シナリオ詳細
八つ裂きジェイカブ捕獲作戦
オープニング
●殺人鬼の覚醒
その昔、練達の純文学者ユキオ・ミシマは天賦の才を誇る連続殺人鬼達を篤実に研究していた。『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜粋』という文学書の業績が顕著だろうか。以下の一節は学術研究の方々で引用されている。
「ただ花が久遠に花で在るように彼は殺人鬼になったのだった」
曰はく、殺人鬼は先天的な才能を宿して誕生していたのだと。花が花で在る事が永遠の真理であるかのように殺人鬼が殺人鬼で在る事は永遠の真理なのである。
***
彼は近頃では珍しい程の品行方正な好青年として誰からも好かれていた。
生業はワイヤー職人であり、若くして正に職人の鑑のような男であった。
唯一つ、青年は決して人には明かす事が出来ない『瑕疵』を背負っていたのである。
「また殺してしまった……」
今日も街外れの裏路地で頑強に抵抗する白猫をワイヤーで八つ裂きにしてしまった。
彼は物心が付く頃から滾るような殺人衝動を宿して生き長らえてきたのである。
しかし、殺意の衝撃が湧き起こる度に小動物を殺害する代償行為はいつまで続くのか。
青年が暗鬱な気分で犯行現場から立ち去ろうとしたその瞬間――
「おにいちゃん、そこでなにしてるの?」
心の底から恐れていた悪夢が現実となる。
品行方正で評判の己が変態のように猫を八つ裂きにしていた現場を発見されてしまった。
偶然とはいえ、純真な幼い女の子に――
――ち、違う、違うんだ! お、おい、行かないでくれ! 話を聞いてくれよ!!
我に返った頃、彼は幼い躯を自然な手筈で絞殺していた。
その刹那、青年の全身に強烈な快楽の電流が駆け巡る。
――小さい女の子って八つ裂きにしたら楽しいかな?
狂乱した青年はワイヤーを巧みに操り幼い生肉を八つ裂きに解体する。
時にバラバラ殺人とは何たる甘美な味がするのだろうか。
叶わぬ宿望を果たした彼はついに殺人鬼としての己を解放した。
以上が連続殺人鬼(シリアルキラー)として世間を騒がす「八つ裂きジェイカブ」の覚醒神話である。
●討伐ではなく捕獲依頼
「殺人鬼を捕まえて欲しいんだよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)が本日の依頼をあなた方に詳説している。
近頃、幻想国内のとある辺境ではシリアルキラーの話題で持ち切りだ。
殺人鬼のコードネームは「八つ裂きジェイカブ」だっただろうか?
「うん、その殺人鬼だ。とある筋が彼をマークしていてね」
討伐対象がシリアルキラーとは、きっと一筋縄ではいかぬ依頼である事だろう。
「いや、実は違うのさ。今回の依頼は『討伐依頼』ではなく『捕獲依頼』だよ?」
討伐するなら話はまだ理解できるが、なぜまた、捕獲か。
「依頼人は幻想の治外法権『監獄島』を支配するローザミスティカという謎の女性だね。八つ裂きジェイカブの犯罪者としての才覚に関心がある為、配下として欲しいそうなんだ」
ショウは革の鞄からセピアの地図を取り出してあなた方に手渡す。
「レッド男爵領の地図だよ。スラム街を探してくれるかい? 八つ裂きジェイカブはスラムのどこかに潜伏しているらしい。なお情報源は『監獄島』の調査団からだね」
ところでそのレッド男爵という人物も依頼に関与しているのだろうか?
「いいや、男爵は無関係だよ。勝手に巻き込まれた上に殺人鬼の潜伏にすら気が付いていないらしい。さて、スラム街に侵入したら早急にターゲットを発見して捕獲してくれるかな? 捕獲後の事はオレ達が上手くやるからさ」
待って欲しい、そもそも殺人鬼をどう捕獲しろと?
