PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Gear Basilica>護るべきもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●モリブデン攻防
 スラムの空に、銃声が響く。一発、二発――無数に。繰り返される銃撃の応酬。けたたましい雄たけびと、無機質な機械音。
 人間と、狂気に染まりしものと、機械の獣たちが繰り広げる最前線(フロントライン)。静かなモリブデンの地を、今再びの戦火が見舞おうとしている。
「生きてるな、エルドラウ?」
 黒髪の軍人が言った。手にしたサーベルは、敵の血と、オイルに汚れ、その顔には疲労の色が見えている。
「もちろんだ、シュナウゼ」
 がちゃり、と銃のコッキングレバーを引きながら答える金髪の軍人=エルドラウ。彼はポケットの中から銃弾を取り出し、狙撃銃へと装填する。
「だが、ウチの隊の連中ももう限界だ。幸い死人が出る前にけが人は下がらせられたが、残った連中も疲労が強い」
 悔しげに言うエルドラウに、シュナウゼは皮肉気に笑った。
「ウチも大して変わらん。情けないものだな……せっかく過ちを正してもらったってのに、その意志に報いることもできんか……」
 二人と、彼らが率いる部隊はかつて、ショッケン派の軍人として、このモリブデンの地で子供狩りを行った過去がある。その過ちはイレギュラーズ達によって正され、正道へと復帰した彼らは、再び戦火に見舞われたこの地を救うために立ち上がった――が。
 歯車大聖堂――復活した古代兵器と、それらが繰り出す黒衣の兵団と機械獣たちの前に、じりじりと戦力は削られ、今まともに動けるのは、僅かなものだ。
「あんなものを復活させようとしていたとはな……過去の自分を殴りたいよ」
 シュナウゼが苦笑するのへ、エルドラウも笑う。
「しこたま殴られたじゃないか? おかげで目が覚めたわけだけど……シュナウゼ!」
 エルドラウの叫びがこだまする。その叫びに顔をあげたシュナウゼが見た物は、無数の歯車によって構成された、奇怪なる狼の姿だった。
 歯車狼はシュナウゼの喉元へと食らいつくべく、その身体を突進させる。寸での所でサーベルをかざし、刀身を狼の口元へと押し込んで堪えた。
「ぐっ……!」
 たまらずうめく。疲労した肉体に、狼の勢いを止めることは難しかった。狼の歯車が激しく回転し、蒸気が噴き出すとともに、狼の力はさらに増していく。徐々に喉元へと牙が近づき、押し込んだサーベルは噛み砕かれんとし――このままでは、サーベルごと、シュナウゼの喉元は粉砕されるだろう。
「シュナウゼ……!?」
 慌てて銃撃を行おうとするエルドラウの下に、歯車の鷹が襲い掛かる。蒸気を吹き出し、ぐるぐると回転する歯車の翼が、エルドラウの身体を激しく傷つけ、シュナウゼへの援護を妨害する。
 万事休す――二人がそう思った瞬間。
 ききき、ききき、と。
 無数のコウモリが、辺りを包み込んだ。まるで、辺りが夜になったかのような錯覚。それほどに大量のそれが、周囲を飛び交い――刹那、まるで幻のように消えていた。
「な……!」
 シュナウゼが唖然とした声をあげる。コウモリが消えた後、そこには一人の、メイド服を着た女性が立っていたのだ。
 そして驚くべきことに、先ほどまで二人を襲っていた機械獣は無残に解体され、辺りに歯車を散らばせていたのである。
「失礼いたします」
 メイド服の女性は、優雅に一礼。
「ワタシの名は――まぁ、必要ありませんね。名もなきメイドです。アナタたちが苦戦しているようでしたので、手助けに参りました」
 メイド服の女性は、構えることなく――あまりにも自然体で、敵軍の前へと立ちはだかる。
「苦戦……は確かにしていたが、しかし、あなたのような女性に助けていただくわけには……」
 エルドラウの声を、メイド服の女性はさえぎるように声をあげる。
「女性に助けられるのが不満だというのでしたら、それは些か見識の狭い発想と言えるでしょう。それとも、助けられる理由が必要ですか? ではご説明しましょう」
 メイド服の女性は、くすり、と笑う。
「この先――スラムを抜けた先には、商店街がありますね? そこには非常に質の良い茶葉を提供する茶店があります。もしここを突破されてしまった場合、そこに被害が及ぶ可能性がある。メイドとして、最高級の茶葉が手に入らないとなれば、それは国家を揺るがす一大事に匹敵するのです」
 故に。メイドが言った。
「私はここに立つのです。さぁ、アナタたちもたちなさい。ここがワタシたちの最前線。もしアナタたちが生き残れたのならば、少しばかり、メイドとして鍛えてあげなくもありませんよ」
 エルドラウとシュナウゼは、そのメイドの、ある種有無を言わさぬ迫力に負けて、再び立ち上がった。
 三人の前には、無数の軍勢が、襲い掛からんとしていた。

