シナリオ詳細
403 Forbidden
オープニング
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『無能』と蔑まれる事に清水・湧汰は慣れ切っていた。肥大した自尊心に自身を天才と称する彼を遥かに凌ぐ技術力を有する者が多いことは彼自身も分かっている。だからこそ、『無能』と称されようとも彼は自身の目的の為に準備を続けていたのだ。
故郷『東京』は遠い――しかし、彼は『望郷の空』と名を付けたVR装置で『対象の心象風景や希望より実体化し、そして心を持つホログラム』生成を為す事まで至ったのだ。
――そして、その装置の実地試験にテスターとして参加したイレギュラーズ達は酷い『バグ』に見舞われたのだが……。
清水・湧汰は再度、自身の研究室にイレギュラーズを呼び寄せた。『死んだはずの双子の兄』が同行している事に不安を抱きながら――それを気にしている暇はないのだと息をついて。
「良く来たな。少し困ったことになった」
眉間に皺を寄せてそう吐き捨てた湧汰にロク (p3p005176)は尾を揺らして「お困りごとなの?」と首を傾ぐ。愛らしく微笑んだロクに湧汰はぎこちなく頷いた。
「以前、イレギュラーズに『望郷の空』のテストプレイヤーになってもらっただろう。
それ以降、システム改善の為に研究を重ねていたんだが……改修途中のデータを何者かに盗まれた」
「ええ!? 盗まれた!?」
素っ頓狂な声を上げた清水 洸汰 (p3p000845)に湧汰は苦々しく頷く。情報屋たるリュグナー (p3p000614)は「穏やかでないな」と唸った。
「盗人は練達の卓越したセキュリティ技術でも防げぬものでござるか」
豹藤 空牙 (p3p001368)の言葉にリュグナーは「セキュリティは内部犯の場合は『太刀打ち』できるものでもないだろう」とさらりと返す。
「な……まさか、犯人と思わしき人物についてお前たちも把握しているのか!?」
「いや? 鎌をかけただけだ」
そう返したリュグナーに「あまりいじめてやるなヨ」と赤羽・大地 (p3p004151)は肩を竦める。
「それデ? 誰が犯人だって言うんだヨ。目星はついてンダロ?」
「ああ――『テオドール・G・ノウリッジ』だ」
苦々しく、そして苛立ったように。眉間の皺を更に寄せた湧汰は吐き捨てた。
「テオドール様、でございますか?
……貴方は彼をよくご存じであるようにお見受けしますが」
夜乃 幻 (p3p000824)の問いかけに湧汰は頷いた。
テオドール・G・ノウリッジ――それは、黒狐の獣種の少年であるという。
人懐っこく可愛らしい彼は練達の老研究者たちに可愛がられながら頭角を現しつつある麒麟児であるそうだ。
しかし、彼には悪癖がある。その悪癖というのが『他社の研究を横取り』することだ。
中々成果の上がらない研究を勝手に掠め取っては完成させてしまう。非常に狡猾である彼のその悪癖は彼が無能とみなした研究者たちへと発揮されるらしい。
曰く、「無能が研究して中々完成しないとか『研究』が可哀想だよね?」という事だ。
「中々に『イイ性格』だな?」
ジェイク・太刀川 (p3p001103)の言葉に湧汰は大きく頷く。それはもう、同意という意味を超えた様子にも見えた。
「……貴殿とテオドール殿の因縁というのは――成程?
