シナリオ詳細
究極の辛味オイル
オープニング
●辛い匂いがぷんぷんしやがるぜ!
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)は同じ反応を100万回くらいされている。だから、親子連れを視界に映した瞬間、ヴァレーリヤは彼らのやり取りを完璧に予想してみせたのだ。
「!!」
少年はヴァレーリヤと擦れ違った途端、ぴたりと止まり、興奮気味に飛び跳ねた。ヴァレーリヤから唐辛子にニンニク、ふわりとごま油が香る。
「ねぇ、お母さん!! あのお姉さん、辛味オイルの人だよねっ!!! 僕、サインが欲しい!! 良いでしょ!? 辛味オイルってハンカチに書いてもらいたいの!」
その瞬間、少年はヴァレーリヤにサインを求める。
「おねーさん!! サインくださいな! あ、おねーさんの名前は要らないよ、辛味オイルって書いてほしいの!」
「……」
少年の目はきらきらと輝いている。辛味オイルが何故か最近、流行りだしたのだ。そう、何故か!!!(切れ気味)
「まったく、仕方がありませんわーー!! サインの一つや二つ、ましてや、100万回であろうと書いて差し上げますわ! しゃあああっ!」
ヴァレーリヤはふんと鼻を鳴らし、慣れた手つきでさらさらとサインをする。
「わわわ、嬉しい……」
少年はどきどきしながら、ヴァレーリヤの手元だけを見つめる。とてもくせ字。
「はい、終わりましたわよ! お望み通り、辛味オイルとね!」
ドヤ顔のヴァレーリヤ。一周回ってちょっとおかしくなってきている。
「ありがとう!! 明日、学校で自慢するんだ!!」
少年は駆け、母親はぺこりと頭を下げる。
「ふぅ! 有名になると大変ですのね……でも、このまま、CMでも何でもどんと来いでございますわ!」
ヴァレーリヤは言い、すんすんと自らの身体を嗅ぐ。やっぱり、辛味オイルだ。
●突然、舞い込んだお仕事!!
ローレットに集められたイレギュラーズ。目の前には神妙な顔のオヤジ……いや、スパイスフード・カンパニーの社長である、ロマン・ビリングが椅子に沈み込んでいる。
「これはヴァレーリヤ様案件で御座いますね」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻 (p3p000824)がロマン社長に聞こえないようにヴァレーリヤに耳打ちし、ヴァレーリヤのスパイシーさにびっくりする。ただ、正直なところ、ロマン社長の目の前に二人は座っている。聞こえないものの、丸見えなのである。コホンと咳払いをするロマン。幻とヴァレーリヤは背筋を伸ばし、何食わぬ顔で炭酸水を飲んだ。ちなみにテーブルには様々な辛味オイルの瓶とフランスパンが置かれている。
「リゲル、この辛味オイルはシチューにも合いそうだ」
『優心の恩寵』ポテト=アークライト (p3p000294)が漆黒の辛味オイルを手に、隣に座る『死力の聖剣』リゲル=アークライト (p3p000442)に微笑んだ。無邪気な笑みにつられるリゲル。
「うん、本当だね。ありがとう、ヴァレーリヤさん」
優しい笑みを浮かべ、リゲルはお礼を言うがそもそも、オイルはヴァレーリヤの私物ではない。ロマン社長が持ってきたものだ。
「いえいえ……って、違いますわ! これはロマン社長のご好意でございますわ!!」
ヴァレーリヤは叫び、リゲルを見たが正直、信じていないような顔をしている。助けを求めるようにヴァレーリヤは左を向いた。
「ん? いや、ヴァレーリヤはマイ辛味オイルを携帯しているわけで」
『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈 (p3p002831)が、この人、何を言っているんだろうかという顔でヴァレーリヤを見つめ、すぐにフランスパンに辛味オイルを数滴落としながら、もしゃもしゃと咀嚼する。
「くぅ~~~~!!! これが癖になる辛さか」
叫び、ごくごくと炭酸水を飲む。ヴァレーリヤはやり取りに疲れ、テーブルに突っ伏している。
一方、一番、辛い深紅の辛味オイルをじゃばじゃばとかけているのは『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ (p3p007207)だ。
「これをフランスパンにかければより美味しくなるんだよね」
「そうなのですか?」
『夢語る李花』フルール プリュニエ (p3p002501)が血の海状態のフランスパンを見つめる。ツンとした匂い。でも、食べたら美味しい?
