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シナリオ詳細

<Despair Blue>レイン・クロインは此処にいない

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死ね
 絶望の青、という地……いやその海域を説明しよう。
 そこは前人未到の海域。
 果てに何が存在すると知れぬ、だからこそ海洋王国が総力を挙げて挑む『夢の果て』である。

●殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね死ね
 遥かなる海洋を目指して幾人もの海の者らがそこへ挑んだ。
 ――しかし未だ誰一人として突破出来た者はいない。
 帰ってこなかったか、這う這うの体で戻ってきたか。いずれにせよ未だ果ての詳細は知れぬのだ。
「そんな所に二十二年ぶりに挑めるたぁ……腕が鳴るねぇ……!」
 言うは海洋王国に属せし船長。三隻の船を率いて、絶望の青に挑む一人である。
 ――おっと。挑む、とは言ってもこの三隻でいきなり果てを目指す訳ではない。そんな事をしても今まで通りどこかで力尽きてしまう可能性があまりにも高いのが当たり前だ。

 だからこそ海洋王国の作戦は『船団を派遣しまずは橋頭堡を確保する』事にある。

 比較的安全とされる――或いはそうだと判断出来た場所に拠点を築き、少しずつ。少しずつ準備を進めていくのだ。絶望の青に近付くに伴っての地図は踏破した者がおらず当然不完全……であるが。故にこそまだ見ぬ小島などが発見される事もあるから。
「全員警戒は怠るなよ! 雲と海流の様子には気を配れ! 何かあれば信号旗はすぐ上げろ!」
 声を張り上げる船長。その目には並々ならぬ集中の意思が宿っていた。
 ……今まで『絶望の青』へ、海のプロ達が挑んだにも関わらず戦果無き理由は――複数存在する。
 まず絶望の青の海域は尋常ならざる暴雨や荒れ狂う波が発生する事もあり、海に慣れた者ですら『藻屑』となる可能性もあるのだ。まるでこれ以上先に進むなと言わんばかりの意思がそこに在るとも言われるが……真偽は、まぁ捨て置こう。誰も分からぬことだ。
 いずれにせよそう言った唐突なる海の変化があるのが一点。
 ――そしてもう一点が。
「んっ?」
 瞬間。何か、感じた。
 船長だけではない。周りの船員達も……何か、上手く説明できないが『何か』を感じたのだ。
 背筋がざわつく様な感覚。何故だか急に静かになったように感じる周囲の気配。
 ――臭い。
 誰かがそう呟いた、と同時。

 三隻の内の一隻が『爆散』した。

「なんだ!?」
「船長、船長ッ! 下です! 下に何か――います!!」
 凄まじい衝撃が轟く。爆散した船は――船体中央を、光の帯の様なモノが突き抜けたようだ。伴って大砲の弾薬にでも引火して爆発したか。船員が投げ出され、船は無残にも目の前で沈んでいく。
 しかしそれに頓着している余裕はない。叫び声が聞こえる中、見据えた海の中には。
「で、出やがった! 狂王種だ!! 『ブルータイラント』が出たぞッ!!」
 高速で移動する妙な影が一つ。誰かが叫ぶはブルータイラントという名。
 『奴』らは絶望の青の付近に出現する魔物の一種――いや総称だ。海洋王国近海にも魔物は出るが、奴らは近海程度の魔物とは文字通り格が違う存在。突然変異にて狂った海の王達。絶望の青の踏破を阻む一要素。
 船長が警戒していたのは天候よりもこいつら――狂王種の事であった。
「旋回しています! は、早い! またこちらに接近を――!」
「狼狽えるな! 砲弾を放て、近付けさせるな撃て撃て撃て撃てェ――ッ!!」
 見える影に応戦体勢。瞬時に整えた照準が海の影を捉えて。
 が、止まらない。当たっているのもある筈だが、一向にその速度が衰える様子を見せず。
「馬鹿な……いくら何でも多少は効く筈……!!」
 むしろ速度を速めている。
 ありったけの弾薬を、物ともしていない?
「くっ、まずい! 取り舵一杯! 逃げろ逃げろ逃げろッ!! 船に衝突するぞッ!!」
 直後。回避する間も無く衝突音が鳴り響く。
 転覆しかける船――だがギリギリで持ちこたえた所で。
「こ、こいつは『サフロス』の……!!」
 ついに見えた影の主。この船を優に超す巨体の持ち主の姿は、まるで鯨の如き様相。
 しかしその外皮は鉄が如きで――只の生物とは最早思えぬ有り様。
 そんな『奴』がこちらを見据え、口を開いて。

 先の船を沈めた光の帯を――直撃させた。

●死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 はっ、と気付いた時には空の曇りが目に映った。
 頬に雨粒が。どうやら天候が悪くなり始めている様だ……ここは、と周囲を見渡せば。
「おおイレギュラーズ殿……無事でしたか!」
 誰かの声が聞こえる――見れば、自分達を連れていた船の船員だった。
 そうだ。絶望の青の拠点探しにと同行を頼まれ、同乗していたのだった。
 狂王種とやらの襲撃で混乱が起こり、激しい揺れが生じたと思えば……その後から暫くの記憶がないが。
「遺憾ながら実は……船が沈みまして。ただ幸いと言うべきか我々はこの小島に流れ着いたのです。他のイレギュラーズの皆様も無事ですよ。今は他に生存者がいるかの確認に走っているのですが」
 聞く話によると、ここは絶望の青付近に存在する小島らしい。
 絶望の青としてはかなり浅い地点に位置しており、海洋王国としても既に確認出来ている島の一つとの事だ。船は沈んだが、最近は絶望の青へ向けての船が幾つも出ている日々。ここにいれば救援の手は一日と経たず届くだろうとの事で。
「海流の流れが本土側に向かっている所で沈んだのは幸か不幸か……
 ともあれ船を失った以上は救援を待ち、本土に一度戻るしかありませんね」
 やむを得ない、か。どうも天候も悪くなり始めている……雨風を凌げる場所をとにかくは探さないといけないと立ち上がった――瞬間。

