PandoraPartyProject

シナリオ詳細

鮮明なる無色透明

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 僅かに不機嫌そうに眉を寄せたイルス・フォル・リエーネは大樹ファルカウの麓に位置するアンテローゼ大聖堂でにんまりと微笑んでいた魔女フランツェル・ロア・ヘクセンハウスに大仰なため息を吐いた。
「呼び出すとは何事だい?」
「やだわ、知ってるくせに」
 鮮やかな若葉の髪を揺らしたイルスは僅かにフランツェルに視線をやってからやれやれと肩を竦める。練達を拠点に研究に励む長命の青年はこの魔女とも長い付き合いになってきた。だからこそ、こうした物言いでも『何が言いたいのか位の見当はついてしまう』のだ。知らないとそっぽを向きたくもあるが――一応は弟子の事もある。魔女を無碍に扱えばそちらに「貴女の師匠ったら酷いのよ! 私、あんなの初めてだわ!」と言われもない情報を流されかねない上に魔種の情報の入手も難しくなる。イルスは「本題を」と端的に切り出した。
「『妖精伝承』(フェアリーテイル)位聞いたことがあるでしょう?
 妖精郷の門(アーカンシェル)より姿を見せる妖精のお伽噺。まあ、実在してることは――貴方の事だから情報位、手に入れてるでしょうけれど」
「それで?」
「魔種が絡んでるわね。ええ、間違いないわ。アーカンシェルから現れたストレリチアの一見の後、アーカンシェルを破壊する魔種を観測したのだけれど、彼女と同じ『ルート』だわ」
 フランツェルのその言葉にイルスは「『おっさん』だったか」と魔種ブルーベルの言葉を借りた。
 曰く――『おっさんの手伝いをしている』と堂々と言った翼の魔種の少女、ブルーベル。その表現より『男性』の『魔種』が魔物を嗾けアーカンシェルの破壊に回っている事が推測されていた……が、それも頻発するようになってきたらしい。
「ええ、それで……『アーカンシェル』の方は別の『友人』に頼んだのだけれどね。
 だって、貴方ったら練達から呼び出したのにすぐに来てくれないんだもの。待ちくたびれたわ」
「何を言っているんだか。しっかりと帰省がてらフィールドワークを題して来ただろう?」
 イルスの言葉に今度は肩を竦めたのはフランツェルであった。研究者でありながらアウトドア派である彼はフィールドワークと称して様々な足止めを喰らってきたのだろう。
「たよってだいじょうぶなのかしら」
 おそるおそると、フランツェルの傍より顔を出したのは小さな精霊種――妖精である。
「彼女が?」
「ええ。妖精郷アルヴィオンの良き隣人であるナンジャ――」
「チオナンサスよ!」
 拗ねた調子で叫んだ少女は「チオと呼んで頂戴」とイルスを振り向いた。
「あのね、フランのところにくるまえにアーカンシェルをこわすワルイやつがいたわ!」
「友人とアーカンシェルより出た所に魔種と魔物と遭遇して、アーカンシェルを破壊されるのに巻き込まれないように逃げたそう。
 その時に、友人と逸れてしまって、魔種が『あいつも殺しとけばー?』と言っていたから私を頼ってくれたみたいなのよね」
 フランツェルがチオナンサスに代わって説明したその言葉にイルスは唸った。
 魔種らがアーカンシェルを破壊する目的の全容は見えないが興味深くはある。しかし、到着が遅かったとフランツェルが言ったところを見るに――

「その友人を、探せと?」

「ご明察」
 頷くフランツェルに貧乏くじだとイルスは唸った。魔種に関しては『別の友人』にお願い済みなのだそうだが、森のどこかに逃げた友人を探すのは地の利がある幻想種がいた方がいいという判断なのだろう。
「私はストレリチアと面識がある以上、ここを頼る妖精も多いわ。なら、アンテローゼ大聖堂から離れられないし……フィールドワークを兼ねてくれそうな研究者がいるもの」
「……」
「貴方ならいざとなればチオナンサスと友人を守ることは出来るでしょうし?
 それから、ローレットにもお手伝いはお願いしたわ。探し物なら手が多いほうが良いもの」
 にっこりと笑った魔女にイルスは「分かった」と小さく呟いた。
 さて、友人ジューンベリーへと嗾けられた魔物についても詳しく聞きたいとチオナンサスを振り返ったイルスは聞いたことを後悔した。

