シナリオ詳細
<Breaking Blue>怨嗟の声上げる幽霊船
オープニング
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ネオフロンティア海洋王国において発せられた海洋王国大号令。
絶望の青に挑む王国軍とローレット勢だが、局地的嵐に狂王種(ブルータイラント)、魔種に廃滅病(アルバニア・シンドローム)と航行は困難を極める。
現状、アクエリアと呼称する島を足掛かりとし、一行は絶望の青後半の海に挑む。
アクエリアにて女王エリザベスから霊薬、黄金の果実を使ったアップルパイを振舞われ、アルバニアによる廃滅の呪いを遅延させるのだが……。
廃滅病が治癒したわけではなく、病は徐々に絶望の青に挑む王国民、イレギュラーズ達を蝕み、死へと近づける。
一行は絶望の青の攻略を進めて新天地(ネオ・フロンティア)を目指しつつ、アルバニアを戦線への引きずり出しをはかるのだった。
●
現状、海洋王国と共に絶望の青の攻略に取り掛かっているローレット所属のイレギュラーズ達。
その中に廃滅病に侵された者もちらほらといて。
「皆さん、お身体は大丈夫でしょうか……」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が廃滅病に侵されたメンバーを気がける。
出来るだけ早く治癒に向けた作戦を取りたいが、アルバニアが姿を顰めた状況ではどうしようもない。
かといって、手をこまねいているわけにもいかず、新天地を目指して進むしかないのがローレットの状況だ。
さて、絶望の青後半の海はまさに「絶望的な海」であるとされ、荒れ狂う天候、魔種、狂王種の存在と挑む者に文字通り絶望を見せつけてくる。
そんな海へと赴くメンバー達へ、アクアベルが自らの予知も合わせてこんな依頼を行う。
「皆さんの行く手を塞ぐように、幽霊船が現れるそうです」
全長60mのガレオン船だそうで、こちらの中型船の倍はある大きさだ。おそらくはこの海に挑み、無残に散ってしまった者達の船だろう。
それは近づくと砲撃やバリスタで襲い掛かってくるそうで、無暗に近付けばあっさりと船を沈没させられてしまう。
「ボロボロになった船体は白骨化、あるいは幽体となった乗組員が維持しているようです」
合わせて30体いるそれらは幽霊船によって魂を束縛され、成仏もできずにこの海を彷徨っている状況だ。
先の海域に進む為にも。そして、彼らの魂を船から解放させる為にも、この幽霊船を撃破したい。
今作戦に当たっては、海洋王国の軍艦2隻も協力してくれる。
幽霊船から発せられる波動などもあって直接近づくことはしないが、砲撃で援護してくれたり、包囲網を作ったりと力になってくれるはずだ。
「乗組員を操り、襲ってくる幽霊船はかなりの強さを持っているようです」
幽霊船は元々装備されていた砲台、バリスタなどを使う他、怨嗟の歌を響かせたり、黄泉の波動を発したりして新たな仲間を作ろうとしている。
撃破するには、船体に穴をあけての沈没、直接乗り込んでの操縦室、マストの破壊などによって航行できぬ状態にし、海に沈めてしまうのが早いだろう。
「ただ、相手は死して強大な力を得たアンデッドです。油断はなさりませんように」
また、新たに廃滅病へと罹患してしまう可能性もあることを留意しておきたい。
説明を終えたアクアベルは、無理はなさりませんようにと再度身を案じ、参加を決めたイレギュラーズ達を海へと送り出すのである。
- <Breaking Blue>怨嗟の声上げる幽霊船完了
- GM名なちゅい
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月09日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談5日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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絶望の青、後半の海。
荒れ狂う天候の中を行く、イレギュラーズ達を乗せた中型船。
