鳥籠少女は白い世界で永遠の恋をする。

オープニング

●喉から手が出るほどに

――欲しいの。

　音もなく、緩やかに唇の動きだけで紡がれた言葉は――それでも特異運命座標に伝わった。

　某日、境界図書館の隅の方。テーブルを隔てて貴方と『境界案内人』ロベリア・カーネイジは密談をしている。本棚の影に隠れた余り目立たないスペースに貴方は一人で呼び出され、唐突に何かを強請られたのだ。
　詳しい事情を聴かれると、ロベリアは抱えていた一冊の本を貴方へと差し出す。
　それは鍵付きの古びた日誌だった。表紙に書かれた名前は擦り切れて読めないが、彼女曰くこれもまた、ライブノベル――異世界のひとつのカタチなのだという。

「気になるじゃない。こうまでして守りたい誰かの秘密が、この異世界に眠っているのでしょう？」

　だから欲しいのだ。この異世界の情報が。

「無知は罪ではないけれど恥ではあるのよ。……なんて、もっともらしい事を言う事もできるけれど
　単純な話よ。目の前にベールで隠された鳥籠があったら、覗き込むのは当たり前の事でしょう？」

　それでも上手く見えないならば、籠の中へ直接手を入れた方が早い。
　例えそれで、籠の中の小鳥が握りつぶされてしまっても。

「行ってらっしゃい、特異運命座標。土産話を楽しみにしていますわ」

●シュレーディンガーの鳥籠で

　ぱたん。
　背後で扉の閉まる音がした。

　音に気付いて貴方が振り返ってみるも、辺りは暗くよく見えない。
　暗視のある者は早めに、そうでない者は暫く探って近くの壁にスイッチがある事に気付くだろう。押してみると、天井のライトがパッと辺りを眩く照らす。

　そこは真っ白な空間だった。

　天井も壁も床も白一面で塗りつぶされ、シミひとつ見当たらない。
　人工的で潔癖な白。

　ぱっと見た限りでは他に何も見当たらない――中央にあるものを覗いては。

　無機質な白い寝台。その上に、色素の薄い白髪のアルビノの少女が眠っていた。
　白いワンピースに身を包んだ10代半ばほどのその子は、貴方が寝台に近づくと、ゆっくりと瞼を開く。

　兎のような赤い瞳が貴方の目とかち合い、彼女は唇を開いた。

「　　　」

　何か伝えようとしているものの、どうやら上手く声が出ないようだ。
　口で伝えるのを諦めた少女は、起き上がって身振り手振りで自分に触れて欲しいと貴方に伝えた。

　その時、貴方は――。

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第2章

第2章 第1節

　あれから暫くの時が過ぎ、少女の名前はリナリアという事が分かった。

「ここから出たいの？」
　貴方の事情を聞いたリナリアは、かくんと首を傾げる。
「私、貴方の力になりたい」
　そう告げて虚空へと手を伸ばしたリナリアの掌に、再び光が宿った。
　プログラムが走ったような、０と１の光の数字が流れた後――その手に握られていたのは一輪の白い花。
「今はこれしか思い出せない、けど……この部屋にどんな物があったら素敵か、私に教えてくれれば……私はそれを現わす事ができるの」

　たとえば、この部屋にありそうな本棚。
　飾られていた観葉植物。
　少女の秘密についての資料さえも、この小さな白い部屋に収まる物なら何だって。

「あっ。でもヒトは出せない……かも。思考を"制御"出来ないから」
　注意点を添えると、リナリアは貴方へと向き直る。
「お家、帰れるといいね。一緒に頑張ろう」

ーーー。

　捜索の間、素敵な時間を貴方と過ごして、リナリアは花のように笑った。
「……ねぇ、ひとつ聞かせて」
　その最中、彼女は貴方に問う。
「ここで過ごした時間を、私達だけの秘密にして欲しいって言ったら……そうしてくれる？」

