PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蒼色世界の水底へ

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヒュド・リュトン
 一人の男が、目を細め頭上の光を仰ぎ見ている。
 頭上から射す光はゆらゆらと蒼く揺れて、遠い記憶を呼び起こす。

 小さな頃、どこまで行けばあの『太陽』に届くのかと、たった一度だけ試したことがあった。
 地面を蹴って、空を『泳いで』、家も学校も街の広場も見渡して、海の灯台も小さく見えるまで高く『泳ぐ』――それでも、届かなかった。
 段々と灯りが小さくなって、夜になって。
 疲れ果てて地面へと沈んで、帰りを心配した両親にこっぴどく叱られたっけ。
 そんな思い出も、今となっては懐かしく微笑ましい話だけれど。
 
「よし、と」
 手に持った袋を点検し、穴が開いていないことを確認する。
 目の前に広がる『海』は、どこまでも広がり――ふよふよと漂う魚達(えもの)が、少し先に見える。
「いっちょ、獲るとするか!」
 そうして地面を蹴れば、羽もないのに男の身体はふわりと浮かび。
 両手でひと掻きしぐんと進むと、事も無げに魚を掴み、袋に入れていく。
 今日もきっと――この海も、空も。泳ぐのには最高だ!


●蒼の世界へ
 その日、集まった特異運命座標に案内人のシーニィ・ズィーニィが差し出したのは一冊の大きな本。
 ブルーの表紙に金色で書かれていた文字は見慣れないものであったが、『崩れないバベル』が作用すればその意味が頭に浮かぶ。
「ヒュド・リュトン?」
 誰かが読み上げたそれに、シーニィは「そう」と頷き、開いてみてと促す。
 促されるまま本を開いて目に飛び込んだのは、真っ青な街。
 幻想の街並みを描いた絵を、そのまま青く塗りつぶしたような。それでいて、どこか引っかかる違和感は一体。
「この世界はね、水で満たされているの」
 シーニィの言葉に、その街を眺めてみれば――描かれている人々が、まるで宙に浮いているではないか。
「私の故郷よ。平和な所だし、息抜きにでもどう?」

 ――不思議な蒼の世界へ、飛び込んでみない?

NMコメント

 飯酒盃おさけです。
 ライブノベルでもラリー開始!
 私自身初めての形になりますが、どうぞよろしくお願い致します。

●目標
 楽しく遊ぶ。

●舞台
<ヒュド・リュトン>と呼ばれる世界のとある街。
 レンガ造りの家が立ち並び、街路樹や石畳が広がり一見すると見慣れた幻想の街の雰囲気ですが――その空まで全てが水で覆いつくされ、全体が淡い蒼に染まっています。
 遥か頭上に輝く光は『太陽』と呼ばれ昼と夜を作り上げていますが、誰もそこまで辿り着けた人はいません。

●特殊ルール
 この世界では、地面を歩くのと同じように、宙を『泳ぐ』ことができます。
 地面を蹴れば、ふわりと身体は浮き上がります。泳げない人は、少し怖いかもしれませんね。
 世界を埋め尽くす水は、呼吸にも支障はありません。飲んでも安全。
 普段の服のままでも、水着でも構いませんが全裸はダメ絶対。

●第一章
『海』で泳ぶ。
 砂漠が広がっているように見えますが、この世界の人々は海と呼んでおり、色鮮やかな魚達もいます。
 時折風が波のようにやって来れば、あなたの身体を揺らすでしょう。
 ゆらゆらと浮かんで遊ぶもよし、海洋での戦いに向けて泳ぎの練習をするもよし、魚を捕まえてみるもよし。

●第二章(予定)
 カフェで一息。
 遊び疲れたら、蒼い光の射すカフェで一息つきましょう。
 水と混ざり合わない不思議なソーダに、何故か丸く浮かぶ珈琲に。
 貝殻型のマドレーヌに、魚介たっぷりのパスタやピザも絶品です。

●第三章(予定)
<ヒュド・リュトン>を散策します。
 買い物をしたり、街を泳いで一望したり、どこまでも高く泳いでみたり。
 もう一度海に行ったり、カフェで長居することも可能です。

●NPC
・シーニィ・ズィーニィ
 この世界の出身です。案内がてら近場をふらついています。
 泳ぎやすいから、とあの服装のようです。
 お声がけ頂けた場合のみ登場します。

●ラリーシナリオについて
・概ね各章6~10名前後の執筆予定です。
 募集中人数が上記を超えていても、次章に移るまでは積極的に執筆していきますので、お気軽にどうぞ!

