シナリオ詳細
<鎖海に刻むヒストリア>ムーン・グレイに染まる
オープニング
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「皆さん、打って出る時が来ました」
ブラウ(p3n000090)がカウンターの上に立って重々しく告げる。……そのひよこ姿では格好も何もあったものではないが。
絶望の海攻略。その途中で橋頭堡となるアクエリア島を制圧したイレギュラーズたちは、その後も快進撃を続けていた。後半の海はこれまで以上に過酷なものだったが、廃滅病(アルバニア・シンドローム)にかかった仲間を救うためと思えば士気も高まる。アルバニアは自らの身を隠したまま敵戦力を削ぐつもりだったのだろうが、イレギュラーズは予想以上の進撃を見せたということだ。
そこには勿論モスカの一族が行った延命や、女王たちが振る舞ったアップルパイの力もある。そして今もまた、イレギュラーズをバックアップするため女王イザベラとソルベは一計を案じたのだ。
それ即ち、鉄帝を味方に引き入れること。第三次グレイス・ヌレ海戦では厄介な相手であったが、その戦力は味方になれば心強い。
そう──2国とイレギュラーズの連合軍ならば、アルバニアを引きずり出し戦うことも夢ではないのだ。
「アルバニアを引きずり出すためには、彼をとことん焦らせ皆さんを止める……止めざるを得ない状況を作り出さなければいけません。
つまりいっせいに出撃、絶望の青にはびこる障害を『いちもうだじん』! というところでしょうか」
すべきことはこれまでとあまり変わらない、と言えば変わらないのだろう。迫りくる障害を退け、新世界(ネオ・フロンティア)を目指す。しかし今回はそこに強大なる敵・アルバニアが登場するであろうと考えられる。
「姿を見せてもらうためにも、皆さんにはもうひと踏ん張りしてもらいます。僕からの依頼は『変異種討伐』です」
ブラウがカウンターに広げていた羊皮紙をテシテシと足で示す。そこには変異種に関するデータが細かに記されていた。
変異種とは、元をたどれば『廃滅病におかされた人』である。絶望の青を彷徨う怨念──これを棺牢(コフィン・ゲージ)と呼ぶ──に憑依された結果、末路と言って良いだろう。彼らは徐々に知性を失い、比例するように姿も人ならざるモノへ変貌する。その力は狂王種に匹敵するともそれ以上とも言われていた。
「皆さんには特別な加護があるため、怨念に憑りつかれることはないでしょう。けれど、他の……海洋の軍人さんとかは別です」
実際に例が出ているのだと告げるブラウ。先日の変異種討伐戦でも新たに憑依された者がおり、討伐を中断して憑依者を海に置き去りにしてきたのだと。
今回の依頼は先日討伐し損ねた変異種、そして怪物になりかけている憑依者の討伐だった。
「帰還したその日こそお通夜モードでしたが、海洋の軍人さんはへこたれていませんよ。『あの人を倒して一緒に連れて行くんだ!』って息巻いてます」
実際に行くことができぬのならば、その心を連れていく。
実際に見ることができぬのならば、自分たちが目の代わりになる。
実際に感じることができぬのならば、自分たちが後に伝えよう。
海と共に生きる民の心は折れていない。喪う者と共に前へ進むのだ。イレギュラーズがその心に応えないわけにはいかないだろう。
「先日交戦した変異種メアはかなりダメージを受けています。戦ってくれた皆さんのおかげで戦法も分かっているので、適切な動きであれば倒せるでしょう。問題はもう1人……この前憑依されてしまった人です」
ブラウが別の羊皮紙をこれまたテシテシと踏む。見ろと言うことらしい。
そこには憑依者の一部が歪な形になっていたこと、そして彼が元々はカニの海種であったことが記載されている。目撃者の情報から、歪に変形していたのは甲羅や外殻の類だろうということだ。
「彼の憑依がどれだけ進行しているか、どのような姿になっているかは未知数です。けれど他の海域で目撃情報がないので、まだあそこにいるのだと思います」
ブラウはイレギュラーズを見渡した。彼らがコフィン・ゲージに囚われることはないけれど、もしものことを考えたら──胸が詰まりそうで。それでもそんな可能性が有り得たとしたら、ブラウは情報屋としてイレギュラーズに討伐をさせることになるのだろう。
この先へ連れていくのだと息巻く海洋軍の想いは、如何ほどか。
「お願いします。彼を、……倒してあげて下さい!」
●
ざざ、と波が起こる。近づく濃霧にイレギュラーズは、そして海洋軍たちは緊張感を高めた。
──ここまで来たんだ。あともう少しってやつだろう?
