シナリオ詳細
<Gear Basilica>識別名「歯車兵器・トンボ」
オープニング
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ギリギリギリギリときしむ音がする。
ごちごちごちごちと組み合う音がする。
「やめてくれ」
足は地面を踏めていない。はるか下に小さくさっきまでたっていた戦線が見える。
ぶち。兜に穴が開いてそのまま皮膚を割いて骨に食い込み鋼の顎。
視界がぶれる。目玉がでんぐり変える。白目をむいてしまう。
「が」
口が緩み、こんな大きな肉塊が詰まっていたのかとびっくりするほどだらりと舌が垂れ下がり、せめてあいつらに愛用の武器をを渡したくなくて、できるだけ奴らの通り道から遠くに落ちることを願う。
機械仕掛けの虫が空を飛び、ぐちゃっぐちゃっと空から戦友が降ってくる。
黒づくめの兵団がどんどん侵食してくる。さっきまでそこで銃を撃っていた奴が担ぎ上げられる。
話では炉にくべられるのだ。愛用の武器も軍服も、自分達自身も、誰かの大事なものだからみんなくべられて、化け物大聖堂の餌にされるのだ。
悪夢だ。
ごちごちと歯車の音がする虫の大群のような奴らに愛する帝国が蹂躙されていく。
いやだ。そんな風に死にたくない。
●
なぜ、いつも料理屋の個室を確保できるのだろう。
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、口の中にジャムを落としてお茶をあおった。
「こないだは、外縁部の一件、お疲れさまでした」
婉曲表現という奴だ。
スチールグラードに存在する広大なスラム街『モリブデン』には古代兵器が埋まっていた。
その情報を突き止めた鉄帝将校ショッケンはその力を独占すべくモリブデン確保に動き出した。
・悪質かつ強引な地上げや住民拉致を引き起こすショッケン一派が親征などの間隙を縫って軍事作戦を強行。
しかしスラム民を守るようにローレットが展開。まさかの対抗勢力にショッケン一派は攻めあぐね、モリブデンと古代兵器の確保に至らなかった。
「けど、起動しちゃったんだよ。こっちも想定してなかった方向から。こう。歩く要塞。首都の外に向かっている」
歩く要塞?
「はい。要塞を思い浮かべてー。高い塀。頑丈な建物。物見塔」
思い浮かべた。
「その下に鉄でできたタコの脚とか鳥の脚とかを思い浮かべてー。イカとか亀でもいいけど。後、タイヤとかキャタピラとか」
だんだん難しくなってきた。
「それが歩く。概要図はお手元の資料にあるので確認してね。それ、起動直後の証言をもとにして描かれてるから、みんなが遭遇するときなもっとでっかくなってる。多分」
何それ、悪夢?
「現実で喫緊の案件なので、目をそらさないでねー」
と、メクレオは言った。
「ギアバシリカは巨大だけど、『打倒帝国』して『新体制樹立』までは持っていけないっていう自己判断機能があるんだよ。厄介なことに」
メクレオは、もっちもっちと揚げパンをかむ。
「無数の村や周辺の古代遺跡などを『捕食』して取り込み、自らを巨大な聖堂へと作り替えながら荒野を張りし続けているの。具体的には道中の村々で略奪して物資を補給しながら、無数のモンスターや兵隊を繰り出して。略奪、補給、増殖を繰り返してるの」
なんで要塞をわざわざ大聖堂に。軍事的にはなんの意味もないだろう。
「魔種化して動力源として取り込まれたクラースナヤ・ズヴェズダーの聖女アナスタシアの影響だろうね。思想的裏付けは大事業には不可欠」
世界を滅ぼすのは行き過ぎた正義の結果である方がよっぽど多い。
「まず腹ごしらえしてカーボローディングしてパンブアップしてからなって感じ。自分で行けるんじゃね!? と判断したら、首都に戻ってくるんじゃないかと予想されてる」
言いたいことはわかるが、言いようってものがもう少しあるのではないか。