・途中章からの参加も歓迎です。
 ふらっと遊びに来てみてくださいね。

・数人まとめての描写になる可能性があります。
 ソロ希望の方はソロと、同行者がいる方は【】やID等記載してください。

 それでは、ご参加お待ちしております。

  • 蒼色世界の水底へ完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月06日 20時50分
  • 章数3章
  • 総採用数41人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

「満足、って顔してるわね?」
 喫茶店を出ようとするイレギュラーズに、案内人のシーニィが声をかける。
 ひとしきり遊んで、休憩してお腹も膨れて。
 混沌へと帰るまで、あと少し時間があるようだ。
「後は自由時間だから、好きに過ごしてちょうだいな。私もその辺をぶらついているから」
 街を散策するもよし、店に寄るもよし。
 公園に行けば、きっと子供たちが遊んでいるだろう。
 もう一度海に戻っても、もう少しカフェで長居をしてもいい。
 さて、この蒼の世界で残り少しの休息時間。
 どうしようか――?


●第三章
 蒼の世界<ヒュド・リュトン>を散策します。

●出来ること
・雑貨店で買い物
 色とりどりの貝や珊瑚を使ったアクセサリーや、砂時計が置いてあります。
 希望すれば、店主のお婆さんが、水難除けの『おまじない』を掛けてくれます。お土産にどうぞ。
 
・公園で遊ぶ
 子どもたちがサッカーをし、老夫婦が犬の散歩をしています。
 ベンチに座って眺めてみたり、話しかけてみたり。
 水中を自在に使ったサッカーに混ざってみるのもよいでしょう。

・街を散策
 幻想王都によく似た、西洋の煉瓦造りの街並みを散策出来ます。
 歩いても、泳いでも。
 商店が立ち並んだり、教会があったり、街にありそうなものはなんでもあります。
 水の中の〇〇に行ってみたい、を自由にどうぞ。

