シナリオ詳細
<虹の架け橋>清水を取り戻せ
オープニング
●
村の奥の、秘密の水場。
そこには妖精の秘密がある。
かつて村が、水不足で困っていた時。
ふらりと現れた妖精が、村人たちを案内した。
村の奥の、山の奥。綺麗で清い、秘密の水場。
妖精たちが教えてくれた、村の大切な宝物。
それ以降、村は妖精たちに感謝するとともに、この水を名物に、潤う事になったとさ。
●
「というのが、この村に伝わるおとぎ話ですな」
と、村長は、村の館へと集まったイレギュラーズ達へと告げた。
妖精たちが実在するという事は、イレギュラーズ達にとっては周知の事と言えるだろう。妖精郷アルヴィオンよりアーカンシェルを通って森林迷宮に現れた妖精たちは、現地の人々と交流を持っていることが判明している。
となれば、このおとぎ話もまた、事実であるのだろう。
さて、何故イレギュラーズ達が、そのようなおとぎ話を聞いているのか、と言えばである。
昨今、アーカンシェルが何者かにより襲撃されるという事件が起こっていた。その結果、とあるアーカンシェルが未知の魔物たちにより突破され、連鎖的にすべてのアーカンシェルとアルヴィオンのつながりが、絶たれてしまったのである。
これにより、イレギュラーズ達にもたらされたオーダーは二つ。
アーカンシェルより、その内部に広がる迷宮ヘイムダリオンへと向かい、アルヴィオンへとつながるルートを構築すること。
そして、各地の妖精伝承を収集することにより、ヘイムダリオン踏破のために用いる術詩『虹の架け橋』を補強し、ヘイムダリオン踏破の手助けを行う事。
今回、イレギュラーズ達が受けた依頼は、後者である。
「そのおとぎ話から、この村は名水の里として有名になった、と。そして、その名水を用いた料理や酒などを振る舞うお祭が、近々開催されるわけですねぇ」
うんうんと頷きつつ、そう言うのは情報屋、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)である。しかし村長は、小さくため息をついて、頭を振った。
「その祭なのですが……今年は開催できそうもありません。ついてきてくださいますかな?」
と、村長は椅子から立ち上がると、イレギュラーズ達を村の中央を流れる川へと案内したのである。
「うわ、これは……」
その光景を見て、ファーリナは思わず、絶句した。本来清らかな水が流れているだろうその川は、今は泥と、ヘドロのような何かが流れ込み、ぐちゃぐちゃと汚れ切っている。
「これでは、清水の里とはとても言えません」
「何でこんなことになっちゃってるんです?」
ため息をつく村長に、ファーリナはが尋ねる。
村長曰く、村の奥、この清水の水源に、奇妙な魔物が住み着いてしまったのだという。
人にとってもありがたい清水は、魔物にとっても得難いものであったらしい。水源に住み着いた魔物は、水源で清水をむさぼりつつ、自身の出した汚水を下流へと流し始めた。
これでは、祭を開催することはもちろん、清水の里としての村の生活にも差し支えるだろう。
「元より妖精の伝承を収集するのがお仕事……お祭を見学するまでがお仕事であるともいえます。となれば、この事態を放っておくことは出来ませんね!」
ファーリナはそう言うと、イレギュラーズ達へと告げた。
「という訳で皆さん、お仕事です! 清水の水源に向って、魔物を撃退してきてください!」
そうとなれば、話は早い。
村長と、ファーリナに見送られつつ、一行は村の水源へと向かったのである。
- <虹の架け橋>清水を取り戻せ完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月03日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●清水の水源で
ここは妖精の清水、その水源地。
本来ならば透き通っているだろうその水は、今はひどく濁り、悪臭を漂わせている。
その泥水のただなかで、ばしゃりばしゃりとのたうち回るのは、巨大な猪。ばしゃりと猪が動くたびに、泥が舞い上がり、水が濁る。
さらに。その周囲には、五匹の蠢く泥のような生物、泥の魔獣が、水を飲み、ヘドロを吐き出していた。
「やれやれ、猪と魔獣が、雁首揃えて水質汚染とは……」
その様子を見やりながら、ため息をついたのは『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)だ。清水の水源地の奪還を依頼された汰磨羈たちイレギュラーズは、今まさに、現地へと到着したわけである。
