PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Grooming Sheep

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●優しい春の日に
 ぽかぽか暖かな陽気に、つい眠ってしまいそうな優しい風。
 そこに──。

「メェ〜」

 ──そう、あの生き物がやってきた。


●大きな大きな
「ボクもあれくらい大きくなれるでしょうか」
「いや、無理だろ」
 ブラウ(p3n000090)の言葉がばっさりと切り捨てられる。ぴぃ!! と鳴き声を上げるも『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はどこ吹く風。ブラウの作成した依頼書を片手に頬杖ついて眺めている。
「……暑そうだなぁ」
 目を眇めるシャルル。そこに載っているのは超巨大化した生き物の情報であった。
 元からそうであるのか、と問われれば否。
 しかし突然変異か、と問われると是とも言い難い。
「妖精『Flying Sheep』の巨大化、ね……」
「妖精と言っても、深緑の精霊種とは異なりますけれど」
 ブラウがカウンターを歩いてシャルルのそばまで行き、一緒に羊皮紙を覗く。これは深緑と何ら関係のない、幻想の依頼だった。

 妖精『Flying Sheep』。羊のような姿をした妖精の一種で、幻想国で見られることが多い。群れで行動する彼らは日向ぼっこのために地上へ降り、温まると羽を出して飛翔するのである。
 そのためかふわふわウールはとても暖かく、防寒着の材料にも人気だ。しかし乱獲されたという話はない。それもこれも特殊なハサミでしか切れない強靭な毛と体、そしてテコでも動かぬ謎の重力によるものである。

 と、ここまでがFlying Sheepの話。この妖精は突然変異種というか──亜種がとても多いのだ。
「えっと、何がいましたっけ。ビリビリするのがいたって聞いたことはありますが」
「あとあれ、ファントムナイトに仮装した姿で出てきたとか」
 何やら色々ありそうだが、それこそ専門家にでも聞いたら終わりが見えないのでそれ以上は突っ込まない。
 今回のFlying Sheepはそんな亜種のひとつと見て良いだろう、ということだった。群れから孤立した巨大しーちゃん。そのふわふわな毛と屈強な男たちが押しても転がらぬ体がなければ、モンスターの1体として討伐隊でも組まれていたかもしれない。
「……ねえブラウ。これ日向ぼっこしてるんだよね。そのうち勝手にいなくなるんじゃない?」
「周りに住む方もそう思っていたらしいんですけど、かれこれ1週間いるみたいなんですよ」
 図体の大きさから温まるのに時間がかかっているのか。そう思った近隣住民だが、危険がないからとそばで遊んでいた子供たちが大人へ口々に言ったのだ。
『しーちゃんがもぞもぞしてる』
『なんか毛が、なんかもしゃもしゃしてる』
 子供たちとてそれ以上は分からないらしく、けれど『なんか』おかしいと訴える。大人が子供たちに誘われてFlying Sheepの元へ行くと──。
「毛がものすっごく、こんがらがってたんですって」
 本来Flying Sheepの毛はふわふわで、互いが絡まるだなんてありえない。だがしかし大きくなった羊の毛はどういうわけなのか絡まってしまったとのことだった。
 Flying Sheep自身も毛が気になっているようだ。それが原因で飛ばないのか、もしくは羽を出す部分がどうにかなって飛べないのか。そこまで理由は定かでないが、とにかくブラッシングが必要である──ということで依頼が舞い込んだ。
「……それで、アレ」
「アレです」
 ちらっと後方を見たシャルルへブラウが頷く。ちょうどひよこが人間姿になった時と同じくらいの大きさであるブラシが9本、壁に立てかけられているのだ。
「軽くて丈夫、妖精の毛も通るとお墨付きです」
 彼らの毛は何をするにも特殊な道具が必要となる。アレがそれ、というわけだ。
 眺めたシャルルは半眼になって羊皮紙を睨め付けるように見る。こんな目になってしまうのも、シャルルはすでに参加が確定しているからで。
「なんというか……」
 重労働そうだ、とシャルルは呟いた。

