PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<虹の架け橋>アルラウネの里を魔種が襲う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●襲われるモンスター
 直径1メートルを超える花々が豪華に咲き誇り、その中央から少女の腰から上が生えている。
 アルラウネだ。
 薄緑色の滑らかな肌と豊かな緑髪、幸せそうに微睡む表情を見れば平和な存在だと錯覚しそうになる。
 だが地面に目を向ければ、さび付いた鎧と人骨をいくらでも見つける事が出来る。
 多くの人間を食らい、何度倒され突破されてもその度に勢力を盛り返す危険なモンスターであった。
 ぼこりと、聞き慣れない音が響いた。
 感覚の鋭い個体が目を開けて、欠伸をしながら音の聞こえた方向を見る。
 ぼこりぼこりと音が連続する。
 そして、地面から2本の大きな腕が無造作に突き出され、巨大な何かを引きずり上げた。
「ココに通じてたのかい」
 巨大な女であった。
 多すぎる筋肉が人間ではあり得ない輪郭をつくっているのに、雄大な手足も引き締まった胴も均整がとれている。
 力に狂った赤い瞳が、恐怖で固まるアルラウネをじっと見つめ、笑った。
「1つ貰うよ」
 背後が揺れた。
 女の後ろから伸びる大蛇が、涙目のアルラウネを噛まずにぱくりと飲み込んだ。
 蛇の喉が大輪の花で膨れている。
 根というより足に近い箇所が、大蛇の口から伸びて必死に動いている。
 大蛇の喉が元に戻っていく。
 見た目よりずっと頑丈な緑の肌も、消化液に耐えられずに溶けていく。
 足が一瞬エビのように沿って、力を失いだらりと垂れた。
 蛇は、程よく融かしたモンスターをつるりと飲み込む。
「スカスカだ」
 活動のためのエネルギーだけではなく、経験あるいは魂に当たるものまで吸収する。
 それが予想以上に薄くて、女魔種が落胆の息を吐いた。
 異常に気付いたアルラウネが次々と目覚め、隠していた剣や槍を構える。
「オマエ等ろくな経験積んでないな」
 女が鼻を鳴らす。
 挑発ではなく正直な感想だ。
 モンスターの腕力によって全く揺れない切っ先を向けられているのに、脅威は皆無と理性的に判断している。
 アルラウネの敵意が強まり、呪文の詠唱に似た音のうねりが生じた。
「イレギュラーズがクルまで揉んでやる」
 魔種が拳を作って、ゆっくりと広げる。
 発達した爪は異様に頑丈そうだ。
「強くなったらいくつか食らってやるよ」
 老若男女を魅了する蜜の香りも、強靱な下半身から繰り出される刺突も、彼女には全く届かない。
 巨体の異様な瞬発力が、アルラウネの予想を超えている。
 包囲の一角が高速の大重量により蹴散らされ、魔種に後ろへ回り込まれてしまった。
 魔種は殴りはせず、ただ小突く。
 それだけでアルラウネの上半身が千切れて花も命を失う。
「早く来いよイレギュラーズ」
 音ではない音が響く。
 人間種を魔種へと堕とす堕落への誘惑。
 原罪の呼び声だ。
 大物魔種と比べれば非常に弱く、しかし長時間浴びれば効果は変わらない。
「しっかり聞かせてやる。その上で」
 大蛇が舌をちとちろと出す。
 魔種が歯を剥き出しにして楽しげに笑う。
「食らってってやるからなぁ!」
 強力なはずのアルラウネが、次々と屍に変わって地面に打ち捨てられた。

