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シナリオ詳細

<果ての迷宮>紫紺の夜に捧ぐ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 それはさながら。
 ロイヤルネイビーのベルベットへ、宝石箱を転がしたように――

 一同が目の当たりにしたのは夜空であった。
 色とりどりの星々が、一面に煌めいている。
 より正確には『夜空のように見える空間』と表現するべきか。
 或いは探求都市国家アデプトに詳しい者ならば、写真に例えるかもしれない。
 絞りを開け、光の感度も上げ、シャッタースピードを酷く遅くしたならば、これに似た光景が描けよう。

 夜空との違いは明白であった。
 一つはひどく明るいこと。
 もう一つは、天も地もないということだ。
 見上げても。
 横を向いても。
 靴底の遙か下も――その全てがまるで夜空のようであった。
 そして足元には、曲がりくねった光の帯が幾重にも別れて果てしなく伸びている。
 フラクタル状に広がる光は――これが『道』であるとでも言うつもりなのだろう。
 踏み出すと感じる覚束ない浮遊感は、胸の中に微かな焦燥を蟠らせるが、進んでゆけないこともない。

 途中に白と黒で織りなされた『世界』が見えた。美しいモノトーンの球体。
 それの対になるように、七色の絵の具を散りばめた世界があった。こちらも美しい色彩を放つ。
 其れ等を見つめていると引き寄せられる様に足が道を逸れていた。

「ここは、まっすぐ……こっち、です」
 ぽつりと言って、『Vanity』ラビ(p3n000027)が指さす。その先を信じるしかない。
 ゴールを目指す為のヒントは、それしかないのだから。


「心象庭園イマジナリウム?」
「それが次の階層わさ」

 ――徐々に夏に向かう陽は高く、穏やかなクローム・オレンジの光は夕暮れ前に窓から姿を消している。
 この日ローレットに集った一行は、件の『果ての迷宮』に関する依頼を受けようとしていた。
 果ての迷宮とは、幻想王国レガド・イルシオンを建国した勇者王が踏破を目標としたダンジョンである。
 この国でそれを知らぬ者は居ない。
 なにせ王都メフ・メフィートのど真ん中に、遙か昔から鎮座しているのだから。
 ダンジョンの踏破は幻想貴族達の『高貴なる義務』として存在している。
 ダンジョンへの侵入は幻想貴族か、あるいはその信任篤い者でなくてはならない。
 数年前に幻想王国で多大な名声を獲得したローレットのイレギュラーズは、こうして果ての迷宮の踏破を依頼されるに至ったのである。
 イレギュラーズは各々が、国王を含むいずれかの貴族勢力の名代として挑む事になるという訳だ。
 迷宮探索は古くから多くの者が挑み、数多の階層を踏破しながらも、命すら落としてきた曰く付き。
 イレギュラーズが請け負うようになってからは、既に十五もの階層を突破されている。
 いくら進めども終わりもなく、その深部に何が眠っているのかは未だ誰も知らない。
 それが果ての迷宮なのである――

 さて。今回の階層は便宜上『心象庭園イマジナリウム』と名付けられたらしい。
 机上に資料を広げたのは、依頼者である探索団の『総隊長』ペリカ・ロジィーアン(p3n000113)であった。
「イメージが具現化されるダンジョンなのわさよ」
 ペリカによると、この階層では挑んだ者の心象風景がダンジョンの形として投影されるらしい。
 その多くは『故郷』だ。
 ペリカの分は――残念ながら調査段階で踏破されてしまったようでお目に掛かることが出来ないのだが。
 ともあれ。
「故郷か何かを思い描けばいい?」
「そうなるわさね」
 厄介な階層ではありそうだが、作戦そのものは単純なものになる。
 つまり『積極的に故郷の様子等を思い描く』ことで、あえて『見知った地形を出現させる』のだ。
 その中に不思議な『扉』があり、ペリカの推測ではこの扉を何枚も突破した先に真のゴール――つまり次の階層への入り口が出現すると思われる。
「思い描かないとどうなる?」
「最初の調査では、わけのわからない迷宮を迷うことになったわさ」
 それは……どうにも。
 きちんと想像したほうがよさそうだ。
 イメージした地形は、当人が『どこにゴールがあるのか』を直感出来るらしい。
 そういった意味でも、想像力を鍛える必要がありそうだ。

「他に危険は?」
「魔物はいるわさね」
 まあ、そこはそれ。
 ダンジョンだということなのだろう。
 どこで出くわすかは分からないが、後は挑んでみる他ないのだろう。