今回、2隻を使っての攻略の提案も事前にあり、半々に分かれて乗り込む案を出すメンバーもいたのだが、操船を名乗り出たのが1人だけだったこともあり、結局は1つの船に乗ることとなる。
後方に続いている海洋王国軍軍艦2隻とも合わせて連絡を取り合いつつ、一行は現場海域を目指す。
余談だが、もう1つの船は王国軍に引いてもらっている状況である。これは帰りの為の船として利用する予定だ。
「誉れ高い海洋兵! 覚悟は出来ているか!」
「「おおおおお!!」」
その王国軍に向け、着物姿をした彫り物入りの男『名乗りの』カンベエ(p3p007540)が呼びかけると、皆気合を入れて叫び返す。
「死ぬなとは言わぬ。だが、死ぬ気で生きろ!」
「「おおおおおおおおおおお!!」」
ひときわ大きな声がイレギュラーズ達の船にまで響く。
援護しかできぬ状況の王国軍ではあるが、その士気は決して低くない。
「海洋王国軍の皆さんも、陽動とは言え危険です」
一方で、薄茶の髪の樹精、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は陽動役を託す王国軍達の身を案じ、全員で生きて帰る為に無理はしないでほしいと願う。
王国軍もこの海の攻略は本懐ではあるが、それに不安がないわけでない。
そんな彼女の気づかいに癒された部分は少なからずあったはずだ。
ただ、これから戦う相手は決して楽な相手ではない。
「アクエリアを征圧して、アルバニアまであと少しだっていうのにまた障害とは」
いつもは柔和な笑みを浮かべるリウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)だが、さすがにこの状況には表情を険しくしてしまう。
「船そのものが魔物かぁ……」
黒髪セミロングの女性、『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)はサーバーゴーグルを使って遠くに視線を向けるが、彼女の虹色の魔眼には、まだその船は確認できない。
「幽霊船にアンデッドか……」
ポテトはこれから戦うべき相手について、少し考える。
乗組員であるアンデッドの数も多く、なかなかに厄介な相手だ。
「乗組員は引き連れているし、船長的存在がいてもおかしくはない。……というか、リーダー撃破で潰れれば楽なんだけど」
希望論を口にする美咲。
だが、残念ながら黄泉路すら迷っている船である。
船長がいても、すでにお飾りとなり果てているだろうと美咲はすぐ、可能性の高そうな現実論へと考えを改めていたようだ。
「時間に余裕はないんだ。乗り越えないとね」
現実としてもう一つ、廃滅病による死兆がかなり迫ってきているメンバーをリウィルディアは気にかける。
「こっちの心をへし折って絶望させようって、向こうの事情もわかっちゃぁいるが……」
王国軍もそうだが、イレギュラーズ側にも廃滅病に罹患している者がちらほらといる。
ウィーディー・シードラゴンの海種、こちらも着物姿をした『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)もその1人だ。
「生憎と、止まってやる訳にはいかねぇのさ」
しかも、彼の場合は病状がかなり進行しており、自身が長くない身だという自覚すらある。
だからこそ、死ぬ前にやらなければならないことがあると、縁は依頼の解決に意欲を燃やす。
「――俺にしかできねぇ、最後の仕事がある。それをやり残して逝く以上の絶望はねぇよ」
「十夜は無理しないようにな」
そんな縁の姿は、ポテトにはあまりに行き急いでいるようにも見えており、気にかけずにはいられない。
「アルバニアがなんだ。廃滅病がなんだ。すべての海は女王陛下の物だ」
自身も廃滅病に罹患している黒髪眼鏡の青年、『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は深手を負ってなお、イザベラ・パニ・アイス女王陛下の為にと絶望の青の攻略に向かっていて。
「必ず踏破してみせるよ。この海を希望の青へ塗り替えるために」
廃滅病にかかった仲間や王国軍兵士がこれだけ気合を入れ、この危険な海に乗り出しているのだ。
