PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狼性之八束脛

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●華燭
 銀の髪の乙女が姿を消したと言う。
 欲に塗れた乙女に訪れる筈であった細やかな幸せは潰えたと依頼人の男は泣いた。
 不憫であるとリュミエは胸に手を当て声を震わせる。実に、不憫で身に詰まされる思いであると。
 彼女が消えた場所へと、ペリカ・ロズィーアン達、探索隊を伴い訪れた大魔道は流れ込む映像を見た。

 美しき倶蘭荼華。その中で男が傅いている。
 傍に佇む男には旅人の如き角が額より生え、裾の広がる衣服に身を包んでいるのが見えた。

 ――けがれの巫女よ。よくぞやった。
 ――ああ、貴女は、清き乙女。巫女姫様ではあるまいか!

 傅く男の言葉と共に、その映像は掻き消える。それは一体なんであったか。
 リュミエは直ぐ様にその場所を禁足地とした。その異様な光景が『混沌世界のもの』である確証が、『その時』の彼女には得られなかったからだ。

●カルバラ遺跡
 人が消える――というお話を聞いた事があるだろうか?
 古今東西、何がしかの理由で行方不明になる者がいる。その理由は例えば人攫いに攫われた為にだとか、深い森や洞窟に立ち入ってしまいうっかりと出る事が出来なくなった故だとか……
 いずれにせよ消息が掴めなくなってしまった者を『消えた』と称する事がある。
 見方によればイレギュラーズ……特に旅人などもそうと言えるだろう。
 元いた世界から強制召喚されたという事は、文字通り『消えた』と言う事。
 彼らもまた行方不明。
 消えてしまったと向こうで噂されても実際その通りだ。

「……と。話がちょっと逸れちゃったね。まぁ外の世界の事はともかく――そういう『人が消える』事象が、混沌の世界でも幾つか確認されてるんだよ」

 言うはスカーレット・トワニ・ヴァージンロード――幻想出身の特異運命座標の一人である。
 彼女は些か特異なギフトを所持しており、その力が『伸び』にくい。戦いを経た上での経験などは蓄積されるが、力の総量が増えないのだ。故に基本としては簡易なる依頼を中心にイレギュラーズとして行動――しているのだが。
 そんな彼女に巡ってきた依頼が『神隠し』の調査。
 ……天義の辺りであれば認めがたい呼び名であろう。神が人を隠すなど。
 だが混沌各地で発生している人が忽然と消える事態は確かに存在している。それは、言うなれば特異運命座標が空中神殿に召喚される事態に似ているのだが……しかし空中神殿にすら姿が確認されない者がいて、事実上の『行方不明者』が発生している状態。
 彼らは一体どこへ消えたのか。そして何の理由で……
「それを調査するために一緒に来てほしいんだ」
「来てほしい――とは、どこへ?」
「行方不明者が出たとされる場所の近くにはね、古い遺跡があるの」
 幻想に存在する遺跡、カルバラ。
 そこは幻想に古くから存在する遺跡で、一度は冒険者により探索され尽くした場所だ。目新しいモノはない――筈だが。先日、スカーレットが調査に赴いた際に怪しい『魔物』の姿を確認したという。
 あの蜘蛛の様な魔物達はなんだったのか。そして。
「あそこに、黒い花があったんだよね」
 スカーレットが言うには見慣れない『黒い花』――があったという。
 それが前から咲いていて増えたのか、最近咲いたのか。その辺りは今の所ハッキリしてはいないが……随分、特徴的な花に見えた。完全に無関係であるとは、あくまで直感の領域だが思えず。
 少しでも手がかりになるかもしれない。もう一度調査に赴きたいと彼女は考え。
「深緑の方では……確かフィルティス家の人が行方不明にもなったりした、らしいね」
 エルメリア・フィルティス。
 それはある令嬢の名で……彼女は深緑の方で『神隠し』にあったとされている。深緑の大魔導士、リュミエ・フル・フォーレは彼女の消えた地を禁則地としたようだが、そこにも迷宮があったとか……
 偶然だろうかこれは?
 いや、偶然か否かを調査するのが――この依頼か。
「神隠しの正体が魔物か魔種によるものか、なんなのかは分からないけれど……被害にあっている人がいるなら見過ごせないよ。それに放置していて、もしかしたら明日神隠しに合うのは――」
 私達や、私達の近しい者かもしれない。
 未来の被害を防ぐ為。そしてどこかへと隠された者達の足取りを掴む為。
 挑もう。

