PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夏至の星花

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 そういえば、と『優心の恩寵』ポテト=アークライト (p3p000294)にブランケットを返しながらリュヌが言った。
「この丘、なんか特別な花が咲くとかいう言い伝え、なかったっけ? ほら、ずっと前に神父様が言ってた」
 彼よりも聖書を読みこんでいるエクレウの視線が彷徨う。
 神父様が言っていたということは、聖書や聖典に記されていることで間違いないのだろうが、
「ええと……あったような……」
 思い出せない少年が、喉の奥になにかが引っ掛かったような顔で悩む。
「なんだっけ……あの……特別な条件で咲く……星空を映す……、夜だけの花……」
「あらぁ、ロマンチックねぇ」
 ほろ酔いの『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ (p3p004400)がほんのりと熱を持った頬に手をあてて目を輝かせた。
 期待に応えようと頑張っていたエクレウだが、ついに匙を投げる。
「すみません、思い出せないです」
「こっちでも調べてみるよ。だから気にしないで」
 肩を落とすエクレウを『悪夢レベル1』アレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)が慰めた。『月しずく』蜻蛉 (p3p002599)は忘れ物がないかどうか、周囲をざっと見る。
「お日さんが昇る前に、帰りましょ」
「ん、そうだね」
 考えごとをしていた『死力の聖剣』リゲル=アークライト (p3p000442)が頷き、脱走計画に参加した八人のイレギュラーズと二人の子どもたちは帰路につく。

●夜半のお出かけ
「というわけで、ピクニックに行こうと思う」
「わーい!」
 ローレットの一角で『差し伸べる翼』ノースポール (p3p004381)がぱちぱちと手を叩く。宣言したポテトが満足そうに頷いた。
「天義の星降りの丘、特別な条件を満たした夜にだけ咲く『夜空を映した花』か」
 まぁ興味深いんじゃないの、と『ラド・バウC級闘士』シラス (p3p004421)はフォークで巻き取ったパスタを口に運ぶ。
 お昼時。テーブルを囲む全員が食事中だ。他の席もほぼ埋まっており、酒場は夜とはまた違う賑わいを見せていた。
「でしょう? ここに集ったのもなにかの縁っていうことで、一緒に行こうよ!」
 明るいアレクシアの声に異論を唱える者はいない。
「お茶とお茶請け持ち寄って、ねぇ」
「お酒も持って行っていいかしらぁ!」
 蜻蛉は品よく口許を拭い、昼間から飲んでいるアーリアが期待に満ちた表情で尋ねた。
「なんでもありだ」
「なにを持って行こうかなぁ」
 おおらかなポテトの言葉にアーリアが歓声を上げ、ノースポールは思いを馳せる。暗闇は少し苦手だが、星降りの丘は星明かりがあるそうだし、きっと大丈夫だ。
 君は? と咀嚼中のアレクシアに視線で問われ、シラスは肩をすくめる。
「……考えとく」
「異議はないが、疑問はある」
 片手を上げた『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)に視線が集まった。
「その『花が咲く条件』というのは、判明したのか?」
 沈黙。
 周囲の喧騒が自棄に大きく聞こえた。
「……まさか」
 分かっていないのか。
 落胆が漂い始めたころ、酒場の扉が開け放たれた。視線の行き場を失っていた七人の目が、救いを求めるようにそちらを向く。
「リゲル?」
 迷いなくこちらに向かってきた青年をベネディクトが呼んだ。片手を上げて微笑み、それに応じてから若き騎士は宣言する。
「花が咲く条件が分かったよ。――今夜、ここに集合してほしい」

●夏至のステラミラ
 気軽に訪ねてきたリゲルに、『深碧の天秤』エトワール・ド・ヴィルパンは不機嫌を隠そうともしない。
「星降りの丘の、星空を映す花?」
「ああ。なんでも聖書に出てくるらしくて。君なら知っているかと思ったんだ」
 彼が不服を言葉にする前に、リゲルは問いを放っていた。エトワールは気になる語を鸚鵡返しにし、リゲルが頷く。
 途端にエトワールの表情が変わった。
「なるほど。敬虔なる信徒である僕を頼ったというわけですか」
 勝ち誇った顔の信仰者に対するリゲルの感想は、『今日も元気そうでよかった』だ。
「知っているかい?」
「ステラミラですね」
 天義の上流階級の貴族の子であり、神を妄信するエトワールは近年の聖書から太古の旧聖典まで、しっかりと読みこんでいる。
 孤児院の少年が思い出せなかった名称をあっさりと口にした。
「古エッザイア聖典の三十六節に出てくる、夏至の花です。以降の記述はほとんどありません。その理由としては、ま――」
 不自然にエトワールが言葉を切る。リゲルが首を傾けた。
「ま?」
「……勉強不足ですよ、リゲル。天義の騎士たるもの、聖書聖典は余さず読むことですね」
「そうだね、反省するよ。ところで、ま、とは?」
「これ以上の情報が欲しいなら」
 話題のすり替えを許さなかったリゲルに、エトワールは堂々と言い放つ。
「僕を連れて行くことです!」
 奇しくもそれは、夏至の日の。
 春を忘れさせるほど暑い真昼のことだった。

