PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>赤き女神と空の蛇

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 局地嵐(サプライズ)、狂王種(ブルータイラント)、幽霊船に海賊ドレイクーーそして、魔種。
 恐れるべき数多くの相手と刃を交えながら、絶望の青の前半戦を挑んできたイレギュラーズと海洋王国は念願となる橋頭堡を遂に確認することができた。
 それこそが『アクエリア』――――とある情報筋から得た、大きな島である。
 食料と清潔な水の補充が出来て、なおかつ軍艦が十分接舷できる場所があり、臨時の工廠や司令部を置けるスペースさえおけそうなこの島は、まさに打ってつけであるといえた。
 だが――そんな重要な場所を絶望の青に君臨する大魔種『冠位嫉妬』アルバニアやその傘下の有象無象の魔種共が素通りさせてくれるはずはなかった。
 『アクエリア』には、アルバニア傘下の魔種達やその影響を受ける狂王種が待ち構えていた。

●遺された者達
 レッドワインカラーの船体が波の飛沫を受けていた。船首に設置された女神の像は、まっすぐに向かう先を示している。
 女は煙をくゆらせる煙管からぽうと口を離し、望遠鏡をのぞき込む。
「あれが『アクエリア』か? なるほど。ここからでもえぐいものが見える」
 女はそういうと、君に向かって望遠鏡を放り投げる。
 それを受け取った君は、望遠鏡からまだ姿が見えるだけの大きな島の沿岸をのぞき込んだ。
「ほかの連中もあの島を制圧したいんだろうが、こりゃあアタシらのやるべきことは他にありそうだ……」
 そういう女船長――『レッド・メーカー』アルビダ・アヴァンティの言葉に答える様に、島に停泊していた一隻の何かが動き出す。
「気づかれたみたいだな。もしものために迎撃の準備は常に怠るな!」
 アルビダは相手が迎撃に出てきたことに気づくや、すぐにそう声を上げた。
「イレギュラーズ。いいか、今からアタシ達はあの船に乗ってるやつらを連れて少しばかりこの場を離れる。
 だから、お前らにはその隙にあの船に乗り移って沈めてほしい。難しいことじゃないだろ?」
 言いつつ、アルビダは冷静に君たちの方へ振り返る。
 黒い髪の間にてレッドワインカラーの瞳が君たちを見る。
「アタシらがあの船を沈めれば、きっと他のやつらが上陸するだろ。
 アタシらの活躍で助かるやつらは多いはずさ」
「船長! 敵の船から何かが向かってきます! あれは……鳥? 大型の鳥です!」
 観測をしていた女がそう叫べば、アルビダはくるりと舵の方を向きなおした。
「それぐらいはするだろう! それ以外に何かないのか?」
「と、鳥の足に何か括り付けられています!」
 続けた報告にアルビダが舌打ちして、近くにいた部下から望遠鏡を貰って鳥を見る。
「ありゃあ……砲弾だな。 ちっ、まずい。斥候かと思ったけど、ありゃあ、鳥ごと使い捨ての弾丸ってとこか!」
「イレギュラーズ! こっちでも小型船は用意してある。なけりゃそれを使いな。
 ――けどまずは、あの鳥をぶち落とさないことにはどうしようもないか」
「船長! 敵船から同じような大型の鳥がいくつもこちらに向かって飛んできます!」
「そらそうだ! 総員、対空砲撃準備!」
 叫ぶように言いながら、しかし冷静に、アルビダが舵を取っていく。

●切り捨てた者達
 少しばかり苦し気に顔をゆがめながら、男は苛立ち気味に海上を覗いていた。
 眼帯のない方の片目で望遠鏡を見据え、舌打ちを一つ。
「来たか! 海洋め! 妬ましき愚か者どもめ!」
 バンッと後ろ手に引き金を引く。
 後ろで何かが倒れる音がした。振り返れば、そこには大型の鳥が倒れていた。
 男はぎょろつく目でそれを見下ろすと、ピュイと口笛を一つ。
 その直後、男の周囲に複数のスケルトンが姿を現し、持ち場についていく。
「ここから先は行かせてなるものか! 生者のままにいけるものか!
 アルバニア様のため、やつらにはここで眠ってもらわねば!
 我らが今までなせなかったことを、やつ等にさせてなるものか!」
 口から吐き出す悪意をそのままに、男が船を動かした。

