PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花嫁の旅路

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「私を運んで頂きたいのです」
 そう告げたのは民族衣装をまとった依頼人だった。布で顔周りを隠しているが、体つきと声で女性なのだと判断できる。
「えっと、貴女を運ぶ……運搬、ですか?」
「はい。抱えて欲しいというわけでは御座いません。皆さまには警備、警護という言葉が正しいかと」
 ブラウ(p3n000090)はその言葉に内心ホッとため息を吐く。危うくイレギュラーズの中でも屈強な、彼女を持ち運べるほど腕力体力を持つ者を選別せねばならないところであった。

 彼女はラサに生きる部族の娘である。他部族へ花嫁として迎えられる予定がある彼女は、そのために暑さ厳しい砂漠を乗り越えなければならなかった。
 だが、砂漠地帯の危険は暑さだけに留まらない。夜は冷え込むし、いつ魔物や盗賊が襲いかかってくるとも限らないのだ。花嫁は身ひとつではなく、部族の者が花嫁道具を持たせて送り出す。彼らからすれば『体』も『物』も格好の餌であろう。
「場所はネフェルストより、南へ向かった場所に御座います」
「首都の南ですか。あ、そのあたりにオアシスがあります?」
「ええ」
 頷く女性にそれならとブラウはカウンターを降りる。……もちろん着地失敗、ころりんと床を転がって。
 彼が向かった先にいたのは海種の少女だ。ひよこに声をかけられ、『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)がぱっと振り返る。
「はい、どうしたっすか?」
「リヴィエールさん、ラサの南に行くパサジール・ルメスの護衛依頼があるって言ってましたよね?」
 あるっすよ、とリヴィエールが1枚の羊皮紙を出す。そこには少数民族『パサジール・ルメス』からの砂漠南下に伴う護衛依頼が記されていた。
 その内容を確かめたブラウはふんふんと頷く。この周辺に他のオアシスは存在しない。ならばパサジール・ルメスとあの女性が向かう先は同じと見て良いだろう。
「同じ目的地に向かう方がいるのですが、ご一緒できませんか?」
「友人たちに聞いてみるっすよ。ええと、一緒に向かうのはその方と……パカダクラ2頭っすね! 続報をお待ち下さいっす!」
 にぱっと微笑むリヴィエール。彼女を通じてパサジール・ルメスの民から了承を得たのは、そこから数日後のことだった。



「水は飲んでおけよ」
「落ちないよう気をつけてくれ」
「ええ。此度はよろしくお願い致します」
 パサジール・ルメスの民が先導し、キャラバンは砂漠を行く。パカダクラの背負う荷物は重そうたが、彼らはそれをものともしない。
 パカダクラの1頭に乗せられた女性は、砂が入らないようきっちりと布を口元に巻きつけ正面を見る。
(どのようなお方なのでしょうか)
 女性は婿となる男の姿も、性格も、何も知らなかった。ただそれらしき絵姿を見せられ「お前はこの男に嫁ぐのだ」と告げられた。
 それは部族のどんな娘も同様で、そのことに対して何か思うわけではない。けれど──。
(──好いてくれるでしょうか)
 いつだって心は乙女で、一緒になるのならば好意を抱き抱いてくれる相手がいい。言葉には出さないけれどやはりそう思う。
 どんな気持ちで待っているだろうか。
 どんな様子で迎えてくれるだろうか。
 楽しみでもあり、怖くもある。けれど動き出した運命は止められないのだから、進むしかない。
 部族が、家族が与えてくれたのは花嫁衣装と道具、そして護衛を雇うための路銀。
 花嫁の向かう先に誰もついて行ってはならないという決まりは昔ながらと言うべきか、しかしわかっていても囚われる。部族の者たちは共に過ごした娘を無事に送り届けるため、いつも路銀で安全を買わせるのだった。
 女は束の間目を閉じて、開けると真っ直ぐ正面を見つめる。今日の空は白く濁って快晴とは言えないけれど。
「……進みましょう」
 パカダクラが応えるように鳴いて1歩、また1歩。こうして花嫁の旅路が始まった。