 それはそれとして。
 ペリカは果たして、どんな所をイメージしたのだろうか。
「ふっふっふ。それは乙女の秘密わさ」

 あ、はい。

GMコメント

 もみじです。
 果ての迷宮です。

●目的
 次の階層に進み、次なるセーブポイントを開拓することです。
 また、誰の名代として参加するかが重要になります。

※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

●ロケーション
 皆さんの心の風景がダンジョンを形作るようです。
 多くの場合、それは『故郷』です。

 最初の風景は同行するラビの心象です。
 ラビ。どんな故郷やねん……。
 ともあれ。リプレイはそこを突破したあたりから開始されます。

●今回の特別ルール
・故郷などの風景、あるいは心の内の何かを思い浮かべること。

 これがない場合は、複雑怪奇な迷宮を進む事になります。
 これをプレイングに記載した場合、あなたはどのルートが正解かを直感的に理解出来ます。

『例』:
 思い描くのは異世界の故郷にある、梅田の駅です。
 行きたいのは南改札だから、こっちだ!

 沢山書くと、なぜだか有利です。
 ついでに想い出なんかを語ってもエモくて良いでしょう。
 また相談では皆さんの故郷について語り合ったりするのも楽しいかもしれません。
 つまりその。そういうシナリオなのです。

●敵
 どこで出現するかは不明です。
 あまり考えなくても良い感じの所で交戦することになるでしょう。

○『イマジナリーガーデナー』×1
 大きなハサミを持った影のような存在です。
 この階層のボスです。
 難易度なりに強いです。

・ブロウクン(A):物至単、ダメージ中、飛、出血
・シャドウブレイド(A):神近列、ダメージ中、弱点、流血
・ブルーフラッシュ(A):神超遠貫、ダメージ大、万能、致命、弱点、暗闇
・イマジナリーブレイズ(P):思考を読み取り『倒し難い相手』の形を取る。

○『イマジナリービースト』×20
 そこそこすばしこい敵です。
 どこかで数体ずつ出てきます。突然出現します。前衛の隣であったり後衛の後ろであったり。

・体当たり(A):物遠貫、移動、飛、ダメージ
・シャドウファング(A):物至単、ダメージ中
・イマジナリーブレイズ(P):思考を読み取り『倒し難い相手』の形を取る。


●同行NPC
・ペリカ・ロジィーアン
 タフな物理系トータルファイターです。

 皆さんを守るために独自の判断で行動しますが、頼めば割と聞き入れてくれます。
 出来れば戦いに参加せず、最後尾から作戦全体を見たいと希望しています。
 戦いへの参加を要請する場合は戦力があがりますが、それ以外の危険は大きくなる恐れがあります。

・『Vanity』ラビ(p3n000027)
 神秘型トータルファイターです。
 脚力を活かした攻撃を仕掛けます。普段のぼやっとした印象からは打って変わって無駄が無い動きです。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <果ての迷宮>紫紺の夜に捧ぐ完了
  • GM名もみじ
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月22日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
すずな(p3p005307)
信ず刄
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵

サポートNPC一覧(2人)

ラビ(p3n000027)
Vanity
ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)
総隊長

リプレイ


 夜空は星屑を広げ、時折小さな軌跡を伴って降り注ぐ。
 ロイヤルネイビーの宝石箱は一筋の光と共に――

 覚束無い足取りは、自身の身体が意思とは関係なく膨張するのによく似ていた。
 些細な事は忘れてしまったけれど。これだけは覚えている。
 もうすぐ、あの『白黒世界』と『七色世界』から救世主がやってくる。

 ――神を滅する為の大義がやってくる。『わたし』を殺す為の光がやってくる。

 僅かに焦りを見せた『Vanity』ラビ(p3n000027)は光輝の道を踏みしめた。
「これって進めるのか?」
 行く手を阻むように現れた巨大な霧。黒の中に微細なオパールの遊色が織り交ぜられたそれに『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)は足を止める。
「大丈夫、です」
 こくりと頷いたラビはフローリカの手を引いて霧の中へ身を投げた。
 ラビにはこの黒い霧が何であるかは分かっていたから。
 かつての『自分自身』の中をイレギュラーズと共に駆ける。
 元の姿なんて見られたくない。闘って醜く死んでいく様など見せたくない。
 イレギュラーズが知っているのは『この器』だから。
 珍しくアメジストの瞳が曇る。それを隠すようにフローリカの手を握るラビ。

 果ての迷宮という不思議な空間に、生暖かい鼓動を見つけフローリカは目を瞠った。
 たどり着いた先。空間に佇むドアノブをフローリカが回す。
 目の前に広がるは、フローリカの世界。
 霞んだ灰色の空を鉄の塊が飛んでいく戦争地帯。フローリカが産まれ育った場所。