●モリブデン救援
「やぁ、イレギュラーズさん達。すまないが、さっそく本題に入ろう」
 イレギュラーズ達へと依頼を行ってきたのは、鉄帝の軍将校である。
 彼の話によれば、モリブデンの一地区に、歯車大聖堂の軍勢が侵攻中であるという。
「そこを、有志の軍人たちと……何やら突然現れた、べらぼうに腕の立つメイドさんが防衛中なんだが、流石にこのままじゃ分が悪いだろう。街の方に突破されかねない」
 そこでイレギュラーズ達には、すぐにこの地に向かい、現地の防衛部隊と合流。敵をせん滅してほしいのだという。
「小難しい話はなしだ。行って、倒して、帰って来る……簡単だろう? イレギュラーズさん達なら、無事に作戦を遂行できるって信じてるぜ」
 そういって、彼はイレギュラーズ達を送り出すのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 鉄帝軍人と、謎のメイドさんと共に、敵部隊をせん滅してください。

●成功条件
 すべての敵を倒す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 モリブデンの地に、歯車大聖堂の軍勢が侵攻中です。
 この敵部隊を、エルドラウとシュナウゼという鉄帝軍人と、エステリーゼなる謎のメイドさんが迎撃中ですが、如何せん数が多く、このままでは取りこぼしが発生したり、最悪押し切られる可能性もあります。
 そこで皆さんには、速やかにこの三人に合流し、敵部隊を共に撃ち破ってもらいたいのです。
 作戦決行時刻は昼。周囲は充分に開けており、移動や戦闘に対してのペナルティは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 黒衣の兵団 ×10
 特徴
  歯車大聖堂に取り込まれ、狂気に飲まれた兵士たちです。
  主に銃を持ち、中~遠距離攻撃を行ってきます。
  また、攻撃には、ごく稀に必殺属性が付与されます。

 歯車の狼 ×5
 特徴
  歯車大聖堂から生み出された、歯車で構成された機械の狼です。
  至近~近距離攻撃のかみつき攻撃を行い、出血を付与してきます。

 歯車の鷹 ×5
 特徴
  歯車大聖堂から生み出された、歯車で構成された機械の鷹です。
  至近~近距離攻撃のつっつき攻撃を行います。また、EXAが高めです。

●味方NPC
 シュナウゼ
  狙撃銃を持った鉄帝軍人です。
  主に遠距離攻撃と、味方への微量のバフを行います。

 エルドラウ
  サーベルを持った鉄帝軍人です。
  主に近接攻撃と、味方への微量の回復を行います。

 エステリーゼ・フォン・ヴァインシュタルク
  メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)さんの関係者。
  突如現れた謎のメイドさんです。
  基本的に何でもこなせますが、最近のマイブームはメイド式近接格闘です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしています。

  • <Gear Basilica>護るべきもの完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
ホロウ(p3p000247)
不死の女王(ポンコツ)
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
すずな(p3p005307)
信ず刄
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ


「ちぃっ!」
 黒髪の軍人、シュナウゼがサーベルを振るう。がきり、と刃こぼれの見え始めたサーベルが、歯車の鷹の翼を弾き飛ばす。
「メイド嬢の援軍はありがたいが、ぼちぼち限界か……!?」
 悔しげにうめく――背後に見える、鉄帝の街を見やりながら。
 金髪の軍人、エルドラウがシュナウゼを援護するように銃を撃ち放つ。がきん、と音を立てて、歯車の鷹の態勢を打ち崩す――シュナウゼは刃こぼれしたサーベルを、無理矢理に叩きつけ、一匹を叩き落した。
「とはいえ、俺達が退くわけにもいかないぞ……メイド嬢、貴女は――」
「いえ、お気遣いはありがたく思いますが、此方はまだ大丈夫」
 と、メイド嬢は答え、襲い来る歯車の狼、その横腹に、強かに鋭い蹴りの一撃を叩きつける。真ん中から真っ二つに折れた歯車の狼が、ぎりり、と断末魔の声をあげながら粉砕。
(「ですが……彼らは限界。ワタシ一人では、流石に抑えきれない」)
 ふむ、と口元に手をやり、メイド――エステリーゼ・フォン・ヴァインシュタルクは、襲い掛かってきた歯車の鷹の攻撃を、余裕の表情でよけて見せた。その動きに疲労の色は見られない。恐らくはまだ余裕を残しているのだろう。
(「全力を出せば――いいえ、今はワタシはただのメイド。それに、うかつに力を出してしまえば、彼らを巻き込みかねませんからね……」)
 エステリーゼの全力が如何ほどのものか、それは本人と近しい者のみが知る事であるが、おそらく全力を出せば、この難局を切り開くことは出来るだろう。ある程度の犠牲と引き換えに。
 しかしそれは、エステリーゼの善悪観には、些か悪として引っかかるものであった。命のやり取りの末に命が奪われる事には、それは仕方のない事だとは思えたが、しかし救える命が、自らの不手際で失われてしまうのは、よろしくはない。
(「さて、どうしたものでしょうか――」)
 わずかな思案――その時間は、此方へと向かってくる複数の足跡によって中断された。
 敵の増援か――エステリーゼたちの脳裏に浮かんだその言葉は、しかしすぐに否定された。それは街の方からやってきていたし、此方への敵意は感じられない。
 しゃん。そのうち一つの影が、エステリーゼたちの上空を跳躍。影を落とす。
 それは、三尺五寸の長尺刀を手にした、小柄な影。
「剣士殿……!?」
 エルドラウが声をあげた。それは、かつてエルドラウらと相対した者のうち一人――彼らを正道へと引き戻したイレギュラーズが一人、『妹弟子 』すずな(p3p005307)であった。
「――お二方とも、自身が誇れる道を歩めているようで何よりです」
 すずなは背後のエルドラウたちに意識をやりながら、穏やかな声で言った。
「さぁ、これも縁と言う物。私もお手伝いさせていただきます」
「僕は、あふたーけあもこなす系の通りすがりの正義の味方」
 その背に追いつくように、仲間達が――イレギュラーズ達が、次々とやって来る。声をあげた『特異運命座標』恋屍・愛無(p3p007296)が、ふむ、と頷きつつ、続ける。
「多少はマシな面になったかね」
「あの時の……イレギュラーズ殿か!」
 喜びの色を隠さずに、シュナウゼが声をあげた。
「そう、あなた達はショッケン派にいた……」
 『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、シュナウゼとエルドラウの顔を、一瞬、複雑気な表情で見つめてから、頭を振った。
「いえ、今は、街を守る同志ですわね! 助太刀に来ましたわ!」
 何かを振り切る様に、ヴァレーリヤは声を張り上げて、その手にした天使の羽を模ったメイスを構え、うごめく敵群に相対した。
「まさか、助けに来てくれるとは……!」
 エルドラウの言葉に、豪快に笑うのは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。
「ぶはははっ! 街を守ろうって奴らを見捨てちゃおけねぇからな!」
「そう言う事だ。俺達が来たからには、もう大丈夫だぜ」
 『希望の聖星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は、エルドラウとシュナウゼを勇気づけるように、そう言った。その言葉は、疲労していた二人の身体に、力となって染み入ったことだろう。
「そっちのメイドさんも……腕が立つとは聞いてるけど、無茶はしないでくれよ?」
 心配告げるウィリアムの言葉に、苦笑交じりで返したのは、
「ああ、彼女は大丈夫だよ」
 『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)だ。メートヒェンは優雅に一礼をしつつ、エルドラウとシュナウゼに笑いかける。
「やぁ、エルドラウ殿とシュナウゼ殿、無事に別の指揮系統に組み込んで貰えたみたいだね。今回はスラムのために共に戦えて嬉しいよ。……それから」
 ふぅ、と嘆息交じりに、メートヒェンはメイド――エステリーゼへと向き直った。
「やっぱり! 話を聞いてまさかとは思っていたけど……こんなところで何をしているんですか、師匠?」
「おや、妙な事を聞きますね、メートヒェン」
 くすり、と笑い応えるエステリーゼ。
「世界の危機となれば、駆け付けるものでしょう?」
 嘘だなぁ、とメートヒェンは内心思った。メートヒェンの知る限り、エステリーゼは、「国が亡ぶのも自然の営み。無用に介入するほどのものでもない」と考えるタイプの善悪観を持っているはずだ。となれば、絶対、何らかの意図があるはずだが……弟子たるメートヒェンであっても、エステリーゼの内面は計り知れない。もしかしたら案外、本当に茶葉が出に入りづらくなるのが気に入らなくて参戦してきたのかもしれない。
「なるほど、メートヒェン様のお師匠様でしたか」
 恭しく一礼をするのは、メイド――『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)だ。
「同じメイドとして、是非一度お話を――と申し上げたい所ですが、まずは敵の排除からですね」
「終わったら色々と話を聞かせてもらいたいものだな! エステリーゼよ!」
 『不死の女王(ポンコツ)』ホロウ(p3p000247)はニヤリと笑い、武器を構える。遠く見やれば、此方へと向かいつつある敵の残存戦力の姿が見える。
「ここを突破されては、街が破壊されるかもしれん……そのような光景は、我は見たくないのでな」
「同感だね。では、お掃除を始めようか」
 メートヒェンの言葉を合図に。
 イレギュラーズ達は、スラムの地を駆けた。


