シナリオ詳細
幼子たちの楽園
オープニング
●
「あーん、ままー! ままあー!」
「はいはい、ごめんね~……いつも悪いわねえ保育士さん。旦那が帰ってくるまでまだかかるみたい」
泣きわめく幼子を母親から受け取りながら、そうですねえ、と保育士は苦笑する。
「噂では一時拠点となる島が見つかったと聞きますからね、まだまだ航海は続きそうですね」
「そうだね。帰ってくる奴らの分まで料理の腕を振るわなくっちゃ! なので、もし遅くなったらごめんなさいねえ」
「いいえ! いってらっしゃい!」
タコ足をうねうね動かして去っていくマダムを見送って、保育士は溜息を吐いた。
大号令が出てから、どの職も等しく忙しい。
其れは両親が働きに出ている間子どもを預かる「ニライカナイ保育所」も例外ではない。ないのだけれど……
「……忙しすぎるわー……!」
「まあま、まあまー! わああん!」
「あー、ごめんねー、ママはすぐ帰ってくるからね~! あっやめて足で首絞めないで」
●
「ニライカナイ保育所」
海洋の地図を開き、ある建物に筆で赤い丸を付けるグレモリー・グレモリー(p3n000074)。
「此処から応援要請が来ている。理由は判るよね、大号令の影響だ」
聞くに、大号令が出てから海洋の国民は全員が働いているようなものだ。老若男女問わず、毎日毎晩遅くまで。船を操舵する男たちに休みなどなく、男たちに休息と栄養を供給する女たちは大量の食材を調理することに余念がない。
国民が一体となって挑む、其れが海洋王国の大号令なのだが――ここまで“奇跡が起こり続ける”のは初めての事。時期が長引けば、当然何処かにひずみが生じてくる。
其れが今回は、彼らの幼い希望を預かるこの保育所であるという訳である。
グレモリーがぺらり、と紙をめくる。
「ええと……一日のスケジュール。まずは遊びの時間。海洋種の子が多いから、プールも併設してあるらしいけど、外の種族もいるし、砂場で遊ぶのも好きな子がいる。特にプールで溺れる子がいないように気を付ける事。其れから食事の時間。0歳児から5歳児までを預かっているので、離乳食の子などには気を付ける事。次にお昼寝の時間。騒音は厳禁、寝ぐずりする子もちゃんと寝かしつける事。つられて寝ない事。終わったらまた遊びの時間。気を付ける事は午前の遊びの時間と同じ。遊んでいる頃に親が迎えに来る時間になるので、身綺麗にしてお返しする事。もし遅れる親が居たら、その子を寂しがらせない事。 以上」
保育士って、大変なんだな……
その説明だけでげんなりするものが数人いるのを確認すると、そうだよね、と頷くグレモリー。
「これ、毎日そんな仕事をしている保育士さんたちを休ませてあげたいって依頼なんだよね。所長先生からの。こっちに残ってるイレギュラーズも少なくないからね、ぜひ頑張って欲しい」
保育士さんは勿論ヘルプで着くけど、メインで面倒を見るのは君たちだから。僕もやってみるけど。
さらりと爆弾発言を落としていくグレモリーなのだった。お前もやるの?
- 幼子たちの楽園完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年04月24日 22時05分
- 参加人数29/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 29 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(29人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
「……賑やかなもんだな」
エイヴァンが呟く。
子どもたちの笑い声が聞こえてくる。其のさえずりは希望の香りがした。
しかしここからは戦場。子どもたちは天使であると同時に手の付けられない悪魔でもあるのだ。
イレギュラーズは気を引き締めて、幼子たちの園に足を踏み入れる――
●あそびのじかん!
子どもが投げたボールを、トド……ではない、北斗がとん、と別の子どもにパスする。
春とはいえ海洋。太陽は眩しく、水は程好く冷たい。
意気揚々と挑むチシャ。
運動場の端っこにはきっと色々な植物が……ほらあったー! お花の精霊らしく、お花の魅力でちびっ子たちの視線を釘付けにしてやるなの!