GMコメント

そんなわけでこんばんは。
春野紅葉です。

●オーダー

敵船を沈める。

●戦場
・母艦『空蛇』
 全長60mの巨大な飛行用甲板を有したバカでかい船です。
 遮蔽物になりそうなものは複数のマストを除き全くありません。
 また、柵などもないため、下に落ちる可能性もあります。

●敵戦力
・魔種『ブラウン・ジャック』
敵戦艦を操る魔種です。一見すると飛行種の壮年男性ですが、その両手は機関銃、両足は小さな内反りの鎌になっています。
常に低空飛行をしています。

魔種相応に強いです。

〔スキル〕
・狂気伝播(P):自範相当範囲へ狂気を伝播しています。
・ツインマシンガン(A):物中貫 威力中 【呪い】【致命】【連】
・サイドストライク(A):物近単 威力中 【移】【呪縛】【猛毒】
・ディザスターインパクト(A):神中域 威力小 【飛】【泥沼】【崩れ】【呪殺】


・バード・ボム
 母艦『空蛇』に20体存在する大型の鳥型の狂王種です。
 処理しない場合、1ターンに2羽飛び立ち、味方の旗艦や随伴艦に向かって飛んでいき、砲弾をぶち込みます。
 海上を小型船で進む間以外、基本的にイレギュラーズに砲撃を投げつけてはきません。

基本的に味方の船の対空砲撃だけでなんとかなる程度の雑魚ですが、
イレギュラーズのスキルの方が効果的に倒せることは間違いありません。

〔スキル〕
・飛行限定(P):飛行ペナルティを受けない代わり、地上と飛行ペナルティの起きない低空飛行時に飛行ペナルティと同じ分の能力減算を受ける。
 ただし、衝突ダメージはあり。
・ショットボム(A):物超範 威力大 【万能】(一度のみ)
・爪(A):物至単 威力中 【麻痺】【流血】


・スケルトン
10体ほどのスケルトンです。
大した能力はありませんが、EXFが異常なまでに高い可能性があります。

●味方戦力
・『レッド・ディアナ号』
皆様が搭乗中の旗艦です。
レッドワインカラーの船体に、女神の像が設置された船首が特徴的な美しき船です。
基本的には向かってくるバード・ボムへの対空砲撃に終始しています。

大砲はイレギュラーズも使うことが可能です。

残って対空砲撃を手伝っても構いませんし、
任せきって全員で敵の船に行っても構いません。

・『レッド・メーカー』アルビダ・アヴァンティ
【木の上の白烏】 竜胆・シオン (p3p000103)さんの関係者です。
レッド・ディアナ海賊団の女船長。
非常に卓越した航海術とカリスマ性を持っています。
今回はどちらかというと海賊の本分たる略奪はあまりできない状況ですが、
彼女にとっての海賊の流儀に従って参戦した様子です。

・【レッド・ディアナ】海賊団船員
優秀です。
対空砲撃にかかりきりです。

・【レッド・ディアナ海賊団】2隻
旗艦に比べると多少は質が落ちますが、
バード・ボムぐらいは任せても問題はないです。


●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <バーティング・サインポスト>赤き女神と空の蛇Lv:15以上完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月20日 23時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師