「おう、二人は下がっててくれ! ここは俺達で抑える!」
 ゴリョウは叫び、最前線に立ちはだかった。
「だが……!」
 エルドラウが食い下がるのへ、
「お二人は疲労しているようだからね。もちろん、ただ休んでいてくれなんて言うつもりはないよ? 援護、よろしく頼むよ」
 メートヒェンもまた、最前線にて立ち、敵を抑えるべく息を吸い込む。
「……わかった、一度後衛へ下がらせてもらう……!」
 シュナウゼがエルドラウと共に後衛に下がるのを確認して、ゴリョウはぶははは、と豪快に笑ってみせた。
「よう玩具共、ちょいと俺とも遊ぼうぜ!」
 がしゃり、がしゃりと歩きながら、ゴリョウは前線へと突き進んでいく。一歩一歩歩くごとに、足元から鎧がゴリョウを覆い、やがて全身がその鎧に包まれたと同時に、背部のブースターが火を噴いた。
 重戦車のごとく突撃する鎧のゴリョウ――それを狙い、翼をはためかせる歯車の鷹たちが、次々と殺到する。
 ゴリョウは魔力障壁を展開し、無数の鷹たちをまとめて受け止めてやる――素早い鷹たちの足が止まる。
「斬鉄もできますからね、一応。歯車では止められませんよ!」
 すずなの振るう、長尺刀――『竜胆』の刃が、歯車の鷹、その翼を切り裂いた。如何に素早いとて、その性質上、攻撃をする瞬間は直線の単調な軌道となる。そして、ゴリョウにより受け止められた――わずかな時間であろうと足を止めれば、すずなから逃れられるはずもない。
 ぎい、と悲鳴を上げて、歯車の鷹が千切れた翼をはためかせて飛びずさろうとする――遅い! すずなの二撃目の刃が、中心から真っ二つに歯車の鷹を切り裂いた。
「かしゃかしゃ、きぃきぃと、鳴き声だけは大きいようですが――」
 ヘルモルトは、上空へと逃れた一匹の鷹目がけて跳躍。その翼を掴んで見せる。そのまま、体勢を入れ替え、空中で投げる形で地へと叩きつける――悲鳴を上げる魔も逃げる間もなく、ぐしゃり、と歯車の鷹は圧壊。
「こうしてしまえば、唯一のとりえも発揮できませんね」
 ヘルモルトが肩をすくめる――それを楽しげに見つめていたのは、エステリーゼだった。
「ふふ。やはりメイドというのは素晴らしいですね。さぁ、メートヒェン。アナタも負けてはいられませんよ」
「仰せのままに、師匠……鍛え直しだ、なんてのは勘弁願いたいからね」
 二人の相対する先には、ライフルを構え、ゴリョウにポイントする黒衣の兵士たちの姿があった。メートヒェンは殺意、敵意を最大にぶつけ、口を開く。
「まさか、そんな豆鉄砲で私達を倒すつもりなのかな? この機械の獣たちは必至で私達に食らいつこうとしているのに君たちはそんなおもちゃで遊んでいるだけなんて、ずいぶんと情けないね」
「いらっしゃい、臆病な兵隊様方。少し遊んであげましょう」
 合わせるように、エステリーゼも挑発と、敵意を叩きつけた。兵士たちの意識が、一斉に二人へと向けたれる――同時に向けられる無数の銃口。
 しかし、それに慌てることなく、メートヒェン、そしてエステリーゼは、合わせるように構えた。メートヒェンは足技を披露する構えを。エステリーゼは対するように拳技を披露する構えを。
 銃声! 同時に二人は、一気に駆けだした。襲い来る銃弾の隙間を塗った二人の脚が、拳が、黒衣の兵団を叩いて砕く!
「ははは! やっぱりメイドとは凄いなぁ。戦う姿が映えるのもよい。我の元部下にもいたが、すごくよくできた人物であった!」
 地を駆ける歯車の狼へ、放たれる漆黒の弾丸――ホロウの放つそれが、狼の脚部をぶち抜いた。前足を破壊され、もんどりうって倒れる狼へ、一筋の焔が襲い掛かる。
「まって……なんというか、メイドの定義がおかしくなりそうですわね!」
 こめかみに手をやりつつ、メイスを振るい、一条の焔を放つのはヴァレーリヤだ。
「メイドって、戦うモノでしたかしら!?」
 聖句を唱え、メイスを振るう――走る焔が狼を捕らえ、その聖なる炎の内へと溶解させた。
「まぁ、世の中いろんな奴がいるからなぁ」
 どこか達観したように見えるのは、ウィリアムだ。その言葉は、練達出身という所にあるのかもしれない。さておき。ウィリアムは術式を編み上げると、その背に展開した。途端、現れた光の翼が羽ばたき、舞い散る羽が仲間達を癒し、同時に宙を舞う歯車の鷹を斬りつけ、その光の羽に幻惑された歯車の鷹たちが、同士討ちを始める。
「頼りになるなら、多少の無茶苦茶は許容できるさ!」
 爆発するように飛び散る光の羽が、再び歯車の鷹を切り裂く――一匹が落着し、ぎぎ、と声をあげ、絶命する。
「らぶあんどぴーすであるからな」
 しっぽを振るい、歯車の狼に突き刺すのは愛無である。しっぽの槍は、ぐずぐずと崩れる歯車の狼を溶かし、同化吸収する。
「どうだ、心地よくないか」
 ふと、愛無は声をあげた。シュナウゼとエルドラウ、二人へと向けて。
「以前との闘いと比べて――そうすることに、迷いがないだろう。うむ。言ったはずだ。僕は「正義の味方」だと。だから」
 ふむ、と愛無は頷いて見せた。
「今は君達が「正義」だ。君たちが成そうとしている事が「正義」だ。誇りたまえ。胸を張りたまえ。今、正義は君達の中にある。今度は、誰に恥じることも無く戦いたまえ――いや、共に、戦おう」
「……! ええ、今度こそ、正しい事のために……!」
 その言葉に、シュナウゼとエルドラウは感激した様子を見せていた。シュナウゼは頷き、エルドラウと共に援護行動を行い始める。
「うん――風は、此方に吹いてるようだ」
 愛無は静かに呟く。そしてその言葉通り、戦況は確実に、イレギュラーズ側へと傾いていった。