「で。それなら、超遠距離から波状爆撃かましてしまえばいいんじゃないかって気もするんだけどさ。そうもいかないんだよ。随伴歩兵部隊がいるの。つうか作っちゃうの」
お手元の資料をご覧くださーい。と、メクレオはぞんざいに言った。
「ギアバジリカに取り込まれ、魔種アナスタシアの思想に洗脳された黒衣の兵団を本作戦より「スネグラーチカ歯車兵団」と呼称します。連中、魔種の影響を受けて狂気に染まっており、略奪や虐殺に対して全く抵抗ないから。ひるんでくれたりしないから。躊躇したらだめだよ」
それからー。と、今度は干しなつめを口にほおり込む。
「ギアバジリカに取り込まれつつも洗脳されなかった兵隊たちもいるんだよねー。協力すればワンチャン首都を破壊し政権を奪えたら甘い汁を吸えると考えて協力している者がほとんど?」
人間って汚い。
「なかには親友がスネグラーチカになってしまったのでそれを殺されないように協力していたり――」
ちょっとまし。
「ただ悪事を働くのが気持ち良いだけという者もいるっぽい」
全然だめだ。
「そんな感じで、命令系統もズタズタ。海洋王国外洋遠征への護衛艦隊や幻想及び天義への国境維持部隊など大事に追われる鉄帝軍に、これを即座に迎撃するだけの大部隊をすぐに用意することは難しいの。とんぼ返りったって、物理的に日数かかるし、兵站ってものがあるからね? 返ってきて疲労困憊して戦えなかったら意味ないから」
ギアバジリカにとっては願ってもない展開だ。弱った敵を倒す方がいい。
「それと別系統で自立型機械のごっしゃんごっしゃんした化け物も生産されてます。戦車とか装甲車みたいに運用されてるから。そっちは今後『歯車兵器』って呼称する。でかい分、建物がやばい」
建物を崩し、中身を総ざらいにされる。三匹の子豚の狼に足りないのはショベルカーだった。
「という訳で、今回の雇い主は、鉄帝で暮らす人々です。国家オーダーじゃないの。スラム民、闘技場のファイター、村人、クラースナヤ・ズヴェズダー教団員、軍人達の現場の判断ね。謹んで依頼にを受注し、迫り来る巨大な古代兵器に立ち向かろうじゃないか」
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「という訳で、個別の案件なんだけど。悪い。あんまり情報がない。絶賛首都進撃中のギアバジリカから、露払いのために歯車兵団が出撃してくんのを鉄帝の駐屯兵団が迎撃してるんだけど、その加勢というかカンフル剤やってもらうから」
メクレオは、お手元の資料をご覧下さいと言った。
「この地点で、歯車兵団をすりつぶしてもらう。揃いの黒づくめなので、識別は簡単。こいつらがギアバシリカの燃料調達係だから、こいつらを削ればギアバジリカの巨大化を遅滞させられる。放置してもいいことないからなるたけ足止めかつ削ってくぞ。減らせば向こうのリソース削れるしな」
現場は主要街道の合流地点。中継都市を経由しながら直進すれば首都。見通しもよく、向こうも見えればこっちも見放題。背後の都市の避難が完了するまでは退けない位置だ。
「ギアバジリカの通過を止めろとは言わない。太らせないで通過させられるよう、兵団をすりつぶせ。10人に一機くらい歯車兵器が護衛についてるからそれへの対応も忘れないでな。大体5機飛んでる。それを落とすと、割と向こうの脚も鈍ってくれるんじゃないかと思うんだわ。少なくとも、そこに駐在してる鉄帝の戦線崩壊を止めることはできるな。ほら、人間相手にドンパチするのと、化け物に嬲り殺されるのは気持ちが違うだろ?」
- <Gear Basilica>識別名「歯車兵器・トンボ」完了
- GM名田奈アガサ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「あんなのが頭上を飛んでいたら、士気が上がらないのも当然ですわねー」