「犯罪者の世界は実力主義。八つ裂きジェイカブを殺さない程度に叩きのめせば、話は聞いてくれると思うよ? 今回のスカウトは彼にとっても悪い話ではないだろうからね」
- 八つ裂きジェイカブ捕獲作戦完了
- GM名ヤガ・ガラス
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年02月22日 22時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●探索
―A班
荒廃するスラム街にて襤褸を纏った女性三人が歩みを進める……。
「討伐じゃなく捕獲とは、また面倒臭ェ依頼だなァ。つっても、監獄島からの依頼は金払いが良い! ローザミスティカ様にゃあ、これからもご贔屓に願いてェトコだし? 口説き文句でも考えて、殺人鬼を落としに行くぜ」
黄金という大好物を狙う『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)が高揚した口調で述べる。
「せやな、今回は殺人鬼やで。いやー久しぶりに大立ち回り出来そうな依頼で楽しみやわぁ。にゃははー♪」
愛らしい関西弁から八重歯が覗くのは『化猫』道頓堀・繰子(p3p006175)だ。
「サテ潜伏場所を罠の配置や地図にナイ通路から割り出すヨ。罠は極力、戦闘開始マデ触れないでネ。荒れた足元ニハ常に注意ダヨ」
セピアの地図をGP-7型的なガスマスク越しから閲覧している『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)は注意を促す。
特異運命座標による八つ裂きジェイカブの探索が開始された――
「視力にはジシンがあるんだ。クラいとこや見た目に違和感のアルとこは見逃さないヨ」
先頭に立つジェックが仄暗い袋小路に入り強靭な眼力で異変を調査する。
「変やなぁ、この痕跡?」
ジェックが発見した痕跡を執拗に辿る探索上手な繰子は奇抜なワイヤー装置と遭遇した。
ゴーグル越しに検証するが、贔屓目に見てもこれは罠だ。
仲間と共に確認した繰子は鋭利な刃を抜刀して軽やかにワイヤーを切断した。
「これでええか。せや、そっちもやろ?」
最後尾にいることほぎが眼を細めて怪訝に思う。
「ウン? アレ、鳴子代わりに使われるカモだから、解除しちゃダメなんだっけ……?」
「罠は極力解除しない方針」でもあるので繰子は「鳴子代わり」から静々と手を引く。
「標的が元ワイヤー職人だカラってワイヤー以外に罠をハってないとも限らないし……。よく注意シテ動こう」
それ以降、ジェックの推理通り多彩な罠が増加するものの繰子達は強かに策を講じた。
皆で罠の分布状況から推理して街のとある地点に辿り着く。
そこで――
「てめえら? 何してる?」
柄の劣悪なチンピラ共に包囲されてことほぎが睥睨する。
「なァ繰子? 狼煙を頼むぞ。コッチはオレがやるぜ!」
「援護するヨ」
儀礼剣を抜刀することほぎの後方でジェックが銃器を身構える。
「すまん、任すで?」
戦闘が開始され、繰子は早急に狼煙を焚く。
―B班
特異運命座標が分散してスラムを探索しているが……。
「一例に過ぎないのでしょうけれど、監獄島はこうやって逸脱者『人材』を集めている訳ですか。生贄としてちょうどいいと思っているだけなのか、或いはそこに何か意味があるのか……」
外套のフード越しから住人達の状況を怜悧に観察しているのは『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)である。普段の聖職者風の容姿も本日は一変してスラムの女だ。
彼女の隣で式神を忙しく操作して警戒を促すのは『六枚羽の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)だ。ちなみに目を引く飛行種の翼は襤褸の中に潜ませている。
「きな臭いとはいえ、詮索はしない方がいいんだろうな。それに僕は流浪の誰が為の騎士。その時々の依頼主が、倫理的に曲がっていても僕に意見をする力はない。今は一騎士として下された命令をこなすだけさ」
己の信条「一殺多生」からして殺人鬼を快く思わない『赤染の腕』テレンス・ルーカ(p3p006820)は溜息をつきながら依頼の意義を再確認する。彼も勿論、襤褸の姿だ。
「この依頼はゴミ掃除……ではなく捕獲ですね。快楽に身を委ね、殺しを楽しむような輩は始末してしまうのが世のためとは思いますが……。監獄島に捕まるのは適材適所というやつでしょうかね。さてと、確実に任務を遂行しましょう。全ては、赤染の腕の名の元に……」
アリシスが先程から街の近況を丹念に観察しているのは潜伏場所を割り出す為だ。
疑心暗鬼の連続殺人鬼ならば、配下の歩哨を街に徘徊させて警戒しているだろう。
そして歩哨を手繰れば居場所に辿り着けるかもしれない。
(おや? 妙に怪訝な人集りですね……)
テレンスはアリシスからの指示で怪訝な人集りに忍び寄った。
目立たぬ様に壁際から鋭敏な耳を立てて騒音を拾う。
神経が研ぎ澄まされると衣擦れや靴の音から会話まで全て聴こえる。
(もしや、ワイヤーの音……? 大勢の足跡も……?)