「来たぞ……! 西地区だ」
 誰かが叫ぶ声がする。爆撃を伴った攻撃が始まったのだろう。
 悲鳴を上げながら逃げていく人々と共にフローリカは走り出す。
 何故、戦争が行われていたのか。そんな事、彼女が知る由も無かった。
 目の前で、駆動砲台が弾ける。機関士は柘榴みたいに粉々になって地面へ倒れた。
 転がった砲台の欠片。部品を誰かが拾っていくのをフローリカは視線で追った。

 バラバラと遠くで銃撃の音がする。
 近づいて来るその音を聞きながらフローリカは駆け出した。
 この街に集まるのは、まともに都市に移り住めないような者たちだ。
 煤塗れになったフローリカは、崩れた建物の中に入り込む。
「フローリカ」
 懐かしい声がした。この煤けた街で友人と呼べるであろう少女の声。
「あ……」
 振り向こうとした瞬間。閃光が煌めいた。
 爆撃はフローリカの視界を覆い。
 粉塵が晴れた頃には彼女の名前を呼ぶ事すら、叶わなくなった。
 其処には何も無かったから。彼女の存在を示す物など何も――

「それで、私は傭兵会社をやってる連中に拾われてこの街を出た」

 フローリカの白い髪が吹きすさぶ風に巻く。
 その細い足を掴む手があった。
 かつてフローリカが見捨てた同僚たちを象った幻影。
「なあ、助けてくれよお」
「っ!」
 彼と同じ声でフローリカを呼ぶのだ。
 その手を一瞬にして薙ぎ払い、少女は駆ける。

 ああ、早く。はやく。
 次のドアへ。


 赤茶色の大地が広がる荒野に冷たい風が吹く。
 広大な陸地とオレンジ・バーミリオンを抱く空は息を飲むほどに美しい。
 ほう、と息を吐いた『宝飾眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は、赤い鼻を啜りながら一軒の家の前に立った。
 ドアの蝶番が小さく音を立てる。黄昏時の橙が玄関に差し込んだ。

 奥の部屋には書庫がある。何も無いこの場所で唯一シキが拠り所としていた空間。
 迷い無くその部屋に入り込んだシキは、肺に広がる匂いにアクアマリンの瞳を伏せた。
 いつもの場所に座り込んで。伸ばした指先は本の表紙に触れる。
 この中には、海や森。動物たちが散りばめられていて。
「懐かしいなあ」
 想像するしかなかった其れ等を。一生見る事など無いと、憐憫と共に思い描いた景色を。
 無辜なる混沌で藍玉の瞳は映し出した。
 死ぬまでを生きていたシキにとって。それは痛みすら伴う感動だった。
 今までの自分には決して戻れないのだと知ってしまったから。

「お姉ちゃん」

 耳に届いた声に顔を上げたシキ。
 そこには兄と弟の姿があった。
 大好きで大切で。欠け替えの無い、欠けてしまったもの。
「は、」
 シキは小さく息を吐いた。
 姿だけ似せても、声だけ似せても。
 本物ではないのだから。もう、二人は戻って来ないのだから。それをシキは知っているのだから。

 殺せ。
 殺せすのだ。
 心を、殺せ――

 幾度となく落としてきた首と同じだろう。
 背の大剣を握りしめ大切な人たちの首を狙う。
「……っ」
 純粋な兄弟の瞳を見た時、シキの心は揺れた。
 混沌で未知を得たシキは家族を殺す事に躊躇したのだ。
 それでも、アクアマリンの瞳を上げて断刃する。
 安らかなる眠りを、邪魔されないように。
 僅かに表情を歪めたシキは顔に着いた赤を拭った。

「じゃあ、行こうか」

 シキの声と共に開かれたドアの向こう。
 幻想国に酷似した町並み。中央巨大都市。
 文明はもう少し進んでいるだろうか。工場地帯から煙が上がり、用水路は異臭を放っていた。
「ああ、やっぱりな……」
 見覚えのある風景に目を細めるのは『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)だ。
 アッシュグレイの雲は分厚く、今にも降り出しそうな怪しさ。

「こほ、こほ」
 息を大きく吸い込んだラビが咳をする。
「あまり、深呼吸しすぎるなよ。肺が腐る」
「腐る、ですか?」
 ラビの問いにシュバルツは頷いた。
 巨大な工場から撒き散らされる汚染物質は大気を浸食し河川を汚す。
 繁栄と共に豊かになった物もあるのだろう。
 けれど、このような退廃的な場所ではその恩恵も零れては来ない。
 道端に転がる死体に誰も見向きもしないのは、それが常なのだろう。

