PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蒼色世界の水底へ

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヒュド・リュトン
 一人の男が、目を細め頭上の光を仰ぎ見ている。
 頭上から射す光はゆらゆらと蒼く揺れて、遠い記憶を呼び起こす。

 小さな頃、どこまで行けばあの『太陽』に届くのかと、たった一度だけ試したことがあった。
 地面を蹴って、空を『泳いで』、家も学校も街の広場も見渡して、海の灯台も小さく見えるまで高く『泳ぐ』――それでも、届かなかった。
 段々と灯りが小さくなって、夜になって。
 疲れ果てて地面へと沈んで、帰りを心配した両親にこっぴどく叱られたっけ。
 そんな思い出も、今となっては懐かしく微笑ましい話だけれど。
 
「よし、と」
 手に持った袋を点検し、穴が開いていないことを確認する。
 目の前に広がる『海』は、どこまでも広がり――ふよふよと漂う魚達(えもの)が、少し先に見える。
「いっちょ、獲るとするか!」
 そうして地面を蹴れば、羽もないのに男の身体はふわりと浮かび。
 両手でひと掻きしぐんと進むと、事も無げに魚を掴み、袋に入れていく。
 今日もきっと――この海も、空も。泳ぐのには最高だ!


●蒼の世界へ
 その日、集まった特異運命座標に案内人のシーニィ・ズィーニィが差し出したのは一冊の大きな本。
 ブルーの表紙に金色で書かれていた文字は見慣れないものであったが、『崩れないバベル』が作用すればその意味が頭に浮かぶ。
「ヒュド・リュトン?」
 誰かが読み上げたそれに、シーニィは「そう」と頷き、開いてみてと促す。
 促されるまま本を開いて目に飛び込んだのは、真っ青な街。
 幻想の街並みを描いた絵を、そのまま青く塗りつぶしたような。それでいて、どこか引っかかる違和感は一体。
「この世界はね、水で満たされているの」
 シーニィの言葉に、その街を眺めてみれば――描かれている人々が、まるで宙に浮いているではないか。
「私の故郷よ。平和な所だし、息抜きにでもどう?」

 ――不思議な蒼の世界へ、飛び込んでみない?

NMコメント

 飯酒盃おさけです。
 ライブノベルでもラリー開始!
 私自身初めての形になりますが、どうぞよろしくお願い致します。

●目標
 楽しく遊ぶ。

●舞台
<ヒュド・リュトン>と呼ばれる世界のとある街。
 レンガ造りの家が立ち並び、街路樹や石畳が広がり一見すると見慣れた幻想の街の雰囲気ですが――その空まで全てが水で覆いつくされ、全体が淡い蒼に染まっています。
 遥か頭上に輝く光は『太陽』と呼ばれ昼と夜を作り上げていますが、誰もそこまで辿り着けた人はいません。

●特殊ルール
 この世界では、地面を歩くのと同じように、宙を『泳ぐ』ことができます。
 地面を蹴れば、ふわりと身体は浮き上がります。泳げない人は、少し怖いかもしれませんね。
 世界を埋め尽くす水は、呼吸にも支障はありません。飲んでも安全。
 普段の服のままでも、水着でも構いませんが全裸はダメ絶対。

●第一章
『海』で泳ぶ。
 砂漠が広がっているように見えますが、この世界の人々は海と呼んでおり、色鮮やかな魚達もいます。
 時折風が波のようにやって来れば、あなたの身体を揺らすでしょう。
 ゆらゆらと浮かんで遊ぶもよし、海洋での戦いに向けて泳ぎの練習をするもよし、魚を捕まえてみるもよし。

●第二章(予定)
 カフェで一息。
 遊び疲れたら、蒼い光の射すカフェで一息つきましょう。
 水と混ざり合わない不思議なソーダに、何故か丸く浮かぶ珈琲に。
 貝殻型のマドレーヌに、魚介たっぷりのパスタやピザも絶品です。

●第三章(予定)
<ヒュド・リュトン>を散策します。
 買い物をしたり、街を泳いで一望したり、どこまでも高く泳いでみたり。
 もう一度海に行ったり、カフェで長居することも可能です。

●NPC
・シーニィ・ズィーニィ
 この世界の出身です。案内がてら近場をふらついています。
 泳ぎやすいから、とあの服装のようです。
 お声がけ頂けた場合のみ登場します。

●ラリーシナリオについて
・概ね各章6~10名前後の執筆予定です。
 募集中人数が上記を超えていても、次章に移るまでは積極的に執筆していきますので、お気軽にどうぞ!