「おはな! きれいね!」
「そうなの! 特にこの時期はツツジなの!」
「つつじ?」
「そう! そしてこの花は……こう! 吸うと甘いなの!」
「すごーい! やってみていい?」
「いいなの。でも摘みすぎはよくないから、一人一輪までなの!」
「はーい!」
「あっでもでも、チーがいないときは保育士さんに大丈夫か見て貰うの! 約束なの!」
言えばうん、と女の子は頷いて。
「チーちゃんのお花はあまいの?」
「え? まあ、チーのお花は……っていだだだだ! 引っ張ったら痛いの! 取れ……ほ、保育士さーん! 保育士さーーん!!」
「ねえ、お姉さんとかけっこしない?」
心はにっこりと笑顔を浮かべて、子どもに話しかける。
いいよ! と元気に答える男の子。バカめ、体格差も知らぬ幼子が……
「よーい……ドン!」
駆け出す。一切の容赦なく、心は5歳児相手に全速力を出す。
引き離される距離。泣き出して保育士さんになだめられる男の子。
しかし心のハートは満たされていた。
――ああ、勝つってなんて気持ちがいいのかしら!
「よし! プール!」
ウィズィはしっかり着替えを澄ませ、水温と気温を確かめる。
「みんなー! しっかり準備運動してねー!」
はーい、と元気な声が返ってくる。
全員が入ったのを確認してから、ウィズィもプールへと。
「私が活かせるのはこの筋肉くらいですが! おりゃー!」
高い高いしてぐるぐるしたり、腕につかまった子どもたちを連れて水の中を全力ダッシュ。初めてのパワープレイに子どもたちは大はしゃぎ。
しかし。ふと見つけた、プールに沈む2つの影。
「潜りっこ勝負ですか? 危ないですよー!」
影を頼りに捕まえて、引き揚げてみると――
「ああっ!? ひ、飛行種の子! 唇真っ青! 大変! 保育士さーん!」
慌てて子どもを運ぶウィズィ。幸い、直ぐに回復はしたものの……子どものやることは判らない、と気を引き締めるのであった。
鬼灯と嫁殿は室内で赤子の面倒を見ている。
『その時、ドラゴンがいいました』
嫁殿の読み聞かせに合わせて、鬼灯がドラゴンのぬいぐるみを動かす。きゃっきゃ、と楽しそうに笑う赤子。暖かく、おひさまの香りがする。
『本当に可愛いし、楽しいわね! 小さくてふわふわ……私も赤ちゃんほしいなぁ』
ねっ、鬼灯くん!
「……???」
嫁殿の自我が芽生える日も近い。というか芽生えてるでしょ?
「ほーら! この風船を一番に捕まえた子が優勝ですわよー!」
ヴァレーリヤがぽーん、と風船を空に投げ上げる。僕が私が、と小さな影が風船を追いかけ、それをよく判らないけど待ってと追いかける小さな子たち。
リアはその姿を見て、僅かに安堵していた。ヴァレーリヤは鉄帝の司祭だ。同じ司祭が魔に落ちたのはつい最近の事――しかし、あれだけ楽しそうな姿が見られたなら、少しは安心だろう。
子どもと一緒に走り回るヴァレーリヤの姿からは、悲しみは感じられない。
「おねーたん、どしたの?」
「ん? いいえ、何でもないわよ。あっちの騒がしいのは放っておいて、静かに遊びましょう」
日陰でおとなしく遊んでいた意識高い系女の子にリアは笑いかける。
一方騒がしい組。飛行種の子が羽を使って風船を受け止めたは良いが――
「あ、お、落ちてきてます!? 落ちてますわね!? いけません、ああ……こうなったら! どっせえーーい!!!」
「ぐえええええ!?」
飛びこむように子どもを助けた、までは良かった。しかしヴァレーリヤの勢いは止まらず、リアにそのままタックル。リアは吹っ飛んだ。顔面から着地した。震えている。
「フー、危なかったですわ! 危うく……あら?」
「……いい度胸だ……」
鬼が目覚める。ヴァレーリヤはそっと子どもを大地に立たせて。
「もしお怪我があったら、あとで医務室にいらっしゃい。……じゃあね!!」
「ゴラァアア!! 酔っ払い女!! てめぇ今すぐにブチのめしてやる!! 地獄の果てまで追いかけてやるからなァ!!」
子どもたちだって、立派な一人のヒトで。お世話して“あげる”なんて心づもりではいけないのだとブーケは思う。
お世話するのではない。一緒に過ごすのである。年齢性別関係なく、困っていたり危なかったら助ける。当たり前の事。
「ねぇね、仲間にいーれーてー」
「わぁ、うさぎさん! いーいーよー! 今ね、鬼ごっこやってるの! うさぎさんが来たから、またじゃんけんしよ!」
「楽しそうやねぇ」
こけたりしたらごめんねぇ、とあらかじめ謝っておく。
でもね、子どもたちはきっと君を心配するよ。こけても大丈夫って笑っても、きっと君をとっても心配する。そしてきっと、君に合わせてゆっくり鬼ごっこをするんだ。
●しょくじのじかん!
