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シナリオ詳細

とある闘士の憎しみ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●“卑劣”なる依頼
「ラド・バウ闘士『ダルゲイザー』を再起不能にしてほしい」
 ローレットを訪れた隻腕の男は、自身も鉄帝――ゼシュテル鉄帝国の誇る大闘技場ラド・バウの、元闘士なのだと語ってみせた。
 彼の名はクリムゾン。一昔前までは新進気鋭の闘士であって、その端正な顔立ちから人気も高かったのだが、ある時ダルゲイザーとの、互いの昇級のかかった試合の際、一瞬の隙を突かれて利き手を斬り飛ばされ負けた。
「そのせいで俺は闘士を続けられなくなったわけだが……正直、その時は闘士なんてそういうものだと思っていたよ。試合の際に体調が悪い気がしたが、それは前日に奴に景気付けに呑み交わそうと持ちかけられた際、酒の量をコントロールしきれなかった俺自身の落ち度だとばかり信じ込んでいた」
 彼の言葉は過去形だ……つまり、実際にはそうじゃなかったということだ。
 クリムゾンはこう続ける。
「ダルゲイザーは、その時は『お前の闘士生命を絶ちたいわけじゃなかった、許してくれ』と平謝りで、わざわざ自分の賞金の中から見舞金まで出してくれた……ああ、その時の俺は愚かにもこの男の律儀さにすっかり惚れ込んで、俺が闘士ではなくなった今、一生奴を応援してやろうと心に誓ったわけなのさ」
 そんな過去を語る彼の表情は……しかし大きく歪んだのだった。目尻には悔しげに涙が浮かび、彼は次なる言葉を絞り出す。
「……けれども、そうして奴の試合を見ているうちに、俺は気がついてしまった――奴は、ここ一番の大勝負って時の勝率がやけに高いんじゃないか、ってな。
 最初は、こいつはプレッシャーに強い奴なんだ……そう思ったよ。でも違うんだ。どの勝負もダルゲイザーが強くて勝ったんじゃなくて、決まって相手が不調で負けるんだ……そう、俺の引退試合になっちまった、あの時のように!!」
 この事実をどう見る? 元闘士は悔しげな表情で特異運命座標たちを見回した。その通り……不審に思って調べてみたら、ダルゲイザー相手に無様に負けた闘士たちは、いずれも前日、彼に呑みに誘われていた!!

 声を荒げる男の目には、いつしか悔し涙が浮かんでいた。それから……俺だって信じたいんだと、まるで信じられる時期などとっくに過ぎてしまったかのように小さく洩らす。
「結局のところ、酒に何か薬でも混ぜられたのにも気付けなかった俺が、ただただ間抜けだったってだけの話なのさ。それに……あいつは卑怯な真似をしてまで勝ちたかったのかもしれないが、俺の腕まで取る気はなかったというのも確かなんだろう。人を雇ってまで復讐しようなんてのは、俺の身勝手さなのかもしれない」
 だとしても──彼には止められぬのだ。自分の輝かしかったかもしれない未来を奪ったあの男の顔を、恐怖と苦痛で歪ませたいと望むのを。あの男の残りの人生が、自らの過ちを悔いて生きてく日々と化すことを願うのを。

GMコメント

 るうでございます。
 実のところ、ダルゲイザーが本当に対戦相手に薬品を盛った証拠などはなく、クリムゾンの想像でしかありません。しかし、もしダルゲイザーを詰問したならば、彼はその想像が事実であったことを認めるでしょう。
 だとしても……この依頼が、鉄帝の国技とも言えるラド・バウの闘士を私怨にて襲撃するという、かの国においては許されがたき行為であることに違いはありません。
 ゆえに、この依頼は『悪属性依頼』です。成功した場合、『鉄帝』における悪名が増加されます。また、失敗した場合の名声値の変化はありません。ご注意ください。

●成功条件
 ダルゲイザーの闘士としての再起不能。生死問わず……ただし依頼人の希望としては、殺さずに一生苦しめたいようです(皆様が実際そうするかどうかは、成功条件には関係しません)。

