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シナリオ詳細

<虹の架け橋>螺旋階段のアミークス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「Bちゃん、Bちゃん。そろそろアタシの『オトモダチ』になりましょうよ?」
「有機物的にフレンドになる分にはOKだけど、カメリア的定義のはNG」
 にんまりと微笑んだのは若草の色を結わえた少女だった。巨大な裁縫針を手に、にこにこと微笑んでいるカメリア・フォスターにブルーベルは手をひらひらと振る。
「でも、アタシの『オトモダチ』になればずっと寝てられるのよ?」
「いや、死だし」
「ウフフ」
「まー。主様に死ねって言われた時はカラダくらいはあげてやんよ」
 カメリアはぱちりと瞬いた。これだけ気怠げありながらブルーベルは『主様』と呼んだ大いなる存在には忠誠を誓っている。その忠節は彼女の友人であるという『オッサン』――タータリクスも「驚いた! キョォーーミはないけどねっ!」と言う程である。
「カロにゃん様は『オトモダチ』にはなってくれないものね」
「カメリア、主様に手ェ出すなら流石にアタシがアンタを殺すよ」
 ぎろり、とその瞳が動いたそれにカメリアは「しないわ」と小さく笑って見せた。『オトモダチ』を増やしたいカメリアにとって『そうはならない』と否定するブルーベルと共に在るのはある意味で自己の目的とは乖離してる時間的ロスでしかないのだが、ブルーベルからの頼みであるならば無碍に断るのも憚られる。
 ――怠いと言う『B』はそれでいて、『大いなる彼』の指示を受けて動いているのだから。
「で、お願いって?」
「ああ、うん。オッサン……タータリクスの狙いは女王で、アタシは『主様のねんねの為の欲しい物探し』。此処まではOK?」
「ええ。それで、タータリクスさんはアーカンシェルを突破して妖精郷アルヴィオンに至ったのでしょう?」
 にこりと微笑んだカメリアにブルーベルは頷く。妖精側からすれば自身らの住まう場所に突然見知らぬ男とモンスターが現れて蹂躙されている状況だ。それは妖精側の話――魔種には関係はない。そこまでならばカメリアが手を貸す理由もないではないか。
「ンで、イレギュラーズがさ、妖精(あいつ)らのお願いを聞いて、『大迷宮ヘイムダリオン』攻略を開始しやがった。領域で『虹の宝珠』を手に入れりゃー進めるつってて、『もう結構な攻略が進んでる』」
 ブルーベルが苦々しく吐き捨てた。『色々あった』彼女にとっては可愛く微笑めば庇護下に置かれる妖精も易々と味方するイレギュラーズも好ましい存在ではない。その好ましくない存在の大活劇など見ていても嬉しくないのだろう。
「じゃあ、その攻略を少しでも遅らせて欲しいって事?」
「そゆこと。カメリアは『オトモダチ』作って来なよ。それで攻略速度が遅れりゃアタシは嬉しいし、カメリアだって嬉しいでしょ」
 ブルーベルのその言葉にカメリアは嬉しそうに目を細めて笑った。win-winならばさっそく、お友達を作りに行こうではないか。


「大迷宮ヘイムダリオンの攻略お疲れ様っすよ。でもまだまだ……頑張り時っすね」
『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)は旅する部族『パサジール・ルメス』の出だ。しかし、妖精郷アルヴィオンには行ったことも無く、大迷宮ヘイムダリオンも物珍しくその目には映る。
 妖精たちの『お願い』に応じて大迷宮で『虹の宝珠』を手にすることで妖精郷に至ることが出来る――そうなのだが、今回の階層は少しばかり状況が違う。
 リヴィエール曰く、魔種が発見されたのだそうだ。
 その名を『仕立て屋』カメリア。元は針子であった彼女は友人欲しさに人間を『ぬいぐるみ』にしてしまう。殺し、縫い付け、可愛いお人形をお友達と考えているらしい。
 可愛らしい外見とは裏腹に非常に残忍な行いをする魔種がヘイムダリオンの中をうろついているのだそうだ。曰く、『トモダチ(未満)のお願い』で。
「……カメリアはこちらを確認すればものすごい勢いで追いかけてくるっす。
 それを退けながら、一先ず『虹の宝珠』を探して『階層』を進まないといけないっす」
 虹の宝珠さえ手にすればカメリアはトモダチ(未満)のお願いを果たせずに撤退するだろう。
 その階層は入口から上へ上へと塔を上るように続いている。広々とした螺旋階段にはトラップやモンスターが配置されており、その最上階に虹の宝珠はあるだろう。
 問題は、魔種である。
 イレギュラーズが階層に突入して少しすればカメリアは『イレギュラーズを追いかけ始める』。つまりは螺旋階段を上るイレギュラーズを追いかけてくるのだ。
「アタシらはトラップの対応をしながらカメリアに追いつかれないようにしなくちゃならないっす」
「追いつかれる可能性は?」
「……万が一、っす」
 カメリアが追いかけ始めるタイミングを考えればトラップの対応に手古摺らなければ追いつかれることはないだろう。
 もしも、追いつかれたならば――?