「アルバニアを倒して死兆を治すためにも、こんなところで立ち止まっていられないな」
まだ、縁を……廃滅病にかかった仲間や王国軍兵士を助ける方法はあるはず。
その為に、ポテトは全力を尽くして新天地を目指し、アルバニアをつり出しに当たるのである。
●
程なく、イレギュラーズや王国軍の艦隊の前に現れたのは、全長60mのガレオン船。
まだ距離があるというのに、非常に禍々しいオーラを漂わせ、それは荒れ狂う絶望の青の海上を漂っていた。
「幽霊船の多さは……散っていった者達の無念の数、か」
普段は怠惰な雰囲気を醸し出す『茜色の恐怖』天之空・ミーナ(p3p005003)がそれを見てぼそりと呟く。
絶望の青には、無数の幽霊船の目撃証言がある。
その全てが絶望の青に挑みながらも志半ばに命を落とし、この海に魂を縛られてしまっていた。
漂うオーラは、怨嗟の声。
それらが歌となって周囲へと響いており、聞く者を凍えさせ、体力を奪っていく。
「幽霊船か……廃滅病を患ったワタシもああいうのに囚われないようにしなきゃね」
病魔が自らの鋼の命を蝕むのを実感する『鈍き鋼拳』橘花 芽衣(p3p007119)もまた仲間とされぬようにと、戦闘態勢を整える。
ただ、相手もすぐにこちらが艦隊を成して迫ってくることに気づき、砲撃やバリスタ砲を放ってくる。
「邪魔しないで頂けますか」
背に蝶の羽を生やす髪型をボブカットにした『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が攻撃を仕掛けてくる幽霊船へと告げる。
「僕は誰よりも早く絶望の青の奥へ行って、アルバニアを引き摺り出して殺さなければいけないんです」
幻は悲痛な表情を見せる。それだけ、彼女もこの依頼に……絶望の青攻略にかけている想いが強いのだろう。
「仲間が欲しいなら、あの世にいくらでもいると思うんだ!」
愛らしい笑みを浮かべる狐の獣種、『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)もさっさと成仏して、自分達だけで向こうへと障害となっている幽霊船へと言い放つ。
だが、あちらから放たれる砲撃も怨嗟の声も止まらない。
「いいぜ、死神たる私が……お前達をきちんと成仏させてやるよ!」
ミーナはそんな敵の態度にスイッチが入ったらしく、乗り込んだ船に積まれたバリスタで応戦を開始するのである。
激しい雨の中では、視界は定まらない。
リウィルディアは視界の確保に努め、危険が迫っているなら縁へと逐一報告する構えだ。
「まずは、手筈通り、船尾を目指そう」
作戦の流れは、史之が立案した通り。
海洋軍2隻に囮となってもらい、イレギュラーズ達の乗る船は最大船速で迂回し、砲撃の薄いと思われる幽霊船の船尾を目指す。
「あとは接舷して、皆で幽霊船に乗り込み、アンデッド討伐の後、船体の破壊だね」
今作戦において、接近こそが一番の難関だ。なにせ、幽霊船は遠距離攻撃を得意としている相手なのだから。
ある程度は王国軍が引き付けてくれているが、幽霊船に乗る敵の数も多く、思った以上に攻撃の手数が多い。
一刻も早く、彼らの負担を軽減する為にも幽霊船の船体へと取り付きたいところ。
しかし、飛んでくる砲弾によって、メンバーの乗る中型船が大きく波に煽られ、あわや転覆の危機に。
「うおっと、危ねぇ危ねぇ。随分と手洗い歓迎だことで」
縁が持ち前の操船技術でうまく舵を操り、直撃を避けた上で船体を持ち直す。
それが無ければ船体が大破していたか、転覆してしまったことだろう。
低空飛行していた美咲は難を逃れたが、メンバー達は大きくバランスを崩しかける。
ミーナも中型船に積まれたバリスタで応戦し、幽霊船に攻撃を続ける。
「乗り込むだけでも一苦労、だねぇっ!」
リウィルディアも自らのスキルで幽霊船を狙い、飛んでくる砲弾を絶対不可視の刃で相殺しようとする。
それで幽霊船を攻撃できればいいが、相手は物理的な攻撃だけでなく、さらに怨嗟の声を上げてくる。
「恨み、妬みがお好きなようですが、そんなに恨み妬むくらいなら、生きている間に後悔しないほどに生きあがけばよかったものを」
幻はそんな幽霊船へとなおも語り掛ける。