GMコメント

 ご指名ありがとうございます、あいきとうかと申します。
 ピクニックに行きましょう!

●目標
・ピクニックを楽しむ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。
 ……イレギュラーズの皆さんにとっては現状不明点があるのですが、まぁどうにかなるレベルですので。

●ロケーション
 天義聖都フォン・ルーベルグの一角、通称『星降りの丘』。
 見晴らしのいい丘で、天体観測などがよく行われている。
 最近巨大な蜘蛛が出る事件が発生。一時的に閉鎖されていたが現在は解放されている。
 しかし『夏至の日は神隠しにあうので立ち入り禁止になる』。
 つまり今夜は立ち入り禁止。

 とはいえ気にせず入ってください。

●ま……で神隠しな『なにか』
 これを解決しないとピクニックは難しいです。

※PL情報
 ステラミラと骨肉を食べる敵性生物『ビジブル』です。丘に行くと襲ってきます。
 体長1メートルほど。妖精のような四翅を持っていますが妖精ではありません。
 ステラミラを食べるために、夏至の夜にだけ星降りの丘にやってきます。古くから存続している魔物です。
 決して強くはありませんが一般人が勝てる相手でもないので、襲われた方々は血も肉も骨も残さず食べられ、『神隠し』とされたのでした。
 エトワールさんが隠している情報がこれです。

●『深碧の天秤』エトワール・ド・ヴィルパン
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト (p3p000442)さんの関係者さんで、今回の情報提供者(全て提供したとは言っていない)です。
 イレギュラーズの活躍に嫉妬、ローレットの任務に首を突っ込みたがる好奇心旺盛な槍使いのお坊ちゃんです。
 根は真面目なツンデレさん。自信満々で人を見下し勝ち。すぐ人をライバル扱いします。リゲルさんはすでにライバル(逆恨み)です。

 今夜は屋敷を脱走して皆さんに合流する気でいます。そう、脱走です。
 つまり使用人の皆さんが探し回ることになります。

・『確保』
 エトワールさんを連れて行く/連れて行かないを皆さんでお決めください。
 連れて行かない場合は事前に使用人に脱走を密告しておくといいと思います。普段の三倍の監視体制をとり、エトワールさんを部屋に閉じこめます。
 ま……に対する情報は得られませんが、特に問題はないと思います。

 連れていく場合は戦闘後、お茶会の前くらいで使用人が確保にきます。
 エトワールさんの腕前は『今後に期待』なので、うまくフォローしてください。場合によっては重傷を負います。
 ま……に対する情報を得られます。ステラミラの詳しい伝承についても教えてくれるかもしれません。
 使用人を言いくるめれば一緒にピクニックもできます。

●ステラミラ
 夏至の夜、星の光を浴びて咲く花。
 条件を完璧に満たすのは星降りの丘だけだと言われています。
 背の低い花で、天を向いて開いた花弁にはゆっくりと天を廻る星々が映ります。
 朝になれば枯れる、年に一度しか咲かない花です。

 今宵、丘はこの花で満たされることでしょう。
 なにものにも荒らされなければ、ですが。

 それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ。
(ピクニックを楽しむためのあれそれをお忘れなく!)

