シナリオ詳細
<虹の架け橋>●●という名の呪い
オープニング
●
例えば、長命な幻想種。
例えば、天義にいた月光人形。
ただのヒトは短命だ。だから私の元から彼女は去ってしまった。
長命であれば、永遠であれば、手放さなくて済んだかもしれないのに。
いいや、そんな手段などありはしない。あの歪なる魔物を見た時に悟ったのだ。
彼女と再会するのなら、彼女と永遠になるのなら、彼女と1つになるのなら。
──何もかも壊すしかない。そうだろう?
●
「どう? そっちの様子は」
「次の依頼として出せる状態です、よっ!?」
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)の言葉に振り向いたブラウ(p3n000090)はつんっと何もないところで足を引っ掛ける。ころんころろんと転がったブラウはシャルルの両手で受け止められ、そのまま掬い上げられた。
「大丈夫、……ダメだこれ」
手の中のブラウはきゅぅ、と目を回してしまっている。肩を竦めたシャルルは彼をカウンターへ持っていった。ハンカチを敷いて乗せてやると、今度はひよことともに床へ落ちた羊皮紙へ手を伸ばす。
それは彼が話していた次の依頼に関する依頼書だ。
向かうべきとされる場所は大迷宮『ヘイムダリオン』。海洋の一件も大きく騒がれイレギュラーズが対処に向かっているが、こちらも注力しなければならない。今も妖精郷と、妖精女王の危機が迫っているのだ。
元来、妖精郷アルヴィオンに住まう妖精たちはアーカンシェルという門を通って混沌を訪れていた。スパンは短い場合もあれば長い場合もあるが、その際の悪戯や手助けが深緑各地へ妖精伝承(フェアリーテイル)として残っている。
そのアーカンシェルだが、妖精郷から──より詳しく述べるなら向こう側から──来た者しか入れないという制約があったりする。つまり、イレギュラーズを始めとした混沌の住人は向こう側へ行けないのだ。
しかしその法則を捻じ曲げ、ぶち壊すように押し入ったのが深緑に潜んでいた魔種である。アーカンシェルはその余波により機能不全となり、妖精たちですら帰ることができなくなってしまった。
故に、正規ルートなる大迷宮を通り抜け、妖精郷へ向かった魔種を止めることがイレギュラーズに任された依頼である。
「前が花粉症……花粉症……? で、その先か」
ヘイムダリオン1つ目の空間を突破し、手に入れた虹の宝珠にて先の道を拓いたイレギュラーズ。なれどまだ迷宮は続くらしい。
「次はいくつかの部屋を介してのハック&スラッシュか」
なんか普通だなあ、と呟くシャルル。然もありなん、これまでヘイムダリオンの空間は凡そ迷宮と言い難いものばかりだ。
しかしこの空間は円形のバトルフィールドで敵を倒し、虹の宝珠を集めるというごく簡単なものらしい。その分モンスターは強いかもしれないが、ギミックに思考を割かなくて良い分全力を出せるだろう。
ちらりと見れば、ブラウはまだ気絶中。あとで医者に行くよう促した方が良いかもしれない。
(……獣医に診てもらうのか? それともヒトの医者……?)