・第一章の『海』、第二章のカフェで過ごすことも可能です。

 第三章からの参加も歓迎です。
 プレイングでそれまでの章に触れる必要はありません、お気軽にどうぞ。
 それでは、ご参加お待ちしております。


第3章 第2節

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣

「ボクたちの絆に乾杯!」
「乾杯――ふふ、もう何度目かな?」
「いち、にー、さん……わかんないや!」
『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)マルベートの問いに、へにゃりと微笑む『雷虎』ソア(p3p007025)。
「ぷはぁ、お魚もクジラもワインも美味しかったあ!」
「うん、どれもこれも素晴らしい品だった」
 ソファーに深く背を預け、満面の笑みでお腹を擦るソア。マルベートのように優雅に――と食べ始めたものの、どんどんやってくる食べ物に気付けばかぶり付いていて。そんな彼女の口元には、ステーキのソースが付いている。
「おやおや、ソースが付いたままだよ?」
 マルベートが腕を伸ばし、ナプキンでソアの口元を拭うと、ソアはえへへと罰が悪そうに微笑み――ぽふん、と手のひらを合わせた。
「マルベートさん、そろそろデザートにしない?」
 ご馳走の後に待っているものといえば、デザートだもの! とはしゃぐソアの姿は、まだまだお腹に余裕がある証拠。
「いいね。折角素敵な世界の喫茶店なんだし、魚料理だけで終わるのは勿体ない。甘いものは数あれど『デザート』こそ人の技術の結晶だよね――食事の最後を美しく甘美に彩ってくれるんだ」
「うん、食後のデザート、これは人間のルールだもんね!」
 マルベート自身もまだ『食べ足りず』――きっと目の前の彼女も、知恵と技巧を尽くしたケーキにパフェを気に入るだろう、とその誘いに乗り、二人メニューを覗き込む。
「何がいいかなー、ワインがあるなら果物も……あった、フルーツパフェ! でもシュークリームも、モンブランも……むむむ……選びきれないよう!」
「全部頼んでしまえばいいよ、私達なら食べられるだろう? ああ、勿論極甘口のデザートワインもね」
 そうして気付けば、テーブルの上は色鮮やかな宝石箱の様相。
 ソアはほう、と溜息をつき――気付く。
(あっ……でも食べすぎはエレガント? そういうのと違っちゃうのかな?)
 今日のテーマは優雅に、エレガントに。これではマルべートのには程遠く――けれど、目の前には「食べて」とこちらを見てくるスイーツが!
「うう……いただきまーす!」
 けれどこの誘惑に勝てるはずもなく。パフェの頭頂部、ソフトクリームを一口。
「――っ! おいしい!」
 冷たさに目を見開いた一瞬の後、ソアに笑みが零れ――あれもこれも、と食べ進める。
(本当に、全く純粋で善良な愛らしい獣だね)
 黄金色の貴腐ワインで喉を潤すマルベートは、無邪気に甘味と戯れるソアをじっと見つめ――
 彼女にも、自分のように「色んな物」の味を覚えて欲しいような、そのままで居て欲しいような不思議な気持ちがして。
(……もし私と同じような道を選んでくれるなら)
それは、なんて素敵だろうか。
「ふふっ、酔いが回ってしまったかな。後で宿でも探そうね」
「やど! 水の中のベッドで寝てみたい!」
 虎と狼の――甘く、暴食な宴は続く。

成否

成功


第3章 第3節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
沁入 礼拝(p3p005251)
足女

『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)と『足女』沁入 礼拝(p3p005251)は、喫茶店でのひと時を終え、街の外れの公園を訪れる。
 公園では、子供たちが自在に水中を泳ぎボールを蹴り遊んでおり――その片隅にあるベンチに、どちらからともなく腰を下ろす。
「しかし、あの喫茶店は不思議で楽しかったな」
「えぇ、ジョセフ様がソーダの色を教えてくれなくて私はとっても大変でしたけれど」
 先の戯れに不満を口にする礼拝は、言葉とは裏腹に、むしろ楽しむような声色で。
「はは、考えに耽る礼拝殿の表情はとても素敵だったよ!」
 ジョセフも同様に、鉄仮面の下で声を弾ませる。
 子供たちの笑い声が響く空間は至極穏やかで――双方の口からは、他愛もない言葉だけが交わされる。
「ふふ、子供は元気でいいよな。疲れるという事を知らない」
「本当に、底なしですね」
「そうだ、礼拝殿は疲れてはいないかな? ほら、こうしてのんびり過ごしていると眠くなってしまう……」
 ジョセフの声はどこか丸みを帯び――礼拝はその意図に気付き、自身の膝をぽんぽんと叩いて見せる。
「ふふふ、お休みになるなら私の膝を使ってくださいませ」
「……膝枕? 重くはないかな?」
「まぁ! ジョセフ様の頭を乗せたくらいでは、私の足はつぶれたりしませんのよ?」
 小花柄のスカートの下に隠れるその二本の脚を撫で上げ、礼拝が笑えば――ジョセフは「そうか」とだけ告げゆっくりと、そこに頭を預ける。
「ふふっ、照れ臭いが心安らぐな」
 礼拝の腹部へと顔を倒し横になれば、まるで己が胎児になったかのようで。
「……今日は楽しい事がいっぱいありましたね」
 仮面を撫でるその手が心地好く、ジョセフの瞼はゆっくりと閉じ――