「アリシスさん、来ます。八つ裂きジェイカブが」
仲間が地上を探索している最中、カイトは上空からの偵察に勤しむ。
彼の役割は、地上にいると見落とすだろう盲点を高所から俯瞰し発見する事である。
俯瞰した所、方々に罠の配置が窺える一方で、近辺で人集りが出来上がりつつある。
(何かが始まるのだろうか? 班仲間と早く合流しよう)
「てめえら何だ?」
厳ついチンピラ共の群衆がアリシスとテレンスに差し迫る。
歩哨への警戒は完璧だった。二人に責められるべき過失はない。
ジェイカブは歩哨部隊を巡回させている上に増援の陽動部隊まで放っていた。
情報精度の瑕疵は敵人数に反映されていたのだ。
「八つ裂きにしてやるよ?」
この男はジェイカブではなく舎弟だがワイヤー使いでもある。
テレンスが聴収したワイヤー音と大勢の足音はこの部隊からだったのだろう。
二つの部隊が武器を振り翳したその刹那、翼を広げた騎空士が舞い降りる。
「すまない、待たせた。俺も加勢する」
カイトが正眼の構えで魔剣に気合を導入するや否や遠方では狼煙が上がった。
「繰子様の狼煙ですか」
「現れましたかジェイカブ」
アリシスとテレンスも各自の武器を構えて交戦準備に入る。
「ジェイカブは発見された。だが誰かはこの場に残らないといけない。いってくれ。この場は俺が引き受ける。なぜなら俺は……」
――ロストレイン家の騎士だからだ。
―C班
「しかし兎の僕がハンティングとは少々皮肉だねえ。しかもまた監獄島からの依頼とは。最近何かと縁があるね? 僕も捕まらなきゃいいけど。さて、まずは仕事に専念するとしようか」
襤褸を纏い正しく凡庸な青年に変装していながらそう呟いたのは『夜明けのパーティー』ノワ・リェーヴル(p3p001798)である。次回の依頼が『義賊『ラビット・フット』捕獲作戦』ではない事を天に祈りたい。
「さて、行っておいで」
ノワは配下の梟を蒼空に放ち、高所から探索する班仲間の支援へ出向させた。
地道に罠を解除して邁進しながらも時に梟の五感を感知して地理と状況を掌握する。
「おっと、危ないねえ?」
奇襲の如く飛翔して来た毒矢をノワが紙一重で回避した。
「そんな罠もあるのかい? 情報精度の欠陥かな」
「殺さねば良いのですよね?」
事前に班仲間に対して殺伐とした質問をしたのは彼岸会 無量(p3p007169)だ。
無量は彼女独自の解釈を語る。
「両耳、両目、両手両足を無くして仕舞えば文字通り『八つ裂き』ジェイカブになりますね。……ですが犯罪者としての腕を見込まれての捕獲依頼です。『使い物』にならなければ意味が無いでしょうね」
無量は脚部に力を込めて飛翔し建造物の屋上を飛び渡りながら探索する。
彼女の付近ではノワの梟が浮遊旋回している。
「さて、私の推理では……。殺人鬼へと身を窶したと雖も人は人。もし既に理性を喪失したのであれば罠等を張らずに直接その手で切り刻む事に傾倒する筈。然し現状、そうは聞いていない。彼の理性的思考を追跡する為に探索すべき場所とは……」
1.スラムの中でも表通りから離れた場所。
2.交差路等で入り組んだ道ではなく細い路地。
3.罠が目立たない様、特に荒れている箇所。
4.その上で罠に獲物が掛かった時、速やかに現場へ向かえる場所。
以上の条件下で探索した所……。
「大体あの辺りですか?」
現場調査で結論の妥当性が証明されるよりも早く梟が飛翔して来た。
時に戦況は今や明確だ。
「近辺で狼煙が上がりましたね?」
●戦闘
「よくここがわかったね? 推理を聞こうか?」
繰子が狼煙を焚いている傍から神出鬼没に現れたこの罪人こそが八つ裂きジェイカブだ。