獣種でないシャルルにはそこのところがよくわからない。ブラウが目覚めなければ他のイレギュラーズに聞いてみようか。
などと考えていれば、ブラウがぱちりと目を開けて。
「はっ。ボクはいったい何を」
「何もないところですっ転んだよ」
目をパチパチ瞬かせるブラウは、暫しして気絶前のことを思い出したらしい。シャルルへハンカチを返すと、持っていた羊皮紙を揃って覗き込んだ。
「これはもう皆に出していいんだよね?」
「はい! お願いしても良いですか?」
ブラウの言葉にシャルルは頷くと、羊皮紙を持って手近なイレギュラーズへ声をかけたのだった。
●
狂っているのかと、問われれば。
そうなのだろうと、答えるだろう。
此処へ来るよりずっと前から──私は、狂っているのだ。
●IF
少し先の、可能性的な未来。
イレギュラーズがその手に持つのは今しがた集めた虹の宝珠だ。大きな球の如きゴーレムからはつるりとした球の宝珠が。輪の如きゴーレムからは楕円形の宝珠が。
それらは最奥へ来ると溶けるようになくなり、同時に空間が揺れる。目の前が開き、拓かれる。
その背後から、イレギュラーズは全く知らぬ声をかけられた。
「素材集めに来たはずだったが……思わぬ出会い、というところかな」
振り返るとそこに立っていたのはクロバ=ザ=ホロウメア (p3p000145)によく似た眼帯の男。彼はイレギュラーズへ向け、その剣を抜き放った。
- <虹の架け橋>●●という名の呪いLv:17以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年06月13日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
大迷宮ヘイムダリオンの1空間。その話を聞き、そして踏み入れたイレギュラーズたちの思いは同じだっただろう。
──なんて普通なのか、と。
「今までの事を考えると、ホント何の捻りもない普通な感じなのね」
「簡単なお仕事になりそうで何よりですねー」
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)と桐神 きり(p3p007718)は視線を巡らせるが、ギミックらしいギミックも見つからない。勿論手を抜くわけではないけれど、余計なことを考えず敵を倒してアイテムを集めれば良いだけだ。戦闘以外に注力しなくて良いというのはそうでない時と比べて『楽だ』と感じざるを得ない。
「でも、厄介なギミックが無い分敵も手強そうです……気を引き締めていきましょう!」
フィールドの中心でむくむくと起き上がり始めるゴーレムに『呪い師』エリス(p3p007830)は弓を構える。『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)も赤と青に刻印を光らせ、既に戦闘準備態勢だ。
「急がねば妖精郷が大変なことになってしまうのじゃ」
あくまでヘイムダリオンの踏破はその先にある妖精郷へ進むためのもの。ここで慢心して失敗し、その道が遠のくのは避けたい事態である。
イレギュラーズたちがこの空間へ踏み入ったことにより、仕掛けとも言うべきゴーレムたちの起動装置が動いたのだろう。このフィールドだけでなく、離れた場所にある同じようなフィールドからも敵対心が向いている。端にあるサークルへ踏み入ればそこまで移動できるのだろう。
けれど──何故だろう?
(迷宮の攻略……なはずだが、なんだこの胸騒ぎは)
(嫌な感じ……何だっていうのよ)
『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)と『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は言いようのない感覚に囚われていた。特にクロバは左腕と左目が燃えるように熱を帯びている。もしやあの男が──。
(いや、そんな……まさか、な)
あるはずない。そう断じてクロバは頭を振る。こんな場所で気を散らして失敗するわけにはいかない。
「さあ、行くヨ!」
すらりと抜かれた曲刀。ミルヴィは踊り手の衣装を揺らし、魅せるために1歩を踏む。途端──。
「わっ! もう、危ないナ」
「いやそんな悠長な!」
一直線に猛スピードで向かってくる球、じゃなくてゴーレム。ミルヴィはひらりと優雅に避けてみせるが、その後に続く面々はたまらない。闘技場でたまに見かける事故に酷似してないか、これ。
「頼むぜ、ミルヴィ」
冷や汗を垂らすクロバは光の斬撃を大きな球へ打ち込みながら呟く。彼女が注目を集めてくれるのならば、自分たちはその流れ弾を受けないように気を付けなければ。
「数は多い……けれど、しっかりと対処をすればそれほど脅威でもなさそうね。皆、落ち着いていきましょう!」