GMコメント

●成功条件
 オアシスまで女性とパサジール・ルメスを送り届ける

●情報精度
 この情報精度はBです。
 行程の情報は万全ではありません。

●フィールド
 砂漠地帯です。目的地までオアシスはありません。
 空は白く濁り気味ですが、風はあまりなさそうです。この季節でも比較的暑いです。
 あまり治安の良くない場所も一時的に通過しますが、それ以外の場所ではあまりそのような話を聞きません。オアシスに近づき、遠すぎないくらいの場所が危ないそうです。
 オアシスからは相手部族の者が花嫁を護衛し迎え入れます。

●エネミー
・頭目『ヴージャ』
 下記盗賊たちをまとめる頭目です。銃を持っています。
 一同が通過する予定の場所で最近目撃されており、盗賊たちと共にエンカウントする可能性があります。
 反応良く、手数で攻めてきます。負けを悟れば撤退指示を出すでしょう。

・盗賊×10
 ラサを拠点とする盗賊です。中〜遠距離攻撃に優れています。
 攻撃力に特化しています。防御無視の攻撃もあるため気をつけてください。

●NPC
・ラァナ
 依頼人である花嫁です。サリーのような民族衣装をまとい、顔も布で覆っています。
 肝の座った女性ですが、戦闘には不慣れですし戦えません。

・パサジール・ルメスの民
 各国を回る少数民族。今回はキャラバンでオアシスへ商いをしに行きます。
 こちらも戦えませんが、身を隠す等の行動は素早く、怯むことはないでしょう。身を守る程度の護身術も身につけています。

●ご挨拶
 愁と申します。
 6月ですね。花嫁の気持ちも少しほぐしつつ向かうと良いかと思います。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 花嫁の旅路完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇

リプレイ


(……暑いな)
 『戦神凱歌』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は空を見上げ、鬱陶し気に目元へかかる前髪を払う。常なら気にならない髪も、この砂漠地帯──さんさんと陽光降り注ぐラサの地においては熱を含むものに変わらない。
 特に鉄騎種であることを示すようなその足は熱されたフライパンのような温度で、触れば火傷は確実。ともすれば目玉焼きだって作れてしまうだろう。
 そんな過酷な状況を少しでも緩和せんと『辻ポストガール』ニーニア・リーカー(p3p002058)が用意したのは人数分の外套。そして飲み水である。
 ほぼ確定で戦闘は発生するだろう。その時に熱中症や脱水症状でまともに戦えない状態は望むところではない。『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)はラァナも含めて全員へ注意喚起した。
「砂漠での体調管理は殊更重要よ。暑いから適度に水分を取って進みましょ?」
 ラサにおいて最も知られたイレギュラーズの言である。この地を拠点とする彼女の言葉は当然のことであるが、一同へより戒めさせるに十分だ。
 『強欲神官』カイロ・コールド(p3p008306)はオレンジジュースをラァナへと渡す。若干だが体力がつく代物だ、いざという時に逃げる体力も無くては困るだろう。
 それにしても、とカイロはそれとなく視線をパカダクラへ向けた。見渡すばかりの砂漠へ共に行かんとするのは複数のパカダクラ。荷を背負った彼らはこの環境をものともせず進んでいくのだろう。
(間近に見るのは久々です。……高く売れるんですよねぇ)
 これだけの頭数を売り捌いたら一体どれだけ手に入るのか。そんな皮算用は出発の言葉に中断せざるを得なくなった。
「それじゃ、偵察は予定通りにね」
 マルク・シリング(p3p001309)は腕へファミリアーで召喚した鳥を止まらせ、細かに指示を出す。偵察へ向かわせるのであれば、不自然にならない高度や経路でなくては看破されてしまうだろう。
「ナビゲートは、お任せ下さい」
 超方向感覚で方角を確かめたアッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は外套のフードをしっかりかぶった。熱がこもるのでこまめな換気は重要だろうが、それでも直射日光のありなしで体力の減少は大分避けられる。
 アッシュとベルフラウが超視力で前を歩き始める中、『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は蛇のファミリアーをキャラバンより先行させる。ベネディクトとリンクした聴覚は人の足音や話し声をしっかり聞き取ってくれるだろう。

