シナリオ詳細
<Breaking Blue>ウィステリア・ミストの夢
オープニング
●ネタマシイ
絶望の青を進むヤツラがいる。
これまで何人もの、何隻もの同胞を沈めたこの海へ。
妄執と怨念が満たされたこの海へ。
嗚呼、羨ましい。
お前たちは生きている。
お前たちは先へ行く。
お前たちは夢を追う。
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい──
──妬ましい、嫉ましい!!!!
●ローレット
「ぴよーーっ!!」
ころろんと床を転がる黄色いひよこことブラウ(p3n000090)。先の鳴き声と併せて考えればどう考えてもぷちアクシデントに見舞われたとしか思えない。
──人間姿になればいいのに。
誰も彼もがそう思っているだろうが、彼はひよこ姿が良いのである。
「んしょっ、」
ぴょこっと起き上がり、丸めた羊皮紙を咥えるブラウ。たかたかと駆けていくのはイレギュラーズたちの元だ。
テーブルに乗せてもらい、羊皮紙を広げたブラウは一同を見回した。
「お待たせしました! それでは依頼……絶望の青攻略についてお話ししますね!」
海洋の一大事業、絶望の青攻略に一筋の光が差したのはつい先日。荒れる天候、幽霊船、狂王種──数々の苦難を乗り越えた先に1つの島が見つかったのだ。
魔種たちの蔓延る『アクエリア』はイレギュラーズ、海洋軍によって制圧され、現在は橋頭堡として機能している。この島でバカンスをしたイレギュラーズもいることだろう。
海洋王国とイレギュラーズはアクエリアを足がかりに絶望の青──その後半の海へと向かうことが可能になった。これからはその先を目指して航海を進めることとなるのだ。
だが、行く先に。そして今も暗雲が垂れ込めていることに変わりはない。絶望の青のどこかにいるだろう冠位、アルバニアによって仲間たちの命が危険な状態へ晒されている。
「廃滅病(アルバニア・シンドローム)……これは遅らせることができても、まだアルバニアを倒す以外に治す手立てが見つかっていません。
そして絶望の青へ向かえば、発症していない方でも新たに発症する可能性があると僕たちはわかっています」
理解していて、けれど送り出さないわけにはいかない。魔種を放置するわけにはいかず、仲間を見殺しにするわけにもいかないから。そして何より、絶望の青の先を見るという海洋の悲願達成のために。
船を進めて絶望の青を攻略せんとすれば、アルバニアは必ず出て来るだろう。いや、出て来ざるを得なくなる。それは同時に仲間たちを救う機会となるはずだ。
「危険は皆さん、十分わかっている事かと思います。なので……どうか、気をつけて。いってらっしゃい!」
●夢の果て
「見事な濃霧だな」
やれやれと顔を顰める海洋軍兵。彼の顔には疲労が色濃く残り、見るものが見れば死相が──『死の香り』が纏わり付いて、彼を苛んでいることがわかるだろう。
ここまで来る途中で廃滅病に罹患した兵だ。その顔色は良いとも言い切れないが、航海に支障はないと言う。
「ここまで来たんだ。あともう少しってやつだろう?」
にっと人の良さそうな笑みを見せた兵は、濃霧の先を見据えるかのように前を向く。そこには死を宣告された者とは思えない思いを滲ませていた。
この先には何があるのか。
この瞳には何が映るのか。
この耳は何を聞いて、自分はどんな思いを抱くだろうか。
兵は決して若いとは表現できない外見をしていたが、その表情はまるで冒険の物語をせがむ少年のようで。
しかし不意にその表情は崩れ落ちる。
「おい、何かくる!」
「何か?」
「海がおかしいぞ」
他の兵たちもざわつく中、海面が盛り上がる。水しぶきをあげながらそこに現れたのは──いくつもの人面を体に宿した、巨大なタコだった。
その腕が勢いよく海から出たかと思えば、次の瞬間には海洋軍の乗った別の船に振り下ろされ。両断された船から物資や人が落ちていく。
「砲撃準備!」
「イレギュラーズを援護しろ!」
乗った船の兵たちが慌ただしく態勢を整える中、イレギュラーズはすぐさま武器を構えてタコを睨みつける。その脳裏に浮かぶのは出発前に聞いたブラウからの言葉だ。
──皆さんは特別な加護によって守られていますが、この先では棺牢(コフィン・ゲージ)という怨念が漂っています。
廃滅病の患者へ取り憑き、理性を削って狂王種に匹敵する化け物を作る生き物。いや、怨念と言うのだから生き物という言葉は齟齬があるかもしれない。
