PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蠱毒の脚

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 例えばの話をしよう。
 生きたモノと、生きたモノを同じ場所に閉じ込める。食事も水も寝床も与えず、ただ何もない場所で、だ。
 2体は穏便な手段を模索するかもしれない。
 或いは早くから互いを手にかけようとするかもしれない。
 しかしどちらだとしても片方が死に、片方が生きる。死は常に1人での現象だ。
 そして生き残った片方は体力か、精神力か──はたまた運や神の悪戯かもしれないが──何かを持つ、所謂『強者』である。
 ならば。例え100体を同じ場所へ閉じ込めても、その結末は同じはずなのだ。



「蠱毒、って知ってるかい?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズへ羊皮紙を差し出しながらそう問うた。
 蠱毒とは呪いの一種。数多の虫を共食いさせ、最後に残った1匹で人を呪い殺すのだ。その体に含まれた猛毒は、もちろん人を殺すほどの劇薬である。ロクなものでない故に、『作るだけで罪になる』と云われる代物でもあった。
 色々な文化の集まる混沌ゆえに既知の内容と多少の誤差はあるかもしれない。しかし大体このような内容だろう。
「でも、これを薬とする人もいるんだよね」
 読むように促された羊皮紙には蠱毒の詳細と在り処が記されている。つまるところオーダーは蠱毒を奪ってこい、ということだ。蠱毒となったモノの足を斬り落とし、煎じて飲めば難病さえも治るということなのだが、真偽のほどは不明である。
 不明ではある、のだが。これを依頼してくるということは依頼者もそれ相応の理由と覚悟があるのだろう。
 肝心の蠱毒はと言うと、作るだけで罪と云われる通りそうホイホイと作られても困る。しかしなんの因果であろうか──依頼人とよく対立する貴族が密かに作っているらしい。
「仲の悪い貴族同士らしいね。まあ金さえあれば非道なこともできるってところなのかな」
 揃って蠱毒などというものを欲するあたり、実は気があうのかもしれないが。ともかく金さえあれば必要な材料も、口封じも思いのまま。場所の用意も出来るだろう。
「ま、作ることが罪ならそれを流用しようっていうのもまた罪だ。キミたちは少なからず悪名知られる存在になるから気をつけて」
 引き返すなら今のうちさ、とショウは肩を竦める。イレギュラーズとて必ずしも善ではない。そしてローレットも、また。故にこのような依頼も舞い込むのだ。
「そしてこの依頼を受けるのならば、やはり気をつけなくてはならない。『彼ら』は相当凶暴だ」
 ショウ曰く、蠱毒はまだ完成していないらしい。故に全て屠り、全ての足を狩ってくる必要があるそうだ。
「依頼人はとても急いでいるみたいだよ。だから蠱毒が完成してから狩りに行く、なんて悠長なことは言っていられない」
 隠れてことを成す時間も惜しいといったところか。実際、場への侵入はバレても良いらしい。そもそもこちらが足を狩る以上はどこかしらで気付くこと。そして依頼人である貴族には事態を有耶無耶にする権力も金もあるのだ。相手も蠱毒などというモノ絡み故に、あまり事を広げたくはないはずである。
「ただし、キミたちがイレギュラーズである事だけは伏せてほしい。ローレットとしてもそれなりのことはどうにか出来るが、明確にされたらどうしようもできないんだ」
 そこばかりは頼むよとショウは念押しする。言質を取られてしまってはどうすることもできないのだと。
 ショウを介した依頼人の言葉によれば、あちらの指定した日時に行けば蠱毒までの道のりは手引きしてくれると言う。帰りも同様だ。完全に隠すのは難しいだろうが、極力発見を遅らせるつもりらしい。
 イレギュラーズの仕事は蠱毒になりかけのモノを全て屠り、足を狩ってくるだけ。純粋な『盗み』の仕事であった。



 暗闇の中に光はなく。
 さりとて光を、生を望まぬわけにもいかない。

 誰しも生きている以上、死は恐怖だ。生きたい、死にたくないという渇望が全ての生き物を突き動かしていた。
 そこへ不意に新たな生者の気配。1つではない、複数だ。皆殺しにしなければ、と中にいたモノたちの視線がそちらへ向く。
 ねっとりとした闇の中、複数のまなこが動く。新たな生者たち──イレギュラーズたちは彼らへ向けて武器を構えた。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。


