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シナリオ詳細

紅蓮に華やぐ神奈備の

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●華燭
 銀の髪の乙女が姿を消したと言う。
 欲に塗れた乙女に訪れる筈であった細やかな幸せは潰えたと依頼人の男は泣いた。
 不憫であるとリュミエは胸に手を当て声を震わせる。実に、不憫で身に詰まされる思いであると。
 彼女が消えた場所へと、ペリカ・ロズィーアン達、探索隊を伴い訪れた大魔道は流れ込む映像を見た。

 美しき倶蘭荼華。その中で男が傅いている。
 傍に佇む男には旅人の如き角が額より生え、裾の広がる衣服に身を包んでいるのが見えた。

 ――けがれの巫女よ。よくぞやった。
 ――ああ、貴女は、清き乙女。巫女姫様ではあるまいか!

 傅く男の言葉と共に、その映像は掻き消える。それは一体なんであったか。
 リュミエは直ぐ様にその場所を禁足地とした。その異様な光景が『混沌世界のもの』である確証が、『その時』の彼女には得られなかったからだ。

●神奈備の
 リュミエ・フル・フォーレより混沌世界各地で『人が消える』という事件が多発しているという情報がローレットに飛び込んだのは、ペリカ・ロズィーアンが「調査隊を編成したいんだわさ」と受付に飛び込んだのと同時であった。
 曰く、混沌各地で起こっている『神隠し』――それは神託の少女が言った『神の悪戯』の事だという。それは空中庭園への『召喚』にも類似した事例だそうだ――への対処を行いたいというリュミエからの依頼だ。
「『果ての迷宮』の事もあるけど、こっちもこっちで『迷宮』関連ならあたしが協力しないわけにはいかない訳だわさ」
「迷宮関連?」
 イレギュラーズにペリカは大きく頷く。
 こうした事象が初めて観測されたのは幻想貴族フィルティス家の令嬢、エルメリア・フィルティスが『神隠し』にあった時だ。その際は深緑各地に点在している迷宮や霊樹の仕業であろうと推測されていたのだそうだ。その際に、調査に参加したペリカが今回の調査でも隊長として参加し、歴戦の勇士たるイレギュラーズの知恵と力を借りたいのだそうだ。
「流石に、世界各地の事件をあたし一人じゃ無理だわね。それは別動隊に任せるとして……あたしの調査隊は助っ人を一人入れて、エルメリア・フィルティスが消えた周辺の調査を行おうと思うんだわさ」
「助っ人……」
 助っ人と言うのは先ほどからペリカの隣でタピオカドリンクを飲んでいる黒髪の少女であろうか。鴉の濡れ羽を思わすウェーブヘアーに独特の装いに身を包んだ少女は「はいはーい」とその翼を振る。
「太陽信仰を司る今代の神子、サフランだにゃー。
 神様には『神使』を。ってことで、ペリカちゃんに協力することになったもんだでよろしゅーに」
 へらりと笑って見せた彼女。曰く、沈んでは昇る太陽を再生や不死、豊穣の象徴として崇める古い信仰における主宰一族の娘であり今代の神子だそうだ。田舎特有の土着信仰の象徴とでもいう所か。
 そうは言えども専門家だ。サフランと名乗った彼女は『三本足の火鳥』たる一族の名に恥じぬ強力な治癒能力を有するそうだ。
「一応はエルメリアちゃんの話もわしが調べておいたもんだで、皆も確認してほしいにゃー。
 まあ、『過去は過去』って割り切るのもええがね。何があるか分からないのが『混沌世界(かみさまのいし)』って事だけ念頭において欲しいんだにー」
 淡々とそう言ったサフランにペリカは頷く。禁足地とリュミエが設定したその場所へと踏み入れ、『神隠し』について何らかの情報を得るのが目的だが――それともう一つ、禁足地付近に蔓延る魔物の討伐もお願いしたいのだという。
 曰く、そうした事件が起こりだしてからその周囲にした漆黒の彼岸花が魔物を狂暴化させているのではないか、とのことだ。
「でりゃーおそがいことが起こってるらしいなもー」
「そうさね。花が何かだけでも知れたら……寧ろ、その花をそこから除去して魔物の暴走を食い止められればうれしいだわね」
 アーカンシェルの精霊たちの件もある深緑では、これ以上の面倒事は御免だ。
 そして、本件は『世界各国』で起こっている事件の一遍に過ぎないのだという。