アルテミアは持ち前の瞬発力で近距離と遠距離に位置するローリングゴーレムを一気に相手取る。その首元では星のように輝く守護宝石がチョーカーの一部として輝いた。
「ローリングゴーレムから、さきに倒しちゃおうね」
『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)の声が、魔力を纏った歌を紡ぐ。理解してはならぬ歌。けれどもどこか魅かれてしまう歌。転がるゴーレムのどこに顔があるのかなどわからないが、ゆらんゆらんと何やら揺れ始めたゴーレムへきりは妖気を放つ。
「しかし、あのゴーレムたちも要注意ですね……皆さん、回復します!」
ローリングゴーレムより遅れての動きだったもう1種類のゴーレム──サークルゴーレムが謎の光を放ち、その周囲にいたイレギュラーズたちは静電気のようなものを感じ始める。すかさずその中心へ飛び込んだエリスは超分析し、味方の麻痺を払った。
「ここが終わったらあのサークルを踏んで次の場所へ行くのかな」
『恐らくは。あちらでもゴーレムが動いているようだ』
『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は胸元の十字架──彼女を操る神様──と言葉を交わしながらカタラァナによって恍惚の入った個体へ迫る。魔術と格闘の織り交ざった技で仕掛けるティアへ追随して、アカツキは放った衝撃波でゴーレムを強かに叩いた。
その動きは素早くも、しかし脆かったのだろう。ぼろりと体が崩れて中から小さな球が1つ零れてくる。それを拾い上げ、一同はすぐさま転がってきた他のローリングゴーレムを躱し、受け流した。
まずは1匹。ここにはローリングゴーレムが残1体、サークルゴーレムが残2体。同じ構成で待ち受けているのだとすれば、同じような戦いを3度ほどすることになるだろうか。
手を抜けば負けるだろうが、最初から飛ばし過ぎないように気を付けなければ。イレギュラーズたちは一いように魔力切れ、体力切れの危険を感じながら次の敵へと立ち向かった。
「ミルヴィさん、どうぞ!」
「アリガトー♪ まだまだ魅せちゃうヨ!」
エリスの回復にミルヴィは軽くウィンクをひとつ。軽やかに、情熱的なステップがゴーレムたちの注目を一様に集める。
「すすめ すすめ かろやかに
ひらり くるり よけていけ
みせるは おどりと このこえで♪」
カタラァナがミルヴィの踊りに続き、集まってきた敵を歌で魅了する。彼女の声は頑張っているようでもないのによく聞こえて、不思議と耳を傾けたくなってしまうのだ。
──それが時に、敵の隙ともなる。
「今のこの威力なら、攻撃を当てさえすれば──!」
死神としての能力を引き出した一撃にローリングゴーレムが崩れる。残るはサークルゴーレムだ。
(ちょっと遠いかな)
ティアはサークルゴーレムの浮遊する方を見て、ひとつの魔法を発動する。あの敵は近くにいない方が良い。わざわざ動くまでもないだろう。
元の世界で使用していたそれは、威力を追い求めたのではなく精神力を奪いとるもの。あとを追うようにしてアカツキの炎が燃え上がる。
(敵はこのゴーレムたちで最後のようじゃな)
アカツキが視線を走らせるが、遠くに見える他のフィールドにゴーレムはもう見当たらない。最初と、その次と。そしてここで終わりという事だろう。あとは最後に増援などという予想外が起こらねば良いが、何が起こってもおかしくない。
「もう少しです、さくっと終わらせちゃいましょう!」
きりが天使の福音を響かせながら仲間を鼓舞し、アルテミアの放つ蒼の一閃が連撃の始まりを告げる。
「この程度の敵に後れを取るほど、私は弱くはないわよ──と!」
その最後は手数を武器に。天使の輪を思わせるゴーレムは至る箇所にヒビを持ちながらも、ヘイムダリオンへの侵入者を退かさんと攻撃を向ける。何人たりとも止められぬと言わんばかりの素早さだが──既に数の差が、敗北を物語っていた。
イレギュラーズの一閃に砕けるサークルゴーレム。ヒビが一斉に全体へ走り、粉々になった敵の残骸から虹の宝珠が顔を覗かせる。
「終わり、か?」
「ええ。お疲れ様」
拾い上げるクロバにアルテミアが声をかける。数人は周囲を警戒しているものの、それらしい敵意は見つからないし感じ取れない。
集めた虹の宝珠はイレギュラーズたちの眼前で、まるで蒸発するように溶けてしまった。あっと誰かが声を上げるも束の間、空間が揺れる。フィールドの端に新しくサークルが輝き、ここまでだと感じていた空間が広がったことを感じた。
「道が開いたってことカナ?」
「恐らくは」
そのサークルを見たイレギュラーズは、不意にその背後から声をかけられた。
「素材集めに来たはずだったが……思わぬ出会い、というところかな」