「うん、そうだよ! フルールにもかけてあげる!」
アウローラは大量のオイルをフランスパンにかけてあげたのだ。ロマン社長はちらりと時計を見た。そろそろ時間だ。
「あら。皆さん、お早いですね」
猫たちの世話を終えた『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)が柔和に微笑み、ゆっくりと席に座る。凄い! 時間ぴったりだ。
「はい! クラリーチェにもアウローラちゃんが辛味オイルをたっぷりかけてあげるね!」
にっこりと笑うアウローラ。
「え? ありがとうございます」
クラリーチェは目を瞬かせた。来たばかりで状況を把握していないのだ。
「じゃあ、簡潔に説明するぞ!!」
悶絶している三人を一瞥しながら、ロマンが話し出す。彼の話はこうだ。辛味オイルが人気になった今、ロマンは究極の辛味オイルを作り出そうとしていたのだ。だが、あろうことか、そのレシピを盗まれてしまった。材料の把握は出来ている。ただ、細かな分量はレシピに書いてあるのだ。盗んだ犯人は分からないが、シャノワールの森にいるらしい。
「調査の結果、そこには恐ろしいトラップが仕掛けられている……」
ロマンはぐっと声を詰まらせた。
「辛味オイルの沼から始まり次に辛味オイルを含んだ黒糖饅頭を20個食べ、最後に盗んだ張本人と戦うらしい。何人もの社員が悔しいことに未完成な辛味オイルの餌食になってしまった……ただ!! 皆さんがいる!!! どうか、レシピを取り戻してほしい!」
ロマンは涙を拭い、イレギュラーズを見た。希望の眼差しで!
「あ、それと、沼の周りにはクラゲが沢山いるらしいな!!」
ロマンは唾を飛ばす。危なく、大切なことを知らずに向かうところだった。
- 究極の辛味オイル完了
- GM名青砥文佳
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年05月24日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談11日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
空はとても青かった。『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)は唇に触れ、「美味しかったけどまだ唇がひりひりするね! ねー、究極の辛味オイルはどんな味がするんだろー?」と笑った。
「そうですね、フランスパンの上にクリームチーズを乗せ、その上にかけて食べたいもので御座います」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が微笑む。
「とっても美味しそう!」とアウローラ。
「うちのバー『Bar Phantom』で使いたいと思っていますので是非とも」
突然、宣伝CMが流れ始める。
「わー、此処で食べれるんだね!」
アウローラがCMを眺め、幻が『辛味オイル歓迎』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の匂いに小首を傾げる。
「簡潔に一つ言っておきたいことがあるのよ」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)の言葉に立ち止まる一同。
「何故なの? 私は辛いものがとても駄目なの。だから、盗人さんは『ぎるてぃ』ね。あと、私のパンに辛味オイルをかけたあなたも『ぎるてぃ』ね」
アウローラにくすくすと笑いかける。
「えー? じゃあ、今度は二滴にするよー!」
アウローラはにこにこし、フルールはぞっとする。
(ヴァレーリヤさんがくれた辛味オイル、美味しかったな)
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は目を細めた。そう、この時のリゲルは理解していなかった。この任務の過酷さを──
「頑張りましょう。盗人さんからレシピを取り戻す。とても正当な依頼だと思うのです。レシピを開発するまでの費用や時間。そして情熱。絶対に取り戻して差し上げなければいけませんね」