「所詮、生きている間に後悔するようなことをしているから、魂を船などに縛られるのです」
――お前に何が分かる……。
そう言わんばかりに、幽霊船から黄泉の波動が放たれる。
神秘を使った攻撃はこちらの船体にはほとんど影響を及ぼさないが、乗っているイレギュラーズ達の体力を削いでくる。
「船員達を縛り付け操り続ける程の妄執を、船が持つというのか」
その感触に耐えるカンベエはこれまで、奇怪な生物は様々見てきた。
「しかし……、煮ても焼いても食えぬ敵は初めてだ!」
その間の回復はポテトが当たって。
「そちらがその気なら、こちらだって」
彼女はこの場の仲間達を奮い立たせる大号令を発し、皆の状況を立て直す。
「僕は後悔なんていたしません。決して」
仲間に支えながらも、幻の呼びかけは続く。
――あの方に生きて頂くために生きるのです。
――あの方に例え嫌われていようと憎まれていようと。例え愛されなくとも。
それは、病魔に侵された思い人の為。それを魔物の如きが邪魔しようと彼女は静かに怒りを差し向ける。
その間、船や仲間へのダメージはヒィロが船の舳先に仁王立ちして食い止める。
「ボクにできることを、ボクならできることを、全力全開で頑張るんだ!」
そんな彼女へと直撃する砲弾。
想像以上のダメージに、ヒィロはパンドラの力に縋る。
すぐさま、史之が大天使の祝福をもたらして彼女の傷を癒していたようだ。
縁は上手く操船してはいるが、決して船へのダメージも小さくない。
自分達への被害を肩代わりしてくれていると考えれば、かなりありがたいことだが……。
「近いよ」
そこで、芽衣が告げる。かなり幽霊船の船尾へと近づいてきており、スキルが届く距離まで接近してきている。
「魂を捕らえし船! 果てを見る為にその魂諸共、ここで沈んで貰うとしましょうか!」
カンベエが仲間達へと呼び掛ける。いっそ特攻しようという勢いだ。
「さあ、全員で乗り込みますよ! ぶつけてやる勢いで行きましょう!」
被害を考えれば、今乗っている船はこれから後の航行に持たない可能性が極めて高い。
それに、ゴーストが近づいてきており、ぼやぼやしていれば船体へのダメージもそうだが、ジリ損になりそうだ。
「先に行くよ!」
そこで、手当を受けていたヒィロが飛び上がって全身を光らせると、ポテトもそれに合わせて飛行石の力で浮遊し、発光して視界を確保する。
「「…………!?」」
突然の光に驚くゴースト達。
その間に、飛ぶことができる美咲、ミーナ、ヒィロ、芽衣、メンバー達が一斉に甲板から飛び上がる。
「雑魚にかまってるひまはない!」
これだけ近づけば、幽霊船は直に自分達へと攻撃しにくくなると史之は見ている。
その史之もまた飛行して幽霊船へと乗り移っていく。
自らの思いの丈を口にしていた幻。
思い人の顔を改めて思い浮かべた彼女は目の前の障害を排除する為、仲間に続いて蝶の羽を羽ばたかせるのである。
●
止まぬ雨は非常に冷たい。
それでも、イレギュラーズは活路を見出し、ずぶ濡れになりながらも、幽霊船に乗り込む。
幽霊船本体が自らの船体に乗り込まれたメンバーに攻撃するのはやや難しい状況。イレギュラーズにとってかなり有利になったのは間違いない。
それでも、甲板には近接攻撃が得意な15体のスケルトンと神秘攻撃を得意とする15体のゴーストがおり、手数の多さをどうにかせねばならない。
史之の提示したラインは10体以下だ。
手早く攻撃を始める前衛陣。幻はできる限り距離を取り、船尾側に位置したままで攻撃を行う。
それは夢か現か分からなくなる奇術。
相手がいくらアンデッドとはいえ、元人間というのであれば夢を見ることはあろう。
「オオ、オオォォ……」
彼らが夢に見たのは、この海の攻略を構えた自分達の姿だ。
一部、恍惚とする幽霊船の乗組員に、幻は追撃をかけて別の奇術を行使していく。
さて、前線はヒィロやミーナが敵の引き付けを行っていて。
「さあ、かかってこいよ。その闇はお前達の未来だぜ!」
光を飲み込む闇の領域を展開するミーナは海上にいた幽霊達を煽り、注意を自身へと引き付けていく。
ある程度引きつけができれば、彼女は甲板の中央にまで走り、それらのゴースト達を誘導していく。
「いいね!」