テオドールから見て貴殿は『無能』であるという認識から始まっているのか」
どこか悩まし気に、そして推理したように言ったベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)に湧汰の表情は曇る。唇を噛んだ彼は「そうだ」と呟いた。
「研究が中々進まないことを蔑み、そして『自己の才能に溺れて』そういうことをするという」
「するという――という事は、噂話に過ぎないってことか」
ジェイクのその言葉にも湧汰は言葉を濁らせた。テオドールのその悪癖はあくまで噂の範疇だ。幻はそれも幼い彼へのやっかみではないかと考えるが――湧汰を見るにあまり判別はつかない。
「その、テオドール様はこちらにはよくいらっしゃるのですか?」
「ああ! 馬鹿にしに!」
「……ふうん。仲良くしたらいいのにな。じゃあ、テオドール以外にここに来る奴は?」
「研究の助手を最近新しく付けた。
一人は元からVRの研究をしていたらしい。有能だ。しかし、研究が立ち行かず困っていたとも言っていたな。
もう一人は……まあ、暇をしているようだから拾った。良く、修行に出かけるのが難点だが。
まあ、それらだけだろう」
ふんと鼻を鳴らしテオドールを犯人と決めつけている様子の湧汰にイレギュラーズ達は違和感を感じる。
話を纏めよう。
湧汰の研究途中であるデータを何者かに盗まれた。
彼は犯人はテオドールという少年研究者であるという。噂の悪癖があるからだ。
彼の研究所には『最近新しく雇った助手二名』がやって来ているそうだ。
『無能』と揶揄される湧汰の研究室に助手としてくるなんてよっぽどのもの好きか――
「そういえば、その助手はどうしたの?」
ロクの言葉に湧汰は「今日は見ていないな」とだけ返した。
- 403 Forbidden完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月24日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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――データが盗まれた。
そう口にしたの清水・湧汰はイレギュラーズ達へと犯人確保を依頼した。無論、『前回』の研究に参加した者――特に、『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)からすればローレットが斡旋した仕事ではあるがテスターとして参加し自身の所感をきちんとデバックしている。つまりは、情報を与えていたのだ。湧汰へは『相応の対価』を支払われたうえで情報を渡しているが、『盗人』にはそうはしていない。つまりは情報屋の情報を持ち逃げした事となる。
「また湧汰さんからのお願い? これは助けにいかなくちゃね! ね、洸汰さん!」
尾をブンブンと振って『クソ犬』ロク(p3p005176)は何時もの様に明るい声音で『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)へとそう言った。
「そうだな! うん、そうだけど……」
「どうかした?」
何時もの明るい笑顔に僅かに陰りを見せた洸汰は湧汰には聞こえぬ様に小さく呟いた。
「ユータ、ピリピリしてんのはわかるけど……ちょーっとテオドールの事、疑いすぎじゃね?」
それは犯人という疑いを向けられている研究者テオドール・G・ノウリッジに対する湧汰の態度が気にかかったという事だった。秀才と言われかのマッドハッターとも交友があるとも噂される秀才の事を『自称天才』はコンプレックスを隠す所か寧ろ曝け出して彼の仕業だと声を大にする。
「他にもさ、疑わしいやつはいるしさ……」
悩まし気な仕草を見せた洸汰に続いてロクもこてんと首を傾げる。湧汰は「何をしてるんだ」と苛立ちを露にしたまま二人へとそう問いかけ――くす、と笑みを浮かべた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が助け舟を出す様に指折り数える。
「テオドール様、そして、まだ新米とも呼べるお二人の助手。
これがミステリー小説だというならば――何とも、読み手は喜ぶことでしょうね。
おやおや、誰もが怪しく、誰もが疑わしいということで御座いますね」
誌的に紡いだ幻に湧汰はふん、と鼻を鳴らす。
「データの盗難とはまタ、穏やかじゃない話だナ。
それだケ、練達界隈も成果争いでギスギスしてんのカ? 研究者も楽じゃねぇんだなァ」
『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)がからからと笑えば、その傍らでテオドールの情報を確認していた『忍豹』豹藤 空牙(p3p001368)はギコチナク視線を逸らした湧汰に首を捻る。
(口ぶりではテオドールを犯人だと確定付けているかのようで疑っているんでござるな……)
幻の言う通り、誰も彼もが妖しいのだ。良からぬ噂が立っている黒狐の秀才も、彼の許へと訪れたばかりという『最近姿を見ない助手二人』も――
「そのデータというのは情報媒体に入っているんだったな。
ハードディスクの保護か、失せ物を探すのは得意とは言えないが……此処に居る以上は俺の出来る限りで何とかしてみせるとも」
任せてくれ、と胸を張った『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は念のために情報媒体の形状や特徴を事細かに聞きたいと柔らかな笑みで湧汰へと語り掛ける。
「このような環境では研究は進まないでしょう。
……前の装置では酷い目に遭いましたが、だからといって湧汰様の夢が悪いものだとは思わないのです」
穏やかに微笑み、どこか気難しい表情をしている湧汰に自身は友好的に協力体制を築かんとしている事を告げる幻の視線が湧汰の背後へと向けられていく。
「僕は故郷である夢の世界に帰る気は御座いませんが、故郷に想いを馳せる気持ちも分かります。
人とは想っても想っても詮無いことを想うものなのを僕は最近知りましたから」
そこまで紡いだ唇は、きゅ、と引き結ばれた。湧汰の背後では今回の仕事についての説明を洸汰とロクより聞いている『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が立っていた。
「体の具合ハ?」
気遣う様に問いかける大地にジェイクはふい、と視線を逸らしたまま掌をひらりと振って寄越す。
「死兆のせい生きた心地はしねえな。で? ……今回は手癖の悪い坊やからブツを取り戻せばいいんだっけ?