GMコメント

●すること
 Flying Sheepの毛づくろいをする

●Flying Sheep
 妖精羊です。しーちゃんとかふーちゃんとか羊さんとか呼ばれます。
 温もりを一定時間貯めると移動し、また別の場所で温もりを求めて降り立ちます。
 飛ぶときは魔法的な2対の羽を出してふんわり飛んでいきます。
 重さを変えられるのか、それとも飛ぶ力が強いのかは不明ですが、降り立つとどれだけ屈強な男が持ち上げようとしても持ち上がりません。
 倒そうと攻撃をしても不思議なことに、ふわふわの毛が完全ガード。妖精の不思議な力なのかもしれません。

 性格は温厚。……というよりは、鈍感。例え熱いお茶を零したとしても気づきはしないでしょう。
 リプレイ検索で『sheep』と検索すると今のところこの羊に関するものが100%出てきます。雰囲気を知りたい方はどうぞ。

 今回は全長5mほどもある巨大羊の毛づくろいをします。ところどころ厄介に絡まっているようです。てっぺんの方も注意してあげましょう。
 皆さんで役割分担することが大切です。
 また、最終的に終わるのならばあとは好きに寛げます。ピクニックしても日向ぼっこしてもよじ登っても大丈夫です。終始Flying Sheepは眠そうにしています。

●専用アイテム
・巨大ブラシ
 Flying Sheep用のブラシ(巨大版)です。これ以外では毛を梳かせませんのでお気をつけ下さい。手でちまちま解くのはありです。全部それだと終わりませんが……。

●フィールド
 近隣に町があります。
 モンスターの影もなく、平穏な原っぱです。日中でぽかぽかです。
 見通しもいいのでFlying Sheepがよく見えます。

●NPC
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 元精霊の旅人。皆さんの手伝いをしてくれます。
 特に指示・絡みがなければ黙々と梳かしているでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。大きなしーちゃん登場です。
 お仕事半分遊び半分に楽しんでください。もふもふしたりお昼寝もできるでしょう。まだ飛び立つ様子は見せませんから。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • Grooming Sheep完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年06月02日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
雨紅(p3p008287)
愛星

リプレイ

●ぶらっしんぐ
 ふわふわ、もこもこ。
 大きな大きなふわもこは、イレギュラーズが探す間も無くそこにいた。遠くにいれば小さく見えるが、近づけば近づくほど毛玉は大きくなっていく。
「壮観。此れは壮観ですね……」
 アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は大きく見えてきた羊のてっぺんを見上げる。そろそろ首が痛くなってきそうだ。なんとも大きなふわもこである。その隣では『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)がキラッキラに目を輝かせている。
「なんという大きさ! これが群れを作る様子は大迫力なのでしょうね!」
 より厳密に言えば通常はもう少し小柄な──現実味のある──羊たちが群れるのだが、この調子で行くとこのサイズの群れがあってもおかしくない。見たなら間違いなく大迫力である。もし目撃情報があれば速やかにローレットへ報告されたし。
「前に普通サイズの羊さんはブラッシングしたことあるけど、こんなに大きいと大変そうだなぁ」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は大きな羊を見上げながら以前のことを思い出す。あのサイズと比べたら……何倍ほどだろうか。当然あの時より体積も大きい。1人でとか言われなくてよかった。
「本当にね。来てくれて助かった」
 同じように見上げる『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は仄かに苦笑を浮かべる。ふわりと香る甘い匂いとこのふわもこに包まれたら、あっという間に夢の世界かもしれない。
「毛がこんがらがっちゃうなんて大変だけど、私達が全力でふわっふわのもこもこにしてあげるからね!!」
 任せて! と背負っていた──全員背負っている──ブラシを用意し始める『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)。大きなしーちゃんがいつか飛び立つためにも、そして自分たちも癒されるため、満足のいくふわもこに仕上げなければ。
「それでは手分け致しましょうか」
 『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)の言葉に皆が頷く。早くブラッシングしてあげなければ羊も居心地が悪いだろう。
「少々不躾ではありますが、これもしーちゃんさんのため。背中のうえに失礼いたしますね」
 アッシュが羊の顔を覗き込み、ぺこりと頭を下げる。すぴすぴと寝息を立てていた羊はぱちりとつぶらな目を開くと、アッシュに向かって「メェ」と鳴いて目を閉じた。何事も無かったかのような寝息と先ほどの鳴き声は『お好きにどうぞ』とでも言っていたのだろうか?
 その間にもある者は左へ、またある者は右へ。何枚かは中央に残って。
 さあ、ブラッシング開始である──と、その前に。
(今はこういう道具もあるのですね)
 翼を授けちゃうエナジードリンクで心はふわふわ、体もふわふわと飛んでいく雨紅。彼女──秘宝種に性別はないが、女性型であるためそう示す──は自力で飛んでいけるので良いが、残る2人は別である。
 ふわもこを掴んでどうにかよじ登ろうとするアッシュを見て動いたのはシャルレィス。運んであげるよ、と風の翼でアッシュを慎重に運んでいく。
「……なんということでしょうか。わたしは今、もふもふの上に立っています……」
 ふわもこの上から見る景色はなかなかに絶景だ。落ちないようにシャルレィスへぺこりとお辞儀すると、彼女は笑って下へ降りていった。その下では迅が焔へ手助けを申し出ている。
「僕の頭を踏み台にしても良いですよ」
「羊さんの毛は引っ張らなくて済むけど、頭は申し訳ないような……あ、そうだ!」
 焔が思い出したのは近くで子供が遊んでいた光景だ。自分の体を使って『跳び箱』なる体勢になっていたアレなら足場も安定するし、頭より痛くないだろう。
 迅へその体勢を教え、彼の背を踏み台に軽々と跳躍する焔。ふわもこの上に降り立つと笑顔で大きく手を振った。
 さて、改めてブラッシング開始である!