 臭い。

「んっ? どうされましたイレギュラーズ殿?」
 気のせいか? 海の向こうから、何かとても嫌な、腐敗臭の様な臭いを感じた。
 雷の音が響き、波が荒れ狂っている向こう側から。
 嫌な臭いが――近付いてきていた。

GMコメント

●依頼達成条件
 イレギュラーズ全員の生還。並びに

 1:一定時間(ターン数不明)の経過
 2:一定時間(ターン数不明)の経過した後に現れる船に乗って脱出する
 3:到来する敵戦力『モンス・メグ』の撃破or撃退

 どれかを達成してください。

●戦場
 絶望の青付近に存在する小島。そこそこ程度の広さがあります。
 中央には林が広がっており、小山(丘)程度に緩やかな傾斜のある地です。
 周囲は一面海が広がっています。船の無い脱出は厳しいでしょう。

 天候は曇り。
 時刻は昼で灯りの必要はない程度ですが、どうやら嵐が到来しそうな気配が……
 依頼開始10ターン後、敵戦力が出現します。

●モンス・メグ
 『狂王種』(ブルータイラント)の一種。
 ガイアキャンサーとも呼称される一体で、非常に強力な魔物。
 その全長は船一隻をも優に超える巨大生物。一見すると鯨の様に見えるが、全体が妙な外骨格で覆われており、非常に防御力が高そうに見える。脆い箇所があるのかは不明。

 高攻撃力・高防御力・優れた射程と範囲攻撃を持ち、その巨体故にBSがどのように通じるのかが不明です。(無効化する訳ではないと思われます)
 反面、陸上を移動する事は出来ず単一個人を正確に狙う技能は持っていないようです。
 その点から命中はさほど高くないと目されますが、油断は禁物です。

 奴からは非常に高い殺意を感じます。
 挑む場合は注意してください。

 またモンス・メグには独自能力として『殺害した人間を急速に魔物へと変貌』させる能力を有しています。ただしこの情報は『<青海のバッカニア>サフロスの星に祈りを』に参加したメンバーの方がいる場合のみに事前に周知可能な情報とします。

●『チルドレン』×??
 モンス・メグより射出される狂王種の一種。
 タコの様な姿で、親のモンス・メグと異なり陸上をも移動します。
 具体的な能力値が一切不明ですが、モンス・メグよりは弱いです。親よりは。

●味方戦力
 海洋王国軍人が5名程流れ着いています。
 ある程度の戦闘力を持ち、現在は島に生存者が他にいないか調べている様です。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、『不穏な気配』と『嫌な臭い』が蔓延しており、何らかの影響を受ける可能性があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

●???
 一定時間経過すると『ネギール・トロスキー』(シラス(p3p004421)の関係者)という人物(船)が東側に偶々通り掛かります。彼の船に乗っての脱出が可能ですが、彼の船に無事に乗れるかはその時の『状況』に非常に左右されます。
 これを逃すと1か3の条件を達成するのみになります。

  • <Despair Blue>レイン・クロインは此処にいないLv:15以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年02月09日 21時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
銀城 黒羽(p3p000505)
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
シラス(p3p004421)
超える者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先