殺し殺されるような仕事じゃねえから、気楽に行きたい所だが――」
その視線が、ちら、と幻に向けられる。『その感情』がどのような意味を持つのかを情報屋たるリュグナーは知らぬ訳もなく、ベネディクトも為すが儘に見守るだけだ。
「ジェイク様……どうしてここに……。僕のことが嫌いなのではないのですか……」
愛(みち)半ばに分かつことになった幻にとって、ジェイクは焦がれても届かぬ人だった。どうして、自分と共に仕事を請けるのかと唇を噛み締める幻へベネディクトは「夜乃、そろそろ行こう」と静かに声をかけた。
「嫌い――か、と『お姫様』は哀しんでいるようだが」
「……そうなるだろうな。嫌いなわけがないだろ」
今でもお前が一番だとは、口に出せない儘、気が重いとジェイクはリュグナーに小さくぼやいた。
●
湧汰の研究室へと向かいたいという申し出はリュグナーとジェイクが行った。その他――幻を始めとするメンバーは各自散り散りになって調査へと赴くこととなる。
研究室の扉は堅牢ではあるが、セキュリティカードを所有していれば出入りは自由だろう。湧汰は「待って居た」とジェイクとリュグナーを出迎え、其の儘、奥へと足を運んで行く。
「……成程、開閉はセキュリティカードを差し込むことでキーが開くのか」
「ああ。カードは俺と助手二人には渡している。あのテオドールは態々呼び鈴で呼び立てるが」
其処まで聞いてから、保存容器に分けてあった珈琲を注いだ湧汰は「何を聞きたい?」と二人へと問いかける。
「ああ、一先ずHDDの現状を再度確認したい。先ず、前提だが本当に盗まれたのかどうかだ。
どっかに置き忘れたとか? でかけた際に落としたとかはないんだな?」
「ない」
湧汰ならば『ない』と答えるとは思っていたとジェイクは小さく笑う。念のためだ、という言葉に湧汰は唸った。
「偉大なる発明には、自由な発想が必要だと聞いたことがある。ならば、何かを決めつけること無く視野を広げられる者こそが、優秀な研究者と言えよう」
リュグナーの言葉に『無能』なる研究者はぐ、と息を飲む。それを踏まえた上で確認したいことがあるとリュグナーは一つ一つ問いかけた。
「テオドールが悪癖だという”噂”が流れ始めたのはいつ頃か……そして誰からその噂を聞いた?」
「噂は随分前からある。どうせ下らないやっかみだと思っていたが――田中もスプリータも言うから真実味は増したな」
その言葉にリュグナーとジェイクが顔を見合わせる。助手の二人もそう口にしていたというのか。
「ならば、最後にテオドールがこの研究室に来たのはいつか」
「数日前だ。研究成果を確認しにきたと言っていたな。
……ならば、胡桃太郎がテオドールの助手だった時期と解雇された時期はいつか」
「田中か、詳しくは知らないが解雇は最近だと聞いているが……」
「スプリータとテオドールの仲はどう見えていた?」
「それほど良くはないだろうな。テオドールに言わせればスプリータも『無能』だ」
考えられるのは数パターンある。先ずはテオドール単独犯、次は主犯テオドールに協力者田中というパターン。
テオドールが関わらないというならば田中もしくはスプリータがテオドールのせいに仕立て上げたパターンや助手二名が共犯の場合。
「……良ければ研究室内を探しても構わないか? 助手二名も妖しいとなれば、痕跡があるかもしれない」
「……構わない」
立ち上がったジェイクは助手らが使っていたというテーブルをまじまじと見て、此処で働いていたというには綺麗な机にジェイクは首を傾いだ。
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にこやかに微笑みを浮かべて洸汰はテオドールの研究室を訪れていた。彼の研究室にはそれなりに来客があるのか応接スペースが設けられており、洸汰の来訪を拒否する様子もない。
「やっほー! お前がテオドール? オレはシミズコータ!