 人が呼ぶ、『神隠し』なる事象へと――

GMコメント

■依頼達成条件
 ・黒き華の処分
 ・遺跡に存在する魔物の全排除

 両方を達成してください。

■舞台『カルバラ遺跡』
 幻想に古くから存在する遺跡の一つです。
 冒険者の多い幻想では既に探索され尽くした遺跡ですが……改めてスカーレットが調査した所、この遺跡に『黒い彼岸花』の咲いている場所があるようです。更なる調査をしようとした所に魔物が襲って来た為に彼女は一度撤退しています。

 カルバラ遺跡は、かつて何かを祭っていた神殿……だったようですが、今はほとんど崩れていて原型を留めていない地です。地下に続いておりそれなりの広さがあるようで、奥に行くほど『黒い彼岸花』と魔物が増えていきます。

■黒き彼岸花
 それがどうして咲いているのかは分かりません。しかし、そこに在るのです。
 魔物に影響を与えているのは確かなようです。
 神隠しに繋がるかモノかは分かりませんが、危険です。処分してください。

■土蜘蛛×5~
 カルバラ遺跡に出現している魔物です。
 巨大な蜘蛛の姿をしており、糸を吐き出し行動を束縛します。
 スカーレットは5体までその姿を確認しましたが、確実にもっといる事が想定されます。

■土蜘蛛の糸
 カルバラ遺跡のあちこちに張り巡らされています。
 刃物や火などに弱いですが、非常に見え辛く粘着性が高いです。
 絡めとられてしまうと反応の低下、回避の低下、行動の束縛……などあまり良くない効果が予見されます。魔物に吹き飛ばされても危険ですので注意が必要です。

■『神隠し』
 神託の少女ざんげ曰く『神様の悪戯』。空中庭園に召喚されるのと類似の現象であると推測されており、『神隠し』に合った者は皆、『空中庭園ではないどこかに召喚されています』。
 その神隠しは『混沌世界』のあらゆる場所で純種、旅人、魔種、どのような存在であれど等しく行われます。

■スカーレット・トワニ・ヴァージンロード
 幻想出身のイレギュラーズ。
 『穢れ知らぬ乙女花』……依頼に同行した時の経験、知識は忘れぬ様蓄積されるが経験値は貯まらず強くなる事はないというギフトを所持している。その為、難度の高い依頼には赴けないが、それでも自身に出来る事をひたむきに。前を見据え続ける人物である。
 カルバラ遺跡の調査依頼を受けたが、出現した予想外の魔物に一度撤退。
 皆と共に再度の調査を行うべく遺跡へと向かう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 狼性之八束脛Lv:10以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月17日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように

リプレイ


 神、隠、し。
 神が人を隠すのか。
 それともそれは人の意か。

 あいや、いや。不可解なる失踪の、答えははたして何処にありや――


「神様の気紛れ――てのも厄介なもんだな。神隠し、か」
「あちらにこちらに伝わる伝承としては割とポピュラーな話ではありますね。
 尤も、当事者として関われるのは無く……ええ。実に興味深い事件です」
 頭を掻きながら『不沈要塞』グレン・ロジャース(p3p005709)はカルバラ遺跡の入り口を見据え『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)の言がそれに続く。
 神隠しなどと言う単語を聞いた事はある。それは噂話として、或いは物語として。
 しかし現実に行方不明者が出ているのだ――なれば不可解、とだけで済ませる訳にはいかず。
「……神隠しなどと、な。
 しかし実際に『在る』とするならば、ソレは神の御心などでは決してないだろう」
 『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は確かな決意をもってここに居た。神隠し――などと彼女は認めない。これは恐らく『神』の名を冠した何かしらの思惑が原因であると。
「今までに見ない不審な魔物の姿からしても、な。此度で手がかりを掴む事が出来れば良いが」
 首謀者か、あるいは何かの原因か。
 感情を探知する技能を用いて周囲の警戒を行いながら歩を進め。
「まぁでもさー遺跡に新たな変化! こういうのってのはなんだかわくわくしてこない?」
 とはいえそれはそれとして『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は新たなる要素に対して心に些かの興味心を抱いていた。既に一度は探索され尽くしたはずの遺跡に変化があるとは――興味心、というか冒険心とも言うべきか。
「蜘蛛みたいなヤツが出るのはやだけどねー……でも行くわよ行く行く!
 神隠しだろうがなんだろうがかかってきなさい!!」
 いずれにせよ意気揚々と秋奈は進む。遺跡の入り口から見据えた先は、地下への穴倉。
 これより先は如何な道になっている事か。
 探索されている故に地図を仕入れる事には成功したが……魔物への警戒は怠れず。
「まぁ目の前に出て来たものを只管にぶん殴って進んでいけばよいのでありましょう?
 依頼自体としてはシンプル。のうみそ筋肉は人生を迷わないコツでありますよフッフゥ」
「そうでござるな。とにもかくにもまずはここを占拠せし魔物らの排除が優先……
 さぁて、先ずは遺跡の大掃除と参ろうか」
 そして『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)と『始末剣』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)も中へと侵入する。エッダは前衛を担い、敵の襲撃に警戒を。咲耶は暗視の目をもってして、隅々の見えざる点を伺い観察を成していく。
 今の所は全員で行動中だ。ある程度進めば遺跡の分岐も混じってくる。
 その折に至れば効率の良い探索と敵の殲滅の為に班を別けるつもりだが……
「ふ、む――まだ蜘蛛の姿は見えないな。スカーレット、どの辺りで敵が出現したか覚えているか?」
「ううん。もうちょっと奥だったかな……影から突然飛び出してきたから気を付けてね」
 事前に潜っていたスカーレットに『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)は声を掛けつつ、彼もまた斥候の役割を担うべく周囲の探知を行う。優れた視覚に嗅覚に聴覚――ハイセンスの感覚を用い、同時に薄い壁の所であれば透視も。この度一時限りではあるが暗視の力も齎す目薬も宿していれば暗闇にすら目が届き。
 そして皆で慎重に歩を進めていれば。
「……おや。これが、件の『華』でしょうか」
 近く。少し前にあった黒き彼岸花を目にしたは『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)だ。一本だけ生えていた『ソレ』――特に何か力があるようには見受けられない、が。
「詳しい事は魔物の後で、にした方がいいでしょうね。不測の事態が起こっては困ります」
「うん――そうだね。きっとあれは手掛かりになるんだろうけど、後にした方が良さそう」
 不用意には近付かぬ。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)もまたその意見に同意して。
「……神隠し、か。いつ誰が遭遇するかも判んないとなると不気味だね」
 遠巻きに彼岸花を見据え、その様子だけを観察する。
 可能であれば自然に通ずる会話を試みたい所だが……一本生えている華だけでは思念の力が薄いのか、自らに応答する意思を見せていない。もっと奥へ、多く生えているであろう場所を見つければ話が別だろうか――?
 いずれにせよ神隠しに関わっているかもしれない華。興味深い所である。
「……私は天義の人間ですので、神様を近くに感じるのは嬉しい気もしますが……
 あ。い、いえ。無辜なる人々が行方不明と言うのは心配します、良くない事です」
 と、その時。『聖少女』メルトリリス(p3p007295)は『神隠し』について彼女の視点から言及する。彼女は天義の者――神を心棒する土地柄の出身であれば『神』の名を冠する自称に関してはむしろ親しみを感じるモノだ。
 とはいえ真実『神』の御業と決まった訳では無い。メルトリリスは事の真偽を知りたく思い。
「帰りを待つ縁者の方々もいらっしゃるでしょう……仔細が分かれば良いのですが」
 胸に手を当て祈りを捧ぐ。
 行方が分からなくなった者達の無事を、天へと。