「俺は孤児院育ちでな」
 シュバルツの声に顔をあげるラビ。
 お節介な老婆と姉。同じような境遇の子供達と暮らしていたのだと彼は告げる。
「クソみてえな故郷だがあの場所だけは良かったと思えるよ」
「懐かしい、ですか」
 碌な食事も無かったけれど、皆で囲んだスープの温かさはシュバルツの胸に大切に仕舞われている。
「ああ、そうだな。懐かしい。……ほら、見えてきた」
 今でもよく覚えている。
 十字路を曲がった先の裏通り。細い道を進んでいけば辿り着く『家』だ。
 こんな黒灰の世界で、唯一安らげる場所。
 そこに佇むのは、この場所に有り得ない人で。

「な、んで」

 聖女だ。今でもシュバルツの視界に紛れ込む。薄桃色の髪をした彼女の姿だ。
 胸の疼きは掻きむしるほどに切なく。
 どう間違っても、彼女が居ない事を示すのだ。
 何れだけ姿形を真似ようとも。惑わされる事など無いとシュバルツは夜色の短刀を握る。

「くっ……」
 彼女を切り裂く感覚に。眩みそうな頭痛が駆けた――


 思い出の場所。故郷を心の中に強く思い描く。
 迷わないようにしっかりと。『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はサファイヤとルビーの瞳をゆっくりと瞬いた。
 視界いっぱいに聖教国ネメシスの聖都フォン・ルーベルグの白亜が広がる。
 スティアは故郷の地をきちんと思い出せた事に胸を撫で下ろした。
 記憶を失っていたスティアにとって。故郷を鮮明に思い出せないかもしれない。
 そういった不安はこの迷宮を訪れた時から感じていた事なのだろう。
 この場所で産まれ育ち、抜け落ちた記憶も取り戻した。
 美しき白い都。かの大戦の爪痕は少しばかり残っているけれど。
 懐かしさがスティアの心を浚っていく。

「この道を……」
 スティアが指さした方向に視線を向ければ、賑わう市街地が見えた。
 仮設の建物があった場所は元々美しい様相の商店が並んでいたのだろう。
 スティアに連れられてラビは市街地を進んでいく。
 その先に広がった花のアーチに「わぁ」と小さく声を上げた。
「綺麗でしょ」
 聖堂に隣接したその場所。高台からの眺めにラビの目が輝く。
「はい、とても綺麗、です」
 仲の良い見習い騎士のお気に入りの場所。風に乗って薄桜色の花びらが舞う幻想的な光景。
 以前彼女と此処を訪れた時も、この景色は目眩を感じる程に美しかった。
 隣の友人の流れる赤い髪と空の青さが対照的で。時折交される視線と笑い声。
 まるで、その空間だけ絵画の様にスティアの心に残っている。

「そうだよね、サクラちゃん」
「ええ、楽しかった」

 スティアの周りに天使の羽根が舞う。
 術式は弾かれるように展開され彼女の背後に光輝を成した。
 目の前に居るのは本物の友ではない。
 青赤の瞳を上げ、見せ掛けのまやかしに対峙する。

「貴女はサクラちゃんじゃない」

 ――――
 ――

 黒檀の空に輝く星は無く。
 空から降る雪は淡く光っていた。
 此処は黄泉の底。常夜の世。

 長い睫毛を上げて『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は小さく息を吐いた。
 輪廻に戻れなかった魂はこの場所に降り積もる。三途の川の水底。
「この砂全部、ですか?」
「はい」
 ラビが掬い上げた砂の一欠片。その全てが魂なのだという。
 何処までも続く果て無き白の砂漠。白亜の荒野。
「こちらへ」
 差し出された手に掴まって砂漠を進んでいく。
 ちらりと後ろを振り返れば、自分達が着けた足跡だけが見えた。
 鬼が居らぬと此処も静かなのだと雪之丞は目を細める。

 目指す場所は門。交差した白き巨岩。
 現世へ繋がる地獄門などと呼ばれていたらしい。
「この門は天国門ではない、ですか?」
 ラビの素朴な疑問に雪之丞は目を瞬かせた。
 地獄から見ればこの先は『良い所』なのでは無いのかと問う瞳。
「そうですね。現世の方が地獄だったのかもしれません」