「緊急脱出できるのよ!」と妖精はそう言った。「キャンディーなの。なめればお外にぽーんって放り出されるわ!」
 小さな妖精が手にしていた巾着をリヴィエールに渡している。何処か安心したような彼女は「一番の目的は虹の宝珠の確保っす!」とイレギュラーズに向き直った。
「頑張って、妖精たちをおうちに返してやらないと……帰れないのは寂しいっすから」

GMコメント

夏あかねです。Bちゃんが何か話してましたが、お願いを聞いてオトモダチ(未満)と鬼ごっこだ。

●成功条件
 虹の宝珠の確保。

●螺旋階段の階層
 迷宮の一部。大きな螺旋階段を上ります。上部に向かうにつれてトラップが多くなっていくので注意が必要。上るだけでも結構疲れます。
 また、継続戦闘が必要となります(お休みしているとカメリアに追いつかれる可能性がある為)。連戦になる事に留意してくださいね。

 >トラップ
 転がる落ちてくる石や落とし穴、触ると倒れる壁etc……
 古典的なダンジョントラップです。音やにおいなどの非戦スキルが有効です。

 >モンスター
 蝙蝠型のモンスターやウルフなどなどが至る所に配置されています。
 それぞれはそれほど強くありませんが至る所に存在するので注意してください。

●カメリア・フォスター
 元針子。孤児で、友達は人形やぬいぐるみでした。孤児であったことで周囲には迫害されていたようです。
 魔種となった今は『オトモダチ』を作る為に人間を殺し縫い合わせて人形としてしまいます。
 ブルーベル(通称B)はトモダチ未満。ブルーベルの主様の事もあり、彼女のお願いに従ったようです。合法的に友達増やせそうだというのも理由のうち。
 彼女に捕まると今回は分が悪いので『魔法のキャンディー』を使用して離脱することとなります。

●同行NPC:リヴィエール・ルメス
 パサジール・ルメス出身の少女。援護をするように立ち回ります。
 何か指示があればどうぞ。魔法のキャンディーはリヴィが持っていますが、預かっておくなどでもOKです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <虹の架け橋>螺旋階段のアミークス完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年05月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

サポートNPC一覧(1人)

リヴィエール・ルメス(p3n000038)
パサジールルメスの少女

リプレイ


 迫り来る――愉快愉快と笑いながら。巨大な裁縫針で心まで縫い取らんとするように。
 まるで人形の様な少女。カメリア・フォスター。魔種である彼女。
「命を賭けた鬼ごっこ、ね」
 精神を研ぎ澄ませ、罠に対処しモンスターにも対処をし、そして、天辺の宝珠を手にして逃げ切らねばならない。後方からは『鬼(デモニア)』が追ってくる。『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096) のその譬えは云い得て妙だ。
「捕まったら酷い目に合いそうだから絶対に逃げ切らないと……うん、私は鬼ごっこが得意だから大丈夫!」
「罠やモンスターを避けつつ、鬼ごっこ、か……」
 眼前迫る巨大な首を模したモンスターを退けながら『深海の金魚』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は小さく呟いた。逃げ隠れもその小躯を駆使すれば決して苦手とは言い切れない。だが、後方から迫り来るデモニアは『いずれは倒さねばならぬ存在』の筈なのだ。
(この場で仕留めること叶わないのは、あとが怖くもある、な……)
 彼女は『儚花姫』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の旧知である以上に、妖精郷アルヴィオンを騒がせるデモニアの一端、ブルーベルの『お知り合い』でもあるのだ。
(どれだけ親密な仲かは知らないが、『虹の宝珠』を手に入れて迷宮を抜けるのが、先決か……)

