PandoraPartyProject

シナリオ詳細

アルヴィオンよりの使者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 残雪と霜だらけの土をやぶり、僅かな緑が垣間見える。
 控えめにうつむくスノードロップが、春のきざしをささやいていた。
 とはいえ明日は雪だとされており、まだまだ冬が続きそうではあるのだが――

 少女はスノードロップの花に両手を添え、のぞき込むように顔を近づける。
 指先に乗るほどの小さな花は、けれど彼女にとっては両手のひらに包むほどの大きさだった。
 香りを確かめるように瞳を閉じて、すんすんと鼻をうごかす。
「まだぜんぜんだめなの……」
 しょんぼりと肩を落とした彼女は、蝶を思わせるあざやかな翅で舞い上がる。
 宙を舞い目指すところは、雪の中にぽっかりと空いた円環である筈だった。

「うそ――っ!?」
 ほんの数刻前まで無事だった筈のゲートは、おびただしい爪痕に踏みにじられている。
 背筋に冷たいものを感じた彼女は、本能が導くまま一気に舞い上がる。
 数瞬遅れて、鋭い爪が宙を切り裂いた。
 今の一撃で命を奪われなかったのは、まさにただの幸運であった。
 襲ってきたのは魔物だ。おおかたゲートのエネルギーを食い荒らしに来たのであろう。

 口腔から唾液と共に瘴気を滴らせる怪物は、ぞろりとした歯を剥き出しにする。
 少女は恐怖に抗って眼下へと視線を送った。光る目は一対だけではない。囲まれている。
 魔物の目が光る。視線が交差する。唾液を散らしうなり声をあげる。狙われている事だけは確実だった。
 少女は自身の迂闊さを呪い、焦燥に苛まれながら一目散に飛び続けた。

 誰か――助けて!


 一行が訪れたのはアルティオ=エルムの美しい庭園であった。
 依頼主は『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス(p3n000085)である。
「わざわざ遠い所をすまなかった。恩に着る」
 そう述べたルドラのマントからひょこりと顔を覗かせたのは、小さな少女であった。
「ああ、貴殿も挨拶をするといい。こちらがイレギュラーズだ」
 促された少女はマントの影を飛び出し、両手を広げた。

「こんにちはー! ストレリチアなの!」
 元気のいい声に一行は挨拶を返すと、依頼の内容といきさつを再度確認する。
 ここへ来る前に情報屋が述べていた通り、依頼の内容はグリムアザースの少女を故郷に送り届けること――らしい。
 その故郷というのがくせ者で、どうもまともなやり方ではたどり着けないらしいのだ。
「正直なところ、私も彼女を見るまではおとぎ話だと思っていた」
 ルドラは深緑茶で口を潤し、苦笑する。

 経緯だが。ストレリチアは霊薬の材料を集めるため、なにやら神秘的な力による『ゲート』をくぐりこの付近にやってきたと云う。
 いくらか時間を過ごすうちに、ゲートの魔力を魔物が食ってしまったようだ。
 襲われそうになった彼女ががむしゃらに逃げてきたところを、深緑の森林警備隊に保護されたようだ。

「このところ魔物の事件が多くてな……」
 苦い表情を浮かべたルドラが述べた通り、このところ世界的に『魔物が強くなっている』という噂が広がっていた。
 理由は知れぬが、もっともらしいと思えるのは『滅びのアーク』の高まりに関連するというものだ。
 パンドラを蒐集するのと同様に、魔種達もまた精力的に活動しているという事なのだろう。
 誰が呼んだか、それら強力な魔物は『アークモンスター』等とも称されている。
 そうした事情から、森林警備隊も手一杯のようだ。

 あとはどうやって送り届けるか。
 ゲートの力はおそらく回復すると思われるらしいが、まだ現場には魔物がいると予測される。
 送り届けるにあたっては、退治するか或いは最低でも撃退しなければなるまい。
 魔物についてはストレリチアの言葉が不明瞭で得体が知れないのだが、昨今の事情を鑑みればかなり強力であってもおかしくはないだろう。