 深緑だけではない、
 幻想の迷宮でも、鉄帝の古代遺跡でも、天義の聖堂でも、
 海洋の航海中に、ラサの蜃気楼に、練達の実験中に、
 ――それは『どこにだって在る』のだ。

「見過ごして、大切な人が飛ばされましたなんてなっちゃ目も当てられないんだわさ」
 ペリカはそう呟いた。それはいつ起こるかわからず、突然起こるバグだというならば。
 そのバグで何処に行ったのかを知ることが出来れば――
 ペリカは「協力をお願いするんだわさ」とイレギュラーズへと強く、言った。

GMコメント

 咲いた黒き曼珠沙華。西紅花と共に、対処に向かいましょう。

●成功条件
 ・黒き華の処分
 ・魔物の鎮静化

●深緑の禁足地
 それは少し前に『エルメリア・フィルティス』という幻想貴族が姿を消した場所です。リュミエ・フル・フォーレはその場所を禁足地とし、危険を孕む可能性があると周知していました。

 最近はその場所に黒い彼岸花が咲き、魔物たちが『その花に影響されてか暴走をしているそうです』。
 周辺はロープが張られている以外は変哲のない迷宮森林ですが、周囲には深緑の古代迷宮が点在しているようです。

●『神隠し』
 神託の少女ざんげ曰く『神様の悪戯』。空中庭園に召喚されるのと類似の現象であると推測されており、『神隠し』に合った者は皆、『空中庭園ではないどこかに召喚されています』。
 その神隠しは『混沌世界』のあらゆる場所で純種、旅人、魔種、どのような存在であれど等しく行われます。

●黒き彼岸花
 それがどうして咲いているのかは分かりません。しかし、そこに在るのです。
 魔物に影響を与えているのは確かなようですが――

●小鴉*10
 彼岸花に影響された小型の魔物たちです。黒き翼を羽搏かせ襲い掛かります。

●八咫烏*1
 そうペリカが呼んだ巨大な鴉です。小鴉を率いる頭領。強力な魔物です。
 額には青き宝玉が埋まっていますが、それが濁っているようです。

●同行NPC:ペリカ・ロズィーアン
 調査隊長。「もうずっと長い事穴を掘っている」らしい土木関係者、改め冒険家。
 その能力は各国お墨付きですが戦闘よりも冒険に特化しているそうです。
『穴掘り』の専門家ですが、冒険にも造詣が深いために今回の調査にあたっています。

●同行NPC:サフラン
 沈んでは昇る太陽を再生や不死、豊穣の象徴として崇める古い信仰における主宰一族の娘。その今代の神子。
 ド田舎の土着信仰上、重要な地位であるという不労所得ガール。奔放な性格ですが、一応は『専門家』です。
 のんびりとしており穏やかではありますが治癒に関してはペリカも認める実力を持ちます。
 エルメリアに関して調査した資料を手にしていますが、それでも尚、何があるか分からないと警戒しているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

神奈備へ。いってらっしゃいませ。

  • 紅蓮に華やぐ神奈備のLv:10以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月17日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
かんな(p3p007880)
ホワイトリリィ
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ


 咲き誇るは黒き華。
 その行く先が彼岸か此岸か――


 鮮やかな迷宮の森を行くのは12人の冒険者。運命により可能性を蒐集することを課せられた10名と『穴掘り』を生業とする探索家、そして、生まれ乍らに神と通ずるとされた黒髪の乙女である。
 さて、アルティオ=エルムの森は幻想種達にとっての彼女らを守るが為の薄暗く高き塀である。それは迷わせ、そして、その足を決して大樹ファルカウに向かわすことがないと伝えられていた。その中で一人の『奴隷の少女』が行方を晦ましたところで問題となるわけがない――そう、『そういう所』と言われてしまえば終いなのだ。
 その少女の過ごした日々は決して上等なものではなかっただろう。しかし、彼女の『新たな主』は迷宮の大魔道に言ったのだという。

 ――消えてしまった! 跡形もなく!