リプレイ


「船長、今回は私の船を使わせてもらうよ。
 お気遣いありがとう」
 アルビダへとそう答えた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)に、アルビダは舵を冷静に取りながら視線を向ける。
「そうか。それならば、その船で行った方が勝手がいいだろう」
 頷いて見せたアルビダは船の向きをある程度動かしながら、バード・ボムを見据え。
「打ち方、はじめ! のんきに飛んでる間抜け共を焼き鳥にしてやれ!」
 角度調整をした対空砲が火を噴いた。
 ゼフィラはその様子を一瞬横目にして、自らの小型船へと移動を始める。
(ヒューッ!こんな美人な女キャプテンの元でなら、
 海賊やるってのも悪くねーな!)
 そんなことを思っていた『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)もまた、すぐに小型船の方へと走っていく。
(わー……大きい船……甲板で寝たら解放感ありそー……
 でも匂いが酷そうだし……やめておこー……)
 敵の船の威容を見て、『木の上の白烏』竜胆・シオン(p3p000103)はぼんやりとそんなことを考えていた。
「うわぁ、すっごく大きなお船……
味方だったら頼もしかったかもしれないけど、邪魔をしてくるなら倒しちゃわないとだね!」
 望遠鏡を使って船を眺めていた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は望遠鏡を降ろして変わるようにカグツチ天火を燃やす。
「差し詰め、あれは空母といった所か。
 中々の大物だな。腕が鳴る!」
 威容のある敵の船の姿を見た『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は滉瀁濺濺を軽く担ぐようにしながら、目を輝かせる。
「はっ、バカでかい船だな! こいつは沈め甲斐がありそうだぜ!
 さて、そんじゃさっさと行こうか」
 大剣を背負る『常闇の死神騎士』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)もまた、そう意気揚々と笑う。
「それじゃあ、まずは小型船に乗って突撃だね!」
 焔、汰磨羈、エレンシアの3人に応じる様に『魔法騎士』セララ(p3p000273)はラグナロクを握る。
 4人は頷きあうと、ゼフィラの小型船の方へと走り出す。
「こんな処で躓いてはいられませんからね。
 申し訳ありませんが船ばかり大きくて度量の小さい方は除させて頂くのです」
 潮風に靡くロングコートの端を抑えながら、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は頷くと、静かに小型船の方へと動き出した。
 それに続く様に『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)も続いていく。

 舵を取ったゼフィラは小型船をやや『レッド・ディアナ号』から離れる様に舵を取りながら走らせていく。
「この調子なら、もう少し遠くに行った方が風の流れ的に速く敵の船に近づけると思うぜ」
 ギフトの効果で天候変化を予測した『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)がゼフィラに告げると、それに応じる様にゼフィラ舵を動かしていく。
 小型船の先首付近にて汰磨羈はじっと視線を敵の船に向けている。
 汰磨羈がじっと集中していると、敵の船から飛び出した2羽のバード・ボムがこちらへと近づいてくる。
「バード・ボムが向かってくるぞ!」
 汰磨羈はその姿を見止めてすぐにそう仲間たちに告げた。
 カイトはその様子を見て取ると、その緋色の翼を羽ばたかせて舞い上がる。残像を引き、空を駆け抜けて1匹を捕捉する。
 まるで剣撃の如く鋭き高機動戦闘を受けたバード・ボムがその鋭き一撃に明らかなダメージを受けて動きを止める。
 焔はその様子を見逃さなかった。炎の爆弾を作り出すと、フルスイングと共に投擲する。
 放物線を描く炎の爆弾は、手負いのバード・ボムに炸裂すると共に紅蓮の焔で焼き尽くし、攻撃を受けたバード・ボムはそのまま海面へと落ちていった。
 一方、対空攻撃を受けずにすんだもう1匹が、まっすぐに飛んで小型船へと足に装填された砲弾を放り出す。
 それは綺麗な動きでイレギュラーズの小型船へと落ちてくる。
「さて、少々揺れるよ?」
 ゼフィラは冷静に砲弾を見上げながら舵を動かした。強烈な動きで波を裂いて小型船が動く。
 ゼフィラはそれに続けるようにして砲弾の方へと身を跳ねた。
 激痛が身体を刺しながら、ゼフィラは舵に戻っていく。
 ヘイゼルは自らの調和の力を賦活へと変換してゼフィラに注ぎ込んでいく。
 ラグナロクを握るセララは、砲弾をこちらへ放り込んできたバード・ボムを見据える。
 その瞬間、ラグナロクの帯びた力が闇色に変色し、ピシ、ピシと音を立てながら剣身が分かれていく。
 そのままラグナロクを振り上げ、思いっきり振り下ろせば、蛇腹のように伸長した剣身がバード・ボムを切り裂く。
 シオンは落下しながら体勢を立て直したバード・ボムに視線を向ける。
 微かに旋回しながら滞空するバード・ボムの、特に翼を狙い定め――大太刀を抜く。
 バチッ――微かに雷を帯びた大太刀の刀身を振りぬけば、飛翔する斬撃。
 空を駆け抜けた斬撃が、微かに翼の中ほどに大きな傷をつける。
「ハッそんなもんで沈められるものかよ!」
 小型船の船首に立ったエレンシアは黒色の大剣を掲げた。
 綺麗な、しかし深い闇のような光を浮かべると、それをバード・ボムめがけて放つ。
 それは綺麗な軌跡を描いてバード・ボムを焼き払う。
 もう少しで倒れそうで倒れないバード・ボム目掛け、サンディは手を空へ掲げた。
 その瞬間。はたはたと、周囲の風が不自然に変化していく。
 やがて嵐と呼ぶに相応しき旋風へと変質したそれは、バード・ボムの方へと海水を巻き上げながら突き進む。
 海水に巻き込まれ、バード・ボムは天高く打ち上げられ、気づけば海面にプカリと浮かんでいた。
 海をかき分けて疾走した小型船は、やがて巨大な船の近くへと移動していく。