憑依されてしまったあの男は、この濃霧の中でそう告げていた。廃滅病を恐れず、人の良さそうな笑みを滲ませて。
「……頼む、イレギュラーズ」
不意の言葉に一同は視線を向ける。そこには1人の軍人が立っていた。そこまで若くなさそうな男は「ブルーノは同期だったんだ」と告げる。彼の人柄も、エピソードも語らず、ただそれだけ。
「俺たちだけじゃあいつを連れていけない。アンタたちに頼りきりだが……俺たちはあいつを取り残して進めないんだ」
だからあいつを──。
言いかけた言葉が途切れる。大きく船が揺れ、船員は船のどこかに捕まって衝撃をやり過ごした。
「来たか!」
船のヘリに巨大なカニの足が引っかかる。揺れの原因はこいつらしい。同時に前方の波が割れて巨大なタコが飛び出してくる。
『ゴロゼ』
『イグナ』
『タスケデ』
変異種メアの表面に浮かんだ無数の人面が好き勝手に喋る。その間にも甲板へ上がってきた巨大なカニを見て、軍人は小さく呟いた。
「ブルーノ」
言葉が届いたのか。カニの体が震え、どこからか意味のない言葉を紡ぐ。柔らかい筈の腹を見せたカニは──ぶよぶよと膨らんだそこから数えきれないほどの瞳で一同を凝視した。
ぎょろ、ぎょろぎょろ、ぎょろり。
自由勝手に動くそれは見ているだけでも気持ち悪くなりそうだ。視線を逸らせばカニの足も通常と異なることに気づくだろう。
これが変異種。廃滅病患者の成れの果て。
倒さなければ、殺さなければ──救われない。
- <鎖海に刻むヒストリア>ムーン・グレイに染まるLv:13以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年05月23日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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変異種との再開を遂げる、少し前。
『君に幸あれ』アイラ(p3p006523)が張った保護結界の元、船は真っすぐに海上を進んでいた。波から上がる水しぶきは途端に真白な瑞雪と変わり、これからの行く先を祝福するよう。
(これが魔術師のボクに出来る景気づけですから)
どうか、この船のヒトたちに良き未来が訪れんことを。
けれども現実はそう上手く事が運ぶようにできていない。廃滅病発症者が棺牢(コフィン・ゲージ)に囚われれば、遅かれ早かれ目の前のブルーノのようになるのだ。
それを止めるすべは現状見つかっていないと『二代野心』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は軍人たちへ告げた。
「この場で廃滅病に疾患している奴にも例外はない」
必要なのは、覚悟だ。この海へ再び、或いは三度と乗り出した彼らに覚悟がないとは思わないが、改めて肝に銘じさせんとエイヴァンは言葉にする。
仲間に見境なく人を襲わせることを良しとしないのならば、その前に終わらせてやること。その覚悟を持てぬのならば代わりに死の鎌を振るうのはイレギュラーズとなる。
「廃滅病の皆さんにはこれを付けてほしいっす」
『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)は持ってきた赤いバンダナを広げる。どれだけの廃滅病患者がいるかわからなかったため、用意したのは出来る限り人数分だ。
「どこでもいいのか?」
「はいっす。首でも腕でも頭でも、一目でわかるなら大丈夫っすよ」
数人が取りに来て思い思いの場所に括りつける。これで廃滅病患者と健常者の区別は良いだろう。
「まずは囚われないように気を強く持ち、生き残ることを考えればいい」
「そうだ。お前達ももしかしたらああなるかもしれない可能性はある。だからって弱気になるな! 弱気に駆られればそれで死ぬと思え!