すでに数名の軍人は取り憑かれ、暴動の危険性から海に取り残されていたとも聞く。"これ"はそのうちの1体と見て良さそうだ。
『イヤダ』
タコの表面に浮かんだ1つの口が呟く。老若男女、様々な顔の口が次々に思いを口にした。
『イヤダ』
『ヴラヤマジイ』
『ダズゲデ』
『ネダマシイ』
『コロセ』
『コロセ』
ぎょろりと一斉に無数の視線が船へ集まる。お前たちだぞ、と言いたげに。
『コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロ○▼※△☆▲※◎★●──!!!』
- <Breaking Blue>ウィステリア・ミストの夢Lv:13以上完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年05月03日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「◎△$♪×¥●&%#?!───!!!」
メアが言葉にならない咆哮をあげる。ぞわりと背筋が凍るようなそれを耳にしつつ、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は目を眇めた。傍らで『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)はすでに保護結界を張り、自らを光らせてその位置を知らせている。
(濃霧に巨大なタコの化け物か……)
少しでもこれで対策になると良いが、とポテトは化け物を見上げる。棺牢(コフィン・ゲージ)に憑りつかれたモノは変異種と呼ばれるらしい。
さあ、戦いは既に始まりを告げている。先ほど変異種が上げた咆哮で既に海洋軍の数名は目の色をおかしくしているようだ、ポテトは言霊で以て彼らを正気に返らせた。
「海洋軍の皆さんは砲撃で援護をお願いします。無理はしないでください」
はっとポテトへ視線を向けた彼らは敬礼で以て答える。素早く配置につく彼らを見て『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は大きく声を上げた。
「さあ、我々の力を証明しようか!」
味方の士気を上げる大号令、そして常に仲間たちを正しき思考へ導く言霊。ゼフィラの言葉に海洋軍の応える声が腹へ重く響く。
「さっさと片付けてしまいましょう。正面は我々におまかせくだせー」
『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)の構えた銃から魔力弾が放たれる。威嚇するような射撃と海洋軍による砲弾は少しずつメアの動きを牽制し、可動域を狭め──次の攻撃へ繋げるのだ。
「たこ焼きに出来ないような敵は勘弁っすよ 怨嗟を煮詰めて作ったような奴には此処で退場して貰うっす!」
『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)の放つネメシスの光がメアを焼く。敵の表面に浮かんだ顔が一斉に苦悶の表情を浮かべた。
『イダイ』
『キエロ』
『ドウシデ』
『イヤダ』
(──藤色の霧の奥。ボクらの命を妬み、羨む声がする)
ラピスラズリの剣を握り、『君に幸あれ』アイラ(p3p006523)の視線はまっすぐ前へ。この身が持つのは誰かを傷つける魔術しかないけれど、その全力で迎え撃つことこそが敵に対する礼儀だろう。
本当は誰かを護る魔術が覚えたいけれど──誰かを傷つけなければ、誰も護れないこともまた事実なのだ。
「メア。貴方の手足は8本。ボクの手足は4本ですが、知識という武器があります。
全力のキミとボク。どちらが早く折れるか──勝負です!」
アミュレットがその言葉に、彼女の戦意に反応して強化魔術を発動させる。ぱきりと石の割れる音が小さく響いた。
メアの頭上より雪がちらつき、かの命を蝕んでいく。身をよじらせる変異種の頭上へふと影が差した。
「私は、私たちは止まってなんていられないんだ!」
彗星の如き魔剣の斬撃が敵を強かに打つ。すぐさま音速の殺術で1度、2度と切り返した『雷雀』ティスル ティル(p3p006151)は大きな翼でメアの至近距離から離脱する。
絶望の青に挑み始め、彼女は色々なものを目にした。無念も怨念も勿論ある。それでも進みたいから──海洋軍の助けも得て、仲間たちの助けも受けてティスルは此処を乗り越えるのだ。
「海軍の皆さん、もうちょっとだけ頼りにさせてくださいね!」