 ――時は遡る。妖精たちが用意した魔法のキャンディは迷宮から抜け出せる『とっておき』なのだそうだ。それを手にしてからヴァイスは高い高い塔を見上げる。先は遠く、階段を上って居かねば次に何があるかを判別することは難しいだろう。
「お家に帰れなくなるなんて不安だし悲しいよね、その気持ちはよくわかるよ。
 妖精さん達がちゃんと帰れるように宝珠を確保してあげないとね!
 ……でも、凄く長そうだけど何段くらいあるんだろう」
 柔らかに微笑みを浮かべた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727) 。妖精たちにとっては自身らの『故郷』に戻る方法が断たれた状態だ。その上、故郷には『悪党』が攻め入っているというのだから、気が気でないだろう。見上げた時の声の反響でさえ『先』が視ることが出来ない。しかし、非常にシンプルなオーダーに焔は「行かないと」とやる気を漲らせる。
「今回は階段を上り切った先で宝珠を確保できるのね。頑張って宝珠の確保を目指しましょう」
 穏やかな笑みを浮かべたヴァイスは指先で飴玉を転がして小さく溜息を漏らす。ゆっくりと階段に足をかけ、上を目指すようにゆっくりと顔を上げた。
(……ところで、『あの子』も来ているみたいだけれど……いえ、駄目ね。今は最上階を目指すことに全力を懸けましょう)
 現状は極めてシビアだ。どのようなトラップがあるか分からない上に『下』から追ってくるものがあるのだという。
 ポケットの中のキャンディを確かめて『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は走り出す。ロングスカートの内側でフリルが大げさな程に揺れ動き、足に絡むのを厭うようにゆっくりと持ち上げる。
「さあ、行きましょう。急いで……!」
 響く音を頼りに走るラヴに続き、『探究者』ロゼット=テイ(p3p004150)が階段を駆け上がる。自身の身体能力を武器にし、トラップに警戒し続けるロゼットへ先陣奔る『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)より「足元気を付けて!」という声が掛かる。
 罠の構造さえ分かればこちらのものだと云うように罠への対処を行う『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はラヴが『何かの音を感じた』事に気付き、その掌に力を込めた。
「なんとか先に宝球を見付けなきゃ……っ」
 背後より聞こえるは足音。そして――視認する距離に確かに、緑髪の少女が立っていた。


 ぐるぐると、回る回る。上へ上へと繋がって――螺旋階段を駆け上がりながらロゼットは溜息を漏らす。
「こんな場所で、なんかヤバそうな魔種と追いかけっこするしかないんだねえ。
 友達って多分追いかけたり、縫い合わせたりして作るものじゃない気がするけれど……」
 そう呟けどカメリアに『理解を促す』事が出来ないのは分かり切っている。魔種というのは非常に度し難い存在なのだ。自身の中でも友人カウントを考えればカメリアと大差ない――などと考えて『お口にチャック』しかけてからふと、振り仰ぐ。
「月は友人にカウントされますか、されないねわかります」
 にんまり笑ったデモニアの裁縫針は確かに自分たちを狙っていたのだから。
 歩を止めてはならない。背後よりまるで雑音のように聞こえた笑い声にラヴが眉を顰めれば、ヴァイスは「あの子の事だもの」と囁いた。
「お友達になって頂戴と乞うているのではなくて?」
「……友達、友達か……。友達は素敵なものだけど、そんな『オトモダチ』はごめんだよ」
 シャルレィスが前線で『空舞う』ように罠対処を行いながら進むその背後でラヴは小さく頷いた。足を止めてはあのデモニアは喜んでイレギュラーズ達を狙ってくるだろう。彼女の相手をしている暇がない――というのは妖精の談だ。
 彼女との戦闘を避けて欲しいという妖精はキャンディを用意してきた。リヴィエール曰く「あんまりデモニアを大っぴらに刺激したくないんじゃないっすかね?」との事だ。
「リヴィエール、アイツは此処で見逃して、その後、どうなるとおもう?」
「どう――まあ、『あのまま』っすよ」
 エクスマリアは小さく頷いた。カメリア・フォスターは非常に分かり易い魔種だ。凶行に及ぶ理由は『友人作り』だ。針子の娘は人形として永久の友情を構築しようとしてくるのだろう。此処で我武者羅に相手にするよりは機を待って相手にした方がよいという情報屋兼旅の娘にエクスマリアは緩く頷く。
「ならば、往こう。短距離走で、負けてはられん。……人形にされるのは、御免だから、な」
 ポケットの中のキャンディの包み紙が爪先に悪戯をする。まるで、応援するような『妖精のささやき』を受け取り乍らエクスマリアは走った。
 後方で移動するイナリは自身すべての感覚を生かして回避に回る。イレギュラーズ全員での情報共有は着実にカメリアとの距離を離しているだろう――だが、眼前に存在するのは罠だけではない。
「こんな所にモンスターが居るなんて言うのが『意地悪』よね」
 足を止める事無く、天叢雲剣を手にした儘、モンスターを退け続ける。イナリにはもう一つカメリア対策があった。星夜ボンバーと名付けたはちょっとしたパーティーアイテムだ。その仕掛けは使用することで大仰な音を立て、煌めく星を散らばらせる。式神がカメリアに対して『猫だまし』でも行えたならば――少しは興味を引けるはずだと踏んでいた。 ダイナマイトも『後方』に居る事を活かしての罠として使用をし続ける。
(これで、カメリアの動きが止めれば最良だけれど――……)