 こうして、一同はオアシスまでの南下を開始したのだった。

 とはいっても今回治安の悪い場所は1箇所であると情報が上がってきている。序盤は不審な影が無いか警戒しつつも、どこか穏やかな空気であった。
(鉄帝では花嫁衣裳の護衛。海洋では花嫁との共闘。深緑は花嫁の救出ときて、今度はラサで花嫁の護衛か)
 『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はここ最近の依頼内容を思い返し、ちらりとラァナを見る。妙に花嫁なるものと縁があるが、偶然というやつなのだろうか。何にせよ女の幸せを守る依頼であることにはどれも変わりない。
(男冥利に尽きるってもんだな)
 そのためならば傷1つとして付ける訳にはいかない。索敵は仲間へと任せ、敵襲に備えるべくルカはラァナの近くを進んでいるのだった。
「ラァナさんは相手の方にお会いしたことないんだったかしら?」
 Erstineの言葉にラァナは頷く。胸の前でぎゅっと握りしめられた手はその不安を表すかのようだ。それは顔を見たこともない男に嫁ぐ緊張からかと思われていたが、ラァナの唇から吐き出された言葉にErstineは目を丸くした。
「自分を好いてくれるか……?」
「はい。ほら、御伽噺は相思相愛のハッピーエンド、でしょう? この年でそんなことを夢見るのも恥ずかしいですけれど」
 同じ女性とあって、そんな言葉を零してしまったのか。見えている目元が照れたように下がり、本当にそう思っているのだとわかる。
(自分が好くことに対しては大丈夫……なのかしら……)
 Erstineは目を瞬かせる他ない。絶対に好意を抱くだろうという自信があるのだろうか。そうだとすれば彼女は随分肝が据わっている。
「そこに自由意志が介在しないからといって、不幸な結婚と決まっているわけではない、か」
 マルクは彼女らの話を聞いて呟く。会ったこともない婚約者との結婚が決まっている話自体は別に珍しくも何でもない。貴族などは政略結婚のために持ち上がりやすい話でもあるだろう。それを最初から悲観して見るか、それともラァナのように前向きに見るか。恐らくは後者の方がずっと気が楽に違いない。
(でも、今のままじゃ幸不幸以前の問題だ)
 不当な暴力で結婚自体が成り立たなければどうしようもない。頑張ろうとする彼女の為にも、その身を無事に婚礼の地へ送り届けなければならないだろう。
 束の間賑やかになった後方をちらりと振り返り、アッシュは再び前を向く。しかしその口元は振り向く前より幾分か緩くなっていて。その心はさわさわと擽られたように揺れ動く。
 結婚とは誰かと一生を共にすること。互いを支え合う事。その誓いなのだと言う。アッシュはまだまだそんな関係の相手も、なりそうな相手も思いつかないけれど。
(何事にも、代えがたい……尊さや、喜び。そんなものが満ちている……気がします)
 ラァナを見ているとそう思わされる。彼女の結婚を叶えてやらなければ。そしてどうか幸せになってほしい。
 Erstineも同じ思いなのだろう。あらゆる婚約話を断ってきた彼女とは大違いな依頼人であるが、真実その自信があるのならばあとは相手に恵まれていることを祈るのみである。
 自らの愛せる、そして自らを愛してくれる人。
「……素敵な方だといいわよね」
 ラァナはErstineに微笑んで見せる。顔の大部分は布に覆われて見えないが、細められた目元がそう感じさせた。
 水分休憩を取りながら、パサジール・ルメスの持つコンパスとアッシュの超方向感覚をもとに一同は順調に進んでいく。オアシスは──その前に立ちはだかる脅威は、もう少しの場所まで近づいていたのだった。