「どうだろう。頼まれてくれないか?」
「おねがいなの!」

 そう述べたルドラから、イレギュラーズは依頼書に重ねられた一枚のメモ書きを受け取ったのである。

GMコメント

 pipiです。
 ちっちゃな女の子からのお願いです。

 敵情報はアレですけども。ひどいことにはならないと思いますので。
 おしゃべりなんかしたり、ちょっとのんびり目にいきましょう。

●目的
 現場に赴き、付近に居ると思われる魔物を撃退する。
 ストレリチアを神秘のゲートに送り届ける。

 メモ書きに書かれていたことは、「興味があればゲートの調査を行っても構わない」「調査したなら分かった事を教えてくれると嬉しい」といった些末な内容です。
 こちらは別にやらなくてもいいです。

●ロケーション
 迷宮森林の外れ。割と寒い場所。
 森の中からスタートして、ぽっかりと空いた広場を目指します。

 広場自体の足場や視界は良好です。
 周辺は森です。うっそうとしています。
 昼は明るいですが、夜は当然暗くなります。

 ゲートの場所はストレリチアが覚えていると言っています。
 はて、どこまであてになるものか。

●ストレリチア
 おそらく精霊種と思われる少女です。
 すんごいちっちゃいです。
 若干の戦闘能力がありますが、なんとも頼りないものです。
 非戦スキルは飛行。

●敵
 すっごい目がひかってたの!
 おっきくって、こわくって!
 爪と牙があって!
 こわかったの!!!
 たぶんしっぽもあったの!!
 たぶんいっぱいいるの!

 とのことです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はB-です。
 依頼人の性格は誠実で、嘘をついてはいません。
 ただ、ちょっと。こう、ふわっとしすぎている所が散見され。

  • アルヴィオンよりの使者完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月04日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
罪のアントニウム
サイズ(p3p000319)
妖精の守り手
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
儚花姫
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
蒼海の語部
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
魔風の主

リプレイ


 既に小一時間ほど歩いたろうか。
 あれほど巨大な大樹ファルカウの威容は、すぐに見えなくなってしまった。
 迷宮森林は踏み込んだ場所により、様々な表情を見せると云う。
 幻想的な光景は、少なくとも人ならざる領域であることを告げていた。
 鬱蒼とした木々が陽光を遮り、まれに飛び交う不思議な光に季節すら分からない。

「地図だとこっちだよね」
 指を指した『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は、ルドラから受け取った地図を広げる。
 ポイントとなりそうな地形や植物をマップに記して。
「なんだか怖いの」
 不安そうに呟いたストレリチア(p3n000129)が、『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の背に隠れる。
「野鳥でしょうか」
 クラリーチェが空――覆い隠す枝葉を仰ぐ。
 長い尾をした青い鳥が一羽。幻獣か魔物か。一同に緊張が走る。

 一同は得物に手をかけ、だが鳥は一行の頭上を旋回して木々の間へ飛び去っていった。
「びっくりしたの」
「ぶははははっ、帰れねぇってのは心細いもんな。
 ちゃんと帰れるように何とかしてやらぁ。任せな!」
「うん、大丈夫! 私たちが絶対送り届けてあげるからね!」
 胸を張った『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と共に、『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)が力強く宣言する。
 異郷に一人。帰れないのはきっと心細いだろう。それにルドラからの依頼でもある。頑張らない訳にはいかなかった。
「シャルレィスさん、いいひとなの! ブタさんもお顔は怖いけど、いいひとなの……!」
 ストレリチアがクラリーチェの肩に両手をかけ、顔を覗かせた。ちょうど子猫の重さだろうか。すっかり懐かれてしまった。
「ぶははっ。こっちにゃ自信があるんだけどよ!」
 ゴリョウが魔力コンロをコツコツとやると、少女は顔をぱぁっと輝かせた。
「たのしみなのっ!」