「道中、酷い臭いだったよ。あの魔獣が出すヘドロを、猪が泥浴びして混ぜ合わせて下流に流してるんだ……意識してやってるわけじゃないだろうけど、良いコンビネーションだね」
形のいい眉を引締めながら、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が言う。村に続く、水源地からの河川は、魔獣と猪の出すヘドロでひどく汚れ切っており、臭いもひどい。これでは、下流に住む人間たちはもちろん、その他の動物たちですら手を出すことは出来まい。
「飲みに来るぐらいなら良いと思うけど、自分達以外は知ったことではないというやり方は見逃せないな」
ウィリアムが言う――これでは、猪と魔獣以外のすべての生き物に対して害を及ぼす行為だ。ならば人としても、森に生きる命としても、これを見過ごすわけにはいくまい。
イレギュラーズ達は戦闘準備を整えると、一気に水源地へと飛び出した。膝辺りまで満ちた水が、少しばかり煩わしく感じるが、一部のイレギュラーズ達は水面ギリギリを飛び、それをやり過ごしている。
突如として現れたイレギュラーズ達へ、猪、そして泥の魔獣は警戒の態勢を取った。そんな彼らの前に躍り出たのは、巨体をものともせず水を駆ける、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ! 水源地を破壊せぬよう、保護結界を展開しつつ、青き鎧――『駆動大青鎧『牡丹・海戦』』に包まれた身体が水を切る!
「ぶはははっ、ちょいと邪魔するぜ悪戯小僧共! 遊ぼうや!」
轟! 放たれるは深く響く声! 目立たんばかりのその巨体。猪、そして魔獣はこう思った。「この敵を真っ先に排除しなければ」。これこそが、ゴリョウの得手とする戦術、『招惹誘導』である。
ぶるる! 猪がその鼻を鳴らし地を蹴った。水柱を立たせながら突撃――! ずしん、と響く衝突音が響き、ゴリョウが猪を受け止める。
「ぶはははっ! 泥浴びは気持ちいいよな……わかるぜ? だが、他の生き物に迷惑をかけるのはいただけねぇな!」
「そうよね。使うなら綺麗なお水の方がいい……でも、それじゃあ私たちも困ってしまうの」
『儚花姫』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は、ゴリョウへと意識を向けていた泥の魔獣を見つけ、ターゲットとした。放たれる、不可視の刃が、泥の魔獣を切り裂く――弾ける様に、あるいは血を吹き出すように、魔獣の身体から泥が噴き出た。
「あなたたち、お話しできるかしら? 少しは喋っていただけると嬉しいのだけれど」
静かに呟きながら、少しばかり意識を集中して、耳を澄ませてみる――ギフトによって届いた声は、単純なものだった。「お水が飲みたい。綺麗なお水」「お水を飲む。お水を飲む」。
「あら……」
ヴァイスはほほに手をやりつつ、小首をかしげた。魔獣はごく簡単な思考しかできないらしく、水を飲むのも本能のまま、と言った様子のようだった。
「少しかわいそうだけれど……でも、そう言うお仕事だから……ごめんなさいね?」
「ゴリョウが抑えているうちに、数を減らしてしまおう」
ドリンクの効果で翼を授かったウィリアムは、水面ギリギリを飛行しつつ、泥の魔獣たちをターゲットする。
「一気に行かせてもらうよ」
放つのは、うねる雷撃だ。奔る蛇にも似たその雷は、泥の魔獣のみを的確に狙い、その牙を突き立てていく。泥の魔獣たちが、感電したかのように、その身体をぐねぐねとうごめかせる。ダメージはしっかりと入ったようだ。
「ヘドロを吐くような奴に、碌なのはいない。速攻で潰させて貰うぞ?」
汰磨羈は手にした二振りの刃を、刹那の下に煌かせた。瞬天、三段。三つの急所を刹那の間に狙う技――。
「急所……核を狙えれば一発かもしれんが――」
相手は不定形。それを狙う事は些か難しいかもしれない。ならば、と汰磨羈は次の斬撃へと入る。
次なる一手は恍惚なる一撃。相手を惑わし、眩まし、恍惚の内に落とす、刃。斬り飛ばされる破片が、泥へと変わって大地へとしみこむ。
「うむ、一先ずは滅多斬りだな!」
その手は止まらない。むしろ加速していく。残像すら発生するほどの、文字通りの滅多切り。その残像すら質量を持ち、攻撃を行っているかのような錯覚。其れすら覚えるほどの高速連撃!