  • 夏至の星花完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月17日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 寝静まった街を抜ける。
 街路の灯りは途絶えたが、『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)の指輪と星月の光があれば、イレギュラーズは難なく進めた。
 さり気なく八人に囲まれている『深碧の天秤』エトワール・ド・ヴィルパンも平然としている。
「なんだか星降りの丘が脱走者御用達みたいになっているけど、それだけ素敵な場所だものねぇ」
 エトワールの後ろにつく『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が悪戯っぽく言った。
「確かに、脱走した人の行き先みたいになってるな」
 笑いながら『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)が同意する。
「エトワールも一緒にピクニックにこられてよかったよ」
「遊びにきたわけではありません!」
 邪気の欠片もない『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)にエトワールが吼えた。
「あまり大声は出さない方がいい」
 冷静に『グロリアス・キャバルリー』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が指摘する。
 ピクニック用の荷物を載せた馬を従える槍使いの言に脱走少年が詰まった。
「なにがあるにしても、エトワールがいるのは心強いぜ。丘にも花にも詳しそうだし」
「大勢の方が賑わうしね!」
 肩をすくめて『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)がとりなし、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が手を後ろで結んで笑みを浮かべる。
「お菓子もたくさんあるので、エトワールさんも食べてくださいね!」
「ですから……」
 跳ねるような足どりのノースポールにエトワールが苦い顔をした直後、つん、と『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)がその頬をつついた。
「坊や、リゲルさんとは仲良しさんやの?」
「仲良しじゃありません」
「仲良しです」
 同時に放たれた真逆の返答の後、エトワールの「リゲル!」という叫びが響く。リゲルは朗らかかつ自信満々に笑っていた。
「ふふ、素直やないのは可愛らしいけど……、たまには本音を出すんもええよ。ほら、うちらに隠しとることないやろか?」
 エトワールが顔を振って蜻蛉の手を避ける。
「立ち入り禁止なのは魔物が出るからでしょうか? ステラミラのことも気になります!」
「俺も。そういう話聞くの、結構好きなんだ」
「そういう言い伝えとかが載ってる本も知りたい!」
 ノースポールは疑問と好奇心にくるくると表情を変え、シラスは片手を上げて主張した。アレクシアの双眸は期待にきらめく。
「ちゃんと連れてきたんだ。話してくれるよな?」
「いいでしょう。約束ですから」
 濃淡の陰影の中に浮かんで見え始めた丘に目を向け、ポテトに促されたエトワールは毅然とした声で語る。
「夏至の夜、ステラミラを食べる魔物がいる――、これが今宵、星降りの丘が閉ざされる理由であり、古くは神隠しとされた現象です」
「神隠し……」
 唇に指を添え、蜻蛉が目を伏せた。
「その魔物は花だけでなく、人も喰らうということか」
 ベネディクトは思案する。この先、ステラミラを眺めながらの穏やかなピクニックを望むなら、戦闘は避けられない。
「お楽しみ前の一仕事か」
「ステラミラを守るためにも、負けるわけにはいかないね」
 気楽にシラスは伸びをし、アレクシアは意気込んだ。
「精霊たち、私たちに以外になにかいたら教えてくれ」
「私も偵察してみるわぁ」
 ポテトが付近の精霊に呼びかけ、アーリアは夜鳥と感覚を繋いだ。
「本や伝承の詳細は後ほど」
「頼りにしてるぞ、エトワール」
「どちらが多くの魔物を討伐できるか、勝負ですよ、リゲル」
 自らの勝利を微塵も疑っていない様子のエトワールに、リゲルは肯定も否定もしない。
「楽しいピクニックの為に、頑張りましょう!」
 おー! とノースポールが元気に右手を振り上げる。イレギュラーズの明るい唱和が起こった。
 アーリアに手を挙げさせられたエトワールの頬が引きつる。