●まだ知らない
「次はアルラウネ階層なの」
 伊達眼鏡をかけた妖精が両手を広げた。
「こんな大きさのアルラウネが……ちょっと違うです」
 妖精は小さいので、両手を最大限に使っても表現したい大きさに届かない。
 小首を傾げ、ずっと昔に聞いたたことを頑張って思い出し、あまーいジュースを猪口1つ分飲んでから説明を再開する。
「こーんなっ、感じのっ、アルラウネがいっぱいいるの!」
 該当階層にいるのは、少女の腰から上が生えた巨大花。
 甘い蜜と美貌で老若男女を誘い、生きたまま複数の意味で食らうモンスターらしい。
「攻略法は……えーっと、なんだっけ」
 考えても答えは出てこない。
 昔聞いたときに右から左に聞き流したので当然である。
「なんか凄く強いから絶対に勝てる質と数集めろって言ってたの!」
 イレギュラーズさんみんな強いからだいじょぶです! と本心から信頼の視線を向けてくる。
 アルラウネのボスが食われたことも、魔種が待ち構えていることも、妖精は想像もしていなかった。

GMコメント

 敵はとても、パワフルです。
 激しい戦いを楽しんで頂けると嬉しいです。


●注意
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 参加の際は、予めご了承のほどお願いいたします。


●成功条件
 魔種を撃退または殺害。
 虹の宝珠の入手。


●敵
『獣を喰うモノ、リメーヴェ』
 戦闘時の冷静な判断力を保ったまま、基本的な価値観が変質してしまった元ライオン獣種の精鋭傭兵です。
 特殊能力は、原罪の呼び声(微弱)と麻痺毒持ちの尻尾(大蛇)のみ。
 しかし、外見通り強力な筋力と頑丈な爪、何より堕ちる前より冴えを増した技術の組み合わせは極めて危険です。
 主な攻撃手段は以下の5つ。
 ・殴る&蹴る【物近単】【必殺】高命中大威力。
 ・移動攻撃【神遠貫】【移】並命中並威力(この魔種にとっての並であり、並でも高水準です)。
 ・息を整える【BS回復】。
 ・熱心に呼びかける。
 ・蛇噛みつき【物至単】【麻痺】低命中並威力。
 ・蛇飲み込み【物至単】。イレギュラーズが戦闘不能時のみ使用可能。対象の全身を飲み込み、3ラウンド後に死亡させます。死亡前は救出可。

 魔種と蛇は一体です。1ラウンドにどちらも主行動と副行動が1回ずつ可能ですが、移動は本体しか出来ません。
 獣種を堕としてから食らうのを、特に好みます。


『アルラウネ』×16
 魔種にボスを討ち取られた集団の生き残りです。
 恐怖によって『獣を喰うモノ、リメーヴェ』に従属させられ、イレギュラーズに対して積極的に攻撃してきます。
 恐怖で判断力と命中が低下しています。
 主な攻撃手段は以下の2つ。
 ・白兵攻撃【物近単】または【物至単】。
 ・甘い香り【神中範】【誘惑】【混乱】。低威力。

 そこそこ強いモンスターですが、『獣を喰うモノ、リメーヴェ』と比較するとあらゆる能力が格下です。
 魔種から解放されても、愛嬌をふりまきながら人間の命を狙うモンスターであることは変わりません。


●他
『原罪の呼び声(微弱)』
 この依頼では、戦闘中の『獣を喰うモノ、リメーヴェ』から20メートル未満の距離に1分以上継続していた場合にのみ、原罪の呼び声の影響を受ける可能性が生じます。
 最初は1パーセント未満で、時間経過と共に上昇します。
 熱心に呼びかけられた場合は必要な時間が減少します。強い獣種に対する語りかけは熱烈です。

『穴』
 魔種がこの階層に移動するために掘った穴です。
 力で無理矢理に開けた穴であり、徐々に大きくなっています。

『虹の宝珠』
 雑に転がっています。
 わざと狙わない限り壊れたりしません。


●戦場
 1文字縦横10メートル。戦闘開始時点の状況。上が北。無風
 abcdefghij
1□□□花花花□□□□
2□□□□□□□□□□
3□□□□魔□□□□□
4花□■■■■■□□花
5花□□□□□虹穴□□
6□□□□□花花□□□
7□□□□□□□□□□
8□□□□□□□□□□
9□初初□□□□初初□

 □=ふかふかの黒い土の地面。人骨や壊れた装備が所々に転がっていることも。
 ■=左右に亀裂が走っています。幅1~4メートル。底は不明。
 穴=直径2メートルの穴。拡大中。底は不明。
 虹=土の上に、『虹の宝珠』が転がっています。