「――あら」
「此れは何だ」

 聞き馴染みのある愛しい声に、意識が再び呼び戻された。

 ――整理しよう。何故私が此処に貌を晒したか。
『にんげん』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は眼前の光景に、思考を張り巡らせようとして――その気を無くす。
 甘味を堪能し、愛する者への土産を手に――ふと嫌な予感を覚え辿り着いたのだ。
 まるで、己より遥か上位に在る存在の戯れに導かれるが如く。
 そうして引き寄せられた先で見た光景に――手の内の包みを落とす。
 この貌に目玉など存在しないが、この理解し難い――否、理解したくもない『物語』は何だ。
「――貴様等は何処まで運命に手繰られれば気が済むのか」
 小さく呟けば、吐き気が込み上げてきて――糞、と憎悪が漏れる。
 愛する者の楽しげな表情は、宝珠が代わりに埋め込まれた『心臓』に突き刺さり。
 グロテスクな『脚』は心地良いのか、愛する者よ!

「……やあ! やあやあ! オラボナじゃあないか!」
 オラボナの声に飛び起きたジョセフは、弾んだ声で彼女の名を呼ぶ。
 礼拝は漆黒の『彼女』の表情を想像して――背筋に走る快感に、小さく身震いする。
(ああ、いけない。笑ってしまう)
『逆』なのだ。普段ならここは彼女の場所だから。けれど、今ここにいるのは私で。
(そんなの倒錯的で無様で『グロテスク』でしょう?)
 女たちの心など露知らず、男は出来過ぎた偶然に喜びを露にし。
「まさか僕が愛する人とこんな所で会えるとは、嬉しい偶然だ! 大好きな礼拝殿と、愛するオラボナが揃って僕はうれしい!
 なあオラボナ。今日はこんな景色を見たんだよ。泳いで、泳いで、天まで昇って。ああ、もし君があんな風に陽光に照らされ水中を漂ったら……断言する。筆舌に尽くしがたい美しさだ!」
 興奮して声を上ずらせるジョセフに、女たちは溜息をつき。
(……ジョセフ様ったら。私傷ついてしまうではないですか。教えてあげませんけれど)
 礼拝は立ち上がり、オラボナの元へと歩き――先程までジョセフを包んでいたその膝を折り、彼女が落とした包みを拾う。付着した泥を叩いてオラボナへと返し――どうせ、と小さく呟き。
「誰かへの贈り物なんでしょう?」
 聞こえるように告げ、にっこりと微笑んだ。

――耐えろ。耐えて耐えてけれど絶えるな。呑み込むのだ。吐き出しそうなソレを。呑み込め。己の非力さが呪わしい。殺す為の能力がないことが。ホイップクリームの剣では、何も切れやしないのだ!
――Nyahahaha……整理しよう。もう一度、整理を。整理――

 子どもたちの声が響く穏やかな空間で――男と女と女が、向き合っていた。

成否

成功


第3章 第4節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は、カフェを出て街へと歩き出す。
「水の中の街でデートなんて初めてだな」
「ああ、雰囲気も良くてデートも捗りそうだ」
 揺れる光を受けた街並みは、見慣れた幻想とよく似て――けれど、幻想的で情緒に溢れている。幾度ものデートを重ね仲を深め、こうして夫婦の契りを交わした二人とて、水中の街を共に行くなど初めての体験だった。
「少し街を歩いて……いや、泳ごうか!」
 次は一緒に泳ごう、と約束していたのを思い出すと、リゲルはポテトの前で跪き、恭しく手をポテトに差し伸べ。
「お姫様、俺がエスコートしましょう」
「はは、それじゃあ王子様にお願いしようかな」
 ポテトが微笑んで手を伸ばせば、二人は繋ぎ合った手に力を込め――とん、と地面を蹴り水中へと泳ぎ出した。
「ポテト、怖くないかい? 怖かったら俺に捕まっているんだぞ」
「ん、大丈夫だ……ほらリゲル、あそこの壁、すごく綺麗だ」
 街の上を泳ぐ最中、ポテトが指し示したのは真白い教会の壁。ゆらゆらと揺れる光がその壁に当たって、青と白の模様を作り、くるくると表情を変えて。
「本当だ、不思議で見ていたくなるな」
「見飽きないし、それにこの景色もとっても新鮮だ」
 眼下に広がる街では、人々が水中を歩き、時には泳いでいる。
「こんなにわくわくする景色をリゲルと一緒に見れて嬉しい!」
 ポテトが彼の両手を握れば――その微笑みを受けて、リゲルの蒼い瞳もきゅっと細められた。