 ――だから、なのだろうか。
 彼が此処まで魂を飛ばしてきたのは。この場所が美しいと言ったのは。

「此処に散歩に来る、ですか」
「ええ。わざわざ散歩に来る陰陽師がいたのです」
 おかしいですよねと雪之丞は目を細めた。
 降り積もる魂が雪のようだと。この門の上に登って言っていたのを思い出す。
 二度と戻る事の無い。故郷。
 奪われるだけの生であったはずなのに。
 この場所に心惹かれるのは何故なのだろうか。

「教えて、くれませんか」
 門の上。かつての彼がそうしたように、佇む姿が見える。
 雪之丞は楽しかったのだ。彼と言葉を交すことが。
 だから、この世界は此処に顕現した。
「おいでませ」
 硬質化させた指先を打ち鳴らす。
 白亜の砂漠に寂しさを孕んだ鈴の音が響いた――


 高く聳える塔。遙か空まで伸びる鉄の城。
 その先に見えるガラスは、何を守っているのだろう。
 外界からか。それとも中のモノを逃がさぬためか。
 バベルの言葉は既に世界から与えられているというのに。
 何を求め高く在るのだろうか。

『こむ☆すめ』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は灯りの無い摩天楼を進んでいく。
 不意打ちに警戒するように耳で周囲の音を拾う。
 暗がりに街灯の明かりがパチリと爆ぜた。
 複雑怪奇に入り組んだ地下階層は知らぬ者が迷い込めば出られない。
 それでもリアナルの歩みは止まらなかった。この足は『覚えている』のだろう。
「ほら、こっちだ」
「はい」
 ラビを連れてリアナルは進んでいく。
「もう十年になるだろうか」
 この道を通るのは。今はもう存在しない場所。
 リアナルの記憶の中だけにある道。
「無くなった、ですか?
「ああ、無くなったのだ」
 チカチカと蛍光灯の明かりが明滅する。
 姉達と共に歩いた道。出会いは――誰かが置いた赤いポストを越えた先。

「……はぁ、たちの悪い」

 あの頃の侭。
 其処に存在する彼女の姿にリアナルは眉を寄せた。
「残念だが倒し難い相手に変身しても無駄だぞ?」
 何も感じないなんて嘘だ。その姿を目の前に突きつけられれば切なさに唇が震える。
 心の弱い部分。治りきらない傷跡に塩を塗り込められたような痛み。
 じくじくと思い出が蘇る度にリアナルの心を苛んだ。

 けれど、時間は待ってはくれない。
 その美しい瞳でリアナルを見て。その透き通る声でリアナルの名を呼ぶ。それに。
「くそ……っ」
 歯を食いしばり、短刀を突き立てる。
 これが胡蝶の夢なら良かったのに。
 それならば楽しさだけを追いかける事ができたのに。
 リアナルは一筋の涙を流し、愛しき人の幻影から短刀を引き抜いた。

『金星獲り』すずな(p3p005307)はドアノブを回す。
 以前この迷宮に来た時は機械的な回廊だった。
 今回はまるで夢の中。記憶を辿って巡る、小旅行だ。
「これが果ての迷宮たる所以――」
 その性質から何人たりとも寄せ付けぬ大迷宮の神髄を改めて実感したと思いを抱く。
 すずなの耳に車の駆動音が駆け抜けた。
 陽光は白く霞みビルやマンションが空を切り取る。
 増殖した駅は複雑怪奇。迷うモノも後を絶たない。
 迫り来る人混みを器用にすり抜けてすずなは改札を出た。
「すずな、さん」
「あ、ごめんなさい」
 駅の改札から出られずオロオロしていたラビを助け出しすずなは歩いて行く。

「この道、懐かしい…! あっ、あのお店、まだやってるのでしょうか……?」
 学校からの帰り道、老婆が商う駄菓子屋。遊具が僅かに設置された公園。
 何もかもが懐かしく。それは『今の』自分の居場所では無いと感じる事と同義。
 まだ此処を離れて三年も経っていないというのに。
「……終着点は、やはり此処ですか」
 白い漆喰の塀に、立派な門構え。美しい日本家屋。すずなの実家。
「爺様、兄様――姉様……」
 道場の中には伊東時雨の姿。何度もこの場所で相対した。
 すらりと霊刀竜胆を抜く。
「鏡の迷宮で一度、これで二度目ですね」
 過去を映し出す鏡の幻影は。きっとこの先何度だってすずなの前に現れるだろう。
 胸を灼く切なさは在れど。この刀は曇らない。
 打ち倒すべき敵を誤らない。