 その言葉に大魔道は心底驚き、そして、その場に踏み入れた時にある幻影を見る。
 美しき倶蘭荼華の傍に頭を垂れ、傅く男。それは海洋王国でも一部の者や旅人たちが好む『和服』と呼ばれる装束であっただろうか。巫女姫と呼び慕う男の声に反応を示した女が居た、そこまでを『見』てから大魔道はこの場所を禁足の地とした。
 それを知るペリカ・ロズィーアンはマルク・シリング(p3p001309)の「此処が禁則地である理由は、幻影のせい?」という言葉に「半分イエスで半分ノーだわさ」と返した。
「その幻影は貴族のお嬢ちゃんが姿を消したときに見えたって事やんね? 偶然の神隠しやなくて、ここに何かあると思ってリュミエ様が禁足地にする程のものがあるんやろうか。
 その後に『彼岸花』が咲いて――……なんで咲いたらあかんねんやろ?」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が耳をピコリと揺らして首を傾いだそれに『専門家』と呼ばれた少女サフランは「そんな花、この辺りには存在してなかったのにいきなり咲いたからだにゃー」とそう言った。
 訳知り顔の彼女は決して行動な魔術を使用できるわけではない。本人に言わせれば『田舎の土着宗教の神子様』であり『不労所得ガール』なのだそうだ。沈んでは昇る太陽を再生や不死、豊穣の象徴として崇める古い信仰における主宰一族の娘という大それた出自も『田舎特有』と言われてしまえばそうなのかと頷く他にはない。しかし、彼女は何かを知っている雰囲気を醸している。
「サフランさんとペリカさんにも……その、情報を聞いても良いのかしら……?
 魔物を斃せと言われたけれど、『情報』もあれば嬉しいのよね。今の所、取捨選択する情報もないみたいだけれど」
 その水流の如く揺れる蒼髪を首を傾ぐのと同時に動かした『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)にペリカは大きく頷いた。此度は眼前に張り巡らされたロープの向こうに『わざわざ』足を踏み入れるのだ。
「私たちは神隠しが何なのかを知らないわ。……ああ、けれど、神様なら悪戯で済まされるのね? 妬ましいわ……」
 呟くエンヴィに『実験台ならまかせて』かんな(p3p007880)は大きく頷いた。
「神隠し。大変な事件なのでしょうけれど……どこに連れて行かれてしまうのかしらね」
 しかし、不思議とかんなは嫌悪を感じてはいなかった。神隠し、そう『何かが起こっている』のである。相も変わらずこの世界は『混沌』としており、不思議に満ち溢れている。毎日、代わる代わるのショーを見せつけられているかのような感覚にかんなは「素敵だわ、この世界は」と小さく笑ってから眉を寄せた。
「けれど、ショーを見ているように着席している観客ではいられないのよね?」
「ああ、そうだ。『神隠し』に合わない可能性もないしな。
 飛ばされた先が安全ならいいんだけどな、水底に飛ばされたとかあったら俺は嫌だぞ?」
『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が思わず身震いしたのは『空中庭園』に召喚した折にはどこぞへ行く事が出来なかったからだ。その翼では辿り着くことも抜け出すこともできない感覚はどうにも拭いきれない恐怖があったというもの。
「『神隠し』か……それが、あたしの失敗に起因しているかどうかも気になるけどな……?」
 失敗、という言葉にペリカが顔を上げる。『ディザスター』天之空・ミーナ(p3p005003)がバツが悪そうに「まあ、後始末はするべきだろ?」と言えば『魅惑のダンサー』津久見・弥恵(p3p005208)も「果ての迷宮が関係している可能性があるのですか」と緊張したように『隊長』へと問いかけた。
「アタシの推測だけんどね、『果ての迷宮』の探索失敗が引き起こしたわけじゃないだわね。
 どちらかと言えば『絶望の青』の侵攻状況に起因している気がするんだわさ」
「絶望の青に、ですか?」
 弥恵がぱちりと瞬く。ペリカ・ロズィーアンは『果ての迷宮』の専属ではない。各国でも有名な――そして、出身地である深緑では更にその名を冒険家として轟かせる――職業『穴掘り』の幻想種である。その彼女の直感では、神秘に溢れる地たる『果ての迷宮』の内部でも神隠しは起こり得る可能性があるからこそ、捨て置けない事項なのだそうだ。
「ああ、絶望の青。あると思うにゃー。大きな水溜まりの果てに何があるかは分からんきに。
 あの海に『可能性』が反応して、今回『一斉に各地で神隠し』が起こってる可能性があるんだにゃー」
「各地で、一斉にだと……?」
 ミーナが片方の眉を吊り上げる。混沌世界の全容は見えない。それこそ『先に何があるかすら分からない』のだ。大陸があるだろうと語る海洋王国の事を思い出しながらミーナは「……兎も角、世界に変化が訪れたから『神隠し』が増加したって?」と問い返した。
「ふむ。非常に興味深いね。順序だてていけば、『大量召喚』が発生してから『大罪』の撃破、そして『前人未到の地』へ『可能性が至った』――混沌世界は瞬く間に変化しているという事かな?」
 その探求心を擽られると『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が笑みを零す。つまりだ、『果ての迷宮』の攻略階層が進んだことというのも世界に影響を与えた可能性は否定できない。それが以前より僅かずつに起こっていたというならば大量召喚然り、世界が何か気まぐれたと言えるのだろう。
「神隠しが『旅人が元の世界に至る可能性』であったら――? 喉から手が出るほど、それに焦がれる人がいるかもしれないね」
「はてさて、何者かの思惑が絡んでいるかもしれんでござるし、ゼフィラ殿のいう通りの福音であるかもしれないでござるが――」
『始末剣』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)がちらり、とペリカを見遣る。ペリカにしてもサフランにしても予想は「前者」だ。