『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は、空を仰いだ。
「コイツはヒデェや。トンボっつーかイナゴじゃねぇか」
『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)の視線の先では、真っ黒い歯車兵団が死んだ兵士をギアバジリカに担ぎ込んでいく。
体を焼く。装備を焼く。軍を焼く。帝国民を焼く。誰かの乳を焼く。母を抱く。息子を焼く。娘を焼く。供を焼く。恋人を焼く。価値あると思える全ての要素を焼いて抽出しギアバジリカは首都を蹂躙する力を蓄える。
戦線崩壊させない指揮官たちの奮闘をほめるべきだろう。
「お空のアレは僕達イレギュラーズに任せて下さいっす!」
『シルクインクルージョン』ジル・チタニイット(p3p000943)が、精いっぱい声を張り上げた。
「今回相手は話すらできんってのが致命的! 一方的な押し付けがいっそ魔種って感じだわ! 僕ぁ手を取り合えそうな連中の日常を取り返したい!」
『一兵卒』コラバポス 夏子(p3p000808)は、こないだの敵は今日のともって尻軽すぎね? 問題は蹴りとばした。そもそも嫌いじゃないし、政治もわかんね。
今、この場だけ戦闘の天才を閃きを呼び込む。場を支配するのは俺だ。だから、闇を劈く爆裂音。余人にはない発想。
乾いた破裂音が辺りのよどんだ空気を一変させる。
「待たせたな野郎共ォ! ビビったか? ビビってねぇよなこんなんでぇ!!」
ひょろっとした一傭兵風情が、鉄帝国の軍人にビビってんのかと煽る。
「「抜かれたらどうなるかぁ分かるよな! 誰の国だ! 家だ! 家族だ! 誇りだ! 許せねえよなぁ?そんな事ォ!」
それに声が応えることはないが、頭を抱えてうずくまった者たちがまた無言で銃を握り直す。
「大事なものを奪って餌にするなんて許せない」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034) は痛みをこらえながらの参戦だ。とりあえず動きに支障はないが、万一の時は抑えている分反動は大きい。
「それが物だけでは飽き足らず、人の命まで奪うだなんて……そんなことをする兵器なんて全部壊してやる!」
それでも、スティアはやる気だった。
胸から下げた母の形見さえも囮にすることを辞さない。代々受け継がれた、自身のみを守る要の装備だというのに。奪われたら相応の燃料になるだろう。
(それだけ他の人が楽になれるから)
空中からほおり出される死体。それに押しつぶされてできる死体。
一刻の猶予もない。
「いつもなら、しっかり事前情報をもって色々準備するんだけど……とにかく、いまは手持ちの手段で対応するしかないよね」
『生気奪うガスを翻弄して』ニーニア・リーカー(p3p002058)は、ちょっと難しい顔をする。郵便屋さん的に情報量はパワーだ。
「それなら、戦いながら出来る限りの情報を収集するまでだよ!」
「――ならばくれてやる。二秒待て」
『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は、醜悪極まりない飛行物体の弱点を割り出そうと目を凝らす。
装甲は厚い。攻撃力は馬鹿みたいに高い。バルカン砲を撃ってこないだけ戦闘ヘリよりはましだが、兵士をつかみ上げて空中で頭を死なない程度かじるような士気低下行動をする。
胸部には四枚の翅をばらばらに動かす駆動系と六肢を動かす駆動系がひしめき合っていた。弱点というほどでもないが、そこ以外つけ込む隙がない。
舌打ち交じりで周知させる。
