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シナリオ詳細

やったあ、新作ゲームのテスターに選ばれたぞ!!(ガッツポーズ)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●裏が透けて見えるほど甘い話
 毒ほど魅力的な色を放つものは存在せず、それを口にせずに済むのは知性ではない。
 それはひとえに、理性に依るものである。
 それがどれだけ妖しくあろうと、口にせずにはいられない。無害であるという根拠のない判断を取らざるを得ない。
 ヒトとはだいたい、そうやって破滅してきたのだ。
 失敗したと思う。
 新しいゲームのテストプレイをしてほしいと依頼されて、そんな楽しいだけの仕事があって良いのだろうかと思いはしたのだ。そこが理性によるストップの入った一回目。
 依頼主を確認すると、練達の研究機関だった。脳内でアラートが大音量を発した。それが理性によるストップの二回目。
 体験型の新作VRゲームだと言われた。そこで理性が本能を抑えきれなかった。
 だから、こういう羽目にあっている。
「ちょっと待ってちょっと待って! これゲームのテストプレイなんだよね? そうなんだよね?」
「……え、はい。そういう依頼ですからね。まさか、騙して人体実験のサンプルにしたりはしませんよ。大丈夫、これはゲームのテストプレイです」
「うん、よかった、間がすっごく怖かったけど。じゃあ、じゃあね……どうして椅子に縛られてるの?」
 椅子に座らされて、手足を拘束されている。首を回せば、他の仲間も同じような状態だ。
「…………VRゲームって、結局ヘッドギアを取ったら終わっちゃうじゃないですか。それじゃあ意味がないので、最後までプレイしてもらうためですよ?」
「え、えーっと、すっごくつまらないとか?」
「まさか、試験段階とは言え、仮にもヒトに遊んでもらう段階まできて、退屈なものを提供したりはしませんよ」
「じゃあ……すっごく怖いとか?」
「………………じゃあヘッドギアなんですが」
「答えてよ! ねえ、答えてよ!!」
「大丈夫ですよ。ゲームですから」
「う、うん、そ、そうだよね。ゲームだもんね。偽物だもん―――ひぃっ!?」
 無理やり自分を安心させようとした矢先、研究員が持ってきたものに思わず叫び声が出た。
「なに、なにそれ!?」
「何って、ゲーミングヘッドギアですよ。これがなくちゃVRとは言えません」
 確かに研究員が用意したものは頭に付ける形をしている。しかしそれは、視界だけでなく頭部全体を包む形をした小さな檻のようなものであり、どこか棘棘した危なっかしいデザインと、鉄錆びたようなカラーリングが非常に目を引いた。
「知ってる! それ知ってる!! 頭グシャンするやつ! 時間内にクリアできないとグシャンするやつ!! ゲームってそういうこと!?」
 必死で抵抗する彼女を、研究員が宥めようとする。
「落ち着いてください。VRですよ。命の危険を伴うようなことはけしてありません。ただ―――常々思うんですよ。ホラーゲームの欠点を」
「ほ、ホラーは確定なんだね。そ、それで?」
「はい、ヘッドギアの問題と同じです。やはり虚構であるということが、怖さを和らげてしまっている」
「だからって本体を怖くする必要ないよねえ!?」
「これをつけているだけで怖くないですか? 分かっていても、本当は、グシャンってするんじゃないかって、思いませんか?」
「……だ、大丈夫だよね?」
 研究員は答えない。うっすらと笑みを浮かべながら、彼女の様子を観察している。
 きっと皆の同じようなことをされているのだろう。周りの仲間も、何人かが自分と似た反応を示していた。
 視界が狭まっていく。ヘッドギアのスイッチが入ったのだ。おかしい、めくるめくゲームの世界に行けるというのに何にもわくわくしてこない。
「大丈夫だよねえ!? ねえ、聞いてる!? 待って、ちゃんとそこにいる!!?」
 返答はないまま、視界が真っ暗になり、段々と椅子に座っている感覚すらも希薄になっていく。
 落ちていくような錯覚。これがゲームの世界。そう感じた時、耳元で囁かれた。
「本当に、大丈夫だと思います?」

