PandoraPartyProject

シナリオ詳細

私の愛した妖精

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「妖精。妖しくも、甘美な響きだとは思わないか」
 ラサの一角にある、豪奢な建物。
 その薄暗い部屋の中で、男は静かに、ユリアンへと語りかけた。
「私が初めて妖精と出会ったのは、かつて、君のように、深緑へと密猟に出かけた時の事だよ。幻想種どもの作った罠にかかって、独り森の中で回復を待っていた私に、声をかけてきたのが――妖精だった」
 回顧するように。男は椅子に深く腰掛けながら、深く息を吐いて続ける。
「彼女は必死に――私の手当をしてくれてね。おかげで回復も早まった。当時の私は逃げるのに必死でね、礼もろくに言わずに逃げ去ったモノさ」
 からり、と、手にしたグラスの中の氷が揺れた。
 そうかそうか、とユリアンは胸中で適当な相槌を打った。ここまでは死ぬほど興味のない話だったが――しかしここから話が変わっていくのであろうことは、ほかならぬ自分が呼び出されたから、予想はついている。
「必死に逃げて……ラサにたどり着いてね。それから深く、こう思ったものさ。あの妖精が欲しい、とね」
 ほらきた、とユリアンは胸中でぼやく。
「あれはね……あの美しい生き物は、私の手で囲われているべきなのだよ。今は一匹……やがては全て。あれは、私のものとなるべき生き物だ」
 かつて命を救われたときに改心でもしておけば、死ぬほど退屈でくだらないが、美談とやらにはなっただろうに。しかしそう言う屑がいなくならないからこそ、ユリアンの飯の種も存在してるのだ。
「高貴な方のご趣味は、下賤な身の俺には理解できませんけどねぇ」
 ユリアンは恭しく頭を下げつつ、慇懃に言い放った。
「しかしながら、深緑は俺の狩場――とって来いってものならば、何でも狩って御覧に入れますよ。ただし少々、値は張りますけどね?」
 そう言って、ユリアンはニヤリと笑ってみせた――。


 数日後、イレギュラーズ達はユリアンの依頼を受け、深緑の森の奥へと進んでいた。
「正直、爺の趣味なんぞどうでもいいけど、いい金づるではあるんだよな」
 ぼやくように言うユリアンに、相槌を返したものもいたかもしれない。
 妖精を捕獲する。その間の護衛を頼みたい。そういってユリアンがローレットに現れたのは、つい先日の事である。
 ローレットは、社会的に悪とされることでも、それが世界のためならば実行する――ユリアンには些か理解のできないことだったかもしれないが、こうしてイレギュラーズが派遣されてきたことは、ユリアンには幸運であっただろう。
「知ってると思うけど、最近は妙な魔物が徘徊しててな。それに、以前に比べて魔物も強くなってる……一人だとヤバいと思う事もちょいちょいな。今回は相手が相手だ、捕獲に集中したくてなぁ」
 妖精を捕獲する、と語るユリアンに、悪びれる様子はない。やはりユリアンは、根っからの悪党なのだ――とはいえ、どこか憎み切れない独特な空気も、持ち合わせていた。それがユリアンの魅力であったのだが。
「確かこの辺に妖精のたまり場があって、そこで見かけるんだ。あ、気配は消してくれよ」
 ユリアンが指さした先には、虹色のサークルが見えた。なるほど、『妖精境の門』だろう。はるか遠き妖精境とこの世を結ぶゲート。一行は気配を消しつつ、ゆっくりと近づく――そこでユリアンは、たまらずうめいた。
「げ、魔物もいるじゃねぇか」
 その言葉に先を見てみれば、無数の魔物たちと、果敢にも応戦する数名の妖精たちの姿がある。ユリアンは面倒くさそうに頭を掻いたが、
「ま、こういう時のためのアンタらだな。魔物はどうでもいいが、妖精は殺さない程度に無力化してくれ。捕獲には薬を使うから、まぁ弱らせてくれればそれでいいぜ」
 にこり、とユリアンは、人好きのする笑みを浮かべて、そう言った。
 イレギュラーズは頷くと、いざ乱戦の中に突撃していった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 密猟者ユリアンと共に、妖精を捕獲するお仕事です。

●成功条件
 妖精一人の捕獲

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『深緑』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 深緑で密猟を営む少年、ユリアン。彼からの依頼で妖精の捕獲に立ち会う事になったイレギュラーズ達。
 しかし運悪く、そこには妖精境の門を狙う謎の魔物たちの襲撃の最中でした。
 こうなっては仕方ありません。
 皆さんは、この魔物、そして妖精たちを無力化し、妖精を一人、捕らえてください。
 作戦決行時刻は昼。周囲は充分開けているものとし、ペナルティなどは発生しません。