「どこいくのかしら? せっかく『仲良しになれるのに』」
 徐々にその距離が詰まっている事に気付き始まる。その『音』を聞きながら前方にはモンスターが、後方にはデモニアが迫っている事にラヴはゆっくりとイナリへと合図した。
「近いのね。分かったわ……!」
 爆竹の破裂音。その音にモンスターが怯んだ気配を聞きながら、イレギュラーズは走り抜けていく。
 キャンディは後ろ手に。まだ、距離はある――しかし、ヴァイスは決意を固めていた。
「先に、行ってくれるかしら?」
「この者は宝珠を目指す」
 頷くロゼット、そして、「無理しないで」と囁く焔の言葉にヴァイスは頷く。この『足止め』の間に、ラヴは宝珠を目指さんと最上階まで走り続ける。
「……先に行くわ」
「ええ。大丈夫。なんとしてでも、皆を送り届けて、私も戻るのよ。
 しっかりとした意思表示をしたうえで、ね。だから、宝珠の事はお願い」
 ヴァイスに頷いたラヴは只、天辺を見据える。ヴァイスの傍らでミルヴィは「アタシも支えるよ」と大きく頷いた。声が届く距離、階段から見下ろせば天より地が覗き見える。その対岸の手すりをぎゅ、と握るようにしてカメリア・フォスターは『待ち望んでいた』とヴァイスを見ていた。
「やっと――」
「ごめんなさい、カメリアちゃん。私は、貴女の言う『特別なオトモダチ』にはなれないわ」
 ぴく、とカメリアの指先が動く。彼女の足が止まった事に気付き、ミルヴィが上階へと顔を向ければ、それを察したようにイナリは頷いた。今のうちなのである。カメリアを『足止め』しているうちに宝珠を手にすることが出来たならば――走る、只、その足に力を込めて、前へ前へとエクスマリアは走り続ける。
(友達か。どうやら、あのデモニアは、それに固執している。
 ……来るならば、足元を、崩落させるしかない。最悪、こちらには飴がある)
 振り仰いだエクスマリアの双眸は美しい青い瞳でしっかりとカメリアを見据えていた。
 友人に固執し、そして、ヴァイスという美しい娘に固執し、『友人を作ること』に固執している――彼女の人形の様な愛らしいその表情が徐々に抜け落ちていく。
「どう、して」
「どうして……ええ、貴女を否定してごめんなさい。
 けれど――だから、さようなら。今回は、依頼だけれど……」
「仕事、だから」
 唇から声が震えるように溢れ出す。ヴァイスを、そして、その後方に立ったミルヴィを見据えカメリアは戦慄く指先で裁縫針をぎゅうと握りしめた。
「次があるなら、その時は私もちゃんと、しっかりとした答えをあなたにあげるわ」
「そんなの――遅いわ!」
 走り寄るカメリアの足元ががらりと崩れる。しかし、距離が近い事に気付いてヴァイスが咄嗟に眉を寄せた。キャンディを口に含んだ彼女を庇う様にミルヴィがするりとその身を滑り込ませる。
「へっへー♪ そう簡単に捕まえさせないヨ!」
 舞うように、ミルヴィは夕闇の刃を翻す。その動きやすいオリエンタルな踊り子の意匠は靭やかなる乙女の動きによく似あう。
(この子も一人ぼっちなんて辛いよ。
 ……魔種だろうとなんだろうがこの子の苦しみは人間だった頃からの物……)
 その心を解き解す事が出来なくとも、助けるその手を差し伸べられるはずとミルヴィは微笑む。
 彼女らの道が交わる事を願って――さ、笑っていこう! と堂々たる笑みを浮かべた儘。
 伽藍と音を立てた足場より、徐々に奔る音が響いてくる。ヴァイスを守るように立ち振舞っていたミルヴィの額にも汗が滲んだ。
「……まあ救われなかった云々の可哀想な子なんだろうけど、別に救いとか無くても生きていけるのが人間だし」
 ロゼットは小さくぼやく。反転しなくてはなければ――魔種の呼び声など、なければよかったのに。
 カメリア・フォスターは虐げられて過ごした少女だった。幼い儘のその心に闇を抱えた、彼女に付け入るように響いたその声が悪かった。ロゼットは呻く。彼女は『呼び声などない場所に入れたならば』誰かが同情し友人になってくれただろうに、と。
「……いや、されたところでなんの足しにもなんないけど、ねえ。
 ああ、トモダチにはならないよ、居なくても別に、絶望する程の事では無いしね」
「きっと、カメリアにとっては『トモダチ』はそれだけ大事な存在だったんだ」
 シャルレィスは唇を噛み締めた。分かれども、彼女はデモニア。決して交わる事ないと言うように、彼女のその瞳は『最上階フロア』を捉えていた。