 落ちていく。落ちていく。
 鷹が、狼が、落ちていく。
 あれほど耳障りに鳴っていた歯車の音が、少しずつ、少しずつ、掻き消えていく。
「ぶはははっ! どうした? オーク1人落とせないか!?」
 ゴリョウの言葉は強がりではない。まさに不動――立ちはだかるゴリョウを、歯車の兵士たちは突破できない。
「よいしょ、っと」
 ヘルモルトが黒衣の兵士の頭を、太ももで挟み込んだ。役得――などではない。そのまま勢いを乗せて、後頭部から地へと叩きつける。死への特急列車チケットだ。
 黒衣の兵士たちが、大慌てで銃撃を開始する――だが、その大部分が致命打には程遠い。
「剣士殿!」
 エルドラウの編んだ回復術式を背に受け、すずなは前線をかける。足を止めることは無い。止める必要はない。
「相手が多かろうと、その分沢山斬れば良いだけです!」
 吐き出す息と共に、すずなは刃を振り下ろす。一刀。それだけで、黒衣の兵士が崩れ落ちる。
「上だよ!」
「では、下です」
 メートヒェンが、回し蹴りを叩き込む――黒衣の兵士の左頬へと向けて。直撃を受けた黒衣の兵士が、派手に右へと側転――が、地に落ちる前に、エステリーゼの正拳突きが、黒衣の兵士の顔面を貫いた。派手にもんどりうってぶっ倒れた黒衣の兵士が、そのまま動かなくなった。
「諦めなさい、此処が貴方たちの侵略の終点ですわ!」
 ヴァレーリヤが聖句を唱える――主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え――その聖句は力を伴い、立ちはだかるものを打ち払う波となる。
 放たれた力を、黒衣の兵士は真正面から受けた。ごり、と音を立てて、衝撃波が身体を駆け抜ける――吹き飛ばされた黒衣の兵士が地を擦り、果てる。
「良い調子だ、このまま一気に押し切るぞ!」
 ウィリアムが放つ、青く煌く星の刃――ほうき星のごとく軌跡を描きながら、黒に塗り込まれた絶望に突き刺さる。青い光の本流が、黒衣の男を貫く――星が闇を切り裂くが如く。
「それ! 呪よ、爆発せよ!」
 ホロウが放つ死者の怨念。その一矢が、黒衣の兵士へと突き刺さる。内部から爆発した呪いが、殺意の波動となって駆け巡った。ぐらり、と黒衣の兵士が揺れると、そのまま倒れ伏し、動かなくなる。
「これで残るは一人」
 愛無はしっぽを槍のように扱い、黒衣の兵士を刺し貫いた。黒衣の兵士は死体も残さず、しっぽに吸収されていく。
 残る最後の一人となった黒衣の兵士――決死の攻撃とばかりに、ライフルを持ち上げ、近接攻撃をヘルモルトへとしかけた。
「残念ですが――無意味の極みです」
 ヘルモルトは振り下ろされた銃床を叩き、いなすと、そのまま胸ぐらをつかんで、華麗に投げ落とした。
 ず、と地にその身体が落着し、黒衣の兵士は動かなくなる。
 ふぅ、とヘルモルトは小さく息を吐いた。あたりを見回せば、あれほど響いていた歯車の音も、銃声も、今はない。
 それは、静かな――決着を現す静寂であった。