果たしてその攻撃の前に、立っていられるものなど居ようものか。限界を迎えた泥の魔獣がぱん、と破裂し、水に流れて消えうせた。
泥の魔獣たちも、決してやられてばかりではない。体の泥を弾丸のように発射し、イレギュラーズ達を狙い撃つ。
「おっとと……でも、そんな程度じゃやられないよ!」
泥の銃弾を打ち払いながら、『蒼銀一閃』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は、にっ、と笑った。手にした剣、『蒼嵐』を構える――風を纏う刃は、シャルレィスの髪をはためかせ、周囲の水にさざ波を立たせる。
「風よ! どうか力を貸して! 村の人達の為にも、ここはガツンと倒させてもらうよ!」
鋭く、『蒼嵐』を振り払う――その剣圧は鋭い風を発生させ、風は刃となる。巻き起こる風の斬撃が、泥の魔獣を、そして猪を切り裂き、泥を、血を噴出させた。ごおお、と猪が雄たけびを上げる。ぎろり、と睨む眼に、しかしシャルレィスがひるむことは無い。
「皆に迷惑をかけてるんだから! 許してあげないよ!」
「そうそう、お祭りができなくて困ってる人たちがいるんだ」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は、『気』を練り上げる。『内功』、その気の流れを右腕へ。機械腕がうなり、周囲の泥の魔獣を殴り飛ばした。限界を迎えた個体が、ばしゃり、とはじけて消える――その様子を見やりながら、イグナートは笑う。
「それに、イノシシってオイシイらしいじゃない? 楽しみなんだよね!」
目の前の敵にして、獲物――巨大なる猪は、巨大ではあったが実は引き締まっている様子で、野性味あふれる味がしそうである。
「水源はみんなのものよ」
『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)が、その手にした『贋作・天叢雲剣』を掲げる――途端、遠く離れた場所にいた泥の魔獣、それがいた空間が爆発、炎を発生させて、内部に称えた泥ごと焼き尽くす! きゅう、と声をあげて、泥の魔獣が焔の中へと消えた。
「綺麗な水は、豊かな実りをもたらす、土地に不可欠な場所。それを汚すというのならば、豊穣を担う稲荷神の眷属として、見過ごすわけにはいかないわ、あなた達!」
イナリはきっ、と猪たちを見据える――その気迫に、僅かながら猪たちがたじろいだ。
その隙をついて、水上を駆ける白い影――。
「俺死にたくないからさ、あんたらが死んでね」
鋭く、冷たく告げる一声。『妖紫淡冷』霧裂 魁真(p3p008124)は液体金属を刃と変えて、泥の魔獣に斬りかかった。鋭い斬撃、その一刀。真っ二つに切り裂かれた泥の魔獣が、臭い泥をまき散らしながら絶命する――ぴっ、とそのしずくが、魁真の頬を汚した。
「――はっ、汚ったないな。これだから理性のないやつは嫌いなんだよ」
冷たく言い放つ――頬をぬぐいながら、しかし意識は次なる敵へ。
イレギュラーズ達の一気呵成の攻撃によって、泥の魔獣は瞬く間にせん滅された。残る敵は、巨大な猪、ただ一匹となったのである――。
●巨猪と清水
「さ、残りはお前だけだ」
魁真が告げるのへ、ぐるる、と猪が唸り声をあげる。状況は猪に不利であったが、もとより仲間意識など持ち合わせていない間柄。猪からしてみれば、最初から一人で戦っていた気分であったろうか。
ぐご、と声をあげて、猪が突進した――魁真はエナジードリンクの力も借りて跳躍。それを回避してみせる。
「そんな攻撃が当たると思ってんの? ああ、わかんないのか」
すれ違いざまに、刃を振るい、斬りつけてやる――ぴし、と毛皮が割かれて、血が吹きだした。だが、猪は未だその闘争心衰えることは無い。怒りが、なけなしの理性を上回ったようである。
「おいおい、お前の相手は俺だぜ?」
ゴリョウがその身体を大きく構え、猪の前に立ちはだかってやる――猪の突撃! 豪! 並の人間なら数メートルは吹き飛ばされるだろう突撃に、ゴリョウは耐えて見せる!