「すごいな、これはどうやって作っているんだ……?」
 商店に並ぶ雑貨を一つ一つ手に取り、じっくりと眺めるポテト。
 彼女に気付かれないよう買い物を終えたリゲルがポテトを眺めると、その髪は、ふわりと浮かびまるでマーメイドのよう。
 普段とは違うその魅力を目に、リゲルは愛おしさで頬を撫でる。
「ん――どうしたリゲル、くすぐったい」
 振り向いたポテトの目に映る銀の髪は、揺れる光を浴び普段よりずっときらきらと光っていて――
「海の中の魔法だな」
 普段から輝いている素敵な旦那様の、魔法にかけられた姿は――とても美しかった。
「はは、なんだいそれは? なぁポテト、ちょっと」
 見とれていた事を見透かされたのだろうか、と触れられた頬に熱が籠る。
「これ、似会うと思ったんだ」
 リゲルはいつの間にか、この世界と――そしてリゲルの瞳と同じ蒼い石の髪飾りを見繕っており。それをポテトへと飾り、鏡に向かわせる。
「とても良く似合っているよ」
 いつの間に、と目を丸くするその愛らしい顔の頬に唇を落とせば、ポテトは真っ赤にその頬を染め――
「なあポテト、君と一緒にここに来れてよかった。また色々な世界を見に行こうな!」
「私も、リゲルと来れてよかった」
 二人で色んな世界に一緒に行こう。
 その答えは、言葉ではなくリゲルの唇に――

成否

成功


第3章 第5節

マルク・シリング(p3p001309)
軍師

(へぇ、色んなものがあるんだなぁ……)
 マルク・シリング(p3p001309)の目に映る小物は、海洋で見た事があるような――それでいて、どこか違う雰囲気。
 貝殻や石の種類の違いか、それともこの世界の文化の違いか。何時間も居られそうだと、マルクは興味深く、ゆっくりと店内を歩く。
(それに、この世界の思い出を何か形にして持って帰りたいしね)
 目に留めたのは、蒼く透き通った結晶が紐で編まれたチャーム。その色は、この世界の蒼を閉じ込めたようで。
「すみません、これは何ですか? この世界固有のもの、でしょうか」
「ああ、それは<蒼の欠片>だよ。時々降って来る、流れ星みたいなものでね。縁起が良いって言われているんだ」
 店主の老婦人に尋ね、返ってきた答えにマルクはよし、と頷きそれを老婦人へと手渡し。
「それじゃあ、これをください。それと……あの、これに『おまじない』をかけてもらえると聞いたんですが」
「はいよ。願うのは何だい?」
「水難除けを――その、出来れば僕だけじゃなく、仲間の分も」
 死の香りの漂うあの「絶望の青」に立ち向かい、共に生きて帰る為に――いくつもの笑顔を、思い浮かべて。
「ああ、承ったよ。名は何て言うんだい?」
「マルクです。マルク・シリング」
「それじゃあ、マルク・シリングとその友へ――蒼の加護が、ありますように」
 祝詞の後、受け取ったその蒼は。
 荒れ狂う海に挑む背中を、押してくれるようだった。