 木々のさざめきを聞きながら『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)はぱちりと瞬いた。禁足地を前にして、景色が変わったと感じたのは気のせいではないのかもしれない。鬱蒼と茂る迷宮森林の木々の中、咲き誇ったその花は毒々しい程の黒である。
「品種の改良なんかによる黒花彼岸花の新種かしら?
 でも、新種だっていうなら魔物に影響を与える様な物騒な代物じゃないのよね……油断したら痛い目に合いそうだわ」
 只の華だと侮るなかれ、と自身に言い聞かせてイナリはゆっくりと足を踏み入れる。清廉なる空気を感じさせる迷宮森林の中でもリュミエが張り巡らせた『境界』は自身らを隔絶したかのようにも思わせた。
「しかし、この森ならば『神隠し』に会いそうというもの……。
『別の場所』でも頻発しているというならば、何も賊が森に迷ったわけでもないでござるな」
 咲耶は自身らがそうなる可能性にも気を付けながらじわじわと禁足地を進み往く。美しい春の緑とはまた隔絶されたかのようなその場所にイナリは「あれが『古代遺跡』?」とペリカを振り返る。
「そうだわさ。迷宮森林には『そういうもの』も残ってるわさ」
「慣れてる人とか用事がなきゃ踏み入れたくもないもんだみゃー」
 サフランが肩を竦める。例えば、この森を騒がせている『妖精』たち。妖精郷へ繋がる道をたどるが為に踏み入れるという以外ならば、それに踏み入れるのは物好きだとでも言う彼女の視線はペリカに注がれている。
「興味は?」
「まあ……興味はあるわ。けれど、無暗に森や遺跡に被害があっても大変だし……」
 かんなが周辺に展開した結界は意図的でなければ破壊を防ぐ『保護』だ。彼岸花が戦闘中に『破壊』しては拙い物でない可能性も含めれば準備しておくに越したことはない。
「周辺を気にしなくて良いなんて、素敵な技能よね」
「うん。そうだ、重傷者が出たら、調査を続けるのが困難になる。皆、最大限回復を回すから、怪我には気をつけてね」
 マルクの励ましを胸に弥恵は警戒するように踏み込んだ。黒い彼岸花を調べる事を優先して周辺におろそかになる事も困る。木々のざわめき、葉の擦れる音、そして空に交わる様な何かの飛翔音。
 それを聞き洩らさぬ様に耳を欹てながら、弥恵は微力でも力になって見せるとゆっくりとその足に力を込める。
「――来ますよ!」
 す、とその靭やかな足に力を込める。弥恵が振り仰ぐと同時、前線に飛び出した咲耶は常の如く名乗りを上げてその手に妖刀を握りしめた。
「十三代目・斬九郎いざ、参る!」
 真紅のマフラーがたなびく。眼前に迫るは黒き翼。それは鴉と呼ぶにしては余りにも強大な敵としてイレギュラーズへと襲い来る。