「全くもって忌々しいやつらめ!
 ぬくぬくと内海で過ごしておけばいいものを!」
 船へと乗り込んだイレギュラーズに対して、そう魔種が叫ぶ。
 セララのサポートのおかげで、イレギュラーズは無事に船の甲板へ着地することはできた。
「相変わらず嫉妬の魔種と云うのは詰らない輩なのです」
 そう答えたのはヘイゼルだった。
「競争をしているのでもなければ他人の成功失敗など
 自分のものと何ら関係は有りませんのに」
 続けたヘイゼルの言葉に、魔種が露骨に視線を向けた。
「いな! いな! ――競争はある!
 どこであろうとな!」
 そう叫ぶのと同時――魔種が動いた。
 魔種は急速な接近と共にイレギュラーズの近くへ到達すると、猛烈な旋風を巻き起こす。
 幾つかの異常がイレギュラーズを襲い、何人かが船の外へと放り出される。
 幸い、飛行可能なイレギュラーズが落ちる前に助けることで問題は起きなかった。
 手薄な場所を選んだものの、船に乗り込んだ直後では中央付近のマストへ近づくにはわずかに時間が足らない。
 会敵直後の初撃、遠距離攻撃に晒されるのはしかたがないことではあった。
 指示を受けたスケルトンが続々と近づいてくる中、汰磨羈はブラウンジャックの死角を突くと、濃縮された水行のマナで構成された霊体『虒爪』を爪先に生やし、一気に懐に潜り込んで霊体を薙ぐ。
 脇差ほどもある虒爪は魔種の肉体を微かに掠め、そこから霊力を奪い取る。
「いくら妬もうが俺には関係ない、俺の翼を遮らせるもんかよ!」
 続いて反応したのはカイトだ。
 多次元的な超加速による変則機動で駆け抜けたカイトの三叉蒼槍がブラウンジャックを裂いていく。
 焔は再び火炎弾を作り出すと、こちらに向かって進んでくるスケルトンめがけて投擲する。
 放物線を描いた爆弾はくるくると回転しながら炸裂し、スケルトンの骨の幾つかを焼き払う。
 シオンは二人の連撃に合わせる様にして大太刀を構えた。
 疾走と共に、大きく踏み込み、大きく構えた大太刀を振り下ろせば、魔種のマシンガンに傷をつける。
「ひとまず、なるべく中央へ!」
 セララの声に続けるようにイレギュラーズ達は中央へと移動を開始する。
 足場の安定性を求めてわずかに滞空するセララは、振り返りざまラグナロクに籠める魔力を変えた。
 美しい魔力を帯びた聖剣は片手剣へと姿を変えた。
 少しだけ体勢を整え、踏み込みと同時、剣を十字に引いた。
 美しい十字はセララの正義の心を映すような温かみさえ感じられる。
 サンディは立ち位置をマスト付近への移動を終了すると、再び嵐を呼ぶ起こす。
 強烈な圧力を持つソレは、密集しているスケルトンの方へと降り注ぎ、押し付けられた状態異常も伴って傷を深めていく。
 エレンシアはマスト付近にいたスケルトンへと至近する。
「邪魔だ! ぶっ飛ばす――!」
 大剣を握るエレンシアは僅かに前に大剣を突き立てると、そこを軸にするようにして、自らの足を鎌刃のようにぐるりと薙いだ。
 強烈な一撃に、一匹のスケルトンがすっぱりと頭部を跳ね飛ばされ、一瞬の停止。
 直後、そいつが手に持つカットラスをエレンシアへ振り下ろした。
「生憎と直接戦闘は不得手だが……サポートなら任せ給えよ」
 ゼフィラは仲間たちの立ち位置を見極めて静かに目を閉じる。
 すっと構えたのは不思議な指揮棒。
 ふわふわと舞うように揺れ動く指揮棒の動きに身を任せれば、疲れたように体が重くなる。
 それに反比例するように、仲間たちの力が増していくのが分かった。
 布陣が整った頃、アオイは自らの近くにいる仲間たちへと天使の福音を齎していく。
 ヘイゼルはそんなアオイの行動が終わるまで待った後、自らの結界術式を展開する。
 輝く赤い術式は域範囲にまで広がり、仲間たちが受けた状態異常を修復していく。
 それに続けて、ヘイゼルは魔力糸を一番傷の深い仲間へ伸ばしてその傷をいやす。