「トンボのそれぞれの出没範囲は把握したよ。どうやら縄張りがあるようだ」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は、常人より鋭敏な感覚器の複合効果で、なぜそう思うのかわからないレベルのことを当たり前のように言う。
「これじゃトンボが射程に入りませんわー。邪魔ですわねー、略奪兵」
見渡す限りの略奪兵。トンボを見上げているところに密集した略奪兵に轢殺されるわけにはいかない。
ユゥリアリアは、絶望の海を歌う。魔女にたぶらかされて互いを殺し合うがいい。時間稼ぎは大事だ。
「同時に複数のトンボと戦わないようにしなくてはなりませんわー」
「待って、今――見てる」
ニーニアは、鳥を飛ばして状況の把握に当たった。
(どこが手薄でどこに敵が多いか、鉄帝の守護兵団がどんな形に展開してるのか――)
状況は、よろしくない。トンボを先頭に楔型に突っ込んでくるハグルマ兵団を包囲するに至っていない。増援が間に合わず、戦線は崩壊している。
トンボは好き勝手に飛び回り、動きに規則性を持たない。時間が過ぎれば過ぎるほどこちらの不利だ。
(想いのこもった物を持ち帰るんなら……)
ニーニアは苦渋の決断をした。戻ってきた使い魔に「手紙」を括り付けてた。ただ紙を結わえ付けただけだ。
それを戦場に落としていけば囮になる。トンボを引き付けられる。職業柄したくないことではあった。
使い魔は飛び上がる。援護がされにくい、自分たちの方に突出したトンボの前を横切るように飛び、手紙を落とそうとした時。
トンボは、使い魔より飛ぶのが早かった。前足を伸ばすのが速かった。行き場のない手紙と魔法使いと今まさに縁をつないでいる使い魔では「価値がある」のはどう考えても。
ファミリアーの視界。巨大なトンボの目。泣く産の複眼全てぬ映り込む鳥の顔。鳥のくわえるなんて大して口を開ける必要なんてない。
砲弾と銃声と悲鳴彩る戦闘音楽華やかなりし戦場にて、ピーっという鳥の声をニーニアだけが聞いた。
「――ピカっといくっす!」
ジルが放つ神罰の光。イレギュラーズに押し寄せる略奪兵の波が止まる。同士うちと痛みにのたうつ者たちと。おとなしく死んでいない分踏み越えるのにも邪魔になる。効果範囲外では大渋滞だ。いればいいってもんじゃない。
「よーし、よしよし。そんな感じで頼むぜ。まずは景気づけに一機落として士気を上げたいところだな」
スコープをのぞき込むシルヴィアの不敵な横顔。とっておきの特殊抗体弾頭を装填。共振現象で体にガタが来る素敵な一発。
命中。トンボの駆動に素人が見てもわかる違和。更に追い打ちをかける光線。
「ぼちぼちあのトンボはこっちに着て俺の頭をかじろうとする。羽根の付け根辺りを狙い撃ってもらおうか」
しれっと囮になるラルフに、ジルは開いた口が塞がらない。
「ラルフさん、何言ってんすか? よけて欲しいっす」
「これが最善と判断しただけだが? 簡易飛行もできるしな」
フィジカルアデプトとホーリーメイガスの論戦は、大抵の場合後者に軍配が上がる。
ジルが言い返そうとした途端、周囲は爆音に包まれた。
「こっち来るぞ。的はでかい、撃ちゃ当たる。敵討ちだ。撃て撃て撃て撃て。アイツらの分まで鉛弾をくれてやれ!」
帝国軍からトンボに向けて一斉掃射が向けられる。イレギュラーズとの連携などあったもんじゃない。トンボが帝国軍に迫る頃にはラルフへの怒りに我を失っているのが救いだ。そうでなかったらトンボは帝国軍に頭から突っ込んでいっただろう。
走している間にも余白を埋める略奪兵の進軍は止まらない。使い物にならなくなった略奪兵の死体が担ぎ上げられて後方に投げられる。あれも炉にくべられるのだ。迫ってくる。迫ってくる。略奪兵が迫ってくる。生身の人間より頑丈だから、殺すのに手間がかかるのだ。その間に別の略奪兵が誰かを殺すのだ。
ニーニアの手に、もう届ける相手がいない郵便物。ひょっとすると、受取人はこの略奪兵達の中にいたかもしれない。