リプレイ

●希望か、死か
 頬に雨粒の冷たさを感じた。

 嵐。ソレは風が吹き荒び木々を揺らす。
 雷。ソレは轟音を轟かせ衝撃を周囲に。
 光。ソレは殺意を纏いて、小島に辿り着いた者達を薙ぎ払わんとして――
「ちょ、ちょちょちょっと!! ――どうしてまたあの大きなのが来るの!?」
 跳ねる様に。光帯の着弾地点から駆けたのは『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)である。
 強くなる雨のカーテン。その奥に見えるのは――こちらが乗っていた船を沈めた狂王種。
 モンス・メグの姿と殺意。
 攻撃されている。島へと至った面々が……いや、むしろ島それごと……!
「ぐ、ぅ……何この臭さ……いや、それ以上にこの旋律は……!!」
 死ね。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)が捉えた心の旋律。
 耳に届くは想像を絶する不協和音、不快の鈍痛。
 ――気持ちが悪くて吐きそうだ。頭蓋骨を割り砕かんとするような悪意を聞く、が。
「……!」
 それに対して動きを鈍らせるような事はしない。生きる為にと皆が動く。
「船を沈めたのが来ます! 少数行動は危険、急いで合流を目指してください!」
「遅れればどうなるか分からねぇぞ……急ぐんだ!!」
 故にと声を張り上げるのは二人。『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)と『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)だ。モンス・メグの接近はリアの耳で気付いていた。不吉なる存在がこちらに来る――と。
 なればまず合流だ。生存者がまだいないか探しに出ている海洋軍人達。
 まずは彼らの耳へと届かせるべく大音量の技能を用いて。
 島の隅々にまで届かせんとするのだ。もしもモンス・メグの到来に気付くのが嵐の『後』だったならばこの声らもはたして、万全の効果を発揮していたか微妙な所であったが――
「嵐も来るぞ! 急げ急げ合流しろ――今の内だぞ!!」
 『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)の風読みがあれば嵐も予期して。
 周囲が轟音に晒される前に、モンス・メグ到来前にイレギュラーズ達は行動出来ていたのであった。島に存在せし軍人達に合流を呼びかけ、戦いに備えんとする。雨とは雑音の集合体でもあり『耳』の効果を阻害する。強くなれば動きも鈍ろう。
 音の反響もこの中ではどれ程の効果が見込めるか……無念ながら雨と言う『壁』は音と反響をどうしても阻害してしまうのだ。或いは水中と言う名の空間であれば話は別だったかもしれないが、敵のいる海の中へ不用意に飛び込む訳にもいかず。
 厄介な要素であるが――合流を呼び掛けたのにはもう一つ、理由がある。
 それがサフロスの惨事。人を怪物へと変じさせた事件の事。
 カイトとイリス――そしてこの中ではもう一人――は、その事件が起こった地の依頼に出向いた事がある故知っていたが、モンス・メグはかつてサフロスという港町を襲撃し、先述の事件を引き起こした存在だ。
 もしも今なおその能力が健在ならば。
「絶望の青についに入ったと思ったら――早速命の危機なんて、随分と手洗い歓迎ね」
 命危ぶむ事態かと『少女提督』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は呟く。
 モンス・メグの射撃を回避しながら見据える『敵』の姿。
 未だ遠くど、近寄れば更に攻撃は激しくなろう。ああ全く……
「……ったく、嫌な予感ってのは当たるモンだ」
 もしも星が見えたなら不吉なるソレでも浮かんでいるかと――『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は独り言ちる。同時、飛ばすウィッチクラフトによる鳥の索敵を行って。
 流石に近付いた嵐による強風でその身が揺らぐ故、平時と同様の調子にとはいかないが……なんとかその身を保ちつつ各地の探索を行わんとする。敵の位置、各地の状況を見据えて。
 そして――視る。嫌な臭いの元凶を。モンス・メグのその姿を。
 己が、病を見据える魔眼にて。
「やれやれ、ようやく絶望の青の本番化と思えば……面倒極まりない事態な事だ。
 だが、それでも『情報』くらいは頂きたい物だな?」
 さすればレイチェルの片手に握られる剣――いや。
 『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が彼女へと言を紡ぐ。
 周囲を観察し敵の……『子』の襲来に備えて。
「チッ、臭いが段々近付いてきやがったな……!」
「HAHA! 全く、面白くもない状況だよなこれは!」
 そして『不屈の』銀城 黒羽(p3p000505)と『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)の二人は段々とその姿を明確にしてくるモンス・メグを見て警戒を強める。
 なんなのだろうかこの臭いは。嫌な、嫌な臭いがするのだ。
 それはやはり――奴が近付いて来るほどに強まっていて――

「死ぬ気はねぇぞ……俺はッ!!」

 貴道は拳に力を。決意と共に天へと吠えた。
 ――絶望の青は多くの者らを地獄へと引きずり込んだ魔の海域だ。
 誰もこの先には進ませんとする意思があるが如く。
 踏破せし者は歴史上に確認されていない。
 この海域で生きたいのならば最後まで諦めるな。
 生を渇望せよ。
 希望を抱け。
 幸ある未来を見据えるのだ。