 魔=『獣を喰うモノ、リメーヴェ』が、嬉々として南へ飛び出そうとしています。
 花=アルラウネが2体、南を向いて警戒しています。
 初=イレギュラーズ初期位置。各人好きな位置を選択可能。

  特に記述がない場合、地面は□と同じ状態です。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <虹の架け橋>アルラウネの里を魔種が襲う完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年05月12日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
雷霆騎士・砂牙
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

リプレイ

●魔種
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が、2つの大型リボルバーをぴたりと静止させた。
 撃てば当たる。
 撃たれたら被弾する。
 そのことを理解した上で、狙われた魔種が口元を綻ばせた。
「ウマそうな奴がいるじゃないか!」
 その魔種は、建造物じみた巨体も世界をねじ曲げる力も持っていない。
 魔種らしい特殊能力は平凡かそれ以下だ。
「アルラウネ退治と聞いたが、とんだ大物に出くわしやがったぜ」
 それでも戦闘力はとんでもなく高い。
 熟練の技術によって魔種の性質が万全に活かされた場合どうなるかなど、考えなくても本能的に分かる。
「さあて、おっぱじめようか!」
 ジェイクは引き金を引く寸前に狙いを微修正。
 全く同時に回避行動兼突撃を開始した魔種に向け、2つの弾を解き放つ。
 獣を喰うモノ、リメーヴェの頬に2本の擦過傷を左右どちらにも刻みつける。直撃だ。
 魔種の進路が歪む。
 イレギュラー複数を巻き込む巧緻で狡猾な移動攻撃では無く、ジェイク1人を狙う直線的な……その分圧倒的に速い走りで迫る。
「アンタの相手はオレだ」
 黒翼の飛行種、『天戒の楔』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)が魔種の進路に割り込んだ。
 力を守りに傾け、余程特殊な技を使われない限り防御は確実に成功する。
 そこまで己を高めたフレイが、奥歯を噛みしめ紅い右目を光らせた。
 リメーヴェが尖った歯を剥き出しにして笑う。
 暴の化身じみているのに何故か爽やかでもある。
 力を求める純粋な狂気は、最早理性と区別がつかなかった。
「イクよ」
 移動中に腕を構える。
 動作としてはたったそれだけでも元々の速度と重量は凶悪だ。
 極太爪が、フレイが構える黒い盾へ垂直に突き刺さった。
 全身の骨が振動し神経が悲鳴をあげる。
 それでもフレイは冷静さを失わず、生存と戦闘継続に最低限必要な箇所だけを癒して極太爪を振り払う。
「っ……この程度か、元獣種の魔種」
 魔種の笑みが濃くなり、目の光が強くなった。
「アルラウネの成体がこの蛇女ですか? いひひ! 面白い生態ですね!」
 声は麗しく響きは妖艶。
 故に俗な言葉での挑発が力を増す。
「その爪を」
 夢魔の姿を露わにした『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が魔剣に魔力を注ぐ。
 滑らかな表面が桃色の雷に覆い尽くされ、そのエネルギーと密度が急速に強まり遠くにいるアルラウネも気付くほどになる。
「叩き折ってやります!」」
 剣と魔に謀に精通した利香が放つのは致命的な斬撃だ。
 ジェイクに引きつけられ、フレイに進路を塞がれた魔種に、何度も何度も攻撃を仕掛けて回避と防御を強いた。
「殺し合いで手抜きを……アァ、旅人かい」
 傷がついた爪を打ち合わせ、魔種がつまらなそうに鼻を鳴らす。
 利香の技から魔人あるいは魔神ともいえる力を感じたが、それは混沌肯定の受ける前の残滓でしかない。
 力のために強者を求めるメーヴェには、今の利香は物足りなく感じた。
「あはは! 手抜きをしているのはどちらかしら!?」
 利香は彼我の力量差に気付いていないふりで攻撃を続ける。
 どれほどの強者でも、極短時間に複数回撃されると回避の精度が下がるのだ。
 利香達が3人がかりで作りだした心理的かつ物理的な好機を、『傍らへ共に』天之空・ミーナ(p3p005003)は見逃さない。
 死神専用の鎌を起点に闇の領域を作り出す。
 光と音の波も、ひょっとしたら運命ともいうべきものまで飲み込ませた上で、短時間の連続回避で体勢をわずかに崩した魔種へけしかけた。
「厄介なもんだよな……強さだけを求めるってのは。わからんでもねぇが……ここは、勝たせてもらうぜ」
「ヌ」
 魔種の息に毒の気配が混じる。
 回避行動だけでなくフレイを狙う爪の精度も落ちている。
 年齢不詳の死神の力は、確実に魔種へと届いていた。

