PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Amici in rebus adversis cognoscuntur.

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『友人は逆境において認識される』
 さて。
 今まさに鉄帝国で起こっているモリブデン事件を皆様はご存じだろうか。
 鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒが企み、地下の古代兵器が起動したその事態は正に今佳境を迎えている。戦力が必要なこの折、グレイス・ヌレ海戦などもあり戦力が分散している鉄帝からは軍・民間問わず数多の依頼がローレットに舞い込んでいる。
 では。
 生じたこの事態に対し『なんでも屋』たるローレットは動く訳だ、が――
「いや困ったね本当に」
 ギルオス・ホリス(p3n000016)は嘆いていた。廃屋となっている、ある家の中で。
 彼はローレットに所属する情報屋だ。舞い込んだ依頼に対して情報を搔き集め、精査して可能な限りの情報をイレギュラーズ達に渡す。それが仕事だしそれが本分である。
 今回もモリブデン事件の依頼――正確には今はもう、起動した歯車大聖堂なる古代兵器に関する依頼――だが。とにかく彼は鉄帝国を駆け巡っていた。クラースナヤ・ズヴェズダーの大司教の下にイレギュラーズ達を届けた事も在ったし、それ以外にも戦況の様子を掴むべく各地を……
 その最中の出来事であった。ちょっとしたトラブル――まぁそうだもう単刀直入に言う、と。

 彼は。ギルオス・ホリスは何者かに襲われた。

 移動用にと乗っていた馬車を引く馬が射殺され、引き手も即座に。
 されば横転する馬車。何事かと外の様子を見た他の乗客の頭が、吹き飛ばされて。
 ――危うし。
 瞬時に感じる危険信号。なんとか跳び出し物陰に逃げ込むも、追撃の手は止まず。
 射撃の精度の高さからそこいら幾つの盗賊の類と思えないのが最悪。
「ふ、む」
 林の中を駆け抜けて、されば現れたのは廃村。息を潜めてその内の一軒に。
 そして巡らす思考、思考。敵は一体どこの誰か。このタイミングとなればショッケン派の軍勢――かとも思ったが、今の奴らにわざわざローレットの一情報屋を襲撃するだけの余裕的戦力があるとは思えない。
 では誰か。些か情報が少なすぎてなんともいえない、が。
「……まさか。本当に実在したのか」
 強いて言うと、のレベルでギルオスは一つの結論に辿り着く。それはただの噂話。
 この混沌の世には――『旅人』を。そして旅人が多く所属するローレットを。
 敵視している組織『レアンカルナシォン』なる存在がある、と。
 詳細は知れない。先も述べたように噂話程度の連中だ……眉唾な存在に時間を割くほど暇では無かったし、そもそもローレットを敵視する存在などそう珍しいモノでもない。国家から期待されている存在でもある反面、なんでも屋のローレットを邪魔に思う組織も山ほどいる。
 とにかく殺意の高さだけは確かだ。
 どうしたものか。助けを呼ぶには手段も時間も何も足らず。かと言って情報屋の己では――
「一人殺すのが精々だな」
 嘆いていた。ギルオス・ホリスは嘆いていた。廃屋となっている、ある家の中で。
 情報屋を一人狩るだけだからと油断していた刺客の一人を逆に襲撃。
 首を締め上げ。苦悶の声を鳴らせながら。
 嘆いていた。
 泡吹く刺客。悶えているが、脳へ酸素が到達せず。急速に昏睡状態へと陥らんとしている真っ最中。目が向く上。白目の果てに、しかし完全に力無くなるまで興味はない。それよりも次だ、次。
 次は無いのが問題だ。油断慢心の極みにある刺客はともかく、これ一人ではあるまい。
 本格的な戦闘になればもはや打つ手は無く……おっとやっと全身が緩んだ様だ。
 意外と時間がかかったもの。
「まぁ駄目かもしれないけど『折れる』のは性に合わないからね」
 ならばせめて一矢報いよう。護身用の拳銃を取り出して、微かに見据える外の様子。
 何。まだ生きているのだ。生きているならもしかしたらチャンスが堕ちて来たりするかもしれない。

