シナリオ詳細
どん底水槽
完了
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オープニング
●ブゥゥゥゥン
其処はタダの水槽で、我々は確かに詰め込まれた。安らぎを得た我々は、永久に幸せを貪るべきだった。しかし。管理者の手違いか。全くの『のうなし』が脳を地獄に叩き墜とす――堕ちた底は絶望だった。僕は怪物に食べられた。私は彼に殺された。我は知識を失った。俺は不定形と同化して……悉くの脳味噌が声無き絶叫を上げ、死が欲しいと思考を伸ばす――そんな世界に脳だけで紛れ込んだら如何だろう。きっと救いも滅びも関係なく、ただ思考を辞めたくなる筈だ。されど止まらぬどん底が、水泡を吐いて嗤う他にない。ブゥゥゥゥン……ノイズが皺々を舐り、嘲っているのか。
――何て狂った世界だろうか。
――何。君は脳味噌が考える部位だと?
――ハ。落ち着き給えよ。これは愉快な実験さ。
悪夢。闇の類は世界を維持する、とても美味なエネルギーだ。もはや君達の仕事は変わらない。ほんの少しだけ奈落を覗き込むだけさ。ガラクタに意味を見出すなんて、くだらない事で沈むんじゃないぞ。沈黙するのは未だ早いのさ。異なった者を魅せてくれよ、なんせ禁忌の匣は想像よりも脆いのだから。
●理想郷
「あなた達。理想郷の事は憶えているかしら? 初めての人も居るだろうから、最初から説明するわよ。耳の穴かっぽじって良く聴きなさい」
境界案内人のコスモがイレギュラーズを観る。一人一人の頭部を覗き込むようで、如何にも気分が優れなくなりそうだ。
「理想郷。世界の住民は総て『水槽の中に入った脳味噌』よ。ただ一人『脳無し』と呼ばれる管理者が民を見ているわ。でもね。何か歪みが生じたのか。管理者が【悪夢】を優先するようになったの。今回、あなた達には『水槽の脳と成って悪夢を見て』もらうわ。勿論、帰って来るときは元通りよ。世界にエネルギーを生み出す為に頑張ってちょうだい? よろしくね――心を殺されないように。砕かれないように。気をしっかりね?」
頁が開かれる。
- どん底水槽完了
- NM名にゃあら
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年04月10日 00時30分
- 章数1章
- 総採用数7人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
あら――水泡を吐き出したアーリアは透明の内側に融けていた。随分と飲み過ぎた。色彩に溺れた後の悪い夢のようで、底の知れた己の贈り物にゆったりと脳髄を浸ける。動けなくて見えないはずなのに。視える。聞こえないはずなのに。聞こえる。傾いてないはずなのに、世界が綿菓子の如く絡まってしまう。自分はどうやら水槽の中で、脳味噌だけの状態らしい。管理者の思考も嗜好もわからないが、悪趣味な『頁』というのはこのことだ。カニ味噌やモツとか、そういうものは好きだけれど。皮から中まで丸見えなんて――おねーさん恥ずかしいわぁ! 大きな声もぶくぶくわらい。
沈む。シズム。しずむ――アルコールの海だろうか。覗き込んだ脳髄の芯。ぷるんと震えた自分は夢現、鮮明なまでに餓えて在った。ぐるりと眼球を廻してならば、それが反転だと解るに違いない。いつの日に知った潜在の悪――飲んでも飲んでも満たされなくて、色はそのままイイエと染まる。飢えて餓えて渇いて、続いて。投げ棄てた瓶が掌を嘲った。とても綺麗な。粘性の有る、ぱっくりと割れた口。血と混ざった酒があまりにも美味しくて、求めてさまよう狭い水槽の中――誰も彼もお酒の割物。並行して飲むなんて勿体ない。全部注いで終えば好いのだ。真っ赤なブラッディマリーは好きだけれど。
こんなのはごめんだわ!