肩越しに告げればティスルの背には「こちらこそ!」と返される。そこにはイレギュラーズたちへの確かな信頼が感じられた。
「怨念に負けた者の怨念で更に怨念を再生産する……実に厭らしい手口です」
ヘイゼルの手から放られる発煙筒は海水に触れて勢いよく発火し、ゆっくりと沈みながら煙を空へ登らせる。それにぎょろりと視線を向けたメアへヘイゼルは朱の魔力絲を結ばせて。
「……けれども。強固になればなるほど、逆説的に果てへ近づいていることを示しているのですよ」
進めば進むほど、到達できなかった者の未練は大きく、やがて強い怨念となろう。ここで強大な敵に当たるのならば、今後さらに強い変異種が現れるのなら。それは目に見えた進行度だ。
その注意力と生命力を削いでいくヘイゼル。その脇をすり抜け、『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は甲板を強く蹴る。
黒の外套をはためかせ、槍を高速に薙ぎ払うベネディクトは巨体や人面の様子を見た。複数の人面は別々に想いを言葉として吐き出しているが、その実生命体としては『1体』であるらしい。
(随分と大きな障害だ)
しかし、目的のための障害であるからこそ意気もまた猛るというもの。
「そこを退いて貰うぞ──我々の目指す先は、貴様が居るその先にあるのだから!」
びたんびたんと続けざまの攻撃を耐えたヘイゼルはステップを踏み、メアを死へ誘う。
「雑多な嫉妬心でしたら……御互いに向かせるだけなのですよ」
人面たちがそれぞれの意思で足を操っているのならば同士討ちも狙えるだろう。惑わせその対象を自分から、自らへ。
『イダイ』
『イダイ』
『ドウジデ』
「同じ言葉ばかりで実に詰らない方々ですね。まあ、人面の多彩さや顔芸の切れ味は印象的でせうか」
ステップを踏みながらヘイゼルは人面を一瞥していく。老若男女様々な人面だ。あれら全てがこの海に沈んでいった者たちのなのか、それとも──『メア』になった者に縁のある人間の顔が覗いているのか。
「皆、狂気に負けるな! 全員で帰るんだ!」
ポテトの声が仲間を鼓舞し、敵へと意識を集中させる。誰もがこの化け物に、絶望の青に、アルバニアに負けるものかという想いを胸にして。
(この海を越えて、死兆から彼や仲間を開放するんだ!)
廃滅病にかかった愛する人を、大切な仲間たちを思い浮かべながらタクトを振るポテト。その癒しが前線で体を張るヘイゼルへ向けられる。追ってジルも大天使の祝福で支援した。
「足も鳴き声も五月蝿いっすけど、気張ってくださいっす!」
ゼフィラは自らの精神力を弾丸へ変え、メアへ撃ちだす。ここで出し惜しみなどしていられない。最初から最後まで最大火力で押し通すくらいの気持ちでいなければ、早期撃破はできないだろう。
(マリナのおかげである程度は大丈夫だろうが、決着は早めに付けたいからね)
あの巨体から技が繰り出されるのだ。受けるこちらだけでなく船の強度も心配される。
「この辺は本当に、怨念やらそーいった類が多いでごぜーますね」
自らの乗る船を沈ませないギフト『クラバウター』の所持者であるマリナは、攻守どちらを取るか見極めながら敵を見やる。かの変異種が上げる方向はぞわぞわとした悪寒を走らせるものの、身に着けた仮面がそれを打ち消していた。
(海の浪漫と脅威は隣り合わせって事でしょーか……)
「……っ」
ジルの声に次いで薙ぎ払いがやってくる。すぐさま戦況を確認すべく辺りを見渡したマリナの視界に、次の攻撃へ咄嗟に腕を交差させるアイラの姿が映った。
つぅと垂れる赤。それは酸素に触れたことで緋炎の蝶へ変化しメアの元へ飛び立っていく。その耳に触れるのは潮風に紛れて聞こえる怨嗟。その肌を刺すのは身も竦むような視線。
(それでも……ボクの帰りを待つ人のために)
彼の優しい表情が脳裏に浮かぶ。あの人の元に絶対帰るのだ。だから──。
「──まだ! まだボクは、キミに負けていませんよ!」
マリナの力がアイラの傷を癒し、1度後退した彼女は再び前線へと躍り出る。狙うはこちらへ向けてくる視線の先、目だ。
ティスルはふわりふわりと翼で舞い、しかし彗星が降るような速度で1撃を叩き込む。そして素早く後方へと飛びのくが──その頭上まで真っすぐにメアの足が振り下ろされた。
「ティスル! 皆!」
ポテトが声を上げる中、ティスルはゆらりと立ち上がる。纏うオーラは稲妻のそれだ。
(今回は普段以上に助けられてばっかりなの。だから、私のできる事でお返しをしないと)