成否

成功


第3章 第6節

秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて

「あっいっすー♪」
「おーい、はしゃいで落とすなよ……」
 浮かれ切った『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)に、今日何度目かの呆れ声を出す『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)。ソフィアの手には、三段重ねのアイスがコーンの上でふわりと浮かんだままバランスを保っていて。
 それを頬張るソフィリアの姿からは、先程カフェでケーキを二つぺろりと平らげたなどと想像でき――るのがこの少女なのだから仕方がない。
「まったく、このちまっこい体のどこにこんなに食いもんが入るんだよ……」
「何か言ったです?」
 振り向くソフィリアに「いいや」と返し、誠吾は歩を進めるが――ぴたり、とソフィリアは突然足を止める。
「どうした?」
 はしゃいで一段目を落としたか、言わんこっちゃない――と思うも、ソフィリアの手のアイスは三段とも無事に保たれていて。しかし、それを見つめる彼女の眉間には深い皺が刻まれている。
「さっき買ったアイス……ちゃんと冷たくて水に溶けないのです!」
 空いた手でアイスを突き、落ちも溶けもしないそれに首を傾げるソフィリアに、誠吾は今更かと突っ込みたくなるものの――自身も慣れたとはいえ、この水中世界にはやはり首を傾げ。
「いまいち原理が分からんな……」
「水の中だけど……うちの知ってる水とは違うのです……?」
 今更考えてみても、水中で呼吸が出来るというのも不思議なもので――とはいえ、ここまで普通に過ごせて来たのだから問題ないのだろう。
 誠吾が食べかけの苺クレープにかぶりつくも、ベタつくわけでも塩辛いわけでもなし。
「ん、美味い。まーこの世界、不思議な事だらけだしなぁ……気にしたら負けってことで」
 考えを諦めて、目の前に浮かんだチョコチップのアイスを一口。
「ふむむ…って、あー!うちのアイス!!」
「あ」
 とっておきのアイスを横取りされたソフィリアは、それはもう怒って頬を膨らませていて。
(さっき海でお前さんに似た魚がいたな、って言ったら怒るだろうな――)
 ふぐ、と言いそうになるのを誠吾は飲み込み、悪いなと片手を上げる。
「丁度顔の前に浮かんでたからな……条件反射ってやつだ」
「むぅ……なら、誠吾さんのクレープと交換なのです!」
 一緒に食べるのは良いけれど、勝手に食べられるのはダメなのです、とびしっと人差し指を誠吾の手元のクレープに指すソフィリアは――そういえば、店でクレープのメニューとも睨めっこしていた。
 さぁ、と口を開けて構えるその姿は――親鳥からの餌を待つ小鳥のようで。
「はいはい、ほらよ」
 苦笑する誠吾がクレープを差し出せば、その手ごと食べられるかと思う程の一口が持って行かれたのだった。
「んー……これも美味しいのです!」
 クリームを頬に付けたソフィリアが神鳥だなんて、今の誠吾には信じがたいが――ご機嫌な少女に許されたのだから、今日はそれだけでいいことにしよう。

成否

成功


第3章 第7節

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ソフィラ=シェランテーレ(p3p000645)
盲目の花少女