・途中章からの参加も歓迎です。
 ふらっと遊びに来てみてくださいね。

・数人まとめての描写になる可能性があります。
 ソロ希望の方はソロと、同行者がいる方は【】やID等記載してください。

 それでは、ご参加お待ちしております。

  • 蒼色世界の水底へ完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年04月06日 20時50分
  • 章数3章
  • 総採用数41人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

「そろそろ小腹も減ったでしょう? いいカフェがあるから、ひと休みとしましょう」
 遊び疲れたイレギュラーズを浜辺で出迎えた案内人のシーニィが連れてきたのは、街の片隅にある小さな煉瓦造りのカフェ。
 がらん、とベルを鳴らし中に入れば、窓ガラスから射す蒼い光に照らされた店内に煎りたての珈琲の香りが漂っている。
「ここは珈琲が美味しいけど、私はソーダも好きなのよね」
 シーニィの言葉に先客の様子を見れば、老婦人に出された珈琲はカップをはみ出し丸く、ふよふよと浮かんでいて――慣れた手つきでスプーンを刺すと、すくったそれをぱくりと口に含んだ。
 少女達がお喋りするテーブルでは、それぞれが違う鮮やかな色のソーダフロートを摘まんでいて話に花を咲かせている。
「マドレーヌやケーキもあるし、さっきの海で獲れたての魚や貝を使った食事もできるわよ」
 さっき獲った魚があるなら、それで料理のリクエストをしてもいいでしょうし、と続けるシーニィをよそに――イレギュラーズはもう、メニューに夢中なのだった。


●第二章
 カフェで一息。
 蒼い光が射す、レトロな雰囲気のカフェです。
 窓際のテーブル席は革張りのソファーでどっしりな四人席。
 カウンター席は高椅子であり、目の前で初老のマスターがドリンクを作る姿を見られます。

●メニュー
・珈琲
 ホットではカップ、アイスではグラスの中で丸くふよふよと浮いています。触るとぷにぷに。
 ホットはスプーンを刺して中身を掬って、アイスはストローを刺して直飲みです。
 スプーンもストローも、そっと刺せば割れません。強い衝撃を与えると大惨事なのでご注意を。

・ソーダ水(ソーダフロート)
 好きな色のソーダを作ってくれます。
 不思議と水とは混ざり合わず、零しても珈琲の様に浮かんでつまめます。

・ワイン
 カフェと侮るなかれ。赤・白・ロゼと揃えています。

・マドレーヌ
 貝殻で型を取った本場物(?)です。
 プレーン、チョコ、抹茶、ストロベリーetc

・ケーキ各種
 ショートケーキ、ミルフィーユ、モンブラン、フルーツタルトetc
 いっぱい泳いだのでカロリー0です。きっと。

・お食事
 ふわとろ卵のデミオムライス、魚介たっぷりペスカトーレピザ、ボンゴレビアンコ、ボンゴレロッソ、海鮮たっぷりピザ、大人も頼めるお子様ランチetc

 その他、ありそうなものや食べたいものはきっとあります。
 こんなものあったらいいな、を自由にぶつけてくださいね。
 獲ってきた魚でこれを作って、も叶えてくれるでしょう。