●エネミーデータ
 キメラ ×5
 熊とゴリラを掛け合わせたような、奇妙なキメラです。
 主に近接~中距離レンジの物理攻撃を行います。
 やや力は強めで、タフです。

 人工精霊:雷 ×5
 雷の属性を帯びた人工精霊と呼ばれる魔物です。
 主に遠距離レンジの神秘攻撃を行います。
 BSとして、痺れ、乱れの付与を行ってきます。

 妖精 ×4
 妖精境の門を守っている妖精です。
 主に中距離~遠距離レンジの神秘攻撃を行います。
 HPが減ると、妖精境の門へ撤退します。
 一気に倒しきるか、何らかの手段で動きを止める必要があるでしょう。
 なお、殺害してしまっても構いませんが、ユリアンが捕獲するための最低一人は残しておいてください。

●味方NPC
 ユリアン
  回避、反応重視のスピードファイター。
  主に中距離レンジの物理攻撃を行います。
  BSとして毒を持ち、妖精に対してのみ、不殺攻撃を行います。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • 私の愛した妖精完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月31日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
シラス(p3p004421)
超える者
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

リプレイ

●善い人たち
 一行は、ユリアンの案内で森を進む――その目的は、妖精の捕獲である。
 ユリアンがラサの好事家から受けた仕事の手伝いを、一同はユリアンより依頼されたわけだ。妖精は好戦的な種族ではないため、比較的、簡単な部類の仕事になる――はずであった。
「げ、魔物もいるじゃねぇか」
 ユリアンの声に、一同は進行方向を窺う――飛び交う雷の魔力。見てみれば、ゴリラと熊を掛け合わせたような奇怪な生物がうなりをあげて、今まさに妖精境の門と、妖精たちに襲い掛からんとしていた。
「楽な仕事とはいかないみたいだな」
 旧知の仲であるユリアンを見やりつつ、『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)が声をあげる――ユリアンは肩をすくめつつ、
「ま、こういう時のためのお前らだよ」
 にやり、と笑った。
「魔物の方はどうでもいいんだよね? 殺しちゃっても」
 『実験的殺人者』梯・芒(p3p004532)が尋ねるのへ、ユリアンは頷く。
「おう。魔物はどうでもいいが、妖精は殺さない程度に無力化してくれ。捕獲には薬を使うから、まぁ弱らせてくれればそれでいいぜ」
「悪い奴ダネー」
 肩をすくめるのは『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)だ。ユリアンは気を悪くするでもなく、楽しげに笑う。
「そう言うお前らも、悪い奴だからな? さて、この状況、どう突破してくれるかな?」
 ユリアンの言葉に、答えたのは『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)である。
「そうだな。正攻法で行くか」
 ことほぎの言葉に、仲間達は頷いた。
「いいか、しっかりついてこい……余計な事を言うんじゃねぇぞ? アンタ、顔は悪くないからな、善人面してこくこく頷いてな」
 ことほぎの言葉に、さて何が始まるやら、とユリアンが首をかしげた瞬間、駆けだしたのは『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)である。クーアは妖精たちを庇うように、魔物たちの前に立ちはだかる――続いて、よく聞こえるように声をあげた。