 手の平で押したその感触は、かすかに抵抗があって――ここは確かに水の中なのね、と『盲目の花少女』ソフィラ=シェランテーレ(p3p000645)はその肌で感じ取る。
「む、どうした? ソフィラ」
 彼女の手を取り街を歩く『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)にとって、その微かな動きで彼女の思案に気付く程度には、こうして手を引いて歩くことが常となっていた。
「本当にここは水の中なのね、って。ねえリュグナーさん、どんな世界が広がっているのかしら?」
 ソフィラの目には、この蒼の世界は映ることなく――故に、手を引くリュグナーはその目となり、彼女の世界を彩る言葉を紡ぐ。
「そうだな、ここは石畳の通りだな。両側は煉瓦造りの家が並んでいる。どれも太陽の光が揺れて家を照らしていて不思議だな」
「ふふ、そうなのね……そうだわ、ここは空を『泳ぐ』ことが出来るんでしょう? リュグナーさん、泳いでみない?」
 リュグナーの語るこの世界は、いつだってとても色鮮やかで。
「よし、たまには普段の服装のまま――水の流れに身を任せるのもよかろう」
 二人手を取り、地面を蹴る。
 ソフィラはそっと、小さな一歩を確かめるように。
 リュグナーはぐっと、彼女を導くように。
 互いに身体が浮き上がれば――爪先にすら何も触れない不安に、ソフィラの心はほんの少しざわめいて。自分がどこにいるのか、上も、下も、右も、左もわからなくなって。
(あ、ほんの少し、こう……そう、怖いかも)
「おっと」
 リュグナーはそのまま浮かび上がりそうになるソフィラと繋いだその手を引き、迷子になってしまわないよう、彼女の前へと回り込む。
「この手を離せば、貴様はあの太陽まで浮かんでしまうだろうからな」
 シニカルな言葉は、決して嘘ではなく――嘘つきの彼の、天邪鬼な戯言で。
 尤も、ふわりと漂う彼女が太陽まで浮かんでしまったとしても――何でもない様子で、ひょっこりと戻ってきそうな気もするが。
それでも、今。この手を離さないよう、力を込めた。
「あらあら……そうね、リュグナーさんの手が引いてくれるから、この手がある限りは大丈夫ね」
 この手があれば、どこにいるか見失う事なんてない。
 力が込められた手に、ソフィラは同じように力を込めた。
「ねえ、向こうから聞こえてくるのは何かしら? 人の声みたいだわ」
 二人手を取り合い泳いでいれば、ソフィラの耳には賑わいが届く。彼女が指さした方向を見れば、そこには多くの人が集い、露店が広がっているようで。
「ああ、どうやら商店街があるようだ……折角ならば少し見ていくとするか」
「まあまあ、商店街! それはとっても楽しそうだわ!」
 ソフィラの弾む声に、リュグナーは手を引いて声の方へと水を蹴る。
「躓く――事は無いと思うが、他の者にぶつからぬ様気を付けるのだな」
 尤も、彼女の目には自分がなるのだがな――リュグナーのそんな言葉は、泡に溶けた。

成否

成功


第3章 第8節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
アルゲオ・ニクス・コロナ(p3p007977)
夜告魚

「おっかいもの~、おっかいもの~♪」
『深海ルーレット』アルゲオ・ニクス・コロナ(p3p007977)は、ご機嫌な鼻歌交じりに水中を進む。響き渡る軽快なリズムは、自然と勇壮なマーチになり――彼女だけでなく、共に行く『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)と『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)の気分も高揚する。
「ティータイムの後の、お買い物……楽しみ、です」
 アルゲオの歌に小さく歌声を重ねるフェリシアも、どんな雑貨が待ち受けているのかと心躍り。
「この世界の、貝や珊瑚の中には、わたしの知らないものも、きっとたくさん、あるのでしょう……!」
 水中はノリアにとって馴染み深い空間であり。貝だって珊瑚だって、そこに在って当たり前の、ありふれたものであるが。それでもきっと、この世界の『海』のそれらはきっと新たな出会いとなる。
「ここですの、入りましょう!」
「たのもーう!」
「あの、コロナさん……!?」
 三人娘が扉を開ければ、店内のテーブルと、天井まで伸びた棚に色鮮やかな雑貨が所狭しと並んでいて。
「わわ、素敵なものが沢山ですの! フェリシアさん、アルちゃんさん、手分けして、素敵なものを、探しますの!」
「……です、ね!」
「わーい、探すぞー!」
 ノリアの声に、三人ぱっと店内に散らばって――素敵なもの探し、開始!

「むー、あっちのサンゴのブローチも……でもこっちの貝殻イヤリングも捨てがたい……!」
 アルゲオはふらふらと、店内を行ったり来たり。
 彼女にとってもサンゴや貝殻はよく見慣れた――普段なら気にも留めないようなそれらは、細かく模様が彫られ、組み合わさり形を変えている。その一つ一つは、見慣れたはずのものなのになんだかわくわくして。
 あちらこちらに、気の向くまま泳いでいき――なんだか親近感が湧く、グラデーションが鮮やかな金魚鉢型の小物入れに出会う。

 フェリシアは、天井近くの棚へと上がり掘り出し物を発見しようと目を凝らす。
(素敵なものが、たくさんです……!)
 砂時計を一つ手に取ると、そっとそれを逆さにし――さらさらと流れ落ちていく白い砂を、じぃっと眺める。白い砂の中に所々混じるきらきらの粒は一体何なのか、あの海の珊瑚か、それとも素敵な宝石なのか――目を凝らしてみれば、眼下から賑やかな声が聞こえて来た。