砲撃を続けてくれている海洋軍にも。支援と攻撃を共にしてくれる仲間にも。その号令があるならば──。
「雷雀は舞い踊って見せましょう! さあ、アイツのどこをぶち抜けばいい?」
目を、という言葉にティスルは助走をつけて舞い上がる。示された通り、敵の目を狙って。
彼らの意思を継ぐなどと勝手なことは言わない。彼らがどんな意思を持っていたかなど彼らにしか分からない事。
だから、今ティスルがここで進もうとする理由は。
「絶望の青の先を見るんだ! 絶対に生きてあなたたちを越えていくから! 覚悟してよ!」
ティスルの剣がメアの目を傷つける。メアの体が暴れるように大きく揺れ、ひときわ大きな咆哮が一同を襲った。重ねられるクェーサーアナライズと治癒が仲間たちを支え、彼らに力をみなぎらせる。
「恐れるな! 全ては我らの友の為、そして諸君らの国の為、家族の為に! ──我々が切り拓こう、絶望の青を!」
戦いを長引かせてはならないと、全ての力を込め鋭い踏み込みで1撃を放ったベネディクト。彼の言葉が海洋軍を鼓舞し、その瞳に力を取り戻させた。強敵相手とあれば心も折れてしまうだろう。けれど、彼らの切り札であるイレギュラーズに望まれるならば。
「攻撃来るっす! 落ちないように気を付けて、」
ジルの言葉が終わるより早く、メアの足がぶんっと風を切る。薙ぎ払う足によって砲台が1台巻き込まれた。幾人かが海へ落ちた音がするが、マリナが予め用意しておいた縄を伝って戻ってくる様が見える。
「皆さん、手持ちの銃でも良いので攻撃の継続を」
ヘイゼルの言葉に軍人たちは頷き、腰元から銃を出してメアへ発砲する。その1撃はメアに対して大きな痛手とはならないかもしれないが、手数の1つには数えられる。重ねられたそれはイレギュラーズを助けるのだ。
「踏み潰していくことを礼儀とさせて頂きましょう。同じく果てを目指す者たちとして」
舞踏のように進められる歩が確実にメアを死へ近づけていく。傍ら、海洋軍の様子を見ながらポテトが声を上げた。
「ジル、回復を」
「はいっす!」
頷いたジルは彼らの恐怖を打ち払い、その傷を癒していく。
「皆さんの砲撃、効いてるっすよ。だから呑まれちゃ駄目っす!」
1撃の重さも重要だが、数も同じくらいに重要だ。どれだけ強くとも多勢に無勢と言う。だからこそ彼らを欠けさせてはならないとイレギュラーズは認識していた。
ゼフィラとてあちら側の立場になれば、先に行ける者へそのような感情を抱かない自身はない。けれども今は自分たちが先へ進める者だ。同情していては進むこともできない。そして自分たちが進めなければ海洋軍も、また。
「そうだ、あと少しだ! 決して希望を捨てるんじゃない!」
ゼフィラの希望を後押しする声に海洋軍たちが応える。その顔には明らかな疲労が滲み始めていたが、メアが倒れるまで気を抜くことは許されない。マリナが天使の福音を響かせ、次いでポテトも治療を施す。
(私の攻撃は当たらなくてもいい)
ポテトの役目は誰も倒れないようにすること。メアの動きを防いでいくこと。
「全員揃って、先へ進むんだ!」
そのためにはこの怪物を、かつてはヒトであった変異種を倒さねばならないのだ。
(貴方たちの魂はここに置いていくのではなく……私が受け継ぎ、背負っていきますよ)
マリナは仲間を支援しながら、メアに浮かんだ人面たちをじっと見つめる。今言っても止まらないだろうが──どうか届けと想いを込めずにはいられないのだ。
怪物が吠える。けれどもアイラもまた、その狂った想いに呑まれぬ1人。手にした絶望譚は確かに自身を自身たらしめている。
「キミの狂気は効きません。ボクたちはそんなものに、惑わされない」
メアへの攻撃は確実に効いている。初めよりその動きは鈍くなっているのだ、こちらが先に折れてなるものか。
ティスルがソニックエッジでかの足を斬りつけ、そこへベネディクトが傲慢なる左手で深く深く傷をつける。海洋軍の者たちが望んでくれるのならば、何度だって──振れる限りこの槍を振ろう。只々、この先に行くために。
「俺達は先に行く。希望の灯が僅かでも灯っているのであれば」
──その時だった。
●
「──おい、どうした!」
唐突にそんな声が後方から上がって、イレギュラーズは咄嗟に振り向いた。その視界に映ったのは『歪な何かを曝け出した』1人の軍人。目を見開き涎を垂らす男に仲間が正気へ戻そうと肩を掴むが、凡そ人とは思えぬ力で弾き飛ばされた。
「正気に戻るんだ!」
ポテトが立て直さんと言霊を放つ──だが、それが効いた様子はない。
(狂気では、ない……?)