「ラヴさん、もうすぐだよ!」
「ええ、あと少し……この儘、モンスターを斃し切りましょう」
 とん、と爪先に力を込めたラヴにシャルレィスは頷いた。夜を幾重にも織り続けて、形作られたその拳銃が天蓋穿つ。夜闇がどろりと泥のように落ちてくる。その錯覚にモンスターが狼狽え始める。
「さあどうぞ、夜を召しませ。天地が逆転する幻象に、貴方は抗える?」
 喉に滑り込む様に闇に蝕まれるモンスターの脳天へシャルレィスが刃を突き立てる。烈風は、風を纏いモンスターのその身を切り裂いていく。暴風を纏う蒼き剣閃は怒涛の如く、すべてを切り裂いてゆく。
 風を身に纏い天空を奔るシャルレィスの狭間を抜けて、エクスマリアは灰色の指輪をその指先の魔力を離さぬままに宝珠へ向けて飛びこんでゆく。

 ――冷静さを欠かなければ、十全にことは為せる。

 ならば、罠を掻い潜る。モンスターのその足元に小躯を滑り込ませれば、最上階まではあと少しだ。
 ロゼットの翼がきらめきを帯び続ける。その光の粒子の下を燃え盛るは火炎の滾り。今、デモニアと相対することは難しい。焔がエクスマリアに追従させたのは自身が連れた神の使い。
「さあ、行って!」
 その身は神楽を舞い踊る。『焔』のその名を冠し、加護を身に纏ったままにカグツチ天火を振り下ろす。赤い髪を引き立てるは美しき白華。
「此の儘、ボクらがゴールだ!」
 焔のその言葉に頷いたはイナリ。鬼ごっこは大得意だ。ならば――足を止めず前へ前へ、鬼が落ちていって距離が空いたならば眼前の存在を『落として』しまえばいいと顔を上げる。
 片や『焔の化身』、片や異界の焔をその身に宿す巫女。巫女は乱撃で赤き焔に鮮血を広げ続ける。
「此の儘、先に行って!」
「ああ、任せろ」
 エクスマリアを支援するように、ラヴの唇が揺れ動く。五文字の言葉が耳朶を滑り落ちてゆく。モンスターのその胸へと打ち込まれるは弾丸。
 夢とその名を冠したならば、眠るその日に見なくてはならない。宝珠をその視線の端に捉えたままにラヴは唇を震わせた。
「――おやすみなさい」
 しあわせな夢見て、そのまま優しくて残酷な明日(みらい)を迎えられるようにと願わずにはいられないとゆっくりとその指を組み合わせて。
 夢の狭間を切り裂くように、その身を捻ったロゼットがモンスターのその身を螺旋階段の下方へ下方へと落とし往く。遠く、ずんと音がすれば、もはや追う者は何もいないかと獣のその身は危機が退いた事に気付く。
「この者は落ちる事だけはしたくはないが、こういう時は止むを得ない。この者達は『キャンディ』で帰るから、先に下で待って居てくれ」
 淡々と告げるロゼットの声に、後方から追いついてきたミルヴィが小さく笑う。「待っててくれない相手が後ろから追ってきてるよー」と冗談めかしてヴァイスを庇い続ける。
 振り仰いだ焔は「相手にできないから、悔しいけど『宝珠を取って逃げ切ろう』」と声を響かせる。螺旋階段の中、友人も止めるデモニアの声を聞き、そして――エクスマリアの指先が『虹の宝珠』へと触れる。
 その褐色の指先がそっと包むように手にしたそれが光を帯びて、背後の魔種の動きが止まった。

 ――カメリア、鬼ごっこは負けじゃん。

「何よ」

 ――帰って来なよ。どーせ、近づいても『妖精(あのチビ)』の悪戯で逃げられるよ。

「……何よ」

 カメリア・フォスターは呻いた。その呻きを聞きながら、最上階よりイレギュラーズは離脱する。
 美しい虹の宝珠を手に入れて――大迷宮ヘイムダリオンの次の階層の扉を開くように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でしたイレギュラーズ!
 彼女との戦いはまた――ですね。

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