「大丈夫なのですか? 助けに来たのです!」
 ユリアンはたまらず口元を抑えた。そう来たか。
「助けに来てくれた……最近、僕たちを助けてくれてる人たちがいるって聞いたけど……」
 少年風の妖精が、驚きの声をあげる――仲間達は力強く頷いて見せた。
「妖精さん達、私達の後ろに隠れていくださいね?」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)がその手を振るうと、鮮やかな火花がキメラ達の眼前で咲き誇った。たまらず、キメラたちが足を止め、威嚇の声をあげる。
「近くにいてくれた方がうれしいのです。私達から離れずにいて欲しいのですが……」
 クーアの言葉には、どこか不思議な説得力があった。さっさと妖精の門へと帰してしまえばいいだろうに、妖精たちはクーアの言葉を信じ切って、その場で身を固くしたのである。
「回復の術式を使える子は居ますか? 遠距離の術は? 前に出る必要はないのですが、援護をしてくれると助かるのです」
「わかったわ!」
 少女風の妖精が、元気よく声をあげた。クーアの言葉を、妖精たちは信じ切っている。
(「おいおい、マジかよ」)
 ユリアンは内心こみ上げる笑いを抑えるのに必死だった。彼らの言動は、まさに窮地を救いに来た英雄たちのそれである。
「嘘は言ってないから。もし万が一、そう言うのを見破れるやつがいても問題ないよ」
 『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が、こともなげに告げる。そう、巧妙なのは、彼らは本音は一切語っていないが、しかし嘘は言っていないのである。
 妖精たちを助けるのは事実だ。その後捕まえるのだから。
 妖精境の門を守るのも事実だ。余計なあと腐れは残したくないのだから。
 妖精たちに手伝ってほしいのも事実だ。逃げられたら困るのだから。
(「おいおいおい、悪い奴らだねぇ!」)
 内心ゲラゲラと笑いたかったユリアンである。まったく、彼らを味方につけておいてよかった。頼りになるし、面白い。
「じゃ、あなたもお仕事よろしくね、『正義の味方さん』?」
 些か意地悪気にゼファー(p3p007625)が言うのへ、ユリアンは頷いた。先ほど言われたとおりに内心は表に出さず、正義の味方後一行のフリをする。
「後で合図するから。妖精を狙うならその時にね」
 小声で言う芒へ、ユリアンは小さく頷く。
「行くのですよ、みなさん」
 クーアが声をあげて、封印術式を編み上げた。無機質な人形めいた、人工精霊へ向けてそれを解き放つ――雷を吐き出すその人工精霊は、直撃した術式の影響で、雷を吐くことを一瞬、止めた。
「さーて、魔物ってあんまり手応えよくないんだけど、これもお仕事だしね」
 雷の雨が止んだ事を確認し、芒が一気に戦場を駆けた。手にしたのは『生/存』と記された道路標識――すなわち『生存禁止』。重い標識を軽々と振り回すのは、力ゆえか技ゆえか。いずれにしても、鈍器であり刃であるその標識が、手近にいたキメラへと襲い掛かる。振り下ろされた円盤状の刃が、キメラの片腕を斬り飛ばした。
「よいしょ、っと!」
 間髪入れずに振り上げる。もう一本の腕が切り捨てられ、キメラが激痛に悲鳴を上げる。
「ふんふんふーん」
 陽気に鼻歌を歌いつつ、前に飛び出したのは戦神、秋奈である。『戦神特式装備第弐四参号緋憑』、『戦神制式装備第九四号緋月』、二振りの刃を翻し、きらめくは長刀による一閃の突き。両腕を失ったキメラの心臓に叩き込まれたそれは、キメラの生命活動を停止した。刃を引き抜き、刃についた血を振り払いながら、秋奈は名乗りをあげる。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 その名乗りに応じるように、キメラの一体が鋭い爪で斬りかかる。秋奈は短刀を滑らせ、その爪を受け流した。