――だって、誰かに話してしまった思い出は"あの人に話したから"と忘れられてしまいそうだから。
　そう話すリナリアの横顔は、ほんの少し寂しそうだ。

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※調べたい物を指定すれば、リナリアが出してくれるそうです。
　純粋に部屋を捜査しても、捜査と関係なくリナリアに見せたい物でも、指定するものは何でも構いません。
※リナリアは特異運命座標に質問をしたようです。ぜひ答えてあげてください。
※二章は4/13(月)の午前まで受け付けます。途中参加もどうぞお気軽に。
　此方のラリーを途中で見失ってしまった際は、詳細検索または次章突入の通知メールをご活用ください。

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第2章 第2節

　スンッとリナリアが鼻を鳴らす。
　焼き立てのパンとミルクの匂い。宝石のように鮮やかな甘い果物。
「一緒に食べましょう？」と優しい笑顔でフルールが誘う。

　彼女は脱出より、少女との時間を優先した。
　白い部屋に丸テーブルとイスを用意し、食事を共にする。
「美味しい！」
「苺はヘタを外して食べるのよ」
　教えるフルールと懸命に覚える少女の姿は、さながら仲良しの姉と妹だ。

「探さないの？　帰る方法」
「ここから出たいかと言われれば、出たいのだけど。凄く出たいかと言われたら、別に急ぐわけでもないし。何ならここにずっと居ても良いのだけど
　多分それはできないのでしょうね」
　少女は何か答えようとして、言葉を飲み込む。

「花瓶も飾りましょう。赤い紅い花を活けてくださいね？」
「紅……」
　少女が花瓶に手を伸ばすと、花が次々と現れた。

　薔薇、柘榴、山丹花に紅椿——。

「素敵ね！」
「条件検索に3.406件ヒットしました」

　増える増える赤い花。花瓶を満たし、ついには溢れーー部屋はすっかり赤に染まり。

「ここであなたと過ごすのは、私はとても楽しい。リナリアはどうかしら？」
「私も……です」
　だから、と瞳で乞うリナリア。
「ここでのことを秘密にしてほしいのなら、ええ勿論。秘密にします。
　けれど、秘密にしなくても、私はあなたを忘れません。これが私からの約束よ」

　少女の名に秘められた言葉。それを知っているからこそ、フルールは"応えた"のだ。

成否

成功

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第2章 第3節

「おそろい！！」
　レ・イゾーコそっくりのぬいぐるみに顔をうずめ、リナリアは目を輝かせた。

　あれから数刻。部屋の中は華やかになっていた。
　お茶会が出来そうな机に椅子。お花も綺麗に飾られて。
　それらは全て、少女の為の物ばかりだ。

「ユフィ、いいの？」
　リナリアが見渡す限り、現したそれらは脱出の手がかりとは程遠い。
「そう、ですね」
　改めて彩られた部屋を眺めつつ、ユースティアは人差し指でポリポリと頬を掻いた。
「やりたい事も、やるべき事も
　まだまだ沢山有るので、出たいと言うのが本音です」

"物を想う様に形に出来る"　"意思有るものは制御が難しい"
　此処は――この白い世界は、この子其の物なのだろうか。
　そう思うと、つい彼女を優先してしまうのだ。

「けれど――もし、此処に来る事が自由なら、私は、アナタに逢いに来たい
　この出逢いにも、きっと意味が有ると想うから。
……無くても、大事にしたいですし、ね」

　ぬいぐるみにまだ口元をうずめたまま、リナリアは答える。

「うん。私ね、知ってるよ。ユフィはまた来てくれる。
　一緒に過ごす時間が優しくて、温かくって。……だから」

　この思い出を、２人だけのものにして欲しい。
　少女の幼いなりの拙い願いに、ユースティアは小さく微笑む。

「ん、良いですよ」

　答えた次の瞬間、彼女は抱き着かれていた。

「本当にっ！？」
「其れがアナタの――リナリアの望みなら
　約束します」

成否

成功

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第2章 第4節

「え？　出られねーの俺？ここから？」
　サンディは頭の後ろで手を組み、がらんどうの白い部屋へと視線をやる。
「やれやれ……ま、偶には小休止ってのも必要だよな。俺にも」
　それに、どこぞの砂漠の牢獄よりはよっぽどマシだ。レディがいるなら猶更。