●アルラウネ
 薄緑色の少女達が大型の武器を振り回す様は、暴力的であると同時に微笑ましさも感じさせる。
 無論、『雷霆騎士・砂牙』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)はそんな擬態には騙されない。
「私はアリーシャ=エルミナール。最期の瞬間まで覚えておきなさい」
 心地よい甘い香りと、技術を腕力で補った刺突がアリーシャの鼻へ近づく。
 戦場奥のアルラウネ集団と前衛アルラウネ4体の連携攻撃だ。
 アリーシャは薄く息を吐きながら姿勢を前傾させる。
 槍4本の狙いが逸れ、魔獣の外骨格製鎧にぶつかり火花を発生させた。
「温い」
 大剣の黒き刀身で以てモンスターの花を切り裂く。
 致命傷には遠く、しかし花に感じる呪いじみた甘さは明らかに薄くなる。
「私1人に手間取っているようでは、すぐに全滅してしまいますよ」
 振り回される槍を返す刀で弾いて防ぎ、刃をさらに加速させてアルラウネの腕部を狙う。
 手首が1つ飛び、濃い緑色をした体液が流れる。
 ねっとりした体液を接着剤代わりにして槍を保持しはしたが、流れる血は止まらず徐々にアルラウネの命を削っていた。
「アルラウネの攻略……だったはずなんだがなぁ」
 『不屈の』銀城 黒羽(p3p000505)は微かに笑って思考を切り替えた。
 アリーシャとは別方向に走り、前衛6体のアルラウネ集団の至近で黄金闘気を迸らせる。
「お前等……俺だけを見ろ」
 鋭利な目は威圧的であると同時に色気も感じさせる。
 人を食らうために人を騙す性質のモンスターが、ふらりと揺れて黒羽へ惹きつけられる。
「ぐだぐだ言っても始まらねぇ」
 敵戦力は巨大だ。
 頭を刈り取るのは時間がかかる。つまり花を先に狩るしかない。
「ついて来い」
 アルラウネ5体を引き連れ、同数の6体もいる後衛アルラウネ目がけて突き進む。
 甘い香りが複数重なるが黒羽の精神を冒せない。
 金の闘気が後衛モンスターの思考を誘導させるが物理的なダメージはない。
 そこだけ見れば両者互角に見えるが、花の魔物は魔種から引き離され、しかも大部分のイレギュラーズに無防備な背中を見せることになる。
「駆け出しン頃に随分世話になった奴ガいるンでな」
 優れた体格を持つ『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)が、宝珠を頑丈な箱に入れ背中に担ぐ。
「まずはてめェ等からだ!」
 ぶ厚い鋼の大剣を構えたまま走り、黒羽の近くの地面に叩き付ける。
 柔らかな黒い地面が波打ち、衝撃波とアルラウネの犠牲者の装備が高速で飛んで手榴弾の破片じみて薄緑色の肌にめり込む。
 荒っぽく見えても技術は完成されていて、黒羽は攻撃範囲に含まれておらず被害は無い。
 密集していた10体近くうち半数以上が、背中から攻撃を浴び致命傷を負っていた。
 その光景を見た別のアルラウネ達が動揺する。
 メーヴェが恐ろしくて逃亡の決断も出来ず、アリーシャに刻まれた傷から体液を失い命を削られる。
 黒羽が闘気を操り、鎖状にして一部のアルラウネ達に巻き付かせる。
 挑発による誘き寄せと比較すれば効果範囲は狭いが長射程で、しかも効果はより強烈だ。
 怒り状態から抜けた固体を含め、全ては何らかの負の状態になり魔種との合流を阻まれた。
「これも仕事だからな……!」
 仕事で遠慮などしない。
 メーヴェは一方的な暴力を容赦なく振るい、断末魔の叫びを量産した。