●戦場
 流石にラド・バウ付近で襲撃してもすぐに他の闘士に止められてしまうので、ダルゲイザーが子分を引き連れて場末の酒場に向かった際に襲撃します。元々治安の悪い通りなので、酒場への道すがら襲撃しても、酒場の中で襲撃しても、帰り道に襲撃してもかまいません。襲撃前にいろんな工作をしておいてもOKです。
 いずれにせよ、戦場は雑多な裏路地で、ひさしなどの障害物も多くあります。遠距離以上の武器は使い勝手が悪いかもしれません。

●敵
・ダルゲイザー
 戦斧と円盾を使う戦士です。攻撃・防御ともに秀逸ですが、必殺の魅せ技『アースクエイク・ラッシュ』で止めを狙おうとする際に大振りになり、隙を作る癖があるとクリムゾンは語ります。酒豪。

・子分×6名
 決して強くはありませんが、そうは言ってもラド・バウ闘士です。ダルゲイザーの強さに心酔しており、彼をトラブルから守るのが使命だと考えています。
 中距離型の弓兵や術師も混ざってはいますが、いずれも攻撃特化型から攻防バランス型に相当する能力を持っています。

●その他
 本シナリオでは、事前準備や事後工作のために、鉄帝関係者を使用することができます。
 プレイングにギルド・ローレットの『資料庫(関係者スレッド)』に投稿した関係者名を添え、クリムゾンやダルゲイザーとの関係や、どのような協力をしてくれるのかを指定した場合、内容に無理がなければリプレイに登場します。
 https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058

  • とある闘士の憎しみ完了
  • GM名るう
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月10日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
シラス(p3p004421)
超える者
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
鬼怒川・辰巳(p3p008308)
ギャンブル禁止!

リプレイ

●最後の一杯
 こうした通りに漂う香はどこも同じで、染みついた饐えたような匂いがアルコールと料理の香に覆われている。
 酒。金。暴力。辺りに響く喧騒はどれもがそれらを連想させるもので、鉄帝の、しかも裏通りらしさを物語ってくれるものだ。
 自らの欲望のために他者を害する生き物にとっては、こうした場所はさぞかし居心地いいことだろう。だから『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は人というものを卑しむし、嘲笑うし……そしてその愚かさに安心すら覚えるほどだ。
 ほうら。今宵もまた新たな破滅志願者が、ヴァイオレットの胸元に惹かれて声をかけた。だというのに彼女はそれをすげなくあしらって……何の気ないようなフリをしてダルゲイザーたちの隣に席を確保する。
「ちぇっ、ダルゲイザーのツレだったのかよ」
 最初の男が舌打ちすれば、ダルゲイザーも気付いてヴァイオレットへと振り向いた。さぁて、愉しませて貰いましょうか――そんな内心を隠しての会釈は……男の勘違いを“真実”に変える、蠱惑の魔法そのものだ。

「こんな酒、ヤミ市場でも滅多にお目にかかれねえ。どこでこんなモン探してきたんだ?」
「今宵限りにするのは勿体ねえ女だぜ。どうだい、本当に俺の女になっちまうってのは?」
 随分と機嫌の良さそうなダルゲイザーと取り巻きたちの声は、路地からこっそりと離れてゆく『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)の狼の耳にもはっきりと聞き取れていた。そればかりではなく迅は……もうひとつ、はっきりと知覚していたことがある。
(随分と気前よく飲んでらっしゃる匂いですね……これは不意打ちには持ってこいかもしれません。卑怯なのではありません、全ては、己がしでかしたことの結果が返ってくる、というだけの話……同じことをなさっているのですから、これから何が起ころうとダルゲイザー殿も恨みますまい……)
 そこにあるのは簡単な掟――『勝ったものが生き延びて、負けたものは食われる』だ。徒手空拳以外の戦い方を好まぬからといって、迅g“何でもアリ”を否定するわけじゃない。
 ま、そういうことだよね、と、『ラド・バウC級闘士』シラス(p3p004421)は嘯いた。依頼人の主張の真偽は判らぬし、わざわざ知る必要があるとも思わない。重要なのはたったのひとつ――たとえ毒を盛られようとも、逆恨みにより襲われようとも、火の粉を払えぬ奴が弱いだけ……それが『闘士』という世界の本性だということだ。
 ……だから。
「なあ、アンタ? えらい景気が良いじゃないか」
 どす黒い笑みを浮かべてその爪を振るったならば……それはクリムゾンの復讐代行を遂げるための嚆矢!