「貴方は――怒りの声しか聞こえないわ」
ヴァイスの脳裏に響いたのは、猪の激しい怒りの声だけであった。これでは対話は難しいだろう。
「もう。食事にされてしまうかもしれないのに」
少しだけ同情の色を乗せて。しかし手加減はせず、ヴァイスは再び、不可視の刃を放った。斬撃が猪の身体を切り裂き、うごう、猪が悲鳴を上げる。身体をぐらつかせた猪へ、
「加減はなしだ。全力で撃たせてもらうよ!」
ウィリアムの文字通りの全力、破壊の魔術が、猪の身体を打ち据えた。爆発が、殴りつけるように猪に襲い掛かり、猪はたまらず転倒した。
「起き上がらせはせんよ!」
続いたのは、汰磨羈だ! 双刀を煌かせ、猪の脚部を斬りつける! 激しく切り裂かれた脚から血が噴き出し、起き上がる事すら困難な猪の腹に、さらなる斬撃をお見舞いする!
「生憎、御主の運命はもう決まっている――さぁ、大人しく飯になるがいい!」
もはやこうなれば――いや、もしかしたら最初から――猪など、イレギュラーズ達にとっては狩りの獲物でしかない。とはいえ、猪も最後の力を振り絞り、今度は本当にのたうち回りながら、その巨体そのものを武器として、イレギュラーズ達に反撃を試みる。それはしかし、イレギュラーズの命を奪うには程遠い反撃だった。
「残念、ここまでだよっ!」
猪の攻撃及ばぬよう、高く跳躍しながら、シャルレィスは刃を振るう――暴風纏う、怒涛の刃。激しい風圧は無数の刃にも似て、猪の体中に鋭い切り傷を生み出す!
ぼう、と猪が弱々しく声をあげた。ずん、とその身体が水源地の中へと没する。しかし、猪の生命力は大したものだった。わずかながらその身をうごめかせ、なお立ち上がろうとする。
「わるいけど、これでオシマイだよ」
イグナートは力強く、その拳で猪の頭部を殴りつけた。ぐるり、と猪が白目をむき、そのままずしり、と水の中に身体を沈め――ついに、そのまま動かなくなった。
「さて、これで討伐カンリョウ、だね」
イグナートが肩をすくめるのへ、仲間達は頷いた。清水を汚す元凶――その魔物たちを、イレギュラーズ達は討ち取ったのだ!