ならばどういうことなのか。思案を巡らせるのにさしたる時間は必要なかった。
──海に彷徨う怨念『棺牢(コフィン・ゲージ)』。
ブラウが言っていたではないか。
イレギュラーズ『は』特別な加護によって守られているのだと。
既に数名の軍人はコフィン・ゲージに憑りつかれたのだと。
コフィン・ゲージは廃滅病患者に憑りつき、化け物を作るのだと。
この船にも、廃滅病患者はいたじゃないか。
「しっかりしろ!」
「駄目です聞こえていません」
「距離を取れ!」
「いや抑えこめ! イレギュラーズの邪魔をさせるな!」
船員たちが慌ただしく口々に違うことを言い合う。どうする、どうしたらいい。その答えをイレギュラーズたちは──持ち合わせていない。
『おレ、もうスコし、絶望のアお、いやダ』
コフィン・ゲージに囚われた男は、それでも絶望の青を越えたいのだと口にする。その言葉は文章としては少々おかしくなり始めていたがまだ理解できる範疇だ。
けれどイレギュラーズがメアと相対する間にも海洋軍は彼を抑え込もうと奮闘し、砲撃の手は少なくなる。長引いてもイレギュラーズたちの精神力が尽きることは早々ないが──それでも、傷は重なり深くなるのだ。
ポテトが天使の福音を響かせ、ジルが召喚した羽根結晶を相手へ飛ばす。回復して攻撃して回復して。それでも劣勢を感じることは否めなかった。
「イレギュラーズ、一旦引き上げるぞ!」
軍人が声をあげる。イレギュラーズの表情には一様に悔しさが滲んだが、海洋としても切り札であるイレギュラーズたちを欠けさせるわけにはいかない。
なりたいと思うだけで、世界を救う『特異運命座標』にはなれない。彼らの代わりになりたくても願うだけではどうしようもないのだから。
イレギュラーズの視線は軍人から変異種になりかけの男へ移る。ぎょろ、とイレギュラーズへ視線を向けた男は、それから仲間『だった』者たちを見た。
『ステて、イケ』
数時間後、アクエリア島へ1隻の戦艦が帰還する。
戦艦自体には多少の傷が目立ったが、補修にはそこまで時間がかからないだろうという見立てだ。
イレギュラーズには怪我が酷いものもいたが、死者はゼロ。海洋軍に所属する者も然り。
しかし変異種『メア』の討伐には至らなかったとのこと。そして海洋軍人1名がコフィン・ゲージに憑りつかれ、かの海域で行方不明になったということだった。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です、イレギュラーズ。
傷を癒して次へ供えましょう。
またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●重要な備考
<Breaking Blue>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
●成功条件
怪物を撃破する
●情報精度
情報精度はBです。
嘘はありませんが、不明点も皆無ではありません。
●エネミー
・怪物『メア』
巨大なタコです。表面に無数の人面が浮かんでいます。人面含め知能は低いと見られます。
足で叩きつける、薙ぎ払う等の攻撃を行います。
特に複数回行動、素早さに長けています。狂気やブレイクの入り混じった攻撃もしてくるようです。
基本的には船から至近距離で届く近さにいます。
●フィールド
甲板は十分に戦える広さがあります。
現在濃霧が発生しており、中距離以上のレンジでは判定にマイナス補正が生じます。
●友軍
・海洋軍×15人
皆さんの乗る船を操ってきた船員たち。砲撃で援護してくれますが、そこまで効いてなさそうです。でもないよりはあった方が良い程度。
指示があればある程度は動きますが、その分砲撃は疎かになります。
●ご挨拶
愁です。
かなり気合を入れて討伐して下さい。Hardです。
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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