 そんな貴方達を『絶望の青』は必ず殺して差し上げる。

 だれもここからさきにはとおさない。

●島を焼く
 それはまるで爆撃が如くであった。
 モンス・メグは小島に見つけた生存者達を狙って光帯を吐き出す。
 何もかもを焼く。焼き殺す一撃。それを――『連射』して。
「チッ、特級の『禍』がはしゃぎやがって……!!」
 レイチェルは常に止まらないように島を駆けながら様々な場所に目を運ぶ。
 小島の各地。木々の様子。軍人達の身体、嫌な臭い……そしてモンス・メグ自身をも。
 さすれば気になるのは今の所、モンス・メグ本体に何か『影』が見える事だ。彼女の魔眼は『病』を悍ましい化け物として目視することが出来るのだが……その、一端だろうか? 化物そのものには見えないが、その影の様な何かが滲み出ていて……
「……奥底に、何か罹患している?」
 見えるだけで具体的に何、と分かる訳ではない。
 しかし『何か』はありそうだ。
 いつもと違う見え方がするのは、奴が巨体故かそれとも……
「来るぞ……真正面だ。警戒を!」
 瞬間。思考するレイチェルへとシグの言が飛ぶ。
 されば直後に何かがその眼前へと飛び込――いや、何かが『着弾』した。
 鈍い音を響かせたそれは砲弾の類でも攻勢魔力の塊という訳でもない。それは。
「出やがったな……チルドレン達だ!」
「動き出す前に――潰すぜ!!」
 モンス・メグより射出されし狂王種『チルドレン』達。
 まるでタコが如き様相のソレらは、モンス・メグより荒々しく小島へと放たれたのだ。落下の衝撃故か身を立て直すのに一拍の時を要しており……ならばその隙を見逃す必要はない。
 真っ先に動いたのはカイトに貴道。
 放たれる緋色の羽の射撃と、瞬時に近付いた貴道の拳が奴らへと。
 ――直撃する。拳の奔流が身を穿ち、動く前に叩き伏せて――
「駄目だ、まだ来るぞ……! 数が多い!!」
 されどシラスの言葉が皆へと。
 彼は見たのだ。鯨たるモンス・メグの身から更に次々と射出されているチルドレンの山を。
 空に黒き点が。放射状の機動を描いて小島へと。
 チルドレンもまた嵐の影響を受けるが故に上陸する地点はそれぞれバラバラになる傾向があるが――ダメージを負っていても殺意は衰えず、マトモな者達へと向けて奴らは進軍を開始する。
 四方から。八方から。
 蠢きながら、木々を駆け抜けて。
 迎撃するシラス達。数多の格闘術式による組み合わせの殴打がチルドレンを弾き飛ばし、シグの『知識の魔剣』たる一撃が同様に奴らを薙ぐ。破壊の膂力が直線状に、木々すら壊して全てを巻き込み。レイチェルの憤怒の魔術すら巻き起これば。
「もーう! 何かボクたちを追いかけてくる手段とか、探知方法とか持ってるのかなもしかして!?」
 島に上陸する前のチルドレンへと、焔が火炎弾を紡ぎ上げて。
 右の手の平の上に形成された火炎の球体を――投擲する。
 範囲纏めて炸裂させるその一撃。纏まっていればチルドレンを一気に薙ぐ。炎が身に纏わりついて、当たり具合によっては焼却せんとする勢いで燃え広がる……ものの。
 それでもチルドレンの数が減るよりも接近する方が早い。
「ッ、この……! 気持ち悪いのよ!」
 リアの近くへと降り立ったチルドレンが一体、飛び掛かる様に彼女へと。
 左腕で防げば絡み付いて――されば激痛が走った。
 『噛みつかれて』いる。鋭利な刃物の如き歯が彼女の肉を、貪らんと。
「イレギュラーズ殿、我々も戦いますぞ!!」
 しかしそれを防いだのが共に流れ着いていた海洋王国の軍人達であった。
 先のスピーカーが如き声によってスムーズに合流を果たしていた彼らもまた戦線へと。ここにいるイレギュラーズ達程の力はない、が。彼らも軍人なればある程度の戦闘力は保持している者達。リアに絡み付いたチルドレンへと刃を突き立て――引き離させるのだ。さすれば。
 リアが紡ぐは治癒の一端。全てを救済せし修道女の旋律。
 周囲の者――敵と認識せし者は巻き込まず。友とせし者達だけの傷を癒すのだ。
 チルドレン達の負たる不協和音。それらが耳に届こうと、奥歯を噛み締め踏み止まって。