「おぉ、とりあえず、猪の血抜きをしねぇとな! ぶはははっ!」
巨大な猪などは、もはや巨大なご馳走の塊である。ゴリョウが猪を引っ張り出そうとするのへ、汰磨羈は目を輝かせつつ、
「おお、私も手伝うぞ! ご馳走の前準備はしっかりしないとな!」
耳をピンと立てて、猪を水源の外へとひっぱりあげる。
――とはいえ、イレギュラーズ達の仕事はこれで終わり、という訳ではない。
「やっぱり、まだ汚れたままだね。どうすればいいのかな?」
魁真が言う。水源を汚す存在は消えた――とはいえ、その汚れ自体は残ってしまっている。
「やはり、ヘドロを掻きだす必要があるだろうね……もう一仕事、と言った所かな?」
ウィリアムが袖をまくるのへ、イナリが声をあげた。
「実は、一つ、手があるの」
と、イナリは懐から何かを取り出した。それは、稲の種もみであった。
「水穂国、っていうお米の種でね。これには水質や環境を、急速に改善してくれる力があるの。これを私のギフトで急速に成長させれば、すぐに水も元に戻ると思うわ」
「へぇ……凄いんだね。じゃあ、手分けして蒔いちゃおうか!」
シャルレィスが笑いかけるのへ、イナリも笑ってみせた。イナリは仲間達に種もみを手渡す。
「お、米か!? 俺達も手伝うか?」
米と聞いては黙ってはいられまい。ゴリョウが声をあげるのへ、イナリが頭を振った。
「こっちは大丈夫よ、ただ種をまけば終わりだから……猪の方、お願いね?」
「ふふ、お米の種をまくなんて経験、初めてだわ」
ヴァイスが笑いながら、種もみを手にすくってみせた。さらさらとした米の粒が、手に心地よい。
「深く気にしないで、大雑把にまいてしまっていいわよ。発芽はこっちのギフトでできるから」
イナリが言うのへ、イグナートが頷いた。
「ナルホドね。じゃあ、こうやって……それっ」
水場にまき散らすように、さっと種もみをまく。仲間達も、それに倣って、水源に種もみをまいていった。
さて、数十分ほどで、種もみ蒔きは完了した。後はこれを発芽させるのみである。イナリが祈る様に意識を集中させると、水源が黄金色の輝きに満たされた。途端、水底からにょきにょきと、次々と稲の茎が、葉が伸び、茂り、瞬く間に先端に稲穂をつけたのである。
「すごい、ほんとに、稲が実ってる!」
シャルレィスが感激の声をあげる。それどころか、イナリのいう通り、その稲穂は急速にヘドロを無害化していった。妖精の導いた不思議な水源という事もあってか、神秘的にも、土壌の改善は瞬く間に行われていったのである。
そしてまばたきする間に、水の底まで透き通るようになった水源が、その姿を現したのであった。
「うわぁ……! これが本当の妖精の清水なんだね! すっごくすごく綺麗!」
シャルレィスのいう通り、見ているだけで心まで癒されそうなほどに、その水源は美しかった。
「これは、名物になるのも頷けるね」
ウィリアムが頷く。それはまさに、妖精の奇跡の水だった。
「さて、そろそろ戻りましょう?」
ヴァイスがそう告げるのへ、仲間達が頷く。
「おう! こっちも準備完了だぜ!」
ゴリョウが声をあげる――その後ろには、見事に解体された猪の肉があった。
「うんうん、これは食べるのが楽しみだぞ!」
汰磨羈が言う。
果たして一行は、帰途へとついた。村へと続く下流の河川はすでに澄んだ色を取り戻しており、村に帰ったイレギュラーズ達は、河川を救ってくれた喜びと、巨大な猪肉に驚く村人たちに、迎え入れられたのである。
●祭りの夜
その夜――。
村にはたくさんの明かりと、陽気に笑う人々で埋め尽くされている。
子供たちは妖精を模した衣装に着替えて、大人たちに清水で作ったお酒やジュースを配る。すると、お返しにお菓子をもらえるのである。これは、妖精たちが村人に清水を与えたことの再現なのだそうだ。
無事に開催された村の祭に参加したイレギュラーズ達。祭の眼玉である、清水で作ったお酒やジュースなどに舌鼓を打ちつつ、もう一つの目玉――ゴリョウの用意した巨大猪の牡丹鍋、そしてゴリョウとイナリの用意した『お米』が、イレギュラーズと、村の人々の舌を楽しませていた。
