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シナリオ詳細

<Gear Basilica>黒の騎士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●歯車の大聖堂
 憎悪の想念にとりつかれ、アナスタシアは魔種となった。彼女を飲み込み、古代兵器は歯車で出来た大聖堂へと変貌し、首都への進軍を始めた。目的は一つ、国家にある財という財を全ての国民に等しく分け与える事。その方法は単純明快、持てる者から奪い、持たざる者へ与える事である。しかし、崇高な目的と野蛮な略奪が正常に遂行されるようには見えなかった。何故なら、歯車の大聖堂は、取り込んだ財産を次から次へと燃料として焼き尽くしていくからである。これを放置すれば、鉄帝には塵も残らなくなるだろう。
 しかしこの緊急事態に鉄帝軍はほとんど身動きが取れない状況にあった。外洋遠征への護衛部隊がまだ帰って来ないし、国境線に貼り付けた兵士を動かすわけにもいかない。国内に留め置かれた戦力も、ショッケン将軍が引き起こした事件によってすっかり目減りしてしまった。
 ここにおいて頼みの綱は、やはりローレットのギルドであった。イレギュラーズは暴走した古代兵器を止めるべく、手始めに鉄帝の席巻を始めた敵勢力を排除しに向かったのである。

●白冥の激突
 高地の天候は不意に変化する。歯車の大聖堂が絶え間なく吐き出す大量の蒸気によるものか、空には鼠色の雲が立ち込め、大量の雪が降り始めた。山間を縫うように風まで吹き始め、寒村の景色は殆ど真っ白になってしまった。古代兵器が暴走したという報が流れてきても、村人達は動くに動けない状況に陥っていた。
 そこへ歪な嘶きが響き渡る。それはまるで鉄を無理矢理擦り合わせたような音だ。もし彼らが外に飛び出していれば、白い幕の中に浮かび上がる黒い騎士の群れを目にしていた事だろう。
 騎士達の突撃が始まる。機械の馬は轡を並べて駆け抜け、その頑丈な頭で家の壁を突き壊した。吹き込む雪の嵐に包まれ、村人達は悲鳴を上げる。間もなく黒衣の兵士達はその手を掲げ、袖から大量の黒い靄を零した。靄はするすると這って小さな子供を包み込み、凍り付いたミイラへと変えてしまう。叫喚する両親は歪んだ月の光へ当てられた瞬間狂って互いに殺し合いを始めてしまった。地獄のような寒さの中で繰り広げられる悲劇の中で、兵士達は粗末な家財を持ち去っていく。貴金属の類ではない。その家に代々伝わってきたタペストリーだとか、嫁入り衣装だとか、そんなものばかりである。貧しいながらも必死に生きてきた人々の思い出を、魔種は奪い去ろうとしているのである。

 今まさに、君達は首都から駆けて吹雪の村へとやって来た。

 これ以上悲劇を続けるわけにはいかない。

GMコメント

●目標
 歯車兵団とモンスターの全滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 街道沿いに位置する寒村にて戦闘を行います。
 天候は吹雪。ホワイトアウト寸前で、視界は最悪の状態です。奇襲に注意しましょう。
 家の中に人々が隠れています。可能な限り守りたいです。

●敵
☆ブラックライダー×8
 蒸気を吐き出す機械製の馬に跨る歯車兵団。精神が破壊されており、対話は不可能。

・特徴
→黒い剣
 一般人なら少し触れただけでも致命傷になる、非常に強い毒を塗られた剣です。
→壊心
 壊れた心は一切自分で考えないため、あらゆる残虐な行為を可能とします。

・スキル
→リーチ
 黒衣から蟲のようなものをぞろぞろと垂れ流す魔法です。とりつかれるとしつこく生命力を吸収されます。
→ルナティック
 黒衣から覗く月光を浴びると、イレギュラーズまでもが得体の知れない怒りへとりつかれ、辺り構わず破壊してしまいたくなります。