「ふふふ……ごはんなら任せろ! 俺のテクでうまうま言わせてやるぜガキども!」
女王の為ならエンヤコラ。今日も史之は元気に主夫スキルを高めております。
まず哺乳瓶は熱湯消毒。トングで取り出し粉ミルクを計量して入れたら、熱湯を入れて一振り。これで一瞬で溶かせます。溶けたら湯と水の配分を目盛で覚え、ルーチンワークで量産していく。
「次は……と。離乳食か」
よし、と史之は再び腕まくり。
とうもろこしと人参を粗ごしして甘いものを。釜揚しらすを潰して塩っけがあるものを。二種類用意して、子どものニーズと興味に合わせる。
更に作業は続く。離乳食から普通のご飯へ移行すると現れるのが“好き嫌い”。
嫌いなものはズバリ、こっそり食べさせて慣れさせる。細かく切ってハンバーグのタネにIN。煮込んでソースと肉の味に紛れ込ませればほら、ちっとも気にならなくなりますよ!
「ありがとうございます! すごい……さすがですね!」
「いえ、このくらい! じゃあ俺は離乳食を食べさせにいきますね!」
これもまた、女王と海洋の平穏のため。意気揚々と離乳食を園児のもとへ運ぶ史之なのだった。
「海洋の子だから、お魚がいいわよね」
ミルヴィは張り切って離乳食の作成中だ。白身魚と野菜をしっかりみじん切りにして煮込む。
「味付けはお出汁でシンプルに……っと。できた!」
小骨が残っていない事を確認し、子どもたちの元へ急ぐミルヴィ。急いで、だけど離乳食を零さないように。
「はい、出来たよ~! 一人ずつね、一人ずつ……」
あうあう、とご飯を求める子を抱き上げて、そっとスプーンを口元に運ぶ。ミルヴィの眼は柔らかく魅了を紡ぎ、子どもの緊張をほぐす。
「(アタシはお嫁さんに――お母さんになりたかったな)」
もぐもぐと咀嚼する幼い口元に、思わず笑みが零れる。其れは夢。儚く夢見た未来。
……いや、今考える事ではないか。
ミルヴィは笑みの中に全てを押し殺して、子どもたちの世話に励むのだった。
「なんで俺、こんな事してンだろーなァ……」
といいつつも、しっかり可愛いエプロンをして子どものご飯をサポートするペッカート。ミルクを飲んだ子どもはげっぷも無事に済ませ、彼の傍でうとうととしている。
「あン? そこのボク、フォークが止まってるぞ」
「やー! これきらい!」
で、出たー! 人参だ! 子どもが嫌いになりがちな野菜の上位にランクインしている人参だ! フォークに人参を刺したまま、やだやだと頭を振る幼い子ども。
ほうほう、とペッカートは彼の食事を覗き込む。美味しそうなお弁当だ。正直疲れた体には羨ましい。
「あ~……何か俺も腹減ってきた気がするなぁ」
「おにーちゃも?」
「おう。だからよ、一口頑張ってみねえか? 一口頑張れば、俺が残りを食べてやっても良いぜ」
「ほんと!?」
目をキラキラさせる男の子。
「たった一口でクリアだぜ? キミは少しの苦労で苦手なものを回避できて、俺は美味しいものが食べられる。素敵な取引だとは思わないか?」