 諦めなければ必ず道は開ける筈だから――と。


 ではそれは奇跡の産物か何かだったのだろうか。
「――何者かに襲撃された馬車、ですね。しかしこれは……些か疑問を覚えるやり口です」
「確かに、そうですね。盗賊の類による突発的な行為にしては……」
 横転している馬車。ソレを見て言うは新田 寛治 (p3p005073)とクラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)である。鉄帝国での一つの依頼を完了させた帰路の途中――偶然に見つけた襲撃跡。当初は盗賊の類かと推察したのだ、が。
「金目のモノが奪われてないっす……確かに、ちょっと妙っす」
「誰かの命を狙った犯行だったって事かな? 乗客の中の誰かを……」
 それにしてはあまりにも死体が『綺麗』すぎるとジル・チタニイット (p3p000943)は奇妙な点に引っかかり、次いで伏見 行人 (p3p000858)の言が続く。盗賊と言うよりは暗殺者……そちらの方が近いかと。
 辺りを見渡せば――どうも近くの林の方へと駆けていっている足跡が幾つか。たしか、あちらには。
「この近くには……確か廃村があった筈ですわ!」
「まだ生きている人がいるかもしれないわね。運が良ければ、だけれども」
 逃げた者がいて、追う者がいたという事ならば、と。鉄帝国出身のヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)はすぐさま地理に当たりを付けて。エンヴィ=グレノール (p3p000051)もまた林の奥を見据える。
 ――と、その時だ。丁度見据えた『先』から銃声が数発。
 戦闘音。やはり生きている者がまだいる様だ。
「あら~……これは、急がないといけないかもねぇ」
 しかし音の鳴り響きの感覚は短い。
 それはあまり余裕のある状況ではなさそうだとアーリア・スピリッツ (p3p004400)は直感的に感じる。しかも、なんとなく感じるこの――ざわめく感覚はなんだろうか? もしかするとこの先にいるのは『知り合い』かもしれないと、思った瞬間。
 吹かす音。それは、アルプス・ローダー (p3p000034)からの駆動音で。
「――そういえば気付いたんですけどね」
 アルプスは言う。
 依頼の場所に向かう時、いや正確には乗って、向かいながら説明を受けていた馬車に。
 これはとてもよく酷似していて。

「たしか、ギルオスさんが乗ってた馬車でしたよ――これ」

 瞬間、誰かが空を見た。
 時刻は昼。しかし黒の傾向深き雲が、空を覆い始めていて。
 雨が降りそうな気配を――醸し出していた。

GMコメント

 リクエスト、ありがとうございます。
 謎の敵勢力が情報屋を襲撃……その一時となります。よろしくお願いします。

■依頼達成条件
 敵勢力の撃退。
 ギルオス・ホリスの生存。

■戦場
 廃村の中。
 段々と雨が降り始めています。それは足のぬかるみになるかもしれませんが、同時に足音を消す一つともなりえるモノでしょう。時刻は昼時の為、視界的に問題になるほどの暗さではありません。
 幾つか放棄されている小さな家が点々としています。

■ギルオス・ホリス
 ローレットの情報屋。
 護身術程度の力は持っています。が、彼の本分は情報屋であり、本格的な戦闘になれば(敵に囲まれれば)成す術はないでしょう。時間稼ぎ程度が精々です。逆に言うと一撃で死ぬような事はないでしょう。

■敵勢力:『レアンカルナシォン』
 詳細不明の組織です。
 ローレットの『旅人』を目標に暗殺を行おうとする危険集団。
 彼らは死を恐れていないかのような動きを見せます。

 メンバーは黒衣に身を包んでいますが、一名だけ白衣の者がいます。
 白衣の者だけ明らかに戦闘力が高いです。リーダー格と思われます。

 黒衣の者は複数名存在し、村の各地に散っている様です。
 黒衣の方は戦闘力はまちまち。銃と剣を二刀流で装備しています。

  • Amici in rebus adversis cognoscuntur.完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年03月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

サポートNPC一覧(1人)

ギルオス・ホリス(p3n000016)

リプレイ


 雨。
 体温を奪う雫が強くなり始めていた。されどそのカーテンを切り裂いて往くは。
「今ならまだ間に合う筈っす。絶対助けられるっす……急ぐっすよ!」
 『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)だ。ぬかるんだ土を踏みしめて速度を重視し駆け抜ける。耳に届く戦闘音。されどそれは生きている証なれば。
「どうか持ちこたえて下さいまし……死んだら許しませんわよ!」
「ギルオスさん……早く見つけなければなりませんね……」
 口調は荒けれど『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の声色は責めている訳ではない。むしろその対極と言うべきか。『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の危惧すべき声の色の方に似ている。
 さりとて焦って往けば敵にも気付かれようというもの。
 逸る気持ちは抑えつつ――ヴァレーリヤは己が『足音』を抑える事に注視を。
 全力の移動なれど足音の響きは驚く程に小さなモノで。雨の音とも混ざればもはや聞こえぬ。