ユータの……友達? って感じ! 友達の友達同士、仲良くしようぜー!」
「ユータ……ああ、『無能』の――ボクはテオドール。どうぞ、よろしく」
微笑む洸汰に対して警戒を強める訳もなくテオドールは紅茶でも飲む? と応対してくる。その隙をついて気配を遮断しテオドールの研究室内に潜入する豹牙は静かに静かに息を潜めた。
(まずは潜入完了でござるな……)
テオドールの研究室は湧汰の物と比べれば潤沢な資金があるのか、施設として整っているようにも思える。一見して怪しげなものは存在していないようには見えるが――研究の途中であろうデータや不可思議なものはいくつも存在していた。
「金庫――でござるか……。
それにしても、本当にこれだけでござろうか? まだ、何かないでござるかな?」
そ、と覗き込めば洸汰とテオドールは談笑の途中だ。豹牙が湧汰から聞いていたデータ媒体は存在していないようにも思えるが――
「ユータって、いっつもツンケンしてるよなー。
今日も眉間のシワがすっげー深かったしー。アイツの所行って、怖くねーの?」
「何を怖がる必要があるのかな。だって、ボクより無能なんだ。知能はボクの方が上だからね」
愛らしい風貌をしているが湧汰の言う通り性格はあまりよくないようにも思える。洸汰はにこにこと微笑んだまま、「じゃあさー」と身を乗り出した。
「もしかして、ユータん家になんかすっげーのがあるとか!?」
「どちらかと言えば彼の研究に興味があるかな。VR装置を作成したと言っていたけれどね、ボクが手を加えた方がもっと良くなると思うんだ」
堂々とそう言った彼の目は真実、その通りだというかのようだ。洸汰はウワサの本来の部分が見えて気がして「あ、そっか」と呟いた。
「テオドールは見ればある程度はどういうものか分かるんだな。しかも、それを改良した物がほかの人より早くできちゃう。そっか――だから、データを盗んでるって言われるのか」
「それも無能が勝手に言ってるだけだろうからね」
気にはしていないという秀才に洸汰はそっかそっかと呟きながら「湧汰の所行こうぜ」と外へと誘いだした。
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ベネディクトと幻は田中という男の家へと向かった。最近姿が見られないという彼がどのように過ごしているかが気になったのだ。
田中の近所に住まうという男に彼の様子を問いかけれど「体調が悪そうだったかな」と肩を竦めるだけだ。
「田中は体調が悪かったそうだな……都合よくそうなるものか」
特異な物は持ち歩いては居なかったそうだが――ベネディクトも幻も思う所があるように顔を見合わせる。
「協力してくれればいいが……流石に無理を押し通す訳にも行かないだろう」
「ええ、そうですね。ですが、言葉とは案外都合よくなるものですよ。参りましょう」
ファミリアーをちら、と見遣った幻はそっと、目を伏せてから田中の家の呼び鈴を鳴らす。
恐る恐ると扉を開いた彼へと清水湧汰の使いだと告げれば恐る恐ると田中は二人を迎え入れた。
「な、なんでござるか……」
「湧汰様の許から研究データが紛失するという事件があり、調査をしているのです。