●夜闇の乱闘
「お前は……確か、ローレットのC級野郎!」
 “強盗”もまたラド・バウの闘士であったと知って、ダルゲイザーは息も詰まるような怒りに燃えて得物を抜いた。凄まじい威力の横薙ぎが、あわや身軽なシラスをさえをも捉えそうになる。
「なるほど、攻防ともに優れた戦士という下馬評も嘘ではないか……あれほど酒を入れてなおあのキレとは」
 そんなシラスを援護できる位置に竜人めいた姿の鎧が現れて、値踏みするように分析した。『彷徨う赤の騎士』ウォリア(p3p001789)が見て取るに、“行きすぎた番外戦術”を取れるほどに“万全を期す”のがダルゲイザー。であれば……急な襲撃に対しても、碌に戦えぬ失態は犯さぬのが彼の性分か?
「ラド・バウ闘士『ダルゲイザー』と見た。眼か、舌か、腕か、足か。何れか今宵で泣き別れしてもらおう」
 挑発しながらも様子を伺えば、騒ぐのはダルゲイザー自身よりもむしろ子分たちのほうだった。
(そしてまあ……過去の所業を知ってか知らずか、信奉者たちもいるわけだ。タダでさえ厄介なダルゲイザーの、ある種の“臆病さ”……それを此奴らがオーダーの障害にまで変えぬようには留意しておこう)

 もっともダルゲイザーの威を借る子分らは、ダルゲイザーの心配なんぞしている暇はなかったわけだが。
「……よっと」
 ゴン、という重い音の直後に聞こえた『ギャンブル禁止!』鬼怒川・辰巳(p3p008308)の気だるげな掛け声が、幾人かの子分を慌てて振り向かせた。
「正直、腕斬り落とすまではやりすぎじゃねえかなあ、ってのは思うんだよなぁ……」
 片足の下に頭から血を流して倒れた術士らしき子分を踏みつけて、べったりと真新しい血のついた鉄パイプを肩に無造作に担いだポーズ。気休め程度に顔に巻きつけたスカーフがあったとしても、顔立ちがいまだ少年の域を出ていないことばかりは容易く見て取れた。その上で……。
「別にここは日本じゃないし……まあ、郷に入っては郷に従えっつーやつだよな?」
 警戒心など感じさせない軽薄な態度。
 確かに物騒なことは言ってるし、屋根の上からの奇襲はあっさりと1名を殴り飛ばしたが、辰巳の様子はそれを『怖いもの知らず』と『ただの偶然』で片付けようと思わせるのに十分だった……ただし、似たようなことを思ってナメたバラ高の先輩方が、揃って返り討ちにされる羽目になったことをダルゲイザーの子分たちは知らない。
「身の程知らずもいたもんだぜ!」
「俺たちが誰だか解ってんのか!?」
 幾人かがいきり立って辰巳へと向かっていったが、そうして子分たちが二手に分かれた直後、距離を取ったままの子分のひとりが横合いから殴られた。
「……そういうことだな。所詮、俺たちはこの世界からすれば異分子なんだ。そんな俺たちが倫理観を振り翳しても滑稽なだけだ」
 前衛が辰巳に向かったのを見計らい、後衛の弓使いを殴り飛ばしたのは杠・修也(p3p000378)だ。
「俺たちにだって、酒盛り帰りの闘士を襲って再起不能にしていいなんて倫理観はねえよ!?」
 弓兵は修也に向かって喚いたが……だとすれば、おかしいな、と首を傾げてみせる修也。
「はて……だとすれば翌日の試合にまで響くような薬物で対戦相手を潰すのは、鉄帝式の倫理観に適うものだったのか? 俺がこの国について学んだ限りにおいては、これ以上そういった被害者が出ないようにするのは、この国の倫理観とも合致していたようにも思うが……」