 ゼフィラは直ぐ様にファントム・サーガを構える。響かせるは全軍銃帯の号令。堂々たるその号令を受け止めてから、イレギュラーズ達は直ぐ様に向き直った。
「あれが、八咫烏なのね……彼も彼岸花に影響されているのかしら……?」
 フォトン・イレイサーを手に、八咫烏の後方より躍り出る小鴉達に視線を送る。エンヴィのその疑問に「まあ、そうだろうにゃあ」とサフランは返した。
「そもそも、『あれはお仲間』だぎゃー」
「そういえば、サフランちゃんの『三本足の火鳥』はある場所では八咫烏って呼ぶんやっけ?」
 ブーケの言葉にサフランは何処か気まずそうに頷いた。成程、下手を打ったならば家族と相まみえた可能性もあったのか。普段ならばタピオカミルクティーを片手にのほほんとした彼女が専門家としてわざわざ『禁足地』に足を運んだ理由はそれかとブーケは舌を巻いた。
「ああ、やっぱり。サフランの『三本足の火鳥』の一族ってどんなのか気になってたんだ。
 脚が3つの鳥だなんて、昔旅人に聞いた『やたがらす?』みたいな感じだなって。神の使いのおっきい鴉って聞いたことある……けど、目の前のこれも『同じ』?」
 鳥というカテゴリーにおいては同じ種別であるからか、気にして見せるカイトにサフランは「あんな感じだぎゃー」と眼前より迫りくる八咫烏を指さす。
 ゼフィラは興味深そうに八咫烏を見遣った後、「随分とイメージとかけ離れているね」とそう言った。
「あ、わしの『あの姿』はベリーキュートすぎて皆が気を喪うだぎゃー。でりゃーことになるから秘密なもー」
「サフランさん、回復!」
 弥恵の言葉にサフランは「はーい」と間延びしたように返す。どうにものんびりとした少女を見ていると此処でハプニング(ちょっぴりえっち)が起こってしまわぬ様に気を引き締めなくてはと弥恵も真剣になるというものだ。
 咳払い一つ、カイトは「見ろ!」とやきとりを手にする。それは無惨な何かの成れの果てであり、その香ばしさが食欲を擽ってくるのもに無らしいのだが……
「オイタの過ぎた小鳥は躾けられるんだぜ?」
 鳥類だらけではそれも阿鼻叫喚だ。隣に立っていたサフランは「回復するなもー!」と大仰に騒ぎ、カイトも自身もふざけてはいられないのだとやきとりを手に自認する。
 ちら、と咲いた黒き華へと視線を送ったエンヴィは自身らには特に影響はなさそうだと感じながら仲間たちに「あれは今、燃やさない方がいいかしら」と首を傾ぐ。普通にしていれば咲いているだけ、しかし、それを処分することがオーダーにあるならば魔物を撃退するのと同時並行すれば一石二鳥ではないかという考えだ。
「んー、どうだろうにゃー」
「……ええ、分からないわよね。慎重に関わらないといけなさそうだわ。……ああ、綺麗に咲いて居るところを注目してくれるなんて。妬ましいわ……」


