PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>悪食メアリー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 イレギュラーズたちの活躍により『絶望の青』は少しずつだが着々と海図を書き換えられていった。その矢先、探し求めていた橋頭堡となりうる島が発見された。海洋は悲願達成の希望を込めて、その島を『アクエリア』と仮に名付けた。


 深夜、霧の海を一隻の私掠船が慎重に進んでいた。
 今回の大号令で軍籍を得ることができた成り上がりの海賊船だ。所属は王国海軍ということになっており『絶望の青』で負傷した兵を港へ搬送する任務を受けていた。
 うんざりするような濃霧だ。とはいえここは『絶望の青』、嵐でないだけましかと船長は思い直した。見渡しても星どころか周りに何があるかすらわからない。おまけに凪いできた。
 どうします、と問われた船長はため息交じりに返答した。
「参ったな。エンジンを頼るか。あれを使うと狂王種が寄ってくるかもしれんから使いたくはないんだが、それ以上にこの厄介な霧を抜け出さなけりゃどうしようもねえ。こちとらラム酒の代わりに負傷兵をたんまり乗せてんだからな」
 その時だった。
 見張り台から船長を呼ぶ、緊迫した声が聞こえた。
 いつのまにそこへいたのか。淀んだ霧の向こうから、ぎこちなく唐突に姿を表した巨大な影。何本ものマストがそそり立つ木造帆船。朽ち果てた花嫁が穢れたウェディングドレスを引きずり彷徨うかのような、今はもう見る影もない、かすかな哀愁漂う。
「あれは、間違いなく……」
 双眼鏡を持つ彼はうめき、おののき、ふるえ、そして仲間のため全精力を振りしぼり叫んだ。
「メアリー・セレスティア号です!」
 その名を聞いた瞬間、船長は声を張り上げた。クルーを守るために、何より自身を鼓舞するために。
「面舵!」
 鞭で打たれたように我に返った操舵士が、必死の形相で舵輪を回す。急な進路変更で私掠船は揺れに揺れ、クルーたちはスクラムを組み手近な設備を掴んで、海へ投げ出されそうな体を船へ繋ぎ止めた。間一髪、目と鼻の先、手を伸ばせば船体へ触れられると錯覚しそうなギリギリの距離を、二隻の船はすれ違った。
(間に合った……)
 私掠船に乗る一同の胸にあるのはそれだけだった。

 幽霊船、その話は。
『絶望の青』ならば珍しくもない。メアリー・セレスティア号もその一隻。
 かつて遊興家の貴族と富豪が、当時における最高の装備と贅の限りを尽くして建造した武装豪華客船。ポーカーに飽き果てた紳士淑女らは嬉々としてそれに乗り込み、噂に聞く海を一目見ようと出港、消息を絶った。この余波で起きた跡目争いはゴシップに過ぎない。ただ乗船した貴族も富豪も、現在は歴史書の片隅に名が残るのみと言い添えよう。
 それだけなら愚かな、よくある話。
 彼女(そう呼ぼう)が脚光を浴びたのはその後だ。ちょうど今のように霧の濃い夜。前触れも何もなく彼女は現れ、同じようにふつりと消えた。横腹へまともにぶつかった漁船を沈めて。以来、霧の深い夜になると、彼女は獲物と見なした船の進む先へその巨体を横たえ、見た目からは想像もできない頑丈さでもって轟沈させる。獲物に共通点はない。あるとすれば『絶望の青』へ乗り込んだ。ただそれだけ。蛮勇で知られた海賊船の長が、衝突だけで船が沈むなら船首の衝角はなんのためにあるのだと、高笑いをしたこともあった。翌日、しらじらと日が昇り霧の晴れた海原には海賊船の残骸だけが残っていたそうだ。