 往く。往く――ただ只管に。

「あぁもうギルオスくんってば! こーんな事態に巻き込まれちゃうだなんて……!」
「……急ごう。でも敵が布陣しているかもしれないから、注意は必要だけれどね」
 と。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)に『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)の二人が言葉を紡ぎながら各々の術を行使する。
 かたやアーリアが導くは使役せし鳥。かたや行人が語り掛けるは周囲の精霊。
 先に何があるか。先に彼はいるのかと。
 廃村に着いたとてすぐに発見できるとは限らぬ。特に行人は精霊に、風貌の特徴を説明して。更にはクラリーチェもまた自然へと己が声を傾ける。木々よ、草よ。貴方達の世界に誰ぞは映らなかったか――と。
「……こんな時に、雨というのが厄介ですね。
 足跡や血の匂いなどを洗い流してしまう……焦りは禁物と分かってはいますが」
 天を見上げれば黒き雲。隠れて行動するには易く、何かを見つけるには難しく。
 それでも、諦める訳にはいかぬと心を振り絞り――

 瞬間。

「――左、来るわよ」
 『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)の『耳』が捉えしは、敵の存在。
 黒衣の剣閃が雨粒を切り裂いて。されど気付きが早ければそうは当たらぬ。
 回避。そこへ重ねられる攻撃は『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の一撃。
「邪魔をしないで頂きたいですね。我々はこの先に居る情報屋に用があるのですから」
 打撃。一閃、二閃。拳と肘が超速の域に。
 打ち倒す。ここで時間を垂れ流す訳にはいかぬのだからと、各々の攻が重ねられて――

「手慣れ過ぎている」

 されば『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)の声が漏れる様に。
 攻めるだけでなく周りの警戒も怠らず。包囲に穴が無きように布陣しているこの様は。
「ここは――“処刑場”だ!」
 ――許しがたい。
 アルプスの脳裏に浮かぶのはローレットで出会う『彼』の表情。
 日々の平穏に喜びを。辛き事あれど苦笑しながら明日を見据える彼を。

 お前達の好きにはさせるものかと。

 廃村へ――突入した。


 廃村に至りてもまずもって重要なのは捜索。
 故にと散るのだ。散れば戦力の分散と成ろう、敵の目にも引っかかろう。しかし
「全ては、巧遅より拙速の場面という訳ですよ」
 寛治の言う様に速度を優先。
 彼の目は足元に注視を。雨であればこそ地面に足跡が残る事もあろう――追跡しているのならば痕跡を隠す様な暇はない筈だ。これ程早く救援が駆けつける事も想定していまい。
 そして確かに足跡が彼の目に。
 複数のソレら。特に痕跡が集中している方向へ『居る』筈だと当たりを付けて。
 更にエンヴィの耳が依然として戦闘音や声を。微かなる音でも拾えればソコだと絞れて。
「貴様ら――どこから現れた」
 それでもやはり敵に見つからぬ様にとは行かないか。
 先の様に武装した黒衣の者が言葉も短くイレギュラーズへと襲い掛かって来る。銃を一発。踏み込んで、剣閃を瞬かせて接近を。その動作は素早く――そして無駄がない。
「やれ、全く。俺達の事は想定していなかっただろうに、慌てないとはね」
 だがそれも捜索を優先した時点で予測していた事態だ。
 瞬時。その黒衣を止める為に前に出たのは行人。
 刀身に蔦が纏うが如き刀を手に――激突する。
「皆。ここは俺に任せて先に行ってくれ。なぁに……これぐらいならすぐ追いつくさ」
 俺は旅人――イレギュラーズだしね、と。
 軽く。『意図』してそのように己が種族を呟けば。
「貴様……『穢れた魂』の持ち主かァア!!」
 黒衣の殺意が行人にだけ集中す。
 好都合である故、別に構わないが。なんだこの殺意は――? 穢れた魂――?
 剣撃を捌き、防御に念を。軌跡を見破って致命を躱し。隙を見つければそこを穿ちて。
 他の面々はその間に各々が先へと進む。立ち止まっている暇は無く、それに。
「また来ましたね……! あれは僕達が。また後程合流しましょう!!」
「分かったわぁ――そっちも、無茶はし過ぎずに無事でね!」
 敵も一体でなければまた現れる者だ。行人に続いて、二番目に敵からの囮として動くのはアルプス。アルプスはそのバイクの形状からしてまごう事無く『旅人』であると向こうにも伝わろう。
 アーリア達と短い言葉だけを交わして、そして思惑通り視線を引き付け、れば。

 ――この世に訪れた穢れた魂だ。魂の流れを乱す、不純物共だ――
 殺せ。
 殺せ! 清浄なる世界に奴らは不要・無価値! 奴らを生かすな!!