「鮮やかな手並みでしたね、エステリーゼ様……これがメイド式近接格闘術ですか。興味深いです」
 恭しく一礼をするヘルモルト。戦いの中で見え隠れしていた、エステリーゼの高い戦闘能力……ヘルモルトは最初にも言ったとおりに、興味津々の様子だった。
「ありがとうございます。ワタシもまだまだ未熟ではありますが。最近のマイブームですので」
「最近の……? いえ、ご謙遜を」
 小首をかしげつつ、ヘルモルトが答える。
「ぶはははっ、しかし、この戦場にメイドさんが三人か! メイドさんってのはすげぇんだなぁ」。
 ゴリョウが笑いながらそう言うのへ、ウィリアムが頷いた。
「ああ。それに、傷の治りも早いような……いったい何者なんだい? 師匠って言うのは」
「んー……まぁ、色々と長くなるからね。戻ったら話そう」
 メートヒェンは苦笑しつつ、ウィリアムへと答える。
「さて、皆様お疲れのご様子。戻り次第、お茶の準備をいたしましょう」
 と、エステリーゼは優雅に一礼を見せるのであった。
「おお、楽しみであるな! やはり一軍に一人、メイドが必要であるなぁ」
 ホロウは嬉しげに笑うのである。
 一方。
「……彼方のお二人は、ショッケン派閥の軍人だったのですわね」
 ヴァレーリヤは再び、複雑な表情でシュナウゼとエルドラウを見やる。
「はい。ですが、元々自分たちの任務に迷いを持っている方たちでした」
 すずなが言うのへ、
「らぶあんどぴーすに目覚めた者たちだ。どうか気持ちを切り替えてやってほしい」
 愛無が続ける。
「いえ……何を言うわけでもないのですわ。過ちを認め、歩みなおせるなら、それは素晴らしい事だと思います」
 ヴァレーリヤはかすかに、笑ってみせた。
「……で、師匠はこれから、どうするんです?」
 メートヒェンが、エステリーゼへと尋ねる――エステリーゼは、にっこりと微笑んで、答えた。
「ええ、少し約束がありまして。メイドとして鍛えて差し上げる予定の人がいますよ」
 エステリーゼの視線は、シュナウゼとエルドラウに向けられていた。それだけで、メートヒェンは事情を察したのである。
「……可哀そうに」
 心から同情するように、メートヒェンは呟くのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍のおかげで、歯車兵団は食い止められ、街に平穏が取り戻されました。
 これは余談ですが、シュナウゼとエルドラウのメイド修行が始まったそうです。

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