「なんだか、むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしてるこわいやつだわ!」

 ――成程、分からん。

GMコメント

 妖精さんを助けてくださいね。

●成功条件
 ・チオナンサスの友人『ジューンベリー』の救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●チオナンサス
 小さな精霊種。妖精郷の住民。便宜上、妖精と称します。
 白髪の愛らしい少女です。友人の間では『ナンジャモンジャ』とあだ名され、憤っています。
 アーカンシェルを襲う魔種&魔物より逃れた際に友人、ジューンベリーと逸れてしまったそうです。

●イルス・フォル・リエーネ
 練達に居を構える幻想種。研究者。研究の都合で練達を拠点としているだけだそうです。フィールドワークはお得意、非常に長命で神秘に長けますが「老人かつ、研究者に前線を任せるものではない」と苦言を漏らしていました。
 フランツェルとは旧知の仲ですが面倒ごとを押し付ける女程度に思ってます。アレクシアさん(押しかけ弟子)の師匠。

●迷宮森林
 案内人としてイルスが同行。心配だからとチオナンサスも同行中です(チオナンサスについてはイルスが護衛します)
 かなり奥まった場所に進まねばならず、逸れないように注意してください。古代迷宮などが周辺には存在しているようです。
 捜索スキルがあればジューンベリー発見までの時間は短縮されるでしょう。また、索敵なども大いに役立ちます。

●むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしてるこわいやつ
 ジューンベリーへと『魔種』が「あいつころそ」と嗾けたらしい魔物です。
 イルス曰く「スライム」またはそれに類するような人工生物ではないかという事です。
 かなりの数が嗾けられているようなので注意が必要です……。

●魔種??
 むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしてるこわいやつを嗾けた魔種です。
 チオナンサス曰く「やべー、砂漠になりそうだし妖精殺すかー」とのことなので、どこかでイレギュラーズと出会ったことある魔種の仕業かもしれませんね……?

●ジューンベリー
 (※チオナンサス的には情報精度Aです。分かって。)
 ちいさい。かわいい。髪の毛あかっぽい。わたしのともだち。

 かわいい妖精さんが大変だ!
 よろしくおねがいします。

  • 鮮明なる無色透明完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

リプレイ


 美しき木々のハーモニーを聞きながら、澄んだ空気を目一杯、肺にまで送り込んだ『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736) は「のんびりと観光を楽しみたかった」と雄大なる迷宮森林を眺める。
「こんな事態じゃなければ、だけれどね」
 マルベートが目配せを送ったのはイルス・フォル・リエーネの肩に捕まったチオナンサスだ。白髪を揺らした彼女は「そう、とってもたいへんなの、ジューンベリーもふあんだとおもうわ!」と声高に言った。どうやら、ジューンベリーと言う友達が『迷子』なのだ。それを聞いて『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)はうんうんと頷く。
「友達思いのいい妖精じゃねぇか! 力になってやらねえとな!
 むしょくでぐにぐにで、ぐにゃーんってしてる奴に食われる? 前に何とかしてやるぜ!」
「ええ!? むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしてるこわいやつってジューンベリーをたべちゃうの!?」
 ルウの言葉に驚愕して見せたチオナンサス。その言葉に「わ、わからない」と『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が首を振れば『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は小さく笑う。
「むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしてる、えーっと……。
 何だか怖いのがウロウロしてるところに取り残されてたら不安だろうし、早く見つけて助け出してあげないとね!」
「そ、そうだね。無色でぐにぐに……なるほど、わからない!
 でも友達が危険なのはわかったし、急いで助けに行かなきゃね。一人で心細い思いをしているかもしれないしね」
 成程、分からん状態ではあるがジューンベリーが不安なのは確かだと焔が頷き、スティアも頑張ろうとやる気を漲らせる。
 前を靭やかに進む猫の尾が揺れるたびにチオナンサスの体が揺れている。『特異運命座標』シルキィ(p3p008115)はくすりと口もおtに笑みを浮かべてから、目を細めた。
「逸れちゃったお友達、心配だよねぇ……。
 ……大丈夫。一刻も早く見つけ出せるよう、全力を尽くすからねぇ」
「そうしてほしいの!」
「ああ、きっと心細いだろう。早く見つけてやらないとな。
 ジューンベリーさんに声をかける時はチオナンサスさんにも手伝ってほしい」
 自分たちは彼女からすれば『見知らぬ存在』で『無色でぐにぐにで(以下略)』と大差はない存在だという事を踏まえての配慮なのだろう。『脚癖が悪い暴風バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の言葉にチオナンサスは「まかせてちょーだい!」と頷いた。
(なんか、明るく元気だし、話は要領得ないし……まあ、でも困ってるのは確かなんだろうな)
『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は「チオも頑張ろう」と頷く。
「今もまだ魔物や魔種がうろついてないとも限らない。できるだけ戦闘は避けて速やかに見つけて帰らないとだ」
「ま、まもの!? こわいわ!」
 だから急ぐのだと精霊たちに声をかけつつ植物の力を借りるルフナ。チオナンサスの要領の得ない説明を聞きながら進む一行の中で、どこか居心地の悪そうなイルスは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)とは目を合わせないようにしていた。もの言いたげな『押しかけ弟子』は頬を膨らませ、「師匠」とそのローブの裾をちょいと摘まむ。
「師匠、フランさんと知り合いだったの!? なんで教えてくれなかったのー!
 そうと知ってれば色んな話を聞いたのに! 後でお話聞かせてね!」
「……だから言いたくないんだろう」
「え?」
 小声でそう言ったイルスにアレクシアが首を傾ぐ。どうにも、弟子の勢いには負けてしまう所があるのだ。イルスはため息を吐いてから「行こう」と一行を促した。