 花より感じるのは異様な空気。花粉やその香りが何らかの影響を与える可能性を考慮しながらイナリは注意深く花を確認していた。ぴこりと狐の耳が揺れ動く。贋作・天叢雲剣を手にしたイナリが踏み込み小鴉を惑わせる。その体には感じた反動は、その身の丈に合わぬ神を下ろしたが故。しかし、神使はそんな事には臆することはない。
 漂う瘴気の中を、ぐんと前進するはかんな。ナンバーレスは瘴気の中でも尚も白く虚空を穿つ。『世界を喰らう魔物』へと対抗策たるその一撃が小鴉の動きを鈍らせた。
 その片翼が傷つきバランスを崩したその眼前、まるで月が煌めくような美貌がそれらの前に掠めた。天爛乙女の周囲に展開されるは死と薔薇の領域――ひらりと揺れ動くと同時、大輪はまるでドレスの様に弥恵の体を包み込む。
「さあ……私の舞をご覧あれ!」
 踊るその背後よりミーナは青の刀身を振り下ろす。光を飲み込む闇の領域。それは小鴉を包み込み、鮮やかなる昏き世界を齎していく。その細腕にぎりぎりと感じた反動は死神のその身に光を喰らったからか。
「さあ、かかってこいよクソ鳥共! 私が相手してやらぁ!」
 歯を噛み締める。苛立ったように顔を上げたミーナの黒髪が大きく揺れた。紅以外の何色にも染まらぬドレスを大仰に揺らし、小鴉を一気に地面へと叩きつける。