「もう、幻影に踊るつもりはありません!」

 藍の瞳を上げたすずな。
 道場の床を蹴り間合いを詰める。一瞬の跳躍。全身全霊の刃。
 それを受け止めきれず時雨は身体を割かれる。
「あ……」
「姉様は、この様な攻撃で屈したりしません」
 すずなの中に届かぬカタチとして存在する姉は、たったの一太刀で両断出来るほど柔ではない。
 それでも、刀の血を払い踵を返すすずなの表情は硬かった。

「イメージが具体化されるというのは興味深いですね」
 次のドアを開けるのは『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)だ。
 果ての迷宮というものは各階層が全く異なる性質を帯び、まるで異世界のよう。
 リュティスの赤い瞳に写るは幻想国東部のドゥネーヴ領。
 故郷というには新しいのかもしれない。
 けれど、リュティスを救い上げ従者として新しい道を与えてくれたのは彼だから。
 存在の基点。ならばこの場所はきっと故郷たり得るのだろう。

「こちらです」
 リュティスはラビの手を引き街の案内をしてくれる。
「オススメの喫茶店があるんです」
 その喫茶店の茶葉は種類も豊富で、どれも美味しいらしい。
 お茶そのものの芳醇な香りに、花や果実などのフレーバーを加えて。
 オリジナルのお茶も逸品が揃っているのだとリュティスは微笑んだ。
「美味しそう、です」
「はい。今度、本物のお店に足を運んでみてください」

 喫茶店を右に曲がり大通りに出れば視界が開けた。
 美しく整備された長閑な町並み。王都のように絢爛豪華ではないけれど。
 メインストリートには敷き詰められた石畳と商店の看板が上がっている。
「わ……」
「ふふ、美しい町並みでしょう」
 純粋な感嘆の声にリュティスは自分が褒められたように感じて嬉しくなる。
 それも、此処を預かる主人の功績なのだ。
 この大通りを道沿いに真っ直ぐ進めば領主の屋敷にたどり着く。
「それにしても、なんとなく道がわかるというのもおかしな話ですね」
「はい」
 歩きなれた道。リュティスはラビを伴って進んでいく。

 ああ、けれど。この先に待って居るのは――
「ご主人様……」
 屋敷の門前。双槍を構え対峙するは領主代理。
 正しく倒しがたい相手なのだろう。
 リュティスの眉が険しさを増す。
「貴方は偽物です」
 同時にリュティスのスカートの裾から黒き蝶の大群が舞い上がった。
 一斉に雪崩れ込む黒の死。貪り尽くされ跡形も無く消えて行く。

「だって……ご主人様は私に負けることなんて無いのですから」

 ――――
 ――

「長らく忘れていたな。……ここの事は」
 小さく呟いた『艦斬り』シグ・ローデッド(p3p000483)は『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の背から離れ人の形を取った。
「ここがシグの世界」
「ああ、人としての生まれ故郷だ」
 誰も覚えていない災害により荒廃した世界。砂漠に埋もれた遺跡が点在する。
「私は研究者だった」
 遺跡から技術を掘り起こし解析する探求者。この世界でシグは一本の魔剣と出会い。
「――自ら魔剣となった」
 隣に居るレイチェルに語りかけるようにシグは紡いだ。

 砂に足跡を残し前を向く。
 遺跡のその奥へ向かうために。
「この先にシグの扉があるのか?」
「ああ、この先だ。私には分かる」
 かつて只人の身でこの道を通ったのだ。
 英知の魔剣となったこの身が解けぬはずもない。

「これは先ほどの石版に書かれた伝承とリンクしている」
 色を乗せたパズルを踏み込めば、次の階段が現れる。
 それを駆け上がると迫り来る針天井。
「シグ」
「ああ、こっちだ」
 隠されるように生じた横穴に滑り込んで、暗がりを進めば耳の横を断頭台の刃が走った。
 ソワリと鳥肌を立てたラビがプルプルと震えている。
「あまり横に出ると耳が無くなるぞ」
「はい」
 もう少し早く言って欲しかった。
 恐らく大丈夫だろうと判断して、シグは何も言わなかったのだろう。
 それら無数のギミックに守られた祭壇へと進んでいく。

「着いた」
「おお、ここが」
 シグの夢の終着点。
 知識を司る魔剣ローデットとの出会いの場。

 けれど、其処に居るはずの魔剣は居らず。
 代わりに幻影のレイチェルが現れる。
「偽物め」
「自分と闘うとか、面白いじゃないか」
 レイチェルが手を掲げれば、シグの姿が魔剣へと変わった。
「さあ、楽しませてくれよ!」
 祭壇に二人のレイチェルの姿が交錯する。


