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シナリオ詳細

<虹の架け橋>春訪れる迷宮

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●来ない帰還の報せ
「──帰ってこない?」
 聞き返した冬月 雪雫の言葉にブラウ(p3n000090)は頷いた。
 ひよこ曰く、軽い調査にと深緑へ向かったイレギュラーズ2名がまだ帰還していないとのこと。見て帰ってくる、程度だと言っていたので当日中に帰還しなかったことが引っかかるらしい。
「何かあったのではないかと……お2人とも、イレギュラーズとしてはとてもご活躍されている方なので心配しすぎかとも思ったのですが」
「私、調べてきましょうか」
 雪雫の言葉にブラウがぽかん、と視線を向ける。雪雫はにこりと笑って返した。
 見て帰ってくるだけならば情報屋でもできるはずだ。それがイレギュラーズへ任せることとなったのは──。
「ブラウさんだと、見て帰ってくるだけでは済まないからですよね?」
「……はい。すみません」
 全くもってその通りだとブラウが縮こまる。彼の頭をひと撫でして、雪雫はイレギュラーズ2名が向かったという調査の羊皮紙を拾い上げた。
「深緑……ああ、最近の妖精依頼ですね」
「はい。無理やりこじ開けられたことによるアーカンシェルの機能停止、魔種及び魔物のアルヴィオン侵入。
 早く魔種たちを止めなければならないということで、とあるアーカンシェルから大迷宮『ヘイムダリオン』の調査をお願いしていました」
 妖精郷アルヴィオンと混沌の間には、本来ヘイムダリオンと呼ばれる大迷宮が存在している。妖精たちはアーカンシェルを使うことでそれをショートカットしていたのだが、使えないのならば正規ルートを通る他ない。
「ああでも、イレギュラーズに何かあったとなると雪雫さんだけでは危険でしょうか……」
 ブラウが心配そうに視線を彷徨わせる。どこかに手の空いていそうなイレギュラーズ──冒険者はいないかと。そこへ留まったのは『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)の姿だ。
「フレイムタンさ〜ん!」
「む? どうした」
 顔を向けたフレイムタンへ事情を説明し、雪雫の護衛を頼むブラウ。フレイムタンはちらりと彼女へ視線を向け、わかったと首肯した。
「それで、行方の知れない2名は?」
「あ、そういえば」
「ええっとですね、リゲル=アークライトさんと──クロバ=ザ=ホロウメアさんですね」
 読み上げるブラウの言葉に雪雫は目を見開く。
 クロバ。クロバ=ザ=ホロウメア。その言葉が頭の中を反響する。
(──行方不明? 兄さまが?)
 嘘だ。きっと何かの間違い。今にふらりと帰ってきて、
「雪雫さん?」
 ブラウの声に現実へ引き戻される雪雫。心配そうに覗き込むひよこの姿が視界に映った。
「あ、……ごめんなさい。大丈夫です」
「貴殿の知り合いか」
 フレイムタンの言葉に頷いて、雪雫はブラウが読み上げた羊皮紙を見つめる。いくら凝視しても文字が消えるわけもなく、フレイムタンは彼女の視線を奪う羊皮紙を手に取った。
「……彼らがどうなったか、行かねばわかるまいよ。そのために調査へ向かうのだろう?
 それに、簡単に倒れるような者ではないはずだ」
 善は急げ。早く状況を把握できたのなら、生存確率も上がる。
 雪雫は束の間目を閉じ──そしてすぐ開くとフレイムタンを見て頷いた。
「はい……行きましょう、フレイムタンさん」