 ……波を凌ぐべく各々が奮戦する。

 されど、チルドレンははたして尽きるのか?
 そう思う程に押し寄せていた。幸いと言うべきか、連射していた筈の光帯が今は止んでいて――
「って、また来るぞオイ! 伏せろッ!!」
 気付いた黒羽が言葉を飛ばす。直後に島ごと穿たんとする光帯が放たれて。
 チルドレン諸共戦域へと直撃させた。
 咄嗟に黒羽が庇ったのは海洋王国の軍人達である。もし万一にでも死ねば――という情報を知っていたのもあるが、倒れる可能性があるならばイレギュラーズよりも彼らの方が可能性は高く。
「ぐぅ……! おい、そっちは無事か!? 異変はねぇな……?!」
「無論です……! すみませぬ、感謝申し上げます……!!」
 故に彼は確認する。彼らが死していないか。異常がないか。
 黒羽自身も防御を万全に固めていたが故に、これ一撃で倒れる程の事はない。決死の盾となりて、多くの者らを庇おう。妙な臭いと気配など己が心で平常を保てば。
「何としても生きてこの情報を王国に持ち帰るよ! まだもう少し耐えるんだ!!」
 前衛としてチルドレンの波を押し留めるイリスもまた同様に声を張り上げた。
 ここでは死ねない。ここでは屈せない。妙な気配の事をなんとしても本土に持って帰らねばならない。未だ詳細の知れぬ『何か』――原罪の呼び声、ではないようだが似たようなモノであれば『持って行かれる』可能性もあるから。
「気を確かに! 希望を持って、立ち上がるんだ!!」
 常に心を保つように、と。
 実の所脱出の手段がない訳ではない。イリスやカイトの所有せし小型船――偶々流れ着いていたモノを用いて脱出、と言う事は出来なくはない、のだが。
 奴に。モンス・メグに。
 現段階で逃げる手段がある事を悟られてはいけない。
 もし船に乗り込み振り切って逃げられれば良いが、長射程を持つモンス・メグに追いつかれ――海上で船が破壊され投げ出されればどうなるか。もはや確実な死が待つのみである。海上を泳ぐチルドレンの姿も確認されている。いやむしろ海の方が奴らは早いぐらいだ。
 群がられれば数刻の必要も無く食い散らかされるだろう。
 故に今は耐えるしかない。状況の好転を待つのだ。例えばモンス・メグが疲れるなり諦めれば……
「……生きて帰れるでしょうけど、一体いつの事やら、ね」
 付与される負の要素あらばアンナが即座に光の輝きによって打ち払う。
 常に見据えるはモンス・メグ、だ。光帯と同時に放つことはないチルドレン。また、奴の基本の狙いはこちらが固まっている場所を遠距離から大雑把に狙っている……そんな行動の傾向を探っていて、探っていて――
 イレギュラーズ側には打つ手に欠ける事に気付き始める。
 元々状況がこちら側にとって圧倒的に不利故もある。奴は長距離からひたすら攻撃を重ねる事が出来ていて、こちらは有限の戦力で幾ら湧いてくるのか分からないチルドレン達の相手をせねばならず。更にはここは小島である事から十分な移動も撤退も難しく。
「……でも、諦めないわよ」
 それでもこんな所で死ぬ訳にはいかない。絶望の青の入り口程度で。
「誰も――死なせるものですか」
 死を甘受してなるものか。目には未だ生命の灯を。
 リアの回復が間に合わない様子ならば己も治癒に回ろうと、戦線の維持に努める。
 いやそれだけではない。同時に行うのは情報収集だ。
 狂王種……モンス・メグを。チルドレンの性能を。
 タダでこんな状況に甘んじてなどやるものか。シグのエネミースキャンが奴らを捉えて。
「……ふむ。どうにも、内部には凄まじい魔力の循環機能を持っているようだな」
 幾度と放たれている光帯。
 激しい勢いで連射もある故に見落としていたが……どうやらあれは想像以上に消費が激しい一撃の様だ。しかしそんな光帯を何故連射できるのか――それは消費の大部分を即座に補う充填機能を持っているのだろう。イレギュラーズ側で言うとリアの様な。
 故に連射する時は盛大に連射するが、時折数拍程止まる時がある。
 充填機能が追いつかなくなった時に休む意味も込めてチルドレンを射出。それが奴の基本戦術か。
「うっ、それにしても……臭いね。なんだろうねこの臭いは……!」
 思わず口元を覆う焔。やはり依然として感じていた妙な臭いが向こうから。動きが鈍くなる程に体調が悪くなる訳ではない、が……やはり不快なものだ。本能的にはここから今すぐにでも離れたい思いに駆られる程で。
 しかし未だもってもまだ撤退の目が見えない。
 嵐は時間が経つほどに一段と強くなっている上に――モンス・メグに撤退する様な意思が見えないからだ。ここからでも伝わって来る殺意の重圧は衰える所か漲っていて。
「くそっ! いくら何でも耐えるにも限度があるぞ……一か八かで脱出すべきか……!?」
 カイトの三叉の槍がチルドレンの肉を穿って。されどついに決意すべきかと思考をさせる。
 操船技術に航海術――船の扱いたればカイトは充分なる技能を持っている。
 ならばまだ多少体力があるうちにチルドレンの包囲網を抜けて船を用いるべきではないか、と。如何にイレギュラーズ達が暫く凌げるだけの実力を持とうと、極端な話永遠に戦いを続けたならばいつかは『果て』る。
 その前に。そうなってしまう前に。
 賭けではあるが脱出を――

「おい、なんだあれは!」

 その時。
 誰が叫んだか。東側を指差していた。
 そこに在りしは確かな影。魔物などの類ではない、恐らく漁船で……
「――ハッ、ハハハ!」
 気付いたはシラスだ。漁船は漁船でも、あれは己が知る漁船。マグロ頭の男が乗る――
「ハハハ、なんだよオイあれは……ネギールの野郎の船じゃねぇか!!」