 私掠船が彼女の隣を完全に通り抜ける。
 彼女を見送ったクルーたちの胸に安堵が満ちる。助かった。逃げ延びた。命をとりとめた。一旦撤退しよう。陸(おか)へ戻り酒を食らい女を抱き、今宵の怯えを笑い話にしてしまおう。誰もがそう思った。船長ですら。けれど異変が起きた。
「船長、あの船、近づいてませんかね?」
 そう口にした腹心の顔には、否定してほしい、ありありとそう書いてある。馬鹿を言うなと、船長は言い返したかった。現在の最新鋭ならともかく、あんな時代がかった木造の帆船が後退できるはずがない。ましてや向こうは帆ですらぼろぼろで、ぼろぼろで、何故動いている? 霧の夜、凪いだ海で。なのにたしかに、徐々に距離が縮まっているのは。
 そこまで考えが至った時、船長は次の指示を飛ばした。彼女が近づいているのではない。私掠船が引き寄せられていると気づいたから。
「脱出だ、救命艇! この船は捨てる、もう助からん、魅入られた!」
 悲鳴が聞こえた。無理です、と。
「ボートが腐っています。3隻全部がです、とても使えません!」
「なら筏を作れ! 急げ、食われるぞ、あのデカブツに!」
「負傷兵は?」
 船長は短く間を置き、顔を歪ませた。
「見捨てる」
「水と食料は!?」
「諦めろ! 俺の部屋にある魔導珠、あれだけ持ってこい!」
 怒号を交わす合間にも、私掠船は腐食していく。船尾から発疹が広がるように、木材も鋼も関係なく。彼女のドレスの裾に取り込まれる寸前、筏はざんぶと波を立てた。ありあわせの資材を無理やり繋いだだけの筏は、すべてのクルーを救うことができなかった。かろうじて乗り込めたのは船長を含むわずか4人。
 取り残されたクルーが泣きじゃくりながら叫んでいる。助けてくれ。見捨てないでくれ。こんな所で終わりたくない。待たせた女がいる。老いた親がいる。子どもが生まれるんだ。乗せてくれ。助けてくれ。頼む、助けてくれ。たすけて。
 筏では誰もが耳をふさいだ。すまない。すまない。許せなどとは言うまい。何度も荒波を乗り越え肩を組み合った。血潮より固い絆で結ばれていると信じていた。すまない。生き恥を晒す醜態など、おまえたちの絶望に比べればなんのものか。だがすまない。死にたくない。死にたくはないんだ!
 ばりばりめきめきごきゃごきゃめしょり。
 私掠船は消えた、取り込まれるように。木切れだけが場違いにプカプカと浮いている。ディナーを終えた彼女は、何事もなかったかのように掻き消えていく。


「……オーダーはアクエリア近辺へ出没する幽霊船の撃沈。以上」

【無口な雄弁】リリコ(p3n000096) はそう告げると紙束へ華奢な指先を添え、一気に横へ引いた。ディーラーがトランプを広げたかのように、腰掛けるあなたの前へ資料が整列する。
「……場所は、いま話題の『絶望の青』。幽霊船の名称はメアリー・セレスティア号。海洋の出身者なら名前や噂くらいは聞いたことがあるかも。そう、出遭った船は必ず沈むと言われているあの『彼女』。
 ……見た目は木造の帆船で古式ゆかしい武装豪華客船。処女航海で『絶望の青』へ向かい、そのまま失踪。以来、標的にした船の進行方向へ突如出現し衝突・沈没させる。わかっているのはそこまで。場所が場所だし、あやふやな情報しかなくて、詳細がわからずどうしようもなかった。今まではね」
 リリコが真っ二つに割れた小さな水晶玉と、開いたノートを追加で並べる。
「……これは緊急連絡用魔導珠。新緑で長年かけて作られラサ経由で取引されている、財産目録へ数えられるレベルの貴重品。番の片方へ距離を問わず位置情報と音声を送信できる。もっとも見てのとおり、一度使えば負荷で壊れちゃう。それでも小瓶に入れた手紙よりはずっとマシ、そういうもの」
 あなたはノートへ視線を滑らせた。送られてきた音声を書き取ったものだとわかる。乱れた、女の字だった。