 カッとなって零距離射撃を放とうとした弓兵は……しかし矢を射掛けた直後、急に苦悶の表情を浮かべはじめた。
 飛来した呪詛弾は一体どこからか……近くの路地の闇にばかり目を凝らす弓兵は、真の狙撃者の居場所を見定めることはない……何故ならそれは遥か幾本かの十字路を隔てた彼方……何事かと遠巻きにする野次馬のさらに向こう側からだ!
 軒先の看板やら野次馬らやらを越えての狙撃。それが『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)の魔弾が魔弾たる所以だったろう。
(ゆっくりと呑んで貰えたお蔭で、狙撃ポイント探しが捗ったね)
 路地の陰や建物の屋上ばかりに意識を向ける弓兵は、いまだ街灯の傘の上に陣取ることほぎを見つけられていなかった。彼からすれば、何も判らぬうちに襲われて、何も判らぬうちに倒れることにはなるだろう……が、『何が起こったか』を自覚させたい相手はダルゲイザーただひとりだから問題はない。
 ああ、哀れな弓兵は、さらなる追い討ちを受けて完全に沈んだ。
「こういう一方的な“戦い”、わたしは大好きだわ!」
 きゃっきゃと死体蹴り(※まだ死んでない……このままじゃ時間の問題かもしれないけれど)していた『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の無邪気な笑顔には、いかに喧嘩慣れした野次馬たちといえども流石にドン引きである。かといって、誰も止めようとはしない……だってそうだろう。いくら相手が童女だからといって、瞳をキラキラと輝かせ、弱った敵ばかりを目敏く探し当てて気前良く魔力弾をぶち撒けるような人間に、近付きたいと思う奴なんていない――。

「お前ら……何が目的だ? ローレットの特異運命座標サマが、ご丁寧にライバル潰しか?」
「さぁてね? そんなこと、知る必要ないだろ?」
「……巫山戯やがって!」
 怒りに任せてダルゲイザーの振るった斧の刃はシラスを捉え、胸元に大きな赤筋を作った。一気にダルゲイザーがシラスを追い詰めた形だ。
 もっともダルゲイザーとて無事じゃない。全身には細かい傷が幾つも刻み込まれて、戦斧を構える腕も疲労に細かに震え始めているところ。
 本来ならば泥仕合になる前に、子分たちが寄って集って不届き者に“正義”ってものを教え込んでやるはずだった。だというのにダルゲイザーが我に返った時には、彼はシラスを追い詰めるのに夢中になりすぎて、子分たちなど置き去りだった。
 仕方なく、子分たちの下へと駆け戻ろうとする。だがその前に立ちはだかったのは……彼が鈍重な虚仮威しだと見て取り軽んじていたウォリア。
「実力では敵わぬ相手だと知って、尻尾を巻いて逃げるつもりか」
 ただ『そこに立つ』……それだけでダルゲイザーは行き先を失った。彼の斧は確かに鎧を切り裂くし、鎧の拳だって斧で受け止められる……が、それがこの状況で何の役に立つ? 腐ってもラド・バウ闘士たるダルゲイザーは、戦いとは時に質よりも数がものを言うのだと知っている。

 彼は、吐き気のするような気分に襲われた。彼がクリムゾンとも会う前の、ほんの駆け出し闘士だった頃、愚かにも見栄を張って呑み過ぎた後のような不快感だ。
「くそっ! 俺が何をしたって言うんだ!」
 がむしゃらに斧を敵に叩きつけてゆくダルゲイザー。真っ青な顔をしながら戦う彼に……誰かが、ふと囁いてみせる。
「おや……調子が悪そうですね? どうされました?」
 彼の窮地など素知らぬかのように嘯いたのは……突然の喧嘩に巻き込まれ、とっとと逃げたかと思われたヴァイオレットだった。
「先ほどご一緒した時に……飲みすぎてしまいました? そういえば、アナタと飲み交わした翌日に戦った闘士たちもまた、不調に見舞われていたんだとか……ヒヒヒ、とんだ偶然もあったものですな」
「まさか……おいっ、誰の差し金だ!? 俺だってライバルを闇討ちまでするほど落ちぶれちゃあなかったぜ!!」