●臭い
 ネギール・トロスキーとは危険海域へと漁へ出る男の事である。
 わざわざそんな所へ漁に出る理由は……ともあれ。ここで疑問が一点。
 では『危険海域』とは一体どこの話なのか?
「ん? なんだありゃあ……」
 それは魔物が出没する場所の事であったり、海流が激しい地域だったりと色々あるが――そう。
 『此処』も彼の漁の一つの場なのである。
 絶望の青に近き危険海域。マトモな漁師ならば絶対に近寄らない場所。知った事かとばかりに数多の警告を無視して、あまつさえ嵐だという状況すら『良い狩り時』とばかりにネギールはここへと来たのだ。
 しかしどうにも今日の海は様子が違う。向こうに見えた小島で何やら騒ぎが……
『おいアンタ……聞こえるか!?』
 と、その時。ネギールの思考に割り込む声は、テレパスの手段。
『突然で悪いが頼みがある! 今ちょっと島の方がトラブルがあってな……脱出の為、俺らを船に乗せてくれ!』
「なんだと? お前らは一体……」
「――大変な状況ですが護衛と王国への貸しはいりませんか!?」
 テレパスの主はレイチェル。召喚した鳥を経由し、視認したマグロの彼へと声を届けて。
 更にイリスもまた『直』に言葉を。スピーカーが如き声なれば嵐の中と言えどある程度は突き抜けて。同時に聖夜ボンバー……かなり派手な音と光がそこで鳴るのだ。ここに私達は確かにいる、と。
 送る。今のここの状況を。イレギュラーズ達や海洋王国の軍人がいる、と。そして。
「せ、船長! あれ見てくださいよなんか化物がいますよ!!」
 ネギールの船に乗る乗組員が気付く。島へと向かって攻撃を続けているモンス・メグの姿を。島から幾度と挙がっている爆発の元凶はアレか――成程。迂闊に近寄ればネギールの船も撃沈されそうだ、が。
「成程な。ま、いいだろう」
「ええ!? 船長――!?」
「聞くところによるとシラスの奴もいるらしい。アイツには『借り』もあるからな」
 乗組員たちがやたら抗議する声を挙げるがネギールは全無視。
 魔物が怖くて危険海域に顔を出せるか。それに、イレギュラーズ達は言ったのだ。
 あの化物――モンス・メグの光線は抑えるからと!
「マジかよ! ハハッ、あの野郎マジかよ!」
 そしてネギールの船にて決断が成されたとレイチェルから伝えられれば――シラスは思わず腹から声を噴き出して。
 そうだ。そうそうネギールはああいう奴だ。
 マフィアや化物に臆する様な可愛げのあるマグロ野郎ではない!
「だけど、まぁまずは乗り込む為の準備が必要か……!」
「うん――流石に『じゃあ乗り込んで脱出だ!』と簡単にはいかないもんね……!」
 チルドレンを変わらず迎撃するシラスと焔。
 己が手に馴染む槍、カグツチの穂先に神炎たる炎を纏わせこれもまたネギールの船へ位置を知らせる為の手段の一つとする、が。彼女の言う様にではすぐに脱出しよう――とは行かない。
 モンス・メグとチルドレンをまずは振り切らないといけないのだから。
 ネギールは小島の東側に現れている。反対の『西』側で戦線が開かれており、モンス・メグがそちら側へ引き寄せられていたら数手距離が稼げていたかもしれないが、この状況、贅沢は言ってられまい。ネギールが現れたのも突然の事なのだから。
「くぉ……!! あの鯨野郎、マジでいつまで俺達を狙ってきやがるんだ……!!」
 それはそうとモンス・メグだが相変わらず諦める気配が全く見えない。
 郷田貴道流ボクシングの一撃が更なるチルドレンを打ち砕く、も。モンス・メグの射撃は繰り出され続ける一方だ。いやむしろ先程よりも狙いが若干正確になっているのは――ネギールの船へと出した位置の知らせが故か。
 聖夜ボンバーは巨大な音と光の規模に比せず自身は安全確実な代物ではあるが、モンス・メグにとってもその光と音は確認出来る。焔の火の振りに関しても同様だろう――が。あながちこれは悪い方面にだけ働いた訳ではない。
 モンス・メグの意識はより一層島に居る彼らへと集中させている。
 今はまだネギールの船に――気付いてはいない!
「それに――連射の頻度が下がっているな?」
「ああ確かに。威力は健在だけどよ、なんか最初より気持ち少し減ってきてるよな……!」
 気付くシグとカイト。見据えるは遥か先にいるモンス・メグからの光帯。
 なんとなく、程度ではあるが勢いがほんの少し衰えている気がするのだ。
 殺意に身を任せ乱暴に威力を振るい続けたからか――?
「……いや」
 しかし。レイチェルは、ほんの少しだけ。
 別の『妙』に気付いていた。
 彼女の魔眼――病を形として捉えるその魔眼が――
「影が、少し大きくなっている?」
 最初期に見た時よりも変化があったのだ。
 よく見えないが何かが大きくなっている。恐らくそれはモンス・メグ自身を蝕んでいる。
 『だから』だ。
 奴の攻勢が、最初よりも衰えている気がするのは。
 今ならば――いや依然として強い威力を放ち続けているので『今』とは限らないが。もしモンス・メグが何かに苦しんでいるのならば――タイミングを計れば逃走に転じる事が出来るのも決して不可能ではないのでは? 丁度ネギールの船に乗り込める様なタイミングで。
 カイトは空中を舞い、緋色の羽に掠めながらも未だ致命を受けずに凌ぎ続ける。
 見えた状況の打開の糸。ならば踏ん張るはもう少しと。
 この状況で唯一残念なのは、勢いを減じているモンス・メグへ更なる攻撃を中々届かせられない事か。優れた射程を持つ奴に対して攻撃を届かせる手段は、同様に優れた射程しかないだろう。
 遠方に届く射程ではまだ駄目だ。それよりも更に、もう一歩先の超射程の攻撃でなければ。
 いや――だがそれは『小島から離れずの攻撃』を想定した場合の話。
 攻撃が届かないのなら――こちらから近寄るか、奴を――
「く、くそ離せ! 止めろ、が、ぐ、ぁぁアアア!!」
 その時。響いた悲鳴は、海洋王国の軍人が一人。
 聞こえるは。

 咀嚼音。

 肉を引き千切る音が聞こえる。悲鳴すら飲み込まれて次々とチルドレンが群がって。
「チィ……くそ!」
 多くを庇う黒羽だが、人の手には限度がある。
 零れる事もあるのだ。チルドレン達も、ただこちらを漠然と殴って来るだけの雑魚ではない。個体ごとにある程度の差があるようだが――モノによっては行動を阻害せし負の要素を携えた奴もいる。
 やがて響くは肉の音から骨の音に。砕く様なナニかが発生すれば。
「ぉ、あ――ガ」
 変じる。
 チルドレン達が退いた先に居たのは、もはや人ではなかった。
 顔の上の部分が無く、しかし立ち上がり、腹の肉が破裂しそうな程に膨れ上がっている人ではなないナニか。それはまるで趣味の悪い――肉腫の如く――
 動く。動く。動いている。先程まで共に戦っていた者が。仲間だったものが。
 まるでチルドレンの様な触手を体中から生やしていて。
 こちらへ腕を伸ばして――走って――
「う、うわああああ!!」
 おぞましき形相に一人の軍人の気が触れる。
 携えていた武器を無茶苦茶に振るって。こっちに来るなと半狂乱。
 その、頬を。
「――しっかりしなさい!!」
 リアが叩いた。
「アレはもう敵よ! 気をしっかり持て!」
 仲間が異形へと変じた様に取り乱すな。正気を失えば己も怪物へと変じるぞ、と。
「あたしの声と旋律だけ聞きなさい! 信じるものだけを今は信じて!!
 ――あたし達を信じろ! 絶対に、絶対に! 全員で生きるのよ!」
 こんな所で死ねるか。私達には、帰る場所があるのだから。
 リアは己が帰還するべき場所を思い浮かべて、身に力を込める。
 子供達が待つのだ。手のかかる、しかし脳裏に浮かぶあの子達が。

 帰らない訳には――いかないのだから!

