PandoraPartyProject

シナリオ詳細

パラダイム・シフトは、マシュマロボディお嬢様に変革をもたらすか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 愛する女を労働から解放するのは、分限者の誉れ。
 女は、優雅に家の奥にいるものである。
 家から出るのは生涯一度。嫁ぐ日だけ。
 乳母やの読んでくれたおとぎ話は、おうちの外に出たお姫様が、ヒトにさらわれたり、鳥にさらわれたり、けものにさらわれたり、竜にさらわれたりして、それはそれは苦労するお話ばかりだった。
 家から出たらさらわれて、もうお父さまにもお母さまにも会えなくなる。と言われ、そういうものなのだ。と、今日までそのように生きていたけれど、これからの女性は外に出ることも覚えなくては。と突然言い出されても。
 わたくし、困ってしまいます。
 人さらいのお話はどうなったのでしょう?
 でも、もし、そういうことを気にしなくていいのなら、わたくし、お友達という方が欲しいです。ご本で読みましたの。
 どうなったらお友達なのか、よくわからないのですけれど。


「所詮、伝統とか文化とか、はやったり廃ったりして永遠なんてないんだよなー。そう思わない?」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、デーツをかんでいる。
「ラサは自由な気風だけどね、縛られることもまた自由ってね。とある部族ではある一定のお年頃になったら女の子は原則お外に出てはいけませんってことになってたんだよ。割と最近まで。伝統ってやつ」
 そうしないと、思わぬところで見染められて、一族郎党総出で女の子を略奪に来る部族が近隣にいたんだよ。
「まあ、昨今じゃそういう風習もなくなったし、略奪婚より営利誘拐の方が由々しいわけさ」
 時代は動いている。よその地方の話も入ってくるしね。
「最近は、護衛を雇ってお嬢様に街歩きさせるのが『進歩的』というのがお大尽様の流行り。で、ローレットにお話が回ってきている訳ですよ」
 うちのお嬢様を外歩きさせろ。無事に返せよ。絶対だぞ。が、にじみ出ていると、メクレオは言う。
「で。みなさんには15歳の多感なお嬢さんの警護をお願いします。えーと。とても保守的な親御さんの言うことをよく守った従順なお嬢さんで――」
 メクレオが黙った。言葉を選んでいる。
「――慈愛と包容力を感じる容貌をなさっている」
 15歳の包容力。唸っている。
「包み込むというか、指がのめり込むというか」
 わかった。努力は認める。それ以上はいけない。
「警護に必要な注意点から行くと、「歩く」の速度が忍び歩きレベル。走れない。というか、全力疾走など生まれてこの方したことがない生き物だ。大声は出したことがない。悲鳴一つ上げずにさらわれるぞ。というか、怪しい人とそうでない人の区別がつかないから、今回の街歩き、地獄の一丁目に行くような気持でいるから。何せ、親族以外の男はほとんど見たことがない」
 だって、さらわれるから。そんな文化。
 だから、と、仲介屋は茶をあおった。
「野郎共は、先行してガラの悪い当たり屋おっちゃんとか、調子よく値段釣りあげるぼったくりおっちゃんとか、ズダ袋片手に路地に潜んでる人さらいとかの障害の排除をし、お嬢さん方はお嬢様と仲良くしつつ、突発的アクシデントに対応するって方向でどう?」

GMコメント

 田奈です。
 砂漠の国のお嬢様にご出座願いました。

 大商人令嬢「ハーレ」
 それ以上に詳しい名前は、慣習上秘されている。これ以上聞くとプロポーズと同義になるのでご注意。
 お忍びですのでちょっといい庶民の衣装を用い、侍女の尽力によりだいぶうまく変装できているのですが、お忍びであるのがバレバレです。苦労したことがないのがにじみ出ています。
 キュートなお顔で、魅惑の触感(推定)マシュマロ・フォルム鏡餅ボディ(たうんたうんボディは、裕福なお育ちの美人)
 鈴を転がすような美声はとても小さい。30デシベル以上の声は物心ついてから出したことはない。(常に側に人が控えている=裕福なお育ち。声を荒げない=穏やかな気性)
 歩くのが遅い。そもそも走ったことがない。(歩く距離が短い。急ぐ必要がない=身分が高い)
 性質はどこまでも穏やか。近年の常識の推移の速さに困惑している箱入り娘。お外大分怖い。田舎者が首都に行くレベルで怖い。
 それはそれとして、異国のご本に出てくるお友達というのに興味がある。
 侍女が控えていますが、モブ描写以上はありません。毒にも薬にもなりません。