  ―――さあ、恐れ慄けそして食われろ。その闇は、貴様自身の闇である。

 堂々たるその言葉と共に、振り翳られたは死神の鎌。小鴉と戦う様子を眺め、回復手を担うマルクのサポートに回るサフランへブーケは「大丈夫?」と声をかけた。
「何があるかわからん土地やからね。常に互いを視認できるように、広い視野でもって警戒しとこう」
「そうだぎゃー。……『嫌な予感』がするなもー」
 思わず身震いしたサフランにゼフィラが視線を配る。白花の装飾が彫られた機械製の四肢を動かし、ラサを思わせる熱砂を放つ。羽搏く八咫烏を誘うように上空を踊ったカイトに視線を向けながらマルクは支援を続けた。
(八咫烏……やっぱり大物となれば流石かな?)
 攻撃を惹きつけるカイトとミーナから視線を外すことなく、マルクは『重傷者を出すべからず』をコンセプトにサフランとペリカにも支援を乞う。全力で対応し続けた回復の技。
 それを受け止めながらカイトは一気に上空から焔を伴い貫いた。
「空で遊ぼうじゃないか!
 この八咫烏、額の水晶が気になるな? 壊していいなら壊しちまうが、そこんとこどーなんだ、サフラン、ペリカ!?」
 八咫烏にも伝承というものは存在している。八咫烏の三本の足はそれぞれ天・地・人を表すともいわれているのだそうだ。ペリカは判断がつかないと首を振るが、サフランと言えば「痛いことはやめて欲しいだぎゃー!」と個人的な見解を声高に叫んでいる。
「やっぱり、壊すと痛いよな!?」
「想像するだけでも痛いだぎゃー」
 身震いしたサフランに小さく笑ってカイトは一気に宙を踊る。鴉とは賢いと言われている無暗矢鱈と倒さずとも、黒く咲き誇った彼岸花より距離を取ることが出来ればそれでいいとさえ思わせられた。
「俺は好きだぜ? 黒くてかっこいい姿。鳥として親近感あるしな。だから暴れないでくれよな……ッ!」
 学術的な知的探求心を擽られながら、ゼフィラは周囲の小鴉が戦闘不能になったことを確かめる。マルクの思惑も成功している。
「ねえ……痛いのは分かったわ。当てにくければ止めておくけど……何故宝玉が濁っているか、やっぱり気になるから……ダメ、かしら……?」
 エンヴィは八咫烏をまじまじ見てから、そういった。何処からどう見ても神使のような風貌をした巨大な鴉の額に埋められた宝玉が濁っている事が気になっては仕方ないのだ。
 周辺調査を継続するペリカに視線を向けたエンヴィは『痛い』という事以外に宝玉に攻撃を行ってよいかどうかを問いかける。ペリカはううんと小さく唸ってから――「掠めて見るくらいなら許される気がするんだわさ!」と叫んだ。
「掠める!?」
 ぎょっとしたカイトにエンヴィは「難しいのね……」と呟いてから――仲間たちを振り返る。
「『ちょっと』ならいいらしいわ……」
「成程? 『ちょっと』か。うん、そういうテストも大事だと思うよ」
 ゼフィラが狙いを定める。その様子にカイトは小さく笑った。知的探求心というのは止まる所を知らない。寧ろ、濁っているというならば悪しきものを逃がすためにも一撃咥えて見るのも一興だろう。
 何せ、彼らは『彼岸花』より漂う何かの影響を受けているのだ。動物たちは人間よりもそういうものの影響を受けやすいともいう。一度無力化してから調査をするのだっていいだろう。
 一気呵成、イレギュラーズ達は皆で攻め立て、そして『掠めた』と単に八咫烏の体が一気にどすりと地面へと落ちた。