「サンディ、あのね」
　少女がおずおずと脱出の手がかり探しを提案する。
　そこでサンディが閃いたのは『窓』だった。
「普通に外に繋がっちまったらそれはそれでラッキーだが、
　まぁ出られなくとも、外に繋がってなくても。景色が変わるとか、風が吹くとか。結構雰囲気出るもんだぜ」
「お外、見た事ない」
「見たことなくてもいーんだ。そーぞーするのが大事なのさ。俺としても何が見えるか楽しみだしな」
　その言葉に勇気を貰い、少女は頷いた。
「そーぞーしてみる！」

　そうして壁に現れた扉は内開き。澄み渡る青空。
「やるじゃんかレディ！」
　窓を開けてサンディが手を伸ばす。と――青空に掌が触れた。見れば液晶画面に外の風景が映し出されているようだ。おまけに排出口のような小さな穴から風が吹いてくる。
「ごめん、これしか私……」
「あっははは！　芸が細けぇ！」
　すまなそうに眉を下げた少女は、サンディの笑顔に救われて口元を緩めた。

　願わくばこの時間を、２人の秘密に。
　少女の願いにサンディはあっさりと頷く。
「そのてーどだったらレディの頼みとありゃお安い御用だぜ。
　ってかむしろ、『俺を覚えてられるかな』？」

成否

成功

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第2章 第5節

「お歌、すごく楽しかった」
　少女はお礼に話し出した。自分の名や不思議な力。
　部屋を出るためのアドバイス。

「ならば、調べるしかないのでしょうね」

　何事も、己の行動をもってして掴むものなのですからね。

　不思議な部屋と不思議な少女。
　彼女とこの部屋が何らかが関係するというのは確かで……それがとても重要で、何処か不吉な気もするのも確かで。

「この部屋とリナリアの繋がりを示す書物を」
「分かりました」
　少女の目に電子の光が宿る。手元に現れたのは一冊のファイル。『鳥籠プロジェクト』
「これは……」
　この部屋がどういうものか。それを知っていれば後の心構えも出来るものだと思ってはいたが。

(願わくば、忘れない、忘れたくない夢の記憶となりますように)
　繰るページはリナリアの『父』が残した物だった。

　白い部屋も少女も。全てはプログラムで出来ている。
　リナリアは生まれたばかりの無垢なAI。人と触れさせ、感情を覚えるために生まれた存在。
　しかし研究は、人の禁忌に触れるとして淘汰されてしまった。

　作りかけの世界。保持できるのは一日だけ。
　少女は、貴方と過ごしたこの一日を繰り返す。何日も、何千年も――。

「リナリア……」
「紗夜、そんな顔しないで。心がギュッてする」

　好きな人に辛い顔はして欲しくない。きっとこれが"感情"なのだろう。

「私の事。忘れないで。２人だけの大切な秘密にしてね」
「……貴方がそれを願うのなら」

成否

成功

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第2章 第6節

　少女の前に、ぱさっと空のザックが置かれる。
「金銀宝石が山ほどあったら素敵ね
　いくらでも出せるなら少し（大型ザックがパンパンに膨らんで弾けそうになる程）頂戴」

　欲に忠実な願いも少女は叶えようと手を伸ばした。
　すると湧き出る泉のように滾々と、ネックレスや金の延べ棒、華やかな財宝達が姿を現す。
「すごい……キラキラしてる」
「見たこと無いの？　宝石。綺麗でしょ」
　自分の首に大粒のダイヤのネックレスをかけながら、メリーはリナリアに輝く様を見せつける。

「探さないの？」
「何を？」
「ここから出る方法」
　少女の心配を、フフンとメリーは自信あり気に笑い飛ばす。
「出たいに決まってるけど、
　経験上『今すぐは出れないけどいつかは出れる』パターンだと思うから
　焦ってはいないわ」
　経験則に彼女は自信があるようだ。すごい、と少女が拍手する。

「ねぇ、メリー」
　そんな聡い少女にリナリアが提案した約束は、
「悪いけど秘密にはできないわ」
　とあっさり却下されたのだった。

「ここに来たこと自体は第三者に漏れるかもしれないし
　何があったのか言わないと殺すって脅されたら喋るし
　大金を積まれても喋るわ」

　思い出が無価値でなくとも、自分の命や欲望と釣り合うほどの物でもない。

「でも約束しないのはわたしなりの誠意だと思ってね」
　絶対秘密にすると約束しておいて、破る事も簡単なのだから。
　彼女の噓偽りない言葉に、リナリアはこくりと頷いた。