 行先
 バザール。
 露店の連なる布と木材と人垣でできた迷宮。通り過ぎる人間の六割は無害だが、三割は障害で、一割は敵だ。
 スリ、当たり屋、ぼったくり、誘拐が当たり前に発生しますので、対策して下さい。

 買わなくてはならないもの。
 *街中じゃないと手に入らない、「ママは、ま。と言うけど、絶対叱られたりはしない程度のモノ」
 パパが社交界で「いやはや、先日娘を市中に行かせたのですが、@@@を求めてきましてな。なんとも困ったものです」と紳士達に『私は昨今の流れをわかっている進歩的な人間です』アピをして『それはそれは』と穏やかな笑いを誘う程度のアイテム。薄い本とかあやしいお薬とか入っちゃダメなのはわかるね?
 年頃のお嬢ちゃんが背伸びして買ってきちゃうようなものだよ。ただし、お嬢様は能動的にあれが欲しいなんて言うことを考えたことがない。だって、いつもなにもかもが不足なくあるから。
 相談して決めてください。
 ちなみにお友達は、「いやはや、ローレットの護衛の方と誼を通じたようで。中には高貴な方も登録しておりますからな云々」と、ほほえましいエピソードに変換されますのでご心配なく。その辺りはメクレオがうまくやります。

  • パラダイム・シフトは、マシュマロボディお嬢様に変革をもたらすか?完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年06月09日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて
フローリカ(p3p007962)
砕月の傭兵
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


「地元の空気はいいな」
『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は、乾いた熱風に目を細めた。砂の匂いがする。
「ラサにゃ色んなやつらが集まってるから俺の知らねえ掟守ってる奴もいるたぁ知ってたが、こりゃまたヒトキワ変わった風習だな」
 オアシスごとにコロニーのように発展する関係上、交易が進んで初めて知る己の常識、世界の非常識。
「ラサは俺の庭みてえなモンだ……と言いたいとこだが、流石に全域に渡って知ってる訳じゃねえからな。気合入れて仕事しねえとな」
 護衛対象である令嬢ハーレは、目立たない輿で持ち合わせ場所にやってきた。控えている使用人はみな悲壮な顔をしている。
「――――」
 一歩前に歩みを進めてはもったいぶって――優雅と評するべきなのだろう――次の足を出す歩き方。
『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)は、元居た世界を思い出していた。
 身長3メートル――当時はもう少し小さかったか――の龍が見上げるほど大きかった地母神像を思い起こさせる風格だ。なる程、女神にあやかるならばひょいひょい歩いては威厳がない。すべすべでふかふかした生き物。大事にされているのはわかった。多分、令嬢の身に何かあったら、このヒト達は憤怒を以て容赦なくローレット・イレギュラーズに石を投げるだろう。女神の似姿を損なってはいけない。
「良し、俺達は別行動だ。ルカ、アルペストゥス、行こう」
『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、二人を促した。
 令嬢はこれから女性陣と顔合わせをして、バザールに出てくる。それまでに少し「交通整理」をしなくてはならない。
「人込みの中で令嬢護衛というのは中々厄介だが……今回もまた頼りになる者達が同道しているからな。俺も何時も通りの実力を出す事に専念するとしよう」
 ベネディクトは、味方のやる気を上げるのがうまい。狼は群れで狩りをする。群れそのものを高めることができる雄がアルファになるのだ。