 『神』へと願いを紡ぎながら。


「とと、この辺りで別れた方が良さそうですね。
 ではスカーレット様。一時の別れですが……共に頑張りましょう!」
「うん! メルトリリスさんもどうか無事でね!!」
 イレギュラーズ達が遺跡の奥へと進み始めて暫く――ついに地下構造の分岐が始まった。
 二つの道に開けた折。班を二つに分けて、ここからは別々の歩みにて探索を行う予定なのだ。スカーレットへと声をかけたメルトリリスはアレクシア、咲耶。エッダにそれからリンディスの五人と共に。
 もう一つの道はスカーレットを含んで四音、グレン。秋奈にカナタ……そしてベルフラウ。
 五と六の二つに別れ、新たに探索を再開すれば。
「――む。待てグレン、この先に妙な気配があるぞ」
 後者のB班に属するカナタの知覚に怪しげな『気配』が引っかかった。
 前衛の盾役として最前を進むグレンへ声を――と同時。前方の隅より跳び出してきたは『蜘蛛』で。
「おっとついに出やがったな蜘蛛野郎……!」
 しかしカナタの事前告知により備えは充分。突進してきた土蜘蛛の衝撃に備え――衝突。
 衝撃が彼の身体を襲うが大事ない。即座に自身の肉体を自動治癒する術を付与し、防御の構えを取って土蜘蛛に相対する。見える限りでは一体だけで。
「掛かって来いよ。蜘蛛の動きなんざ、トロすぎて欠伸が出るぜ……!」
 されば挑発の名乗りを挙げながら注意を引き付ける。怒りを抱いたか敵の蜘蛛より奇声が発せられれば――再度なる激突が。それでも前衛を担い、決死の盾とならんとすれば仲間へ攻撃は通さない。
「魔物か。これよりは早々容易くは進めないだろうな――我が旗を見よッ!」
 次いでベルフラウは声と共に、厳めしい紋章を抱く紅い旗を陣中に掲げる。
 その旗は誇りの証。屈さず折れぬ、気高さを宿した旗は周囲の味方の士気を昇華させて。
 身に纏う闘志を更に漲らせる。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても――私の緋剣は赦しはしないわ!」
 そして秋奈も高らかな名乗りと共に前進を。
 長刀を居合が如く。神速の抜刀と共に蜘蛛へと繰り出し血飛沫舞わせて。
 その身を切り裂く。一に終わらず二閃、カナタの爪と共に蜘蛛を押しのけ。
「ガ、ァァアア!!」
 さすれば絶叫と共に土蜘蛛が倒れる。
 巨体を揺らし、血反吐を吐いて。動かなくなるのを確認すれば。
「糸の類は無いようですね。吐く前に倒せたのは良しとすべきですか」
 四音の癒しの術が前衛を担った者達の身を包む。
 糸が絡まった時用にナイフも用意していたが、杞憂に終わった様だ。尤も今ようやく一体出て来ただけの事……この先に魔物達の住処か、或いは集団でいる箇所があれば『巣』が如くの地が増えるは想像に易く。
「私が一度逃げる時も後ろから捕まえようと吐いてきてたから……数が多くなると面倒だね」
「ふむ。糸であれば恐らく火には弱いだろう、焼き切る為に用意しておくか」
 スカーレットの言は一番最初に調査に来た時の話だ。あの時はまさかこのような見た事のない魔物が出るとは思っていなかったので、大層驚いたものだが。しかしカナタの言う様に冷静に思考を巡らせれば、糸となれば火の類には弱い筈。
 暗き場所を探索する為の助けにもなるだろう、と。拾った木の根らしきものを松明代わりに。火を付け灯りとし、周囲を照らせば。
「あ。じゃあそれは私が持つよ!
 直接戦闘は苦手だけど……いざとなった時の支援ぐらいは出来るから!」
「そうか――だが、無理はするなよ。情報だけでも実にありがたいからな」
 スカーレットが自ら松明の持ち手として申し出る。土蜘蛛との戦闘が激化すれば松明を気遣いながらの戦闘は些か無理が出るものとなろう。スカーレットが持ち、糸を焼き切る際の担い手として動くと効率が良い筈だ……
 尤も、先行した知識以外にも役立とうとする歯痒さを抱いての事ではないだろうかとベルフラウは推察し。止めはせねども、無理はしないようにと一言送って。