はっと振り返る一同。その動きにクロバだけが乗り遅れる。いいや、乗り遅れたのではなく動けなかった。
(左腕と、左眼が)
熱い。先ほどよりも、ずっと。
聞き覚えのある声。聞くことなどなかっただろう声。偽物だろうだってここにいるはずないじゃないか。
「クロバ」
名前を呼ばれた。どくんと鼓動が嫌に跳ねた。
言葉には言霊が宿る。名前は最も短い呪──呼ばれたら、反応せずにはいられない。
ゆっくりと、ぎこちなくクロバの体が動く。
随分と遅れて振り返ったその視界には、クロバと瓜二つの男が立っていた。
●
ずっと過去に囚われている。
いいや、今を縛る過去があってはならないと言うならば。
クロバも──冬月黒葉も、そしてこの男も。それぞれの『あの時』から進めていないのだろう。
クロバの進めぬ『あの時』。
その元凶が目の前にいる。
その元凶が、ここにいる。
確信があった。目の前にいるこの男は、クロバの知る”あの男”であると。
「やっと仕事終わって帰れると思ったら……こんな聞いてないですよ!?」
きりは妖刀を構えながらその男を見据える。眼帯をしてはいるが、仲間に──クロバによく似た外見をしている。ほとんど瓜二つと言って良いかもしれない。
(けれど、纏う空気が別物だわ)
細剣を抜くアルテミアはふと以前の依頼を思い出した。人口精霊の討伐依頼──その際の、クロバによく似た人物が深緑で目撃されている、という噂。あの時は『日頃の行い』と思っていたが、眼前の男が噂の主だったのかもしれない。
(強い……それははっきりと分かります)
エリスは弓を持つ手に力を込める。万全の状態であっても、どれだけやりあえるのか。いずれにせよ既に戦闘を経たイレギュラーズが立ち向かったとしても勝算は低いだろう。ここは隙を見て撤退を──。
「って、ちょ、ちょっとクロバさん!?」
走り抜けた影。その髪は色が抜けたように白く染まり、振るうガンブレードは男の剣によって簡単に受け止められる。
はは、とその唇から笑いが漏れた。止まらなかった。
「そうか。お前も来ていたのか──”クオン=フユツキ”!」
紅と黒に染まった双眸を見開き、その瞳にクオンを映し出すクロバ。瞳の奥で揺れる感情は男に対する憎しみと──宿命を果たす時が来たという歓喜。それを正確に感じ取ったのか、クオンの唇が笑みに歪む。
「私に会いたかったか? クロバ」
「あぁ、会いたかったよお前に。復讐を果たす為にお前を殺す……その為、その為だけに今まで生きて来たんだ!!!」
直後、爆炎に包まれる。その中を突き進んだクロバは自らへの反動も顧みず、激しい剣戟をクオンへと振らせた。軽々といなして見せるクオンだが、その身もやはり旅人(ウォーカー)である。召喚されて混沌肯定『レベル1』により弱体化されたはずだ。その実力は完全に戻り切っていないのが現状であろう。
「だが……まだだ、クロバ。これでは私を殺せない」
早く殺しておくれ。”彼女”とひとつになり、本物の永遠となるために。
クオンの言葉にカタラァナはかくりと首を傾げる。本物の永遠。そのために殺してもらう。何とも言えない心地だけれど。
「とても気持ちが悪いね」
カタラァナの言葉にクオンは一瞥すると、怒るでもなく肩を竦めた。さもありなん、と言うように。
「誰にもわかるまいよ。理解されようとも思わない」
理解されなくとも、誰も求めていなくても。クオン自身がそうせざるを得ないのだ。それを世間では『アイ』と言うのだとカタラァナは知っていた。
「あぁん、もう!! 我を忘れて突っ込んでるんじゃないわよこの馬鹿!!」
アルテミアは眉根を寄せながら細剣へ蒼の炎を纏わせる。鮮やか且つ荒々しい剣舞を継ぐように、信念の鎧をまとったミルヴィの情熱的な剣舞がクオンへ迫った。
「ここでアンタが怒り狂って何が状況がよくなるの!? しっかりして! ここに来た時のアンタには無い物もあるでしょ!」
混沌を訪れたばかりのクロバであれば、真実『何もなかった』だろう。けれど訪れて既に歳月は流れ、彼はもう何もなかった頃のクロバではない。
友も、仲間も、恋人も──彼の生を望む者はたくさんいる。ここで憎しみに囚われたまま復讐を果たし、果てて良い者ではないのだ。
きりが天使の福音を響かせる中でクロバの瞳が揺らぐ。仲間の存在に、ミルヴィの言葉に。その様子にクオンが興味深げな色を乗せた。
「私の知らない内に何かあったようだな。仲間との結束……ああ、それとも。愛する者ができたか?」
「はっ。お前に教える義理はない!」
一蹴。この男に余計な情報を与える必要も無いとクロバは笑い飛ばす。もう2度と奪われてなるものか。そんな彼の様子にカタラァナは出かけていた言葉を呑み込んだ。
──彼には大好きな人がいるんだから、狙うのはまずそっちじゃない?