☆ギアホース×8
 歯車と蒸気機関で出来た機械馬。それだけでなく、二足歩行型に変形して戦う事も出来る。

・特徴
→変形
 歯車を組み替えることで人型に変形します。移動力は落ちますが、その分攻撃力は高いです。

・スキル
→蒸気攻撃
 蒸気の熱をばら撒いて攻撃する他、その熱で湯気をばら撒くことで周囲の視界をさらに悪化させます。
→突進
 馬形態ではヒットアンドアウェイ、人間形態はその場に押さえつけて足止めを試みます。

●TIPS
☆吹雪の中でブラックライダーは略奪を優先しようとします。

  • <Gear Basilica>黒の騎士完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

リプレイ

●白冥の中で
 イレギュラーズの一行は、スラム街の跡地から帝都へ取って返すように行軍していた。視界は吹雪で真っ白、一丈先は見通せない。しかし、雪道に刻まれた足跡のお陰で道には迷わなかった。すなわち、敵は既に守るべき村へと辿り着いているのである。
「万全の状況、とは言えませんわねー」
 ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は耳をそばだて、荒れ狂う風の音の中から、何とか喧騒の音を聞き分ける。彼女は槍を構え、魔法陣の刻まれた旗を吹雪の中に翻す。
「ですが、まだ襲撃の音が聞こえます。まだ助けられる人はいるかもしれませんわー」
 彼女は魔力で羽衣を編み、雪原にふわりと浮かび上がった。彼女の戦意に呼応して、羽衣が輝く。
「前方にエンジンの駆動音。きっと敵ですわー」
「了解よ。まずは私達が前進するわ」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は外套の懐から魔導書を取り出すと、踝まで積もった雪を踏み分け前進する。その傍らには戦友、レイリ―=シュタイン(p3p007270)と天之空・ミーナ(p3p005003)がいた。
「……旅人の私には無いもの。この土地、先祖代々の道具。……粗末な誇り。けど、家族を支えるにはそれで十分だったのよ」
「それを踏みにじるなど、許してはおけないな。そこに生きている人がいる限り、彼らに大切にしているものがある限り、それは守ってやらねば」
 レイリーは馬鎧のホルダーから槍を取ると、切っ先を正面へ構える。イーリンも魔導書を開き、中から紫色の戦旗を抜き放った。その穂先は鋭い閃きを帯びる。
「生かしてみせるわ。……神がそれを望まれる」
 彼女の背後に魔法陣が展開し、白銀の馬鎧と赤黒いカパリスンを纏った漆黒の牝馬が飛び出してきた。イーリンは軽やかに馬へ乗り、戦旗を掲げた。
「帰ったらホットラムと洒落込みたいわね、レイリー?」
「あぁ、終わったら祝杯で身体を温めよう」
 二人が頷き合っていると、馬上で目配せする二人の間へバカダクラに乗ったミーナが割り込んできた。彼女は腰に差した聖剣を抜き放った。
「おいおい、私の事も忘れてくれるなよ、二人とも」
「わかってるわ。さあ行くわよ!」
 イーリンの号令に合わせ、三人は一斉に馬へ拍車を当てる。白雪を踏み荒らしながら、三人は足跡を追って雪原を駆けた。ミーナは一瞬振り返り、仲間達へ向かって叫んだ。
「これからもっと視界は悪くなるぞ! 気をつけろよ!」
 高山を彷徨う霊魂が、黒い騎士達の存在をミーナへ伝える。彼女は素早く騎士の群れ三体に目を留めると、馬へ更に鞭を入れて先陣を切る。
「かかって来いよクソ野郎ども……! 私の領域に、歓迎してやるぜ!」
 ミーナの気迫は白冥の世界を暗闇へ染め直す。闇の中に捉えられた騎士は一斉に向き直り、手綱を引いて剣を振り上げた。袖の先から蟲が溢れ出し、その腕に纏わりつく。
「気持ち悪い……全部まとめてぶった切ってやる!」
 騎士の一人とミーナが一斉に飛び出し、一合打ち合う。白い闇の中に剣の触れ合う音が高らかに響き渡り、それを合図に残りの騎士とイーリン達が飛び出した。
