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シナリオ詳細

<虹の架け橋>イベリスの咲く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ローレットにふわり、と香った良い匂い。それを嗅いだ『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は目を細め──次いで、何とも言えない表情を浮かべた。
「随分と奇妙な顔をしているな」
「……アンタも材料を知ればこうなるよ」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)へ肩を竦めたシャルルはどうぞ、と勧められたそれをやんわりながらも固辞する。フレイムタンはそれを受け取ると掌に乗せた。
「普通のクッキーに思えるが……」
 そう呟く彼は知らない。これを差し出した小人がイレギュラーズたちへ、どのような材料を取りに行かせたか──なんて。
 口に含んでみれば、ホロリとクッキーが崩れる。しっとり甘い味にフレイムタンは目を細めながら咀嚼した。
「美味だ」
「嬉しい! ……でも、今は持ち帰れないのよね」
 小人がしょんぼりと肩を落とす。それは少し前にもたらされた情報が関与していた。

 妖精郷アルヴィオン。そちらと混沌を繋ぐアーカンシェルが一斉に破壊、突破された──と。

 ローレットが妖精の頼みにより保護していたアーカンシェルは無事である。しかし破壊されたアーカンシェルにより、連鎖的に使用ができなくなっているようだ。
 未知の魔物たちはすでに門の向こう側──アルヴィオンへ送り込まれていると考えて良いらしく、つまり妖精郷と妖精たち、そして妖精王の危機であった。
「ねえ、ヘイムダリオンの攻略は? 急がないと、あっちには友達がいるの!」
 いつも花束をくれる友人へ、代わりに菓子をあげるのだと小人は言う。そんな平穏が崩されてしまうかもしれない。だから早く攻略を、と急かすのだ。
「今ブラウが人を集めているから。ほら、お菓子あげる」
 シャルルが包装紙に包まれたチョコレートを渡すと、小人はそれを抱えて小さく唸る。あれだけ菓子好き甘いものは別腹だ、と言わんばかりに食べていた小人とは思えない姿であった。
「ふむ。……我もその攻略に参加しよう。少しでも手は多い方が良い」
 フレイムタンの言葉にぱっと顔を上げた小人。そこへちょうどブラウ(p3n000090)が「お待たせしました!」と戻ってきた。その後ろにはひよこが集めてきたイレギュラーズも一緒だ。
「では皆さん、依頼の内容をもう少し深くご説明しますね」
 現在の深緑、そして妖精郷アルヴィオンとアーカンシェルの状態を簡単に説明したブラウ。ここまではシャルルたちが先ほど話していた内容と同じだ。ここには魔種が絡んでいることも付け足す。
「現状は魔種がアーカンシェルを強引に突破、アルヴィオンへ侵入したことによるものだと考えられています。僕たちとしても魔種が絡んでいるとなれば放っておけません」
 故に、一同は妖精に協力することとなる。目指すは妖精郷アルヴィオン。向かうための第1の壁はとある吟遊詩人が解決してくれた。
「『虹の架け橋』という術詩を編み出したのだそうです。詳しいことは僕にもわからないのですが……これをアーカンシェルの前で歌う、演奏することで門が開かれます」
 最も、開いた先にアルヴィオンがあるわけではない。そこがイレギュラーズの力を発揮すべき第2の壁。アーカンシェルを抜け、広がるのは『ヘイムダリオン』と呼ばれる大迷宮だ。
 本来ならば妖精郷と混沌の間にはこの大迷宮があり、ここを突破することで行き来ができるもの。妖精たちの使用するアーカンシェルはこれをショートカットする機能を持っていたのだそうだ。
「この迷宮はどこか『果ての迷宮』と似たところがあります。あちこちに空間があるようなのですが、ここも場所によってバラバラみたいなのですよね」
 ある場所では青空が広がり。またある場所では深海に出る。この迷宮もまた未知の空間が続いていることだろう。
 そしてただ進むだけでは階層突破のできなかった果ての迷宮と同じように、ヘイムダリオンもまた深部へ進むための条件がある。
「『虹の宝珠』と呼ばれるアイテムがあります。皆さんにはそれを集めて欲しいんです。これが必要数集まれば道が開くそうですよ」
 ヘイムダリオンの詳細はこちらをどうぞ、とブラウから羊皮紙を受け取ったイレギュラーズ。どうやら一同が臨む空間の情報らしい。
 ふと1人が袖を引かれ、そちらへ視線を向ける。そこにはチョコレートを抱きしめたままの小人がいた。
「お願い、友達を助けて!」
 その声はイレギュラーズたちへどのように響いたのか。彼らは頷くと深緑へ足を向けたのだった。