その割には『私』。随分と酔っ払ってるじゃない。脳味噌までお酒にぽちゃん。
溶ける、解けない。
成否
成功
第1章 第2節
管理者は確かに言っていた。脳髄が思考すると誰が決めたのか――睦月がぷかぷか浮かぶ頃、胎児は何故踊るのか。アア……僕は外が怖いよ。未来が怖いよ。混沌なる世界が怖いよ。広がる天の地が芯に刻み込まれ、手を繋いだ彼等が嘲笑している。なんだよ「レベル1」だなんて。授かった万能が瞬時に融ける、この世界に落とした神か何かを怨んでやりたい。恨んだとしても血を吐きながら地を這いずり回るだけ。そう。眩暈を感じた時期が懐かしく思える。役に立てない無能がポツンと――それが僕の脳味噌らしい。皆が傅く姿だって、でくのぼうに成る前の練習だったに違いない。天蓋から真っ逆さまに落下して、頭からぐしゃりと潰れた方がマシだ。どうして。如何して「こんなことに」成り果てた。大事な人はあの女に夢中だし、僕の事なんか見やしない。気を惹く事すら出来やしない。わがまま言ってせがんで、逆効果の空回りだ。晴天に風車を作ったって無意味なのだ。そんな僕には『それ』しか悪夢が浮かばない。管理者とやらも興味を失って放置するんだ。空の水槽で干からびてもきっと変わらない――面倒臭い女だって? 女でもない。男でもない。ただの、カミサマの出来損ない。
やっぱり僕は胎児なのかな。今休んだら明日も休んでしまう。終いには一人で枕と戯れるんだ――ブゥゥゥゥン――妙に心地いい機械音が、真なる悪夢を発生させた。最早『ここ』には何もない。人間の夢現も知れない個。
成否
成功
第1章 第3節
自分自身の外装に興味を抱くのは『ちゃんとした』者だけ。唯一残念だと解くならば己。つまりはアエクが「脳味噌だけ」かもしれないという自分自身を見ることができぬという現実だろうか――機械音がやかましくて仕方がない。此れは未だ自己が『現』を認識出来ている感覚か。我にとっての悪夢とは何か。無い首を傾げて転がって失せた眼球をふれる。なにかと説かれたならば、それは真なる『無』だろう。有る事も在る事も無い事も知れない、まだ痴れた方がマシの鎮座した事実。
無――文字として認識すればなんて事の無いツマラナサ。視覚、聴覚、嗅覚、何も働かない水槽の中は如何だ。ただただ何も存在しない『飽く、無』。上手い事を垂らしても釣れる魚は虚構だろう。ああ、退屈だ。情報を喰う事も吐く事も出来ず、憎モツなんてブチ撒けても取り残された暗所――せめてなにかあれば。何か情報が有れば骨の髄まで吸い尽くしてやることができたのに。出来上がった灰色の脈動は、想像上のタンパクに過ぎないのか。それさえも赦されない『無』。もはや暗くもなく明るくもなく何もない――考える事にも限度があるのだ。そろそろ活動が死んでしまう。アア。嘘だろう。唯一の慈悲も否定されるのか。我は共有する事も為せず、無意味に無価値に無にさわる。
本当に考える部位でなければ良かったのだ。なんという絶望。なんという空白。このシワクチャが筆の役割を成したなら、蒼白も描けた筈……。
成否
成功
第1章 第4節
庚――カノエはかわゆいですね。疑問符は要らない。何故かってカノエはかわゆいから。そう、かわいい。何故かわいいのか如何して固執するのかそんな事は考えなくて好いのだ。兎に角。カノエはかわいい。カノエはかわいいのですから、それで良いではありませんか。ほら。煩わしいブゥゥゥゥンなんて聞かないで、かわいいカノエを見てください。かわいいですか? 三角のお耳も柔らかな被毛もくりくりお目目もふかふかもふもふ尻尾も奥ゆかしきぷにっと肉球もございません。カノエは皆様と同じ。思考を繰り返すだけの皆様と同じ。悪夢の底で自らを認識している皆様と同じ。ぷかぷか浮かぶ脳に成り果ててしまっておりますが。終いなんて言う事は赦されません。ただの脂肪の塊でしかなく。でもスプーンで掬えばかわゆく振動するのでしょう。魔性の狐さんだって抓まれればよくある質量です。かわいいのですよ――それでもカノエはかわいいのです。皮は如何ほどに保存されても結った、末路もかわいいのですね。悪夢に微睡み怯えスカスカのスポンジのように穴あき……可愛いって言ってくださいまし。どうか、どうか、どうか、どうか……!
――カノエはかわゆいですね。誰か言ってくださいまし。かわいいカノエのお願いですよ。お願いだから。お願いします。どうか、かわいい、かわいい、かわゆいと……ところでかわゆいって何でしょうか。困りましたね。カノエってカノエなのでしょうかお撫で?