「暴れられないのが残念だがしょうがねえな! どうしても避けられない場合は最低限の奴だけ倒して突っ切る感じだろ。ジューンベリーの一大事に我儘は言ってられないな!」
 ルウの言葉にチオナンサスは「たたかいたいの?」と首を傾ぐ。どうやら外界(ほか)とはあまり交流がないのだろう。彼女の不思議そうなその声音ルウはくすくすと笑う。
「おっと、前に出すぎるなよ? 守れなくなるだろ!」
「まもってくれるのね? うれしい!」
 愛らしい妖精――そう称するのは彼女らの姿が御伽噺に存在する妖精と酷似し、彼女らもそうだと自称したからだ――にルウは小さく笑う。
 精霊種たるチオナンサスはジューンベリーの事を『いちごみたいにおいしいにおいがするの』とマルベートへと告げた。
「なら、チオナンサスは花の香なのだろうか?」
「そう!」
 くすりと笑って、研ぎ澄まされた嗅覚を武器にマルベートはぐんぐんと進んでいく。『普通の動物があげないような異音――そう、這いずる音はイルスが推測するスライム状の敵を発見するのにも有用な敵の痕跡だろう。
「ねえ、チオさん。ジューンベリーさんについて詳しく教えてもらっていい? いちごみたいにいいにおいがするのは分かったんだけど……」
「ええっとね、かみがあかくって、わたしくらいちいさいのよ! それから、かわいいおんなのこなの!」
(ががーん)
 成程、分からなかった。スティアは「う、うん、そっか」と曖昧な笑顔を浮かべるだけである。正直なことを言えば、もう少し具体的なジューンベリーの情報が欲しい所ではあるがストレリチアと呼ばれた少女も情報精度は『ぐにゃんぐにゃん』だったと言う。のんびり気質の妖精たちが多いのだろうか。
「んー……でもどうして殺す必要があったんだろう?
 何か見られたらダメなものとかがあったり、いたりしたのかなぁ」
「めんどくさいっていってたよ!」
 面倒だというならば見過ごせばいいのに、とスティアはぼやいた。怠惰であろう魔種の性格は分かり易いに程があるがその目的についてはまだまだ不明な部分が多いのが実情だ。
「それじゃ、チオ。逃げてくるときに何か目印になるような所を通ったりは?
 その……『イチゴのかおりがする』だけじゃなく、場所についても教えて欲しい」
 ルフナは迷宮森林である以上、あまり宛にならないかもしれないけれど、と会話を続ける。仕事で訪れて居るルフナとは違いチオナンサスやジューンベリーは遊びに来た所を魔種と『よくわからないモンスター』に襲われている現状なのだ。話せば気が紛れるかもしれない、と。気を使った彼の言葉に「おおきないわがあったの」と首を傾げてそう言った。
「岩? 師匠、この辺に大きな岩ってあるかな。チオナンサス君からすると、全部大きな岩かもしれないけど……」
「アレクシア、見た事はあるだろうけれど……西の遺跡の入り口かもしれないな」
 西の遺跡とアレクシアは小さく呟いた。迷宮森林には太古――その歴史を紐解くのは難しいだろう――より様々な『遺物』が眠っている。その一つたる古代遺跡をチオナンサスとジューンベリーは見た、もしくは通ったのだろう。
「遺跡の中にジューンベリー君が逃げたりは……?」
「しないわ! こわがりだもの!」
 それは信頼に値する言葉であった。アレクシアは「じゃあ、外の明るい場所かな」と周囲を見回すが深い緑に包まれたそれはどうにも『明るい場所』を見つけ辛い。
「えっと、小さくて可愛い赤い髪の子、みたいなんだけど……知らない?」
 精霊たちと会話をしながら、焔は「見てないわ」と返されるその言葉に「この辺は通ってないのかな」と小さくぼやいた。『小さくてかわいくて赤い髪のいちごの匂いのする女の子』を探していると告げたそれは精霊たちの間にも伝わっていく。前方を探すシルキィの猫と分担し、後方で見逃しがないかをチェックする神使からは何も情報はなさそうだ。
「もしも――自分が『小さな迷子の妖精』なら……」
 そう推理したのはモカ。安心できるような場所と言えば木の洞や小さな窪みではないかとそのあたりもくまなく探し続ける。その憶測は正解だったのだろう。
 どこからかずるりと這いずる音がした事に気づいたマルベートが顔を上げる。モカが確認をしていない木の洞を発見し、ルフナと焔に精霊たちからの目撃情報が上がってくる。
(そこか……)
 ジューンベリーを探し求めているのは相手も同じなのだろう。ずるりと姿を見せたのは、まさしく――『むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしてるこわいやつ』なのであった。