●メーヴェ
「魔種は全て殺す! てめえも例外じゃない」
 ジェウクの銃弾がイレギュラーズとイレギュラーズの間をすり抜け赤い巨体に穴を開ける。
 確実に流血を強いる、素晴らしくも容赦のない銃撃技術だ。
「ソウ来るか。アァ、いい男を連れているじゃないかルウ!」
 移動を事実上封じられ、己の攻撃圏の外から一方的に攻撃されているのに魔種は楽しげだ。
「糞虎が、目と脳味噌まで腐ったか」
 魔種とルウの中間で火花が散る。
 その直後、メーヴェは考えるより早く尻尾に防御姿勢をとらせようとして、間に合わなかった。
 蒼い蝶が戦場を彩る。
 迷宮の1階層という有限の空間に無数の羽ばたきがうまれ、魔種ごと現実を侵食する。
「お客様」
 無粋な客、招かれざる侵略者というニュアンスが滲んでいる。
「申し訳御座いませんが、今日の僕は手加減ができる気が致しません」
 エンターテイナーとして完璧に近い声と言葉のはずなのに、メーヴェとは違う方向で均衡が崩れている。
「八つ当たりとでもなんでも思ってくださって構いません、実際、これは八つ当たり以外のなにものでも御座いませんから」
 蝶が薄れ、また現れる。
 極太の蛇は、通常なら完璧ともいえる防御をしている。
 が、酷く捉え辛くそれでいて高いエネルギーを持つ蝶を防ぎきるのは困難だ。
 蝶が数え切れないほど押し寄せ、蛇の生命力が瞬く間に削っていく。
「僕は妖精様を助けるためにきただけ」
 『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は何度目になるかも分からない言葉を繰り返す。
 己の行動を繰り返し定義することでぎりぎり崩壊を免れているように見えた。
 メーヴェはイレギュラーズの作戦と状態異常に引っかかっている。
 それでも攻撃能力は鈍らず、フレイの体と存在を抉りとろうとするかのよう猛攻を継続する。
 夜乃の蝶の増援が止まる。
 まだいる蝶も消えていく。
 魔種と夜乃の距離は至近といっていい。
 超高速と反比例した防御の脆さを持つ夜乃に、近接攻撃としては異常な射程を持つメーヴェの移動攻撃が直撃するかと思われた。
「演目の順番は守りませんと、ね?」
 敵の攻撃終了まで待って攻め寄せ、敵が次に行動する前に距離をとる。
 高度な戦闘力を持つ魔種相手に実行するのは困難を超えて不可能に近いはずなのに、夜乃の機動力と反応速度はそんな常識をひっくり返す。
 目を丸くしたメーヴェが、はるか遠くまで離れた夜乃を目を動かさずに観ていた。
「さてはて、なかなかに手強い魔種だが」
 黒い影で出来た盾でメーヴェの爪を受け流し同時に蹴りを飛び越える。
 反響まで計算した衝撃をなんとか耐えて治療に魔力を使い、倒れるまでの時間を伸ばしていく。
 フレイの強みは高度な防御と回復力、そしてミスの少なさだ。
 1度失敗しただけで死にかねない防御を成功させ続けて、打撃と毒がメーヴェを追い詰めるための時間を稼ぐ。
 地面が崩れる音が聞こえた。
 広大な黒土の迷宮全体が微かに揺れる。
 後方に飛ぼうとしたフレイと爪の間に利香が割り込み、完璧な防御を行った上で攻撃の数割を跳ね返す。
 被害は、利香の方が大きい。
「うふふ、そろそろ厳しいのではないですかぁ?」
 美しく整えられた爪が無骨な腹筋に触れ、猛毒と業火をそのうちへと注ぎ込む。
 魔種どれだけ高度な戦技が使えても関係無い。桁外れの生命が桁外れな勢いで衰えていく。
 内側から苛む毒と炎と呪いが、絶対値ではなく割合で魔種の命を削り滅びへと近付けているのだ。
