シナリオ詳細
ブラッディマリーの夜明けまで
オープニング
●吸血鬼の夜
グラスの中で転がる氷。
オレンジ色のライトに照らされたバーに、サックスの緩やかな演奏が流れている。
退屈そうにグラスに小指の爪を入れてゆっくりと回す女が、二人がけのテーブルにひとりきり。
同じ酒場で黒いビールを飲んでいた男はこれ幸いと彼女の向かいに座ると、グラスを掲げて笑って見せた。
彼の姿を見上げ、どこか余裕そうに笑って返す女。
女の笑顔はどこか、テーブルを流れるメイプルシロップのようにとろんと甘かった。
コンセンサスは十分だとばかりに、男は他愛のない話をしながら女を笑わせ、カクテルドリンクをもう何杯か飲ませた後で、酔って来ちゃったわとメイプルシロップのような甘い声で女がささやく。私をどこへなりとも連れてってという合図と察した男はバーテンダーに少し多めにコインを渡すと、女の手を引いて夜の町へと泳ぎだしていった。
ここは天義の町ヴァルピイ厳格で保守的な天義のなかにあってどこか先進的な町。
大通りで等間隔に並ぶガス灯がオレンジ色に町を染め、黒塗りの箱馬車が通り過ぎていく。
女が、甘い声で男の耳にささやいた。
「ねえ、待ちきれないわ」
訴えるような目をして、建物の間にある細い暗がりを指さしてみせる。
男は苦笑しながらも、相手がそう来るのであればとともに暗がりへと入っていった。
そこからは早かった。
壁に男の体をどんと押しつけた女は髪をかきあげながら男のシャツに手をかける。ボタンをひとつふたつ外したところで、男は『積極的だね』と言った。
ええそうなの。よく言われるわ
女は小さく口を開け、男の唇に――いや。首筋にかじりつき、その鋭い牙を突き立てた。
驚いて突き放そうとするもばきばきと姿をかえた女は青黒い肌とコウモリのような羽を生やし性別すらわからぬような怪物へと変貌し、鋭い爪と牙でがっちりと男を固定。首から吹き上がる鮮血を荒々しく吸い上げていく。
声も出ぬほど出血し、干からびるようにその場に崩れる男。
この怪物は……吸血鬼と呼ばれていた。
●ヴァンパイアハンター
天義のある教会に、イレギュラーズは呼び出されていた。
異端審問を専門とする教会だが、所属する異端審問官のすべてがベアトリーチェ騒動のなかで消失。それでも民の安全を守ろうと、他の人員を派遣し危険な異教徒や怪物の退治に奮戦しているという。
その前評判を聞いた時点から察していたことだが……。
「皆さんにやっていただくのは、怪物退治でございます。我々が追っている、『吸血鬼』の」
吸血鬼、というのはこの怪物につけられた俗称である。
人間に擬態し人間の血液を直接かじりついて吸い上げるという習性をもつモンスターであり、たとえ擬態時の姿が人間に似ているからといって人類と混同してはならない。
「彼らは性別や年齢、そして種族さえも自由に変貌させることができます。獣種の幼女から飛行種の老父まで……。といっても、この能力は人間を誘惑し油断させるためだけの能力で、彼らにあるのは姿のみを変える能力だけです。ほかにはコウモリのような翼を使った飛行能力と、多少鍛えた人間を組み伏せて食いちぎれるだけの腕力や顎の力……といったところでしょうか」
名もなき神父が話すには、この吸血鬼が発生する地点とタイミングはわかっているのだが、いざ見つけて戦闘をしかけ、殲滅するとなるとだいぶ人員を割く必要があるということである。
「方法は二種類あります。酒場で無防備な人間を装って近づき、ひとけのないところに連れ込まれたところで戦闘をして倒すというもの。
もうひとつはあらかじめ調べてある場所を地図を見ながら監視ないしは捜索し、吸血鬼を発見し次第襲撃をしかけるというものです。
どちらも吸血鬼の逃走には注意してください。おそらく殺されそうだと判断したところで逃走をはかるでしょうから」
まとめると、誘い出すか見つけ出すかして戦い、最悪逃げ出すであろう相手を追い詰めて倒すまでの手順を整えておいてほしいということである。
「大魔種による脅威が去ったとはいえ、ネメシスには問題が山積みです。危険な仕事ですがどうか、よろしくおねがいします」
- ブラッディマリーの夜明けまで完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年01月20日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●鬼の居ぬ間に鬼語り
低いピアノミュージックの流れる薄暗いバーの一角に、四人がけのテーブル。
赤いワイングラスをテーブルに置いて、『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は縁をついっと指でなぞった。
「吸血鬼……ねえ。なぜ血しか摂取しないんだろうね。獲物をとらえる力も消化器もあるだろうに、肉を食べないのは生物として合理性に欠けるとおもうんだけど」
言外に『私なら全部食べるのにもったいない』と上唇をわずかになめる。