 同時。グレンらB班が一度目の戦闘を終えた頃――A班もまた、土蜘蛛に遭遇していた。

「ほほう。デカい蜘蛛とは伺っていましたが、これは確かに大層なデカさを伴った代物で」
 前衛を担うのはエッダである。大きく口を開いた二体の土蜘蛛を見据え、その攻撃を受け止める。
 地上と異なり地下の狭い空間では動きが大きく制限される。それは攻撃の回避がし辛い面もあるが……一方で防御を担う場合としては悪い事ばかりではない。敵の動きも抑制されるため、抑えるには地上よりも容易いのだ。
 二体共に抑えるべく名乗りを上げて注意を引き。攻を捌きつつ、隙を見て拳を叩き込めば。
「ギィィィ!!」
 硬きエッダ。容易く突破出来なさそうな状況に業を煮やしたか、一匹が糸を吐き出す。
 巨大なる身から吐き出される糸はそれ自体も太く、大きい。
 囚われれば脱出には時間がかかる代物だろう――が。
「か弱き蝶ならなす術もなく捕わられようが生憎、拙者等は只の蝶では無い故にな。御免!」
 咲耶が跳ねる。糸を躱し、直後に練り上げるは己が気で。
 投じるは鴉の羽。無数に顕現させしソレらが全てを切り裂き、土蜘蛛の身に傷を刻むのだ。
 とにもかくにも優先すべきは敵の殲滅。罠の類は安全が確保された後で良しとばかりに。
「時在りし折に燃やせば至上。今は蜘蛛共を滅ぼすが先でござる……!」
「ええ――今は、このモノ達を押し込みます!」
 次いでメルトリリスの聖なる術式が起動する。汚れある者を打ち破る天の技。
 魔力の奔流が土蜘蛛を襲う。同時に、敵対心を感知する探知の術を起動させ続けるも怠らない。今は目の前にいる二体だけだが、戦闘をしている間に敵が増えないとも限らないのだから。
「敵の総数は不明……蜘蛛たちがもし穴も掘れるなら、地図もどこまで役に立つか分からないですからね」
 そして駄目押しとばかりにリンディスの支援と術式が飛ぶ。
 ある男の物語を励起。自らの生命力を捧げ、味方の動きの翼とすれば身体が軽く。
 直後にメルトリリスと同じ魔力の御業を土蜘蛛へ。汚れ祓いて命を還したまえ――
 エッダが最前列を担い、メルトリリスとリンディスが中衛より支援を。咲耶の苛烈なる暗技が敵を襲えば、その体力を見る見るうちに削っていく。奴らの突進や吐き出す糸も決して軽い一撃ではない、が。
「神隠しに遭った人達を助けないといけないんだ……邪魔をしないで!」
 アレクシアの治癒術が傷を癒せば倒れはせぬ。
 調和の力を癒やしの魔力へ。されば咲き誇るは白黄の花――アレクシアの秘術。
 困難に倒れぬ様に力を与える術が決して戦線を崩壊させないのだ。やがて眼前を塞いでいた蜘蛛との攻防は、奴らの力の方こそが先に尽きる。巨体の倒れる音が周囲に、響いてやがて静寂が訪れれば。
「ふぅ……いきなり敵が出る様になり始めたね。黒い花もなんだか増えて来たし……」
「やはりこの彼岸花こそが魔物と、そして神隠しの原因であろうか……?」
 一息。発光の力で周囲を照らすアレクシアが皆の無事を確認すれば、態勢を整えるべく更なる治癒と精神の回復の術を走らせて。咲耶は足元に見つけた彼岸花を暗視の目にて確かに見据え――根元に刃を。
 斬り取れば、色はともかく見る限りは普通の花にしか見えない。魔力や妙な術が掛かっている類も感じ取れず……しかしやはり無関係とは思えずして、その花を確保すれば。
「……この先が事前に入手出来た地図通りであると仮定して。
 もう少し奥に進むと些か開けた場所に出る様です。敵の巣があるかもしれませんね」
 リンディスが地図を開いて先を確認する。己がギフト――書類を複製しやすくなる能力にて増やした地図により、両方の班で情報を共有できている。蜘蛛達の糸や待ち伏せもあるならば最短距離で行けるかは不明だが……
「ふむふむ。さて、鬼が出るか蛇が出るか……花の効果も未だ不明な以上、注意して進みましょう」
 アレクシアより治癒の援護を受けたエッダが再び一番前に陣取って、歩を再開する。
 曲がり角があれば警戒を。不意に跳び出し蜘蛛に即応されては溜まらぬ故に。
 歩く。歩く――道中に見つける黒き彼岸花。それを切り取り、順次処分も行いながら。