「ごきげんよう。あなたがジューンベリーさんかな? チオナンサスさんに頼まれて、あなたを探していた」
 木の洞を覗き込み、柔らかに声をかけたモカに赤い髪をした妖精が不安げに頷く。彼が求めた協力はチオナンサスにもジューンベリーの保護を手伝ってほしいというものだ。悠長に話している暇はないと困り顔のモカが振り向けば、『むしょくで、ぐにぐにで、ぐにゃーんってしているこわいやつ』がそこには存在している。
「スライムか? わけわかんねーが、わかる気もしないな」
 ルウがそう呟けばマルベートは興味深いと小さく呟いた。曰く、それは通常の生物として生れ落ちるものではないらしい。人工物であるというならば人為的な思惑の許生み出されたのだろうが――
「……しかしこの『ぐにぐに』、単純にどんな生き物なのか興味を惹かれるんだよね。ジューンベリーを保護できたんだ。つまみ食いくらいはね?」
 被りつかんと、その距離を詰める。イルスはスライムがそれを待つようなしぐさを見せた事に気づき不思議そうに眉を寄せた。
(わざわざ見に行けと言ったのは『こういう事』か。魔女……)
 成程、そうする事で何かを摂取しているのだろう。その様子を見れただけでも僥倖か。それが『これを嗾けた魔種』の目論見であるかは分からないが、人為的生物である以上『何かの目的下』で動いていることは分かる。
「何だか『ぐにぐに』と嗾けた人は目的が違う気がするなあ……」
 何となくだけど、と呟いたスティアにアレクシアは頷いた。「きっと、『ぐにぐに』はジューンベリー君達を殺すまでは目的じゃないのかもしれないね?」と首を傾いだままのアレクシアにイルスは「いい線を言っている」と小さく呟いた。
「――! 偶には師匠に良いトコ見せないとね?」
「ふふ、そうだね。それじゃ、簡単には返してくれないスライムを倒さなくっちゃ!」
 えいえいおーとやる気を見せるスティアにアレクシアは頷く。モカが援護しながら木の洞より降り立ったジューンベリー。チオナンサスはジューンベリーを庇う様に後退し、ルフナは「前に出ないでよね」とそっぽを向いた。
「チオちゃんが言ったとおりだねぇ……ぷるぷるしてる」
 首を傾いだシルキィは足元でにゃんと一声発した猫にお礼を一つ、ゆっくりと顔を上げ、指先より糸を手繰る。指先より巡る糸は『ぷるん』とスライムを絡めとるがどうにもその外見から効果があるのか見て取れないのが面白い。
「ねえ、あれって、いたいのかしら?」
「うーん……どうかなぁ……。きっと痛いとは思うけどねぇ」
 シルキィは「言葉も話さないから」とスライムをまじまじと見遣った。チオナンサスの無邪気な問いかけを聞きながら背後で使える神使に『背後より別の敵襲がないように』と気を配った焔。
(『ぐにぐに』に行ってらっしゃいした魔種が居るかもしれないけど……フランツェルさんの言い方なら別の人たちが追ってるんだよね?)
 ならば、きっと大丈夫だと僅かな安心を感じながら、チオナンサスとジューンベリーの護衛として周囲に気を配るイルスへと「あとでたっぷりお話ししたいことがあるので!」とジョークを交える。
「魔女の話を?」
「ううん、アレクシアちゃんの話かな?」
 押しかけ弟子の話、と首を傾いだ師にアレクシアが「ええ!?」と慌てたように焔を振り返るが飛んできたのはスライムの触腕だ。
「腕まで伸ばせるの!? 人為的な生物ってすごいね?」
「ああ、しかし――死すべき定めはそこに迫っているだろうに」
 マルベートが小さく笑えば、前線へと飛び込んだルウがスライムの腕を斬り落とす。べちゃりと音を立てたソレが僅かに動いたのを見逃さずモカがぷちりと潰してゆく。
「へえ、『斬り落としても動く』のか。面白い!」
 小さく笑ったルウにモカは「人為的、というのは厄介だ」と小さく呟いた。
 スライム自体はそれほどまでに脅威ではないのだろう。癒すスティアの隣で「別に僕が回復しなくてもよさそうだよね」と唇を尖らせながらも癒しの手を止めないルフナがちら、と動き回るスライムを目で追いかける。
「ああやって、頭もなく動いてるのって気持ち悪いね」
「ああ、それに――味は最悪だったな」
 無味無臭とはまさにこのことと、ぷちりとルウに潰されたスライムを眺めてからマルベートは口内が切れている感覚に瞬く。
(さっき、『味見』したときに……?)
 視界の端に逃げおおせるスライムの姿が入る。それをじいと見た後にマルベートは『喰らって』も断片で動くのだから始末に置けないとぼやき――イルスは「成程」と呟くのだった