●本当にここは虚構なのだろうか。
 目を覚ますと、広い空間にいた。
 ここは、病院の受付窓口だろうか。
 室内灯の類が全く見当たらないため、視界は非常に悪い。だがはじめから暗闇の中にいたためか、近くに仲間が揃っていることくらいは確認できた。
 しん、としている。
 ここは、ゲームの中。ゲームの中。ゲームの中。
 自分に言い聞かせ、はやる心臓を押さえつける。
 とにかく、これがゲームである以上、クリア手段はあるはずだ。じっとしてしても終わることはないだろう。
 立ち上がり、視界を巡らせると―――それと目があった。
 角から顔を出した、怪物。
 自分の倍はある身長。ねじくれたような筋肉質で、腕に大量の釘が刺さった棍棒を握りしめている。そしてその顔は、蟻塚のような土塊で、穴という穴に、絶えず蠢く眼球が敷き詰められていた。
「―――――っっ!!!」
 その悲鳴が誰のものであったのか、皆がとにかく一目散に、怪物とは反対側へと走り始めた。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
練達で新作VRゲームのテストを依頼されました。
でもホラーでした。
そしてテスト段階なので問題もいっぱあります。だいたい以下の通りです。

◇武器が未実装なので攻撃手段がありません。
◇敵に殺されるとスタート地点からリスタートします。
◇クリアしないとゲームが終了できません。

【エネミーデータ】
■徘徊する怪物
・プレイヤーを見かけると追いかけてきます。

■いろいろな霊
・適宜出てきます。

【シチュエーションデータ】
■出口のない廃病院
・怪物が徘徊し、霊が住まう、廃棄されて長い病院。
・手術室に隠されている鍵を見つけ出し、院長室の中に入ればゲームクリアです。
・真夜中で、電気供給もないため、真っ暗です。

【特殊状況】
・ここはゲームの中です。
・装備、スキル、ギフトの持ち込み及び使用はできません。
・プレイヤーは全員が以下の装備を所持しています。

◇懐中電灯:視界を広くすることが可能です。電池容量が有限で、明るい程、敵に気づかれやすいというデメリットもあります。
◇緊急脱出ボタン:どうしても怖くなった時はこれを押しましょう。ゲームから強制ログアウトできます。未実装です。

※心情とか、してみたい活躍とか、起こって欲しい怪奇とか、頼もしそうなセリフとか、泣き叫びたいセリフとか、プレイングに書いておくと素敵だと思います。なければないで適度に怖いシーンに出くわします。任せろ。

  • やったあ、新作ゲームのテスターに選ばれたぞ!!(ガッツポーズ)完了
  • GM名yakigote
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて

リプレイ

●暗闇の中で僕らに与えられているものは
 実のところ、武器の実装予定がありません。

 暗い暗い、闇の中。
 手探りで何かを支えに立ち上がり、それなりの広さがある場所なのだと確信する。
 風が吹いていないのは、屋外と接するものがないからだろう。
 本当に暗い。それだけで、何か心細さを感じるものだ。
「うぅ、ゲームなのだから武器位はあると思ったのに……ッ」
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は憤るものの、無いものは仕方がない。攻撃手段皆無のまま、ゲームをクリアするしかないのだ。
「はぁ……とはいえ、何人かはもう既に大丈夫じゃ無さそうだし……とにかく、孤立したら危ないし固まっていきましょう……べ、別に私が怖いからじゃないわよ? ホントよ??」
 安心しろ、ちゃんと孤立させてやるからな。
「流石に度が過ぎている感はあるが、この作り込みっぷりには感嘆の意を表したい。なぁ、そうは思わないk……どうした、御主等?」
 ざっと見たところ廃病院。ゲームとは思えないリアルな出来に『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は感動を覚えていたのだが、どうやら恐怖でそれどころでは無いものが多いようで。
「ええい。そんなに怖いのなら、一度脱出して……なに、脱出ボタンは未実装? 馬鹿なの?」
 かちかちかちかちかちかち。
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)がボタンを押している。懸命にボタンを連打している。それは怖くてどうにもならなくなった時の、緊急終了の為にあるものだが。
「あ、あれ? 何で? 何でなにも起きないの!?」
 未実装だからだ。
「そうだ! 武器があれば、倒せるなら平気だよ! ってないの? なんで?」
 未実装だからだ。
「未完成じゃない? テスト出来る段階じゃないよね? うわーん、帰してぇ!」
「ああああああああああ、アオイ……アオイ! アオイー!!!!!」
 もうアカンなってるやつがいた。『天河を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)だった。この状況で称号ごと名前を読むとなんかおもしろいな。
「アオイ……? アオイ!!!!!」
 ところでアドリブ歓迎って書いてあったんだが、このセリフのどこをアドリブすればいいのかずっと悩んでいる。
「アオイ……アオイ……アアアア、アオイ…………」
 で、服を掴まれてずーるずーるリアを引っ張ってる『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)なんだけど。
「チクショウ……ホラーゲームに対してリアリティを求めすぎてんじゃねえよ」
 悪態をついていた。
「なにはともあれ脱出しなきゃいけないんだから精一杯進むしかねえよな……」
 頑張ってくれ、二人分の重みで。
「つーかそもそも脱出ボタンと武器を実装前にテスターなんか選んでんじゃねえ! 要件が満たせてねえじゃねえか!!!」
「この世界にもVR存在するのか。すげー」
 自分の手を握っては開く『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)。確かに拘束されているはずなのに、自分の感覚上では自由に動かすことができている。
 ダイブ前のシチュエーション作りまで非常に凝っていたので、感動していたのだが。
「なんだこの姦しい女子の群れは。きゃあきゃあ怖がってるのにホラーゲームやりに来たのか?」
 うん、彼女たちはね、普通のゲームだと思っていたんだよ。不思議だね。
「ホラーって、私は元々吸血鬼だもの、ビックリするようなものじゃなければ暗視もあるし……え?」
『Ultima vampire』Erstine・Winstein(p3p007325)は困惑していた。視界はどこもかしこも真っ暗闇で、まるで何も見えなかったからだ。
「暗視が使えない……? へ、へぇ……」
 暗闇とは、こんなもの不穏さを煽るものだったろうか。どうして、何も見えないのに視線を動かしてしまうのだろうか。
(が、頑張りましょ!)
「騙されたのです!」
『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)は騙されたらしい。
「いや、騙されては無いのです!」
 騙されてなかったらしい。
「新作ゲームのテスター、ホラーだなんて聞いてなかったのです!」
 ちゃんと言ったでしょう、直前に。
「我慢して怖くない振りしてたけど、いくら何でも限度があるのです! もう全力で叫んで文句を言いたいけど、叫んだら怪物が襲ってきそうで叫べないのです! というか、絶対怪物来ちゃうのです!」
 じゃあ、期待に答えまして。

●物陰の向こうから僕らと目があったそれは
 度重なるテストプレイの結果、2割のプレイヤーが規定時間内にクリアしました。我々はこの結果に非常に満足しております。

 懐中電灯の明かりが有限であることは理解している。視界の隅に、電池のようなパロメータが浮かび、それが目減りしていく身体。
 それでも、照らすことをやめられない。ただ暗闇の中にいることに耐えられない。
 視界がなければ、出口を探せないから。そう自分に言い聞かせて、そう自分に言い訳して、目の前を照らす、そこに。
 ぬう、と。
 現れた。
 自分の倍はある身長。ねじくれたような筋肉質で、腕に大量の釘が刺さった棍棒を握りしめている。そしてその顔は、蟻塚のような土塊の、穴という穴から眼球が生え、それらは絶えず蠢いていた。
 怪物がこちらを見ると、急に自分の眼球を手にとって、ぷちゅりと潰してみせた。それの何がおかしいのか。歯並びが不揃いの、大きな口をがばりと裂けさせて、笑うのだ。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
 もう耐えられず、誰もが怪物のいない方へと駆け出した。

●僅かな明かりすら僕らから離れていくのなら
 最短クリア記録は7分。最長記録は現在も更新中です。

「……ヒッ! ね、ねえ、あそこ! 何か動いた!? 動いたよね!!!!?」
 怪物から逃げ切っても、ゲームは続いていく。叫ぶ程見つかりそうなものだが、リアにそれを諭せる者はいなかった。
「アオイ、アオイ、アオイ!!!」
 不安を、怖い気持ちを聞いて欲しくて、アオイの背中をばんばん叩くリア。
「うおわああああ!!? ってなんだリアか。何もないって、落ち着けって……」
「え? な、なんだ気のせい? なら良かった…………」
 急に叩かれて驚くアオイ。一見、冷静には見えるのだが。
(隠れる場所を常に意識して行かないとな。極力物音も立てちゃいけない。慎重に、全体を索敵するように、意識しておこう。意識、意識、意識だ。意識しろ。電池の消耗も気にかけるんだ。どこかに電池が落ちているかも知れない。そういう探索も行いつつ、装備を充足させて進んでいこう。冷静に対処すれば問題はない)
 今更説明の必要もないが、()の中は心の内である。つまり、現実はこうだ。
「う、うわっ、なんかいる……!?」
 反応の仕方がリアと同じである。索敵も隠れる場所も放棄して逃げ出したかったが、何か居ると聞いて、隣の[BS:アオイ]状態の女が平然としていられるわけもなく。
「ヒッ!! ねぇ、なにか足元をシュッて通り過ぎた!? ねぇ! 通り過ぎた!! アオイアオイアオイアオイィィィィィ!!!」
 ぎゅっとしがみついて離さない。だからアオイは身動きをとることができない。アオイの画面上に[BS:呪縛]の文字が表示された。うーん、フレンドリーファイア。
「マジで幽霊! マジで幽霊出てるううううううううううう!! もうやだ帰るうううううう! 帰してええええええええええ!!!!!」
 その間にもそれは、目も鼻もないお歯黒のついた口だけの顔のそれは、にいまりとわらって枯れ枝のような骨と皮だけの手を、その先にイボのようについた小さな口や眼球や耳の群れをケタケタと笑わせながら二人に近づいていく。
「おい、離して、離せって……離せえええええええええ!!?」