子どもに取引という概念が通じるのかはさておき、このお兄ちゃんが残りを食べてくれると言ってくれたのは大きい。子どもは勇気を出して……ぱくっ! と人参を口の中に突っ込んだ。
「……にがー」
「おーおー、ほら、水飲んで忘れちまえ。でも偉いなー、一口食べられたんだもんな! という訳で後は俺のものっと」
「んー……小さいころ、妹のご飯を食べさせようって頑張ったのを思い出すわぁ」
「んー……わたしがこんな頃だったのって、其れなりに昔ですから……なんだか実感がありませんね」
アーリアとミディーセラ、二人とも幼いころには思う所があるようだ。
「ええと、ミルクは人肌に……ひとはだ。ひとはだ?」
思わずミディーセラの頬に触れて温度を確かめるアーリア。うーん、ちょっと瓶の方が暖かいかも。
「あら、どうしました? 心配しなくても、わたしはアーリアさんを見ていますよ」
「ち、違うのよ! ごめんなさい、人肌の温度ってどれくらいかなって……!」
「人肌のあたたかさをご所望でしたか? あら、えっち」
「ちがうー!」
「ふふ、冗談ですよ」
「もー! ミディーくんのいじわる」
頬を膨らませてミルクを冷ますアーリアに、ミディーセラは笑う。
アーリアはそっと子どもを抱き上げた。本当に壊れてしまいそう。ふわふわしてて、暖かい。
「あーうー」
「あー」
「大丈夫よぉ、みんなの分ちゃんとあるからぁ。……って、あら? あらら?」
無事に飲ませられていることを確認しながらアーリアが見回すと、ミルクの気配につられた幼子たちが彼女を取り囲んでいるではないか。
「あわわ……み……みでぃーくーん! たすけてー!?」
「ああ、はいはい。みなさん、順番ですよ、じゅんばん」
慌ててミディーセラが助けに入る。振り返れば幼子とアーリアの姿。
――いつか、いつかの未来。こんな景色をまた見られたら。
「……温度よし、流動性よし。これならきっと、問題は、ない、はず」
恐る恐る、といった風に幼子の口元にスプーンを寄せるアッシュ。
「あ、わ、わ、食べるのはそっちじゃないです……」
幼子は食べ物より先に、添えた指に興味を持ってしまったらしい。もぐもぐと指を食む柔らかい感触に戸惑う。
ああ、とそれに声をかけたヘーゼル。アッシュの長い髪の毛を、隣の幼子がもぐもぐしている。
「一つに結んでおこうか」
「す、すみません…」
「まあ、なんにでも興味を持つ時期だからなあ。こうやって……背中から抱きかかえてやるといい」
それで、ちょっと顔を傾けるんだ。実際にやってみせるヘーゼル。開いた口にスプーンを乗せ、離乳食を入れてやる。
「はい、かみかみして」
もぐもぐと咀嚼する幼子に、ヘーゼルはほっと息をつく。
アッシュに目を向けてみると、彼女も慣れない手つきながらに幼子を抱えていた。冷静沈着な彼女も、幼子を見る目は柔らかく。
「……赤ちゃんが、笑ってくれてます。なんだか幸せな気分です……」
「へえ、君の顔も今にも蕩けそうだよ」
そんな風に笑うんだな。なんて言いそうになって、誤魔化すように胸ポケットの煙草を探る。
……そうだ。今日は禁煙なんだった。
●おねむのじかん!