●アーカンシェルの先
 妖精郷の門、アーカンシェル。そこからヘイムダリオンへと術詩『虹の架け橋』が繋ぐ。
 妖精たちが歌ったその先へ抜けたフレイムタンと雪雫は小さく感嘆を漏らした。
「これは……」
「これが……大迷宮?」
 迷宮と言うからには石でできた回廊を思い起こすことだろう。だがしかし、この空間は非常に開放的だった。
「草原、だな」
「はい。……あ、あちらは森でしょうか」
 雪雫の瞳に映ったのは広大な草原と、奥の方に広がる森。青空は澄んで雲一つなく、ともすればここでひと休憩と腰を下ろしてしまいそうだ。しかしかのイレギュラーズたちは見当たらない。
「向かうとしたらあの森だろう」
 フレイムタンが視線で示したのは、先ほど雪雫が目にした『いかにも』な森。
 一見危険などなさそうな空間だ。行方不明者2名が見て帰るだけと言ったのならば、この空間に潜む脅威を目に焼き付けて帰還する──そんな思考に至った可能性も十分ある。
 森の中へと歩を進めた2人だが、不意に雪雫が辺りを見回した。
「どうした?」
「今、動物が……あっちから?」
 木の上を伝う子リスが、地面を這う虫たちが。同じ方向からちょろちょろと向かってくる。大群で押し寄せてくるわけではないが、その様子は異常を知らしめるに十分だ。
「行ってみましょう」
 雪雫に頷き、その後を追うフレイムタン。その視線が逆行してくる動物たちへと向けられる。
 このように同じ方角から向かってくるのは──。
(──何かから、逃げている?)
 思考がそこへ行きつくと同時、目の前が開ける。雪雫の声が響いた。
「兄さま!」
 森のひらけた奥の方に2つの影。雪雫の声を聞いて黒髪の男──クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が顔を上げた。
「雪雫……!? げほ、げほげほげほッッ」
「に、兄さま……」
「こちらに来ては──えっぐしっ!」
 傍らで剣を構える男、リゲル=アークライト(p3p000442)も何やら様子がおかしい。しかし来るなと示された雪雫とフレイムタンはその場から動くこともできず、互いに顔を見合わせた。
 その一方、クロバとリゲルは必死に武器を構えて目の前の強大な敵に立ち向かっている。毒とも呪いとも言えるような負荷は体を苛み続けているが、絶対にこいつは逃してならない敵だ。
 だがしかし2人のみでは倒せないことも事実。実際のところ──逃げる事すらままならない。
「仲間たちを呼んできてくれ! もうしばらくは……うっ」
 目が、と目頭を押さえるリゲル。その言葉のあとをクロバが引き継ぐ。
「俺たちで持ちこたえる! 行け、早く……!」
 兄からの言葉に真剣な表情で頷く雪雫。その傍らで全てを察して──何とも言えない表情を浮かべるフレイムタン。2人は踵を返し、アーカンシェルから混沌へ戻るために駆け始める。
「早くしないと、兄さまたちが……」
 雪雫の呟きにそうだなと返しながら、フレイムタンは先ほどの光景を思い出した。
 逃げることもままならないほどのくしゃみや咳、涙。恐らくその他エトセトラ。そして相手していた敵の姿かたちを見る限り、彼らが苛まれていたのは──。

 ──花粉症だ。

GMコメント

●成功条件
 クロバ、リゲルの救出
 魔獣『スギカフン』の撃破

●情報精度
 このシナリオにおける情報精度はBです。何だこの生き物。

●スギカフン
 甲羅に木を生やした大きな亀っぽいものです。四肢と頭、尻尾は獣です。木はスギ科らしく、花粉をばらまいてきます。
 耐久性に秀でています。回避は低めです。

光合成:スギの木で光合成をおこない、HPを回復します。
薙ぎ払い:ぐるんと回転し、周囲の敵を蹴散らします。【飛】【乱れ】
花粉:めっちゃ飛んでます!!!【クロバ、リゲルはここぞとばかりに花粉症RPができる】
(訳:お2人がプレイングで花粉症RPをした際、いい感じに花粉が飛んで追い詰めてくれます)