 治癒の旋律が皆を包む。押し寄せる悪意共に屈さぬ力を今ここに。
「そうだ……諦めんじゃねぇ! 屈するんじゃねぇ! 俺達はこんなところで死ぬ訳にはいかねぇんだよ! お前らも絶望の青を生きて超えたいから――こんな場所へと足を踏み入れたんだろ!」
 同様に黒羽はこれ以上の犠牲を出してなるモノかと決意を強く。
 皆を鼓舞して狂気に呑まれんと。生きる意思こそが人を生かすのだと。
 抗う。嫌な臭いなぞなんのその。希望は確かに見えているのだから!
 黒羽はチルドレン達の攻勢から、身を挺して庇い続ける。血飛沫が舞おうと痛みが走ろうと。
 彼の心が、決して折れぬ限り。
「それにしても……誰にも『アレ』が与えられる様子がないわね……?」
 近寄ってきた敵を弾くアンナ。負の要素を払う事に注視している彼女は――気付く。
 モンス・メグは狂王種という魔物の種族であり、同時にガイアキャンサーという名をも持つ魔である。その名は――少し前の熱砂の恋心の件に置いて――ある砂の魔女が召喚した魔物の名と同一であった。
 しかしあの時の『アレ』が使っていた厄介な『癌』は付与される気配がない。
 モンス・メグは持っていないのか――或いは砂の魔女が創造したモノだけの品だったか――
 いずれにせよ面倒なモノがない分には結構だ。それよりも。
「ッ、やっぱりだめ……!? モンス・メグの動きは鈍らない……!」
 黒羽と同様に耐久戦を試みているイリスだが――脱出の目が決して高くないことに気付いていた。モンス・メグの攻勢が鈍っている……との事だが、では逃げ切れる程に鈍っているかと言うとそうではない。
 ネギールの船は近付いてきている。もう少しすれば飛び移る事も可能な距離にまで至るだろう。しかし……全員の飛び移りを確実にするためにはどうしても一拍は小島の近くで止まってもらわねばならないだろう。
 その一拍で、はたしてモンス・メグはどう動くか。
 一気に近寄られれば――撃墜されれば――
 全てが、終わる。
「なら。やっぱりやるしかねぇよな……生きる為にはよ!」
 言うは貴道。『やるしかない』と、言うその意味はたった一つ。
 アンナ、シラス、貴道の三人が顔を見合わせる。全ては打ち合わせ通りに……
 三者はいずれにも飛行の手段を持つ者達。いざとなれば泳ぐ必要ない者達。
 『足止め』である。たった数瞬、その気を逸らせれば皆が助かるのであれば。
「死ぬなよ。俺の親父もアレに当たって生き残りはしたが……大量の死人は、出たんだ」
「なに。死にに残る訳じゃないもの――むしろ、生きる為よ」
 サフロスの大惨事を知るカイトは、関わった己が父。ファクルの事を思い出して。
 言葉をかけるが――アンナは微笑みながら返答とした。
 もはや決断に迷う時間は無く。そうするかしないならば行動は迅速。
 まだ生き残っている海洋軍人達にも作戦を伝えて――船へ向かうメンバーはチルドレン達の包囲に穴を開けてネギールの船の下へと向かうべく攻撃を集中させるのだ。
 されど。その小島の様子か、或いは近付く船に気付いたか。
 遠くにいたモンス・メグが――逃がさぬとばかりに移動を開始した。

「――足止めで残る? 分かる、けどよ……それで死なれちゃ後味わりぃよ糞ったれが!」

 ならばと叫ぶはレイチェルだ。先程までは、中々攻撃が届き辛かった『奴』がこちらへ。
 ならば、ならばと。決めるとレイチェルは決意して。
「俺の命を喰らって咲き誇れ、焔華……!」
 足止め班の援護の一端となるべく――己が血を媒介とした魔術を顕現させた。同様にシグも圧殺せんとする一撃を共に。移動中のモンス・メグの口は開いていない故に外殻へと――直撃させて。
「むっ……あの外殻。伊達ではないようだな」
 しかし。
 効かない。
 いやノーダメージではないだろう。しかし範囲諸共焼き尽くさんとするレイチェルの一撃すらほとんどをカットしている。軍艦の砲撃すら耐えきるアレは、一体何で出来ているのか。
 物ともせずに小島へと接近するモンス・メグ。その横っ面を。
「おい――どこにいこうとしてんだ」
「こっちを向けよ、鯨野郎!」
 シラスが、蹴りをぶち込んだ。
 魔術と幻覚を組み合わせた高速移動。外殻の隙間を狙わんと超速の格闘術を組み合わせて。
 そこへ更に貴道の一撃が襲う。込めた拳の全力を、嵐を突き破らんとする程に。
 振るう。魔槍の如き鋭い正拳突きが空を裂いて、肉を撃たんと叩き込み。
 モンス・メグの眼前をアンナが舞って――攻撃と注意を引きつけんとする。
 長い時間でなくて良い。ほんの少し、時間が稼げればそれでいいのだから、と。