「可愛い、可愛いわ。とってもふわふわねえ」
「ふわふわのぴかぴかにしてあげましょうね」
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)と『やさしいしかさん』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)はふわもこ羊の毛に触れてにっこり。シャルルもよろしくね、と言われて青薔薇の少女は頷く。
 ラヴは毛先から丁寧に、ふわふわに。優しさを心がけて毛を梳いていく。
「絡まった毛がぎゅーって引っ張られるのは、何とも言えずいやだものね」
 あまりにも痛かったら目が覚めて泣いてしまうだろうか。それは嫌だわ、とラヴは思う。泣くより笑顔の方がずっと良い。
 その背後でポシェティケトはドーナツをむしゃむしゃむしゃ。サボっているわけではないの、これは腹ごしらえ。あら、このドーナツ美味しいわ。
「ふふ、今日の鹿は『簡易飛行』の鹿、よ。
 そのままじゃ届かないところも、しっかりふわふわにしましょうね」
 とんと地を蹴るとポシェティケトの体が浮く。クララシュシュルカが金の砂を巻きながら辺りを飛ぶ様は『私と一緒!』とでも言っているかのようで。
「ポシェティケトさん。一緒に飛んで、並んでグルーミングしましょうか」
「ああ、いいわねえ」
「お、それなら下は任せて」
 シャルルに頷いて飛ぶ2人。上から見るとこれはまた、くるくるのワシャワシャである。
「かゆいところ、ここかしら」
「絡まった毛は優しく、丁寧にね」
 微睡む羊を起こしてしまわないように。
 ふふと笑い合う2人の間をクララシュシュルカが跳ね回る。もふんと羊の毛に埋まる妖精にポシェティケトはぱちりと目を瞬かせた。
「クララ、しーちゃんと少し姿が似ているわね」
「本当。ふわふわね」
 クララシュシュルカがポシェティケトを見上げる。この妖精も元は羊と同じように、場所を点々と移動していく暮らしなのだろうか。
 それが自然なのならばかえしてあげるべきなのかもしれない。けれど。
「飛んでいってはいやよ、鹿のそばにいてちょうだいね」
 その言葉にクララはぴょんと跳ねて、ポシェティケトの頭の上へ。視線を上にやっても完全には見えないけれど、ほんの少しばかり金色が見える。その様子にラヴはくすりと笑った。
「もちろんよ、ですって」
「まあ、キュウ、聞こえたの?」
「なんとなくそう言っている気がしたの」
 ぴょんこぴょんことクララシュシュルカが跳ねる。2人はまた笑って、羊のブラッシングを再開させたのだった。