『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)がまともなことを一応、言ってみる。
「そうだな。レシピを盗むことは悪いことだしな。まぁ、なんで調味料が兵器化するのか分からないけど」
『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は言う。
「そうですわね。一体どうしてこんな事に……まあ、辛味オイルは別に嫌いではないし、差し入れには感謝しているのだけれど」
ぶつぶつ言っているのはヴァレーリヤ。辛味オイルのお守りが首から揺れているし、ポケットには辛味オイル。いかにもだ。
「レシピを取り戻して、ロマン社長をホッとさせてあげましょう」
「おう! レシピを取り戻したら、それで究極の旨辛い魚介料理を作ってもらいたいな。当然、酒のつまみとして!」
『絶剣・千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が笑う。
●
躊躇うイレギュラーズ。真っ赤な沼が見えた。
「飛び越えるよー!」
アウローラが元気いっぱいに飛んでいく。伸びる触手。
「アウローラ様、フォロー致しましょう!」
幻はカード『白昼夢』を底なし沼に投げ入れた。
「今のうちで御座います」
長梯子が触手を押しつぶし、橋となる。
「ありがとー!」
アウローラは橋を飛びながら、触手を大技で吹き飛ばしていく。
「おほほほほ、私もアウローラに続きますわ!」
ヴァレーリヤは飛ぶ。
「せいぜい貴方達は、泥臭く沼やクラゲと遊んで来なさい?」
勝ち誇った笑み。
「それでは皆様、私はお先に失礼……グワーー!? こ、こんな上空でも!? お、落ちっ!!」
ヴァレーリヤは咄嗟に幻の両脚を掴んだ。
「嗚呼、ヴァレリーヤ様! 何をなさるのです! 足をそんなに引っ張ったら落ち……グワーーー!!」
「ヴァレーリヤ! 幻!」
汰磨羈が沼を見下ろす。
「凄いな、二人をお陀仏にするなんて……!」
賞賛と悔しさを滲ませる汰磨羈だったが、すぐに長椅子を渡り始める。
「お、アウローラはもう、着いたか」
手を振り返し、汰磨羈は叫ぶ。尾に絡みつく触手。
「くそ、クラゲめ! 和え物にして食うぞ!?」
袖で必死に口ガード。
「というか、このクラゲ……浸かり過ぎて辛味オイルが染みてないか? 大丈夫か? ぐああああっ……!?」
あっという間に沼に。
「汰磨羈っ!! 今、助け──……!」
手を伸ばすポテト。だが、間に合わなかった。リゲルは落ち込むポテトの肩を叩き、「肩車だ、ポテト!」と笑った。
「は? どうした、リゲル」
目を丸くするポテト。一方──
「この沼、どうしろというのでしょう……沼を避けて進みたいのですが明らかにそれを阻止するためにクラゲがいますね。嫌がらせでしょうか」
クラリーチェは呆然とし、フルールは沼を睨んでいる。
『~~~~!!』
沼ではヴァレーリヤと幻が互いを犠牲にしながら浮かび上がろうとし、気を失った汰磨羈はクラゲに弄ばれている。
ポテトの前で屈むリゲル。
「俺が力尽きようとも、君だけは守ってみせる!」
「き、気持ちは嬉しいけどリゲルの肩の上に立つのは色んな意味で危険すぎる……」
「いや、大丈夫だ。幻さんの長梯子がある!」
リゲルは何か言おうとするポテトを強引に肩に乗せ、走り出す。
「あぁ、あぁ。沼……はっきり言って酷いわ。せめて食事にするだけなら許せたのに」
涙を流すフルール。
「私の紅蓮で燃やしましょう。ねぇ、フィニクス? それに、仲間の仇ですもの」
傍には飛び回る深紅の精霊。
「フルールさん、皆さんには渡しそびれてしまいましたがマスクをどうぞ」
髪を縛り、クラリーチェは耐水性の荷物入れを背負う。
「ありがとう。一緒に行きましょう」
「ええ」
クラリーチェとフルールは橋を渡る。
「うう、唇がひりひり致します」
幻は唇を腫らし、長椅子の端を掴んでいた。幻はクラゲをヴァレーリヤに押し付けてきたのだ。
「あと、もう少しで御座い……!?」
「ええい、私を盾にするのを止めなさい!」
ヴァレーリヤが現れ、幻の肩を掴んだ。
「離してください! なんとしても、長梯子に戻るんです!」
「いいえ、それは私の願いですわね!」
ヴァレーリヤと幻は醜い争いを繰り返す。
「酷い目にあった……」
べたん。長椅子に真っ赤なものが横たわる。汰磨羈だ。