 足音がやけに響くのは地下という空間だからだろうか?
 グレンは極力敵に気付かれぬ様、歩にも気を付けながら。
「おっ、と。見ろよ――彼岸花が集中してるぜ」
 己も造った松明を右手に。辿り着いたは地下にしてはやけに広々とした空間の場所だった。
 足元には咲き誇る彼岸花。ここに来るまでちらほらと彼岸花が咲いているのは見ていて、切り取るなり燃やすなりして処分してきたが……足元を埋め尽くす勢いで咲き誇っているのは此処だけだ。
 空気が違う。雰囲気が異なる。直感的にソレを感じ取った――瞬間。
「ふふ、ご覧ください。ほらあそこ――蜘蛛達も山の様に」
「六、七……いやもっといるかもしれんな。向こうの方もこちらに気付いた様だ……!」
 四音の目に映ったのは大量の土蜘蛛。カナタの知覚に捉えられただけでも最低七はいる。
 いや広い空間であるが故にまだ潜んでいる輩がいるかもしれないが、とにかく。己らの巣に侵入した者がいる事に気付いた土蜘蛛は、イレギュラーズ達を見据えて好戦的に目を輝かせている。
「来るか! 注意しろ、ここは奴らの糸も張り巡らされている……!
 吹き飛ばされれば絡め捕られるぞ!」
 さればベルフラウが戦闘の構えと共に号令を。再び活力が皆に満ちて戦闘の体勢を整える。同時。見据えるは蜘蛛の糸の所在だ――ここに至るまでも幾つか見て来たが、しかし奴らの集っているこの地には今までと比べ物にならない程の『糸』が張り巡らされていた。
 陣形が乱れれば動きも束縛されよう。それは注意しなければならないと、声を飛ばして。
「ええい! 神隠しだろうが大蜘蛛だろうが何だろうがかかってきなさい!
 我は戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! その首――もらい受ける!!」
 そして秋奈が刀を構えた直後に土蜘蛛たちが襲来した。
 巨体に見合う長き足が振舞われ、それを防御。次いで投じられるのが――糸だ。
 防御により動きが鈍った所へと繰り出される糸の波は流石躱し辛い。先まではそこまで蜘蛛の数自体が多くなかった故、一つ一つに対処出来ていたが……纏まった数の蜘蛛がいて連続されれば話が異なって来る。
 足に絡む粘りのある糸。まるで餅の様な、力を込めても抜け出せぬ厄介さがそこにあり。
「大丈夫――糸は任せて!」
 しかしそこにスカーレットの支援が行われる。
 大きな剣を振るえば糸を切り裂き、先んじて所持していた松明の炎を振るえば糸を焼くのだ。この糸自体はどうやら純粋に『大きい蜘蛛の糸』なだけの様で、斬撃や炎に対する特殊な耐性は無い。全身が拘束されでもしない限り詰む事は無く。
「ぬ、ぉおおおお!! 蜘蛛の糸如きが、舐めてるんじゃねぇぞ……!!」
 そしてグレン程の抵抗力があれば蜘蛛の拘束にも抗える。
 物理的に引き千切れるかはともかく負の要素が付与される事に関しては、要塞の如くの耐久性を持つ彼にとってはさして問題にならない。強引にでも逃れ、盾としての役割を果たさんと蜘蛛の前に立ちふさがり。
 同時。蜘蛛の一体へとベルフラウが槍を投じる。
 地を砕かんとする程に踏みしめた力から繰り出される一撃は蜘蛛の身を揺るがせて。
「――木乃伊取りが木乃伊になる、その言葉の通りにさせてやろう」
 瞬間、蜘蛛の全身を襲った衝撃がその身を彼方へと飛ばしたのだ。
 壁に直撃する土蜘蛛――さればそこには糸が合って、自らが設置したソレに絡め捕られている。糸を巣の如く充満させていたのをベルフラウは逆に利用したのだ。吹き飛ばせば奴らも捕らえられるだろうと。
「糸を巡らせていれば有利だとでも思ったか?
 まぁ俺の『爪』は確かにやや不利かもしれんが――甘く見てもらっては困るな」
 狼の爪は鋭いのだと。言うなりカナタは土蜘蛛の足による攻撃を躱しながら接近し。
「土手っ腹にブチ込んでやる。狼の爪の威力を、その身で堪能すると良い」
 渾身の一撃を一閃。超重量を浮かす程の衝撃を叩き込んだ。
 それでも蜘蛛達も敵対者達を恐れはしない。数の有利を活かして、包み込むかの如くあちらこちらから。我らの巣に入った以上、逃がしはしないとでも言っているかのようで。
「――私が居る限り簡単に皆さんの命を奪わせたりはしません。
 安心して戦えるよう、癒し守ってみせます」
 同時。後方から吐き出された糸にその身を包まれようとしていた四音――だったが。
 マントを脱ぐことでその糸から逃れる。地を転がり、追撃の糸も躱しつつ繰り出すは天使の歌声。一気に皆の身を癒す救いの音色を紡ぎ上げるのだ。支援や回復間に合い、この地に至る攻防は一進一退――いや。
「……おっと、奥から更に湧いて出てきているようですね」
「おいおいまさか卵でもあるんじゃないだろうな……!?」
 気付いたのは四音とグレン。更なる援軍の土蜘蛛の存在に気付けば、流石に不利を感じとる。
 今の所は捌けているが、やはり数と言うのは侮れないものだ。土蜘蛛たちの膂力は巨体故もあるだろうが強烈で、後方から吐き出せる糸は数が増えればいずれは動きを束縛しよう。一度後ろに下がるべきか――?