成否
成功
第1章 第5節
ぷかり。ぷかりは何度目の経験だ。こうして浮かぶと『赤羽』か『大地』か理解出来なくなる。耐え難い狂乱が隣人で在るならば、己は正気を維持可能なのだ。思考を絶やすな断つと苛まれる。『俺』は『大地』。あくまで飽くほどに本の虫だ。蝕んだ文字数は数知れず、しかし内容は二冊目で捲る。夜が世ならば太陽が昇り――待て。あの真っ赤を『俺』は知っている。業々と罪と呼ばれた紙が、人間と呼ばれる神の為に飛び込んで逝く。愛おしさに満ちた図書館が、自然の暴力――否。人類の一部の『意』によって滅んで逝くのか。辞書が舞い上がって楽譜がおどり、歴史が隠されミステリーは迷宮の奥。何もかもが一文字残らず灰になる。火が胃袋充たす事無く嘲笑い、乱れ狂うは脳味噌の下。
漿が揺れたら章が消え。ああ。先人の知恵を、偉大な文化を、尊い歴史を、庶民の娯楽を雑に扱うな。あれは悪書だあれは糞だあれは悉くを冒涜している。差別だ! 残虐だ! 誤りを糺す為だ。直す為だ。子供達に悪影響が出る――罪人の貌なんぞ知りたくもない。だから。だからって。
燃やす必要なんてないだろ。頼む――痛みなんて知らないように――伸ばして延ばして絶叫する。これ以上はやめてくれ! 枯れた声が届く事は無く、届いたとしても聞こえぬ演技だ。書庫が焼け落ちて肉が潰れた。みちり……こんな時に限って首が半分千切れてうたう。骨残さず。そんなに現実は甘くない。火葬、魔女狩り。その一幕。
成否
成功
第1章 第6節
あはは、あはは――式電気交換局は今日も絶好調。何を莫迦げた事を吐いている。誰かさんはもぞもぞと脳味噌を叩き付け、踏み躙ったと謂うのに史之はドウだ。オマエは茶化すようにぽこポコと外道を歌っているんだろう。憂鬱の反射神経は焼ききれんばかりだネ。笑うしかないよ。アハ、アハアハアハ――やめてくれ。辞めてくれ止めてくれ。そんな目で見ないでくれ。何をオマエは腐っているのだ。胎児だって人生を繰り返すと泣くのに、何処までも臭ったヤツめ。「大号令の体現者」なんてガラじゃないんだ。と、言う事はつまりオマエはガラ入れとしても役に立たないのか。呼ばれたぞ。ソラ、召喚ばれたぞ。呼ばれる為にビビってる臆病なシワクチャを呑み込んで、いかにも立派なフリして今日も元気に廃々運命。守りたいと思ったんだ。身分違いと……オマエ。年下のわがままさん。
僕は額ずく一人でしかないんだろうさ。細胞一個まで生死を記憶しているとも。それで。どうしておまえまで混沌にくるの……なんだ未だアノ……これ以上距離を取らせないで! 忘れようにも忘れられないその記事は何度も何度も何度も読み抜いた――なかった事にしたくて同じ事を繰り返している。オマエは自分のカオのカタチも確かめないのか。ホウ。眼鏡は有ったらしい。あはは……もう笑うしかないね。あはは。アハハ! アハハ!
今日も絶好調崖っぷち。解放的な施設は出来たんだろうな。
晴朗波高くして危険域。
成否
成功
第1章 第7節
なにもない――暗い、と理解出来る夢現が幸福か。ぷかぷか空間に浮かんで在る。暑さも寒さも感じ取れず、空腹なんて悦びは何処かに消えた。荷物が重くないそもそも荷物など存在しない。咽喉が渇かない乾く肉も無い減らない涎が溢れる事も在らず……太陽も月も視えない昇らない沈まない。鎮まる為の沼も無い。何もない――怖い。恐い。こわいってなんだ。怖い恐いこわいコワイ――満たされた事の無い欲求が価値なく満たされる。世界と呼ぶには広大で狭く、矛盾した回転が大笑いして『ナ』い。平和だ。足らない事も無い。誰もこの者を『この者』ってなんだ。欺かないし殴らないしもってかれない――ここに、この者は居るのか? この者はないしこの物もない。それすらわからない。ところで渡るべきは湖だったか。砂が目に入らなくて眼球どこ?
必要だった。本当に必要なのか。必要なものは何だった。ああ。そうとも。苦しみや悲しみや痛み。この世界には必要だった筈なのだ。怖い。怖い。怖い。恐い。恐い。こわいコワイ……。
よお。
帰してほしい。返してほしい。苦しみを。のろいを。落ち着いているこの者が……だからこの者ってなんだった。かえして。かえし……せかい……せかいってなんだったか。ことばはある。ことのははある。ある。ア留のだ。留まっている。ありがとう。有難う。おつかれロゼット?
ぷか。
ぷか。
うかぶ……うかぶってなんだっけ。
ぶ。ブゥゥ……ノイズ。
成否
成功
第1章 第8節
聞こえる。
「あなた達。理想郷の事は――」
NMコメント
にゃあらです。
この依頼はラリーシナリオです。
今回のシナリオに管理者『脳無し』は登場しません。
一章だけの掌編予定です。
採用人数は4~6を考えています。
このシナリオでは『あなた』は水槽の中の脳髄です。視ているものは『悪夢』で、心の底から絶望してください。闇を掘り尽くすようにお願い致します。
サンプルプレイング
水槽に浮かぶ脳髄が僕なんて、考えられないけど。
きっともう既に脳味噌だけなのだろう。
しかし。ああ。此処は何処だ。
――暗い。とてもくらい。呑まれていく。
永遠に。永久に。息苦しい。誰か助けて……なんで誰も居ないの。
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