 受信日時 本日午前7:12
 番宝珠位置情報 ポイント243.612 『絶望の青』海域
 受信者 レイナ=ブリッグズ
 受信内容
『私掠船エディブルが船長アーネスト=ブリッグズだ。昨晩10時頃メアリー・セレスティア号と遭遇。俺を含む生存者4人が筏で脱出した。現状は島とも呼べない岩を発見し、魚を採り飢えをしのいでいるが、仲間の後を追うのも近いだろう。せめてこの記録をローレットへ持ち込み、あのデカブツを沈めるのに役立ててほしい。あれは霧の深い夜、海が凪いだ瞬間、出現する。俺の船は衝突は回避したものの謎の力により引き寄せられ、船体も設備も急速に腐食、あのアマそのまま仲間ごと食っちまいやがった(歯ぎしりらしき音)。見た目は帆船だが動力は不明。推論だが外からの攻撃には恐ろしく頑丈、そして、あの船自体が魔物。内側からの攻撃には脆いだろう。接近は容易と考えられる。砲台がずらりと並んでいたのは視認できたが、使い物にはならなさそうだった。何より、彼女は腹を空かせているからな。だが無事脱出できるはなんとも言いかね(硬いものへひびが入る音)魔導珠に限界が来た。愛している、レイナ』


 ほら『彼女』が来た。今夜も。あなたの前に。

GMコメント

海上ダンジョンあたーっく!
特に指定がなければスタートは、ポイント243.612付近。海が凪ぎ『彼女』と遭遇した状態。彼我距離500mからです。

やること流れ
1)『彼女』へ乗船する。
2)小物を倒しながら船内を探索し『彼女』へ「二箇所以上」の致命的打撃を与え撃沈させる。メインはこれ。
3)『彼女』から脱出する。
A)オプション 生存者4人の救出 霧が邪魔をして通常の目視ではわかりませんが、近くにいます。

1・3は連携をとったほうがスムーズに行えるでしょう。
2は比較的自由度が高いです。班分けをして探索効率をあげ、このへんが怪しそうだなーというところを楽しく考えたうえで、あとはおっしゃあって勢いではちゃめちゃに破壊しましょう。
難易度ノーマルなのであまり難しく考えなくて大丈夫です。

>『彼女』ことメアリー・セレスティア号
今回の敵さん兼ダンジョン。おっきーい豪華客船だったもの。すっごい昔に作られた。
ざっくり分けて三層の作りになっています。
一層:甲板・操舵室・各種客室、ノーマルからキングスイートまで
二層:娯楽施設・食堂、バー、カジノ、ショッピングモール、図書館など
三層:貨物室・飲食物・客荷物・船員の部屋など

今わかっていること。
1・船自体が魔物
2・動力が不明
3・謎の力で獲物の船を引き寄せ食らう
4・武装があるけどハリボテ状態
5・外からの攻撃には恐ろしく頑丈

>船内のアンデッド・霊体 
まもののむれがあらわれた!
一部スキル・クラスはダメージが上がります。楽しく組んでみてください。 
一度に出現する数は5~6体、全体的にHPが低く、連携して戦えば敵ではありません。ただし何度も遭遇するので、ダメージの累積にはお気をつけて。一度掃討してしまえばその区画へはリポップしません。
・ゾンビ デブのくせに素早いゾンビ 反応・機動が高い 体当たりで【泥沼】を仕掛けてくる
・スケルトン お約束の骨さん 物攻高い HP50%以下で仲間を召喚する この召喚は主行動であり、召喚された仲間は召喚者と同じHPAPになる。つまり弱ってる骨さんが呼ぶ仲間はやっぱり弱っている。
・不可視の亡霊 透明な幽霊さん 攻撃は物理神秘両方当たります。【封印】の他マーク・ブロックを使用 奇襲に注意

