体を庇った。
 直後、花に包まれたエリザ。花の外からは刃に変化した蝶が獲物を狙っていた。
「エリザ様……今、何が見えていますか?」
 問う声に応える声はない。幻が黙って蝶の刃を飛ばした時、エリザを包む花が大きく揺れた。次に花が開いた時、中にいた彼女は倒れるどころか盾で蝶の刃を凌いでおり、花弁が綻んだ瞬間に飛び出してきたのだ。
 しかし、エリザが攻撃に向かった先に幻はいない。どこへ行ったのか探している間に、またヘイゼルに打たれる。
「まだ隙だらけです。本番は一対一なのでしょうが、これも鍛錬ですから」
 イレギュラーズのスキルまで使った模擬戦は、一見理不尽にも見えるだろう。しかし、無謀にも――エリザは、二人へ挑む事を止めなかった。

 修也が彼女の前に立った時、エリザは地面に片膝を付いていた。
「ちょっと休憩入れるか。ほら、これに着替えてみろ」
 エリザが手にしたのは、真白の衣装――特攻服だ。そこかしこに漢字で書かれているのは、エリザの名前やイレギュラーズ達からの応援の言葉を漢字に直したもの。ちょっと中学二年生的な表現も含まれているが。
「一番は背中の『愛死天流 璃茶怒』だな。『愛してる リチャード』って読むんだ」
 示された部分を見つめるエリザの瞳は、完全に恋する乙女のものだった。いたく感激した彼女は何度も礼を言うと、直前までの疲労も忘れたように足取り軽く着替えを済ませてくる。
 その間に、修也も女装――スケバン制服に着替えていた。両手の黒蓮之祓が更に『らしさ』に拍車をかけている。
「特攻服は俺の故郷での喧嘩衣装だ。喧嘩で冷静な判断ができなくなったら、急所は守りつつも全力で体ごと突っ込め。目を瞑らず、反らさず、逃げるな。先に覚悟しておけば、人間結構耐えられるもんだ」
 喧嘩の割には命も人生も懸かっているのが今回だが、その心構えは彼女に十分響いたようで。修也が拳を構えると、エリザも剣と盾――ではなく、拳を構えた。
「俺は顔面を狙う。本気で行くぞ。エリザさんはカウンターで俺に一撃入れるんだ」
 鍛錬の総仕上げに、これまでに鍛えた感覚と技の全てを研ぎ澄ませて。
 負けられない拳と拳が、交わった。

●恵璃咲 璃茶怒 永遠愛
 闘技大会当日は、村人は勿論イレギュラーズ達も総出で応援に出た。
 特攻服のエリザは注目を集めながら順調に勝ち抜き、ついに決勝戦で髭の巨漢(踊り子衣装)と対峙する。彼こそがリチャードだ。
「エリザ!!」
「リチャード!!」
 愛し合う二人の剣と心がぶつかり合い、火花を散らす。
 やがてエリザの剣がリチャードの剣を弾き飛ばすと会場は大きな歓声と祝福で包まれたのだった。

成否

成功

MVP

長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢

状態異常

なし

あとがき

自信が無い自分にどうやって自信を付けるか、プレイングを読みながら勉強させて頂いた気分です。ご参加ありがとうございました。

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