 イレギュラーズがマストへと移動を完了したころ、幾つもの砲撃が甲板を襲う。
 レッド・ディアナ号から放たれた砲撃の幾つかが、バードを何羽か吹き飛ばす。


「ちぃ……面倒な」
 苛立ちのようなものを露わにした魔種がぎろりと3人をにらむ。
「航空戦ごっこは終了だ。ここからは、楽しいインファントの時間だぞ?」
 汰磨羈はブラウン・ジャックの死角を取ると、自らの身体に掛かっていたリミッターを外す。
 生み出すは爆発的な加速。
 そのまま時間さえも置き去りにして、マナの光を帯びた滉瀁濺濺で撃ち込んだ。
 回避行動をし損ねた魔種は鎌状の足を振り上げ鉄扇に合わせようとするが、微かな隙へと鉄扇がめり込む。
 それだけでは止まらない。
 再び自らにかかった制限を投げ捨てた汰磨羈は更に大きく踏み込み、魔種のみぞおちに滉瀁濺濺を叩きつけた。
 「女ァァ!!」
 絶叫と共に、魔種が視線を汰磨羈に注ぐ。射角を調整するようにして後退したブラウンジャックが両腕のマシンガンの弾丸を汰磨羈とシオンへと叩きこんでいく。
 強烈な呪いと致命的な傷が開いていく。
 体勢を立て直すよりも前に、魔種の銃声が再び響いた。
 カイトは自らの緋色の翼を大きく開いた。
 羽ばたきと同時に放たれた複数の緋色の羽根が赤い爆風を伴い魔種を痛めつける。
 派手な輝きを放つ翼の攻撃に、魔種の目がカイトへと集中していく。
「なぁ、お前さんもなかったのか? その翼を空高く羽ばたかせてた時期が。
 まあ、そんな重いもんつけてたら無理かもしれないけどな!」
「小僧……!」
 目を見開き、怒りを向ける魔種の意識を更に注目させるように、カイトはまっすぐに目を合わせる。
「妬むぐらいなら足を引っ張るより前に飛ぶぜ。自由に飛べる翼があるんだからな!」
「黙れ黙れ黙れ! 小僧如きに何がわかる! 飛べなくなったその日のことが!」
 憎悪に染まった魔の瞳が、カイトを射抜く。
 シオンはやや後退すると、大太刀を緩やかに構える。
 ヘイゼルは戻ってきたシオンの致命的な傷と呪いを晴らすべく魔性の直感を用いて強制的な支援を与える。
 体勢を立て直したシオンへ、ヘイゼルは自らの調和を譲渡していく。
 赤い魔力糸の支援を受けたシオンの傷が、少しずつ癒えていく。
 シオンはブラウンジャックへと斬撃を見舞うべく構えを取ると、ふと視線の先でスケルトンを見た。
「――天国(あまくに)の黒光よ、響け」
 ほんの一瞬の判断。
 シオンはぽつりとつぶやいて、一気にそのスケルトン達の前へと移動する。
 黒雷を帯びた刀身が爆ぜる。
 3体のスケルトンを巻き込んだ黒雷はその骨の身体を走り抜け、木っ端みじんに粉砕する。
「ぐうぅぅ……おのれ……」
 傷を受けて少しだけよろけた魔種に対して、カイトが動きの注意を引いていく。