「アルちゃんさん、素敵なものを、お見つけになりましたの!」
 ノリアがふとアルゲオを見れば、ころんとかわいらしい小物入れを手にしていて。蒼くきらめくそれに、ノリアも負けじと店の角の棚を凝視し――
 げじげじ虫のような――何本もの突起が生えた、ホネガイの飾りと目が合う。
「ぴゃあああああ!」
 慌てて飛び退いたノリア、けれど脳裏にはしっかりとあのグロテスクな骨が焼き付いていて――
(嫌ですの、あれはなんだかとっても、そう、死の香りがしますの!)
「ソ、ソーリアさん……? 何か、びっくりするようなものが……?」
 アルゲオの掘り出し物を一目見ようと近寄るフェリシアにしがみついたノリアは、必死で「だめですの! あれは呪われちゃいますの!」とフェリシアを止めるのだった――

(あの二人は何を……? あ、これは)
 ホネガイ騒動を横目に探索を続けるアルゲオは――棚に三つ並んだ、珊瑚玉の髪飾りに目を留める。マーブル模様のころりとした珊瑚は、淡い髪色にきっと映えると直感が告げて。
「フェリシアさーん、ノリアさーん! これどうでしょう!」
 手に取り、二人の元へと泳いでいきずずいと掲げれば二人もぱちり、目を瞬かせ。
「可愛い色、です。ずっと見ていられる、ぐらい……!」
「とっても素敵ですの、おめかしにぴったりですの!」
 ふふん、と胸を張るアルゲオの「お揃いにしましょう!」の提案は、断る理由もなく。
「わたしも、ひとつ、お願いしますの……!」
「いいです、ね……なら、珊瑚玉の髪飾りを1つ、お買い上げです……!」
 三人仲良くレジに持ち寄れば、片隅に書かれた『おまじない』の文字に目を惹かれ――思いを込め、加護を受ける。

 ――このおまじないにあやかれば、不吉な連想を、忘れてしまえるでしょうか?
 皆が、幸せに暮らせますようにとノリアは祈る。

 ――何があっても、いいように。ずっと、平和であるように。
 海も、友も、平和でありますようにとフェリシアは祈る。

 そうして、アルゲオが込めた祈りは――

成否

成功


第3章 第9節

かんな(p3p007880)
ホワイトリリィ

『実験台ならまかせて』かんな(p3p007880)は、雑貨屋の全てを吟味するようにゆっくりと歩く。
(せっかくだからと来てみたけれど。貝や貝殻を使った雑貨……素敵よね)
 貝殻のブローチ、珊瑚の置物、蒼く澄んだ石のチョーカー。目に映る雑貨には目移りをしてしまう。
「――あら?」
 目線より下、低い棚に並んだ品にふと目が留まり、かんなはしゃがんでそれを手に取る。
 傾ければ、さらさらと白い砂が流れていくその時計。
 中に混じっていたきらめく粒が、青い光を反射する。
(なんだかこれは、私みたいね)
 真っ白で、けれど少しづつ変化して。
 他人事とは思えないそれを握り締め――ぴたり、立ち止まる。
(――私なんかに、似合うのかしら?)
 素敵であればあるほど、もっと相応しい人がいるんじゃないか。
 好きな物を、綺麗な物を、買ったことがないような自分に――これは相応しくないのではないか。
(ずっと悩んでいるのも迷惑かしら、ね)
『おまじない』というものにも興味はあるけれど、これ以上邪魔してしまうのもいけないから。
 店主に一言礼を言って立ち去ろう、そんなかんなに――
「はい、これ。なんだかあんたは、加護がないと飛んで行ってしまいそうだからね」
 店主がそっと差し出したのは、小さな瓶に入った白い砂。
「でも、その」
「これはあたしから、ね」
 深く皺が刻まれた手に、そっとそれを握らされ――かんなはふわり「ありがとう」と返すのだった。

成否

成功

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