 歌って、奏でて。
 虹の架け橋がアーカンシェルを開き、ヘイムダリオンへの道を繋ぐ。
 本来ならばあちら(アルヴィオン)から来た者しか入れぬそれを抜け、イレギュラーズたちは大迷宮へと降り立った。
「む、」
 瞬間、甘ったるいほどの香りがイレギュラーズたちの鼻を擽る。フレイムタンは香りに慣れるまでなんとも言えない顔をしていた。
 辺りは──花畑、だろうか。一面に白い花が咲いている。その先から蠢く何かがやってきているようだ。
「あの魔物を倒すと、宝珠を落とすのか」
 武器を握りこむフレイムタン。四肢と髪の炎が燃え上がる。彼は魔物たちからイレギュラーズへと視線を向けた。
「戦い方は貴殿らに任せた。策があるのならば従おう」
 頼むぞ、という彼の言葉にイレギュラーズたちは頷いた。

GMコメント

●成功条件
 虹の宝珠を集めること

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●エネミー
・シュガーフラワー×10
 砂糖菓子でできた花の魔物です。甘い香りを放つ歩く花です。動くたびに頭の花がフリフリと揺れます。
 倒すと虹の宝珠(小)を1つ落とします。
 命中が高く、防御技術は低めです。わらわらと群がってきます。

甘い香り:嗚呼、なんだか、トロンと。【恍惚】【痺れ】
花粉:ズビィッ【乱れ】【呪殺】

・シュガートレント×3
 砂糖菓子でできた木の魔物です。甘い香りを放つ歩く木です。幹の部分に怖い顔が浮かんでいます。
 倒すと虹の宝珠(大)を1つ落とします。
 HPが高く、回避は低めです。

風一陣:枝葉を振り回して周囲を攻撃します。しかし同族のことは脅かしません。【体制不利】【識別】
熟した果実:同族へ甘い癒しのプレゼントを。敵1体のHPが回復します。

●フィールド
 大迷宮『ヘイムダリオン』の中。
 イベリスという花を模した砂糖菓子の花畑です。周りは岩場で登れなさそうです。
 戦いが終わったら、先へ進む前に味見してみても良いかもしれません。

●友軍
『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年。そこそこ戦えます。イレギュラーズの指示に従い、特になければそれとなく頑張ります。
 此度は同じ精霊種の願いであること、母(世界)を脅かす魔種が絡んだ事件であることから参戦しました。

●ご挨拶
 愁と申します。
 大迷宮『ヘイムダリオン』の突破、頑張りましょう!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <虹の架け橋>イベリスの咲く完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

リプレイ


「ここが、大迷宮『ヘイムダリオン』か……」
「世の中には不思議な場所がいっぱいあるんだねぇ」
 あまりにも異なる空間にマルク・シリング(p3p001309)は辺りを見回す。一種の異世界とでも言うのだろうか。『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)も興味深げにきょろきょろと視線を移す。
 時間さえあれば色々と見て回りたいものであるが──妖精たちに迫る脅威を考えれば、そうも言っていられない。
「こうなるなら妖精郷に行く方法を最初から全力で調べておくべきだったな」
 自らの武器、いや本体を手にした『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は小さく歯噛みする。魔種に後手を取らざるを得ない状況。大変不本意だ。
 『風のまにまに』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は頷いて魔物の方を見やる。なんだか絵本に出てきそうな生物だが、眺めてばかりもいられない。
「……少しでも、早く」
 言葉少なに。けれど早く妖精郷へ辿り着かねばという想いは言葉の響きで十分伝わる。
 そのためには『虹の宝珠』をたくさん集めなければ。徐々に近づいてくるかの魔物たちを倒せばドロップするはずだ。
 不意にドゥーの鼻孔を甘く濃い香りが掠める。元々周囲から甘い香りが立ち昇ってはいたが、さらにそれが濃くなった。
「この花全部が……敵も砂糖菓子なのか? どおりで甘い匂いがするわけだ」
 すんすんと匂いを嗅ぐ『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)。虹の宝珠を手に入れ、敵が引いた後なら味見も出来るだろうか?
「甘すぎてお腹いっぱいになりそうです……」
 『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)はやや悪い顔色で胸をさすっている。『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が気遣わしげな視線を向けた。
 花の香りなどは苦手でないのだが、砂糖菓子はダメらしい。『甘い』も一概に言えるものではないと言うことだ。
「ここと言い、あの菓子と言い、小さき同胞たちは甘いものを好むのかもしれないな」
 フレイムタンが思い浮かべたのはローレットで小人より配られたクッキーのことだろうが──これに青薔薇少女と似たような反応を示した者がいた。そう、材料を採ってきた1人、『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)である。
(あのお菓子……原材料についてフレイムタンさんに教えてあげようかな……)
 そんな考えをアリアはすぐさま打ち消した。やめておこう。知らぬが仏という言葉もある。
 ただあの菓子を見た後のこの空間は、何とも言えない感情を起こすもので。皆が食べることを止めはしないが、自分は食べないでおこう……と心の中で呟いたのだった。
「……何だか、お腹が空く匂いね?」
 『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)は言ってから、恥ずかしげに頬を染める。ここへくる前に金平糖を食べたのに、一瞬何をしにきたのか忘れそうになる香りだ。そう、香りが悪いのだ。
「目標は、全ての敵の討伐。宝珠は得られるだけ得ましょう」
 気を取り直すように緩く首を振り、ラヴはとんと地を蹴る。それは軽く柔く、まるで風が頬を撫でるような動き。誰よりも早く駆けた彼女はトレントたちの真ん中で──。