前を向いて戦って、あいつを倒す事が最善の供養だ!」
エイヴァンと『希望の死神』天之空・ミーナ(p3p005003)の言葉に応える一同。士気高揚のポーションが僅かなりともその力を増幅させただろうが、そのきっかけは他でもないミーナ自身の言葉だ。
ある者が前方に霧を確認し、その情報と共に緊張感が増す。
霧と共に向かってくるのはかつてヒトであった成れの果て。地平線など濃霧の中においては見えないけれど、目指すはただ1つとアイラは2体を見据えた。
「雪辱を晴らし、空と海の青の向こうの遥か先へ──いざ!」
『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)は肉薄してメアへ手をかざす。彼女の身の内にある因果を歪める力はメアを標的とした。
(俺だけで倒すなんて無理な話だ。なら仲間を信頼して託せば良い)
元より『8人の優れたイレギュラーズがいなければならない』と集められているのだ、1人でどうこうしようなどと思っても土台無理なことである。
同じくメアへと反撃の構えを取る『二律背反』カナメ(p3p007960)はメアとブルーノの姿をまじまじと見る。
(何あれ……タコとカニの変異種、だよね!?)
タコのようで、タコでない。カニのようで、カニでない。ヒトからかけ離れた姿であるのは一目瞭然だ。
けれど。
「……だってカナはなーんにも事情知らないんだもん♪」
あれは敵だ。かつては味方だったのかもしれないが、そんなことカナメにとって知った事ではない。敵が来たから倒す。当然の理屈で、カナメにとってはそれで十分。
計算された連続攻撃がメアを襲う中、その足が振り上げられる。一直線に振り下ろされたそれを受け流しつつもカナメは小さな悲鳴をあげた。……その顔に満面の喜色を浮かべて。
しかし早々に倒れてしまっては依頼成功の可否に関わる。ゼファー(p3p007625)は飛び出すとメアの狙いを自身へと引き付けた。
(なんて不毛な風景でしょうね)
老いも若きも、猛きも弱きも。この場所では等しく絶望に濡れ、朽ち果てていくしかない。その果てが、これだ。
一方のエイヴァンはブルーノであった変異種へ斧を振り下ろす。その衝撃と氷の弾丸は流氷押し寄せる大波の如くブルーノを包み込んだ。
「ブルーノ。もう自らの船を忘れたか」
ぎょろぎょろと落ち着かなさげに動く目玉をひたと見据えながら告げるエイヴァン。もしも彼の理性が残っているのなら、ほんの少しでも動きが鈍らないかと一縷の望みをかけて。
海洋軍たちもミーナが予め指示していた通りに動きながら声をかける。他船からは砲撃による遠距離で。同じ船に乗る者は状況によって砲撃か自らの武器で戦い、また治療班と呼ばれる数人の回復手も味方の傷を癒しにかかった。
(1度は逃した、魔に堕ちた同僚……か)
ぐっと武器を握るミーナ。変異してしまった彼らの為にもここで仕留めなければならないだろう。そしてそのためならばミーナはその手を、力を貸すことに否やはない。
「先にメアだ。行くぞ!」
ミーナは死神の片手鎌をひと振りし、メアの元へ闇の領域を一時的であるが作り出す。暗く冷たく、何とも嫌な予感を覚えさえるそれは紛れもなくメア自身の闇を抽出し、顕現させたもの。
『イヤダ』
『クライ』
『キライ』
『ドウジデ』
メアの表皮に浮かんだ顔が苦痛を漏らす。それを聞き、目にするミーナの瞳は氷のように冷ややかだ。
「恐れ、慄け──そして、食われろ」
顕現時間を経て闇が消失する。明るくなったメアの視界にはいつかも相対した少女、アイラがラピスラズリの剣を携えて映っていた。周囲を燐葉色の蝶が気まぐれに舞い、アイラの髪先に止まってはまた羽ばたき鱗粉を散らせる。
「もう一度勝負をしましょうか、メア!」
今度は負けたくない。いいや負けられない。イレギュラーズの、仲間の命がかかっている!