●成功条件
 場にいる全ての敵を倒し、足を切り取る

●情報精度
 このシナリオにおける情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●エネミー
・大百足
 人ほどの大きさをした百足です。防御技術に優れています。回避は苦手です。
 噛み付く、引っ掻く、その他巻きつくなどの攻撃をしてきます。

毒爪:その切っ先には毒を含んでいます。【猛毒】
捕食:食べねば生きていけないのです。【HP吸収150】【流血】

・蜘蛛の群れ
 非常に多くの蜘蛛の群れです。個体はそこまで大きくありませんが、必ず群れで動き相手を攻撃します。
 HPに優れ、攻撃力は控えめです。
 噛み付く、無数の糸で拘束するなどの攻撃をしてきます。

糸巻:動きにくくなります。【不吉】【泥沼】
吸収:さあ、活力を、寄越せ。【AP吸収150】【懊悩】

・ヒト
 もはや理性の欠片もない廃人です。言葉を発さず、理解できません。成人男性です。
 ボロボロになった布切れをまとい、肉弾戦を仕掛けてきます。
 HPはそれほどでもありませんが、攻撃力に特化しています。

馬鹿力:必死のあがきなのです。【攻勢BS回復50】【出血】
暴れ馬:暴れまわります。範囲攻撃。

●フィールド
 そこそこの広さをした密室です。とても暗く、命中回避にマイナス補正が生じます。
 また何らかの工夫をしなければ誰と戦っているかわかりません。

●ご挨拶
 久しぶりに悪属性です。愁です。
 なんか色々な足が必要みたいです。蠱毒と言いつつごった煮に見えるのは混沌だから。ね。
 ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • 蠱毒の脚完了
  • GM名
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
彼岸会 空観(p3p007169)
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)
超☆宇宙魔王
トモエ・アストラルノヴァ(p3p008457)
執行者

リプレイ


 夜闇に紛れ、陰に隠れ。
 『イレギュラーズ』は──いや、名もなき集団は味方の手引きによって狭い道を行く。聞いた話によればとても大きなモンスターもいるようだが、この道をどう運んでいったと言うのか。そもそも蟲毒を完成させたとしてどう運び出すのか。何に使うのか。
 ──などという些末なことは聞かされないし、聞く気もない。必要性すら感じない。
(盗むと説くよりは狩ると噛むべき事柄と解く。内容が単純明快で好ましい。
 何よりも足だ。八つ当たりにも程度が要るが、忌々しい脚を切り取るのも悪くない。グロテスクの劣化は煎じて呑むに限る。Nyaha!)
 『にんげん』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は嗤う。それは極力息らしい息を殺し、足音も殺し。その巨躯は屈むことによって小さく見せ、自らへ纏わりつく何かがあろうものならすぐさまシャットダウンする。ここにいるのは『_______』ではない。ただの、罪を重ねる人の貌であった。
 依頼人のオーダーは何とも気色悪いモノであるが、これが薬になるのだと言う。悪趣味と言うか、神経質と言うか。
(蠱毒とやらを娯楽として楽しむなら分かるけど、薬を求めての行動なら些か的外れなのではないかな?)
 結局は血肉なのだ、と『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は目を細め、ランタンを小さく揺らしながら進む。その耳には這いずり回り呻く声が。その鼻は死臭を敏感に感じ取っていた。同じような臭いを遅れて感じ取った『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は思わず顔を顰めてしまう。
(うっわ、ナニこれ。スラムだってもーちょいキレイだろーよ)
 いかに放置され続けたのか──殺し合いの時間が長かったのかわかる。まだ現地についていないのに、だ。
 まだ相対せぬモンスターの存在に『超☆宇宙魔王』フーリエ=ゼノバルディア(p3p008339)はにんまりと笑みを浮かべる。きっと突飛な進化を遂げた、世にも珍しいモンスターがいるに違いない。ダメもとでもスカウトしてみたいものである。
 不意に先頭が止まる。ここまでの道のりを手引きした者が、ここだというように体をずらして扉を指し示した。
(……このイレギュラーズになって幻想に来て、暫く忘れていたけど。僕は必要悪の教会の使徒だ)
 これからの展開を想像して、『十字の狩人』トモエ・アストラルノヴァ(p3p008457)はすぅと小さく息を吸う。嗚呼、嫌な臭い。
 本日は『_______』と名乗らない。忘れて良い。なんて都合が良いのだろう。トモエは天が与える罰の代行者。今宵の獲物は大層行いが悪かったのだろう。でなければ殺され足を切り落とされるなんて酷い結末、天が用意するはずもない。
 扉が開かれる。息づく生者の気配。理性を失った獣の気配。それが一様に新たな乱入者──自分たちを屠ろうという敵意を持つ者たちを敏感に感じ取る。
 ゴーグル越しにその瞳を見たトモエは、小さく嗤った。