その言葉を吐けば、クオンはここから立ち去るかもしれない。けれども立ち去って向かう先は彼の恋人になるだろう。彼が良しとしないのならば、カタラァナがそう仕向ける訳にはいかない。
代わりにとカタラァナは歌と言えないような歌を紡ぐ。莫大な彼女の声量を圧縮し、放つそれは薄黄色の魔力光を纏ってクオンへと飛んだ。
(強い敵には、したいことをさせちゃだめなんだ)
思うがままにさせれば負ける。カタラァナだって知っていること。故に彼女は仲間へ繋ぐための一手を送るのだ。
エリスが味方の傷を癒す中、激しい剣戟が続く。合間にも何か──エリスのいる場所からは見えにくいが、何かの物質──を手にしたクオンはそれを触媒に魔術を発動させているらしい。衰えを見せぬ敵の姿に一同は──特に彼と刃を交える者は途轍もない強さを感じ取っていた。
「ゴーレムだけ相手すれば良いわけじゃ無くなったね」
『格上の相手だ。油断だけはするなよ?』
敵へ肉薄するティアへ案じる声が胸元の十字架から漏れる。「大丈夫」と返したティアは先の先を見るように確実な攻撃をクオンへ叩き込んだ。その後を追うようにアカツキの刻印から炎が顕現し、その全力を以て敵を焼かんと迫る。
確実に勝てない相手ならば、逃げるしか選択はない。しかしそのような相手から撤退するということ自体が生半可なことではないことは全員の共通認識だ。
なれば、どうするか?
少しでも、一瞬でもいい。
隙のない敵に隙を作って──そこへ全員の総力を叩き込むのみ!
ブロックして敵の動きを阻害するミルヴィの傍ら、クロバが多彩な型で攻め立てる。混沌肯定によっていくらか違う形になれど、”剣聖”の型は自身の敗北が覚えている。まだそこには届かないかもしれない。それでも。
「雪雫を殺した──俺に殺させたアンタを俺が殺す……!」
剣聖の太刀筋を運命力でもって受け止め、流したクロバ。目を見開いたクオンへ彼は怒涛の攻勢を見せる。
その絶対的な差を覆さんとする決死の特攻に──今、敗北の運命すら避けてみせたクロバに、戦の女神が微笑んだ。
「許サナイ……絶対に殺ス……オマエダケハアアアアアアア!!」
クロバの攻勢にクオンが押される。そこへミルヴィが飛びつき、組み付いて一時の自由を奪った。
「皆、いいからアタシごと撃って!」
彼女の声にかぶさり、きりの放つ赤き刃が。エリスの放つ呪いの矢が。多重に攻め立てるアルテミアの残影が。カタラァナの奥の手から繋ぐように、死角からティアの放つ必中の一手がクオンの脇腹を抉る。空を裂き、天を焦がさんと燃え上がる炎の壁はアカツキの力だ。ミルヴィがぱっと離れた直後に上がった炎がクオンの姿を一瞬見えなくさせる。
「……っち、」
らしくもなく舌打ちし、後退するクオン。そこへイレギュラーズたちは畳みかける──のではなく。
「皆さん!」
きりの言葉と同時にイレギュラーズたちは踵を返す。エリスが、カタラァナが、ティアが。ミルヴィも傷に顔を顰めながら皇太子、アカツキは振り返りざまクロバへ叫んだ。
「クロバ、はよう来い! 殴ってでも連れて行くぞ!!」
未だ剣聖と向かい合うクロバ。アカツキが殴り倒しに行くより早くアルテミアが首根っこを掴み、撤退せんと駆ける。
力負けするかとも思われた行動だが、クロバは思った以上に抵抗しなかった。彼とて撤退せねばならないことは分かっていたのだ。
だが、それでも。
「……俺には復讐(これ)だけなんだ、これしか……ないんだよ……」
生きてきた理由を果たす機会が、ひとつ失われる。それも自分の意志での撤退になると思えば、一瞬の躊躇は避けようはずもなかったのだ。
「……貴方に死なれたら、あの子に合わせる顔がないわ」