 この日イレギュラーズ達は、不思議な『ゲート』から現れたと云う『妖精?』を送り届ける仕事を負っていた。
(妖精さん……この世界の者じゃないってことは、彼女もイレギュラーズということになるのかしら。でも、精霊種なのよね? よくわからないわ)
 小首を傾げた『お道化て咲いた薔薇人形』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の疑問は尤もだろう。
 仮に『この世界の存在ではない』とすれば、異界の存在は旅人。つまりイレギュラーズに相当しなければ不自然だ。
 ただどうも精霊種(ざいらいしゅ)ではあるような。
 ならばゲートの先は、やはり『この世界』であったりするのだろうか。
「この世界には不思議な事がたくさんありますが、また一つ不思議が増えましたね」
 クラリーチェはぽつりと一同の想いを代弁する。ゲートとは、そしてその向こうとは何なのか。
 興味は尽きないが、まずは彼女を無事に送り届けようと歩みを進める。
「ともかく、ゲートが魔獣に襲われるというのは穏やかではないわよね。頑張って助けてあげましょうね!」
「ええ」
 ヴァイスの言葉にクラリーチェが頷く。
 ゲートはどうやら神秘的(あるいは魔術的な)仕掛けであるようで、それを狙った魔物に襲われているらしく、おそらくその退治も必要になるのだ。
「光る眼に、爪と牙……」
 はてさて『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はストレリチアが告げた魔物の特徴について考え込んでいる。
 妥当なところでは狼か熊かそれとも猪で辺りと思えるが。ともあれただの野生動物ならばわざわざ咲耶ほどの使い手を寄こす必要もあるまい。
 人手が足りないとあれば、それもさもありなんというところではあるのだが――
 こうなると気になってくるのは『魔物が強くなった』という噂である。
「何にせよ被害が出る前に危険な芽は摘み取ってしまうのが吉でござるな」
 咲耶の言葉に一同が同意した。

「サイズさんは、仲間なの!?」
「あ、うーん……かなあ?」
 ストレリチアは妖精っぽい精霊種と思っておけばよいのだろうか。どのみち助けることに変わりは無いのだが。
 しばし考え込んみ、そう結論付けた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は、彼女と同程度の背丈になっていた。サイズは旅人でありストレリチアとは在り方が少し違う。この無辜なる混沌においては、些末な問題かもしれないが。
 さて探索は仲間に譲る分、話は弾ませたい。
「ストレリチアさんは、何の妖精とかってあるのかな?」
「ストレリチアはストレリチアなの!」
「あー……花かな」
「お花なの!」
 トートロジーではなく、ともかく自称『花の妖精』らしい。
 そんな様子にひとしきり感心したのは、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)であった。
 精霊種かもしれないが、ともかく妖精なのだ。おとぎ話の住人だ。
 この地(アルティオ=エルム)で幾星霜を『夜明けの虹(シャハル・ケシェット)』として生きたウィリアムとてお目に掛かるのは初めてのこと。ちょっとした感動を覚える。
「会えて嬉しいよ」
「わたしもうれしいの!」
「それならよかった」
 災難に遭ったストレリチアに、こんな事を言うのは申し訳なさもあるが、
「困り事は任せて。皆とても頼りになるからね。何が来ようと君を必ず送り届けてみせるよ!」
「はいなの!」

「妖精伝説か……」
 ぽつりと呟いたゼフィラの知識によると、この世界にも妖精は存在する。
 一つは飛行種だ。透明な翅や蝶の翅を持つ者達がそう名乗っていることはある。
 もう一つは魔物だ。友好的な者もあれば敵対的な者もある。単純にモンスターであり、そういう意味ではゼフィラは些かの造詣を持っていた。
 最後に旅人。ここではなじみ深いサイズのような存在である。何せ仲間(イレギュラーズ)だ。
 そしてここで目にしたのが――ゼフィラの眼前に、ストレリチアがぴょいと飛んでくる――この子だ。
 推測では精霊種であるが、変わり種といったところだろうか。
 いずれにせよ『おとぎ話』の存在とすれば、俄然興味も湧いてくる。
「でんせつなの!」
 どこまで分かっているのかどうなのか。
 ともあれゲートの先は未知の世界と来れば胸躍らずにはいられない。であればこそ依頼はしっかり果たさねばなるまい。