 夜鳥が星照らす丘のてっぺんの異常を目に映す。精霊はポテトに危険を伝えた。
 ベネディクトは馬を安全な位置で待機させる。彼によく世話をされるローレットの馬は、手綱を離されても逃げる素振りを見せず、気に入りの人間を心配そうに見送った。
 得物を手に一行は丘を上る。夏至の夜、吹き抜ける風はやや冷たい。
「イィィ」
 唇のない口の中に花を一輪投げこんだ魔物が、複眼を侵入者に向ける。一体が感知した異変に気づき、他の個体も一斉にイレギュラーズと槍を握る少年を見た。
「これが、神隠しの正体……!?」
「大人しく引いてはくれないか」
 すでに魔物は戦闘態勢に入っている。ノースポールが驚きつつも前に出て、ポテトも仲間たちを援護するための術を発動させた。
「もう、いけずやわ。邪魔せんといてくれる?」
「これから神隠しなんて起きないように、きっちり倒しておこう!」
 きゅっと蜻蛉が眉根を寄せ、アレクシアはエトワールに保護をかけた。
「花に傷はつけさせない」
「こんな魔物が出るんじゃあ、立ち入り禁止にもなるか」
 銀の燐光を纏う剣を手に、リゲルも歩み出る。規則が持つ意味に感心しながら、シラスは拳を握って開く。
 敵の威嚇をものともせず陣形を整えていくイレギュラーズに続き、エトワールも前に出ようとした。ベネディクトの片手がそれをとめる。
「前に出るだけが騎士や戦士の花でもないさ」
 少年が問う前に戦士は告げた。
「悪いが今回は俺たちに譲ってくれ。君にはすでに情報も提供してもらっていることだしな」
「僕は情報屋では……っ」
「万が一には、スピリッツを頼む」
 はぁい、とアーリアが振り返ったエトワールに向かって片手を振る。
「実戦において前衛と後衛の連携は最重要ともいえる意味を持つ。その後衛を守るという責任の重さを、理解できないわけではないだろう」
「……いいでしょう。僕が守り抜いて見せます」
 重いベネディクトの言葉にエトワールは苦渋を満面に湛えながらも、引いた。
「リゲル! 勝負は次の機会に!」
「喜んで受けて立とう!」
 誇らしげな声とともにリゲルが疾駆する。開戦の合図だった。
「後衛のか弱いおねーさんがピンチだったら、守ってね」
「頼りにしとるよ」
 指に銀の輪を飾った手を、アーリアが敵に向ける。蜻蛉はミスティックロアを自らに付与、リゲルの保護結界の効果で花弁の一枚も散らされない戦場を見つめていた。
「護衛しながら攻撃も加える。大変な役回りだぞ、エト」
「僕にできないはずがないでしょう」
 温かなポテトの言葉にエトワールは鼻を鳴らす。

 自尊心が高くて無鉄砲だが多分、悪気はない。それがエトワールに対するシラスの評価だった。
「とはいえまだ腕は立つ方じゃないだろうし」
 以前会ったときよりも修練は重ねているだろうが、『特異運命座標』の隣に立てるかと言えば、話は別になる。
 敵の数は十五。
「敵を引きつける。エトワール!」
「いいでしょう!」
「前に出すぎてはだめだぞ、いざとなればアーリアさんたちを守るんだろ?」
「分かっています!」
 シラスが気を引いた敵をエトワールの槍が薙ぐ。リゲルは彼に注意を払いながら、銀の剣を振るった。
 魔物はシラスだけでなく、リゲルとアレクシアも攻撃対象とする。エトワールに傷を負わせないための作戦だった。ポテトと蜻蛉も、少年には特に気を配る。
「実戦で学ぶことは多い。エトワールはこれから、もっと強くなれる」
 将来の友人を想い、リゲルは刹那、穏やかな目になった。
 直後には死闘に臨む騎士の眼差しに変わっている。
「退場願おう!」
 嵐の如き火炎は、降る星にも似て。
 魔物たちの怒りの声が丘の空気を震わせる。
 重ねるように琥珀色の雷撃が暴れ回っていた。
「ぱぱっと終わらせちゃうんだからぁ!」
 星見酒に胸を躍らせるアーリアに、蜻蛉が嫋やかに微笑む。白い指先から離れた深紅の蝶はアレクシアの肩にとまり、儚く消えた。
「誰も傷つけさせないよ!」
 四翅を羽ばたかせた魔物が上空から急襲、アレクシアが展開した花弁の障壁に衝突し魔力の粒子が散る。
 後方に一回転しようとした魔物が気づいて急停止しようとするも、遅かった。
 投擲されたベネディクトの槍が凄まじい音を立てながら急接近、逃れられなかった魔物どころかその直線状にいる個体まで纏めて貫く。
「今宵、神隠しは起きぬ」
 姿勢を戻したベネディクトが殲滅を告げた。
 よろめきながらも戦意を失っていない魔物に、ノースポールの銃弾が続けざまに的中する。
 憤怒と苦痛の声を上げながら、魔物は萎れるように消えた。
「エトワールさん、お願いします!」
「この……っ!」
 瀕死の一体をノースポールが報せ、駆けたエトワールが勢いのまま穂先で突く。
「筋は悪くないと思うんだよな」
 息が上がっている槍使いを見ながらシラスは独白し、敵の攻撃をかわした。
「きっと将来は立派な騎士さんやねぇ」
「楽しみだわぁ」
 朗らかに蜻蛉は目を細め、アーリアもふふふと笑声をこぼす。ポテトは天義の騎士として背筋を正すエトワールを想像してみて、
「うん、似合っている」
 深く頷きつつ、味方の傷を癒した。