「──夜を召しませ」

 呟きとともにぐにゃりと空間が歪んだような気がした。天蓋が、夜の星々が、月が落ちてくるような。それは気のせいで錯覚で、それでも何も感じずにはいられない。トレントの気がラヴへ集まった隙に利一はシュガーフラワーの1体へ攻撃を向ける。彼らから立ち上る甘い香りはますます濃くなっているようだ。
「行くぞ、さっさと片付けるっ!」
 魔力を纏った鎌が一閃。追加装甲を身に着けたサイズは前のめりな攻勢に出る。反対に遠方へと後退したドゥーは見えぬ悪意をサイズと同じ相手に叩きつけた。
「フレイムタンさんも……同じ敵を。お願いします」
「承知した」
 ドゥーの言葉に応えたフレイムタンが肉薄し、四肢の炎が苛烈に火の粉を散らす。その脇をすり抜けて、スティアは敵の眼前へと
「魔種の思い通りにはさせないんだから!」
 放つ魔法は千変万化。発動するその瞬間まで誰も──術者すらわからぬ遊び心の魔法。
 スティアの言葉に呼応して魔導器セラフィムから召喚されたのは火を纏った鳥。熱風をまとったそれが一直線にシュガーフラワーの方へ飛び込んでいく。おろおろわらわらと逃げ惑っていたシュガーフラワーたちは、ソレが過ぎ去った瞬間に狙う相手を定めたらしい。
「──!!」
 声なき声を上げ、スティアへシュガーフラワーの群れが迫る。そこへ切り込んでいくのはラクリマの血でできた鞭だ。
「回復なんてさせませんよ」
 最も、今は回復などしてもらえないだろうが──ラクリマはちらりとラヴの方を見た。その視界にちらりと淡い光がよぎる。彼が目を瞬かせると同時、アリアの元気な声。
「妖精さん、いっちゃえー!」
 きゃらきゃら、きゃらきゃら。精霊種の妖精とはまた異なった種のようだが、彼らは甲高い笑い声をあげながらフェアリーシュガーを総攻撃。その光景はともすれば妖精と花が戯れる図にも見えなくはないが──。
「倒さないと虹の宝珠を得られないから、全部の敵をきっちりと逃さず、倒しきらないとね」
 マルクの杖が振られ光が明滅する。白くなる視界に、けれど焼かれるような痛みを味わうのは敵だけだ。
 スティアの魔法がシュガーフラワーたちを完全に掌握しきれば、標的はフラワーからトレントへ。ラヴの放った銃弾は、攻勢の合図には程遠いかもしれないが──。
「──Distance of Love.」
 その言葉はきっと、よく聞こえたことだろう。