「やぁれ、もうじき死んじまう身に容赦ねぇな」
「ふふ、そんなものはこの子たちには関係ないわ」
死臭を纏っては近付くまいとする縁に、ジルーシャは笑う。竪琴をぽろんと奏でて風精を呼び、運ぶのはラベンダーの穏やかな香り。
「いいにおい!」
「んー、なんだかねむい……でも、でも……」
「あら、まだ寝ない子がいるのね~? じゃあ、お話をしてあげる」
――実はね、このおじさんもヒーローなのよ。
「あ?」
指さされた縁は、思わず顔を上げる。俺みたいなロクでもねぇおっさんにはなるなよ、と子どもを寝かしつけた直後である。
「ヒーロー! ほんと?」
「ほんとよ。みんなが大好きな海を守るために戦ってるの。……こら、トーヤ、渋い顔しない! 嘘は言ってないでしょ?」
皆が笑っていれば、ヒーローは強くなれるわ。でもね、眠れない子がいると心配で元気がなくなっちゃうの。だから、しっかりお眠りなさい。
「……これじゃ死ねないわね、ヒーローさん?」
「性格悪いな、お前さん……」
未来を望むなんて、柄じゃないのに。未来そのものを前にすると、どうしても――
「子どもって疲れたら寝るもんだと思ってたけど、思ったより元気いっぱいだね……」
「そうだね……」
シキと泪はなんとか子どもたちを毛布に突っ込んで、一緒に横たわっていた。
「……寝かしつけってどうやるんだろう」
「うーん……そういえば子どものころ、弟に歌を歌った事があったっけな」
よしよし、いい子だねんねんころり。シキの歌声が静かに部屋に響く。子どもたちが、段々静かになっていく。
「わ、先輩すごい……えっと、僕は、じゃあ、えっと、……」
「やー! あそうー!」
「えっ、遊ぶ? で、でもほら、寝る時間だから、ね? ほら、……う、ううう、先輩、僕どうしたら……!」
泪が涙をいっぱい目に溜めて、縋るように見た其の先には、寝かしつけながら自分もうとうとしている先輩の姿。泪は絶望した。
「むにゃ……泪、なかないでよ……」
「う、うう……! ぼ、僕には、僕は寝かしつけもできないしょうもない僕で、うう、う」
「おにーたん、ないてるの?」
「え?」
隣で横になっていた子どもが、泪をよしよし、と撫でる。其のぬくもりは小さく、暖かくて。泣き疲れた泪は子どもにあやされるまま、自分もまた眠りに落ちていくのだった。
バルガルは抜き足差し足忍び足、子どもの寝顔を見ていく。其の様はどう見ても怪しいけれども、安心してください。彼もまたイレギュラーズです。
「あう、あう」
おや? どうやら赤子が寝ぐずりしているようだ。足音を殺して素早くバルガルはそちらに移動し、大丈夫ですよ、とその頭を撫でる。その手は大きくて優しくて、子どもは安心したのかすぐにまた夢の中へと帰っていった。
――子どもたちが寝ている間も、保育士さんは忙しいんですね。
そう思うバルガルは、保育士さんの視線に気付かない。
「(お父さんね……)」
「(まるで仕事から帰ってきたパパだわ……)」
ポシェティケトは金色の妖精クララシュシュルカと共に、子どもに“おやすみなさい”を届ける。
「……あら?」
毛布の中でもぞもぞしている子どもたちに対して、すやすやと眠ってしまったのは……
「あらあら、クララが一番最初に眠ってしまったわ。彼女の次に眠れるのは誰かしら」
「ぼくー」
「わたしー」
「ふふ、じゃあ競争ね。眠れるようにおはなししてあげるわ、お目々を閉じて聞いてみて」
小さな鹿が語るのは、お家に春が描かれた冬の国のおはなしに、たくさんのものがおしゃべりする不思議な国のお話。冒険の主役は、そうね、あなた。
囁くように歌うように、しろがねの鹿は語る。其の穏やかな口調に、子どもたちはいとけない手を握りながら眠りの淵へと落ちていくのだった。
「おねーさんもひーろーなの?」
「ふねのったことある?」
Erstineは子どもたちの質問責めにあっていた。
「ヒーロー……とまではいかないけれど、そういう感じかな。ほら、寝転んで。冒険のお話をしてあげるわ」
Erstineはゆっくりと、努めてゆっくりと語りだす。
「私が行った事があるのは、この海洋――と、森の国。其れから寒ーい国に、……砂が広がる国よ。色んなお仕事があったわ。お宝を探したり、悪いものを退治したり。偉い人を守ったりも」
「かっこいい! おねーさん、強いんだ!」
「おねーさんも、恋とかするの?」
ちょっとおませな女の子が、眠たげな眼をこすりながら聞いてくる。
「え? あー……えっと……そうね……」
――おねーさんの好きな人って、だあれ?