>友軍
海洋王国軍 2隻
船員は各船20名程度。操舵に長けており海種が多いです。戦闘能力も一応あります。肉壁くらいにはなるでしょう。
突入・脱出・その他へ自由にご利用ください。ほっといたら離れた場所で待機しています。ぶっちゃけ小型船を使ったほうが確実だったりします。小型船使用者は必ずアイテムとして装備し、最低でも『操船技術』をセットしてくださいますようお願いします。ただし『彼女』に食べられる可能性を考慮してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <バーティング・サインポスト>悪食メアリー完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月20日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セルウス(p3p000419)
灰火の徒
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
前へ進み続ける森アザラシ
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
恋屍・愛無(p3p007296)
らぶあんどぴーす
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
黒鉄波濤

リプレイ

●急接近
「来た来た来ましたよー! 話に聞いたメアリーの吸いこみですっ!」
 船上を、どこか楽しんでいる風な『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)の声が響く。イレギュラーズの小型船は、謎の力にとらわれ、追い風を帆いっぱいに受けたかのような速度でメアリーへ向けて突っ込んでいた。
「回頭するっきゅ!」
 嵐にでも呑まれたかのように斜めにかしぐ船。『乗りかかった異邦人』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は大声で叫びながら舵をきった。
 迅速な判断はどれほど的確であろうと、伝達せねば意味がない。その点、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が一喝を持っていたのは幸いだっといえるだろう。特にこのような緊急事態においては。百合子は急激な転回からくる船のゆれに浮足立ったクルーたちを怒鳴りつけた。
「柱へ掴まれ! 吾でもかまわん!」
 操船技術をさらにキュケオーンで強化したレーゲンならばこその舵さばきで、小型船は進路を逆方向へ。だがそのわずかな時間ですら『彼女』は食い潰そうとする。どれほど長く感じただろうか、だが時になおせば短い、小型船は見事に回頭してみせた。
「速度を調整して吸い込む力に抗いながらメアリーへ寄るっきゅ。接舷ぎりぎりまで近づいてみんなが乗り込んだら、全力前進で安全圏まで距離をとるっきゅ! フォロー頼んだっきゅよ、海洋軍人さん!」
 お任せを! 彼らは敬礼し配置についた。
 ゆっくりと、確実にメアリーが近づいてくる。『彼女』から不穏な気配を濃厚に感じる。網にかかった獲物が暴れるのが許せないのだろうか。
「船体の腐食は?」
『忘却機械』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)が問う。
「まだ始まってないね。メアリーの力に抗っているからかもだけど、もしかしたら僕たちイレギュラーズの存在がバリアになってる可能性も、ま、どうでもいいけど」
『灰火の徒』セルウス(p3p000419)が場違いにのんびり答える。彼の瞳はメアリーしか見ていない。巨大で、もはや見る影もないほどに朽ちている豪華客船。
「あれをねえ、派手に燃やしちゃっていいんだよね? くく、心躍るね。「あの方」への貢ぎ物にいいじゃないか!」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)は鴉のファミリアーとの交信結果が気になっているようだ。ジェイクのハイセンスを持ってしても、霧の中乗務員を発見したという情報はいまだない。
(いいや、必ず近くにいる。諦められるものかよ。恋人を助けたいって気持ちは俺にも痛いほど分かるぜ)
 胸のうち、しかと抱いて放さないのは美しい胡蝶の面影。それがジェイクを強くする。
「突入だ、行くぞ」
 至極冷静な声。『飢獣』恋屍・愛無(p3p007296)の一言を皮切りに、操舵へ集中するレーゲン以外は甲板へ集まった。
「ナウ、冒険はスタート! ハウ、獰猛な『彼女』! ワオ、ご機嫌はいかが!? 集まるはヒーロー、奏でるはビート、エビバディセイHO! レディレディレッツゴー!!!」
『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)がずらりと並べた『ハッピーちゃんロケット』シリーズ。仲間はそれに乗り、メアリーの甲板へ次々と飛び立っていく。恐れ知らずのイレギュラーズ(救世主)。