成否

成功

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第2章 第7節

「鍵、窓、この際だから暖炉でも構わん。この場所から脱出する術が欲しい」
「鍵……」
　ぽん、と現れたそれを稔は受け取り、扉の鍵穴へと差し込んだ。捻れば開錠の音がする。
……しかし、押しても引いても扉が微動だにしない。
「くッ……！　どういう事だ、これは！」
　荒げる声は、少女を思っての事だ。
　たった一人で過ごす時間は、どれほどに寂しいものだろう。

「そうだ、ギフトで……！」
　手にした鍵を対象に『Hollow Truth』で現した本にはフィクションを含む前の事実が並べられていた。

　部屋の外など存在しない。この世界は作りかけで、残された時間さえもーー。

「……」
「稔？」
"ここで過ごした時間を、私達だけの秘密にして欲しい"
　それは、消えゆく者の切なる願いだったのだ。

「記憶というのはいつか薄れ、消えるものだ。
　だから人間は、忘れたくない思い出や感情をこうして物に閉じ込める」

　自分が消えた後、最後の一瞬まで寂しくないように。
　ギフトで作った本に、今まで見てきた美しい景色のこと、混沌世界のこと……思いつく限り、全てを筆に乗せて描いていく。

「君との思い出はこの本が有る限り永遠のものとなった」
「本当に？」
「ああ、これは誰にも渡さないし、大切にする。約束だ」
　ぱぁ、と少女の表情が華やぐ。

　この笑顔もプログラムされた作り物。
……しかし、そう割り切れぬ程に少女のカタチをしたAIは精巧で繊細で、儚い美しさを帯びていた。

成否

成功

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第2章 第8節

「リナリア。可愛い名前ね」
「かんなも可愛い。……なんだか、少し擽ったいね」
　あれから二人は寄り添うように手を握ったまま、寝台に座り他愛もない話に花を咲かせていた。
「帰り道、探さないの？」
「ふふふ。帰れというなら、帰る方法を探してもらう所なのだけれど…そうでは、ないのでしょう？
　それならば、私は何も要らないわ。こうしてお話ができて、こうして……触れ合えるだけで、充分よ」
「——っ」
「何度でも、いつまでも……私で良ければ、一緒に居ましょう？　白の中でも、独りじゃないなら……寂しくないものね」
　少女の瞳が涙に潤む。今にも泣きそうな少女の頭を、かんなは優しく撫でてやり。
「きっとまだ……時間は、たっぷりあるわ。この世界が、どんなものでも」

　包み込むような優しい言葉と真っすぐな愛。
　それは少女にとって砂糖菓子のように甘く、溶けて消えるほど儚く。

「一緒に居たいよ。ずっと、かんなと一緒がいい。
　でも、私の代わりに、かんなには色んな世界を見てきて欲しいから」

　代わりにどうか覚えていて欲しい。今日この日の、２人で過ごした時間を。
　それが少女にとって、最初で最後の精一杯の我儘。
「……ふふふ。二人だけの秘密、なんて。約束するのは始めてだわ。今までは、約束する相手も居なかったから。
　こういう時は、確か…そう、指切りをするのよね？」
　絡め合う細い小指。
「♪嘘ついたら……私が、泣きます」
「ふふっ、それは大変だわ」

成否

成功

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第2章 第9節

「因みにその異世界、誰を派遣したんだ？」
「スーですわ」
「なんっ……、俺この後、依頼で声かけようと思ってたんだぞ！」

「……っくしゅん！　…誰かに噂されたかな…？」
　ティッシュを出そうかとおろおろするリナリアに、大丈夫とスーは笑いかける。
「それでえーっと、ごめんねっ！　全部秘密にする……のは、ちょっと難しいかな。
　この世界のお土産話を、楽しみにしてる人がいるからねっ」

　そう、と俯く少女の手を取りスーは部屋の空いたスペースに連れ出した。

「だから……話しきれないくらいの思い出を作ろう！
　貴女の為だけのダンスステージ！　張り切って踊っちゃうよ！
　そうすれば…話さないまま、私達だけの秘密にできる時間も…作れるでしょっ？」