瑠璃色の衣の下、護符の壊れる音がアイラの戦闘開始を告げた。宝石剣を振るうと、その斬撃に魔力の蝶たちが纏わりついて勢いよくメアへ飛んでいく。その直後通り抜けていったのは圧倒的破壊魔術だ。
「立ち塞がるものは、砕き、沈める」
それで良いと『深海の金魚』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は呟く。深い青の瞳には痺れを訴えるメアの姿がある。嫉妬の妄執により病へ侵され、同じ被害者の亡念により元の姿と理性すらも奪い去られた、変異種の姿が。
(哀れだ、とは、言わない。絶望の青へ挑むという意味を、我々よりずっと理解した上で、海の戦士達はここに来ている)
ここで哀れなどと言われることを、彼らは望まないだろう。
メアは咆哮を上げ、その足でイレギュラーズを狙い振り落ろす。その激しさはまさに『手負いの獣』だ。
「何としても気張って下さいっす!」
「今から回復を施す! 必要な者は私の近くに集まれ!」
ジルのブレイクフィアーが仲間の恐怖を打ち払い、またミーナの発した言霊が皆を守るベールとなる。大して隙の大きくなったメアには利一の歪業が撃ち込まれ、その様子にすかさずミーナが叫んだ。
「攻撃を中止だ!」
ダメ元の声に友軍が刃を引き、ゼファーやカナメもここは出番ではないと自らを律する。メアの攻撃を受け流すゼファーが視線を向けると、エクスマリアの瞳がきらりと光った──気がした。
「足の付け根に傷がある、そこを!」
利一が目視で確認した情報をもとに、再び破壊的魔術が近距離で放たれる。次いでアタッカーであるアイラの蝶が果敢にメアへ飛び立っていき、カナメは──無意識に刀を2度振るっていた。その表情に先ほどまでの明るいそれは、無い。
対ブルーノのエイヴァンは断続的に自らの力を高め、その斧を雷撃と共に敵へ叩きつけていた。その身を以て判明したのは出血が止まりにくいことか。
「防御はそうでもなさそうだが、中々……っ」
多数の足がエイヴァンただ1人をめがけて襲い掛かってくる。それをいなすだけの技量を持ちえども、単独での押さえはいつか限界が来るだろうと確信めいたモノがエイヴァンの中に宿った。
「──来たっす! 棺牢(コフィン・ゲージ)っす!」
不意にジルの声が響き戦場がより厳しい緊張感に曝される。どこからともなくやってきたのは怨嗟のような呻き声。そしてわずかに歪む空間が『そこにいる』と感じさせる。
「下がって!」
カナメが咄嗟に赤バンダナの海洋人と棺牢の間に入る。これが絶望の青を彷徨い、ヒトを変異種へ変える亡霊か。
ジルが、そしてエクスマリアが放った激しく瞬く光が棺牢を焼く。ダメージは受けているのだろうが棺牢は今なおそこに存在し、その注意はイレギュラーズの後方へ──廃滅病患者へ向いているようだった。そちらへ早く行かんと棺牢はジルやカナメに攻撃を仕掛ける。
(ダメっす……こんなところで命を腐らせはさせないっす。もうこんなことは繰り返させないっす!)
メアが苦しんでいる。ブルーノはもう戻れない。これ以上の犠牲なんて必要ない。
そのためにも──こんなところで、倒れてたまるか!