「その虚ろな目で、一体何を見るつもりかしら?」
 魔力の溢れる瞳でイーリンは騎士の眼を捉える。剣を振り上げていた騎士は、咄嗟に身を翻して進行方向を逸らしていく。レイリーは槍を構えて身をピタリと伏せると、逃げようとする騎士目掛けて全体重を乗せた騎馬突撃をぶちかました。騎士はバランスを崩し、馬から落ちて雪原に放り出される。
「私はレイリー=シュタイン! 機械の騎士よ、お前達を全て滅ぼしてやろう!」
 彼女は叫ぶと、脇から突っ込んできたもう一体の剣を槍で払い除けた。その背後で、地面に放り出された騎士は何とか立ち上がる。乗り手を失った騎馬も、蒸気を上げながら変形し、二足歩行の機兵と化してレイリーへと突っ込んでいった。リゲル=アークライト(p3p000442)は雪を蹴り、雪原すれすれを舞い飛びながらそんな騎士へと切りかかっていく。
「黒の騎士だと? 略奪など、騎士の名折れだ! それがわからないか!」
 白銀の刃に氷気を纏わせると、リゲルは騎士の肩口目掛けて振り下ろす。黒の乗り手もまた彼の脇腹目掛けて剣を突き出すが、リゲルは構わず右薙ぎで切り返した。
「俺は、銀蒼の騎士として、騎士の誇りを胸に、人々を守るべく剣となり盾となる!」
 彼は十字架のネックレスを掲げると、雪の闇へと目掛けて掲げた。
「さあ来るがいい! これは亡き父上の形見であり、俺が当主の証として受け継いだ無二の代物だ! 父上の、代々当主の、そして俺の想いが籠っている! 略奪できるものなら、やってみせろ!」
 彼の叫びに、あるいはネックレスに引き寄せられた騎士と機兵は、二体並んで襲い掛かってくる。リゲルは素早く身を翻し、真一文字に剣を振り抜いた。
  先陣を切って突撃した仲間達の背後から、更に三人のイレギュラーズが吹雪の中に展開していく。コゼット(p3p002755)は口元に巻き付けたマフラーを更に固くしめ、吹雪の向こうに目を凝らす。
「どんどんひどくなってる。眼も開けてられない……!」
 先に立って戦う仲間達の姿もおぼろげにしか見えない。それでも村の人々を救うために彼女は奮起する。小さなピアスを指で撫で、月の光で周囲を照らす。ほんの僅かに、敵の姿が黒く映った。コゼットは魔法の靴でふわりふわりと飛びながら、目の前にいる機兵の頭を軽く踏みつけた。
「おいで。ぜったいに、行かせないよ……!」
 機兵は全身から蒸気を吐き出し、鉄の腕を振り回してコゼットへと殴りかかる。両手を交差させた彼女は、身を翻して機兵の突きの勢いを殺した。そのまま腕を抱え込み、雪の幕の向こう側へと振り返る。
「今、だよ」
「承知したよ」
 伏見 行人(p3p000858)は刀を抜き放つと、吹き寄せる風を頼りに白い闇の中を走る。彼の周囲には雪の精霊や風の精霊がふわりふわりと漂い、彼の事をじっと見守っていた。
「ありがとう。この村を助けるためには、君達の力が必要なんだ。頼むよ」
 彼は自らの胸元に手を当て、治癒の魔力を血に載せ全身へと行き渡らせていく。剣を正面に構え、機兵の装甲の継ぎ目を狙って突きを放つ。機兵は身を引いて受け止めると、今度は行人目掛けて手刀を放った。行人は素早く身を翻すと、敵の勢いも借りた強烈な一閃を頭に叩き込む。装甲の隙間から火花を散らし、それはぐらりとよろめいた。
「黒い馬を探してくれ!」
 彼が周囲の精霊へ叫ぶと、精霊は一斉に周囲へと散らばっていった。機兵は鼻息荒く再び動き出すと、両腕を彼の胸元に叩きつけた。行人が飛び退いて間合いを取り直したところへ、今度は恋屍・愛無(p3p007296)が短いスカートを翻して迫った。
「さて、君の急所は何処にある?」
 愛無は黒い尻尾を鎖のように伸ばすと、一息にその身を翻した。尻尾の切っ先は刃のように鋭く、機体の首筋に突き立った。火花を散らした機体の動きがにわかにぎこちなくなる。更に愛無は雪の中を力強く踏みしめると、機体の心臓部目掛けて更に尻尾の槍を伸ばした。
 動力部を打ち抜かれた機械の馬は、そのままどさりと倒れた。