 これでもかと言う程の殺意と意味の分からぬ口上を述べてアルプスを追わんとする。
 レアンカルナシォン――その意味は『転生』
 なんとなし、魂の位階がどうのこうの言う組織なのではないかと思っていたのだが。
「近い組織のような気がしますね……全く。最近多いような――きな臭い」
 彼らが追いつけるように。まるで雨のぬかるみに足が盗られているかのような――そんな、進みに苦戦している様を見せて『やりながら』アルプスは奴らを引き付ける。
 本来は何の問題もない。真の速さを明らかにするは……もう少し遠くにまで寄せてからだろう。
 さてしかし『旅人』達が囮となる策は予想以上に機能している様だ。
 奴らの旅人に対する殺意が想像以上だったともいえるが。
「やーい、そんな程度の動きっすか! 大した事ないっすね!
 ほーらほら! 悔しかったら僕の角でも切ってみろっす!」
 やはり好都合だと。アルプスに次いでジルが挑発の言葉を紡ぎながら黒衣と相対す。
 黒衣の数が一名増えれば更に寛治もだ。同数の旅人で敵に対処していく――やれやれ。
「全く。あれやこれやとやる事が多い。
 帰ったらギルオスさんに何を奢ってもらいましょうか……楽しみですね」
 寛治の軽口も出てくるものだ。生かして帰すとでも思っているのか! という敵の叫びには、再なる打撃の組み合わせ……からのステッキへと。繋ぐコンビネーションが関節を極めて、痛み走る間に家の壁へと投げ飛ばす。
 多少の傷はジルの治癒術があり問題ない。それも必要なければ。
「これでもくらえ――っす!!」
 羽根によく似た毒の結晶が敵を捉えるのだ。顔面に直撃すれば、敵の身が仰け反って。
 その間に進むはアーリアやクラリーチェ達など、だ。
 彼女らの足に淀みは無い。突き進み、その先には銃撃音とけたたましい格闘音。
 誰かがいる。この先に。救援の為の己らではない戦闘音、となれば――答えは一つ!

「ギッ、ルオ――スッ!! 無事ですかぁ――!!」

 打ち捨てられた家の扉をヴァレーリヤは炎のメイスで豪快にぶち破り。
 同時。ギルオスと取っ組み合い刃を突き立てんとしている黒衣の者の背に――
 クラリーチェの一撃が叩き込まれた。
「ギルオスさん、お怪我は!?」
「な、な――君達なんでここに!?」
「重傷ではないなら一安心……と、言いたい所だけどまだそうとは言えない様ね」
 怪我の有無を確かめる言を紡ぐクラリーチェ。そしてエンヴィの視界の先では、先の一撃から復帰した黒衣の者が。殺気を衰える所か目の前で増大させていて。いや、それだけではない。
 周囲からはまた複数の足音……どうにも味方ではなさそうなソレらが急速に近付いてきている。攻撃を凌ぐのはここからが本番となりそうか……!
 飛び掛かって来る黒衣へとエンヴィが即座に行動。己が嫉妬の力が弾丸と成りて、敵を穿つ。
 焼け爛れる様な痛み。苦しみ。魂ごと蝕まんとする一撃が放たれれば。
「動かないでギルオス君! とにかく、一度治癒をしておくわ……!」
「ッ、ああ。ありがとう……!」
 その間にアーリアが治癒の魔術を。ギルオスの傷を急速に癒していく。幸い深くはなさそうだ……早期に辿り着けた故もあるか。しかし情報屋となればやはり無理はさせられない。
 かつて共に在った依頼で多少『戦える』のは見ていたけれど……
「とにかく後ろに! さぁ私達が合流出来たからには――もう好きにはさせないわよぉ!」
 言うなり、アーリアが取り出したは聖夜にでも響き渡るクラッカーで。
 派手にして無害なる爆発音が周囲に『ここ』だと告げていた。