 激戦だったかといえば、そうでもない。
 どちらかと言えば弱かったとイレギュラーズは思いつつ、口にはしなかった。
「お疲れ」
 労うシラスにエトワールは声なくただ首肯する。
 負傷の危機は自然を装ってイレギュラーズが避けさせたため、エトワールはダメージを受けてはいない。
 とはいえ、戦場を走り回り得物を振っていたせいで、少年は疲れ切った様子だった。
 気丈に振舞おうとしているが。
「えらい助かりました。おおきに、男前さん」
「かっこよかったわよぉ」
「ありがとう、前より強くなっているな、エト」
「僕にかかれば、この程度……」
 槍を杖にせず、エトワールはどうにか立つ。
「疲れたね」
「休憩も兼ねてピクニックにしましょう!」
「そうだな」
 根性は百点、と思いつつアレクシアが微笑し、ノースポールが一度手を打ち鳴らす。ベネディクトにも異論なく、馬を迎えに行く。
「エトは休んでいても――」

「エトワール様! 見つけましたよ!」

 保護結界を解いたリゲルの声を遮って、安堵と怒りがないまぜになった叫びが響く。ベネディクトも足をとめ、丘を登ってきた人々に道を譲った。
 侍女二名、衛兵らしき男二名。エプロンと鎧にヴィルパン家の家紋が刻まれている。
「帰りますよ、エトワール様!」
「もしかして戦闘をしていたのですか!?」
 口々に責め立てられ、エトワールが呻いた。
 イレギュラーズは顔を見あわせる。
「まぁそうなるか」
「次の作戦に移ろう」
 想定内の事態にシラスは声を潜め、ベネディクトが一同を促す。
「待ってください!」
 まずはノースポールが制止した。ヴィルパン家の使用人が困惑の目になる。
「エトワールさんのおかげで有利に戦えました。どうか、連れ帰るのは待っていただけませんか?」
「ですが……」
「彼をとめず、連絡もなく共に行動していたことは申し訳ありません。ですが、彼も前とは違い、ひとり先走ることもなく、私たちにあわせて戦ってくれました」
「脱走は咎められるべきことでしょう。ですが、その成長は認められるべきであり、褒美もまた必要ではありませんか?」
「なにかあれば、私もヴィルパン卿へ謝罪に伺います」
 ポテトとベネディクト、ヴィルパン家と特に親交が深いリゲルの説得に迎えにきた面々も視線で相談しあった。
「彼がこうしてたくさんの人と関わるのも、大切なことじゃないかしらぁ?」
「せや、坊ちゃんの経験の為にもご一緒して行かん? お酌もしますよ」
「めったにない機会だし! ステラミラを見て行こうよ!」
「ちょっとくらい、いいんじゃない?」
 押し通せることを確信したアーリアと蜻蛉、アレクシアが使用人を引きこもうとし、シラスも助力する。
 揺れに揺れたヴィルパン家使用人は、判断を渦中の人に委ねることにした。
「エトワール様はどうされたいですか?」
「……僕は」
 迷い、躊躇い、少年は小さな声で言う。
「もう少し、ここにいても、いいと思います」
「あらぁ」
 素直じゃないと言いかけたアーリアの口をノースポールが慌てて塞いだ。