「うーん、美味いな! やっぱりいい肉になると思っていた!」
汰磨羈が機嫌よさそうに耳をぴくぴくと動かしながら、猪肉をほおばる。みそ味の鍋に入った猪肉は、臭いなどはなく、しっかりとした肉の味を楽しませてくれる。
「ご飯も美味しいわね……お米の種類によって、食べた感じが違うのも不思議」
ヴァイスが言う。ゴリョウの用意したお米と、イナリの用意したお米。品種によって、味や性質に違いが出るのだ。
「どっちも甲乙つけがたいね……ううん、ぜいたくな悩みだ」
ウィリアムが唸りつつ、ご飯を口に運ぶ。
「村で出されたお酒もサイコウだよ」
イグナートが村の名産のお酒を、くい、と飲み込んだ。澄んだ後味のお酒が喉に心地よい。
「最高のお肉、お米、お水……うーん、来てよかった!」
幸せそうに料理をほおばるシャルレィス。その気持ちは、他の仲間達も同じくしていた所だろう。
「ご飯はたくさんあるから、遠慮せず食べてね……いつか妖精の皆にも、お米を食べてもらいたいわ」
ご飯をよそいつつ、イナリはそう言うのであった。
一方、祭の喧騒から隠れるように、魁真は一人、村の水を飲んでいた。
自らが救った、村の名産。なるほど、確かに、美味いものだった。
「よう、混ざらねぇのかい?」
と、魁真に声をかけたのはゴリョウだった。魁真は答えるでもなく、静かに頷く。仲間と騒ぐ。そんな柄ではないし、資格もない。そう思っていた。ゴリョウもまた、魁真の意志を汲んで、静かに頷いた。
「ま、ローレットには色んな奴がいる……深くは踏み入らねぇ。だが、飯を喰いたくなったらいつでも言ってくれ! 歓迎するぜ!」
ぶはははっ! と笑い声を残し、ゴリョウは牡丹鍋の様子を見に戻る。そんなゴリョウの背中を見ながら、
「……いつかは混ざれる日がくるかな」
静かに、呟いた。
祭の夜は賑やかに、静かに――過ぎていったのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様のおかげで水源は守られ、無事に祭も開催されました。
そして、皆さんがもたらしたお米……稲。
これはもしかしたら、新しい村の名物になるのかもしれません。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
妖精の伝承を収集する過程で、魔物の被害を被る村を発見しました。
この村を救い、お祭を無事に開催させてください。
●成功条件
魔物たちの排除
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
妖精伝承の収集で訪れた村。
そこは、かつて妖精の導により、澄んだ水を手に入れ、それを名産として生計を立てている村でした。
折しも、村では妖精たちに感謝する祭を開催する時期。しかし、その清水は魔物によって荒らされ、汚れてしまっています。
皆さんには、この祭を開催させ、妖精の伝承を収集するためにも、水源に現れた魔物たちを撃退してもらいます。
作戦開始時刻は昼。周囲は充分に開けています。
なお、戦場は水源となりますが、せいぜい膝がつかる程度の深さのため、『ちょっと歩きづらいかな』位のペナルティが発生するのみとなります。
●エネミーデータ
巨猪 ×1
特徴
巨大化し、魔物と分類されるまでになった巨大な猪です。水源で泥浴びをしているため、水が濁ってしまっています。
高いHPを持ち、近接~中距離を射程とする物理攻撃を使用してきます。
BSとして、崩れ、ブレイクを持ちます。
泥の魔獣 ×5
特徴
泥を核として生まれた、不定形の魔獣です。清水を吸って強化され、代わりにヘドロを吐き出して水源を汚染しています。
中距離~遠距離を射程とする神秘攻撃を使用してきます。特筆すべき能力はありませんが、少々数が多いのがネックです。
BSとして、泥沼、猛毒を付与してきます。
以上となります。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
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