「そう言えばこいつ等、何でこんな所を徘徊してるんだっけ?」
 とぼけたように声をあげる秋奈――その脇をすり抜けて、ゼファーが手にした古びた槍を突き出す。キメラの腹部へと突き刺さり、薙ぐ刃が鮮血をほとばしらせる。
「最近こういう依頼受けてるけど……妖精や門を守る、みたいな依頼だけど、とにかくそう言う依頼の報告によれば、連中の目的は妖精境の門みたい。それと」
 声をあげつつ、ゼファー、そして秋奈が飛びずさる――刹那の間をおいて、人工精霊の雷が着弾した。
「わたし達の、血や髪なんかがご所望みたいよ?」
 ゼファーの言葉に、秋奈が小首をかしげた。
「なにそれ。私たちの熱狂的なファンとか?」
「マジかよ。追加報酬は望むところだけど、あいつらにな何かやるつもりはねぇぞ」
 ウンザリとした様子で答えたのは、ことほぎである。そんなことほぎ達の気持ちを知ってか知らずか、キメラたちの苛烈な攻撃は止むことは無い。キメラによる剛撃、そして人工精霊たちによる雷の雨が、あたりにふりそそぐ。
「きゃあ! きゃあ! 怖い!」
 妖精が悲鳴を上げるのへ、
「チビども! 下手に動くんじゃねぇぞ!」
 ことほぎは妖精たちにくぎを刺しつつ、呪いの魔弾を人工精霊へ向けて放つ。内側から対象を蝕む呪いの魔弾は、人工精霊を撃ち抜き、呪詛をまき散らす。人工精霊が甲高い悲鳴を上げると、地に落下した。瞬くまに全身がひび割れて、そのままバキバキと壊れてチリと化す。
「ダイジョウブ、キミたちには当たらナイヨ」
 ジェックが撃ち放つ鋼の驟雨――それはジェックの巧みなコントロールにより、仲間達、そして妖精たちを避け、キメラのみを狙い撃つ。上空から迫る弾丸が、キメラに次々と突き刺さり、キメラ達の体力を奪う――その内の一匹が、己の死期を悟ったか、雄たけびを上げると突撃してくる。
「おっと、トッコーってやつカナ」
 ジェックの持つ黒の銃が、サイレンサーを通して静かな銃声をあげた。その足を貫かれたキメラが体勢を崩すが、しかし雄たけびを上げて此方へと突っ込んでくる。
 妖精が狙いか、と身構えた仲間達であったが、しかしその予想は外れた。キメラはことほぎに向い突撃すると、すれ違いざまにその拳を振るう――。
「チッ……!」
 舌打ち一つ、ことほぎが体勢をそらした。キメラは直撃を確認することなく、そのまま森の奥へと走り去る。
「逃がさナイ……いや、ホウっておいても大丈夫カ」
 ジェックが銃のポイントを外す。そのままことほぎへと声をかけた。
「ケガはないカイ?」
「無い……けど、クソ、髪の毛を持ってかれた!」
 ことほぎが舌打ちをする。
「あら、あら。噂の行動ね♪」
 フルールが微笑みつつ、その手を振るった。巻き起こる焔が、人工精霊を焼いて、次々と四散させていく。
「ことほぎおねーさんの、熱烈なファンだったのかしら♪」
 フルールの言葉に、ことほぎは頭を振った。
「やめてくれ、嬉しくねぇ!」
「うふふ。でもこれで、残る魔物もあと少しですよ?」
 フルールが再度腕を振るう。大地を嘗め尽くすような炎が走り、キメラを一体、飲み込んで焼いた。
「うふふ、綺麗♪」
 ニコリと微笑むその表情に、理性と言う物は見受けられない。
 さて、仲間たちの奮闘により、魔物たちはその数を一気に減らしている。
「今ここで、速やかに。貴方を焔色に導きましょう」
 クーアは呟きと共に、手にしたプラズマ砲をキメラへと突き付けた。間髪入れず発射されるそれが、キメラをチリも残さずに焼き尽くす。
「はい、これでお終い、っと!」
 ごり、と音を立てて、芒の道路標識が人工精霊を叩き潰した。魔物の類は、これにより姿を消している。
 芒は、むー、と声をあげると、ぱたぱたと手を振った。
(「やっぱり手ごたえが面白くないなぁ。妖精は、どんな感じなのかな?」)
 暗い好奇心を胸に秘めつつ、芒は妖精たちに、ニコリと微笑んで見せた。