 そんなのほほんの反対側。
「よーし、やるぞー!」
 シャルレィスは格好良くブラシを構え、もっしゃもしゃの羊毛を見据える。本日の彼女に戦闘技術と呼べるものは皆無。あるのは気を落ち着けるための深呼吸、そして高めに高められた器用さ、そして目一杯のもふもふ愛である!
「……うん、驚いてばかりじゃ始まらないから頑張りましょうか」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はほわぁと呆けていた状態からやっと脱する。いやだって、羊の毛繕いすら初めてなのであるだというのに初毛繕いがまさか、こんなに大きな羊だなんて。
 けれど彼女自身が言った通り、驚いてばかりでは始まらない。始まらないということは終わらないのである。
 2体の式神を使役し、肩車の要領で高い場所のブラッシングもするイナリ。シャルレィスは下の方から愛情たっぷり込めて梳かしつつ、よりこんがらがった場所を捜索中だ。
「お、ありましたね」
 そんな中、迅は真っ先に羊毛の絡まった場所を発見。手を伸ばしてほぐそうとするが──。
「お、おぉ?」
 なんだこれは、と迅は目を瞬かせる。手ではちゃんとハグしているはずなのに毛がビクともしない、というか解けてくれない。試しにブラシを使うと思った通りの動きをするようだ。
 時に──Flying Sheepは不思議なほどの強固さを誇り、大の大人でも持ち上げられなければ特殊な鋏でないと毛刈りもできないと言う。
 恐るべし、しーちゃん。或いは恐るべし、特殊道具。
 とはいえ無理矢理に引っ張るのはよろしくない。例え羊が気にしなくとも迅が気になるのだ。
(グルーミングは出来るだけ気持ちよくなってほしいですからね!)
 痛気持ち良い、ならまだ良いが痛いのは良くない。こちらとて痛くしたいわけではないのだから。
「気持ち良いですか?」
 ブラシで少しずつほぐし、梳かしながら問うと「メェ」と小さく帰ってくる。迅への応えなのか、寝言なのかは定かではないが──少なくとも痛くはなさそうだ。
「あそこね」
 ブラシを両手で抱えたイナリは首が痛くなりそうなくらい見上げる。流石にあそこは届かないか、いや。
「あなたなら届くかしら? これを持って、あそこを梳くの」
 大きめな大人ほどの式神へブラシを渡し、指差しで指示するイナリ。式神がぐっと手を伸ばすとちょうど良い高さのようだ。
 式神2体とイナリ、対してブラシは1本。スピードは変わらないが、高さで適材適所である。
「ふふ、ここはすっかりふわふわだ」
 もふん、とブラッシングした場所へ頬をすり寄せるシャルレィス。陽だまりの匂いに口元が緩むが──まだまだ、しーちゃんの体は大きいのである。次いこ次! とシャルレィスは顔を上げた。