 ばさりと翼をはためかせ、ニーニアが上空へと飛ぶ。ここからはマルクのファミリアーと共に上空より警戒だ。あくまでも自分の本業をこなしているように──警戒していることを悟らせないように、郵便鞄を良く見える位置へ動かして配達中を装う。
(お届けしているのは花嫁さんだけれどね!)
 手紙も人も変わらない。そこに想いがある限り、郵便屋魂が運びきれと叫ぶのだ。
 地上からはアッシュとベルフラウが優れた視力で動くものがないかと確認する。砂漠色の外套など、自然んに紛れてしまうような服装も警戒されるが、そこに少しでも呼吸がある限り不動は有り得ない。体は動かざるを得ないし、それによって何らかの動きはあるはずなのだ。
(それに、こんな場所を通っていればさぞかし気になるでしょう)
 カイロは感情探知で盗賊たちを探る。彼らからしてみれば、自分たちは『興味の対象』であるはずだ。合図をするなり、発見の報告をするなり音もまた微かながら出しているはずである。蛇のファミリアーを先行させながらベネディクトもより警戒を強めていた。
 ふわりとフクロウの羽根が落ちてくる。風もあまりない中だ、『合図』としては丁度良いものだったのだろう。気づいたErstineが厳しい視線で前を向く。もうすぐ敵が待ち受けているということだ。
 その直後。
「──いたな」
「ええ。左手の砂丘の向こう側ですね」
 ベネディクトとカイロが視線を交わす。カイロは初めての任務、その難関へ差し掛かってきたと杖を握りしめた。その表情から優しい笑みは絶えていないものの、いくばくかの緊張は致し方がない。
 ニーニアも水筒を片手に空から降りてくる。水の補給と見せかけての帰還だ。
「見えました。身を守る、用意を」
 アッシュがきらりと動くものにすぐさま後方へ指示を出す。大丈夫だと安心させる言葉をかけられながらも、パサジール・ルメスの民は素早く体勢を整えた。
 そこへ1発の銃声。誰もが身を固くした中、ベルフラウが朱い旗の柄で銃弾をはじき返す。燃えるような瞳がずっと先の砂丘──そこに潜む賊を睨みつけた。
「離れるな。二輪の花、私が守り切って見せる」
 その言葉は後方へ、ラァナとパサジール・ルメスの民へ向けられたもの。たとえパサジール・ルメスの民が女でなかろうが、ベルフラウにとっては変わらず一輪の花なのだ。
 敗れざる英雄の闘士を身にまとうベルフラウ。その前方で突如、賊たちのいる砂丘の一部が吹っ飛ぶ。
「よう、ご一同。ラサの傭兵、ルカ・ガンビーノが相手してやるぜ!」
 ルカの声が砂漠に良く響く。ガンビーノ──傭兵団の名を関した男の名に賊たちがざわついた。そこへ畳みかけるように、槍へ込められた力をベネディクトが力の限り投擲する。
「悪いが、相手をしている暇は無い。どうかお引き取り願いたいのだがな」
 互いに譲歩しあえるならばそれに越したことはない。最も、そんな手段を賊が取るとは思えなかったが。