「唇も腫れてるし、先が思いやられる……」
汰磨羈は鼻からオイルを流し、目を瞬かせる。その先には──
「はあああっ──!」
触手を次々と切断していくリゲル。サーカスの様に立つポテト。
「リ、リゲル! もう、降りてもいいと思うんだが」
ポテトは言ったが、リゲルは頑なに首を振った。
涙目のクラリーチェ。そう、眼鏡は目を守ってはくれない。
(!! フルールさん、真横から来ています)
クラリーチェがフルールの右肩を叩いた。
「燃えてしまいなさい!」
フルールのフェニックスがクラゲを燃やしていく。
「私には勝てないわよ! って、足に何か……? ちょ、それはっ、やめっ!?」
ぬるぬると這い上がり、沼に誘う。
「フルールさんっ!? 大丈夫ですか!」
目を見開くクラリーチェ。しまった、喋ったせいでオイルが口に。瞬く間にクラリーチェはバランスを崩し、沼に落ちた。遅れて、フルールが落ちる。
「いやぁぁ! 凄くしみるの…!? ああああーー!!」
半泣きのフルール。クラリーチェにしがみつき、フェニックスがクラリーチェの首根っこを嘴で掴んでいる。
●
アウローラは黒糖饅頭の数を数えている。
「うん、やっぱり20個あるね! あ、リゲルとポテトだ!」
「なんとか、無事だったな……」
ポテトは右足に巻き付いた触手を捨て、汗だくのリゲルが「愛の勝利だ!」と笑い、振り返るとタラコ唇の汰磨羈、泣きじゃくるフルール、眼鏡まで汚れたクラリーチェ、そして、ヴァレーリヤと幻が無言で倒れこむ。
クラリーチェが持ってきたタオルで全身を拭き、着替えるイレギュラーズ。ノルマは一人、2.5個。正直、食べたくない。そんな中、響く声。
「いっただきまーす!」
アウローラは食べ、「美味しくないけど平気!」と笑う。
「はーはーはー、2個と半分を食べればいいだけですからね!」
幻は手を震わせ、一口。歪む顔。
「変に甘いのが原因ですね。ですが、ジャーン! こちら、ビリング社長から頂いた激辛辛味オイルで御座います」
「はい?」
皆の声が揃った。どうしよう、頭がおかしくなったのだろうか。
「これで味を変えてしまいましょう。皆様もよろしければ、どうぞ! うーー! 辛い! でも、癖になりますね!」
「くっ、幻さんに続きたい。ただ、俺は虫の知らせというやつで氷を持ち込んでいたのだ。辛みが緩和されるはずだと!」
リゲルは何故か、激辛辛味オイルを饅頭にかけ、「ッグアアアア! かっ……こ、氷よ! 俺に力をッ……!」
氷を頬張り、悶絶する。
「一人頭2.5個。おのれ、普通の甘味なら喜んで4個5個と食う所なのだが……」
汰磨羈は息を吐き、饅頭をがっと口に入れた。覚悟を決めるしかない。
「――甘辛ッ! 甘辛いというより甘さと辛さが分離してダブルアタックというか圧倒的に辛ぁああああああ!? まずぅうううー!!」
「あのう……そもそも、無造作に置かれたお饅頭とか怪しすぎませんか? 食べるのが前提っておかしいと思うのです……」
と言いながら、クラリーチェは水で饅頭を飲みこんでいく。皆が食べるなら食べないわけにはいかない。
「う、これは中々……キますわね。ていうか激辛なお饅頭ってなんですの! 何でもかんでも辛くすれば良いというものではないでしょう、TPOを弁えなさい!!」
口内の痺れをウォッカで洗い流すヴァレーリヤ。
「はー、ウォッカさえ不味くなりますわね! ある意味、天才なのでは?」
キレ散らかす。
「お饅頭、不味いの……うっ……辛い辛いわ、おねーさん……辛いのぉ……」
泣きながらフルールはポテトに齧った饅頭をそっと差し出した。
「はっ! 無意識に受け取ってしまったぞ。ああ、もう……食べるしかないか……もしかしたら、美味しいかも……だっ!! あー、甘いのに、辛くて痛い……!! リゲル、氷を分けてくれ……!」
真っ赤な顔で手を伸ばす。
「ああ、今、渡す!」
反射的にリゲルは激辛辛味オイルを手渡す。
「ありがとう、これを……って違うだろ!」
ポテトは盛大にツッコミ、氷を噛み砕く。
「あー!!! お尻から火が出そうですね!」
幻ははぁはぁと顔を紅潮させ、皆を見るとどうにか、食べきっている。
「ふはははっはは!! 我と戦えるのか、イレギュラーズよ!」
現れる盗人。巨大な鹿に乗り、覆面を被っている。
「もう、やだよー……」