 左、右、最後は真ん中。
「よいしょよいしょっと、凄くもっしゃもしゃに絡まっちゃってるや」
 今綺麗にしてあげるからね、と焔はふわもこに乗りながらブラシで梳いていく。
(やっぱり羊さんふわふわで気持ちいなぁ、全部終わったらここでちょっとお昼寝とかしたいかも)
 ふわふわになった毛感触を手のひらで感じながら焔はくすり。でもお昼寝はもう少しあとだ。
 アッシュは絶景にしばし見とれていたが、やがてはっと手元のブラシへ視線を落とす。そうだ、仕事をしなくては。
 背中の絡まった毛を少しずつほどき、丁寧にブラシで整えるとふわんっと毛が膨らむ。そこへ麗らかな陽光差せば──嗚呼、其れはもはや魅惑か、魔性か。
 誘惑に負けてそこへぽすんと顔を埋めればぬくぬく、ぽかぽか。もう戻れる気がしない。
(とてもぽかぽかして来ました……ぐぅ)
 脱力してしまうアッシュ。おーい、お仕事は?
 一方の雨紅は人の髪と同じように毛先から梳いていた。この方法が羊毛にも通用するのか不明だが、同じ毛である。
 強く引っ張らないように、とブラシを動かしていた雨紅は複雑に絡まった場所を見ておやと手を止める。1人だとかなり時間がかかってしまいそうだ。視線を巡らせれば焔の姿が見えて、雨紅は彼女を呼んだ。
「はーいっ、どうしたの?」
「こちらがだいぶ複雑なのです。手伝って頂いてもよろしいですか?」
 雨紅の示したそこに焔は「わ、ほんとだ!」と目を丸くする。場所からして、羽の出る部分かもしれない。
「もちろん手伝うよ、一緒に頑張ろう!」
 やる気に燃える焔へ礼を告げる紅色の唇は、嬉しさを表すように笑みへ変わる。2人がせっせと毛を解き、梳いていると仲間たちの休憩にしようという言葉が聞こえて。
「……は、」
 その言葉にくぅくぅと眠ってしまっていたアッシュも、目を覚ましたのだった。


●ひとやすみ
 食事は無難なサンドイッチしかないけれど、と雨紅が取り出したのはシートやお手拭き。皆が少しでも快適に過ごせるようなアイテムをと揃えてきたのだ。
「ありがとう、使わせてもらうわね。私からはこれ」
 イナリが出した弁当には真っ白なおにぎりと、沢庵。米はイナリのギフトによって実った美味しい品種である。
「あ、一緒だ! 何の味?」
「あら。私のは梅干しよ」
 シンプルイズベストに梅干しオンリーのイナリに対し、焔はおかかやこんぶなど色々な味を揃えたらしい。どの味がいい? と振られたシャルルは白い米をまじまじと見た。その瞳はあちこちに巡らされ──そう、広がるお弁当を見て非常に迷っている。その隣では迅がおにぎりへキラキラと目を輝かせていた。
「おにぎり僕好きです! あ、僕は饅頭を持ってきていて──」
 食べるでしょうか、と視線が向いた先は羊。ちょうど良い匂いに目を開けたようである。
「でも羊さんって何を食べるんだろう、おにぎりあげても大丈夫かな?」
「私はサンドイッチだけれど……羊にパンはダメよね?」
 登山用カバンからいくつもお弁当箱を出したラヴ──残っても全て彼女が食べ尽くす予定だ──は羊を見上げ、専用にと持ってきた果物を出す。その横におにぎりを、そして饅頭を並べてみると──食べた。全部だ。
「あまり大したものを持ってきていないので、恐縮ですが。しーちゃんさんは、マシュマロも食べるでしょうか……」
 アッシュがカバンからあふれんばかりのマシュマロを取り出すとこれも食べる。恐るべし、羊。
「ふふ、しーちゃんもお腹ぺこぺこだったんだね! 私も色々食べていい? どれも美味しそう!」
 シャルレィスは皆のお弁当を頂いて、デザートにと花の砂糖漬けを出す。
「可愛い。ワタシもごしょうばんにあずかって、いただきます、だわ」
 シャルレィスのお花にぱちりと目を瞬かせたポシェティケトは目の前にドーナツと果物とジュースを並べて。ラヴがお弁当屋さんなら、彼女はデザート屋さんだろうか?
 楽しいひと時を過ごして、そろそろ休憩終了と一同は立ち上がり始める。アッシュも今度はしっかり仕事をするぞとやる気だ。睡魔の誘う手口はもう知れたも同然なのだから、同じ轍は踏まない。
 再び左右と中央に分かれてブラシで梳き、絡まった毛を丁寧に解いていくイレギュラーズたち。程なくしてそこにいたのは、ふわんふわんの毛を取り戻した巨大しーちゃんだった。