もう自らの足でヘイムダリオンの外へ向かい始めたクロバを開放し、呟くアルテミア。自らが付いていながら連れて帰れなかった──など、申し開きのしようもなくなってしまう。
嗚呼、そうだ。帰らなければ。脳裏から離れない”銀の彼女”が、きっと待っているから。
そう思えどクロバの心は晴れぬままで。そんな息子の背を見る父──父代わりだったクオンは出血の続く腹を押さえながらそこに立ち尽くしていた。
追おうと思えば追えただろう。一瞬の不覚は取ったが、この程度であれば勝率への影響も大したことはない。だがクオンは『自らの意思で追わなかった』。
その理由は複数あるだろうが──心の中に秘めたまま。
後にこの空間には偵察隊が編成され送り込まれたが、クロバと瓜二つな男の姿はついぞ見つからなかったと言う。
撤退したのか、それとも前進したのか定かではないが──クオン=フユツキの存在は危険な特異運命座標としてローレットに記録されたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
また、どこかで。必ずやあなたの元には現れるでしょう。
MVPは乱入者にも食らいついた貴女へ。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●成功条件
虹の宝珠を得てヘイムダリオンの先を開き、ローレットへ帰還すること
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●エネミー
・ローリングゴーレム×6
大人ほどの全長を持つ球です。通常攻撃に貫通と流血を持ちます。めちゃくちゃ轢き殺そうとしてきます。
速さ任せの攻撃です。防御は低いです。
倒すと虹の宝珠をドロップします。
・サークルゴーレム×5
天使の輪のような形状をしたゴーレムです。浮遊しています。通常攻撃に範囲と麻痺を持ちます。
回避に強く、攻撃力はそうでもありません。
倒すと虹の宝珠をドロップします。
・???
ヘイムダリオンのモンスターに非ず。乱入者です。上記エネミーを倒し、虹の宝珠で道を開いた直後にエンカウントします。
物理攻撃型ですが、神秘にも精通しているようです。他ステータスも十分高いものとなっています。
この敵に遭遇したら【何としてでも撤退の隙を作り、帰還】してください。さもなくば死にます。
生半可な力では隙を作ることはできないでしょう。
名前を伏せていますが、もうわかっていると思いますので。この方です。
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1094492#bbs-1094492
●フィールド
円形の地面です。壁はないように見えますが、透明な壁があるため落ちません。複数存在します。
地面の端には淡く光るサークルが存在し、足を踏み入れると別のフィールドへ転移します。ただの移動手段です。
フィールドは広すぎず狭すぎず。十分広がることはできますが、引き撃ちなどはできません。
●ご挨拶
愁です。そろそろ会いたいでしょう?
このシナリオでは戦闘が2回発生します。しかし後半はPCにとって奇襲にも近い形で行われるため、意図的な準備はできません。また、前半もしっかり対応しなければ道を拓く以前の問題となります。ご注意下さい。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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