「さぁ、まだまだ楽しめますよ?」
 視線と視線が絡み合い殺気が濃くなる。
 断末魔の途中のアルラウネが、死ぬ前に気絶してから命を失っていた。
「メーヴェ!」
 一見何も考えていないかのように、ルウが一直線にメーヴェに突撃する。
 一定以上の武技を持つ者が見れば、ルウの技がメーヴェのそれに影響を受けたものである事が分かるだろう。
「ルウゥ!!」
 気合いだけでスキルによる誘導を振り払う。ルウの狙い通りに、イレギュラーズ後衛から注意が逸れた。
 両者とも肉食獣の唸りを上げ、がっぷり四つに組み合う。
 大剣が巨体にめり込み、爪が戦衣ごと肉と骨を押し砕くが両者一歩も退かず地面を血で染める。
「その尻尾で丸呑みでもするのかしら……やってみなさいよ、やれるもんなら」
 平然とした顔で挑発する利香だが気を抜くと倒れそうだ。
 メーヴェの攻撃力と利香の生命力が大きすぎて、通常の回復手段では全く足りない。
 力負けしたルウが膝を折る。
 勝ったはずのメーヴェが、ルウよりずっと酷い顔色で口から血を吐き出した。
 だが顔色が激変する。
 魔種は呼吸を整えるだけで、全ての毒も呪いも体から追い出してしまった。
「目がぎらついてやがるな。腹が減っているなら、たらふく鉛弾を食わせてやるよ! 直接胃袋に叩き込んでな!」
 既に血が止まった傷跡に連続して着弾させる。
 ジェイクは敢えて挑発も誘引もしていない。
 イレギュラーズ前衛はもうぼろぼろだ。このまま戦い続ければ、小さなミスでもした側が死ぬ。
 だから血を流す傷をることで継続的ダメージを与え、時間経過がイレギュラーズ勝利に繋がる状況に持っていくのだ。
「イイ獣だ。ルウより先にっ」
 強靱な足が柔らかな地面を巧みに蹴りつける。
 生半可な防御ではついでに潰される速度と質量でジェイクを狙う。
 金の輝きが割り込み赤い魔種を迎撃する。
 黒羽の胸を貫こうとした爪を両腕を重ねて防ぎ、頭を胴にめり込ませようと振ってきた踵をなんとか横移動して肩で受ける。
 一方的にやられている。
 高水準の回避能力まで持つ魔種には、やや速度で劣る妨害目的の闘気は届かない。
「ここは通さん」
 ならば己自身を使うだけだ。
 黒羽は胴を壁に、手足を鎖として扱い、後衛がいる場所へメーヴェを通さない。
「墜ちる前の修練が魔種の体に染みついているか」
 ミーナの瞳に賞賛と決意の色が浮かぶ。
 一対一ならこの女に勝てる存在は少数だ。少なくともこの場には1人もいない。
「集団戦を徹底させらもらうぜ」
 黒羽が安全にした後方から、何度目になるかも分からない闇を広げて魔種の巨体を襲わせる。
 ミーナほどの腕の持ち主でも百発百中とはいかず、闇が染みこんだときには黒羽の防御を壮絶な突きが撃ち抜いていた。
「魔種リメーヴェよ。汝の業に相応しい場所へ逝くがよい」
 大きな口から悲鳴に似た息が漏れる。
 眼球の働きが鈍り、四肢が凍り付いたように衰え、毒すら効かないはずの臓腑を呪いじみた致死毒が冒す。
「倒れないか。だが」
 術に全力を投じたミーナは、死が近づき益々猛る魔種から逃げられない。
 だからアリーシャ達が来た。ミーナの期待と予想通りに。
「そこ!」
 アリーシャが前のめりに大剣を振るう。
 防御も回避も一切考えない、メーヴェのアキレス腱を狙った片道攻撃じみた一刺しを狙う。
 死角のはずなのに魔種が反応し足の向きを変える。
 表皮と腱を貫き砕くはずの切っ先が、腱の表面を削るだけに終わらされてしまった。
「お前も旅人か」