●フィールド
 森の中にあるひらけた場所です。視界、及び行動に支障はありません。

●BS【花粉】
 どんなBSよりもやべー感じのBSです。
 泣くから命中も下がるし咳は回避を落とすしくしゃみというファンブルがお待ちしています。症状がひどすぎて機動力も落ちます。酷い花粉症RPをお楽しみください(?)
 クロバさんとリゲルさんは無条件でこのBSにかかっています。魔獣『スギカフン』を撃破するしか解除の方法はありません。ヘイムダリオンから抜けるより先に亀に追いつかれるため、一旦離脱は不可能です。
 他の人は花粉症に苛まれないと認識していますのでかかりません。

●ご挨拶
 大変お待たせいたしました。リクエストありがとうございます。愁です。
 さあ、ヒロイン★クロバとヒロイン☆リゲルを救いましょう! ……えっこの2人がヒロイン枠ですか???(
 何はともあれ! プレイングをお待ちしております!

●備考
 このシナリオではイレギュラーズの『血』『毛髪』『細胞』等が、敵に採取される可能性があります。

  • <虹の架け橋>春訪れる迷宮完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月04日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

リプレイ


 アーカンシェルを抜け、草原を駆け、森へ入ったイレギュラーズたち。先に偵察した雪雫とフレイムタン曰く、この先に『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)と『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が居るのだと言う。
 ……花粉に苦しんで。
「この辺りで、やたらと辛そうにしている……と思われる男性を見ませんでしたか?」
 『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の問いかけに木々がさわさわと葉を揺らす。見たよ、見たよ、と。続く木々に同じ質問を繰り返し、彼らがどちらへ向かったのか確かめつつ進んでいると。