「──お祈りは、済ませたのかしら?」



 注意が彼らへ向いた瞬間、ぺっかー!! とフーリエが光る。
「がはは、超☆宇宙魔王フーリエである! 余の威光にひれ伏すがよい!」
 これを聞かれればイレギュラーズに同名の奴いるだろうとか言われるだろうが、ローレットならきっと揉み消してくれる。さらに言うならこの場で聞いた者は仲間と、これから死にゆく定めのモンスターたちだけだ。
「始めようか」
 マルベートの回す悪魔のルーレット。狙うは理性を失い獣と化した人間だ。
「折角だ、遠慮すんなよ」
 ことほぎもまた浮かされるような病を仕向け。次の瞬間、チカチカと光が瞬いて敵を焼く。
「蠱毒ってこの世界でなら実際に効果がありそうね?」
「時に薬ともなり得るとは知りませんでしたがね。この世界はやはり驚きでいっぱいです」
 『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の後を気にせぬ魔法攻撃に『血禍美人』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)が続く。その指が示した場所は、何があるわけでもないのに人間へ切り傷をつけた。
 ノーマークであった蜘蛛と百足であったが、前者はトモエが素早くマークに走る。吐き出された糸が絡みつく感触に顔をしかめるも、こいつらを押しとどめることが彼女の仕事だ。
「貴様等に罪は無いが、覚悟は決め給え」
 そして後者にはオラボナが。毒を持つ爪がその身を傷つけるが、これしきでオラボナは倒れない。むしろ倒れてしまっては、イレギュラーズの殆どがこのモンスターを押さえられないと言うことになる。
「死にゆくものにせめてもの救いを与えに──参りましょう」
 彼岸会 無量(p3p007169)は後の先を考えながらも、人間の懐へ踏み込む。向けた太刀は切っ先が揺らめき、怯んだ敵の腕を貫いた。
「──!!」
 絶叫。いや、咆哮と呼ぶべきか。そのまなこはぎょろぎょろと動いているものの、急な明かりに順応できていない。だからソレは本能で誰から屠るべきか答えを出す。
 ──柔らカソウな、オマエからダ!!
 本来ならば出さないような筋肉の使い方をしているのだろう。吹っ飛ばされたメリーの身体が軋んだ音を立てる。
「ぐっ……」
 まだだ。この程度で倒れるものか。わたしが殺してやるわ!
 攻勢に不調までも回復させた人間は只人ではなく、やはり蠱毒の一部であるのだろう。再び因果律を歪ませた悪魔のルーレットを回しながら、マルベートは鬱蒼と笑った。
「あぁ、上手く燃えてくれればいい灯りになるだろうね?」
「燃やし尽くしちまったらマズいけどな。蟲毒っつーぐらいだし、呪い足した方が薬効も上がるんじゃね?」
 ことほぎは彼女へ返しながらナイトメアバレットを放つ。今、この時以上の悪夢があるのかは不明だ。しかし憎悪を1つに集約するのが蠱毒ならば、これもまたその材料となるだろう。
(なんて言いつつ、ホントは範囲攻撃面倒クセェだけだけど)
 理性を失ったアレは強いなんてものじゃない。ヤバい。自力での回復手段しか持ち合わせていない以上、ダメージを分散させる利点はない。百足と蜘蛛は仲間が押さえてくれているが、こちらばかりはそうもいかないのだ。
 自らの危機を感じれば後退し、状況を立て直しては近づいて撃つことほぎ。オラボナとトモエが他2体を押さえている間に、とメリーの放つ光がヒトの肌を焼き、クリシュオーネの指が振られる。無量の切っ先がその視線を惑わし──けれどソレは最期だと知りながらも生へしがみつく。1人でも、1体でも多く殺すために!
「くっ……!」
 暴れ馬に蹴られたかのような重い衝撃。苦痛に歪む仲間たちの背後でフーリエの力が溜まる。遥か後方から狙う彼女に、そんな攻撃は当たりさえしない。
「必殺──超☆魔王波!!」
 狙いすました命中力と、破壊的威力。無量の惑わしも相まってソレは魔王波をもろにくらい、体に風穴を開けた。