「……さ、て、と」
 調査を続行しようと八咫烏の様子を眺めた弥恵は特段可笑しなところはなさそうだと振り返る。しゃがんだ拍子にくい、と自身のスカートが僅かに引っかかって乙女の秘密が詳らかになりかけた事は弥恵だけの秘密だ。
「彼岸花から奇妙な気配が出ているという結論でしょうか?」
「そうね。何か変な臭いがするわけでもないし、花粉という線も少なさそうだもの……」
 イナリが頷き、周囲を見回した。咲き誇った彼岸花は『不思議とそこに存在する』ものなのだろう。おおよそ、神秘が何らかの影響を齎したと思われるそれはかんなのいう所の『混沌世界の不思議』だ。
「あとで遺跡の確認をしても?」
 ゼフィラのその問いかけにペリカは「任せるだわさ」と胸を張った。どんな謂れがある遺跡なのかと問いかけたゼフィラにペリカはそこは困ったという様に首を振る。どうにも、混沌世界には解明されないものも多いのだろう。
 遺跡の入り口に書かれていた壁画は日輪を崇める山の絵を思わせる。迷宮森林の中には様々な遺跡も多いのだろうが――ここが禁足地になったのは『リュミエが何らかの幻影を見た』事での注意喚起を含めた事だったのだろう。
「さて、神様というものは気まぐれだからね。花をさっさと焼き払った方がいいだろう。
 ……あまりにヒントが少ない。どちらかと言えば、『出題』をしているのではなく『そうした事例が起こっている』と知らしめられているようだからね」
 ゼフィラの困ったようなその声音にマルクは頷いた。彼岸花が群生しているのは禁足地とリュミエが指定した場所だけだ。木々や石といった土壌の変化はないが『遺跡』から距離が離れると華は徐々に元気を失っているようにも見えた。
(成程、やっぱり『神秘』の眠る地の遺跡に何かしらの影響を受けてるのかな?
 さしずめ、向こうの魔的な気配が漏れ出して――とか……かな?)
 マルクがそうして眺める傍で「燃やすならば一思いにしましょう……?」と首を傾いだエンヴィが黒き花を見下ろした。
「こうして咲いて居るだけならば綺麗だと褒められるものね。……妬ましいわ……」
 呟いたその言葉にマルクはそうだと頷いた。普通の華に見えるのだ。美しく、そして、普通の華に見えてしまうのだから。
「なにぃ?」
「あ、ああ……神隠しが黒い彼岸花に由来するものなのか、そうでないのか……なぜ、『ここ』なのかが気になってしまったの」
 周辺を見回していたかんなにサフランはぱちりと瞬く。花にばかり着目してしまうが彼岸花が由来するというならば、何故それが咲いたのかが問題だという様にかんなは悩まし気に唸った。
「何かあれば……あら? そういえば神隠しって、実際に誰か消えた所を見たのかしら? 全て同じ原因とは限らない、なんて考えすぎかしらね」
「例えば、『彼岸花』はそれが起こった後に咲いた――」
 サフランが口を開き掛けた時、周囲に何か『風』が吹いた気がした。それにギョッとしたようにかんなが顔を上げる。
「な、なんだ!?」
 突然の風邪の流れの変化にカイトが顔を上げる。そして、ゼフィラは『その気配』に何となく見覚えがある気がしてぞっとしたように周囲を見回した。
「『召喚』――!?」
「召喚? そんな、まさか」
 マルクが慌てたようにエンヴィの手を引いた。此処に居てはいけないと彼が危惧したそれに反応してかペリカが弥恵の手をぐんと引く。かんなは「まさかね」と囁いて、イナリを振り返った。
「神様も気まぐれだもの。けれど、そういう存在であること位、知っているでしょう?」
 神使たるイナリは神の悪戯くらい良く分かっていた。それは『不思議』に溢れることを湿地得たかんなもである。だからこそ、警戒を怠らずにいたのだ。
「な、なんだ!?」
 カイトが警戒し、ぞっと背筋に入った『トラウマ』の気配をびりりと感じ取る。

 ――海の底だったら?

 そんなことを思い浮かべてから、カイトは『召喚』された時の事を思い出し、ゼフィラが「何かが起こる!」と叫んだその声に目を見開いた。
 イレギュラーズ達は互いに避けた。しかし――しかしだ。
「サフランちゃ――」
 ブーケが呼ぶ。その風が吹いた途端、咄嗟にかんなを遠ざけたサフランは「心配ないだがや」とへらりと笑った。その波撃った黒髪が大きく揺れる。
 鮮やかに咲いた黒い花にエンヴィが放った火の手が回る。しかし、間に合う事はない。空間が歪んだと思えば、ブーケが伸ばした手の先に、西紅花の少女は存在していなかった。
「ッ――」
 エンヴィは頭を押さえた。それはその場にいたイレギュラーズの誰もが同じ。その傍に立っていたペリカは「幻覚だわさ!」と叫ぶ。彼女が下げていた水がイレギュラーズたちにばしゃりと掛かる。
 彼らは何かを『見』た。それこそ、大魔道リュミエ・フル・フォーレが視た時の様に。
 ソレが何であったのかは分からない。ただ、分かる事は『サフラン』が神隠しにあったというその事実だけである。

●『幻影』
 鮮やかに咲き誇る倶蘭荼華。暗がりの祠はイノリが『稲荷』に似ていると、そう感じたのは気のせいではないのかもしれない。その傍に立っていたのは紫苑の穏やかな巫女装束の少女であった。
「つづり」
 そっと、彼女が振り仰ぐ。その少女の額には黒曜の角が生えていた。その視線の先に立つ男もまた、黒曜の角をその額より生やしていた。
「ハルアキ――」
 少女の唇が動いてた時、その幻影は消え失せ、声だけがただ、残った。
「『また』か」と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 さて、何が起こるか、まだまだ分からない事ばかりですね……。

 また、お会いしましょう。

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