フルールは泣きじゃくっている。この人臭いし、帰って熱いシャワーを浴びたい。鹿に乗ったまま、ぶんぶんと長槍を振り回し、交差させる盗人。
「レシピはオイル戦隊が取り戻すよ! アウローラちゃんはね、じゃーじスカイブルー! クラゲと一緒にいっくよー!」
アウローラが笑い、いつの間にか肩に一匹のクラゲをちょこんと乗せている。
「懐いたんだよ! えいやっ!」
アウローラはクラゲを撫で、どどーんと光撃をお見舞いする。盗人は叫び、その身から爆発的な臭いを発する。
「ぐわわぁー……お客様、酷い臭いで御座いますよ!」
眩暈を起こしながら踏み止まる幻。昼想夜夢(オイル風味)を魅せる。
「お客様はどなたの夢を見ますか? 僕こと蝶アイアンブルーがお仕置き致しましょう!」
ウインクからの怒涛の連撃。
「んっ……あ……? ロマン……?」
「ロマン?」
幻は小首を傾げる。何処かで聞いたような──
「おらあっ!! おらあああっ!」
ゴリラのような叫び。勿論、この声はヴァレーリヤだ。ヴァレーリヤはマスクを鼻水で濡らしながら盗人を蹴り飛ばす。
「今度は我の番だ!」
盗人は槍をヴァレーリヤに突く。
「遅いですわよ、キュアレッドには効きませんわ!」
左腕で槍を弾き、咳き込むヴァレーリヤ。
「どうして皆、戦えるんだ……」
ポテトは嗚咽を漏らしている。
「精霊たち、出来るだけこちらを風上にしてくれ。このままじゃ呼吸するのもきつい……!」
ポテトは盗人から離れ、座り込んだ。
「だああああっー! この盗人めが! スノーホワイトねこが成敗してくれる!」
汰磨羈がドロップキックをかます。
「ぐわーーー! ばかねこ! 我の腰が壊れたらどうするんだ!」
「知らん!! こっちは内側も外側も壊れそうだ!」
汰磨羈はぶんぶんと尾を振りながら、「くっ、この盗人、臭すぎる!」
マスクの上から鼻を摘まむ。その隙に鹿に乗る盗人。汰磨羈は膝をつき、盗人を睨みつける。
「貴方が犯人ですか」
「ん、何だ? お前は?」
「信仰のランプブラックです、人様のものを盗むとか言語道断です!」
クラリーチェがマスクを押さえながら、魔力を増幅し、技を発動させる。
──お友達、みぃつけた
嗤う呪い。盗人は呆然とする。
「正義のホリゾンブルー、此処に参上する! はああああっ!! おええええええ……!!」
ゴーグルとマスク姿のリゲルが咳き込みながら真一文字に盗人を薙ぎ払い、魔を退ける。
「ぐえ!」
鹿から強制的に降ろされる盗人。
「ようやく出会えたわね、盗人……全身を辛味に浸けて痛みと熱に咽び泣くと良いわ! 凶器のファイヤーレッドの猛攻によってね!」
ギフト。弾けるフルールの理性。紅蓮の焔が髪と四肢を覆い始める。身構える盗人。
「さよなら、ね──」
フルールはくすりと笑い、一気に盗人を燃やす。
「だああぁー!! レシピが燃えてしまうーー!」
盗人は慌てて消火器を自分に吹き付ける。
「はぁ……はぁ……なんて恐ろしい……! ぎゃあああっーー!」
死角から飛ぶ圧倒的な魔術。アウローラだ。
「ぐぬぬぬ……どうして我が……尻も焼けているし」
盗人は火球を尻に浴びせた犯人(リゲル)を見た。
「何がバーベキューみたいだろ、だ! それに! そうだな……あんなお饅頭食べたら普通のご飯が恋しくなるよな。夕飯は優しい味のスープとバーベキューにしようとか言う輩もいるし! 人の尻を焼いておいて、そんなんおかしいだろ!」
盗人はポテトの声真似をする。
「僕はまだ、許しませんよ」
幻は落ちていた蔦で盗人の身体をぐるぐる巻きにする。
「何をする! この蔦を切れ!!! 我はレシピを完成させ、あいつをぎゃふんと言わせるんだ!!! くそ、何故、貴様らは倒れぬ!」
「そんなの当たり前ですわ! 数々の辛味オイルを潜り抜け、耐性を身に着けた今の私達は、そう、辛味オイル歓迎!! この程度の辛味で私達を倒せると思わないことですわね! クラリーチェもおりますしね!」
ドヤあああああぁ。ヴァレーリヤは胸を張る。
「そいつから狙えばよかった」
「作戦勝ちですわ!」
「ちっ! てか、あんた、オイルくせぇな」
「な、黙りなさい!」
瞬時に酒瓶で盗人を殴りつけるヴァレーリヤ。
ポテトは鹿と戯れる。
「おおっ! 元気だな! あ、こら、マスクは食べるなよ?」
ポテトはマスクをぺろぺろ舐める鹿の頬を撫でる。
「可愛いなあ」