「このあたりに見覚えはありますか?」
「わかんないの……ごめんなさいなの」
「大丈夫ですよ」
 クラリーチェは安心させるようにうな垂れたストレリチアを撫でた。すぐに表情がぱーっと明るくなる。
『この女の子に見覚えはありますか?』
 ならばこちらへ問おう。意識を集中させたクラリーチェにイチイの梢が風に揺れる。微かに伝わるのは肯定。
「おそらく有っているでしょう」
 ハーモニアであるウィリアムやクラリーチェの力、それからヴァイスに贈られた『薔薇道化の存在証明』によって、ゲートの形状、方角、側に生えている植物。印象をつなぎ合わせて自然に問いながら。
 時に咲耶のファミリアーを先行させ、時にシャルレイスが道そのものを捜索しながら。一行は迷宮森林を進んでいる。
 あとは――魔物の影について尋ねもしながら。

「ぶはははっ! そろそろメシにしようや!」
 ゴリョウの提案に一同が頷く。この周辺に敵意は感じない。今のうちだろう。
「ほんと!?」
「これが美味しいんだ」
「そうそう」
 シャルレィスがドミグラスソースオムライス、ウィリアムがカツ丼を取り出した。
「お買い上げありがとうございますってな! ぶはははっ!」
 シャルレイスから手近な食材になりそうなものを受け取ったゴリョウはちょっとした料理をこしらえる。
 尤もこれは前哨戦。無事に依頼を終えた暁には、まだまだ策(コンロ)がある。

 森の中の昼食。
 木を駆け下りたリスが木の実を掴んで藪に姿を隠す。
 食べ物を頂くと身体も温まり、先ほどまで薄ら寒く不気味にも感じた迷宮森林も、また違った表情が見えてくるものだ。

 一同の話が弾む中で、話題はいつしかイレギュラーズ達の冒険譚を聞かせるフェーズになっていた。
 どこまでも広がる砂漠や海の話、天を衝く巨塔、冒険の話。それから同人s――いやこれはいいか。
「砂漠ってどんなところ?」
「鉄帝国ってなに?」
 矢継ぎ早に繰り出される質問に答えてやりながら、一同とて彼女の故郷が気になってくるというもの。
「ゲートの向こうってどんなところなのかな?」
 ウィリアムは問うてみた。
「アルヴィオンってゆうの!」
「アルヴィオン……!」
「お城があって! いつもお花がさいてて! あったかくて、夏とか冬とかがないの! いつも春みたいなの!」
「常春の国アルヴィオンかあ……」
「おうちが切り株なの!」
 尋ねたウィリアムは軽く感動を覚える。どこかにそんな場所があるのか。
 ストレリチアに家族は居ないらしいが、女王がいるらしい。女王。妖精の女王――
「生きていれば何れ行く機会があるのでござろうか」
 グリムアザース――ストレリチアの故郷へ。いつの日か。
「来たら大歓迎なの!」
「行けるのでござるか?」
「……わかんないの!」
 咲耶の問いに首を左右に傾げるストレリチア。
「もしかしたら、ダメかもしれないの……」
 ストレリチアの拙い言葉は事態の全容を掴むには不向きだが、話好きではあるようで、口を開くたびに様々な新しい情報が飛び込んでくる。
 無論、好奇心に瞳を輝かせるゼフィラやウィリアムが、その度に食事の手を止めるは言うまでもない。
「キミは精霊種なんだよね?」
「わかんないけど、はいなの!」
 サイズは再度確認するが、まあ、たぶんそうなのだろう。そも精霊種自体の認知がごく最近ではある。こんなこともあろう。
「ゲートって、元からあったりするのかな?」
「アーカンシェル(妖精郷の門)は、ずっとずっと昔からあるの! 一個じゃないの!」
 誰が作ったのかも定かではないが。仮にそれを『転移装置』と定義するならば、少なくとも『とんでもない』代物だ。
「アーカンシェル!」
「一個じゃない!」
 大きさは、残念。両手を一杯に広げた程度らしいが。ひょっとしてサイズは入れるのではないか、などとも思えてくる。