 手術室に入ると、そのメッセージが表示された。
『最低一人、手術台に拘束されている間だけ探索できます』
 そのため、エルスティーネは今、ベッドに拘束されている。腕も足も縛り付けられ、寝かされた体勢のまま動くことができない。
「こ、こ、これ、本当にVRよね? 現実じゃないわよね??」
 手術台から見える機材はどれもリアルで、触れば怪我をしそうに見える。あの丸い鋸とかなんだろう。ドリルとか何に使うんだろう。ああ、回るんだ。音もリアルだな……回って、る?
「ふぇ?! ちょ、ちょっと……!!」
 ぎゅぃぃぃいいいいん、という音を響かせて、ドリルが回りはじめ、徐々に近づいていくる。丸鋸も回転し、手術台を切り裂きながらエルスティーネの方へと寄ってくるではないか。
「ひぃっ!?」
 身を捩らせるが、できるのはそれだけだ。拘束具を顔につけられ、眼を閉じることもできず、その先端は徐々に眼球へと近づいていき――
「も、もうダメ、これ以上吃驚するのは……っ!!」
 そこでぷつんと、意識が途切れてしまった。

 真っ暗な中を懐中電灯の拙い灯りだけで照らしていると、ちらちらと手術台や各種外科手術用のものと思われる機材が目に映る。
 ここで鍵を探さなければならないという事実に、アルテミアは思わず唾を飲み込んだ。
「な、何もいないわよね? ね??」
 一度深呼吸をしてからベッドの下を覗き込む。何もなかったが、床が赤く汚れていたのには心臓が跳ねた。
 閉じたロッカーの前に立つ。これを、開けるのか。緊張に手が震えているのはきっと武者震いだ。
「大丈夫、大丈夫……」
 ギィイ、と、錆びた扉をゆっくりと、中を照らしながら開けていく――そこには鍵だけがぽつんと置かれていて、他には何もない。
 ホッと、ため息をついて胸を、撫で下ろす瞬間隣のロッカーが開いて飛び出した腕に手首を掴まれた。
「―――――ッ!!!」
 声にならない悲鳴。懸命に腕を振り回せば、それはまたロッカーの中へと消えていく。
 荒れる呼吸。照らしても何も出てこない。少しだけ落ち着いた頃、今度はベッドの下から出てきた腕に脚を掴まれる。
 今度こそ、絹を引き裂くような悲鳴を上げた。

 汰磨羈が飛び起きて周囲を確認すると、そこは受付窓口であるようだった。
 見覚えがある。ゲームにダイブした初期地点がここであったからだ。
 この事実を汰磨羈は理解していた。怪物に追いつかれ、仲間をかばい、攻撃された記憶がある。つまりこれは、リスポーン。再スタートである。
 通常、これまでの恐怖体験を再走しなければならないと聞かされれば、地獄以外の何物でもないのかもしれないが、汰磨羈は違っていた。
 冷静に懐中電灯の残量を確認すると、にやりとほくそ笑んだのである。
「……ふふふ」
 電池残量が回復している。つまり死ねば装備の状態もリセットされるというわけだ。
「死に覚えゲーの要領で徹底的にいく!」
 そのまま初回とは逆方向にダッシュ。顔を出した怪物に食われた。リスポーン。ダッシュ。仲間に追いつく前に捕まった。リスポーン。ダッシュ。今度はもうちょっと先までいけた。
「くっくっくっく」
 何度目かの復活。もう死ぬのにも慣れたものだ。心が鍛えられている気さえする。
「RTAキめてくれるわぁーーー!!」