●掃除屋8人
 踊っている、骸骨たちが、ワルツを。もはやドレスと呼ぶのも気が引けるボロ布をまとい、礼服だったらしいものをまとわりつかせ。ステップだけは生前と変わらず。曲もないのにくるりくるり。離れたところでは、生演奏をしているらしいゾンビが、何も持たない手で、ありもしない楽器を演奏している。
 ぐりん。その頭骨だけが関節を無視し、一斉に一行を向いた。牙を向くように。カタカタと音を立て、スケルトンの群れがじわじわと圧を強める。
「はっ、こいつは蹴散らし甲斐があるぜ! まとめて吹っ飛びな!」
 ジェイクは既にセイフティをはずしていた二丁拳銃を交互に撃ちながらあえて前進。乾ききった骨を、テーブルや椅子だっただろう残骸ごと銃弾の雨で粉々にしていく。
「隠れてたってムダムダぽーん! 音でわかっちゃうんだなあコレが!! ホントね! 幽霊のくせに音でわかるとかね! 幽霊なめんなでね! それにこういう事件ね! しっかり解決しておかないとですね! 幽霊の立場ってものがですね! 肩身狭くなるっていうかね肩も身もないけどねっ!!!」
 うおーっと回転しながら誰も居ないはずの方角へ突っ込んでいくハッピー。ぼゆんばゆんぼべん。うきゃっ、ひいっ、うおおうっ! ハッピーが何かに当たって吹っ飛ぶたびに亡霊の悲鳴が聞こえる。
「船長は行うべき事の順番を間違えなかったと見える。であるならば、託された吾等は十全に仕事を行わねばならぬな。姿は消えても気配は消せぬ三流ならばなおのこと」
 時は春先、芽吹いたばかりの花のように、百合子は拳(つるぎ)を振るう。香之子の型と須香子の型、それを同時に。深淵なるその構えはあくまで楚々とした高嶺の花のごとく。空間を撫でるように払い一歩踏み出すたびに、響き渡る亡霊の断末魔。
「必ず通るし、ここは最低限安全にしとかないとね」
 向かってくるゾンビへ向けて、セルウスはパイロキネシス、パイロキネシス、パイロキネシス。
「ふふっ、くっくっ、燃える燃える燃えるねえ。うん、いいんじゃない? 君たちのこと気に入ったよ、燃え尽きるまでは」
 赤きを写す目は爛々と。すさまじい勢いで炎に巻かれていくゾンビ。神経の腐った体でも痛みは感じるのだろうか、それとも、人体で最も太いと言われる大腿骨まで焼き尽くされていくからか。当初の猛突進の勢いは失せていく。
 ルルリアが一体の頭へ、銃口を突き刺し、そのまま発泡。ふっとばされた脳漿が、炎と場違いな饗宴。
「幽霊船、しかも豪華客船、お出迎えも多数! これは冒険心がうずきますよっ! 絶対財宝あるパターンじゃないですかっ!」
「ルルリア様?」
「いえ、目的は忘れてませんよヴィクトールさん? こほん、しっかりやることはやります!」
 半ば炭と化したゾンビの背へ文字通りの零距離射撃。ボガァッ! そうとしか形容しようのない異音と共に、ゾンビの胸に大穴が開き、どうと倒れる。それすら踏み越えて迫ってくるゾンビへ、ヴィクトールは溜息を零し、長い髪を払った。潮風に煽られた髪の隙間から白いうなじが覗いた。
「さび付きそうな潮風ですね。……生ぬるくて、気持ち悪い」
 目の前の驚異など興味ないかのようにヴィクトールはつぶやき、直後、その機械の跳躍力で助走もなしでムーンサルトキックを放った。宙に描かれた三日月がざっくりとゾンビをまっぷたつに引き裂く。そのまま着地したヴィクトールの、血の気の薄い顔をふわりと髪が包んだ。上半身と下半身に分かたれたゾンビは、しつこくヴィクトールへ手を伸ばそうとした。が、その頭を踏み潰す華奢な足。
「早く成仏すればいいものを。生者への嫉妬か。己に無い物を求める人間の欲というものは恐ろしいモノだ。だがそれも潮時というものだろう。疾く送ってやるとしよう」
 愛無だった。弾けた穢液。不快な臭いに愛無は顔をゆがませる、ふりをする。ニンゲンとはこういう時そうするものだから。
「もう終わりっきゅー? レーさんの分も残しておいてほしかったっきゅー。大切な人と死別させる幽霊船なんて、レーさん許せないっきゅ!」
 甲板が制圧された頃、グリュックに抱っこされたまま飛んできたレーゲンが合流した。突入に使った小型船は、安全な場所で機会を伺っている。
 