田中様は湧汰様の助手でしょう。……少し協力していただいてもよろしいですか?」
そう口にしたときに田中はギョッとしたような顔を見せる。透視を以て周囲を確認するベネディクトは幻の『口車』にうまく田中が乗せられることを願った。
「僕達は田中様を疑っているわけでは御座いません。
田中様に犯人であるノウリッジ様のお話を聞きたいだけなのです」
「あ、ああ、やっぱり……」
やっぱり、という言葉に幻とベネディクトは田中をまじまじと見遣る。蒼褪めていた彼の顔色は戻り、どこか余裕そうな笑みを浮かべている。この時点で、イレギュラーズは『テオドールを犯人』としているわけではない、寧ろそうした方が彼が口を割りやすいと考えたのだ。
「ノウリッジ様についてお聞かせいただいても? ……田中様は不当に解雇されたと聞いたのですが」
「ああ、ああ。そうでござる! 無能は助手に要らないと。無能無能と彼は拙を虐げるでござるが……、拙のどこが無能でござるか。清水の方が――」
其処まで紡いだあと、失言だと言うように田中が口を噤む。ベネディクトは家には不審なものはないと感じたが、それにしては『清水湧汰の助手が体調不良で休んでいる』という痕跡も見えないのだ。
「やはり、田中様から見ても湧汰様は無能でございますか?」
「……いや、気難しいが、彼はよい研究者だよ」
そうですか、と微笑んで、幻は「参考になりました」と立ち上がる。田中亭を後にした後、ベネディクトは「どう思った?」と問いかけた。
「クロ――ですね」
「ああ、同感だ。そして、共犯も居るな」
それは――
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「湧汰さんは無能じゃないと思うんだけどなァ……。
湧汰さんが無能なら練達のレベルってきっととってもすごいんだね! でも無能じゃないよ! すごいよ、あの望郷の空! とっても良かったよ! 楽しかったよ!」
明るく湧汰に告げていたロクが向かうはスプリータの許であった。
「テオドールさんもある面では行き詰まった研究を仕上げてしまえる、すごい人だと思うよ! せ、性格がアレなだけで……」
「ハハ、確かにナ」
大地はそう笑い――『きっと性格に難がある』と認識しているであろう湧汰のもう一人の助手スプリータの許へと足を運んだ。
「こんにちは! こんにちは! スプリータさん! 湧汰さんからのお届け物だよ!」
「……あら、師匠からの? 有難う」
にんまりと微笑んだスプリータはかたくなに家に居れようとはしない。大地はその様子に訝し気な顔をしながら「お邪魔しても?」と問いかけた。
「あら、レディの言えよ」
「ハハ、それもそうダ。それにしても、俺も一度、彼の実験に付き合った事はあるけれど……あんなに気難しい雰囲気の彼が、助手を入れるとは思わなかったよ」
そのまま玄関先で井戸端会議をするようにロクが尾を振り大地がスプリータへと笑いかける。霊魂を操作して室内の操作を行う大地にスプリータは「まあ、必要だったんでしょ」とふいと視線を逸らせる。
「テオドールに対抗したかったんじゃない?」
「ナルホド。数多くいる研究者の中デ、何故清水湧汰に師事すル?