 ――それは寒い日のことだった。

 分厚い雲が宵闇を濃く深くしていくような雪降る夜。
 ヨハンナの家から続く足跡を追ってたどり着くのは暗がりの路地。
 事切れる寸前のレイチェルに駆け寄るヨハンナの姿。
「……何で」
 此処からなのか。刻みつけられた記憶の重さ故か。
 叶わぬ敵を前に逃げ出して行く様まで在り在りと映し出される。

 此処から先は知らぬ話だ。
 ヨハンナの記憶では有り得ない。
 その筈なのに。

「ようやく覚醒しましたか」
「貴方は」

 手を取り合う妹と仇敵の姿に、ヨハンナは目を見開く。
 復讐の場。ヨハンナの原風景に新たな傷が刻まれる――

「あぁあああ――!」

 駆け出したヨハンナは血の焔を練り上げる。
 それをレイチェル目がけて叩き込んだ。
「ふふ」
 金属の摩擦と不敵な笑いが響く。大きな鋏に弾かれた焔は暗がりの路地裏に霧散した。
「ヨハンナ……」
 妹の指先がヨハンナの頬を滑る。
 赤い髪、蒼い瞳。白い肌。紛うことの無い妹レイチェルの姿だった。

 ――――
 ――

「強いだわさ」
 眉を顰めて肩で息をした『総隊長』ペリカ・ロジィーアン(p3n000113)は端的な感想を呟く。
「そうだな」
 逸れに応えるのはシグだ。
 路地裏での戦闘は屋根の上に戦場を変えていた。
 狭い場所よりは、他所の足場の悪さの方が闘いやすいだろうとシグは判断したのだ。
 悲しき亡霊を呼び出し、慟哭の歌をヨハンナの妹レイチェルの姿を取ったガーデナーに見舞う。
 少なからず自らの攻撃は効果があるのだろうとシグは分析する。
 ならば、打つ手は多岐にわたるだろう。
「まずは敵の体力を減らす事か」
 シグの紡いだ言葉に頷く声がある。彼の影から薄紫の髪がなびいた。
「頼むぞ」
「任せて、斬ることは得意なのさ」
 前に飛び出したシキは大剣の重さを利用して、ガーデナーに刃を下す。
 大剣は重さを感じさせない剣技で激しい雨の如く降り注いだ。
「首を狙うのが処刑人の本懐ってね」
 連続攻撃の合間に挟まれる横薙ぎ。致命傷を避けるように身を捩らせるレイチェルに隙が生まれるのも道理だろう。
「っ……!」
 愛剣はシキ自身をも貪る。処刑人だと言うことを忘れるなというように。
 反撃の刃はシキの腹を抉る。鮮血が散り口の端から伝う赤。
 けれどアクアマリンの瞳は輝きを喪わない。
「シュバルツ!」
「おう、任せとけ!」
 飛び退いたシキの代わりにシュバルツが前に出る。
 その瞬間にイマジナリーガーデナーが彼の倒しがたい相手のカタチを取った。
「チッ」
 口元を歪ませて笑う彼女の姿にシュバルツは舌打ちをする。
 胸くそが悪い。正直やりにくいのだ。
 鋏と短剣の刃がクローム・オレンジの火花を散らした。
 叩きつけられる鋏の切っ先にシュバルツの腕が割かれる。
「だがな」
 その赤を意に介さず夜色の剣は一閃する。
「姿形を真似ようが、惑わされてたまるかよ!」
 続けざまに繰り出されるもう一つの短剣。連撃は聖女のカタチを追い詰めていく。

 後方へ退いたシキは屋根の上に膝を着いた。
 その腕を掴むのはスティアだ。
「今、回復を……危ない!」
 唐突に現れた刀。シキへと叩きつけられる軌道上。その上に身を躍らせるスティア。
「くっ……」
 親友を象ったイマジナリービースは、何度もスティアの背に剣を振り下ろした。
「スティア!」
「大丈夫」
 儚げな印象とは裏腹に。スティアの傷は浅い。回復手たる矜持。戦場に立ち続けるという強い意思。
 光り在れ。天使の歌声は光と共にスティアの周りに旋律する。
 ふわりとパールホワイトに輝く羽根が舞い落ちれば傷口が閉じた
 スティアに振り下ろされる剣は止まらない。
 けれど、それを弾く者があった。
「お相手願いましょう」
 すずなの凛とした声が戦場に響く。
 揺らめくビーストの姿。今度は時雨の姿を取るのだろう。
「何度も、何度も……!」
 その手は喰わないとすずなは先陣を切った。
 チリチリと手を焼くように愛刀が熱くなる。
「一気に行きます!」
 出し惜しみなど無い。
 突き入れた刃を横に返し一閃する。それでもすずなの軌跡は止まらない。
「まだ!」
 目に止めることすら出来ぬ程の連撃。一閃、二閃。続く銀刃、蘇芳の血雨が白き雪に散った。