 焔は火炎弾を再び作り上げる。先ほど、火炎弾を放り投げた辺りのスケルトンへと、もう一度火炎弾を放り投げた。
 着弾と同時、爆風を伴い炸裂した火炎弾が、複数のスケルトンを粉砕する。
 エレンシアは攻撃してきたスケルトンから一度、離れる様に間合いを取った。
 そのまま、ぐるりと身をひるがえし、もう一度、鎌のようなしなりを持たせて蹴撃を放つ。
 死神の鎌のような一撃を受けて、そのスケルトンはいくつかの骨を甲板へと散らばせながらも、まだエレンシアの方へ向かってくる。
 セララはエレンシアに襲い掛かるスケルトンの方へ蛇腹剣型のラグナロクを構えなおす。
 振り上げるような斬撃が飛び、エレンシアに襲い掛かっていたスケルトン、更には同じ射線上にいたスケルトンに大きな傷をつける。
 同時、それまでエレンシアに襲い掛かっていたスケルトンは動きを止めて甲板に骨となって散らばった。
 ゼフィラは幽玄の指揮を続けていた。何者かが描いているのかわからないその詩曲が魔力を帯びて形を成していく。
 それはやがてブラウンジャックの方へと地を這うように突き進み、無数の晶槍となってその肉体を貫いた。
 サンディは再び嵐を呼び寄せる。
 凄まじい旋風が急速に集まっていき、イレギュラーズの猛攻を受けたスケルトン数体を巻き込んで切り刻む。
 吹きすさぶ嵐が病んだ後、気づけば幾つかのスケルトンが大地に骨となって転がって終わる。