「そちらは頼む!」
 フーリエは皆と分かれ、オラボナの元へ。庇われる範囲に入りながら鋭利なる手刀を繰り出す。がきん、と堅いものに遮られてフーリエは笑みを浮かべた。
「キミ、良い身体しとるの! 余の魔王軍に入らないかい?」
 スカウトにかかるフーリエへ、しかし良い反応とは言い難い。食らいつかんと顎を開いた敵の眼前へオラボナが立ちはだかる。
 どれだけ強かろうとも、これは本能のままに戦うモノ。軍の傘下に入ったとて言葉など理解できず、敵味方も分からないままに『誰か』を屠っていくだけだ。
 2人が百足を抑え込む中、他の仲間たちは蜘蛛を押さえるトモエの元へ向かう。蜘蛛に囲まれ囚われながらも、トモエは恍惚と笑みを浮かべていた。
「さあ死ね、さあ疾く死ね」
 これは殺戮ではなく救済なのだとトモエは説く。罪人たる彼らを神の御許へ送れば、きっと手厚く迎えて下さり来世は良い人生となろう。それに抗おうなんて──まだ罪を被るつもりか。
「これは僕の使命。さあ、今ここで死ぬことで、貴方がたの罪は許されるのですから!」
 抗いし罪人たちの攻撃を潜り抜ける──特異運命座標たる彼女に秘められたひと欠片。嗚呼、これも神の御加護かもしれない。
「私もひとつ骨を折ろうじゃないか。ほら、混ぜてくれ」
 マルベートの声。蜘蛛の群れは獣の如き赤の眼光に気押される。負ける、喰われる。そんな本能の危機を掻き立てる。それはことほぎの贈る片恋の病にも負けることなく、ざわりとかの悪魔へ向かって群れは動き出した。魔弾を撃ち込むメリーの攻撃に続き、無量が群れの懐へと飛び込む。
「大蜘蛛ならばまだしも、群を相手取るのは不得手でして……!」
 せめてもとこの後の戦いに備え温存し、且つ火力を出さんとする無量。ちろちろと溢れそうになる子蜘蛛をクシュリオーネは指で引き裂いていく。
(数が多いですね)
 どれだけ引き裂いても蠢く小さな影は途切れない。一直線にマルベートの体へ這いあがるそれらは噛みつき、また糸を伸ばして彼女から活力を奪っているようだった。
 トモエの奇襲攻撃がいくらかを削ぎ、マルベートは手にした2振りの魔槍で確実に切り刻んでいく。彼女に有毒かなど関係ない。噛み砕けさえすればそれは彼女にとって『食事』と成り得る。
「ああ、少し減ってきたんじゃねぇか?」
 呪いの魔弾を撃ち込むことほぎはそう笑う。蜘蛛がマルベートから力を吸収すると同様に、ことほぎもまた与える呪いで活力を削ぎ落しているのだ。彼らもガス欠──いや、魔力の籠った糸をつむぐのに限界が近いと見た。あとは1匹残らず殺すのみ。
「嗚呼、なーんて、楽しいのでしょうね、救済とは!」
 トモエが嗤う。執行者──そんな言葉が彼女にふさわしいのかもしれない。
 暗澹たる空間に息づくモノがひとつ、またひとつと消えていく。その中で強靭な防御を持つ百足は未だ君臨していた。
 まるで不滅であるかのように自らの傷を癒していくオラボナ。彼女に庇われたフーリエは硬い装甲を破る必殺技で百足を痛めつける。その死角で白が煌めいて──トモエの刃が不意を突いた。
「──まったく、あまり上等なディナーとは言えないね?」
 苦笑の声。食に貪欲な悪魔マルベートが文字通り最後の力で喰らいつく。あらゆる災厄を恋の病と称したことほぎの攻撃が百足へと向かっていった。
 だが百足にもここまで生き延びた矜持があるとでも言うのか──猛毒を含んだ爪を立て、牙を剥いて立ちはだかるオラボナを倒さんとする。
「もう少しじゃ! 押し込むぞ!」
 フーリエはその影から手刀を繰り出し、そこへ今こそ力の出しどころと無量が急所と思しき点を素早く突いて行く。相対する敵が増えたことによって、百足は標的を変えようとしていた。
 目の前のソレは、あまりにも壁として大きすぎた。それを相手取っていれば──否、これ以上相手取ればソレを倒す前に袋叩きだと百足へ理解させるほどに。
「逃がさん」
 オラボナが執拗にマークし、そこから逃れるように這う百足。少しでも頭数を減らそうとしたか、無量へ向かってその顎は大きく開かれる。
 ──だが。 
「いかに硬くとも、体内は弱い。当たり前ですがね」
 魔性の切っ先が百足を惑わし、その口元へ太刀を突き立てさせる。
 ギギ、と呻き声のようなものをあげる百足。その口元へここぞとばかりにトモエが気功爆弾をねじ込み──内部から爆発させた。