 第二章からの参加も歓迎です。
 プレイングで言及しなくても、海で遊んだ後として扱います。
 それでは、ご参加お待ちしております。


第2章 第2節

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣

「まだかなまだかなー♪」
 ソファに前のめりで腰掛ける『雷虎』ソア(p3p007025)は、身体を揺らしその時を待つ。
「そうだね、もうすぐ――うん、この香りはきっと我々の待ち望んだものだ」
 対面に脚を組み座る『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)はちらりと厨房に目をやる。彼女の鼻は、珈琲に混じった香ばしい――彼女にとっては甘い血肉の香りを嗅ぎ取っていた。
「もうボク、クタクタだもん! いっぱい遊んだし、ここまでアレを連れてくるのも大変だったよー!」
 ソアがアレ、と肉球で指したのは窓の外。
 そこには、二人が両手を広げたのと同じくらい大きなクジラが鎮座していた。
「うん、随分と長く遊んだし、狩りでも随分体力を使ったしね。動くとお腹も空くというものだ」
 海で二人で狩りの対決をしたのは先刻のこと。互いに大物を手に入れ甲乙付け難い――そう思っていた所に飛び込んできた大きなクジラを、二人で協力してここまで運んで来たのだ。
 二人が注文したのは勿論、獲りたての魚を使っての料理。
「地の物は地の料理人が一番良い料理方法を知っているだろう? お任せで頼むよ」
「ボク、クジラのステーキがいい! とびきり上質なところ!」
「ああ、私の分はレアで頼むよ。何、量は気にしないさ」
 飢えた獣の胃袋を舐めてはいけないからね、とマルベートが付け加えたリクエストに料理人が任せとけ、と返したのは先程のことで――

「お待ちどうさま、獲れたて魚のカルパッチョとアクアパッツア、それとクジラのステーキだ!」
「ね、ね、これとびきり上等なところ?」
 じゅうじゅうと音を立てる鉄板に目を輝かせるソアに頷く料理人の横で、各々にグラスを二脚ずつ置く店員。そこに赤と白、それぞれのワインを注いでいく。
「ふふ、赤と白どちらもなんて素晴らしいね。これは狩りの祝賀の宴に相応しいよ」
「でしょうでしょう、どっちが良いかわかんないなら両方試せばいい!」
 今日のボクは冴えてる、と誇らしげなソアに、微笑むマルベート。
 そしてグラスをどちらからともなく掲げると――
「狩りの成就と私達の変わらない絆を祝って」
「「乾杯!」」
 と、グラスを打ち鳴らすのだった。

 ――数分後。
 ソアは、慣れないナイフとフォークに苦戦していた。
 折角こんな雰囲気のカフェで食事をするのだから、と格好よく――目の前のマルベートのように食事をしたい、と思っていたのだが。
(みぎ、ひだり……! あーんわかんないよー!)
 ナイフとフォークが逆になり目を回すソアにマルベートが気付くも――
「あはっ……何でもない!」
 そそくさと持ち替え何事もなかったかのよう振舞うソアの格闘は、きっとマルベートも気付いていて――ふっと笑った事を、ソアは気付かないだろう。
(彼女は悪魔っていうけれど、仕草が綺麗でボクの憧れる人間そのもの)
 人間に憧れた精霊と、悪魔の午餐会は――まだまだ続く。

成否

成功


第2章 第3節

秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて

 海中散歩を終えた『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)と『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)は、テーブル席でメニューを広げている。
(水の中ってのが、やっぱり落ち着かねー……)
 先程の『海』も大概だったが、今度は水中カフェ。水の中で食事って何なんだ、と再びの疑問も湧く。
「むむむ……あれも美味しそう、でもこっちも捨てがたいのです……」
 向かいのソフィリアといえば、メニューと絶賛格闘中。
「誠吾さんは何を頼むか、決まったです?」
 ソフィリアがメニューから顔を上げて問うと、誠吾はそうだな、と手元のメニューを閉じ。
「まだ腹減ってる訳じゃないし珈琲でも飲むかねぇ。お前さんは好きなもの頼めばいいさ」
 ゆっくり選べばいいと付け加えれば、ソフィリアの表情はぱっと華やぎ。
 きょろきょろと周りのテーブルを眺め――そうして少しの熟考後。
「んー……決めたのです! うちはオレンジのソーダ水と、フルーツタルトにするのです!」
 それじゃあ注文を――と手を上げかけた誠吾がふと呟く。
「お前さん……一つで足りるのか?」
 何度も食事を共にしているこの少女がそれだけで足りるとは到底思えず。
 遊び過ぎて疲れて逆に食欲がなくなったのでは、と思う誠吾だったが。
「食べ放題じゃないから、一つで充分なのですよ?」
 ――食べ放題だったらいくつ頼んだんだ、の言葉を飲み込んだ。