 ここまでくれば仕事完了、あとは好きなだけもふって撫でて癒されるのみ。
 アッシュは再び羊の上へお邪魔して、羊毛の上にころん。ふわりと白のふかふかに包まれて、太陽の匂いが鼻をくすぐっていく。
(もしも、雲の上の世界に行けたとしたら)
 雲の上はこんな心地なのだろうか。ふわふわで、ぽかぽかで。そうだったら良いなとアッシュは思う。そう思わずには──。
「……ぐう」
 ──いられないより先に、羊毛の誘惑が勝った。
「……高い! 視点が高い! そしてもふもふでふかふかですね!」
 仕事が終わってようやく登った迅は興奮した様子で景色を眺め、羊毛をモフる。柔らかな手触りはイレギュラーズたちが頑張った証拠だ。
 なでもふする焔の頭上を飛び、シャルレィスは羊毛へダイブ!
「しーちゃんの背中にダイブするのも何度目かな?」
 ふふ、と笑ってころんと寝返りを打つシャルレィス。どこもかしこもふわふわだ。このまま飛んで行かれないためにも、寝ないようにしなくては。
「あ、しーちゃんオルゴールって聞いた事ある?」
 ほふく前進するようにシャルレィスは羊の耳元へ。翡翠のオルゴールのネジを巻くと、黄金の牝鹿が踊るように回り始める。
「ほら、綺麗な音色でしょ? それにぽかぽかでふわふわで……ふわぁ……すぅ……」
 おや? 先ほどの決意は一体どこへ。けれど仕方ないね、ぽかぽかのふわふわだからね。
 ラヴに再び羊の背中へと誘われたポシェティケトは、揃ってぽふんと羊毛に着地する。ふわふわの羊毛と、穏やかな風と、お日様が2人を包み込む。
「ふわふわと暖かで、雲の上みたいだわ」
「ええ。お昼寝したら、きっと気持ちが良いわね」
 ころりと寝転がれば睡魔が揃って手招きしてくる。顔を見合わせた2人はくすくすと笑った。
「昼にこう告げるのは……そして、面と向かって告げるのは、初めてね?」
「ええ、ええ。はじめましてね、これは」
 それにお昼からだなんて、贅沢で素敵。それじゃあ──おやすみなさい。
 目を閉じるラヴとポシェティケト。少し離れたところでは雨紅も羊毛に包まれている。
(日向ぼっこは初体験なのですが、ぽかぽかしていい気持ちですね……)
 陽の光を浴びる雨紅の唇が笑みを浮かべる。仮面で目元は見えないが、その口元だけでも眠ってしまいそうなほど心地よいことは分かるだろう。食事も睡眠も不要な秘宝種であるが、この満足感や心地よさは嗜好する者がいるのも納得だ。
 だがしかし、雨紅は寝てしまう寸前に思い至る。他の仲間も同じ状況なのでは? と。今はぽかぽか陽気だが、もう少し日が陰ったら風邪を引いてしまうかもしれない。
(ブランケットを持ってきていたのでした)
 かけにいこう、と数枚のブランケットを腕に見回る雨紅。仲良く眠る者、すっかり羊毛に埋もれている者、それぞれにそっとかけてやる。
 皆の寝顔を見ていると、なんだか緩やかで心地良い──微笑ましい気持ちだ。雨紅はその眠りを妨げないよう、小さく小さく呟いた。
「……いい夢を」

 不意にふるり、と羊が揺れる。本人──本羊か──にとっては小さな身震いでも、乗っている当人たちにとってはなかなか大きな振動だ。眠っていた者も目覚め、どうしたのだろうかと降りて羊の顔を覗き込む。
 つぶらな目を瞬かせた羊がぎゅむーっと目をつぶると、上の方からぽん! とボトルの栓を抜いたような音が。釣られて視線をあげると、てっぺんの方に羽が生えている。
「また遊ぼうねー!」
「さようなら、しーちゃん殿! 良い旅を!」
 口元に手を添えて声を出す焔と、大きく手を振って見送る迅に。羊は今度こそ応えるように「メェ」と鳴いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ふわもこでしたね、イレギュラーズ。
 あのしーちゃんはどこへ行くのでしょうか。ふと見上げた雲が、実はしーちゃんかもしれません。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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