●A班
 キングスイートへ到着した四人は部屋の中を念入りに見て回った。
「ふふ~ん、ふっふふ~♪ おったかっらおったかっら♪」
 歌いながら調べるルルリア。けれど油断なんて微塵もしちゃいない。いつだってその指先は軽く引き金へ添えられている。たとえ緊張していようと、指を引っ掛けておくようなヘマはしない。
「お待ちを」
 ヴィクトールが皆へ注意を呼びかけた。
「こちらの床は腐っております。進むなら左の壁際へ寄ってくださいませんか」
 罠対処の勘が働いたのだろう。朽ちた床板を踏み抜けば危険だ。
「宝石くらいあればいいのにね。残念。お次は操舵室へ行こうか」
 セルウスが音頭を取り、航海日誌を探しに向かう。そこへ現れたのはゾンビ。ルルリアは中でも強そうな個体の前に身を晒し……たところでいきなり愛無からストップが入った。
「待て、その、ゾンビは」
「どのゾンビ!?」
「ルルリア君が相手をしてる、そのフレッシュなゾンビだ」
「どこがフレッ、そのまんまーっ!」
 たしかに愛無の言う通り、その個体は損傷が少ない。腐敗ガスでパンパンに膨れ上がった体だが、まだ新しい服が枷に変わって、壊死した組織がはみ出ている。疑問に思いながらも、ルルリアはそれの頭へワンショット。それでもまだ動くものだから、撃ち砕いてようやく息の根を止めた。
 横から伸びた白い手が腐乱した肉へ埋もれていたそれを拾い上げる。ドッグタグ。汚汁でまみれた鈍い銀色の表面を確かめてから、セルウスはそれを炎で浄めながら告げた。
「私掠船エディブルのクルーだね」
 そう、と誰ともなくつぶやいた。では救ってやれたのだ。無限の飢餓に追い回されるよりも、ずっとずっと、いいことだから。おそらくこれまで倒した魔物たちも。
「食われた人間がここで魔物へ変わり、生前の行動を真似ながら徘徊しているのか」
 愛無は半ばまでまぶたを落とした。ニンゲンのイメージをトレースしている愛無にとって、どこか心をひっかくものがあったのかもしれない。腐り落ちたまぶたの代わりに、ヴィクトールは元クルーの白濁したまなこへ布で拭いたコインを乗せてやった。
「……おやすみなさい」
 セルウス以外の三人は倒したゾンビへささやかに黙祷を捧げた。

 操舵室にて亡霊を退治した一行は、日誌を見つけた。ごく普通の内容だが、ある日を境に空白になっている。それまで航海は順調だったと言うのに。白いページは、不気味さを煽るだけだった。
「メアリーが魔物だって言うなら、ここが頭部だと思うんだけどね」
 セルウスの言葉に従い、一行はもう少し丁寧に調べることにした。やっぱり舵輪が怪しい気がする、なんてみんなで話し合っていたその時だった。ぬる。嫌な気配がし、全員一斉に振り向き、総攻撃をかけた。スキルが乱れ飛んだ先は……。
「伝声管?」
 ヴィクトールがわずかに目を見開く。破壊されたそこから触手のようなものが姿を表し、ずるずると天井の穴へ引いていく。
「のがすか!」
 愛無が粘膜でそれを捕まえ、逆に引っ張り出す。