 大きめのシートも、人々と持ち寄った軽食と飲み物が並べば手狭に感じられる。
「はぁい、お酒が欲しい人ぉ!」
「いただきます」
「わ、私も!」
「ポーちゃんは呑みやすくて強くないのをねぇ」
「ありがとうございますっ。少しずつ飲みますね」
「俺も頂いていいだろうか」
「もちろんよぉ!」
 蜻蛉とノースポール、ベネディクトと使用人たちにアーリアはお酒が注がれたグラスを配っていく。
 アルコールと食べ物の匂いにまじり、ふわりと芳香を広げるのは、リゲルがいれた紅茶とシラスのお茶だった。
「お酒かあ、いいですね! おっと、ポテトも飲みすぎには注意だぞ?」
「酒はリゲルの誕生日まで飲まないから大丈夫だ」
「お茶と紅茶で温まってよ」
「ありがとう、お酒は飲むとすぐ寝ちゃうんだよね」
「僕も紅茶をお願いします」
 温かな飲み物が注がれたカップが、ポテトとシラス、アレクシアと、開き直った様子のエトワールの手に渡る。
「乾杯!」
 誰からともなく、弾けるような声を丘に放った。
「イエーイ、いただきます!」
 早速シラスが軽食に手を伸ばす。たくさん歩いた上に一戦挟んだのだ、もう腹ペコだった。
 サンドイッチにカナッペ、その他つまんで食べられる品々、ミニサイズのマフィン、アップルパイ。お酒に果実ジュース、リゲルが用意した紅茶とシラスが用意したお茶。
 次々と杯が乾され、間をおかずに満たされ、歓談の間に食べ物は消えていく。
「本当に綺麗だな」
 周囲を見回して、ポテトが感嘆の息をつく。
「本当に星空を映しているんだね」
 煌めく地上を、リゲルも見た。
「ステラミラは信仰心が篤い女性でした」
 何気ない調子で、サンドイッチを嚥下したエトワールが語る。一同の視線を受け、少年は咳払いをした。
「話すと言ったでしょう。……遥か昔、ステラミラは夏至の日に主に白い花を捧げました。物心ついたときから、季節の巡りを感謝するその行為が、彼女に根づいていたのです」
 主は彼女の行いに深く感心していた。
 だが、ステラミラは若くして重い病を患い、その生涯を終える。
「嘆かれた主は彼女を星にすることを提案しました。しかしステラミラはそれを辞したのです。『地にありて主のまします天を仰ぐことこそ、我が至上の喜び』として。
 主は彼女の謙虚さに感銘を受け、彼女を夏至の花にしました。彼女は永遠の信仰の証として、花弁に星空を映しました」
「信仰の伝承なのに、あまり伝わっていないのねぇ」
 あるいは、現実には魔物が絡むがゆえに伝えたくなかったのか。
 役目は終わりとばかりに紅茶を飲みかけて、エトワールはカップから唇を離す。
「こういった話は『ティトミレオ聖譚』という書物に多く記載されています。ステラミラについては書かれていませんが」
「ありがとう!」
「……どういたしまして」
 素っ気なくアレクシアに応じてから、エトワールは眼差しに気づいた。
「なんですか、リゲル」
「エトとの冒険はとても楽しいと思ってね。もっと腕を磨けば、外出許可もおりやすくなるはずさ」
 だから、とリゲルはエトワールとの距離を縮める。
「更なる訓練を重ねよう! 俺もつきあうぞ!」
「近いです!」
「俺も槍の稽古ならばつきあう。全うな型のある槍術ではないが」
 絶景と美味しい食べ物に酒も加わり、最高の気分を満喫していたベネディクトまで名乗り出る。
 葛藤した少年は、紅茶を一息で飲み干した。
「考えておいてあげます!」
 叫びに笑いながら、ノースポールは花畑に寝転んだ。
「夜空と地上に星が瞬いて……、とても綺麗で、夢の中みたいですね……」
「ふふ、ポーちゃん、あとで花茶でもいかが?」
「いただきますっ」
 このままでは寝てしまうことに気づき、ノースポールが跳ね起きる。蜻蛉は笑んで、その瞳に星空を映した。
「……ほんに、綺麗やねぇ」
「そうねぇ。この先どんなことがこの世界に起ころうと、この景色は守っていきたいわねぇ」
 しみじみとしたアーリアに、蜻蛉は浅く顎を引く。
 大丈夫、と自分に言い聞かせて。皆がいるのだから、守れると信じて。
 愛しい人たちのいる、この景色を。
「アレクシア」
「うん?」
 アップルパイを齧りながら、シラスは飾らない口調で問う。
「もしも本当に神隠しがあったとしてさ、俺がいなくなったらどうする?」
「そりゃあ、なにがあったって見つけ出して、助けるに決まってるじゃない!」
 胸を張って、悩む間さえなく笑って返されシラスは瞬いた。
「私は物凄く諦めが悪いからね!」
「……心強いよ」
 片目をつむって見せる彼女に、シラスは柔い感情を覚えて笑う。アレクシアはノースポールの手作りマフィンを食べて、「ドライフルーツが一番好き!」ととろけた顔で宣言していた。
 気づけばノースポールは使用人たちと盛り上がっている。
 アーリアと蜻蛉がグラスを触れあわせ、リゲルとポテトが寄り添ってこの平和を満喫し、アレクシアとシラスはエトワールに物語をせがむ。
 皆が楽しんでいる光景に、ベネディクトも目元を和ませた。
 不意にポテトがカップを掲げる。
「素敵な夜と、素敵な仲間たちに!」
「乾杯!」
 歓声が弾け、夏至の花も揺れた。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

ステラミラとピクニック、お楽しみいただけましたら幸いです。
この度はご指名ありがとうございました!
ゆっくりとお休みください。

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