　茶目っ気たっぷりのスーのウインクに、少女の瞳がキラキラと輝く。
「それ、すごくいい……！」
「退屈はさせないよ！　一緒に踊っても良いし、観ててくれても大丈夫。
　さあ、いつまでも踊り狂っちゃおうっ！」

　不格好でも、リズムに乗り切れなくてもいい。
　心のままに身体を動かせば、それはきっと言葉に代え難い最高の思い出！

(出られないって言っても……いざとなったらロベリアさんや神郷さんが迎えにきてくれるだろうし。
　それまでは、思い出作りの時間にしちゃっても……良いよねっ？)

「へくちっ！」
「ぶぇっクシュ！」
「……空調、効きすぎじゃありませんの？」
「みたいだな。司書に言って温度上げてもらうか……」

成否

成功

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第2章 第10節

「さあ、冒険の旅に出発だー！
……と思ったけどよく考えたらこの部屋から出られないんだったね！」
「でも、こんなに高い所から見る景色はは初めて」
　ヒナゲシの背中にしがみ付きながら、リナリアが感動混じりに呟く。
「仕方ないから小休止しようか？」
　それなら、と小声での相談に耳を寄せるヒナゲシ。
「えっ？　何でも出せるんだって？」
「……ん」
「じゃあ、折角だからピクニックと洒落こもうじゃないか！」

　天井に青空を描いて、気づけば足元の床に青々とした若草と小さな花が萌える。
　広がるピクニックシートの上には、サンドイッチの詰まったバスケット。
「リナリア、シートに座って！」
「こう……？」
　サンドイッチを食べるのも、水筒でお茶を飲むのも見よう見真似。たまごサンドを頬張ると、不思議と幸せで頬が緩む。
「うんうん、やっぱりピクニックは最高だよね！」

　願わくば、このひと時を２人だけの物に。少女の願いを聞くと、ヒナゲシは緩く首を振った。
「うーん……それは約束できないな！
　何故なら私にはこの依頼の報告義務があるからね！
　リナリアちゃんという素晴らしい娘との出会いがあったってね！」
　代わりに、と俯いた少女の手を取る。
「忘れるなんてしない。絶対覚えてる……こっちは約束するよ」

　外に出られたら、セキトに乗って本物の草原を散歩しよう。ヒナゲシの申し出に、少女は嬉しそうに頬を緩め、新たな話を切り出した。
「ヒナゲシ、実はねーー」

成否

成功

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第2章 第11節

「ところで、誰を派遣したんだァ？」
「ボーンよ。彼なら荒事も繊細な事も対応出来るもの」
「相変わらず骨使いが荒いな」
「あら、獅子は愛する者を谷底に突き落とすのでしょう？」

　それは親子の話である。

　ロベリア達がそんな話をしているとも知らず、噂の主はというと、
「カッカッカッ！　ロべリアちゃんが心配してくれてたら嬉しいけど……これからどうしようか」
　と楽天的なものだった。少女の不思議な力を知れば、彼女の目線に合わせようと膝を屈める。
「何でも出せるのかい？　……逆に聞くがリナリアちゃんは何を出してみたい？
　君が出してみたいものがあるならそれを出してみるのが君の幸せに繋がると骨野郎は思う訳だ」
　かくん。少女は首を傾げる。欲を知るにはあまりにも無垢な存在だ。
「……と言っても早々答えなんて出ないか…よし、一つ頼みがある」

　そして現れたのは、リナリアの花束。

「リナリアちゃん、君の由来になった美しい花を君に捧げよう。
　君との出会いに感謝を」

　リアリアの花言葉は"この恋に気づいて"
「……いつか君にそう思える出会いがある事を祈ろう」
　真っすぐな思いに、リナリアは小さく唇を噛む。
(私が好きなのはーー)
　本当に伝えたい気持ちが言い出せないままに望んだ約束さえも、ボーンは優しく受け止める。
「君が望むなら俺はそれを約束しよう
　レディーとの約束を守るのが紳士だからな！」
　手の甲に落とされたキスに、少女は瞳を潤ませた。

成否

成功