 首を真上にむせないといけないアラベスクモザイクの高い天井。足首まで埋まる絨毯。香木は惜しげもなく焚かれ、部屋の隅では楽人がシタールを奏でている。
 毎日違うものを使っても使いきれないほどのクッションが置かれた中、近くに座るように促される。
 埋もれるように座っている布饅頭――いや、護衛対象の令嬢だ。
「ハーレ様。本日、ハーレ様の行く先を整える方々でございます」
 ベールが大きく揺れた。頷いたのだ。
「こちらは、この場ではハーレと呼ばれる方でございます」
 使用人が令嬢を、ローレット・イレギュラーズに紹介した。
 たくさん被ったベール越しに柔らかな微笑が見える。話に聞いていた通り、気立てはいいらしい。
「スティア・エイル・ヴァークライトだよ。出身は聖教国ネメシス(天義)、見た目は幻想種だけど人間種とのハーフなの。今日はよろしくね!」
『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は天義の貴族である。
 仲介屋は、皆の身分やらをクライアントにさりげなく伝えたらしい。おかげで対応が非常にいい。表立って面倒な儀礼は起きないが用意されたもてなしが下にも置かないものになっている。第一印象の手ごたえは上々だ。
 被り布が大きく揺れた。ハーレは、まあ。と、言ったらしかった。ハーレはとても声が小さい。
「マリナです、どうぞよろしゅー……辺鄙な村出身です」
『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)がぺコンと頭を下げた。ベールの裾がフリフリとはしゃぐように揺れている。
 ハーレの表情はうかがえないが、使用人たちの表情や態度は目に見えて柔らかくなっている。ほっとしたような。が、正しいのかもしれない。
『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)には、ハーレの気持ちがわかるような気がした。アカツキも、幻想種の加護と掟を受け入れて90年余りを静かに生きてきたのだ。とある異種との出会いがアカツキの人生のターニングポイント。まさしく。今のハーレのように。
「妾はアカツキ・アマギ、幻想種なのでこんなナリでも101歳じゃぞ。友達募集中じゃから仲良くしてくれると嬉しいのじゃ」
 幻想種の年齢は声色に現れる。深みがカオスシードと少し違う。と、書物には書いてある。
「よろしくのう、ハーレちゃん! 呼び方はこれで良いかの?」
 ふわふわとヴェールが上下する。
「フローリカという。まあ、よろしく頼むよ」
 ウォーカーである 『砕月の傭兵』フローリカ(p3p007962)には、風習や決まり事はさっぱりわからない。が、この何が「やばいこと」に直結しているのかわからない状態でも生き残る方法を模索する本能は健在だ。きちんと挨拶。必要最低限の礼儀はどんな戦場でも必要だ。ふてくされたやつの弾倉からは弾丸が抜かれ、得物の目釘が抜かれるのだ。
 鳥と竜の飛び交う世界から来た 『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)にとって、家から一歩も出たことがないというハーレの境遇は想像を絶している。
(今までずっと家の中に居たとか、お嬢様は大変なのです……ゲームとかがあったら遊べるけど、やっぱりお外に出たくなってしまうのです)
「わからない事があったら、遠慮なく質問してほしいのです! ――うちは、ソフィリア・ラングレイといいます!」
 はああああ。と、熱い感銘の吐息がベールの向こうから漏れた。
「皆様、ハーレとお呼びくださいませね。ご本の中から飛び出してきた様な方ばかりでとても緊張しておりますの。何かしてしまいましたら遠慮なく叱ってくださいませ」
 つまり、今、テーマパークの人間キャストと一日パーク周遊。みたいな気分でいるようだ。
 すごく嬉しそうなのはわかったが、とにかく声が小さい。そよ風に揺らぐ華だってもう少し音を立てる。
 マリナは、笛をハーレの手に握らせた。ふわふわのすべすべですごくいい匂いがする。
「なんかあったら吹いてくだせー」
 ホイッスル。息を吹き込むだけでピリピリ結構な音がする奴だ。
(……でも肺活量しょぼすぎて音小さそう……無いよりはマシですかね……)
「ご本で見た笛です」
 ハーレはいそいそと首から下げてようとしたが、ふと手を止めてこう言った。
「場にふさわしい装いを。ベールは最小限にしましょう。こんなにかぶっていては多分おかしいのだろうし、かえって人目につくだろうし。皆さんのお顔もよく見えないから」
 使用人たちが決死の覚悟と言った面持ちでハーレのヴェールを外した。観光客が日よけでかぶっているレベルになったハーレは、緊張感マックスだがとても楽しそうに笑った。
「今日は、楽しく致しましょうね」
 