保護結界を張り、森と鹿を守るリゲル。鹿の脇腹を撫で、「毛が気持ちいいなあ」と笑う。
「ぐふふ、こいつの出番のようだ」
汰磨羈は奇妙な笑いを浮かべ、「好きか? そんなに好きか? 旨味Zeroの激辛がそんなに好きか? お前も! 存分に! 味わえぁあああああ!! これが大好きなんだろ!」
汰磨羈は胸の谷間からクラゲをずるりと引き抜き、盗人の口を突っ込んだ。
「ががががっがが!?」
痙攣する盗人。狂ったように笑う汰磨羈。
「ううう……もう限界に近いです」
クラリーチェが盗人から離れ、鹿と触れ合う。
「はー、癒されます。動物は良いですね」
「私も……鹿がいいの!」
フルールが鹿の顎下を撫でると鹿は嬉しそうに鳴く。
盗人は泣いている。それを見下ろすリゲル。鼻水が汗の様に落ちる。
「降参だろう?」
何故か、盗人が言った。
「まさか、まだだ」
「リゲル!」
「ポテト」
「わ、私も戦うぞ!」
鹿に癒されすぎて忘れていた。頬を染め、プルプルするポテト。
「ありがとう、ポテト」
見つめ合う。
「やめろ、やめろ! 勝手にいい話にするな!」
喚く盗人。
「それがどうかしたか。俺は辛味オイルなどには負けはしない! 何故ならば、それ以上に甘いポテトの愛があるからだ――!」
リゲルは目にも留まらぬ早業で寒気を伴う一撃を打ち込んだ。斬れる蔦。白目の盗人。
「終わったんだな」
ポテトは呟き、リゲルを回復させる。その間に周辺の被害状況を確認するアウローラ。
「うん! 問題ないみたいだね!」
首だけを残して埋められる盗人(リゲル案)。
「おい、貴様ら! あいつに伝えておけ!! 我は諦めぬ!」
「まったく、教えて差し上げますわ。貴方の辛味オイルには、魂が足りないのです! 辛さばかりを追い求めて、本来その先にあるはずの人々の笑顔を見てこなかったのが貴方の敗因でございますわー! 辛味オイルで顔を洗って出直していらっしゃい!」
ヴァレーリヤはキメ顔だが、脳内では(えへへ、これを持って帰ればきっとお礼にすごいお酒が……)などと考えている。
●
鹿とクラゲを連れ、戻ってきたイレギュラーズ。
「良かった、ありがとう!」
レシピを抱きしめ、ロマンは激辛ビーフジャーキーを一年分、イレギュラーズにプレゼントしたのだ。途端に気絶する汰磨羈とフルール。苦笑するポテトと好奇心に負けそうになるリゲル。ヴァレーリヤは愕然とし、アウローラはクラゲと一緒に純粋に喜び、クラリーチェと幻は鹿にまたがり帰っていく。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
いやー、最高の日になりましたね!!!!!
GMコメント
辛味オイルのリクエストをありがとうございます。今回は辛味オイルなトラップをくぐり抜け、辛味オイルな敵を倒し、レシピを取り戻してください!!!! まぁ、戦闘もギャグになります、そう、勝手に。
●依頼人
ロマン・ビリング
スパイスフード・カンパニーの社長です。辛味オイルをメインに激辛カレーや辛い唐揚げ、辛いたこ焼きなどを作っている会社。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●盗人
????
覆面の大男。辛味オイルの香りが全身から香る。武器は幅広大型な三角形の穂先をつけた長槍を両手に持っています。遠くにいてもむせます。声が馬鹿でかい。レシピを持っているも究極の辛味オイルを作れずにいます。未完成の辛味オイルを使い、皆様を苦しめます。
●シャノワールの森
普通の森だが、入口から辛味オイルの沼が存在します。底なし沼でクラゲがそれなりにいます。飛び越えようとすると沼に引きずり込まれます。戦闘力はありません。ただ、力が強く沼に引きずり込もうとします。辛味オイルの沼は未完成の為、とても辛く唇に触れただけで腫れます。所謂、旨味がないわけですね。
黒糖饅頭 20個……甘いのに激辛な饅頭です。全て食べないと盗人に出会えません。
飲み物は用意されていませんが持ち込みは可能です。口の中が痺れます。
完食すると、盗人が巨大な鹿に乗ってやってきます。鹿は近くにいたりいなかったりします。人懐っこいので呼べば懐きます。
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