 語るに落ちたとはこのことだった。『闇討ちまでするほど落ちぶれちゃいない』……それは闇討ちの前段階、『酒に何かを入れた』までは認めたということだ――実際にはヴァイオレットは何ひとつ彼の酒に混ぜてはおらず、単にひそかに呪詛の霧を辺りに漂わせていただけなのに。
 もっとも……そんなことは特異運命座標にとっても、クリムゾンにとっても今は関係がない。ラド・バウ闘士ダルゲイザーの闘士人生は今宵で終わる……重要なのはたったそれだけのことだ。

●復讐の刻
「……さて。これで僕の相手は片付きましたね」
 パン、パン、と両手の埃を払うと、迅は辺りの匂いを嗅いだ。
 先ほどまでの酒と料理の匂いに混ざり、鼻に届くのは血の匂い。もちろん、そのひとつは彼の足元で泡を吹く男のものだった――男もそれなりに身軽な軽戦士ではあったようだが、縦横無尽な動きで翻弄する迅の反応速度に、ついぞ追いつけず仕舞いのまま倒された。
 そして日本人2人組もまた、自分たちの敵を軽くいなし終えていたところだ。
「やー、やっぱ目立つ登場をしてやると、面白いように意識を逸らせていいね」
 派手な先制攻撃を仕掛けた辰巳に、間抜けな子分が気を取られてくれたお蔭で、修也は弓兵の次は攻撃術使いまで安心して殴り飛ばしにいけたってわけだ。地球では『まじない』の域を出なかったはずの、旧社家たる杠家に代々伝わる杠流古武術……それも無辜なる混沌においては立派な格闘術式として成立していたと言える。だったらば……近距離における足捌きを主体に戦う修也は近距離戦術を強いられるこの路地での戦いにおいて、中距離を得意とする三下術士相手に引けを取ったりはしない。
「ま、俺のお蔭ってことにしといていいよ。ここ選んだの俺だったしね」
 そんな辰巳相手に軽口を叩くと、鉄パイプを無造作に放り捨ててしまった辰巳。今がチャンス……などと起き上がってくる敵はいない。最初のうちは倒れたまま様子を伺って、奇襲を目論む者も皆無ではなかったが……こちらにはそういうのを見つけたら嬉々として念入りに潰す、メリーって子がいるからだ。
「ま、待て! 俺たちが悪かった……許してくれ!」
「うーん、許すも何もわたしは最初から、明日戦う相手と無警戒にお酒を飲んで失敗した依頼人よりむしろ、どんな手を使ってでも勝とうとするダルゲイザーのほうに好感持ってるわ?」
 でも、それはそれ、これはこれ。信条たる「弱きを倒し強きを避ける」を遺憾なく発揮できる機会が目の前にあるのなら……掲げた魔法剣を輝かせるメリーの表情は、これまで見てきたどんな悪よりも純粋な邪悪さに彩られているように彼には見えた。
(ああ。俺も闘士崩れの犯罪者なんて何人も見てきたし、俺だって片足突っ込んでねえとは言わねえが……こんなにも話の通じそうにねえ奴はそうそう知らないぜ……)

 ……とまれ、ダルゲイザーの子分らは、残らず大人しくなってしまった。
(やっぱり、楽な依頼は有難いねェ!)
 最後の子分を黙らせた後、狙撃地点を後にする中で、ことほぎがひそかにほくそ笑む。私怨、復讐、イイんじゃねェの。依頼してくれンなら金も回るし……つまり経済活動なんだから生産性もあるってことだ。その上でことほぎ自身は闇市で薄くなった財布が厚くなり、依頼人はハッピーになれる。これほどの社会貢献はそうあるものじゃない。
 それには最後……仕上げをしなくちゃいけないのだが。