 バザールは、露店の集まり。昨日会った店は今日は別の場所。日々成長し、姿を変える布と木の迷宮だ。
 明るく照り付ける国の影は濃い。それに紛れる輩に狼は前足を伸ばす。手に空の麻袋を下げて何をするわけでもなく物陰で辺りをうかがうような奴らは、十中八九人さらいだ。
「同じ国のヨシミだ。手荒な真似ぁしたくねえ。引いちゃくれねえか?」
 赤目の若旦那の口角が上がっているうちに言うことを聞ける奴は、ほかの奴よりちょっぴり脳みそのしわが多い。
 竜がくるくる喉を鳴らしながら待っているのだ。窮屈そうにたたんでいる羽根がいつ限界だ。と広げられるかわからない。そして、そうなったとき自分たちがどんな目にあわされるかわからない。
 それもわからないようなバカは、ルカたちが何かするまでもなく、早晩、干からびて赤い砂の上に転がることになる。
 何しろ三人でこれから飛んで火にいる夏の虫のようなお嬢様を守らなくてはならないのだ。多少のおおざっぱさは許してほしい。
 ベネディクトの耳が聞きなれない音の波をとらえた。とっさに、アカツキに頼んでいた使い魔ポメ太郎の視界をジャックする。
 ベールの向こうにハーレのほっぺ。思いのほか近くて、ぎょっとする。
 犬の視界に、ハーレの手をアカツキが引いているのが入った。
 音はハーレの口から出ているらしい。ベネディクトに、ある方面の知識があれば、推しのファンサが神で口から魂が出てる音。と察せられただろうが、領主代行には、そんな知識は絶対身につけないでほしい。
「なんかあったのか」
「いや、よくわからないが問題ないようだ。うん、楽しそうにしている。見える限り、みな笑顔だし」
 

 バザールの中を輿で移動するのは無理だ。当然歩いていただく。
「ハーレちゃん、はぐれたら大変じゃし手でも繋ぐかの?」
 アカツキがひらひらと手を差し出すと、ハーレは犬にしか聞こえないような高い声を出した。感極まっているらしい。
これも警護の一環だ。こけたら最後、そのまま通りからタックルされてお持ち帰りされかねない。
「そうね。バザールは広いから、ちょっと頑張らないといろいろ見逃してしまうわね」
 スティアはやればできる子だ。とてもお上品です。ハーレの少し離れて歩いている使用人達は、「なる程、うちのお嬢様も将来的にはああいう感じに」と参考にしている。同行しているローレット・イレギュラーズの心中は如何。頬の裏の噛み過ぎはよくない。
 ハーレは、スティアというお手本が目の前にいるようなものなので大分打ち解けてきた。
 時々、フローリカが歩調を変えた。背後をついてきた不埒者が相好を崩すその懐に肘が突き込まれている。この狭い界隈で目立たない様振り回せるのは肘か膝くらいだ。ひるんだ敵の折れた腰。近づいた鼻面に追撃の膝。崩れ落ちる前に、ルカとベネディクトが両脇を支える。高速で交わされる健闘を称え持ち場に戻るハンドサイン。路地裏に消え、喧騒に殴打音と悲鳴が混じる。