 その『音』を聞いた囮のメンバーは事態が進行した事を知った。
 ならばここで奴らを引き付ける意味はなし。
「――おっとその前に。ここまでご苦労様でした」
 瞬間、身を翻したアルプスがいきなりに全速の駆動音を鳴り響かせる。
 同時に『轢く』
 誤りではない、そのままの意味で『轢いた』のだ。
 もう少しで追いつけるとしていた黒衣の者を。超速の閃光が瞬いて、次の時には既に彼方。
 ――ブリンクスターの加速が加われば正に神速の域か。
 柔らかき地など己が全ての制御が身を正す。何の苦も非ずして廃村へと再び。

「お待たせしたっす! さあ、こっからはちゃきちゃき行くっすよ!」

 更にアルプスに次いでジル達もまた合流地点へと辿り着いた。
 放つ光が複数の敵を呑み込んで断罪の刃となる。囮でありながら素早く辿り着けた理由は――そう。何も導き手は先の『音』だけではないからだ。ヴァレーリヤが事前に託していたファミリアーの案内もあれば、細かな道も紡いである程度の短縮と。さすれば。
「こちらの読み勝ちでしょう。妨害を受けた場合の判断と囮役の切り離しを素早く……
 上手く行ったのであれば、戦力分散のデメリットなど無いに等しい」
 寛治だ。到着と同時に投じるは己が所有せしライター型の手榴弾。
 炸裂すれば黒衣の身に衝撃が。隣り合っていたが故にこそ巻き込まれ、被害が甚大に。
「――私達の仲間を襲った報いは、受けてもらうわよ」
 更にアーリアの指先が空をなぞる。さすれば亀裂が生まれ、そこから生じるは月の魔力。
 数多の脳髄を揺らす悪酔いが如き鳴り響きだ。
 顕現はたった一瞬なれど、脳は揺らされれば耐える構造に非ず――
 だが。それでも奴らは……気狂いなのだろうか?
 痛みに怯むことなく、ただ殺意だけをその胸に抱いて進んでくる。
 無数の剣撃。無数の銃弾。ギルオスを庇う様に布陣するイレギュラーズを取り囲むような形であらゆる方位から攻撃を重ねて来る。廃屋の地形を利用して障害物で敵の射線を限定するも、その攻勢は激しい。
「……ギルオスさん。彼らは一体何者なのでしょうか?」
「――分からない。僕も本腰を入れて調査した事はなかったからね……
 タチの悪い宗教団体の様な感じはするが……無事戻れたら調査してみるよ」
 己が神秘への親和性を高め。魔術の域を上昇させるクラリーチェ。
「分かりました。ではここで口を割らせてもおきましょうか。このままおしまいには――できませんので」
 言うなり形成せしは呪いが如き囀り。
 遠くに居ようと逃がしはせぬ。無数の視線が嘲笑う様にその身に纏わりついて悲鳴を挙げさせ。
「そうね。全く……その通りだわ。今この場で分からなくても今後の為にもね」
 さすればエンヴィも同調し怨霊の一撃を奴らへと。
 向こうには銃もあり遠距離から攻撃してくるが――イレギュラーズ側の遠距離手段も豊富だ。決して撃ち負けなどはしない。いや……そもそも初手の勢いを失いつつある奴らの方はこのように『撃ち合い』になっている時点で不利か。
 暗殺に優れし者は攻撃に優れる事が多いが持続の力まであるとは限らず。
「押し返し時、ですわね! 全部纏めて薙ぎ払って差し上げますわッ!」
 直後。ヴァレーリヤの言と共に紡がれるのは、炎だ。
 振りかざしたメイスの先から波の様な炎が敵を呑み込む。
 あらゆるを突き超えて敵の後衛すらその渦に巻き込んで――
「……んっ?」
 その時。ヴァレーリヤの炎と共に黒衣を一人切り捨てた行人が見たのは白き衣。
 炎を飛び越え戦場に馳せ参ぜし『白衣』の者であった。
 携えしは槍、か。他の黒衣とは些か武器も雰囲気も異なれば。
「……注意した方がいい。どうも、格が違うようだ」
「ええそのようですね。しかし一段、違う者が来るかもと警戒はしていたのですが……」
 些かタイミングが遅かったですね……? とギルオスの言の後クラリーチェは訝しんで。
 されどやる事は変わらない。
 敵が増えようとも撃滅するのみ。紡がれる魔力が白衣を穿たんと。