その幽霊達を芽衣が狙う。
全身の力を右手に集中させた彼女はゴーストが放つ呪縛弾やドレインタッチを意ともせず、爆裂する一撃を撃ち込む。
それで吹っ飛ぶゴーストもいたのは、芽衣の想定通り。
さらに芽衣は幽霊船の甲板も燃やし、後の処理を進めやすくしていた。
その間に、ミーナは次なるゴースト達へと闇の領域を展開し、同じように引き寄せに当たっていく。
先行班の回復は、幽霊船への接近時と同じくポテトが主体として当たる。
接近時はここまで乗ってきた船がダメージを肩代わりしてくれていたが、今回は直接仲間達の身体に傷が増える。
ポテトはそんな仲間達へと調和の力を使い、場合によっては天使の歌声を響かせていく。
とはいえ、数の多い序盤から中盤の戦いは苦しい。最初にヒィロが一度倒れかけていたこともあり、ポテトも回復には慎重になっていて。
「すまない。手を貸してもらえるか?」
ポテトの要請を受けるのは、アンデッドへは速攻勝負を挑んでいた史之だ。
スケルトンをメインに光翼を羽ばたかせて舞い踊る光刃で切り裂いていた史之だったが、要請があればすぐさま彼は天使の歌を重ねて甲板上へと響かせていた。
程なく、残りのメンバーの乗る中型船が接舷し、甲板へと上がってくる。
「既に果てた者共よ! こぞりて外洋征服の邪魔をするというならば、このカンベエがお相手致しましょう!!」
縁、リウェンディアに続くカンベエが早速大声で堂々と二つ名通りに名乗りを上げてみせる。
まだまだ体力を有り余るほど残すカンベエは城の如き不動の構えをとり、仲間達のカバーに当たる。
「これこそがわしの役目、後のことは知らぬ!」
彼はアンデッド達の眼前に進み出て、敵の進路を阻む。
縁は今なおフリーになっているゴースト目がけ、死者の魂を無数の火の玉に変えて浴びせかけていく。
幽体となり果てた相手の身体であっても、炎は燃え盛る。
相手が不利を察して逃げてしまう前に、縁はその殲滅を目指す。
ゴーストがそれだけ厄介な相手と想定していたリウィルディアであったが、これだけのメンバーで優先して叩けば、ゴースト達も一溜りもないらしい。
「無念を抱えて縛られるなんて、死せども気分はよくないだろうに!」
せめて、安らかに眠れるようにと、リウィルディアも魂を砕く一撃を至近から叩き込んでいき、弱ったゴーストを霧散させていく。
まだ倒すべく敵は多い。リウィルディアも気力の配分を考えつつ、抗戦を続けていく。
甲板にいるアンデッド達は刃を煌めかせ、恨みつらみといった力を使ってイレギュラーズ達へと攻撃してくる。
また、自身の上に乗っている状況となっている幽霊船も全く攻撃してこないわけではなく、怨嗟の歌を響かせ、黄泉の波動を発してくる。
ヒィロはそれらと合わせ、アンデッド……主にスケルトンの引き付けに当たっていて。
内にある思い出を力とし、絶望に立ち向かう愛と力と勇気をもらうおまじないを自らへと施したヒィロ。
彼女はさらに時間に干渉し、微かな予知でアンデッドの動きを先読みできるようにする。
「射線構築、任せるよ。最効率の、串刺しね!」
そこで、美咲の声が聞こえれば、ヒィロは溢れ出る闘志を怒涛のごとく発し、敵の注意を強く引き付ける。
基本的に幽霊船に操られる存在のアンデッド達。その誘導は容易だ。
「美咲さん、今だよ!」
「引き付けたところへ……どかん、だ!」
以心伝心の動きで、美咲がヒィロの呼びかけに応えて魔力変換した力を一気に放出していく。
一気に3体のスケルトンを撃破した2人。
彼女達は笑顔を浮かべ、次なる敵へと向かう。
その後、順調に敵の数を減らすイレギュラーズ達。
幻は応戦を続けるゴーストを幻想空間へと引きずり込む。
「僕もしつこいんですよ」
敵の生き返ろうなどと思えなくなるよう彼女が奇術を使うと、楽しかった思い出を走馬灯のように思い巡らし、ゴーストは昇天していった。
数が減れば、敵を纏めて狙いにくくなることもあり、芽衣も至近距離から衝撃波を帯びた拳をスケルトンへと打ち込む。
大きく体を煽られた敵が至近距離から放った銃弾を跳躍して避けた芽衣は、一回転してから急降下して蹴りを叩き込み、そのスケルトンの体を崩してしまう。
「よし、次!」
基本的にはミーナの傍から離れずに戦う彼女。