「さっさと壊れて欲しいっす!」
放ったネメシスの光が棺牢を包み込む。ミーナが2人や傷を負った海洋兵を癒そうとすると、カナメがはっとそちらを向いた。
「回復は後回しでいいよ! カナはこういう痛いのは慣……好きだから☆」
本音と建て前が逆である。最もミーナの響かせる天使の福音はまとめての治療であり、結局は傷を癒すことになるのだが──さておいて。
拭えぬ忠誠心で以てブルーノを引き付けるエイヴァンの元へ、メアを倒した仲間たちが向かってくる。利一が歪業を撃ち込むとカナメは敵の動きを見ながら連続攻撃を仕掛けた。
「そこまで、硬くは、ない、のか」
「ああ。あの足が問題だがな」
エクスマリアへ頷いたエイヴァンはその攻撃に耐え、横合いからミーナが火焔の大扇で薙ぎ払う。後に続くのは海洋軍たちだ。
「ブルーノさん! ボクを忘れたなんて言わせませんから!」
アイラの言葉に複数の目玉がぎょろりと彼女を向く。自らの周囲に蝶が舞い散ったかと思うと瞬時に爆発し、その爆風をブルーノはもろにくらった。ミーナとアイラの攻撃により、ちりちりと焦げ付くような匂いが辺りへ漂い始める。
(傷つけることに、躊躇わないわけじゃない)
けれどそれ以上に守りたいものがある。護らねばならないものがある。海洋の皆を、仲間を、──愛する人を。
「ボクの刃は護るためにあります。ブルーノさん、あなたのことも」
殺して解き放たなければ救われない化け物。その魂と心を救い、この先へ連れて行くためにアイラは刃を振るうのだ。
「撃ち抜き、壊す。その甲羅が見た目ほどでないなら、好都合、だ」
エクスマリアの魔光閃熱波が放たれ、ブルーノが威嚇するように泡を吐く。アイラやジルがエイヴァンの傷を癒す中、ブルーノがその危険な脚を振り上げた。
まず咄嗟に動いたのはカナメだ。素早く1撃をブルーノへ入れ、わざとらしくにんまり笑ってみせる。
──こんな攻撃も避けられないの~?
そう言わんばかりの表情にブルーノが刺激される。まさかこのような展開になるとは思っていなかったが、万が一の展開でもあった。
ゼファーが師より教わった技で以て1本の足を切り捨てる。アイラの蝶たちが、ミーナの操る闇の領域が、エクスマリアの放つ破壊的魔術がブルーノを苛み傷つけていた。
ぎょろ、ぎょろぎょろぎょろ、ぎょろ。
ブルーノの腹部にある無数の瞳はせわしなくあちこちを向く。カニの体は相変わらずどっしりと構えているが、腹部の瞳は表情もないというのに感情が分かりやすい。
焦っているのだ。
「畳みかける、ぞ」
エクスマリアの言葉に皆が頷く。ミーナの号令で活力を取り戻したジルは仲間の危機を打ち払い、ブルーノを見据えた。
もう彼以上の犠牲を出させなどしない。倒れる者も、逝く者も、この絶望の青を踏破することで終止符を打つのだ。そして志半ばで倒れたその命は正しい形で巡らせなければならない。
カナメの刀が斬りつけ、呪いを流し込む。次いでミーナの大扇がその火をまき散らし、ブルーノを苛んだ。暴れまわるブルーノはより一層眼球をせわしなく動かす。
「終わりにしましょうか」
ゼファーの瞳が真っすぐブルーノを射抜き、その槍がブルーノの目を1つ潰す。追随してアイラは視界を覆いつくすほどの蝶をブルーノへけしかけた。
(ボクが決着を付けなくてもいいと思っていたけれど、付けられるのならば、ボクが!)