「犯罪には痕跡が残るやろ? その痕跡を辿って分布を統計してプロファイリングすれば自ずと居場所を特定できるで」
ジェイカブが残忍に苦笑してワイヤーを構える。
「君達は名探偵だね? いいさ、八つ裂きにしてやるよ?」
にゃはは―♪ とお茶目に爆笑する繰子。
「何が可笑しい?」
「うちは探偵ではなく暗殺者やで」
天真爛漫な繰子の眼光と雰囲気が変貌して場の空気が切れるようだ。
凶刃を抜刀して刃渡りを舐める彼女を凝視するとジェイカブの眼元には鋭さが増した。
「ますますいいね? いくよ!」
「破滅の魔性」の異名を持つことほぎが熱砂の秘術を詠唱しては幾度も砂嵐を召喚する。
痛烈な砂嵐が熱風する度に周辺のチンピラ共が纏めて巻き込まれて叩き潰された。
「オレのプレゼントは気に入ったかァ? ウン? どうしたァ? もう立てねェか?」
ことほぎが悪辣な罠に掛かる事なく万全で戦闘出来るのはジェックの助力が大きい。
「アァ……罠もキミ達もジャマだな」
ガスマスク越しの俊敏な眼力から陣形を掌握してトリガーを引く。
プラチナの弾幕が戦場に炸裂して標的を食い散らかした。
姑息な罠は破壊され劣悪なチンピラ共は死滅する。
「てめえ!」
拳を振り翳すチンピラに銃口を傾けたジェックが静謐に言い放つ。
「近づくナラ零レンジで撃つヨ?」
繰子とジェイカブは熾烈な接戦を展開していた。
反応速度と機動力に関してはジェイカブに分があるが、暗殺理論と奇襲戦法の駆使は繰子が群を抜いていた。
「君達の負けだね?」
「は? んなアホなあ?」
繰子達が戦況を認識した時、敵勢の増援が円状包囲していた。
勝ち誇った表情のジェイカブが宣言する。
「僕を追い詰めたと見せかけて君達を包囲するという罠さ」
犯罪者達が円状に詰め寄って来た所ことほぎが狼狽して絶叫した。
「オイ? アレ、なんだァ!?」
ジェックは寡黙に屋根上の影に照準を定めた。
――殺人鬼ライフにピリオドを打つのは君の方じゃないかい? 八つ裂きジェイカブ?
突如、怪盗が屋根上から舞い散りてジェイカブ付近まで到来する。
接触するや否や音速の殺人術で殺人鬼の腹部に閃光の一撃を叩き込んだ。
「ぐはっ……。何者だ!?」
怪盗が煌びやかに微笑する。
「義賊『ラビット・フット』参上。ごめん、待たせたねえ君達」
千鳥足のジェイカブは体勢を復元したいが体の自由がどうにも利かない。
「いざ尋常に」
鬼の如き女剣客が駛走しながらジェイカブに鋭利な斬撃を浴びせる。
「ち、増援か?」
無量も顕現し戦力は次第に拮抗していく。
前衛戦という意味でジェイカブと無量では勝負が危うい。
「どうしました? 攻撃が浅いですね?」
ジェイカブがワイヤーを繰り出すものの無量は無難に回避出来たりもする。
対するジェイカブは無量の重厚な一撃の命中を避ける事に難がある。
「僕と君。どちらが速いか競走でもしてみるかい?」
「にゃはは―♪ 降参するんやったら今のうちやで?」
その上、中衛にいるノワと繰子からは遊撃離脱(ヒット&アウェイ)で襲撃される。
時になぜか殺人鬼は冷笑していた。
「な、何ですか、其れは?」
無量達の元にワイヤーの蛇がうねり湧き強襲する。
「く、奇抜な攻撃だねえ?」
「にゃはっ!? やるやん?」
八つ裂きジェイカブ十八番の特殊ワイヤーである。
あらぬ方向からのあらぬワイヤー蛇が三人を苦戦させる。
「いいねえ? 誰から八つ裂きにしよう?」
ついに八つ裂きにしようとワイヤーを繰り出そうとしたその刹那――
「いたた、なんだ? ん? あらら?」
遥か後方から魔矢が飛翔してジェイカブを狙撃すると彼の「何か」が抑圧された。
異変に気付いた頃は既に遅くジェイカブがワイヤーを繰り出せなくなったらしい。
「遅くなり申し訳ありません。今、ワイヤーは封印しておきました」