「世界にもよるのじゃろうが……」
向かいの席。チョコレートスティックを立てたグラスから一本つまみあげ、『巫女吸血鬼』刺草・竜胆(p3p007906)はそれをちいさく咥えた。
「血に力があり、肉と骨はその袋にすぎぬ……という考え方があるのじゃよ。
そも吸血鬼は『怪異』。生物学の埒外じゃ」
まるで自虐のように言う竜胆に、マルベートは片眉をあげた。
「けれど、混沌世界(ここ)ではただの人間だよね」
「幸か不幸か、の」
パキンと割り折るチョコレートスティック。
「一方で今回の『吸血鬼』は人ですらないらしい。
嗚呼、嘆かわしい……同胞たる吸血鬼よ」
哀れむ、というより憎む、という感情が表に出ているように見えた。
「無辜の民を害する所業……例え神が許しても我が『正義』が許さぬ。儂が直接引導を渡してやるのじゃ」
同じテーブルで、『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)と『鬼薊』白薊 小夜(p3p006668)がそれぞれ並んで座っている。
(吸血鬼の旅人は固有能力の大半を失う代わりにそのデメリットも無くす。
ある意味ほぼ只の人間へとなり下がる。
無論その限りではないが一定の能力を持った存在が集っているなら調査が必要か)
ひとり黙考する『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)の反対側、『鬼薊』白薊 小夜(p3p006668)はバーに転がる無数の話し声のなかからピアノの音だけを聞き取って、静かに目を閉じグラスを傾けている。
「吸血鬼ね。ローレットの方で何人かお会いしたけれど敵方としては初めてかしら……」
形式は(というか世界は)違えど吸血鬼を名乗るないしはカテゴライズされるイレギュラーズは無数に存在している。それぞれ定義が異なるが、この世界では同じウォーカーとして統一され、こうして同じテーブルで飲み交わすことも容易だが……。
「私も同類だから、というのも違うけれど……共存の出来ない連中の始末はつけさせて貰いましょうか」
イレギュラーズ、中でもローレットという集団のスタンスはシンプルだ。
味方である以上敵対しない。それがいかなる世界のいかなる思想を持ったものであっても例外ではなく、たとえ戦争中の国家間に所属していても適用される。
そんなルールの中で見せかけの友好をかわすものもあれば、人間関係を楽しむ元はじかれ者もある。
そしてもう一つシンプルなのは、依頼を受けたからには達成努力は義務であり、今このテーブルについたメンバーは此度の『吸血鬼』を共通の敵にすることができた。
いや。
いや。
もっとシンプルに語ってみようか。
「つまりは『それ』を、斬ればよいのでしょう」
細身のジーンズパンツをはいた長い脚。
ゼファー(p3p007625)はウッドチェアの上で足を組み、浮いたつま先をゆっくりとまわした。
「吸血鬼……そりゃあ世界を旅してれば名前ぐらい聞いたことはありますけど?」
肩に掛かった髪を払い、丸いテーブルの端に肘を突いて頬を軽く握った拳に乗せた。
「外見特徴を自在に変えられるだなんて、ねえ。ずいぶんと……」
土地をうつるたびに姿も名前も変わって誰の記憶にも残らなかったら、なんてことを一瞬だけ考えて、ゼファーは静かに笑い飛ばした。
「厄介な能力だわ。ねえ?」
「広義にとらえればこれもまた闇に生きる者」
チョコレートのぬられたドーナッツをもふもふとかじっていた『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が親指で口の端をぬぐった。
「変えられるのは姿のみ。それが怪物とわかっていれば姿形に意味はなし。負けるわけにはいかないでござる」
光る世界は影を隠す。大停電の夜が訪れるまでだれも気づくことのない場所に、彼らはひっそりと飛び交っている。
時として明るい場所に長い指先を伸ばし、爪をひっかけて誰かをつれていくのだ。
「いわば蛇の道は蛇。隠れて餌をあさろうとした所をくびりころすでござるよ」
「そうねぇ、きっちりお仕事をこなしましょう」
からになったグラスの縁をぬれた指でなぞり、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は赤い髪をたらした。
細めた瞳の奥の奥。記憶に焼き付いた光景をよみがえらせる。
「大丈夫? 吸血鬼の話を聞いたときから、その……」
アーリアの変化を敏感に察していた『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)が、椅子をずらしてすこしばかり肩を近づけた。
「大丈夫よぉ。ええとね……『吸血鬼騒動』は、月光人形事件よりも前から、この土地では捜査がされていたのねぇ。妹が異端審問官だったから、あとになってそういう話を見たのよぉ」
「妹……」
サクラは今から半年以上まえの事件郡を思い出していた。