同じVR技術の研究者でモ、『有能』なヤツは幾らでも居るだろう二。それこソ、ちょくちょく来る『テオドール』とやラ、とかナ」
そう告げられたスプリータがむ、としたような顔をした。ロクは「VRっていっぱい経験あるよ!」と嬉しそうに笑みを浮かべる。教えて欲しいなと尾を揺らす彼女はその花を生かして湧汰の匂いを探し――何となく、違和感を感じて首を傾げる。
「最近ここにテオドールさんか湧汰さんのもう1人の助手さんがきた?」
「え? ええーーまあ」
誤魔化すような様子に、ロクは「ふうん」と小さく呟いた。
湧汰の研究所へと戻ることなくスプリータの家へとイレギュラーズは集結した。湧汰を連れてきたジェイクとリュグナーから視線を落とした幻はベネディクトと共に田中を連れている。
「で、面白いことがあるの?」
そう問いかけるテオドールに「まあ、見ててくれよ」と洸汰は笑って見せた。
「どうして私の家に集まるのかしら」
「ねえ、スプリータさんのおうちからどうして湧汰さんの匂いがするの? でも、それより田中さんの匂いの方がすごいする!」
首をこて、と傾げたロクにスプリータの表情が蒼褪め――田中はベネディクトと幻へと「騙したな」と叫んだ。
「騙して等居りませんよ。確かにあの時点では疑っていたのは皆様全員ですから」
幻の微笑に洸汰は「どういうことか教えてくれー」と瞬く。
「簡単な話だ。テオドールは『気になる研究を確認しに行って、自分でも同じ研究を行う』。データを盗む必要などないのだ。何せ、こいつは秀才だ」
「当り前。無能のデータを盗むより自分で研究した方が早いでしょ」
ぷい、とそっぽを向いたテオドールに空牙は「妖しい事はなかったでござる」と仲間たちへと向き直る。
「普通の研究者でござろう。どちらかと言えば妖しいのは助手の女史――でござるかな」
「な、何でよ!」
「何でよって……ああ、そうだな。VR研究は湧汰の研究とジャンルが合致している。
データを盗み自身の手柄としたかったのはお前と……『無能』として職に困った田中ではないか?」
リュグナーの言葉に田中とスプリータが、ぐ、と息を飲む。武器を構える空牙に大事はやられやれと肩を竦め「どうすル?」と仲間を見やる。
「我々としては、物が帰って来てさえくれば荒事はする気もないよ。最初からそういう話も聞いていないからね」
武器を構えながらもあくまで『友好的』に見せかけるベネディクトへと二人は自白した。
――『無能』の清水湧汰よりも自身らの方が早く研究を進められる。
テオドールの許をクビになった事もあり、スプリータに協力した方が金の入りがいい。
そして『悪評ある』テオドールに罪をかぶせた、というそうだ――
「……疑われるなんて心外だな」
そう呟いたテオドールはイレギュラーズを振り返り「今度はボクの研究を見においで。無能よりも楽しい実験を経験させてあげるから」と悪戯めいて笑った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
テオドール「まあ、無能なりに頑張ったんじゃない?」
お疲れ様でしたイレギュラーズ。湧汰曰くは性格が最悪な黒狐だそうですが、
彼自身も話してみると案外面白……面白い、かもしれませんね。
GMコメント
リクエストありがとうございます。
●成功条件
湧汰の研究データの入ったハードディスクの保護
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●清水湧汰
『無能』と揶揄される旅人研究者。故郷『東京』への帰還を夢見ています。
彼自身は天才ではありますが、最も現代日本からの研究者であるために他の異世界と比べれば『凡人』レベルです。
彼自身、そして、清水 洸汰さんも知りませんが実の兄弟です。湧汰は何となく勘づいてはいるようですが、兄は死んだはず……。
テオドールには酷いコンプレックスがあります。イレギュラーズには協力するようです。
●テオドール・G・ノウリッジ
年齢不詳の獣種の少年。愛らしく可愛らしい雰囲気です。
彼のギフト『As sly as a fox』では幼いや愛らしいと感じた相手に庇護欲を掻き立てさせます。秀才です。その頭脳はお墨付き。
悪癖として『無能』から研究をかすめ取り驚異的スピードで完成させ自身の成果にするという所があるそうです。が、あくまで噂で真意は分かりません。
湧汰を無能だと認識しています。
●湧汰の助手
・スプリータ
旅人の研究者。春を思わせる可愛らしい少女の外見をしています。
以前はVRの研究者であったそうです。また、湧汰のことは「お師さま」と呼んでいます。
テオドールとも知己。テオドールは無能を師匠と慕うなんてと馬鹿にしていました。
最近姿を見ないようですが……。
・田中 胡桃太郎
旅人の研究者。異様に和風な雰囲気を感じさせる武者っぽい男です。
元はテオドールの許で助手として働いていましたが無能認定されて解雇されました。
最近姿を見ていないようですが……。
●現場状況
湧汰の研究室は彼と同行していれば出入り可能です。
通常出入りするのは湧汰、助手二名と彼を馬鹿にするためにわざわざ来客として訪れるテオドールです。
助手二名はそれぞれ、自身の家が練達内にあるそうです。
テオドールは自身の研究室にいるようですが……。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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