 静かになった部屋の中。聞こえるのは仲間同士の息遣いのみ。戦闘で張り詰めていた空気はいくらか和らいだような気がするが、まだ依頼は何も達成できていない。そう、足を狩る時間であった。
「んー、やっぱりヒトの脚が一番手応えあって良いモノですね」
 なぜヒトの脚は2本しかないのだろう。虫のそれも普通よりはマシな手応えだが、やはりヒトである。
 ヒト以外の脚はさしたる手応えもないものの、只々数が多い。若干崩れそうな部分もあるため、余計に時間もかかる。ことほぎは作業の傍ら視線を周囲へ巡らせた。
(金目のモンとか盗んどいた方が強盗のシワザっぽくね?)
 どれだけ自分たちの──ローレットの仕業ではないと思わせるか。そう閃いたことほぎであったが、いかんせんここに金目のものなんてなかった。あるのは死骸と死臭ばかり。初めは嫌だった臭いも、今や鼻が麻痺してよく分からなくなっている。
「所で足以外は捨ててしまうのかな? サステイナブルとは言い難いね」
 残骸を見下ろして肩を竦めるマルベート。まあ、どうせ足以外はどうでも良いのだけれど。
「それにしても、こんなの飲んだら身体は治っても別の理由で魘されそうですね」
 クシュリオーネは溜まった足へ視線を向ける。これを煎じて飲むのか。この大量の、おどろおどろしいブツを。
(……夜中に脚を取り返しに来られる幻とか、見ないと良いですね?)
 もし仮に、これが薬として病気を治したとしても。そうなってしまえば、悪夢の始まりだ。
「然し、可笑しな話ですね」
 無量は微笑む。完全でない蠱毒に、その足に、意味があると言うのだろうか?
 嗚呼、それよりは──。
「まるで仕上げに、私達の中で1人になるまで殺し合えと言っているようではないですか?」
 瞬間、空気が張り詰める。凍りついたようなそれに無量は「冗談ですよ」と告げた。
 真か、嘘か。そこまでは彼女の表情から読み取れない。
 無量に促されるまま足を麻袋へ詰め、その場を後にしたイレギュラーズ。死臭が薄れて少しずつ嗅覚が戻ってくる。
(変な趣味ね、こんなものがいいなんて)
 トモエはその重さに口元を笑みへ歪める。虫の、動物の、人間の足。刈り取るなんて酷いことをさせても依頼人が生かされるのならば、それはきっと天の思し召し。
 故に──正しいのは、きっと貴方。
 ふふふ、とトモエの笑い声が小さく闇の中へ溶けた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)[重傷]
虚無堕ち魔法少女

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 蟲毒の脚を手にした依頼人は、それを飲んだ人物はその後どうなったか定かでありません。
 まあ──依頼を終えた皆様には関係のない事ですが。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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