 ひたすら敵を引き続けるラヴ。一方のスティアはフラワーたちへの挑発を維持しながら意思の力を刃とする。放つ先は皆が狙うトレントだ。アリアは皆がトレントへ攻撃を向ける中、フラワーの数を少しでも減らそうと蛇骨の調を奏でる。
「こんなところで俺たちはもたもたしていられないんだ!」
 氷のバリアを張ったサイズが全力で魔力撃を叩き込む。効いていることは確かだが、生命力のある木を模しているだけあるのだろう。まだまだ元気そうである。
「僕たちは可能な限り攻めよう」
 神聖なる光を放ちながらマルクが呟く。仲間が引き付けと守りを担ってくれているのだ。回復の準備もあるが、できるだけ早く倒すに越したことはない。
「ただ前半戦は敵の数も多い。サポートも手厚くする必要がありますね」
 甘い香りに酔いそうなスティアへすかさずタクトを向けるラクリマ。幻の雪が花綻ぶように待って彼女を癒す。かと思えばすかさず攻勢へ転じ。畳みかけるように利一の魔弾がトレントを貫いた。途中からアリアも小妖精をトレントへけしかけ応戦していく。
(できるだけ、トレントには近づきたくないね)
 怒りの解けた隙に枝を振り回す敵を見て、利一は敵との距離を意識した。ともすればあれに巻き込まれかねないと。
 けれども至近距離でなければ攻撃できない者──肉弾戦的なフレイムタンとか──は致し方がない。回復手の負担を増やしてなるものかと攻撃は勢いを増していった。
「最後、の……トレントだね」
 仲間の攻撃する、仲間の引き付けてくれているトレントをめがけてドゥーは見えない悪意を放つ。必殺の刃であるそれはトレントへ最後のダメ押しをして、その巨体を沈ませた。
「いい調子。今度は、そちらね」
 ラヴは言葉を置き去りに、一陣の風となりて。シュガーフラワーの1体が花弁に穴を開けられほろほろと崩れていく。スティアはこちらへ向いた仲間を巻き込まないよう、再び千変万化を発動する。続けざまにラクリマが敵の不浄を打ち払う鞭をしならせた。先にフラワーたちの攻撃へ戻っていたアリアはひたすら小妖精をフラワーたちへ差し向ける。
「同族でもある妖精さんたちのためなの、ごめんね?」
 妖精たちが散開した直後、放たれたのは死霊の怨念を束ねた矢。
(この美しい光景には似合わない、ちょっと暗い感じの魔術だけど……)
 ドゥーはそこへ更に憎悪の力を乗せながら、次をつがう。この空間に見合うかどうかは関係ない。必要とされることだから、誰かの助けになることだから、只々全力で放つのみだ。
 けれどもフラワーたちとてただやられているわけではない。
「……っ」
 フラワーたちの集中攻撃がスティアへ集中する。咄嗟に大天使の祝福で傷を癒すものの、度重なる攻撃は治った上から傷を作った。
(私の役割はタンクだから……皆に手は出させない!)
 不屈の砦のように。後方へ1匹たりとも逃してなるものか。その意思を甘い香りが乱していく。
 けれど不意に世界が歪んだような気がして。いいえ、これは本当に気のせい。それを魅せられているのはフラワーたちだ。
「大丈夫? 少しでも、頼って頂戴な」
 ラヴの優しい声音がスティアの耳に響く。彼女は頷いてフラワーたちを見据えた。マルクの分析が甘い香りによって乱れた思考をクリアにさせる。
 もう少し。もう少しだからこそ油断できない。倒れる訳にはいかない。
「次の道を開くために──宝珠を寄越すのです!」
 ラクリマの操る魔力の鞭がフラワーを捉え、その苦痛を吸い上げる。たび重ねられていく攻撃に、フラワーたちはトレントがいないこともあってかくるりと方向転換。はっと利一が声をあげながら無理やり因果を歪める力を発動する。負担が生じるのは承知の上、けれど逃がすわけにはいかない。
「逃げる……皆、」
 気を付けて、と。言いかけたドゥーの耳にアリアの声が滑り込む。
「そんな距離じゃまだ私の射程範囲だよ?」
 逃げ始めたフラワーに、しかしアリアは容赦ない。妖精たちをけしかけその足を止めていく。倒れたフラワーから宝珠を回収するのはサイズだ。
「おっと、通さないよ」
 マルクは逃げ出そうとしたフラワーたちの進路へ先回り。たたらを踏んだ敵は全く別の方向へと走り始めた。
「こちらも通しません、よ!」
 ラクリマが更にその先を遮り、手にしたグリモアを力いっぱい振り下ろす。2体いたフラワーの片割れが餌食となり、辺りへ砂糖を散らした。
 残る1体は。
「──待てっ!」
 今度こそ逃げ出したフラワーをサイズが追いかける。最後の足掻きと言わんばかりに花粉を撒かれ、よろめくサイズだが──。
「……っ、全滅させるためなら、パンドラが削れても構わない!!」
 ぐわりと体を起こしたサイズが渾身の力で鎌を振り上げる。一閃すれば硬いものが砕ける感触を手に受けて。
 倒れたフラワーの一部が砂のように崩れ落ちる。サイズは近づくと、崩れ落ちた中から顔を覗かせていた虹の宝珠を拾い上げた。