遠距離から銃で狙ってくる敵には、芽衣は仲間を庇う立ち回りをしながらも突き出した腕から光線を発していく。
「沈めよ、無念は俺が背負うから」
再び攻撃へと転じた史之は赤いプラズマを飛び散らせながら斥力を放って体力気力を奪い取る。
それはさながら、崩れ行くスケルトンから無念の思いを受け継いだかのようにも見えた。
●
激しく降る雨は止むことを知らず。
打ち付けられる雨の中、イレギュラーズ達はアンデッドの数を減らす。
どうやら、王国軍もこちらの動きを察してか、砲撃での支援の手を弱めてきている。
それもそのはず、ヒィロが威風を放って砲台やバリスタの前にいたスケルトンを引きつけ、砲撃の手が止まったからだろう。
史之の作戦では、アンデッドの数が減った後は幽霊船の破壊をという手はずだ。
縁も仲間の作戦に従い、ゆらりと気を放つ。
それは海水を巻き込む大渦となり、スケルトンとマストを包み込んでいく。
マストを完全に破壊するとはいかなかったが、残っていたスケルトンが海の藻屑となってしまう。
ただ、2発目を撃とうとすれば、仲間が巻き込まれる可能性もあると判断し、縁はピンポイントにマストを狙い始める。
幽霊船を直に狙うメンバーがいる傍ら、まだわらわらと近づくアンデッドもいた為、芽衣やリウィルディアがそちらの対処に当たる。
「皆、大波に備えて!」
ギフトの力で荒れた海の状況を察したミーナが仲間へと注意を促す。
直後、船体が大きく傾いて。
「最後まで、全力を絞れェ!!」
荒波や濡れた床で滑りそうになる仲間へ、カンベエが発破をかける。
彼はアンデッド殲滅に当たる仲間のカバーに当たり続け、敵の刃や銃弾、ドレインタッチなど全て引き受ける。
カンベエら前線メンバーが踏ん張ってくれていたおかげで、リウィルディアは比較的体力に余裕をもって討伐に当たる。
逆に言うと、それだけ前線メンバーの負担は大きい。
芽衣は残るスケルトンへと至近距離から格闘魔術で叩きつけ、その全身を崩していく。
その最中、飛んでくるゴーストが嘆きの歌を響かせていて。
史之はそれと纏め、光の翼を羽ばたかせてゴーストをもろともメインマストを光刃で刻み、ついに根元からへし折ってしまった。
ここまでくれば、回復役のポテトはほっと一息。
幽霊船にはなお怨嗟の歌が響いていた為、彼女も最後まで気を抜くことなく仲間の状態を注視していたようだ。
攻撃してくる相手が減ってくれば、後はイレギュラーズ達が全力で幽霊船を叩く状況となる。
幻は幽霊船の沈没の為、執拗に舵へと奇術を使う。
「僕の為に、いえ、あの方の為に、消え失せてください」
幻にとっては、自身の行く手を遮った邪魔な船であり、死にあがいた醜い船でしかない。
「貴方のことは僕の記憶の中に残しておきましょう」
その時、舵がぼとりと床に落ち、大きな波で船体が傾くと共に海へと落下していった。
すでに、自力で動くことも困難になった幽霊船だが、最後まで船体から黄泉の波動が発せられており、応戦を止めてはいない様子。
この為、最後に船底に穴をあけるべく、ミーナは赤と黒による連撃を叩き込み、さらに無双の防御攻勢で幽霊船の無力化を図る。
ヒィロが威風を放ち、美咲が殺意を込めた視線を向けると、幽霊船の周囲にこだましていた怨嗟の歌が完全に途切れて。
「これが、生命の輝きだよ!」
「最後の輝き、楽しめたかな? ……その光に届くことは、ないけどね」
ついに、力尽きた幽霊船の船体は急激に劣化していく。
船底にさらなる穴が開いたことで船内へと海水が流れ込み、その船体が大きく傾いて沈み始めたのだった。
●
徐々に、幽霊船は荒波の中へと飲み込まれていく。
その破壊に当たっていたメンバー達は急いで来た道をたどって甲板へと戻る。
生憎と接舷していた中型船も航行ができないほどに傷んでいた為、やむなく美咲が海洋王国軍に助けを求めることに。
すると、王国軍がもう1隻の船を運んできてくれたこともあり、皆そちらへと退避することになる。
すでに船が沈みかけていた為、簡易飛行を使えるヒィロなどが仲間の手を引き、転倒に気を付けて脱出用の中型船へと乗り込む。
「揺れるぜ、しっかりつかまってな」
縁がこの船でも操船を預かり、すぐに沈む幽霊船から離れていく。