封印魔矢で狙撃した者の正体はテレンスだった。
時に逃走中のチンピラ共が駆け抜けようとする。
奴らが戦場から離脱するのを阻害したのは到着直後に待機していたアリシスだった。
「私が相手をしましょうか。消え去りなさい……」
月呑み魔女がその色白い指に嵌めている銀の円環に魔力を導入すると術式が煌めく。
漆黒の闇夜の月の神秘がチンピラ共を浄化した。
次々と誰かが乱入する戦場中心部で気張ることほぎが大仰に手を振り叫ぶ。
「オーイ! 増えたんならコッチも加勢してくれなァ?」
チンピラの増援対策に奮闘することほぎとジェックには感謝したい。
一方でジェイカブ戦に今の人数は不要か。
「ほな、そっち行くで!」
繰子が瞬時に離脱してことほぎ達の援護に当たる。
「大変なのでしょうね……。私もあちらを手伝います」
続くアリシスも淑やかに離脱する。
「私は無論、ジェイカブを粛正します」
テレンスの意は固く、ジェイカブ戦に残留した。
戦況を整理したい。
ジェイカブと対戦する前衛が無量、中衛がノワ、後衛がテレンス。
チンピラ共を各個撃破するのはことほぎ、ジェック、繰子、アリシスだ。
ノワは後方で支援するテレンスに尋ねたい事があった。
「もう一人いないかい?」
後方で銃撃を乱射するジェックが援護に入るアリシスに質問する。
「カイトは?」
冷静沈着なテレンスとアリシスが歯切れ悪く返答する。
今、カイトは――
***
ジェイカブ戦の遥か遠方の蒼空の下、カイトはチンピラ共を斬り伏せていた。
「さて、終わりだな?」
敵の合同部隊を殲滅させたカイトは今や満身創痍だ。
激戦の果てに勝利したが、既に運命の欠片を喪失して、体力も神秘力も消耗している。
しかし騎士として仲間を護り敵を挫いた充実感はある。
「ジェイカブ戦はまだ続いているんだろうな? 僕も急ごう」
「カイト」がこの戦場に残留した判断は賢明であった。
騎空士で機動力に優れた翼を所有する彼ならば離れた戦場へも迅速に飛翔出来る。
***
ジェイカブ戦は佳境に入る。
無量は接戦をしながらある種の同類にデジャヴを覚えていた。
「ご自分が切り刻まれる姿を想像した事は御座いますか?」
満身創痍のジェイカブが陰気に笑う。
「ないね。僕は人を八つ裂きに出来ればそれでいい」
無量は戦闘の専門家で対するジェイカブは殺人の専門家。
痛覚に耐えられる実力差が戦力差としても現れている。
唐突千万、ジェイカブが土下座して謝罪した。
「申し訳ありませんでした! 降参です!」
対戦中の無量が訝しげる。今回、依頼は捕獲だ。これは絶好の機会か……?
「何っ?」
無量の足元から蛇の如くうねるワイヤーが発生して転倒を促す。
抜けられたが無量に罪はない。彼の詐術が奇抜過ぎなのだ。
詐術かと思えば次は中後衛に飛び込みノワやテレンスの所で遊撃ワイヤーを廻転させる。
「ははは、八つ裂きにしてやるよ!」
円状の四方八方に飛び廻るワイヤー攻撃がノワやテレンスの運命の欠片を弾く。
ノワが派手に転げ回って地に伏せた。
「ぐはっ! 皆……今、まで……ありが、と」
ジェイカブが殺人鬼の本性を剥き出して爆笑する。
「やったね! 一人殺した、ぎゃはは!」
殺害完了を絶叫しながらジェイカブが逃走する。
痛覚に震えて立ち上がるテレンスは勇敢にも文字通りに一矢報いる。
「私の矢からは逃れられませんよ?」
封印魔矢の狙撃が命中してワイヤー逃走を阻害されたジェイカブは街中彼方へ逃亡した。
無量とテレンスが懸命に追走する。
一方、チンピラ制圧班は完勝していた。
***
「やった、逃げ切った!」
如何なる刺客か知らぬが逃げるが勝ちだ。
――ショウタイムはもう終幕かい、シリアルキラー?