「水と混ざらないってのがよく分かんねーな。味は普通の珈琲だが」
 誠吾はグラスの中で黒く浮かぶ球体をまじまじと眺め、スプーンで掬い――首を傾げる。
「水の中で飲む飲み物……不思議なのです……」
 ソフィリアもストローでオレンジのソーダを突いてみるも、その橙と蒼が混じる事はなく。ストローで吸ってみれば、柑橘の甘酸っぱい炭酸が、口内をしゅわしゅわとくすぐる。
 その余韻のまま、色とりどりのフルーツが乗ったタルトをフォークに差し一口食べれば――
「タルトも、ちゃんとサクサクしっとりしてるのです……美味しい!」
 ぽろぽろと生地を零しながら幸せそうに食べ進める姿に、誠吾の心に悪戯心がふっと湧き。
「一口くらい寄越してもいいんだぜ?」
 頬杖をつき、反対の手で指差したのはソフィリアのタルト。
(嫌、って言うだろうなぁ)
「うん、是非是非誠吾さんも食べてみるのですよ!」
「へ? いいのか?」
ちょっとした意地悪に返ってきたのは、ソフィリアが口に運ぼうとしていた一口で。
「面白いものは、一緒に楽しみたいのです!」
 そう笑顔で差し出されれば、冗談だと返すのも無粋だろう。
 差し出されたフォークにそのまま齧りつけば――
「ふむ……悪くない」
「でしょう、すごく美味しいのです!」
 自分が作ったかのように胸を張る食いしん坊の笑顔は、心底幸せそうで。
「……折角だしもう一つ何か頼むか?」
 そう告げれば、すぐに「チョコケーキ!」と答えが返って来たのだった――

成否

成功


第2章 第4節

マルク・シリング(p3p001309)
軍師

「水の中で息ができるのも不思議だけど、水の中で飲食ができる、というのも、もっと不思議だね……」
 マルク・シリング(p3p001309)はカウンターの高椅子に腰かけ、ぽそりと疑問を口にする。
 目の前では、初老のマスターがゆっくりとサイフォンで珈琲を淹れていて――水の中で揺らめく炎に、何も入っていないように見えるフラスコにぽとり、と落ちてくる珈琲に。眺めているだけでも飽きることはなく。
 マスターがフラスコの珈琲をカップに入れれば――液体だったはずのそれは、球体となりカップの中で浮かび出す。
 差し出されたカップに浮かぶそれに、そっとスプーンを刺し口元に運ぶ。
(なんだかスープみたいだ……あ、でも)
 水の中だというのに、その香りは鼻腔にまで届き。
 恐る恐る口を開け、珈琲だけを飲み込める不思議さを感じながら――
「うん、香りを楽しむのにはいいかも」
 そう零せば、口元を緩ませたマスターの会釈が返ってきた。

「どう、楽しんでる?」
 隣に腰掛けたシーニィにマルクは「勿論」と応える。
「珈琲とマドレーヌ、プレーンで」
 彼女がメニューも見ず告げるのを見れば、食べ物への興味も湧き。
「マドレーヌ、美味しいの? 恥ずかしながら、まだ水の中での食事が不慣れで……お勧めなら、頼んでみようかなって」
「えぇ、美味しいわよ。焼き立てはサクサクよ?」
 それなら僕もそれを、そうマスターに告げて――珈琲ももう一杯、と付け加えた。

成否

成功


第2章 第5節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

「水の中のカフェなんて、初めてだ」
「本当だな、不思議な世界で面白いものだ!」
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は、カウンターで肩を寄せ合い一冊のメニューを覗き込む。
「浮かぶ珈琲に、混ざり合わないソーダ水……飲み物が凄いことになってるな」
 ポテトが目を丸くする横で、リゲルはページを次へと捲る。
「よし、色々挑戦してみよう!」
「ああ、そうだな」
 リゲルがページを捲る指を進めていると、ふと「あ」とポテトの声が挟まり。
 どうかしたか、と問えば――なんでもないと返ってくるも、リゲルの開くページの手前を覗き込む姿は愛らしい。
(言ってくれれば、そのページを開くんだがなぁ)
「リゲルは何を頼むか決まったか?」
「そうだな、俺はホットコーヒーと海鮮ピザにしようか」
 顔を上げたポテトに問われ、リゲルが答えたのは二品。
「ポテトは何にするんだ?」
 そう自然に問い返せば、ポテトは俯きがちに小さく言葉を発する。
「……チ」
「ん? どうした?」
「その……お子様ランチを」
 顔を赤らめポテトが口にしたのは、予想外のメニューで。
(ああ、そういうことか)
 先程じっと彼女が見ていたページを開けば『お子様ランチ(大人もOK)』の文字。
「わ、私だって、一回ぐらい食べてみたいんだ……!」
「全く、ポテトは可愛いな。今まで食べた事がなかったのか……言ってくれれば俺がいつでも作るのに」
 旗も立てるぞ? と付け足せば――もう、と可愛らしいパンチが肩に飛んできた。