 カイロを中心に響く英雄叙事詩。ニーニアの矢が飛び、次いでアッシュの放ったロベリアの花が敵を包む中、マルクの放つネメシスの光が賊を焼く。相手とErstineは丁度真ん中で相対する。相手からすればより逃がさないようにと接近したのだろうが、こちらとしてもこれ以上向かってこられるわけにはいかないのだ。
「ここを退いて貰うわ」
「それはこっちのセリフだぜ! 全部おいて帰りな!!」
 大鎌での魔術と格闘を織り交ぜた攻勢に、されど賊たちは集中砲火を浴びせる。この女は危険だ、と。しかしErstineもだからと言って一方的にやられるわけにはいかない。
(ラサの依頼、花嫁さんが嫁ぐための依頼だもの。絶対成功させる!)
 砂を蹴ってラサの地を舞うErstine。その身の傷を癒すのは後方より仲間の支援をするカイロだ。彼からすれば誰でも──自分でも良い。傷つき、それを癒すことが仕事である。むしろそうしてもらわなければ只々仲間を支援する他ない。
「どうぞどうぞ、幾らでも攻撃して下さいませ~」
 傷つけても傷つけても、その場ですぐ癒される様を見てしまえばいつか心が折れる事だろう。ここにいる者はどれだけ戦っても倒せない敵なのだ、と。
「さらに後方から2人! 気を付けろ!」
 ベルフラウが護衛対象につきながら場の統率をする。そして1人こちらへ抜けてくる者を見つけると、旗の柄をしっかりと握った。
 ばさりとはためいた朱の旗には、2頭の獅子とその間に薔薇が刺繍されている。ローゼンイスタフの紋章だ。
「ローゼンイスタフの誓いを、舐めるなよ」
 不用意に触れたならば怪我をすることだろう。美しき薔薇に棘があるように。または──燃え上がる炎に触れたら火傷してしまうように。
 その1人を皮切りに、賊たちはわらわらと零れるようにイレギュラーズたちのほうへと向かってくる。それを阻害するようにベネディクトは槍を構えた。
 腕を大きく振りかぶり、腰を捻り、軸足にしっかりと体重を乗せて。
「吹き、飛べ……ッ!」
 槍へと溜め込んだ力は、投擲の勢いで弾丸のように飛んでいく。貫かれた盗賊が身体をくの字に折って砂の上へ倒れこんだ。掠めた盗賊もアッシュの放った深き闇に蝕まれて沈んでいく。
 止まない攻勢もマルクの強烈な支援やカイロの回復、そしてルカがErstine同様に前へ来て暴れていることで押しきれていないのが現状だ。加えて、ちらほらと後方へ手下を向かわせたが朱い旗を持った女が分厚い壁になって全く手出しができない。
 銃のリロードを行うヴージャへすかさず渾身の一撃を叩き込むルカ。膨張した黒の大顎が頭目の前まで迫り、その顎を閉じる。
 舌打ちするヴージャが視線を向ければ、ベルフラウの方へと向かった手下はたった今ニーニアのけしかけた小妖精により倒れこんだ。いつものように攻勢に出たつもりが劣勢も劣勢、敗退の色が濃い。
「テメェら、ずらかるぞ!」
 一斉に逃げ出した盗賊たちを多少追撃しながらも、イレギュラーズは深追いしない。数人は手下を削り、頭目に痛手も負わせている。暫くは襲撃もできないだろう。
 そうして賊の撤退を見送り、味方の状況と立て直しをした一同は再びオアシスへ向けての移動を始めた。