「な!? バカな?」
殺害したはずのノワが清涼な笑顔で待ち伏せていた。
梟が肩に止まる怪盗が推理を告げる。
「さては死亡の演技にでも騙されたかい? 先程ファミリアー(梟)で街の地理を把握していたから先回りしていたんだよ」
蒼空から舞い降りたカイトが騎士の剣をジェイカブの喉元に突き付けた。
「大人しくしてくれ?」
――もう終わりだ……。殺される!
●対話
特異運命座標とジェイカブは腰を据えて対話する事になった。
代表としてアリシス、ことほぎ、カイトが交渉の席に着いた。
「貴方を是非とも招きたいという方が居りまして。――どうか、御同行願います」
アリシスが律儀に一礼して話を切り出すとことほぎが愉快な声調で続く。
「なァ。あるお方が、アンタの才覚を見込まれてな? もっと、オイシイ獲物を用意してくださるカモだぜ」
怪訝な表情のジェイカブにカイトが温厚に手を差し伸べた。
「ローザミスティカという大物がいるんだ。彼女は幻想の治外法権監獄島の支配者だ。僕達は君をそこへ連れていくためにやってきた使者だ。君は自身の存在意義を尊重できる場所にいくだけさ。どうする?」
八つ裂きジェイカブがカイトの手を強く握り返す。
「僕の負けだし従うよ。逃亡生活にも疲れたしね。で、治外法権の監獄島? いいね、殺し放題じゃないか」
以上が特異運命座標の尽力により八つ裂きジェイカブが監獄島軍門に下った逸話である。
今後も監獄島を巡る権謀術数の戦況はしばらく続く事だろう。
了
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオ参加ありがとうございました。
参加者の傾向のヤバさが凄まじく素敵でした。
このヤバさが悪属性依頼の醍醐味の一つですよね。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
なお『監獄島』からの危険な依頼ですので成功すると追加報酬(gold)が出ます。
●目標
八つ裂きジェイカブの捕獲。
(殺害してしまった/逃亡されてしまったら「失敗」)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
レッド男爵領のスラム街が戦場です。
スラム街は廃れていて人が少なく、建造物や歩道車道も荒れています。
暗くて狭い路地や壊れた建物等もあります。
●シチュエーション
スラム街のどこかに八つ裂きジェイカブが潜伏しています。
ターゲットを発見したら戦闘開始です。戦闘後は捕獲します。
●敵
八つ裂きジェイカブ×1人(ボス)
問題となる連続殺人事件の犯人です。外見は内気な金髪短髪の好青年です。
元がワイヤー職人なだけありワイヤー攻撃に精通しています。
戦闘方法は以下。
・短ワイヤー(A):近距離攻撃用のワイヤーを繰り出します。物近単ダメージ。
・長ワイヤー(A):遠距離攻撃用のワイヤーを繰り出します。物遠単ダメージ。
・複数ワイヤー(A):複数攻撃用のワイヤーを繰り出します。物自域ダメージ。識別。
・特殊ワイヤー(A):神出鬼没の謎のワイヤーを繰り出します。物特レダメージ。識別。
・罠無効(P):自分が仕掛けた罠に掛かりません。
・スピード殺人鬼(P):反応と機動力が妙に高いです。
チンピラ×20人
八つ裂きジェイカブの殺人センスに魅入られたスラムの取り巻きの男達です。
至近から中距離程度までの通常攻撃手段を持ちます。
武器は様々ですが、八つ裂きジェイカブに比べたらずっと弱いです。
●罠
八つ裂きジェイカブが戦場の様々な場所に仕掛けたワイヤーの罠です。
当たるとHPダメージです。BS毒や麻痺が塗られている場合もあります。
なお個数は不明です。
罠解除のスキルや通常攻撃の一撃で破壊できます。
●GMより
悪そうな名前のGM、ヤガ・ガラスによる悪属性依頼からこんにちは。
連続殺人鬼は怖いですが、独特の危うさが魅力的な悪人ですよね。
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