「そういえば、リゲルは随分上の方まで泳いで行っていたけど……上から見たらどんな感じだった?」
 注文が届くまでの間の話題といえば、もっぱら先程の『海』の話で。
「そうだな……人がどこにいるかわからない程小さくなったな。けれど、空を泳いだからこその高さを経験出来て楽しかったよ」
「そうか。下からでもリゲルが勢い良く上に行くのは見えたぞ?」
 次は二人で高く泳ごう――そんな約束をしていると、注文の料理がやってくる。
 たっぷりの魚介とチーズが乗ったピザに、お子様ランチに。ホットコーヒーと蒼いソーダフロートも揃えば、目をきらきらさせた二人の「頂きます」の声が重なる。
「どれから食べようか……このハンバーグも、ピラフも、いやここはやっぱり」
 フォーク片手にあれこれ迷ったポテトが海老フライに齧り付けば、その横で伸びるチーズから落ちそうなイカと格闘するリゲルも幸せそうに微笑み。
「ん、新鮮でぷりぷりだ」
「ははっ、美味しそうに食べるじゃないか。これもどうだい?」
 互いにお裾分けもし、昼食を楽しんで。
「うん、コーヒーもデザートみたいで面白――はは、ポテトなんて顔してるんだ?」
 恐る恐るソーダを飲むポテトが「しゅわい」と炭酸にへたれた顔をすれば。
 面白い味とその顔に、リゲルは笑顔でポテトの頬をつつくのだった――

成否

成功


第2章 第6節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
アルゲオ・ニクス・コロナ(p3p007977)
夜告魚

 大きなガラス窓から蒼い光が射しこむテーブル席。
 少女が三人揃って仲睦まじい様子で着席――約一名していないが、それはさておき。とにもかくにも、会話に花を咲かせていた。
「スゴイ、スゴイ!! アルちゃん今空を飛んでます? わーい、いつかお家に帰った時に自慢しましょう!」
 椅子から浮かび上がり笑う『深海ルーレット』アルゲオ・ニクス・コロナ(p3p007977)の口元からは、真っ白な八重歯が覗いていて。淡いグレーの足ヒレを楽し気に動かせば、隣の『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)の顔に風とも波ともつかずくすぐったい感覚がやってくる。
「ええ、これはとっても素敵な自慢になりますの!」
 ノリアは両手をソファに乗せ、ぱたぱたと足ヒレ――透き通るノリアのそれを楽しげに揺らす。
「えぇと、注文は決まりました、か……?」
 いつまでも注文に辿り着けないのでは――『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)は困惑する。
 本当は、自分だって飛んでみたいけれど――まずはお行儀よく、ご飯を食べてからだと食後の楽しみにも思いを馳せ。
「アルちゃんはピザを食べるのです!」
「わたしはこの、とろとろ卵のデミオムライスにしますの」
「わ、それじゃあわたしは……ボンゴレビアンコに、します!」
 店員にそれぞれの食事と、色違いのソーダフロートを頼めば、程無くしてそれが届き。
 鮮やかな緑のソーダのノリアと、この世界よりずっと深い蒼のソーダのフェリシアと、遥か高くの『太陽』を彷彿とさせる黄色のソーダのアルゲオと。
 グラスを掲げ、小さく打ち鳴らせば――楽しいランチの始まり!

「わ、本当に湯気が立ってます、し……パセリも、ほら。ちゃんと乗ってます……!」
 先程より少し声の調子が上ずったフェリシアの興奮は、声だけでなく小さく揺れる耳のヒレにも表れて。アサリ貝のたっぷり入ったパスタ皿に触れてみれば、熱々で「わ」と驚くほど。
 スプーンの上でパスタを巻いても、飛んでいかないパスタに小さく感激して。
 ぱくり、と一口食べれば、染み出る貝の旨味にフェリシアはぎゅっと目を閉じた。