混乱と狂気が略奪兵を襲う。略奪兵は自分の行動を妨げるものを攻撃する。同士討ちが始まる。
「あー、考えるなら点じゃなくて面の方がいいのか?」
シルヴィアのハンドグレネードが略奪兵に向けて打ち出される。着弾と同時にあふれる炎。
「火だるまに向かって撃て!」
まだ、正気の現場指揮官はいるようだ。が、確定しない攻撃などあてにできるわけもない。恐れおののく戦線では押し寄せる略奪兵をイレギュラーズだけでどうにかするのは無理だ。反攻の旗印が必要なのだ。
ジルはギリっと奥歯を鳴らし、神気閃光をトンボに向かってぶっ放した。
ラルフを吊り上げ頭をぼりぼりかみ砕く未来しか見ていないトンボが近づいてくる。純粋に破壊機関としてだけのトンボの顎。
「間に合ってくれ!」
ゲオルグが祈りながら、トンボの信仰ルートに理想郷の残骸空間を具現化させる。
一瞬黒に飲まれたトンボの全ての複眼に舞い散る黒い羽根の幻影。
「ふふん。恍惚状態か。ずいぶん厚い殻だが無駄なんだよ。全力だ」
十分に引きつけないと効力を発しない弾丸に。ラルフのリボルバーから打ち出される破壊術式。強力だが発動迄若干の起動時間がかかる。
トンボはラルフを咥え上昇する。普通死ぬ。
ひ。と、ジルののどから声が漏れた。ギチ。とラルフの頭に顎が食い込む。防御フィールドにも限界がある。爪先から頭部から伝った血がしたたった。
「あああっ!」
戦線から悲鳴が上がる。
癒し手たちが治癒術式を飛ばす。死ぬなら一瞬の痛みだろうが死なせないための治癒。そこをまたえぐられる地獄のような数瞬が過ぎた。
解析終了。術式発動。粒子になって空気に溶けるように消えていくトンボ。
簡易飛行で急速落下はない。散発的に後方から狙撃されている。速やかな回収。戦線から歓声。トンボは落とせる。
「あと4機」
誰ともなく呟いた。
これを四回。癒し手が半分という編成でなければ今の攻防だけでも綱渡りだ。
「テメエら、このまま無様を晒すだけか? 本当に苦しい時にこそ、足掻いて、生き残る為に戦うんだよ」
腰に刀をぶら下げ、手にライフル握ったメイド姿の女が瞳孔をしぼめながら言う。値踏みしているのだ。帝国軍人が戦力となるかどうかを。
侮られては生きられない。ならば死んでも汚名はすすがなければならない。
●
少し緩めば、略奪兵が押し込んできて数の暴力で負傷する。
「気張ってくださいっすよー」
癒し手たちの連携した治療体制は、帝国の戦線も支えた。
ニーニアは、通りすがりに自分も含めた帝国軍に郵便妖精を贈って回復に努めた。辻ヒールは体も癒すが心も癒す。
「私達があの兵器を止めるからもう少し頑張ってね」
スティアの天真爛漫さは、彼女の柔らかな歌声と癒しの力と共に帝国の兵士にしみわたった。
厳しい状況の時はなおさら、反感は内部から戦線を腐らせる。かなしいかな、古今東西突出した外部戦力はやっかみの元であり、印象を柔らかくする飴は必要だ。苛烈な鼓舞と献身的な奉仕は戦線の維持に有益だった。
大盤振る舞いしては、行動力が尽きる。と、シルヴィアが効率重視で動き始めた。ここぞという時撃つ手がない。では笑えない。まだ大きいのを撃てるくらいの余裕はあるだろう。
「寄ってこないなら、引きずってきますわー」
放たれた氷の鎖がトンボの胴に巻き付いた。
相手を倒しきれなければ、殺しきれるもののところまで引っ張ってくればいいだけだ。引きずるのは、ユゥリアリアのお家芸である。
ニーニアのポータードローンβ=マルチプル ――マルチプルは戦闘用とルビを振る――が飛び出し、トンボを含めた全周囲の敵性存在にに向けて電撃を放つ。
それでもトンボに吊り下げられる兵士はいる。
「後でちゃんと仕返ししてくれよ……なぁッ!」
夏子は覚悟を決めた。それはギフトを利用した嫌がらせ。本来は衝撃とドッカンという炸裂音と強い光と少々の吹き飛ばし。