「──見えてきたか」
 ベネディクトがフードを少しばかり上げる。そこには緑と水と、人の集まりがあった。賑やかに活気づいた雰囲気を見てパサジール・ルメスの民とラァナがほっと安堵の表情を見せる。
「我々は此処までで」
 パサジール・ルメスの1人がそう告げる。依頼達成の感謝と共に頭を下げれば、ラァナは誰かを捜すように視線を巡らせた。
「ラァナさんもここでお別れね」
「ええ。……あ、あちらの方々ですね」
 ラァナの身柄を引き取ってくれる者たちがこちらに気づいて近づいてくる様子が見えた。本当にここでお別れのようだ。
「卿は言っていたな、相手は好いてくれるだろうかと」
 不意にベルフラウがそう呟く。耳にしたラァナが視線を向ければ、確りと真っすぐな瞳が彼女を射抜いた。
 相手も同じ想いだろう。そして恐らくは、花嫁を迎える彼らの方がその想いは強い。だからきっと──大丈夫。
「だから前を向け。笑え。未来が明るいものとなるようにな」
 ベルフラウの言葉にラァナは目を瞬かせると、はいと頷きながら微笑んだ。そして──安心させるような言葉にはまだ続きがある。
「それに、仮に私がその男ならば……危険な思いをしてまで我が元へ来る女を好かぬ道理はない」
 イケメンかよ。イケメンだわ。発言がイケメンだった。
 まあと目を丸くするラァナ。
 偶然にも通りがかりで耳にしてしまいきゃあきゃあとテンションを上げる女性。
 そんな反応にベルフラウもまた目を瞬かせるが、嘘は言っていないと肩を竦めた。ルカが彼女の後を引き継いで言葉を贈る。
「ま、大丈夫だ。ラサの男は嫁さんを不幸になんかしやしねえ」
 もしも、万が一があったのなら──その時は殴ってやれば良いのだ。そんな話が耳に入ってこようものならば、傭兵団「クラブ・ガンビーノ」の団長長子たるルカが攫いに行けば良い。
「まあ。……ふふ。幸福に満ち溢れた日々を送りますよ、きっと」
 ラァナはそうなるものかと笑みを浮かべてみせた。励ましてくれるイレギュラーズたちをこれ以上心配させることがないように。未来の夫と共に歩んでいく覚悟を胸にしたのだ。
 そこへ駆け寄ったのは小柄な影──アッシュ。今言わなければ、伝えなければとたどたどしいながらも言葉を紡ぐ。
「あなたの、行く道が……屹度、明るく輝かしいもので、ありますように」
 ひと言、ひと言に祈りと想いを込める。自身にはあまりにも程遠くて実感などなく、想像すらもつかない話ではあるけれど。だからこそその先が告げた通りであるようにと思うのだ。
「達者で。あなた方に幸あらん事を」
 護衛中はただ仕事を完遂させることだけに注力していたベネディクトは、最後に挨拶くらいと声をかける。カイロも同じだ。
「貴女の未来に、祝福あれ」
 おおよそ神官らしくもないと自覚はある。それでもこういう時くらいは『らしいこと』をしても良いだろう、と。
 イレギュラーズたちへ笑顔で別れを告げたラァナは、迎えに来た者たちの中の1人と手を取り歩いていく。その背中を見つめながら、ベルフラウは砂漠の神へ祈った。
(深く、厳しき砂漠の神よ──試練を乗り越えし2人に、どうか祝福を)
 きっとラァナであれば、この先のどんな苦難も乗り越えられる。2人共にであれば尚更だ。そんな2人に、祝福があらんことを。
「……ラァナさん、幸せになれるといいわね……」
 Erstineもまたその背中を見ながら、つと目を細める。思い返すのは自分へと寄越されていた見合いの話だった。
(あの世界にいた時は王族だったもの。……でも皆、『王』が欲しいのだろうと決めつけてた)
 話が来たとき、たった1つでも正面から向き合ったものはあっただろうか。答えは否、相手の気持ちなんて考えもしなかった。そんな必要もないと切り捨てていた。考えたって答えは権力に行きつくのだろうから。
 けれど──もしかしたら。Erstineが『あの人』を想うように、あの時もErstine本人を見ようとしてくれていた誰かはいたのかもしれなかった。

 全ては過去の話。現在から過去へは決して戻れない。
「……帰りましょうか」
 ローレットへ。また1つ、ラサの依頼を解決したのだと報告をするために。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

状態異常

エルス・ティーネ(p3p007325)[重傷]
祝福(グリュック)

あとがき

 お疲れさまでした。無事にラァナは嫁いでいったようです。
 幸せであると良いですね。
 それでは、またのご縁をお待ちしています。

PAGETOPPAGEBOTTOM