 ――うううううう。

 メアリーが揺れた。苦悶の声が響く。
「当たりだ、援護を!」
 愛無の短い言を受け、セルウスがアースハンマーで天井を破壊した。その向こうは、白骨とゾンビと何かのはらわたがぎっしりとつまった肉の壁。どくり、どくり、赤黒い神経の塊が蠢いている。
「燃やそう!」
「異論はないです」
 並び立ったセルウスとヴィクトールが炎の術式を同時に放つ。
「踊れ踊れ…風に惑え……せめて戦果になって、ルルに誉を捧げなさーい!」
「お前たちの無念。全て僕が食い尽くしてやろう。ついでに「大元」も倒してやる」
 ルルリアが風の精霊を踊らせ、愛無が巨大な蛇をけしかける。

 ――ああああああああああああ!

●B班
「上はやり遂げたようだな。吾等も仕事せねば」
 メアリーの苦悶を聞いた百合子は薄く微笑した。まず三層へ移動していた一行は探索の真っ最中だった。
「待て。いたぞ」
 皆がジェイクを振り返った。ジェイクは眉間を親指で押し、遠くを眺める瞳へ変わった。「聞こえるか、エディブル船長たち。ローレットの『灰色狼』ことジェイクだ。すぐに海洋軍艦が救援に行く。あとしばらくの辛抱だぜ。以上」
 ファミリアー越しに疲労してはいるが健在な様子の漂流者を確認し、ジェイクは使い魔を友軍へ向かわせた。
「これで回収してくれるはずだ。やれやれ、肩の荷がひとつ降りたぜ」
「おつかれさま!!!! ジェイク!!!!!!」
「さすがにうるさいぜハッピー。あとかなり戦闘したが、消耗はどうだ?」
「モーマンターイ、アイアムザゴーストアルヨ! とかね! 実際ぶん殴られてもね! 必ず殺すと書いて必殺じゃないかぎり成仏しないんですけどね! いやまだ成仏したくないですけどね! またあの人とデート行きたいし!? 乙女ハートは最終兵器なわけでね!!」
「ちょっといいっきゅー? 貨物室についたけど鍵かかってるぽいっきゅ」
 レーゲンが小さなヒレでちょいちょいと手招く。
「開かずの扉か、任せよ」
 百合子は口元へ片手を添え、投げキス(瞬時に大量の呼気を吸入し薄く開いた唇から圧縮して放つ衝撃波を指す。その初速は狙撃銃よりも速く威力に至っては真なる美少女が使用した場合、銀河をも霧散させる)を飛ばした。
 ドゴン!
 扉に大穴があき、錠部分ごと壁が吹っ飛んだ。
「きゅっ!」
 レーゲンは引きつった。グリュックがレーゲンをかばうように抱きしめ、半身になり低く唸る。床に、無数の負傷兵らしきものが見えた。らしきもの、としか形容できなかったのは、彼らは全身を触手のような太い血管に覆われており、血も肉もそれに吸い上げられ魔物と化していたから。
「なるほど、胃袋」
 百合子は驚きもせず広い部屋を眺め回し、奥で艶光る巨大なコアを認めた。
「あれが本体ってわけだ!」
 ジェイクが銃をかまえ、素早く狙撃を始める。ぶしっ、ぶじゅっ、弾丸を受けたコアから噴水のように赤黒い体液が噴出した。腐敗臭が部屋へ満ち、血管が蠢いて負傷兵たちの死体をぞろりと立ち上げる。
「すべての攻撃は私に集まるがよい!! いけるいける!!!!」
 ぽこちゃかぱんぱんしゃりんがらんどん! 荷物だったものがハッピーの動きにあわせて揺れ動き、にぎやかな音を立てる。突然の騒音に混乱したゾンビの群れは、立ちすくみ、お互い傷つけ合い、あるいは怒りに任せてハッピーへ襲いかかる。
 百合子はものともせず、もはや助けようがない負傷兵の頭蓋を踏み、疾駆、コアへ迫る。
「ふっ」
 全盛期へ一歩近づいた百合子は一呼吸で五連撃。軽く飛び上がり、空中でコアへ二連脚、それから落下の勢いを利用して手刀で表面を切り裂き、中からどばどばと溢れ出した臓物を弓手にて絡め取り、基本の突きで引きちぎる、さらに最古の美少女が使用したとされる伝説の掌打にて内部から衝撃を与える。コアへ背を向け、返り血で壮絶に染まった全身の顔まわりと髪を清潔なハンカチでぬぐい、優雅に一礼。この間、わずか10秒。