 思った、正にその時。

「蜘蛛は待ち構える捕食者であれど、連鎖の頂点に立つ者に非ずんば――身程を知れ」
 布陣していた地とは全くの別方向から繰り出される声と術は――鴉の羽。
 土蜘蛛達の行軍を阻み、襲い掛かるその術の主は。
「お待ちどう様でござる! 地図通りここで道は合ったでござるな!」
「おおうこれはまた蜘蛛に蜘蛛と蜘蛛が蜘蛛……より取り見取りでありますな」
 咲耶である。そして、跳び出す様に前進し近場の雲に徹甲の如き拳を放つはエッダ。
 二つに別れた道だったが、ある一点にて再び道は一つとなったのだ。ここが集合点。
 別れた班が今一度一つに集う地――で、あれば。
「随分と敵も集まっている様ですが、これは殲滅の好機とも言えますね」
「彼らもこれより退く所がなければ死力を尽くしてくるでしょう。油断せずに参りましょう……!」
 リンディスとメルトリリスの聖なる技が同時に放たれる。術式を受け、奴らの身を揺るがせれば。
 数の有利不利は一転して失われた。イレギュラーズ達は一つに集い、全力を投じられる様になったのだ。
「ガ、ァ、ァアア!!」
「させないよ! ここまで急いで来たんだ……誰も決して失わせない!」
 土蜘蛛達が新たな敵の存在に怒り狂う。その攻撃性は苛烈に至るが……アレクシアの治癒術がその殺意は通すまいと負傷者の身を癒す。花の花弁が開かれれば暖かな意志がその体力を癒して。
 押し返さんとする。横から現れた咲耶らに対処すべく、蜘蛛達の攻撃は二分されて。
 その間に四音の治癒術がベルフラウ達を癒し、負の要素があればリンディスの光が恐怖を打ち払わんとするかの如く、弾き飛ばすのだ。糸は燃やしあるいは斬りつけ、イレギュラーズ達が十全に戦闘出来る範囲を徐々に増やしていく。
「行け、ますな。このまま押し込むであります。とどめの一撃は――お任せしたく」
 さればエッダが一際大きな土蜘蛛の動きを抑えるべく更に前へ。
 強烈なる足の一撃が横より襲い掛かって来るが――それを両の腕を畳んで防御。
 全身を恐るべき衝撃が襲い掛かるが、それでも彼女は決して倒れず。
「隙・あ・りッ――!! 脳天、もらうわよ――!!」
 そこへ秋奈が跳ぶ。受け止め動きの鈍った一瞬を見逃さずに。
 蜘蛛の上へ。そして刃を直下へ、穿つように――突き刺せば。

「――――!!」

 声に成らぬ悲鳴が地下に満ちる。轟く咆哮は苦しみの故か。
 秋奈を落とさんとするかの如く頭を振るい、やっとの事で彼女を振り落とす、が。
「あ、た、倒れる……!!」
 スカーレットが見据えたのは土蜘蛛が大きく身震いする様。
 天を見据え、足から頭へと身を震わせ――直後。
 その身が崩れる。