●狂える月の光
 白冥に包まれた村を救うため、イレギュラーズが走る。しかし、仲間が攻撃を受けているにもかかわらず、黒騎士の群れは思うがままに略奪を繰り返そうとしていた。リゲルにはそんな暴虐が許せない。己が傷つくのも構わず、猛然とリゲルは騎士へと切りかかっていた。
「そんな刃で、俺を止められるものか!」
 蛭が取り巻き、毒が傷から染み渡る。それでもリゲルは剣に氷を纏わせ、騎士の首を刎ねた。しかし息つく暇もない。背後では夫婦が狂って首を絞めあっていた。
「やめろ!」
 リゲルは剣の鞘を取ると、そのまま夫婦を薙ぎ払って気を失わせる。そこで限界を迎えた彼は、不意にどさりと膝をついた。愛無はそんな彼を背中で守るように立ち、機兵二体と騎士一体に対峙する。
「大丈夫かな」
 リゲルは混沌の力も借りながら、何とか息を整える。
「ああ、何とか。……それにしてもあんまりだ。やり方がひどすぎる」
「そうだね。生きる為というには目に余る。打倒せねばなるまい。このような事は」
 愛無は大型のナイフを抜き放つ。彼女は掌に刃を突き立てると、傷口から溢れた粘液で黒い杭を作り出す。
「他者を脅かす力を持っているのは、君達だけでは無いよ」
 素早く言い放ち、愛無は身を翻して杭を放つ。騎士の胸を貫き、背後に立つ機兵の頭も貫いた。騎士は愛無へそのまま迫るが、彼女の身体から離れた粘液が騎士の胸をあっという間に食い破り、騎士はその場にどっと倒れた。残された騎馬だけが、その隙を埋めるように襲い掛かる。愛無は鋭く右手を突き出し、噴き出した焔で歯車だらけの身体を包み込んだ。

 一方、コゼットは二体の騎士達を捉え、その目の前で跳ね回る。
「行かせない……!」
 しかし、壊れた騎士の心を揺るがすことは出来ない。騎士はコゼットの周囲を囲い込むように動き、次々に斬りつけてくる。コゼットは防護障壁を張ってその刃を受け止めたが、騎士はそのまま素早く雪原に飛び降りる。騎馬は素早く変形すると、更にコゼットへ殴りかかってきた。
 障壁を破られ、彼女は雪原の上に投げ出される。寒さと痛みで意識が朦朧としたが、それでも彼女は起き上がった。
「負けない、から」
 彼女はその手を翳す。砂の精が小さな氷の粒を舞い上げ、騎士達を纏めて強烈な吹雪に包み込む。敵が怯んだ隙に、ユゥリアリアが素早く駆け込み、コゼットに治癒の魔法を当てた。
「大丈夫でしょうかー?」
「……だいじょうぶ」
 コゼットが頷くと、ユゥリアリアは素早く槍を振り抜く。その度に悲鳴のような音が周囲に響き渡った。
「固まってくれるのならば好都合ですわー」
 彼女が槍を突き出すと、青海に響き渡る絶望の声が吹雪の中を満たした。騎士は咄嗟に身構える。行人は素早く騎士と二人の間に割り込み、切り上げを見舞った。
「驚異的な攻撃だけど……それでも俺達を負かす事は出来ないよ」
 騎士と機兵が変わる変わる行人へと切りかかってくる。彼は器用に身を躱し、刀で攻撃を往なしていく。最後に大きく飛び退くと、彼は叫んだ。
「さあ、ここだ!」
 イーリン達の騎馬隊がそこへ一斉に突っ込んでくる。騎士達はその攻撃を受け切れず、次々に轢き倒された。彼女達に防戦一方の騎士達を見遣り、行人はぽつりと呟く。
「心は武を収斂しむる……心を失わなければ、もう少し強かったろう、に」
「行きましょう。また別の騎士が民家を襲おうとしていますー」
 ユゥリアリアは槍を構え、白冥の方角を指差す。コゼットも再びシールドを張り直す。
「行こう……一人でも多く、助けないと」