「ふもも、ひゅごいのれふ、のびるのれふ!」
 ――ふおお、すごいのです、伸びるのです!
 そんな言葉を発しているであろうアルゲオは、ピザを咥えたままその手をどんどん離し、伸びるチーズに夢中。
「熱々のピザのピザはビョーンと伸びる」と噂で聞いて依頼憧れのこのビョーンが、今この手に――と思えば、この熱さもなんのその。
(もしかしたら、このままではアルちゃんの手では足りなくなるかもです……!)
 そんな期待の直後、べろんと垂れたチーズが手に零れたのはご愛敬。

(ほんとうに、ここは夢のようですの)
 ノリアはうっとりと、噛み締めるようにオムライスを食べ進める。
 スプーンで突けば卵がふるふると揺れ、口に運べばチキンライスの熱さに口をぱくぱくとさせてしまうチキンライスは、冷えることも固まることもなく。
 熱い、と飲むソーダフロートだって、普通の――いつもの水中なら、どろりと水中に溶けて、息苦しくなってしまうのに――
「陸よりも、心地いいのに、陸みたいに美味しい……こんなの、まるで、天国ですの!」
 嬉しくて飛び上がって、二人を手招きすれば――三人、手を繋いで天井近くで目を合わせて笑い合った。

「水の中を遊ぶだけなら、わたしたち、海種にとっては、珍しくもなんともないことですけれど……水の中なのに、地上と同じものが、楽しめる……そんなのは、夢のようですの!」
 ノリアへの贈り物ならば、水中も空中も同じように飛ぶことができる。それに、集まった三人は全員、普段だって【Aquarium】――水底で空を眺める者達で。
 それでもこの感覚は初めてなのだと言えば、アルゲオもフェリシアも同意を返す。
「海の中にいたら、見えなかった景色が沢山です!」
 友達と遊ぶことも、一緒にご飯を食べることも、深海から飛び出したアルゲオには楽しいことだらけ。
「青い世界で『飛ぶ』ように泳ぐのは……何度も経験がありますが、それは水の中だけ、で……」
 記憶は無くとも、この胸の高鳴りはきっと、『前』の自分は経験してなかったことだとフェリシアは確信する。
「せっかくなので、たくさん飛んで、色々な場所を見てみたいです、ね……!」
 そう零せば、二つの「もちろん!」が返ってくるのだった――

成否

成功


第2章 第7節

かんな(p3p007880)
ホワイトリリィ

「よいしょ……っと」
『実験台ならまかせて』かんな(p3p007880)は小さく背伸びをしカウンターの椅子に腰掛ける。
 もたついたスカートを直しメニューを読めば――「まあ、まあ!」と声が零れる。見知らぬ世界のカフェと食べ物は、どれもかんなの興味を引いてやまない。
「ねえ、マスターさん。オススメの飲み物と、少しだけ甘いモノをお願いできるかしら……?」
 こうしてかんなが『普通の』生活を送れるようになったのはつい最近のことで。食事にも不慣れな彼女の身体は、あまり多くの量を受け付けない。
「それなら――そうですね、お任せください」
 かんなに出されたのは、カップに浮かぶ白黒マーブルの球体と、生クリームとフルーツが乗ったプリンアラモード。
「カフェラテです。口の中で混ざり合いますよ」
 球体を指先でつつくと、ぷるんとささやかな抵抗をが返ってきて。
(不思議な感触だわ……あまり触って大惨事になってもいけないし、早いうちに頂いてしまいましょうか)
 スプーンで掬って口に運べば、珈琲とミルクがとろりと口の中で混ざり合った。
 ゆっくり、一口ずつを噛み締めプリンアラモードを楽しめば。次の一口はプリンか、クリームか、チェリーにしようかと手が止まり――ふと、思う。
(こうやって見てるだけでも……楽しい、というのは素敵ね。とっても嬉しいわ)
 日々、こうして発見があって。その嬉しさを胸に、次の一口を悩むとしましょう――