「■■■■■、■■■」

 瞬間。呻くような、いや怨嗟の様な声――が、モンス・メグから。
 いやそれははたして声だったのか? 誰にも聴き取れぬ意味無き何かだったのか。
 されど、分かる。己が邪魔をする面々へ大した確かな殺意は。
「おいおい……マジかよ」
 呟いたシラス。最もモング・メグに接近していた彼が、真っ先に気付いた。
 奴の外骨格が――『開いて』いる。
 亀裂が如く、微かに開いた外殻。そこからは無数・大量の光が収束していて。
 今にも弾けださんと――
「く――ッ! まずい、皆離れて!!」
 直後、アンナの声とほぼ同時に。
 破裂するように。亀裂の節々から光が放たれた。

 ――拡散光帯。

 近くに至る者達へ対し、凄まじい量の細き光帯が射出されたのだ。先程までの遠方射撃では無く、自らに取りついた者達に対しての奥の手。光速にして精密なる複数射撃が、足止めに残った者達を――襲った。
「チィ――ッ!!」
 身構える貴道。拳圧で打ち砕かんと立ち回るが、数が多すぎる。
 正面から、右から、左から、後ろから。数多の光が殺すとばかりに容赦なく……空飛ぶアンナすら例外ではない。撃ち落とす。殺す。目障りな者は海の藻屑にしてやると。
 そして。
「ぐっ、そ……ッ!」
 至近にいた、シラスの足を光が抉った。
 ほんの微かに崩れるバランス――そこへ襲い掛かる光帯の連打。
 肩を、腹に穴を開けて。しかし。
「ぉぉおおおおお!!」
 血塗れになりながらもシラスは運命を燃やしてその身を動かし。
 光帯の発射口に一撃を叩き込んだのだ。されば、外骨格の硬さが嘘の様に。
 柔らかき肉を抉ってモンス・メグに――血飛沫を発生させる。
「■■■――■!!」
 絶叫。意味は分からねど確実にその類であるというのが分かる声色が響いて。
 赤黒い血反吐がシラスの全身を濡らす。ああ――

 臭い。

 臭い、臭い、臭い。ああこの臭いだ。最も初めにした、嫌な臭いは――此処に――
「十分だわ……脱出するわよ!!」
 瞬間。ネギールの船を確認したアンナがシラスと貴道を拾う。
 運搬の技量を持つ彼女であれば二人の男を背負おうが充分で……

 ニガスカ シネ。

 再なる光帯。複数の射撃が、固まった三者を襲わんとする。
 背負った重さがある身ならば如何に運ぶ技量に優れていようと逃れられない、が。
「皆で、生き残るのよ……!!」
 光が、アンナ達の下へと届く前に。
 制御不能なブリンクスターの瞬間加速が全てを凌駕する。
 たった一瞬。それで充分! 光が追いつけぬ程に突き抜け――モンス・メグの光帯の射程を抜ける!
「来たぞ! 船はそのまま離脱の進路を取ってくれ! こっちで受け止める!!」
「負傷してるなら私が癒すわよ! 三人は、無事……!?」
 超速度で駆け抜けるアンナ。その先には進むネギールの船が。
 嵐の強風の中でも風を読めるカイトが迎え入れ、癒し手たるリアが癒しの術を用意している。致命傷さえ――負っていなければ――治癒は幾らでも出来る筈だと。
「チルドレンに気を付けて! あいつらはまだ追ってきてる……!!」
「わーもう! 海の方が動きが早いとかなんなのかなこいつら! えーい!!」
 そして逃げようとする船を追って来るチルドレン達。
 気付いたイリスが声を挙げて。されば焔の火炎の弾とレイチェルの鮮血の陣が紡がれて。

「……覚えとけよ鯨野郎。レイン・クロインの様にお前を喰らうのは俺だ」

 ――死んだ連中の無念を必ず晴らしてやる。
 奥歯を軋ませ心中に誓う。チルドレンは追って来るが、モンス・メグは――追ってこない。
 理由は分かる。病の影がかつてないほどに揺らいでいて、恐らく苦しんでいるが故だろう。
 ……あれが何なのかは知らないが。どうやら魔物ですら罹患する類のモノのようだ。
 これの知識は今の所誰も知らない。海洋本土に戻った際に調べてみようと――
「おいシラス」
 その時だ。全速で離れるよう船を指揮していたネギールが、知古のシラスへと。

「お前……なんだか臭くねぇか?」

 言葉を紡いだ。
 目を閉じているシラス。息はある。生きている。だが、だが。
 彼には――嫌な臭いが、沁みついていた。

 肉体そのものに何かが宿っていた。

成否

成功

MVP

アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞

状態異常

郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
竜拳
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者

あとがき

 依頼ご参加、ありがとうございました。

 絶望の青へと踏み入った一歩目。これからも様々な何かが待ち受ける事でしょう。

 MVPは貴方へ。いなくば更に被害が増えていたでしょう。
 改めましてご参加どうもありがとうございました。

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