 女の買い物と裁判はどちらも悩んで長くなる。
「敢えて言うなら、落ち着いた風合のものがいいんじゃないか?」
 意見を求められたフローリカが、少し唸ってからそんなことを言った。ほうほう。ハーレも聞き入っている。
「いや、裕福な者の持ち物は大抵綺羅びやかだからな。違うものの方が珍しがられるかな、と」
 粋だ。侘び寂びという奴だ。
「そうね。ではそういう感じの中から――綺麗な物と可愛い物を選んでみたけどハーレさんはどちらの方が好みかしら?」
 スティアのお育ちの良さがにじみ出ているムーヴ。
「まあ、どちらもすてき」
 この、点描やレースで飾るべき口径のすぐ傍で――。
「なあ、ものは悪くねえけどな? 相場の倍くらい高くね? こういう商売どうだろうなあ。一緒にちょっと筋通しに行くか?」
 大商人の紹介状をひらひらさせながら、ぼったくり商人の首根っこを押さえているお兄さんがいたりする。
「ついでに言やぁ俺ぁクラブ・ガンビーノの団長だ。これからもラサで商売続けてえなら――わかるよな?」
 雇われてもらいたいとき雇われてくれなくなるんですね。結果、商売上の信用もがた落ちするんですね。わかります。
「まあ、適正価格で売ってくれりゃあそれでいいんだよ。きれいな商売が結局長生きの秘訣だぜ。あの世まで金は持っていけねえからな。あの姐さん達はこの辺りに建てなきゃいけない義理がない分、俺よりおっかねえぞ」
 商人、声もない。
「こちらも見せてくださる?」
 スティアの笑顔に応じる声は裏返っていた。


 まだまだ続く、そぞろ歩き。
「私といったら、やはり海の話題……今までの冒険譚とか海の不思議生物とかアレコレ喋りましょうか」
「海! まだ、私、見たことがありませんの。家一番近いオアシスにも言ったことはないのですけれど」
 ――令嬢の初めてのお出かけに影響はない。
 マリナがイマイチ受けが悪かったら……と思っていたアメフラシの話を神妙に聞いている。マリナの人生で話への食いつきがいいヒト三人に入る。何をしゃべっても楽しそうにしてくれる。気が付くと、話のネタに困る程になっていた。恐るべき聞き上手。
「こう見えても甘党なので、多少のお菓子は作れたりするんですよ。あ、お嬢様だから作らない……デスヨネー……自分で作ると旨味が上がりますよ……たぶん」
 いつかは料理することを許される日が来るかもしれない。
「うちのおすすめは、蒸した後に軽く揚げられたお饅頭なのです!」
 ソフィリアがキラキラした目で語りだす。
「中の具材を選べるから、甘いデザート的なお饅頭からスパイシーで刺激的なお饅頭まで、色々な物を食べられるのです!」
 ほうほう。熱いプレゼン。
「揚げた生地の表面はサクサクなのに、中はふっくらモチモチ……ただ、非常に冷めにくいから火傷に注意なのです」
 ほうほう。酔いプレゼンにはあえて弱点の提示も必要だ。それが魅力に直結しているならなおさらだ。
「お土産にお持ち帰りしても美味しいから、今とても人気があるお饅頭なのです!」
 まあ。と、ハーレは笑った。
「……」
 今までよりさらに声が小さくて、みんな一瞬戸惑う。微妙な沈黙。
「ソフィリア、ハーレ、そこに行きたいって」
 フローリカの訓練された聴力は、食べたいというわがままが言いにくいお嬢様の呟きも感知する。
「――それならあの店はどうじゃ」
 アカツキが指さしたところに、ちょうどいい感じの露店があった。皆でそこに向かうことにした。


「揚げ饅頭か」
 アカツキがそうかそうかとうなずいた。ポメ太郎の耳に入るように。
 それを共有した護衛が先行。若干の周辺整理、場合によってはお掃除(意訳)――というのが手はずで、その通りなのだが、思った以上に気まぐれが過ぎる。
 何しろ、買い食いの場合、事前のお毒見というプロセスが入るのだ。毒ではなくとも睡眠薬やらめまいがするようなものを仕込んで、物陰に引きずり込む輩がいないとは限らない。スティアが解毒手段を持っているが摂取しないのが一番だ。ソフィリアの話ではめちゃくちゃ熱いはず。
 ままよ。意を決してかぶりつく。変なものは入っていない。
「――それならあの店はどうじゃ」
 護衛の口の中の火傷など尊い犠牲を払いつつ、お散歩は続く。