 \ブェックショーイ!!/

「「「……」」」
 束の間固まる一同。顔を見合わせ互いに頷く。フレイムタンが花粉症に苛まれているようだと言ってはいたが、今の声は。
「クロバだな」
「ですね」
「行ってみましょう」
 くしゃみの声で居場所を知ると言うのも変な話ではあるが、実際に聞こえてしまったので行くしかないだろう。
 速足で歩を進めるイレギュラーズたち。逆行するように逃げる動物たちがちらほら見える。視界が開けると、そこには大木を生やした巨大な亀と──この依頼におけるヒロイン(男)2名の姿がそこにあった。
「な、なんて敵だ……ハ、ハ、ハクショォン!!!!!」
 止まらぬくしゃみ、滂沱の涙、鼻水はダラダラ。既に満身創痍なクロバはそれでも妹たちへ頼んだ援軍を待つため持ちこたえていた。だがくしゃみのし過ぎで息もろくにできない彼は酸欠気味で、先ほどからフラフラしっぱなしなのである。
「ほ、保護結界が……っくしゅん!!」
 リゲルもリゲルで『せめて森は守る!』と保護結界を展開したはいいが、維持するための集中力が足りない。やばい。くしゃみするたびに保護結界が揺らぐ。
「クロバさん!」
「リゲル!」
 そこへ愛する者たちの声が聞こえた気がして、2人はまず幻聴かと疑った。
「はは、ハ、ハクショォイッ!!! ……お”れだちも”、ここま”でか……」
「クロバ、まだ諦めるのは──ウッ目が」
 乾いた笑みを浮かべる──ついでにくしゃみもした──クロバ、その士気を上げようとするも目を抑えるリゲル。彼らをさらに追い詰めるように花粉が飛び交う中、再び2人のことを呼ぶ声が聞こえる。ここでふと「あれ?」と2人は目を瞬かせた。
「聞こえるか、クロバ」
「ああ、聞こえ、ハクション!!!」
 幻聴ではない。これは紛れもなく本物の『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)の声だ。対するシフォリィとポテトはと言えば、愛しい人の姿に衝撃を受ける。
(あのクロバさんとリゲルさんまであんなことになるなんて……!)
 スギカフン、なんて恐ろしい敵なのかと戦慄するシフォリィ。だがしかし心で負けるわけにはいかない。全ては花粉症の人を救うため、リゲルを救うため、そして何より愛するクロバを救うため!
「シフォリィ・シリア・アルテロンド、スギカフンを撲滅します!」
 細剣を手にしたシフォリィがスギカフンを睨みつけ地を蹴る。白銀を纏った剣が大木めがけて一閃された。
「お2人とも、ご無事……ではなさそうですが。ひとまずお姿が見られてよかったです。動けますか?」
 クラリーチェの言葉に頷く2人。その間にも2人とスギカフンの間を阻むように『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)がふわりと立ち塞がる。手元の細剣は燃え上がる炎の色に染まり、圧倒的破壊力で敵を撃った。ぶわりと花粉が舞い、クロバとリゲルが呻き声を上げる。
 本来であれば戦闘を避け、2人を回収した時点で撤退を考えるべきだが──敵の様子からして簡単に追い払ったとしても逃れられないだろう。
「それにしても……噂の花粉症、恐るべしですね」
「ええ。自然と共存する幻想種がこれにかかると……生活するの、大変でしょうね」
 リースリットの言葉に肯定するクラリーチェ。クロバやリゲルのあの状態が終始続くとなれば──それはもう。家に引きこもって出られなくなるかもしれない。
「皆、気を付けてくれ! この花粉は、毒以上に危険なものだ……っくしょん!」
 リゲルはくしゃみによろめいて膝をつく。これまで幾度も戦場を駆け抜けてきたが、此処まで無力なことがあっただろうか。
(皆に任せるしかないのか……くっ)
 リゲルを案じてポテトが駆け寄ってくる。せめて愛する妻だけは花粉症にかからないでほしい。その瞳を強制的に濡らされず済むように。こんなにも辛い目に遭うのは自分だけで十分なのだ。
 顔をぐしゃぐしゃにするリゲル。その前へ──女神が降臨した。
「大丈夫か、リゲル? 濡れタオルとゴーグル、あとマスクも持ってきた。ティッシュあるぞ」
 濡れタオルで顔に付着した花粉を拭われ、これ以上苦しむことがないようにとゴーグルとマスクを付けられる。手渡されたのはあれほど待ち焦がれていたティッシュ(しかも箱!)。
 これがめちゃくちゃ有難い。女神だ。それとも天使か? いや、
「俺の妻だった!」
「え!? あ、うん。リゲルの妻のポテトだぞ?」
 がばりと抱きしめられ目を丸くするポテト。抱きしめ返して彼の服からできるだけ花粉を落としてやれば、リゲルはそっと妻を放した。自分に付着した花粉でポテトが花粉症になってはたまらない。
「すまない、今日だけは……君の強さに頼らせてもらうよ」
「今日だけじゃなくても、私に出来る事なら遠慮なく言ってくれ」
 妻だからな、と微笑んでスギカフンへ視線を向けるポテトはまるで戦乙女の如き神々しさ。リゲルのうるんだ視界は涙でキラキラと光って助太刀にきた女性陣が皆輝いて見える。
「御機嫌よう、お姫様方? お迎えに上がりましたよ」
 『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は颯爽と現れそう声をかけるなりクロバの方へ。乱れた旋律が聞こえるであろうその表情はニマニマ──シスターらしからぬ悪い笑みだ──している。
「兄上殿、大丈夫ですか? お鼻、ちーん! って出来ますか?」
 誰が姫だ! という言葉はくしゃみによって遮られる。その眼光も涙のせいで強さは普段の6割減と言ったところだが、あまりからかいすぎると本当に怒られてしまうだろう。
 ならば何故からかうのか? 勿論、この男がここまで弱っている機会は早々ないからである。
「へへー、こわーい! さっさとあいつ片付けてあげるから許してねっと!」
 立ち上がったリアは自らのリミッターを外す。同時に周囲へ広がるは光の五線譜。旋律を奏でるための魔法だ。
「リアさん」
「兄上殿を困らす悪い奴を懲らしめるの、あたしも手伝いますよ? シフォリィ義姉さん」
 ええ、とスギカフンを睨みつけながら頷くシフォリィ。リアの奏でたヴァイオリンの単音が時間を置いていくが如く敵へ響く。
(あたしは花粉症持ちって訳じゃないけど、流石に鼻がちょっとむずむずするわね)
 すん、とリアは鼻を鳴らす。花粉症ではないが、これからならないとも限らない。後方にいる
姫2人の為にもそうそうにこの空間を抜けたいところだ。
(それにしても……歴戦の猛者である2人を、これ程の地獄に叩き落すとは)
 クロバとリゲルを見やった『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はそう思わずにいられない。ただパッと見ただけならヒロイン(男)2名を救いに来たヒーロー(女)6名なのだが、そのヒロイン2名は数々の修羅場を潜り抜けてきたトップクラスと言っても過言ではない。
 自分たちも花粉症であったなら彼らと同様の末路を辿ったに違いない。恐るべき魔獣である、スギカフン。
「いやしかし。こんなメタゲーは流石に酷が過ぎるので、早急に終わらせるべきだな?」
 たんっ、と駆けだした汰磨羈。その生命力を刀へ吸わせながら大きく跳躍し、皆が攻撃している箇所を3度突く。切り口を作れば脆くなるはずだ。
 彼女の動きは留まることを知らず、魔性の切っ先が揺れる。
「ここが首。そう決めたから首。よし、落ちろ」
 人ならばその首をごろりと転がす技で以て一閃。次々に決めていく個々の攻撃がどれも重い。追随するようにクラリーチェが簡易封印を執拗にかけ、スギの花粉を止めるべく奮闘する。
(スキル……なのかわかりませんが)
 そうであるならばある程度抑えられ、クロバやリゲルを始めとした皆の負担も和らぐはず──。
「ヴェクショイ!!」
 ──という希望的観測はクロバのくしゃみに打ち砕かれた。つまり、倒すまで我慢してもらう他ない。
「……なるべく早く倒せるように頑張りましょう」
 クラリーチェの言葉に返事をしようとしたのか。2人分の盛大なくしゃみと相次ぐ咳が響き渡ったのだった。