 黒い騎士の振り抜く剣を、左手に持った剣で受け止める。そのままミーナは右手に虚無の剣を生み出し、騎士の腰を切りつけそのまま雪原へと突き落す。
「大切なもの、ねぇ……」
 肩を並べて戦うイーリンとレイリーをちらりと見遣る。二人は槍や戦旗を振るい、騎馬が変形しようとする隙間に切っ先を捻じ込んだ。そのまま素早く槍を振り抜き、歯車をバラバラに剥がしてみせた。彼女らに引けを取るまいと、ミーナは再び剣を構える。しかし、騎士はその胸元をはだけ、埋め込まれた歯車から月の光を放った。光に当てられた彼女の意識が緩み、辺り一面を破壊しつくしたい衝動に駆られる。しかし、ミーナはその衝動を全て己の肩口へぶつけた。
「っざけんな……私は、大切な者を傷つけたりしない!」
 肩から血を滴らせながら、ミーナは力任せに彼女へ切りかかった。あらん限りの魔力を込めた一撃は、騎士の頭を柘榴のように砕いた。
「……流石だな」
 鬼気迫る勢いのミーナを見遣り、思わずレイリーは息を呑む。残された機兵は慌てて逃れようとするが、レイリーは馬を素早く走らせ、その正面へと回り込む。
「逃げるなど許さんぞ。お前はこのムーンリットナイトが踏み潰してくれる!」
 レイリーが手綱を引くと、彼女の愛馬は高らかに鳴き、機兵目掛けて一直線に突撃する。機兵は咄嗟に拳を繰り出し押さえ込もうとするが、速度と重さの乗った騎馬突撃の前には意味をなさず、歯車をバラバラに粉砕されてしまった。穂先のオイルを振るい落とすと、彼女はちらりと背後を振り返る。イーリンは馬を飛び降り、突っ込んでくる人影に素手で対峙していた。
「大切な物を奪われ、大切な者を手にかける……」
 彼女は溜め息を吐き、魔眼から放った光で男の意識を弾き飛ばした。男は糸の切れた操り人形のように倒れ込む。それを抱え上げた彼女は、小さく溜め息を吐いた。
「こういうの悪夢よね、ミーナ」
「……私の見ている、悪夢以上のものがあるかよ。なぁ、イーリン?」
 ミーナが目配せしてやると、イーリンも溜め息交じりに頷いた。
「そうかもしれないわね」

●失われたもの
 イーリンは戦旗を振り回し、肩に担ぐ。紫色に輝く瞳が、黒い騎士を射抜く。彼女の魔眼に捉えられた兵士は、鎖で雁字搦めにされたように動けなくなる。
「どこへ隠れようとも無駄よ」
 雪に紛れてひっそりと略奪を続けていた兵士も、イーリンの悪魔的閃きからは逃れられなかった。戦旗に魔力を満たし、彼女は雪を踏み分けながら兵士へ迫る。処刑台に立つ刑吏の如く、彼女は得物を振り下ろした。頭を砕かれた兵士は、ぐったりとその場に崩れ落ちた。旗を振るい、彼女は肩を竦める。
「これで、今度こそ終わり」
 荒れ狂う風は緩み、雪はただ静かに降り積もる。ミーナは帽子に降り積もる雪を払い落としながら、イーリンの傍らまで騎馬を走らせていく。
「片付いたか。ふざけた奴らだったな」
 死体を見下ろして吐き捨てると、ミーナは手綱を引いて向きを転じる。破壊を免れたあばら家の前を、リゲルがじっと守り続けていた。ミーナがそんな彼へ目配せすると、リゲルは頷き扉を開く。
「戦いは終わった。もう出てきても大丈夫だ」
 小さな家屋を覗いて、彼は身を寄せ合って震えている人々を手招きした。彼らは恐る恐る外へと出てみるが、機械兵達に破壊された家を見て嘆息する。リゲルは真剣そのものの顔で彼らを見渡した。
「心配はいらない、とは言えないが……せめて家の修復を手伝おう。この天気の中で野ざらしは危険だ」
「私も手伝おう。弱き者を護り、佑けるのが騎士の本懐だからな」
 まだまだ使えそうな屋根板を力任せに担ぎ上げたレイリーは、リゲルの後に従い歩き出した。