 アリーシャを墜として捕食できないのが痛恨だと全身で表現しながら、魔種は傷ついた足を軸に回し蹴りを繰り出す。
「通さん」
 フレイがふらつく足を技術で安定させ、黒い焔を思わせる細剣で足を切りつけ盾で防ぐ。
 重要部位に傷を負った足では精妙極まる身体制御は不可能。
 蹴りの微かな乱れを見逃さず、フレイは両腕への負傷と引き替えに致命的な移動攻撃を防いだ上で明後日の方向へと導いた。
「なる程、大した威圧感です。ですがこちらも退けませんので……」
 こちらが退けばあちらも退くような殊勝な存在ではあり得ない。
 アリーシャは生きて帰るため、最も危険な敵目がけて斬りかかる。
 赤い肌に新たについた傷は浅く、しかし防御に裂いた時間が前に進む時間も後ろに下がる時間も奪う。
「メーヴェッ!」
 傷だらけの獣種が駆ける。
 失血で意識を失いかけても闘志は衰えず、感傷で心技体が曇ることもない。
 墜ちる前のメーヴェなら、己の死のリスクを飲み込んでルウを迎え撃っていたはずだ。
「ハッ」
 だが今の彼女は魔種でしかない。
 冷静沈着に見えたとしても、本質は力への渇望へ呑まれて墜ちた魔種だ。
 勝つ可能性はあるのにリスクを嫌い、ルウを無視して逃げ出した。
「てめぇっ!!」
 ルウは、この戦いで初めて激怒した。
 メーヴェが食われた獣種と、何よりメーヴェ自身が汚された気がして、ルウは理性を吹き飛ばして魔種を追う。
 柔な土が、邪魔だった。
「無様ですね」
 利香が魔種に冷たい目を向ける。
 ルウに伸びた、牽制ですら一撃必殺になりうる爪を桃色の剣閃で迎撃。
 メーヴェの太い腕が不規則に揺れ、利香の骨にひびが入る。
 1対1で比べれば魔種有利。しかしイレギュラーズには利香達前衛が守った後衛が健在だ。
 ジェイクの銃弾が新しい穴を開ける。
 そこからの流血で失われる生命は僅か。それでも、死が間近まで迫ったメーヴェにとっては致命的だ。
「私はまだまだいける。魔種、お前はどうだ」
 死神の鎌が振るわれ、自然治癒直前の致死毒が新たに注がれる。
 大きな魔種は舌打ちを1つして、自らが迷宮に開けた穴に飛び込んだ。
「……よし、下がるぞ。奴の首より宝珠を確実に持ち帰る方が価値がある」
 ミーナは警戒を続けながら小声で囁く。
 落下の衝撃で土が崩れている。あの魔種が全力を出しても短時間では戻ってこれないはずだ。
「ああ。追撃はないとは思うが」
 ジェイクも銃を構えたままだ。
 万が一追撃があれば、戦闘力が激減した前衛を庇って戦う展開になりかねない。
「急ごう」
 無意識に視線を夜乃に向けていたことに気付き、視線を塞がった穴と亀裂へ向けた。
 大量の血が染みこんだ地面を小さな虫が這っている。
 フレイはその虫から自分自身の血の臭いがした気がして、けれど失血で目が霞む。
 視界が元に戻ったときには、既に虫はどこにもいなかった。

 魔種メーヴェの現在地は、不明である。

成否

成功

MVP

フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

状態異常

銀城 黒羽(p3p000505)[重傷]
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)[重傷]
暴風
リカ・サキュバス(p3p001254)[重傷]
瘴気の王
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)[重傷]

あとがき

 素晴らしい戦術でした。

PAGETOPPAGEBOTTOM