私怨に囚われてしまえば負ける。けれども強き想いで制さなければならないのも確か。
燐葉色の蝶たちがブルーノを包み込み、天へ昇っていく。消えていく残滓はキラキラと輝いて──元いた場所を見れば、腹部の瞳をすべて閉じたブルーノが動きを止めていた。
アイラは再び視線を空へ向ける。晴れ始めた濃霧の、その先を。
「──信じてください。必ず連れて行きます」
●
濃霧が晴れていく。イレギュラーズと海洋軍が目にしたのは、眩しいほどの蒼い空だった。そこだけ見れば、まるでつい先ほどまでの厳しい戦いが嘘だったかのようで。
けれど視線を落とせばその名残が──ブルーノの遺体がある。彼らをそのままにしておくことはできない。何かしらの方法で弔わなければならないだろう。
この船において、命を落とした者はその海に体を沈めるのだという。ここから何かしらの疫病を持ち帰ってしまわないように。そして今後海上を進む船を見守ってくれるように、と。
2体、いいや2人の体を海へ沈め、一同は黙祷を捧げる。ゼファーはそっと顔を上げ、水平線を見つめた。
(絶望の水平線、其の向こう側。私たちが、貴方たちの心を連れて行くわ)
肉体はここで眠り、ゆっくりと朽ち果て自然へ還っていく。けれどもその魂と心は肉体に囚われるものではない。
誰1人の命が無駄だったなどと、詠わせない。
此の絶望を照らし、晴らしたのは彼らだったのだと、謳うのだ。
「だから安心して──おやすみ」
清涼な風がゼファーの頬を撫でる。次いで顔を上げた一同は様々な表情を浮かべながらも、アクエリア島へ帰還するための準備を始めた。
「イレギュラーズ。……ありがとう」
そう告げたのは1人の軍人。ブルーノを同期だと言っていた男だ。エクスマリアはその言葉につと視線を落とす。
もしも、ほぼ有り得ないだろう話。冠位アルバニアを早々に倒せていれば、彼らが変異することはなかっただろう。アルバニアを──イレギュラーズが倒していれば。
そんな思いが彼や他の軍人にあってもおかしくはない。変異してしまった以上倒す他なかったが、もっと早く何とかできなかったのかと。
もどかしさを感じているのはイレギュラーズも一緒だ。
「謝罪はしない。だが、冠位は、落とす」
全ての元凶たる魔種をここで止める。
それがイレギュラーズたちに──イレギュラーズたちにしかできないことだから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
そして──おやすみなさい。メア、ブルーノ。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●重要な備考
<鎖海に刻むヒストリア>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
また、前作は以下となりますが読むことを強制するものではありません。
当シナリオだけで参加できるようになっています。
(前作『<Breaking Blue>ウィステリア・ミストの夢』:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3078)
●成功条件
変異種『メア』及び変異種『ブルーノ』の討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●エネミー
・変異種『メア』
巨大なタコです。表面に無数の人面が浮かんでいます。人面含め知能は低いと見られます。
特に複数回行動、素早さに長けています。基本的には船から至近距離で届く近さにいます。
叩きつけ:物超貫:長い足で叩きつけます。【痺れ】
薙ぎ払い:物近扇:横に薙ぎ払います。
咆哮:何かやばい感じです。【狂気】【ブレイク】
・変異種『ブルーノ』
巨大なカニです。その足は12本と多く、腹には無数に人の目が付いています。戦闘時は甲板へ上がってきています。
もとは海洋軍人ですが、その面影はほとんどありません。知性もだいぶ低くなっていると思われます。
こちらも複数回行動に長けていると見られ、足先の鋭利さからも非常に攻撃的な敵であると予想して下さい。
BSの可能性も十分に考慮してください。
●フィールド
甲板は十分に戦える広さがあります。
前回同様に濃霧が発生しており、中距離以上(中距離を含みます)のレンジではマイナス補正で判定されます。
●友軍
・連合軍艦隊(海洋軍船×2)
海洋・鉄帝・イレギュラーズで構成された連合軍ですが、憑依された男のこともあり海洋軍が友軍として出ています。彼らは砲撃で応戦してくれる他、剣や銃を所持しています。大きなダメージとはなりませんが、なければそれはそれで困るでしょう。
イレギュラーズの乗っていない船には廃滅病患者はいませんが、イレギュラーズの乗っている船には数名の申告があります。
指示があればイレギュラーズに従います。特になければメアへ砲撃します。
●ご挨拶
愁です。リベンジ戦です。再戦したい方もいらっしゃると思い、前作を早期返却しました。
勿論「今回が初めてだよ!」という方もお気軽にご参加下さいませ。
倒し損ねたメアと、憑依されてしまったブルーノを倒してあげてください。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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