いよいよ眠いと囁くように問う女の子に。内緒話をするように、Erstineは彼女の耳元に唇を寄せた。
――とっても強くて、カッコイイ方よ。みんなには内緒にしてね。
「ちょうど良いわ、新技の試し打ちをさせて貰いましょ」
傷付けないならいいのよね、とメリーは元気な子どもたちのもとへ。
「おねーちゃん! 遊んでー!」
「悪いけど、眠って貰うわよ。今はそういう時間なんだもの」
そっと子どもの腕に触れるメリー。遊んで、と言い募っていた子どもが、ふと静かになった。
「……? なんか、眠い……」
「眠いならいいじゃない。今は寝て良い時間なのよ、寝ちゃいなさい」
彼女が使ったのは、相手の体力のみを奪う術。無暗に人を傷つけるとお優しい仲間たちから顰蹙を買うから、と開発した技だ。
――この世界で成り上がるなら、横の繋がりも大事にしておかないとね?
「安心して、時間が終わったらちゃんと回復してあげるから。もっとも、あなたに必要かは知らないけど」
小さな声でつぶやくメリー。彼女なりの子どものあやし方。
お昼寝と言えば羊。羊といえばメーコ。
手慣れたものとばかりに背中を叩きながら子守唄を歌う。穏やかでのびやかなその声は、ゆっくりと子どもたちを眠りの淵へ誘う。
村の子を思い出すめぇ。メーコは思う。
こういうとき、何をしても寝ない子がいるめぇ。例えばこの男の子だめぇ。そういう子には……
「!? ……~~っ!」
「しーっ、静かにめぇ」
擽ってやるんだめぇ。ひたすらにこちょこちょだめぇ。
擽られ疲れたかな? という頃に解放するんだめぇ。……なんだかメーコも眠くなってきためぇ。一緒に寝ようめぇ……おやすみなさい……
●あそびのじかん!(にかいめ)
「グレモリー様、タオルです!」
「ありがとう」
「それから、飲み物です!」
「ありがとう」
シャラは今日も一生懸命、グレモリーのサポートを頑張っている。
「暑いのに、子どもたちは元気だね」
「そうですね……あ、そこの皆様……はしゃぎすぎると危ない、ですよっ……!」
控えめに注意するシャラ。うんうん、偉いね、とグレモリーは頷く。
「わたしより小さい子……なんだか微笑ましいですっ」
「そうだね。シャラは自分より小さい子、あんまり見ないんじゃないかな」
「確かに……あ、でも、時々お母さんとお買い物してる子とか、見かけますよっ」
「なるほど」
其れからグレモリーは立ち上がり、やおらプールに飛び込んだ。
「シャラ、ボールとって」
「あ、は、はいっ!」
彼も彼なりに頑張っている。私も今日はお姉さんなんだから、頑張らなきゃ! ですっ。
「よっしゃ、出来た!」
「わあー! おにいちゃんすごいー!」
カンベエが砂場で作った砂の城に、すごい、大きい、とはしゃぐ子どもたち。
「フッフッフ。もっと立派な城を作りたくはないかー!」
「つくりたい!」
「ぼくも!」
「いいぞ! まずは土台作りからだが……」
砂を水で固めたり、バランスを見たり。けれど、カンベエが手伝うのは最低限。殆どは子どもの手で砂の城を作らせていく。
飛行種の子がふわふわ飛ぶ。折角の羽だ、飛びたくなるのは当然というものだろう。けれど、その子が砂の城に向かって高度を落としていたら?