「夏とか冬……季節は知っているのね?」
「はいなの! たまにこっちにきてるの!」
 ヴァイスに答えたストレリチアによると、どうも妖精達はこちらに姿を見せることがあるらしい。
「ほんとはあんまり来たらダメなんだけど、でも楽しいの!」
「なるほど、それが伝説になっているのか」
 腕を組んだゼフィラが頷く。こうして未知が暴かれて行く。


 一休みを終えた一行は、かれこれ二時間程も歩き続けていた。
「風に乗っているのよ。そろそろじゃない?」
「ああ、分かるぜ」
 いくらかの緊張を湛えたヴァイスの声音に、ゴリョウが応じる。
 風が怯えていた。想定されるのは、かなりの驚異だ。
 ヴァイスはそういったことを手短に伝えると、一同に緊張が走る。

 そこからの道のりは、ほんの数分であったか。
 押し黙ったまま、木々に尋ねるウィリアムとクラリーチェの導きに応じて、一行は慎重に歩みを進めた。
 戻ってきた小鳥を咲耶が腕に止まらせ、一同と視線を合わせて指で示した。そちらに敵が居る。
 目配せと共に先行したシャルレィスが小道を見つけ、振り返らずに手招きする。
 一行はそっと近寄る。藪の向こう側が開けている。淡い虹色の光を湛えたサークルに、集う十数匹の魔物――

「さて――」
 そこからの行動は迅速であった。
 滅びのアークの影響とはどれほどか。影のように駆ける咲耶が跳躍する。まずは小手調べだ。

 怪物が牙を剥く。筒状の顔の正面を取り囲むように生え揃った歯。
 首元まで覆う大量の目玉。トカゲのような六つ足。飛ぶことも出来ぬであろう矮小な翼。
「ワームの一種……でいいかな」
 不滅の進軍を約束する指揮杖を掲げ、ゼフィラが呟く。
「行きましょうか」
 ヴァイスは終焉の短剣を構える。赤の彩り、高鳴る鼓動が戦意を一行の解き放つ。

「ぶはははっ、こいつぁ良い試金石になりそうだな! かかってきやがれ!」
 真っ先に敵陣へ駆けたゴリョウが笑う。攻性防禦守護獣術・『性』の一。
 四匹のワームが地を蹴り、ゴリョウへと襲いかかる。
 速い――うねる頭がゴリョウの首筋を捕らえようとした、刹那。
 澄んだ音と共にワームは障壁へと衝突した。
 激しい衝撃に踵が地を抉り、脳髄を揺さぶる。
 決めておいたハンドサイン。敵は十二。引き付けられたものは――僅か四。

「あれなの、こわいの!」
「大丈夫だよ……!」
 このためにこんな代物(使い捨て追加装甲)まで用意したのだ。
 小さな二人を与しやすいと判断したのだろう。特にストレリチアは『逃がした得物』だ。ワームの二匹が襲いかかってきた。
 サイズの鎌が鋭い牙を弾く、強かに地に叩き付けられ、だが地を蹴ったサイズは二匹を相手取り、次なる一撃を切り払った。

「だったらこっちだ!」
 凛と勝ち気に。高く剣を掲げたシャルレィスに向かったのは六。
 襲い来る敵を蒼嵐で切り払い、その鋭い爪牙を受け。その身に駆ける無数の赤を受けて。
 けれどこれで敵の全てをコントロールしきった。

 一条の軌跡が閃く。
 無形の型――悪刀乱麻。
 どす黒い血が迸り、咲耶の始末斬九郎が前腕の一本を切り落とす。
 続いて迫る刃は急所を逸れ、されど醜悪なワームの身体を深々と切り裂いた。
「さすがに、やるでござるな。滅びの力を得た魔物と云うものは……!」
 されど所詮は獣。紅牙の秘伝で残らず屠り散らしてくれよう。

 森の中で放つことには懸念を覚えながらも、クラリーチェは事態へ向き合っている。
「私が命じます――」
 指輪から放たれた刹那の邪しき幻像は、猛毒の霧息をワーム達に吹き付ける。
 絶叫と共に苦しみ悶えるワームの姿は、それが如何に――滅びの力を得ている可能性があるといえど――結局のところただの魔物に過ぎないことを証明してくれた。