船に戻って一息ついた芽衣は、それを見ながら幽霊船へと黙祷を捧げる。
「せめて、安らかに眠って欲しい」
リウィルディアは邪魔だったから倒したという事実に、変わりないと思っている。実際、幻などは今でもそう考えているようだ。
「けど、彼らも本意じゃなかったはずだ」
だからこそ、リウィルディアは自分達が葬ろうと考え、安らかに眠れるよう鎮魂の祈りを捧げる。
「幽霊船の皆、『絶望の青』はボク達に任せて、どうぞ安らかに眠ってね!」
ヒィロだけは明るい口調で声をかけると、ポテトはギフトで育てた花を海にまき、二度と犠牲者が出ないことを祈る。
「幽霊船に囚われて悪夢を見るのは今日でおしまい。もうゆっくりとお休み」
「あの船と、彼らもあるいは、大海を踏破せんとしたものやもしれませんからね」
さらに、カンベエが少量ながらも、酒と食料を樽に詰め、幽霊船と共に沈めていく。
志半ばであったろうが、ここまでやってきた船だ。せめて、カンベエもその挑戦を労いたかったのだろう。
「進みましょう。祝いをあげる日も近いですよ!」
カンベエはそう仲間達へと促す。
――これ以上の弔いはたくさんだ。
ならばこそ、早急なアルバニアの撃破をと、皆一様に誓うのである。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは全体作戦の提示の他、
攻撃、回復補佐、幽霊船の部位破壊と活躍を見せたあなたへ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様、こんにちは。なちゅいです。
「絶望の青」後半の海に幽霊船と化した大型ガレオン船が発見され、皆様の行く手を阻んできますので、討伐(撃沈)していただきますよう願います。
●敵……魔物
◎幽霊船×1体
全長60mほど。この世界においては大きめのガレオン船。
海に浮かび漂う魔物と化し、自らの船体に骨、幽霊となった乗組員を魂を縛り付けた恐ろしき船です。
直接、幽霊船に乗って攻撃も可能です。
部位破壊も可能ですが、一定ダメージが必要です。
・バリスタ掃射……(A)物超遠貫・流血・停滞
・主砲発射……(A)物遠単・溜1・炎獄
・大砲連射……(A)物遠列・業炎・連
・怨嗟の歌……(A)神遠域・万能・呪縛
・黄泉の波動……(A)神遠域・識別・氷結・致命
・アンデッド……(P)精神異常・怒り無効
◎乗組員×30体
幽霊船に魂を縛られたアンデッド達で、スケルトンとゴーストは別の人間がアンデッドとなった存在のようです。
生者に対して酷く嫉妬し、この海に挑むことができる者を憎悪して襲ってきます。
幽霊船を撃破(撃沈)することで、魂が解放されます。
○スケルトン×15体。
白骨化した乗組員です。
サーベルや銃といった物理攻撃を行う他、船の大砲や機銃を放ってくることがあります。
○ゴースト×15体
魂を縛り付けられた幽霊達です。
幽霊船から一定の距離まで海上へと飛ぶことができ、攻撃も仕掛けますので飛行時は注意が必要です。
呪縛弾、ドレインタッチ、嘆きの歌と神秘攻撃を得意としています。
●NPC
○海洋王国軍軍艦×2隻
それぞれ10名程度の軍人が乗り込んでおります。
大砲、バリスタ砲などで援護攻撃してくれる他、幽霊船の囲い込みにも協力してくれますが、幽霊船やゴーストの精神攻撃の影響を懸念し、接近は致しません。
●状況
幽霊船の遭遇は夜、激しい雨が降る中での交戦となります。
2隻の全長25mほどの中型船に分乗し、上記の軍艦の援護を受けつつ幽霊船の破壊に臨みます。
中型船には大砲やバリスタ砲を積むことができますが、積載量が明らかにオーバーする場合は積めない場合があります。
船からの砲撃班と幽霊船に乗り込む班など、攻撃方法にはバリエーションがあると思いますので、自分達に合った方法で挑んでみてください。
また、飛行、水中行動系のスキルも有効です。
●重要な備考
<Breaking Blue>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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