「だがブェックシュン!! 守られてばかりもェックショイ!! いられないので……」
 ア"-、とひび割れた声で呻くクロバ。ばっさばっさと容赦のない追撃がさらにくしゃみを誘う。これは酷い。
「精霊たちに風を起こしてもらってもダメか」
「この近さだ、仕方ない」
 眉を寄せるポテトにゴーグルでいくらかマシになったリゲルが答える。直後スギカフンがぐるん! と回転し、周囲にいた──大木の近くにもいた──イレギュラーズたちは後方へ飛ばされる。
「だが大丈夫だ。今日は私たちが2人を護る騎士になる」
 ポテトの響かせる天使の福音が、リアの奏でるカルマートが五線譜で音符となって踊り仲間たちを癒す。リアはちらりと肩越しにポテトを見た。
「後ろはお任せしますね、王子様」
「ふふ。頼りないかもしれないけど、ちゃんと守るから安心してくれ」
 イケメンか? イケメンだわ。この場においてはクロバとリゲルという男2人を差し置いてイケメンムーブだった。
 だがしかし、彼らとて何もしないなど矜持が許さない。
「情けない姿ばかりもみせられぇ”ッキ”ション!!! ……見せられないからな」
 ズズ、と鼻をすすりながら前へ出るクロバ。五月雨の如き剣技も花粉症の前では鈍る鈍る。ならば皆の盾になるまでとクロバは文字通り体を張る。
(こんな姿をクロバは妹さんにも見られているのか……)
 凍てつく剣技を思いっきり空振りさせながらリゲルは同情を禁じ得ない。家族に見られるのは居心地も良くないことだろう。
 けれど、強さも弱さもあってこその人間。それを曝け出したクロバは新たな魅力を手にしたと言っても……良いのだろうか? まあ良いと言うことにしておこう。なれば兄妹の絆もより深くなるはずだから。
「ああ。2人ともこれぐらいで離れるような弱い繋がりじゃないだろう。
 もちろん私もな、とウィンクするポテト。この妻はいつでもリゲルの心を掴んで離さない。
 さて、一方のスギカフンは背負った大木を大きく揺らしていた。幹の途中に付いた傷は徐々に深くなり、自重でぐわんぐわんと安定しない。スギカフンが光合成で修復しようとするがそうは問屋が卸さない。
「リゲルさん、何よりクロバさんの為ならば遠慮はしません!」
 しなる細剣に目もくれず、自らの最大火力で攻め立てるシフォリィ。リースリットの持つ緋色の刃は月光の如き魔力を纏い、触れた大木の生命力と魔力を増幅して彼女へと還元する。
「まるで木こりのようですね」
「木こりのよう、ではなくて木こりなのさ。そう、スーパー木こりTIMEッ!!」
 クラリーチェの攻撃から間髪入れず斬撃を叩き込む汰磨羈。その姿は残像をいくつも作り、全てが質量を持つかのように重い1撃を撃ち込む。
 メリ、メリメリメリ──。
 裂ける音に飛びのけば、頭上を覆うようだった大木が折れて倒れる。さんさんとした日光が亀とイレギュラーズに降り注いだ。
 亀が唸りを上げ、回転して暴れまわる。仲間を庇ったクロバはエッグシュ!! となおくしゃみを響かせながらも踏ん張った。
 助けに来てくれた彼女たちのためにも、只々守られるわけにはいかない。男を見せろクロバ=ザ=ホロウメア!
「はや”くたお”すぞ!!!」
 イマイチ決まらないが気概は十分。リアの優しい旋律が彼を癒し、あともう少しと奮い立たせる。
(私は天才なねこだから、ある事に気づいてしまうのだよ)
 汰磨羈の視線は先ほど折った大木──その根元へ向けられている。亀があの大木によって光合成を行っていたならば、養分を受け取るのは根のはずだ。根で受け取るということはそこに甲羅があっては邪魔である。
 つまり?
「この切り株と化した部分を掘り進めば、直で内臓に届くのでは?」
 折れた大木の根元めがけて攻撃を叩き込む汰磨羈。嫌がるように亀が暴れるが、その手は止まらない。リースリットの細剣も緋色を増して魔神の剣と化す。
 苦しみ足掻く亀が暴れるも、リゲルの銀閃が攻撃を跳ね返す。汰磨羈が今も掘っている根の部分へ火球を撃ち込めれば助けにもなろうが、延焼を避けるには技を封じなくてはいけない。なればこそ、これが彼のできる今の最大限。
「リゲル、あともう少しだ!」
 ポテトの回復が前衛側まで及び傷を癒す。彼女の言葉通り、亀は目に見えて疲弊している。あとは畳みかけるだけだ。
 シフォリィが細剣で叩き込むのは愚直なほど真っすぐに、美しい一閃。動きの鈍くなった亀へ汰磨羈が「終わりだ」と笑う。
 甲羅のない内側をごく近くから攻められた亀は、上から叩き潰されるがままに倒れ伏したのだった・