「で、師匠。フランさんとのお話を……」
「あ、それよりアレクシアちゃんの昔話を聞かせてもらいたいかも!?」
 アレクシアの隣でにまりと笑った焔にイルスはちら、と二人を見遣る。その視線にアレクシアは「ええっと!?」と慌てたような顔を見せ、焔は「フランツェルちゃんの話もセットでもいいよ?」とくすくすと笑う。
「さ、スープを作った。迷子になって心細かっただろう? ゆっくり落ち着いてくれればうれしい」
 モカが魔力コンロを使用して作成したのは野草やきのこなどイルスに確認して食用のものを使用した暖かな具沢山スープだった。それを見て「おいしそうね!」と笑うチオナンサスにジューンベリーは「頂いても良いの?」と不安げな顔をしてそっとモカに伺ってくる。
「勿論。今度は手を繋いで逃げるようにしてくれ」
 彼の言葉に二人は頷いて、暖かなスープを口に含む。妖精たちの無事を確認したイルスはため息を混じらせ、ふと、空を見上げた。
「魔種か――不穏なことが起こらなければいいが……」
 吹いた暖かな春の風に目を細めたルフナは彼の言葉を聞いて何か不思議な予感を感じた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 とってもたいへんだったとおもうのです!むしょくで、ぐにぐにしてるのって、どうしてこわいんだろう!(チオナンサス感)

 また、お会いしましょうね。

PAGETOPPAGEBOTTOM