 した、が。

「お、っと」
 白衣が跳躍。一歩で距離を詰め向かう先はエンヴィ――いや彼女を庇う行人の眼前。
 それはあまりに早く。振るう槍の速度も高速。
 躱せぬ。ならばと防御の構えを。この速度に対抗出来るのは。
「残念。僕ならいけますね」
 アルプスだけだろう。行人が槍の衝撃を受け止めたと――同時。
 その横っ面をバイクの後輪が襲い掛かった。
 超重量の一撃が白衣を一閃。されば受け流す為にか、派手に白衣が飛んだ。
 ――逃がしはしない。
「卑怯などと言う言葉はまさか言われませんね?」
「ちょっと叩きのめさせてもらうわよ! 貴方達の狙い……吐いてもらうから!」
 寛治とアーリア。それぞれの一撃が体勢を乱した白衣を襲う。
 射撃と魔術の複合。物理と神秘のそれぞれが乱射され、て。
「――」
 吐息一つ。割り込んだ槍の円軌道が全てを弾いた。

 ――出来る。

 他の黒衣とはレベルが違う。槍を巧みに操り防に長けるその様子。
 それでも黒衣の多くは倒れ、もはや趨勢はこちらに傾いていれば。
「これで――終わりっすよ!」
 ジルの投擲が絶好のタイミングで放たれる。毒の結晶。
 最高に収束されたその一投が、防衛の為に振るわれていた槍と真正面からぶつかり――
 砕ける。
 白衣の槍が砕けた。熟達された数多の攻撃の波に耐えきれなかったのか――と。
 さすれば。

「あっはっは! 強いね君達! うーんダメだこりゃ、てっしゅー!」

 瞬間、柄だけになった槍を投げ捨てた白衣の者から軽快な声が。
 その声色には殺意の色が一切なく。
「――なんですって?」
「暗殺とかさー元から私やる気なさすぎだったんだけどさ。うーん久しぶりに滾るよ……!
 またどっかで会おうねイレギュラーズ!」
「おいおい……いくら何でもこの状況で逃がす訳が――」
 仲間を庇えるように立ち位置を調整する行人。
 相手の白衣――声からして随分と若い女性の様だ――が。劣勢ならまだしも敵のリーダー格をわざわざ逃がしてやる道理はない。詳細を知りたい者もいるのだから……と。
 思ったその時。
 残った黒衣の者達が白衣を庇う様に布陣している。目を、血走らせて。
「貴方達の目的は……なんですか」
 クラリーチェが問う。黒衣ではなく白衣に。
 こんな連中を使う組織とは……一体なんなのだ?
 気になった、どうしても気になった――その返答はなく。

 ただ。離れる様に駆ける音と、最後の戦闘音が――響き渡るだけであった。


 やがて、雨が上がった。
 晴れはしないが暫く降りそうにはなさそうだ。周囲には最早敵の気配も全くなく。
「は~~……なんとか助けられたっすね」
「ああ全く。一大事にならなくて何よりだ……」
 ジルが大きなため息を。同時に、軽く挨拶する程度の仲なれど顔見知りが一方的に命を奪われる事が無かったのは幸だと行人は言葉を紡ぐ。
 ギルオス。ローレットの情報屋。
 そんな彼は、今ヴァレーリヤになぜか詰め寄られていて。
「ほらほら、見てくださいまし。この傷は貴方のために負いましたのよギルオス? 命の恩人のために、一杯奢ってくれるくらいしてくれても良いですわよね? ねー? ね~~皆さん?」
 ヴァレーリヤがこれでもかと言う程に傷を強調してくる。うっ、あ、抗い難い……!
「……ああもう! 分かった、分かったよ! 確かに君達は命の恩人だ……
 僕のポケットマネーの範囲でなんでも出そう! でも――ある程度容赦はしてくれよ!?」
「言質を取りましたよ。では(偶々別件で)リストアップしていた酒場から行き先を選びましょうか」
「わ~い! 私ここがいいわぁ~~!!」
 なぜか手際の良い寛治が資料を片手に。アーリアが即座にここだと指差して。
 やめろ――!! と騒ぐギルオスであるが。
 もし、命を落としていればこうではあれなかった。
 いつもの様な。こんな表情と声を、もう聞く事が出来なかったかと思えば。

「良かったですね――ギルオスさん」

 本当に。心の底から。
 アルプスの穏やかな口調が紡がれたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

この度はリクエストありがとうございました!!

ギルオス君は無事、助かりました……! ありがとうございます……!
彼を(厳密には旅人を)狙った奴らははたして何者なのか。
折角なのでそれはまた別の折に。

ともあれOPから終始真面目なギルオス君。これが彼の真の姿……という冗談はともかく……!
とても楽しく執筆した次第でした。本当にありがとうございました!
そしてお疲れ様でした――イレギュラーズ!

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