 ――えええあ、あ、ぎいいいいいい……。

●脱出
「わわわっ、崩れるっきゅ、逃げるっきゅ!」
 ガラガラと音を立てて、船の姿を保っていたものが剥離していく。壁が剥がれ、天井が落ち、床が砕け、中からじゅわりとしみだす粘着質な体液。肉と神経と血管、分厚く走る脂肪の層。そこへ取り込まれたあわれな死者の数々。
(なんてこった、くそったれ、食い過ぎだぜ!)
 ジェイクは苦虫噛み潰したような顔で階段を登る。そこももはや崩れかけており、気を抜くと足を滑らせて落下しそうだ。
「服が汚れるじゃないですかー! やだー! 私幽霊だからそんなことないけどね!! おらっ!!!」
 でも何故か物理干渉はできちゃうハッピーが天井から落ちてくる木切れや梁を受け止め、というか、くらいながら仲間をかばって突き進む。こういう時は飛べると強い。飛べると言えばレーゲンもだった。レーゲンはいったん食堂へ突っ込み、MA・Bでザコごと窓だっただろうそこを吹き飛ばし「必ず戻るっきゅ!」そう叫んだ。グリュックが床を蹴り外へ飛び出す。

 甲板で合流した一行は、次々と襲いくるザコを片付けるのに必死だった。何しろ足元からして悪意を持っている。次々と敵が湧き、不意打ちも受ける。数は脅威だ。ハッピーが夢中になって注意を集める、ルルリアからいつもの余裕が消えている、愛無は淡々と限界の速度で敵を屠り、取り囲まれたセルウスが爆発を起こす、百合子にも限界が近い、皆のパンドラが砕ける、ジェイクは、ヴィクトールは、攻撃をいなしながら海へ視線を。船は、レーゲンは、まだか、まだか!?
「「来た!」」
「おまたせっきゅー!」
 レーゲンが横付けした小型船へ、次々と皆が飛び乗る。乗り込んできた敵を倒し、離脱。そのまま遠く離れようとした、その時だった。ルルリアとヴィクトールがつぶやく。
「あれは?」
「光?」
 太い、一条の光が崩壊するメアリーから立ち昇る。それは霧を吹き払い、夜空を取り戻し、星々のきらめきとつながると、吸い込まれるように消えていった。あたたかく、柔らかな余韻を残しながら。夜の海にはメアリーの残骸ひとつなく、静かに波がゆれている。
「……そうか、昇ったか」
 愛無は感慨深そうにつぶやいた。それは愛無にとって新しい発見だった。
「魔物であっても行くべきところへは行けるのだな」

 友軍の甲板から、歓声を上げながら、救助された人々が手を振っている。ジェイクたちはそろって手を振りかえした。

成否

成功

MVP

レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
前へ進み続ける森アザラシ

状態異常

なし

あとがき

皆さんの活躍により飲み込まれた魂と『彼女』は絶望の青から解放されました。

MVPは操船技術をしっかり強化したうえで飛行と組み合わせた柔軟な対応をしたあなたへ
称号「トラップハンター」を罠対処で探索へ貢献したあなたへ
称号「らぶあんどぴーす」を探索の指針をまとめ全体の連携を底上げしたあなたへ

じつはこのコメントね。だいたいいつもリプレイ書いた直後に書くから疲れ果ててなーんもおもいつかないのですわ。でも気持ちだけはこもってます。ご参加ありがとうございました!
お気に召しましたらまたお立ち寄りください。

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