 イレギュラーズが戦いを続けて時間が経った。
 必殺を持つイレギュラーズの活躍で、スケルトンは既に完全にただの骨に戻っている。
 至近した魔種の両足による強烈な斬撃がカイトを襲う。
 はやての羽による風のバリアが斬撃の穂先を僅かにそらして致命傷を避けるが、その余波と毒性がカイトを蝕んだ。
「へへっ! こんなもんかよ! 大したことないな!」
 カイトは応じる様にそういうと、三叉蒼槍を構えなおす。
 みなぎる気迫を三叉蒼槍に籠め、まっすぐに強烈な刺突を放つ。
 魔種の腹部に突き立った三叉蒼槍から送り込まれた『気』が自らの毒性を浄化した。
 汰磨羈もまた、少なくない傷を戦いの中で受けている。
「ほざけぇぇ!」
 魔種の絶叫を横に、汰磨羈は滉瀁濺濺を構える。
 虒爪により気迫を奪い、己が者とした汰磨羈は少しだけ深呼吸した。
「前菜で咽るつもりはない。大人しく食われて果てろ!」
 己の制限を破却し、まさに閃光と呼ぶほかない強烈な一撃を叩き込む。
 一つの呼吸のうち、一度、二度と繰り返した連撃に、魔種の動きが混乱したように鈍る。
 ヘイゼルは深い赤に輝く魔紋を更に励起させる。
 魔紋の魔力に合わせた赤い魔力糸はカイトと汰磨羈へと迸り、その体勢を立て直させる。
 続けるような賦活力はカイトを回復させるのにかかりきりだった。
「廃滅病になっちゃった皆の為にも先に進まないといけないんだ。
 邪魔するなら容赦はしないよ!」
 焔は自らに宿る神々の加護を極限まで叩き上げる。
 紅蓮と化した自らの全てを叩き込むように、グッとカグツチ天火の構えを取る。
 突き、薙ぎ払い、叩き落す。カグツチの炎を限界まで打ち上げた力を叩き込む。
 闘気が終息に近づくころ、魔種の肉体には無数の炎がもたらされていた。
 ゼフィラは生命力の犠牲をいとわず、再び指揮棒を握る。
 御子の奏でる幽玄の旋律が、再び仲間たちの集中力を掻き立てていく。
 ブラウンジャックの視線はカイトへと集中し、こちらの方へは意識を向けてないように見えた。
 シオンはそれを悟るや背後に回り込んだ。
(またこっそりあの赤い船のマストのとこで寝たりする為にも……
 負けられない……!!)
 ぎゅっと握りしめた持ち手を力いっぱいに薙ぎ払う。
 踏み込みと同時、バチッ――再び黒き雷を纏った大太刀を振り下ろし、魔種の翼を切り刻んでいく。
「この立派な船で絶望の青を踏破しようとしたんだよね」
 セララは魔力を極限まで高めながら魔種へと問いかける。
 カイトから視線をセララへ戻した魔種の双眸に、ほの暗い何かが見えた。
「だったらキミの望みはボク達が引き継ぐよ」
 続けた言葉に、ブラウンジャックの目がブレる。
「なにも――何もわかってない! きさまらは!
 どいつもこいつも二言目にはそれだ! まったく妬ましい!」
 ガチャリと向けられた銃口に相対するように、セララは一歩踏み込んだ。
「――くらえ!」
 極光と共に放たれるは斬撃。十字を切る聖剣に、魔種は防御のタイミングを失してのけぞった。
 そののけぞったタイミングをエレンシアは見逃さなかった。
 走り抜けた彼女は、ブラウンジャックのそれの如く、足を鎌のように薙ぎ払う。
 強烈な蹴撃は大きな隙を見せる魔種の急所を直撃した。
 サンディは再び嵐を呼び寄せた。
 上空に立ち込めた暗雲が稲光を放ち、吹き荒れる暴風は魔種のみを狙い撃つように畳みかけ始める。
 異常気象を呼び寄せた嵐を呼ぶ男は、静かに魔種へと手を伸ばす。
 直後――雷光が輝き、雷鳴が鳴った。
 打ち据えられた魔種が体を震わせる。
「どいつもこいつも――妬ましい!
 どこまでもどこまでも向かってきおって……」
 ぎろりと、魔種の目がイレギュラーズ全てを見渡した。
 直後――今度はあちらから、嵐がイレギュラーズへと襲い掛かる。