 ――幾ばくかの時が流れ、戦いは続いていた。
 ゼフィラが指揮杖を振るう。描いたのは火焔の大扇。舞うように、勝ち気に。
「これでどうだ!」
 燃えさかる灼熱が敵陣をなぎ払う。
「――っ!」
 魔力のフィードバックに伴う鋭い痛みをものともせず、ヴァイスは端正な唇を結ぶ。
 さながら美しい人形の様に――否、そのものか――彼女自身を媒体として放たれた自然界のエネルギーは薔薇に茨の棘遂げて。

「なかなか苦しいね」
 ウィリアムはぼやきながらも、癒やしの力をゴリョウへ、サイズへ、シャルレィスへと次々に振り分けていた。
 攻撃手を担う事になったクラリーチェもまた、最終防衛ラインとして二度まで癒やしの術を使う事になった。
 ワーム達は獰猛さを些かも鈍らせることなく、イレギュラーズに無数の傷を穿ってきている。長引けば危険かもしれない。
 特に苦境に立つことになったのは状況上多くの敵を引き付けることになってしまったシャルレィスだが、彼女の判断がなければ敵の攻撃はより危険な場所へ集中したに違いない。
 タフなゴリョウもまた、数体の敵の攻撃を一身に浴びながら、仲間への回復等バックアップも欠かしていない。
 こうした一行の高度な戦術判断は、ともすれば状況の変化で一転して危険を招く場合もある。だがイレギュラーズは戦況をコントロールしきっていた。
 一行は範囲攻撃とヴァイス等の堅実な呪殺攻勢により、一体、また一体とワームは数を減らし、遂にシャルレィスの、続いてサイズを攻撃手として戦闘参加させる段階へと至る。
 そしてウィリアムが攻撃手にまわった時に、趨勢は完全に決したのであった。

 こうして――


 一行の前には弱い光を湛えた虹と花の小さな円環が鎮座している。
 ストレリチアはほっとした表情を見せ、それから眉尻を落としてうつむいた。

「ぶはははっ、折角来たのに土産話が奴らとの喧嘩のみってのも寂しいだろ。帰る前にメシの一つでも食ってけ!」
「ゴリョウさんのご飯、すっごく美味しいんだよ」
 続いてシャルレィス。震えていたストレリチアの表情がぱっと輝いた。
「まってましたなの!」
 振る舞われたのは握り飯と暖かな豚汁。
「しかし、旨い! 前回の依頼の時も思ったのでござるが、これは店で出してもいけるレベルなのでは?」
 咲耶が舌鼓を打つ。
「ぶはははっ、出してるぜ!」
 ギルドで!
「本当でござるか!」

 次の問題は『ゲートの向こう』であろう。
 クラリーチェにゼフィラ、ウィリアムがゲートについてメモやスケッチをとっている。
 ゲートに直接問うたヴァイスだが返答はなく――なるほどこれはひょっとしたら『人工物』か。
 良いと言うので試したが、ゼフィラやサイズが触れても何も起きない。
 おそらくこれは『帰路』だ。来ることと帰ることしか出来ない。

 最後に一つ。
「迷惑でないなら一つお聞きしたく。何故ストレチア殿は霊薬を求めているのでござるか?」
「どんな傷でも治っちゃうとか!?」
「ちがうの、かぜぐすりなの……」
 意外と普通のものだった。

 目配せしたクラリーチェが微笑む。
「うん」
 歩み出たシャルレィスの指先で花開いたのはスノードロップ。
「ありがとうなの!」
「どういたしまして」
「短い間でしたが、楽しかったです」
「ぜったいまた来るの!」
 何度も振り返って手を振るストレリチアが光の中へ消え。

 瞬きの後、ゲートは跡形もなく――

成否

成功

MVP

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃

状態異常

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332) [重傷]
蒼銀一閃

あとがき

依頼お疲れ様でした。

MVPは最も大きなリスクを負った方へ。

それではまた皆さんのご参加を願って。pipiでした。

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