「~~~~~!!!!」
 ソフィリアに思い切り服の裾を引っ張られたので、誠吾は思わず顔をしかめた。頼られるのは吝かではないのだが、生地が痛みそうなのでやめてほしい。いや、ゲームの中だからそういう心配はないのか。
 必死で後方を指差すソフィリア。見れば、暗くて全貌は不明であるものの、どうやら初期地点にいた怪物が周囲を探っているようだ。
「おい。後ろにエネミーがいる。静かにしてればやり過ごせ……」
「え、えねみー!? 敵!? いやあああああ、きたあああああああ!!」
「やだやだやだやだやだ!!!」
 やり過ごせるわけもなく、一目散に逃げてしまう仲間達。
「殺されるなんて御免だ! 手近な病室にでも入ってやりすごせ……あーもー! 勝手に逃げ出すな!」
 怪物もその様子に気づき、笑いながら追いかけてくる。
 仕方なく、誠吾はその後を追いはじめてから、ソフィリアは大丈夫だろうかと、走りながら隣に目を向けた。大丈夫、ちゃんとついてきている。
「ソイヤソイヤソイヤソイヤ!!」
 大丈夫? ちゃんとついてきてる? 何でソーラン節?
 だめだ、完全にパニックに陥っている。[BS:混乱]って見えている。それでもソフィリアは足を止めない。生存本能で走っているのだろう。可愛い女の子走りではなく、アスリートのように理想的なフォームだ。軸がぶれておらず、実に美しい。
「そ、そそ、そ、ソイヤああああああああああああああ!!!」
 だっばだば泣きながら、走る勢いで大粒の涙を横に流しながら、悲鳴のようなソーラン節を奏でつつ逃げている。誠吾はなんだか、こっちの方がちょっと怖かった。
「こいつら全員、普段はモンスターだの何だのと戦ってるんだよな?」
 戦闘力で言えば全員が達人の粋。あんな怪物は普段なら殴殺してのけるはずである。
 それが、今は普通の女の子のように泣き叫んでいる。
「どうして『作り物』で怖がれるんだ……?」
「そい、そい、そいいいいいいいいいい!!」
 隣でニシン漁をしているソフィリアからは、答えが貰えそうにもなかった。

「はぁはぁ、何とか逃げ切れたかな……?」
 怪物から必死の思いで逃げ回って、体感では数時間。実際には数分。ようやく追いかけてくる気配がなくなって、焔は大きく息を吐いた。
「って、あれ? ここってどこだろう? 皆は?」
 きょろきょろと見回すが、近くに仲間がいる気配はない。懐中電灯のスイッチを入れてみても、見える限りには誰もいなかった。
「どうしよう、皆とはぐれちゃったよぉ!」
 懐中電灯を持ったままの手で頭を抱える。もう片方の手は仲間の手を握ったまま離さない。握った手の感触が、自分の正気を保ってくれているように思われるのだ。これを離してしまうと、本当にひとりになってしまうように思われて、ひどく不安だった。
 とにかく探さなければならない。幸いにも、話し声はすぐに聞こえてきた。
「あっ、よかった皆いた! いち、にの……七人! 皆居るね!! ボクもさっき向こうでこの子と合流し……七人?」
 みんなで、何人だっけ。
「じゃあ、今ボクが手をつないでるこの子は、もしかして……きゅぅ」
 意識を手放して、そのままバタンと、焔は倒れた。

●僕らは本当に現実に
 はい、現在も更新中です。

『1stSTAGECLEAR。お疲れさまでした』
 そのメッセージと共に、視界に映っていたものが変わっていく。
 椅子に拘束されている感覚が戻り、頭につけていたヘッドギアの重みもリアルなものへ。
 よかった。本当によかった。心から安堵して、早くこの恐ろしヘッドギアを外してほしいと顔を上げて、固まった。
 ここは、どこだろう。
 いや、先程までのテストルームで間違いはない。しかし、部屋は薄暗く、機材の一部は壊れ、火花を飛び散らせ、壁は肉のような、内臓の中のような桃色の何かで覆われていて、どくんどくんと脈動している。
「こ、これでテスターのお仕事は終わりよね……? 大丈夫……よね?」
 仲間の声が聞こえたが、返事をすることはできなかった。
 
 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

2ndSTAGESTART。

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