「!! あぶなーーーーい!!!」
良い音を立てて、カンベエが砂に突っ込みつつ飛行種の子を受け止める。砂の城を一つひき潰してしまい、作っていた子どもは火が付いたように泣き出した。
「お、おにーちゃが、しろ、こわしたぁぁあ!」
「やー、足がもつれてしまった! すまんすまん、今度はこの子とワシも一緒に、もっと大きい城を作ろう!」
●
「湿布、此処に置いておきますね」
ポテトが余分に持ってきた湿布を箱に入れる。此処は保育士の控室。
「何から何まですみません、ありがとうございます」
「いいえ! いつも頑張っておられますもんね!」
子どもを抱っこしたり、一緒にかけっこしたり。腕や足を酷使しているだろうと思っての調合だ。それから、と淹れたてのハーブティーを差し出し、傍にハーブ入りクッキーが入ったかごを置く。
「毎日お疲れ様です」
「ありがとうございます……あり、ありが、ううう」
ハーブティーを飲んでいた保育士がやさしさに耐え切れず泣き出した。他の保育士がしょうがないわねえと笑う。ポテトも笑って、彼女らの日頃の疲労を労わるのだった。
「失礼します」
シルフィナの指が保育士の首から肩をぐっと押して揉んで行く。予想通り、首の筋肉が固い。
其れから横になって貰って、もっと固いだろう腰も両手に力を込めて揉んでいく。
「ああ~~~……ありがとうございます……」
「いえ。其れから、足も失礼しますね」
足の内側と踝の前。此処もストレスが溜まりやすい。押して筋肉を柔らかくしていく。
ある程度ほぐしてから、失礼します、と指をあてたのは腰の少し上。腎愈と呼ばれるツボ。
ほかにも八りょう穴、衝門。確かめるように揉んでいき、頷くシルフィナ。
「色々ありがとうございます、凄く楽になりました……」
「いえ、こちらも勉強しながらです。ありがとうございます」
様々なツボをもみながら、シルフィナは場所をしっかり確認する。――え? さっき紹介した三か所はなにに効くのかって?
それは秘密。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
皆さんのおかげで保育士さんはリフレッシュ、子どもたちも新たな刺激を得たようです。
子どもたちの楽園、皆さんの癒しに少しでもなれていたらいいな。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
子育ては大変!子どもいないんですけどね。
きっと大変だろうなあという想像をしながら描いたOPがこちら。
●目標
海洋の子供たちを預かろう
●立地
海洋中心部にある「ニライカナイ保育所」です。
0~5歳児が保育対象です。
そこそこ広く有名な保育所で、子どもに対する丁寧な対応が評判です。
保育士が8名いますが、大号令でもっと人手が必要な事態となってきました。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●やる事
全編通して、誰かを傷つけない手段でならギフト・スキルの行使が可能です。
子どもを相手取るには全力でゆかねばならぬのじゃ。
1.遊びの時間(午前or午後)
プールと砂場、運動場で子どもたちが遊びます。
0歳児の子は室内にいます。
怪我のないように、特にプールで遊んでいる子が溺れないように留意する必要があります。
砂場も安全ではありません。飛行種の子がふわふわ危なっかしく飛んでいます。危険。
2.食事の時間
子どもたちに食事を与えます。
0歳児にはミルク、1~2歳児には離乳食、それ以外は普通のお弁当です。
(本来なら数か月で離乳食を与えるのですがそのへんは……こう……ね!)
くれぐれも間違えないようにしましょう。
※ミルクは人肌程度の温さに!
※離乳食はどろどろになるようにしっかりかきほぐして!
※好き嫌いのある子にもなんとか一口でも食べて貰おう!
3.お昼寝の時間
年齢別の部屋で2~3時間程度お昼寝をさせます。
必ず寝ぐずりする子や、初めて見るイレギュラーズに目を輝かせる子どもたちもいるでしょう。
特に4~5歳児は危険です。彼らはヒーローとかかっこいいものが好きです。
しかし心を鬼にしておやすみさせてあげましょう。
4.その他
保育士さんが助言役としてついてくれますが、彼女らのケアも考えてあげた方が良いでしょう。
肩をもんであげるとか、色々あると思います。
正直肩バッキバキです。子どもって意外と重い。
●NPC
グレモリーが彼なりに懸命に子どもたちと触れ合っています。
遊びの時間にはプールの監視に行くようです。
(御用の場合、どのタイミングで話しかけてくださっても大丈夫です)
●注意事項
!!!今回は行動を1つに絞ってください!!!
これマジで。じゃないと大変な事になるので。(私が)
また、迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってお花見を楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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