「お……終わックショイ!!」
 最後まで締まらない。鼻をすすりながらクロバは辺りを見る。他にモンスターなどは見当たらない。花粉も敵を倒したからか、少しばかりマシになった気がする。多分。
「あら? これは」
 倒したスギカフンの元で何かを見つけたシフォリィは屈み、それを手にした。薄ら虹色に輝く玉は、シフォリィの手に渡るなりすぅと消え失せてしまった。同時、森の一角が新たな道を作る。
「ヘイムダリオンの先に進めると言うことだろうか」
「そのようですね。けれどその前にローレットへ帰還しましょう」
 彼らの無事も報告しなければ。そう告げ踵を返すシフォリィに待ったがかかる。汰磨羈はびしりと皆を──より正確に言うなれば皆の纏う服を──指さす。
「このまま花粉を落とさないと、帰りで地獄を見るぞ」
 もちろん主にリゲルとクロバが。
 リースリットもその考えには頷く。彼らだけではない、自分たちも花粉を大量に浴びているのだ。花粉症というダメージを抑えるためにもどうにかしたい。
(払ったり着替える……だけでは不十分か)
 先にクラリーチェが髪や服をパタパタとはたいていたが、完全に取り去ることはできない。花粉もそうヤワではないのである。あと思いつくのは体を洗うくらいだが──。