 ──ああ。これで、終わりだ。



「虹の宝珠はこれで全部か」
 サイズかポシェットから集めた虹の宝珠を出す。周囲を脅かしていた魔物たちは1体残らず倒し、遺体──もとい、ただの砂糖菓子と成り果てた。
「小さいのが10個、大きいのが3個、で全部だよね?」
 マルクとドゥー、ラヴはまだ転がっていた宝珠を拾い集める。サイズのものと合わせて数え、アリアのハンカチ上へ。これらでどのように道が拓けるのか、一同は少なからず興味を抱いていた。
(きらきらしてて綺麗だなぁ……)
 集まった宝珠にドゥーは感嘆の吐息を漏らす。この空間にある虹の宝珠はまるで真珠のような乳白色で、光を受けると表面が薄ら虹色に輝いていた。
「これなんか、虹色のアメ玉みたい」
 小さな宝珠を見てアリアが呟く。もちろん食べないけれど、光を受けてキラキラ輝く宝珠は『お菓子なのかも』と思わせるに十分だ。
(壊れやすくてもいけないからね)
 集めた宝珠をハンカチで優しく包むアリア。奥へ持っていけば道が拓けるだろうか。
「……ねえ」
 かけられた言葉に視線を向けると、ラヴが何だかソワソワとした様子で。
「……砂糖菓子のお花畑、味見してみても、いいかしら?」
 そういう目的で来たわけではないけれど。でも、だって、気になるじゃない?
 道が拓けたとて彼らは一旦ローレットへ帰還するのだ。少しくらいなら構わないだろうと各々疲れた体を休め、あるいはこの空間を観察する。
「虹の宝珠に大迷宮。なんか詩の題材によさそうだよね!」
 脅威となるモノもいないのだから、とアリアはあちらへこちらへ。その後ろではスティアが興味津々に花畑を見つめている。
(これも植物だったりするのかな? それともお菓子……?)
 言葉を交わしてみようかと声をかけるも、応える様子はない。これは植物ではなく菓子、あるいはもっと別の何かという可能性もあるが──まあ菓子だと考えるのが妥当か。
「ちょっと味見させてね」
 植物ではないのだから良いも悪いも返ってこないけれど。スティアはひと声かけてその花弁を口に含む。ほろほろと砂糖菓子が崩れ、甘さが口腔を満たした。
「フレイムタンも一緒にどうかな?」
「ああ、共にさせてもらおう」
 利一の言葉にフレイムタンは頷くと並んで花を食べてみる。花も葉も茎も、全てが砂糖でできているようだ。
「疲れた体には甘いものが効くね」
 急速に癒されるような感覚に利一はほぅ、と息を零して──無心に咀嚼するラヴを視界に入れた。

 もくもく。
 もぐもぐもぐ。
 もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐもぐ……。

「……あっ」
 はたと視線に気づいたのかラヴは口元を抑える。甘さと美味しさにつられてつい。つい手が伸びてしまうのだ。このままでは食べ尽くしかねない。
 なお、食べ尽くせるのか否かと言えば──乙女にとって甘いものは別腹であるが故に。
「……お土産に少し持ち帰っても、良いかしら?」
「うーん。枯れてしまわないでしょうか?」
 ラヴの呟きにラクリマが花を観察しながら返す。植物であるのなら、持って帰る間に枯れてしまうのでは、と。
「大丈夫。これ、ただのお菓子みたいだよ」
 先程調べたスティアが声をかければ、2人はぱっと表情を明るくして。それでも壊してしまわないようにと砂糖菓子の花を大切に積んだ。
 イベリス──花言葉は『甘い誘惑』。しっかり惹きつけられてしまったらしい。

 虹の宝珠を奥へ持っていくと、途中からアリアのハンカチが軽くなる。
「あれ?」
 すわ落としたかと辺りを見回すアリアに、ドゥーが短く「……見て」と告げた。
 示した先には堅く道を閉ざしていた木の幹。それが生き物のようにうねり、隠していた道をイレギュラーズの眼前へ表す。
「これで先に行けるな。早く妖精郷にたどり着かないと……」
 急く気持ちのサイズ。まさか魔種が先に妖精郷にたどり着くとは思わなかったのだから然もあらん。
 けれどこのまま進んでいくのは危険だ。イレギュラーズたちは周囲の危険が完全になくなったことを再度確認すると、混沌へ──ローレットへの帰路に着いた。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 次はどのような空間が広がっているのでしょうね。

 MVPは大量の敵を引き続けた貴女へ。

 またのご縁をお待ちしております。

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