「こうやって、一緒に食べながら歩くのは楽しいものなのです!」
 ハーレさんにも楽しんでもらえるかな? ト、ソフィリアはにっこり笑った。
「甘い物は幸せな気持ちになるよね」
 ひりりりりり。ローレット・イレgyるらーずのお嬢さんたちの耳にしか入らないかそけきホイッスルの音。見開かれたハーレの瞳にローレット陣の背後から突っ込んでくる暴漢の姿。
 フローリカが、ハーレのヴェールを跳ね上げた。
「え?」
 令嬢の視界を布が躍る。布越しに何かがすごい勢いで通り過ぎたような気がした。金髪のお兄さんが突進して暴漢を吹き飛ばしたなんてことはなかったし、黒髪の兄ちゃんが襟首つかんであらぬ方向にぶん投げた事実はない。
「どうした、ハーレちゃん。疲れたか?」
 いきなりハーレの視界一杯にポメ太郎の腹。今気になったことはさておけ。
「いえ――」
「大きな音がしてびっくりしたか。荷物が増えたので荷物持ちの仲間を呼んだのじゃ。こいつが動くと人目をひく」
 アカツキが、位置をずらすと、竜――アルペストゥスがそこにいた。
「まああ。ローレットの方ですか」
「本で読んだか? 言葉は通じぬがこちらの言うことはすべてわかる。ヒトより賢くなるぞ」
「はい」
 アルペストゥスは、首を伸ばし、ハーレの前でパクリと口を開けた。舌の上に小鳥が乗っている。ひゃ。と、ハーレが小さく声を上げた。
「ああ――。ハーレちゃんにあげたくて捕まえてきたようだな。小鳥に怪我はさせたりしておらんよ」
 アルペストゥスに共犯者と目されるアカツキが、状況を察して橋渡しした。
「いただけるの?」
 クルクルと喉を鳴らしたのが同意だと、ハーレに伝わった。
「まあ、嬉しい。ありがとう。小鳥さん、いらして」
 ハーレのふわふわの指に小鳥は飛び移った。
「私のお家にいらっしゃる? お空に帰る? どちらでも選んでいいのよ」
 小鳥は、ピイと小さく鳴いて、ハーレの手から飛び立っていった。ハーレは鳥が飛んでいくのを目を細めてみていた。
「竜の方。ありがとう。小鳥を逃がす功徳を積むことができました。買ってきた鳥でしたことはあったけれど、本当に野生の鳥を放つことをしてみたかったの」
 ハーレは、乱れたヴェールを直した。
「そろそろ戻りましょう。お土産も買ったし、日が暮れてしまうわ」


 輿を見送ると、ローレット・イレギュラーズは大きく息をついた。戦闘とは別の意味で緊張し続けた一日だった。
「流石に手際が良いな、ルカ。アルペストゥスも良くやった」
 鳥がねぐらに向かって飛んでいく。
 アルペストゥスがハーレにあげたのと同じ種類の鳥。これから鳥を見るたびに、ハーレは飛び立っていく選択もあると教えてくれた竜の贈り物のことを思い出すだろう。
「ルカさんも、ベネディクトさんもお疲れ様なのですよ。さっきのお店でお土産買ってきたのです」
 ソフィティアが満面の笑みでやってきた。
 買ってからもしばらく熱々。
「揚げ饅頭、みんなと一緒に食べるのですよ!」
 善意100%。火傷した口の中の治療はどさくさ紛れで忘れていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。ハーレさんもこれからは外に出る機会が増えるでしょう。
ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

PAGETOPPAGEBOTTOM