●悪い人たち
「……怪我はなーい?」
 ゼファーは武器をおろしつつ、妖精たちに声をかけた。仲間達も合わせて、武器をおろし、安ど感を演出する。
「うん、大丈夫よ!」
 おそらくは一番年下であろう少女風の妖精が、人懐こく声をあげた。
「おかげで助かったよ」
 少年風の妖精が声をあげるのへ、仲間達は頷いた。
「ふふふ、ふふふ♪ 一件落着ね?」
 フルールの言葉に、妖精たちがうんうんと頷いた。
(「さテ……」)
 一方、ジェックは気づかれぬように、ゆっくりと銃のトリガに指をかける。いつでも発射できるように。後はタイミングを合わせて、攻撃を仕掛けるだけだ。
 仲間達は気づかれぬように、妖精たちを取り囲んだ。無事の喜びを、皆で確認することを演じて。妖精たちを主役であるように囲んで、口々に無事を称え合う。
「……?」
 その様子の不自然さに気づいたのは、少年風の妖精だった。この人たちは、どうして自分たちを解放してくれないのか? それよりも――自分たちは、取り囲まれていないか?
 好意の裏に演出された、敵意。それを敏感に感じ取れたのは、妖精たちが純粋な存在であったが故か。
「……この人たち……変だ」
 少年風の妖精が告げる――。
(「ゲンカイか!」)
 ジェックは手にした銃を、一気に掲げた! それに気づいた少年風の妖精が、声をあげる。
「ココ、ナル、クゥイ、逃げろ!」
 少年風の妖精が叫ぶと同時に、ジェックは引き金を引いた。降り注ぐ鋼の弾丸が、妖精たちへと、致命傷を避けるように、着弾する。
「きゃあ!」
 ナルと呼ばれた妖精が悲鳴を上げる――。
「どうして!?」
「わっはっはっはー! ざーんねん。私はあなたたちを守るナイトじゃなくて攫いに来た魔王でしたー」
 秋奈が明るく声をあげる――同時に、仲間達は同時に武器を再び構えた。
「……悪く思わないで下さい、妖精さん」
 クーアが小さく声をあげ、ナルに近づいた。
 同時に放たれる、衝撃の術式――ナルはその衝撃に昏倒すると、意識を手放す。
「ナル!」
 少年風の妖精が叫ぶ。
「お前らーっ!」
 焔の術式を編み上げる、少年風の妖精。編み上げたそれを地に叩きつけると、周囲に爆炎が巻き起こった。だが、その必死の抵抗も、クーアたちにとってはそよ風のようなものだ。
 ココ、そしてクゥイも、それぞれささやかな術式を編み上げて抵抗する。小さな炎の火花が巻き起こり、クーアたちの目を一瞬、くらませた。
「今のうちに……!」
 踵を返す少年風の妖精へ、
「残念」
 芒が立ちはだかる。芒は躊躇なく、手にした道路標識を、少年風の妖精へと叩きつけた。円形の刃が、少年風の妖精を切り裂く。その一撃で、少年風の妖精は絶命した。羽ばたくことすらせず、地へと落下する。
「なるほど。こんな感じかぁ」
 感触を確かめるように、芒が手をグーパーと開いたり閉じたりしていた。
「ちっ、残りの二人は……!?」
 ことほぎが叫ぶのへ、返したのはゼファーである。
「残念ながら、門の向こうへご帰還です」
 肩をすくめるゼファー。攻撃を仕掛けるタイミングが、少々遅れたのが原因だろうか。或いは少年風の妖精の、決死の反撃が功を奏したのか。いずれにせよ、ココ、クゥイと呼ばれた妖精たちは、既に門の向こうへと逃げ去ってしまったようだ。
「まじかーっ! くそ、追加報酬が!」
 思わず頭を抱えることほぎであったが、
「あら、少しくらい逃がしてもバチは当たらないわ?」
 にこにこと、フルールが言う。ユリアンから依頼された、妖精の捕獲数は一人――ならば、今クーアが捕まえているナルという少女風の妖精、それだけで充分だろう。
「気持ちはわかるわ♪ でも、少しくらい情けをかけることも良いと思うの♪」
「くそっ、情けより報酬が欲しかったぜ……」
 ことほぎがうなだれる。とはいえ、今から妖精たちを追うことは出来ないだろう。
「そんなに追加報酬欲しかったのかよ」
 ユリアンがくすくすと笑うのへ、
「当たり前だろうが。あー、死体とか使うか? 綺麗に施してやるぞ」
 ことほぎが答える。ユリアンは頭を振ると、
「生きてないと金にはならなくてなぁ。残念だったな」
「うふふ♪ あまり強欲だと身を滅ぼすわ」
 フルールの言葉に、ことほぎは肩をすくめた。いずれにせよ、依頼の達成は、成ったのである。
「そう言えば、俺なんかの依頼を受けて、今後のお前らの活動に影響とかしないのか?」
 ユリアンはナルに薬を飲ませて眠らせつつ、イレギュラーズ達へと尋ねた。妖精たちからの依頼を受けていることも多いイレギュラーズ達だ。となれば、向こうに悪感情を抱かれるのではないか、という懸念だが、
「それなら大丈夫なのですよ」
 クーアがこともなげに、答えた。
「私達、一度も自分たちの所属名乗ってないしね。ローレットとかイレギュラーズとか、一言も口にしてないでしょ。だから今回は、わるーい悪党たちによる誘拐事件、ってわけ」
 なるほど、確かに――ユリアンは舌を巻いた。元より、ローレットそのものが、イレギュラーズとして受けた依頼によりデメリットを負う事は一切ないのだが、それでも念には念を、という事なのだろう。
「悪い奴らだねぇ、本当に」
 ユリアンが感心したように告げるのへ、
「でしょ? みんな良い子なのにねぇ」
 ゼファーは肩をすくめる――イレギュラーズ達は、にやり、と笑ってみせた。
「ま、なんにしても助かったぜ、流石は天下のイレギュラーズ達だ。じゃ、引き続き、森から脱出するまでご同行願うか」
 ユリアンが笑うのへ、イレギュラーズ達は頷いた。
「じゃあ、帰ろうカ」
 ジェックの声を合図に、イレギュラーズ達は帰路へ着くのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ラサの好事家なのですが、大変満足しているようです。
 ユリアンも、皆さんに好意を抱いている様子。また何らかのアプローチがあるかもしれませんね。

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