「と言う事で。水源を探してサービスタイmもとい水浴びといこうか」
「えっ」
「いいですね! いやー、あたし深緑でマイナスイオンに包まれながらの水浴びってしてみたかったんです!」
 小さな驚きの声にかぶさって、リアの嬉しそうな声が上がる。花粉を落とすにはもってこいだし絶対に気持ち良い。
「花粉症再発とか洒落になりませんからね」
 シフォリィも至極真面目な顔で頷く。帰ってからも花粉症に付き合わなければならない彼らのことを思えば、早く花粉を落として少しでも楽にしてやらねば。
「というわけで兄上殿、どこかにいい水場ない?」
 水の音聞こえるでしょう、とリアが言えば他の皆も期待の眼差しを向ける。最も、涙で潤んだ視界のクロバにはそんなはっきり見えていないが──。
「沈めるとか無しでオネガイシマス」
 これだけは絶対条件だ。

 尚、サービスタイムの様子は読者の妄想にお任せする。

「兄さま!」
 アーカンシェルを出ると、冬月 雪雫が『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)と共に待ち構えていた。フレイムタンは無事戻ってきたリゲルとクロバを見て目元をやわらげ、「先に戻る」と去っていく。
「雪雫、ありがとうな。流石は俺の妹だ」
 まさか助けてもらう日が来るとは思わなかったが──いや。いつも助けてもらっていたか。
 雪雫はクロバを見上げ、嬉しそうに顔を綻ばせる。そして他のイレギュラーズたちへ顔を向けるとそちらへ深く頭を下げた。
「皆さんも、兄さまを助けて頂きありがとうございました」
「ああ、俺からも言わなきゃな……助かったよ。シフォリィたちにも心配をかけたようで、」
 告げるクロバにシフォリィがそうですよ? と言いたげな視線を向ける。苦笑して謝ったクロバは「迎えに来てもらえて嬉しかったよ」と返して。
「暫くは気に近づくのが怖くなってしまうな。任務とあらば闘志を奮い立たせるが」
「リゲルならできるさ。とはいえリゲルが苦しむのは困るから、帰りに病院へ寄ろう」
「あ、クロバさんには下宿先にティッシュを沢山送っておきますね」
「それは助かる。それはもう助かる」
 仲の良い2組を暖かく、或いはニマニマと見守る周囲はローレットへの帰還を彼らへ促した。このままだ、深緑の木々で苦しむかもしれない。
(あとは帰ってからも念入りにシャワーを浴びれば大丈夫ですね)
 最後尾を歩きながら帰宅後の行動を考えていたクラリーチェは、ふと鼻がむずむずして立ち止まり。

「……くしゅんっ」


成否

成功

MVP

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 ヒロイン2名も無事救われました。救われました……よね?

 MVPは酷い酷い花粉症プレイングを送ってきてくれた貴方へ。私の腹筋が割れそうです。
 また称号をちらほらお送りしています。ご確認下さい。

 それでは再びのご縁をお待ちしております!

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