「思い出の品物が燃料……ねえ。とんでもない化け物が現れたもんだよ」
 行人は溜め息を吐く。家族に代々受け継がれてきた嫁入り衣装が雪に濡れ、タールで黒く染まっている。それを拾い上げた行人は、小さく溜め息を吐いた。そんな彼を見遣り、コゼットは尋ねる。
「伏見さんにも、大切な物はある? あたしは……このピアス。頑張った証にローレットから貰ったの」
「俺の大事な物かい?」
 尋ねられた行人は、腰に差した片刃の剣を抜き放つ。身に纏う上着にも、その刀身にも、細い蔓草模様がくるくると巻き付いていた。
「……この剣と、この旅装束かな。これだけは、この世界に持ち込めたから」
「ふうん……昔からの大切な物なんだね」
 この世界に来るまで、コゼットには自分のものなど一つも無かった。他人の物を盗んで何とか生きていた。月ノ光をそっと撫で、彼女は嘆息した。
「もっと大切な物、見つかるかな……」

 村の空き地に立ち、ユゥリアリアは槍の穂先に魔力を込める。そのまま彼女は雪に大雑把な魔法陣を描いていった。家を破壊された人々は、不安げな眼差しで彼女の仕草を見守っている。
「おそらく、こうすれば……それらしい形になりますわー……」
 ユゥリアリアは石突で雪を打つ。その瞬間に魔法陣が輝き、分厚い氷で形成されたイグルーがそこに現れる。中身を覗いた彼女は、ほっと溜め息を吐く。
「完全に雪を凌ぐだけですが、野ざらしでいるよりはマシなはずですわー。後で補給物資も運び込みますから、しばらく我慢していただけないでしょうかー?」
「いえ、助けてもらえるだけで我らは……」
 人々はユゥリアリアへ向かって深々と頭を下げる。イグルーの入口に布を宛がったリゲルは、ふと足下を眺めた。機能を停止した機械兵は、じっとそこに横たわっていた。彼は手袋を外すと、冷え切った機体にそっと手を触れる。イグルーの隙間を雪で埋めながら、レイリーはそんな彼を見遣った。
「どうしたのだ?」
「彼らも、誰かに大切にされていたことはあったのだろうか……とね」
 念じてみるが、古びた機械は何も反応しない。肩を落とすリゲルをちらりと見遣り、レイリーは肩を竦めた。
「あまりにも古過ぎるのか、それとも、ずっとただのものとして扱われてきたのか……だな」

 愛無は粗末なあばら家から未だ使えそうなものを拾い集めていた。年季の入った薪割り鉈と家系図のタペストリーを手に取り、愛無は首を傾げる。
「思い出か……」
 彼女は思い出というものを重要視していなかった。先に進むには不要だからだ。彼女にとって物は要不要、あるいは新旧の別くらいしかなかった。
「それが力になるとは、不思議なものだ」
 タペストリーを破れた壁に引っかけた愛無は、鉈を手に提げ歩き出した。

 おわり


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵企鵝です。ご参加ありがとうございました。
定義上のホワイトアウトでなかったとしても、吹雪の中では顔を上げてられなかったりします。人がいないのを何とか確かめて後ろ向きに歩いたりもしました。

民衆の保護まで考えられたプレイングはとても良かったと思います。またご参加いただけますと幸いです。

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