「おいでませ。幻ごときに、揺らぐ拙ではありません」
 凜と鈴の音に似た硬質な音が戦場に木霊する。
 雪之丞は硬く変化させた手を打ち鳴らし、ガーデナーの気を引いた。
 いくら姿形をかの陰陽師に似せたとしても。
 鈴の音に惹かれガーデナーは雪之丞に迫り来る。
 雪之丞が知る彼は、こんな鈴の音に寄せられはしない。仕掛けられようものなら呪符の一つでも寄越してくるだろう。
「姿を真似た幻如きに」
 奴を再現できるものか。その声には愛憎入り交じった複雑な声色が滲んでいた。
 だから躊躇などしない。決定的に違う紛い物に容赦など無い。
「姿を偽られるのも、非常に不愉快ですので!」
 二刀を手に彼の懐に雪之丞は飛び込んだ。

 黒き蝶が空を飛ぶ。
 リュティスは主人に変幻したガーデナーを責め立てていく。
 先ほどの雑魚とは比べものにならない強さ。
「流石に、簡単に倒させてはくれませんか」
「……リュティス」
「っ!」
 発せられた声は主人そのもの。リュティスは小さく溜息を吐いた。
 卑しい敵風情が己の主人を真似る。それだけでも虫唾が走るというのに。
「名を」
 呼んでいいのは。その声で名を呼んでいいのはあの人だけだ。
 吹き上がった黒い蝶。血を啜り。皮膚を囓り。命を貪る。
「心に残る風景を写し、刃を向けるのを嫌がる相手を写し……」
 リアナルは肩を竦めた。
 イマジナリーガーデナーが鋏を持つのは、過去への執着を断ち切ろうとするものだろうか。
「それとも」
 過去の支えや拠り所を切り取ってしまいたいからなのか。
 思い出は人格を形成する礎。蓄積と共にヒトはヒトと成る。
 ならば。其れ等を無くしてしまったなら。
「思い出なくしてヒトはヒトに非ず……か」
 リアナルは目の前で『あの人』のカタチを取る幻影を睨み付けた。

 どうしようも無かったのだとフローリカは思う。
 あの戦場で、見捨てた者が居た。助けられなかった者が居た。
 皆この手をこぼれ落ちていったのだ。非力な少女が救える命なんて限りがある。
 許してくれとは言わないけれど。それでも。胸を掻きむしる慟哭が無いなんて。
「そんなわけ無いだろ」
 歯を食いしばり、苛立ちをそのままに。
「……ああくそっ」
 フローリカはハルバードを同僚の顔に叩きつける。
「全力で叩き潰してやる」
 胸を抉る感傷を振り払うように、強く強く。振るうのだ。
 顔に散った返り血が涙の様に頬を伝う。

「ヨハンナ、ねえ」
「……」
「最近、お仕事はどう?」
「……さい」
「ヨハンナは頑張ってるものね、無理はしすぎちゃだめよ」
「煩い! その声で喋るんじゃねえ!」
 ヨハンナは吠える。呼応するように文様が赤く光っていた。
 大きな鋏を持ったレイチェルは蒼い瞳を細める。
「……寂しかった?」
「っ!」
 そんな優しい言葉では包みきれやしない。
 激情を。苦悩を。憎悪を。抱え、人の身を捨て。復讐鬼となったのに。
 寂しかった等と括れるものではない。

 繰り広げられる術式と刃の交差。宵闇に咲く剣檄。
 ヨハンナはレイチェルの胸に光る赤を見た。
 まだ割れていない赤い石(アガット)の煌めき。
 何故。なんて問う間もない。

「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃――」

 決するは一瞬だ。身体の示すまま。動くまま。
 赤き焔の嘆きは半身のカタチを灼いた。

 ――――
 ――

 弾けたイマジナリーガーデナーはレイチェルの姿を保ったまま、路地裏の血溜まりへ落ちる。
 アガットを握りしめたレイチェルの頬が、薄らと微笑んだ。
 カチリと小さく音を立てて割れたアガットの赤。
 欠片だけを残して、世界が紫紺の夜へと霧散した――


成否

成功

MVP

すずな(p3p005307)
信ず刄

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 またのご参加をお待ちしております。

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