 そのダルゲイザーはといえば、シラスとウォリアに挟まれていながらも、随分な奮戦をしていたとは言えた。
「ヒッヒッヒ。あれだけ飲んだ後で見事ではありますが、はたしてどこまで持ち堪えられるやら?」
 けれども絡みつくようなヴァイオレットの破滅の声が、彼が自ら心に生み出した隙間に忍び込む。焦りが生まれる。追い詰められるようにダルゲイザーは斧を握り直して……それを大きく振り上げる!
 その構えは、彼の決め技、『アースクエイク・ラッシュ』――この一撃でシラスを確実に屠り、逃げるなり他の襲撃者たちと対峙するなりしようということだろう。

 なるほどその技は、隙だらけの大振りから始まった。その隙を突くために、姿勢を低くして突進してゆくシラス。
 が、それを見たダルゲイザーは……斧を下ろさない。代わりに勢い良く片足を出し、シラスの腹を蹴り上げんとする。
 『魅せ技は大振りになる』――そんなのは見栄えのいい戦いを追求する闘士なら、誰にだってあることだとシラスは承知していた。だから闘士の腕前というものは……その大振りを突かれた時に、どんな対応ができるかで決まる。そしてダルゲイザーは素行は悪いかもしれないが、決して三下闘士ではない。
「――そんなことだろうと思ってたさ」
 直後……シラスは合わせて一歩引いた。ウォリアの竜面の瞳が紅く燃え、その全てを見定める。
「いかに追い詰められておったとはいえ、相手の力量を図り切れておらぬこの状況で止めを急ぐとは……些か危機感が足りなんだ、と言ったところであろうな」
 結果は、ウォリアの見立て通りであったろう。確かにダルゲイザーはその大振りの隙を狙う敵に対しても、対応する技を持っていた……だがあくまでもその技は、やぶれかぶれの敵をいなすための最低限のもの。そちらの隙まで狙われてしまったら……渾身のカウンターを受ける以外の道はない!
「ぐはっ……!?」
 ダルゲイザーがよろめけば、さらにその背を、凄まじい速度の一撃が突き飛ばしていった。たたらを踏んだ闘士の力任せの反撃は……その時交差した相手の脇腹を大きく切り裂いている。

 身軽さを武器とする迅の細い肉体は、それだけですっかりと血の気を失っていった。それでも、自分は全部出し切りましたと剥いた牙……勝負は見事決めたのだ。その上修也の術式が、そんな迅さえすっかり治癒させてしまう……ダルゲイザーは絶望せざるを得まい。つまり、彼我の余裕には雲泥の差があるということに。
「そんじゃ、ケジメつけさせて貰うぜ? そうしねーと依頼人が先に進めねえんでな」
「お……おい何をする! やめろ……」
 ダルゲイザーが喚いたが、辰巳は一切止まらなかった。どうにか逃れんともがけども、その体をウォリアが捻じ伏せる。
「二度と戦える――闘技の舞台に上がれるとは思わんことだ。さぁ、闘士生命に終わりを刻んでやろう――」

●ダルゲイザーの失踪
「ああ、これで同じになりましたね」
 迅が溜め息のように洩らした言葉を、既に意識を失っていたダルゲイザーが聞くことはなく。この襲撃が誰の差し金であったかを、彼は怒りとともに想像することしかできぬであろう。
 彼が再び目を覚ました時、両腕はすっかり失われ。路上にさえも転がっておらぬのであれば、術による接合するすらもが叶わない。

『ダルゲイザーが強盗に襲われて腕を切られたらしい』
『強盗ごときに負けるだなんて、さぞかし闘技場では卑怯な手だけでのし上がったに違いない』
 ことほぎの流したそんな噂が人々の口に上ってしばらくした後に、ダルゲイザーが失踪したという情報が広まった。彼ははたして、再び表舞台に現れるだろうか……?

 なおその後、メリーの棲家の近くに住む野良犬たちが、メリーからスペシャルメニューのプレゼントを貰ってほくほく顔をしていた様子が目撃されている。ただし、そのことと失踪した闘士にまつわる噂を関連付ける者は、恐らく誰ひとりとしていまい。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

なし

あとがき

 かくしてラド・バウ闘士ダルゲイザーは、闘技の舞台から去ることになりました。
 その後、彼がどこで何をしているのかは不明です……しかし、その後戻ってこなかったということは、彼は依頼人の望み通りになったということでしょう。依頼人がそれで救われたかは別として。

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