成否

成功


第2章 第8節

ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
沁入 礼拝(p3p005251)
足女

『足女』沁入 礼拝(p3p005251)と『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)の二人は、並んで革張りのソファに腰を下ろす。
「上から見た景色は綺麗でしたね、ジョセフ様」
 礼拝は被っていたベレー帽を脱ぎ、乱れた髪を指で梳かす。
「ふふふ……つい、泳ぎすぎてしまったな。礼拝殿には悪いことをした!」
 彼女の手を引き、太陽を目指し。
 随分と高くまで来た――眼下の街を望んだ後、見上げた光の高さに『届かない』と悟り。二人ゆっくりと海底まで沈んだ頃には、さしものジョセフとて肩で息をして――休憩にとやってきた。
「さて、何を食べようかな……ペスカトーレピザに、ボンゴレロッソに……魚介スープもあるのか!」
「ふふふ、ジョセフ様が居ると食べきれるかしらと心配しなくても良いのが嬉しいです」
 礼拝がジョセフの鉄仮面の下で輝く瞳を思い浮かべ微笑みを返せば、ジョセフの声色は一段と明るくなり。
「二人で見た景色の事を話しながら一緒に食べよう。しぇあ、って奴だな!」
「はい、シェア! ふふふ、何の料理を頼みましょうか?」
 あれもこれもと決めていく中、ジョセフは「そうだ!」と名案を閃く。
「好きな色のソーダ水を作ってもらえるんだな。店員にこっそり伝えて頼んで、交換しないかい?」
 来るまでのお楽しみだ、と付け加えたその戯れに礼拝が断るはずもない。
「まぁ、素敵ですね! ジョセフ様が何色を選ばれるか、私楽しみにしています」
 二人、店員にそっと耳打ちをし――

「お待たせしました。こちらご注文の料理と、ソーダフロートです」
 テーブルに並んだのは、いくつもの料理と――礼拝の前の赤、ジョセフの前の緑のソーダフロート。
 互いに行うのは『答え合わせ』で――けれど、合点がいく答えは見つからず。
「礼拝殿、どうして僕にこの色を?」
 ジョセフが問えば、礼拝は「それは、その」と口ごもり。片手をジョセフの方に置き、耳を貸すよう訴える。

 ――ジョセフ様の瞳の色と同じ色にしたかったのです……

 耳に飛び込んできたのは、今この店で自分たちしか知らない色のこと。
「私が話したのですもの、ジョセフ様も教えてくださいまし!」
 口を小鳥のように尖らせる礼拝にジョセフは「さあ、当ててみてくれ!」と返すと、礼拝はもう、と返し――答え合わせの茶会が続く。

 ――下から見上げた礼拝殿の、陽光に透けて見えたきれいな血の色だ――なんて、早く気付いてくれないだろうか。
 ああ、けれど。海で抱えた君の体の重さを感じなくて……まるで、腕の中で泡のように消えてしまいそうで。楽しくて、けれど心細くなったよ。

 ――ああ、とても楽しいのに。あの海で、腕の中で沈んでいく時に思ってしまいました。
 私、いつかこの腕の中から出ていかなければならないのですね。
『その時』が来たら――私は綺麗に、泡のように消える事ができるかしら。

 二つのグラスの中で、氷がからんと音を立てていた。

成否

成功


第2章 第9節

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚

 賑わいが去り、店内に静けさが戻った頃。
「『にんげん』一人だ。美しいあのガラス窓の傍――此処にしよう」
 先程まで睦まじげな男女が居た席に座る『にんげん』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)。
『海』を泳いだ彼女が季節外れの日食かと騒がれたことはさておき。喜ばしい甘味の気配に、ノイズ交じりの鼻歌? が零れる。
「私は糖分の化身で、悉くを貪る胃袋と知るが好い。Nyahahahaha――土産を持ち帰れたら最高だが。如何だ?」
「えぇ、丁度店も落ち着いたのでいくらでも。お土産も用意しましょう」
 異質な来客にも動じない店員は、どうやら見た目がアレな――うねる烏賊その他諸々の海洋生物で耐性があるようで。いくらでも、の答えに偽りなく甘味が並び――空の皿が積み上がっていく。
 生クリームにチョコレート、鮮やかなフルーツも、全部ぺろりと黒の中。
 ナッツの歯応えは心地好く、モンブランのぐるぐるはなんだかそう――にんげんの中身のよう。
 時折喉に詰まれば、赤に緑に黄色に煉瓦色に鼠色のソーダ水を流し込み。
 アイスコーヒーは、練乳入りのスペシャルでスイートなそれ。
 貝殻で象られたマドレーヌは――何よりも甘く、造形も美的極まりなく!
「此れを土産にする。愛する者への土産だ」
 きっとあの緑の眼を輝かせ喜ぶに違いない――

 胃袋も脳髄も、愛する者を思う心にも染み渡るほどに甘いように!
 Nyahahahaha!!!

成否

成功

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