 戦いは続いていた。万全な状況でも下手を打てない魔種を相手にするのに、回復を担うものがあまりにも少なかった。
 あるいは、もっと多く魔種を抑える者がいれば損害の集中は避けられたのかもしれない。
 受ける攻撃はしばしばイレギュラーズの想定を超える傷となって蓄積を続けていた。
 パンドラの加護が開いていない者はほとんどいない。
 だが、少しずつ、イレギュラーズは魔種との戦いを終わりに近づけつつあった。
「くそ、くそが……
 お前たちみたいな何もわかってない奴らに……」
 胡乱な瞳でこちらを見る敵には既に傷が多い。
 明らかな損害は受けていても、数の有利というのはある。
「……今度こそ、終わりにしてくれる」
 汰磨羈はほとんど枯渇しつつある自らの気力を振り絞り、最後の一撃を見舞うべく鉄扇を構えた。
 これまで幾度となく動きの軸となりそうな関節や足腰を集中して破壊するように心がけていたが、その成果はたしかにあった。
 もう何度目になるか。踏み込みと同時に自らの限界を叩き上げ、振り抜く光の一撃が、再び魔種の腰部分を薙ぎ払う。
 三度に及ぶ連撃に魔種がたたらを踏んだ。
「海の男は死んだら海で眠るもんだ。叩き寝かしてやる!」
 握りしめた三叉蒼槍に魔力を籠めながら、カイトは宣言と共にまっすぐに敵を殴りつける。
 左から薙ぎ払うような一撃は、不意を突いたように魔種の防御を無視して痛撃を叩き込んだ。
 焔は一歩前に出てカグツチ天火を構えた。
 煌々と燃え盛る炎はあたかも正義を標榜するかの如く。
 タン――と一足飛びに突っ込み、カグツチを振るう。
 炎の軌跡を描いたソレは魔種へと痛烈な一撃を撃ち込み、同時に自らを蝕んでいた状態異常を払う。
「詰らない在り方は、ここで終わりにするのです。
 私たちは先に行くのですよ」
 ヘイゼルはずきりと痛む魔紋の力を振り絞る。
 極限まで集中し、もう一度放つには時間がいりそうになる最後の号令を発した。
 ゼフィラはそれに続く様に最後の指揮を振るう。
 翠のエネルギーラインが明滅しながら、描かれた指揮と共に魔力が地面を這い、魔種の脚部を破砕する。
 シオンはもういちど踏み込んだ。
 ほとんどつきかけた力を振り絞り、大太刀を振り上げる。
「これで……」
 強烈な一撃が、魔種の左腕をを根元から断ち切った。
 エレンシアは大剣を構えたまま、魔種の方へと走り抜ける。
「おら、ぶっとびな!」
 握りしめた大剣に体重を乗せ、叩きつける様にして切り伏せる。
 よろよろと残った腕で防ごうとしたブラウンジャックの銃身がひび割れて吹き飛んだ。
「海原に踏み出す勇気もねー船なんざ無駄だ、さっさと沈んじまえよ」
 サンディは苛立ちようなものを滲ませながら告げる。
 嵐を呼び寄せる男は、まるで自分を嗤うかのような嵐を撃ち込んだ魔種へと、おそらくは最後となるであろう嵐をけしかけた。
 雷光が爆ぜ、風圧で魔種が甲板へと叩きつけられた。
「んでだ……んでこんなめに……」
「ボク達のために散っていった船員さんがいっぱいいるんだ。だから彼らのためにも!
 ――ううん。キミ達の分まで背負って絶望の青を乗り越える! ボク達が皆の希望になる!」
 セララはふらふらと飛び上がったブラウンジャック目掛けてまっすぐに相対し、聖剣を輝かせる。
「これで終わりだ! セララスペシャル!」
 踏み込みと同時に切り上げる。その余波を利用して、セララ自身も飛びあがると、返す刃でそのまま斬り降ろした。
「がぁぁっ!!!!」
 見開かれた魔種の目が、やがてほっとしたような者に変わり――そしてすぐに光を失った。

――――
――


 イレギュラーズは多くの傷を癒しながら小型船へと再び乗り込んでいた。
 大海原に浮かぶただの塊と化した巨大な船は、サンディが退去前に巻いて引火させた油もあって、火の手を挙げていた。
「全員、乗ったね? よし、じゃあ、離れるよ」
 ゼフィラはそういうと自らの小型船を大型船から遠ざけるような舵を取っていく。
 ひどく濃い死の香りもあって、ブラウンジャックから何かを持ち帰ることは難しかった。
「このぐらいの距離なら大丈夫そうなのです」
 ある程度遠ざかったところで、ヘイゼルは振り返って敵船を見る。
「あぁ、このぐらいで十分だろう」
「それじゃあ……船に合図をだそー……」
 汰磨羈が同意して、他のイレギュラーズを回し見たシオンは、事前に決めていた合図とばかりに斬撃を空へ飛ばす。
 それから少しの間と共に、『レッド・ディアナ』海賊団の船からいくつもの砲撃が大型船へと撃ち込まれていく。
 甲板に相当する部分の炎上に加えた『レッド・ディアナ』の猛攻撃が、どこか不味い場所に炸裂したのか、やがて幾度もの爆発を上げ――静かに海の底へと沈んでいった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

竜胆・シオン(p3p000103)[重傷]
木の上の白烏
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)[重傷]
旅人自称者
カイト・シャルラハ(p3p000684)[重傷]
風読禽
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式
アオイ=アークライト(p3p005658)[重傷]
機工技師

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

今回は飛行ができる生物がいる以上、飛行機の代わりに彼らを使った(?)空母は生まれてもおかしくないかも……みたいな敵でした。

それはそれとして、粛々と判定させていただきました。
まずは傷をお癒し下さいませ。

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