 一拍の後、黒き彼岸花の花畑へとその身を大きく打ち倒したのだった。


 土蜘蛛は殲滅した。見える範囲にはもうおらず、卵の類ももうなければ増える事もあるまい。
「念の為のもうちょい探索するけどな。オーダーは殲滅なんだ、容赦は出来ねえ。
 ……しかし黒い彼岸花、ねぇ……」
 これももしや神隠しで『転移』してきたのだろうかとグレンは推察を。
 見た事のない魔物――これは彼岸花の影響で発生した、というよりも彼岸花が運んできたのではないか? どこかへ人を消す現象があるのならば、どこかから人や魔物が運ばれてきてもおかしくはない。あるいは誰かが意図的に持ち込んだ物か……?
「人為的な作為――今のところはそういう仕掛けはなさそうだけどな」
「……『何を』『何のために』神隠しなどという現象を……或いは本当に無作為なのでしょうか?」
 グレンの呟きに次いで語るのはリンディスだ。顎に手を、見据えるは彼岸花で。 
 深く、深く思考する。やはり幾度見てもこの花自体に特別な何かは感じない……魔力が詰まっているような感触はないし、人為的に何かが施されているような感じでもない。サンプルとして持ち帰ってみようかと摘むが、果たして……?
「んーていうかさ、これ食べれるのかしら? 毒とかは無さそうよね? ないわよね?」
「止めはしないでありますが、たしか彼岸花には毒性があったような気がしますが」
 えっー? という表情でエッダの返答より早く既に彼岸花をもぐもぐしている秋奈。いやこれは彼岸花の様でいて色が特殊なので毒性がない彼岸花かもしれない。とりあえず沢山もぐもぐするのはやめとこうかしらーと。残りはぶんぶん刀を振り回して刻む。
 一方でエッダは彼岸花を集め、一気の焼却を試みる。幸いにして火はあるので焼却活動に困りは無く。
「……ふむ。匂いは特段妙な感じはしないな……神経の左様もなさそうだが……
 逆に不気味でもあるな。そういう効能がないのなら、なぜあのような魔物が……」
 そして一角ではカナタが彼岸花の匂いを嗅ぎながら、モンスター知識の知恵を組み合わせる。魔物を狂暴化させる要素のある花――と言うのは世界に無い訳では無い。この花もその類なのではないかと推察したのだ。
 しかしどうもそんな類ではなさそうだ。麻薬の類でもなれければ、普通の花の様に思えて。
「……しかし、うむ。やはり破壊するにあたっても警戒は必要だろう。
 エッダ、燃やす時は一声かけてくれ。念の為いつでも逃走出来るようにしてから行おう」
「そうでありますな。では、そのようにしましょう。まだ集めてる途中でもあります故」
 それでもと。破壊するにあたって初めて効果を齎す特殊な何かである可能性も否定できない。
 万全の警戒を持って伐採に当たろう。何の情報も無い、初めての花でもあるのだから……
「これが『誰』ぞの誘拐であるのなら、問題は何の目的で行ったか……ですよね。ふふ」
「この遺跡は元々何かを祭っていた様子。もしかすると……各地の神隠し現場も同様に、何か同じ神か――類する何かを信仰していた地であるかもしれないでござるな。重要なのは場所かもしれぬでござる……」
 四音はこれが何の為のモノであったのかに想いを巡らせ微笑みを。
 咲耶はむしろ『場所』が重要であったのではないかと思考を巡らせ、メモを取るのはこの遺跡の模様や印章だ。他の地点と類似する箇所があれば、神隠しの真実に一歩近づくと推察して。
「黒い華を生み出す術具……は見当たらぬでござるがやはり人為的な可能性も捨てきれぬ……」
「うん――でもこの花達、なんだろう……あんまり会話が出来ないんだよね……」
 そしてアレクシアは群生している地にて花達へと心を通じ合わせんとする。
 幻想種の心得も抱いて……しかし、彼らから得る事の出来る断片的な情報は、何か、こう妙だ。『理解がし辛い』と言うべき、だろうか。彼らは――戸惑っている――? この地を知らない――?

「……神隠しの触媒か何かか? 或いは、いや……これは何か副産物の可能性も……」

 ベルフラウの思考はそもそもこの花は主役ではなく、何かの影響によって生じた『副産物』なのではないかという推理に至る。『神隠し』が何か魔力を介した事象の一つであるとして、それに準じた何かが発生した際に――この花が、その場所に咲くのではないだろうかと。
 故に、と。先行していたスカーレットにも話を聞かんとする。
「スカーレット。先に潜った時はどうであった?
 知る限りで良い。花の数の少ない所と多い所では何か変わりは無かったか――?」
「変わり? ううん、そうだね……」
 と。
 その時だ。黒い彼岸花を一つ手に取って、見据えていたメルトリリスはこの花を『怖い』と思っていた。
 まるで『この世のモノではない』かの様な花。
 浮世から離れてこの地に顕現した在り得べからざる花であるかのようで。
 そしてそう感じるのに、如何なる技能を用いてもこの花自体は『普通』なのだ。それが恐ろしい。何か理由があるのなら納得もしようが、直感的に『何か』を感じるのに知覚できないというのが――
「――?」
 瞬間。己が目に十字が浮かび上がる。
 それはギフトの発動の証。不安定な未来を予知する、奇跡の一端。
 その瞳に映ったのは。

「――スカーレットさま!!」

 叫んだが、遅かった。振り向いたその時にはスカーレットの足元に『妙な光』がまとわりついていて。
「え、何こ――」
「スカーレット!!」
 ベルフラウが手を伸ばす――が。激しい瞬きの方が一瞬早い。
 思わず瞼を伏せ、開いた時には。
「――い、ない?」
 スカーレットは消えていた。跡形も残さず、気配も追えず。

 神、隠、し。

 何かと何かが繋がった時に一瞬だけ発生する、人が消える現象。
 彼女はどこへ消えたのか? 花を調べ、警戒していたのにどこへ――
「……」
 ベルフラウは瞼を閉じる。瞬きと同時、一瞬だけ見えた様な気がする、あの光景。
 あれは、なんだったのだろうか。
 見えたのだ彼に本当に一瞬だけ――

 紫髪の、巫女装束の少女の姿が。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 神隠しはの真相は一体――? またいつか動きがあるでしょう。

 ありがとうございました。

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