直撃を受けた兵はトンボの口から「数メートル吹っ飛んだ」
その体を、察したゲオルグが受け止めすぐさま辺り丸ごと癒した。
夏子は、仲間の範囲攻撃の範囲内に略奪兵を押し込むことに専念した。うまいこと当たれば敵を数メートルは吹き飛ばせる牽制力は数メートルづつでも戦線を前に押し出すきっかけになった。一歩ずつでも進まないよりよほど増しだ。その数メートルで撮れる手段が格段に変わる。
それでも、負傷は免れない。前線に立ち続ければ回復が追い付かない怪我を負うのは仕方ないことだ。万全を保つのではなく、離脱させない回復に変わっていく。流した血が乾いて装備がごわごわになっていくのもやむなしと笑い続けなくては立っていられない。
「もういい加減、限界っすよ! スティアさんとゲオルグさんが回してくれてますけど追いつかないっす! 二回と治せないっす!」
ジルが進言した。
「これ以上粘ったら奇跡でどーにかするしかないっすよ!」
癒し手がもうだめだという時に引けないパーティーは大体壊滅する。
「で、トンボはいくつ落としたんだ」
余裕がなくて誰も数えていなかった。そもそも、自分の意識が遠のいた数も覚えていないのだから仕方ない。
「最初のと、ユゥリアリアさんが一本釣りしたのと――」
「シルヴィアさんが向こうで落としたのと――」
「なんか細かいのいっぱい巻き添え食らってていつの間にか落ちてたのと――」
「じゃあ、今、あそこでまごまごしてるので終わりだ。温存してた分で決める!」
シルヴィアがとっておきのきつい奴を弾倉に詰めた。体はガタガタだが反動くらいは何とか逃がせるだろう。
「顎をぶち割ってやるよ。アタシに撃たれてぶっトベるなんて最高だろ?」
弾丸はトンボの頭部を吹き飛ばした。
比較的短時間でのトンボの撃墜。ギアバジリカはいったん飛んでいたトンボと略奪兵を撤退させた。
イレギュラーズはボロボロの体と引き換えに戦線の維持に成功した。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。ひとまず波は去りました。
ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
田奈です。
イレギュラーズの大群への対応力が見たい。
回復とかも考えないと大技一発屋で終わるので、バランスも考えて下さいね。
ハードですので、相応に判定します。
目的:首都防衛戦線を支えるため、歯車兵器「トンボ」を最低5機倒して士気を上げる。
できるだけ多くの歯車兵団を倒す。
歯車兵団『略奪兵』×数えきれない。
黒づくめの兵団。人の心はありません。説得や回心を促すのは時間の無駄です。「想いがこもったモノ」を持ち帰るのが第一義ですが、妨害するものを破壊するのに躊躇はありません。
歯車兵器「トンボ」×5
*機動性が高い空中攻撃型です。全長5メートル。片目は人間の頭より大きいです。標準的な重装備したヒト一人くらいは吊り下げられます。
*攻撃は、物理です。非常に強力なあごで噛みちぎっていきます。あるいは咥えて、高所から地面に叩き落とします。場合によってはさらわれます。対策してくださいね。
場所・だだっ広い荒野です。
どこにも逃げ隠れするところはありません。戦闘中のところにみなさんの部隊が投入されますので、事前準備の時間はありません。
戦闘前のスキル使用による強化は一つだけです。
すでに鉄帝の守護兵団が展開していますが、トンボの強襲で士気が下がっています。連携が取れる状況ではありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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