月光人形事件とその黒幕であるベアトリーチェおよびアストリア一派の動乱は天義という国を一時致命的なまでに傾けた。
サクラもある意味で、その当事者であったが……アーリアもそういった意味で、当事者であったのだろう。
「この国が緩やかに日常を取り戻す邪魔なんて、させない」
「そうだね、アーリアさん」
真剣な目をしたアーリアに、サクラは微笑みによって応えた。
世界は、彼らは前に進んでいる。
その脚を掴んで引っ張ろうというのなら。
手首を踏みつけてやるくらいは、してやれるはずだ。
●蛇の道は蛇、鬼道は鬼
等間隔に並ぶ聖力灯ポールの大通り。その一角にたつ教会の屋根にマルベートは立っていた。
吹き抜ける冬の風。
混じるパンやシチューのにおい。
人間社会のにおい。
マルベートは深呼吸をして、目をつぶる。
たとえばシチューにとけこんだ肉の中に、偽物の肉があったときのような。もしくはストロベリーのふりをした偽物の芳香剤ようなそんなにおいを探していた。
「どうでござるか、マルベート殿」
かぎ爪つきの縄を伝って屋根へとのぼってきた咲耶が、くちに咥えた望遠筒を手に取って遠くを見始めた。
「拙者なりにツテを使って裏の目撃証言を集めてきたでござる。天義のようなキレイな街であっても、報告されえない情報というものはあるものでござるからなな……」
咲耶は印をつけた地図を取り出し、マルベートへと差し出す。
同じように(そして若干手間取りながら)縄で屋根に登ってきたサクラが、ふうと息をついてから地図をのぞき込んだ。
「それが、咲耶ちゃんのつけた『目星』なんだね!」
「然様……」
「このポイントに絞り込んでマルベートちゃんがにおいをたどれば……」
「吸血鬼を見つけられるかも、ね」
サクラはうんうんと頷いた。
「できれば、獲物をみつけて裏路地に誘い込んだ段階でおさえたいよね。逃げ道の少ない場所に自ら入ってくれるわけだし」
「確かに。では、早速行ってみるでござる」
「ちょっと楽しくなってきた」
ぴょんと屋根から飛び降りるマルベートと咲耶。サクラは『さっき登ったばっかりなのに!』と言って縄をつたっておそるおそる下り始めた。
薄暗いバーの一角。
ラルフは壁際の席に座り、ちらちらとバーカウンターのほうを見ていた。
言葉に出さず、テレパス能力によって仲間と通信するためである。
通信している相手は、カウンターで新たにカクテルを注文するアーリアだ。
「ブラッディマリーを」
「お客さん、何杯目だい」
「数えてないわぁ」
真っ赤な髪をさらりとなでて、艶っぽく笑ってみせるアーリア。
そんな彼女右隣、テーブルにトンと指をついて爽やかな顔をした男が身を乗り出した。
「ボクにも同じものを」
「あらぁ……」
アーリアに振り返り、ウィンクをしてみせる男。清潔な身なりに甘い顔立ち。青い瞳が澄んでいて、いまにも吸い込まれてしまいそうだった。
……が、アーリアはこれが『吸血鬼』が偽った姿だと、すぐに気づくことができた。
チラリと振り返り、ラルフにテレパス通信を飛ばす。
これはいわば『詐欺師の罠』。
ラルフとアーリアが店内で距離をあけつつちらちらと視線を一方ずつ交わしあうことで『明らかにテレパス通信をしていること』を匂わせ、たがいに一人でいつまでも店にいることから『ひっかけられることを狙っている』かのように見せかけていたからだ。
つまりは、美人局詐欺だと勘違いさせるための工夫である。
『詐欺師は悪人を食う』という言葉があって、騙されてもそれを他者に訴えられない立場のものを好んで狙うことがある。そしてそういった人間を更に食う立場に、より狡猾な詐欺師がいるのだ。
「一緒にいいかな。一人の夜は寂しいんだ」
「正直ねぇ。キライじゃないわぁ」
グラスを乾杯する二人。
アーリアは、詐欺師を騙す詐欺師を……更に、騙そうとしていた。
昼間はきらきらと光を反射して美しい河川水路も、夜の闇の中では黒く不気味にうつるもの。
しかしこと小夜に関してだけは、昼も夜もかわらなかった。
ティーカップを手に取る所作も、唇が紅茶の水面につくさまも、かなり近い距離であれば、そして今こうして集中している間なら、読み取れる。
「ゼファーさん」
「ん、できたわ。このあたりで人を連れ込んでイチャイチャしそうな暗がりって、案外少ないのよねえ」
街を一通り歩いて回ってきたゼファーが、マークをつけた地図をテーブルに広げてみせる。
「天義の中でも表向きにはキレイにしてる街だからかしら。ホームレスもいないのよ。だからこの辺りだと、橋の下なんかが妖しいわね」
「ふむ、ふむ……」
竜胆は大きく呼吸をして、夜のかおりを胸いっぱいに吸い込んだ。
(胞よ、何故に無辜なる民を狙い、致死量の吸血行為を繰り返す?
いや、吸血行為自体は咎めんさ。それは我ら吸血鬼の衝動の様なもの……だがな、何も殺す事はないじゃろうに)
ぱちくりと瞬きをして、から。
「確かに人通りの多いあたりにはおらんようじゃ。目星をつけたエリアへ移るぞ」
「はい。では……参りましょう。案内をお願いしても?」
すっくと立ち上がる小夜。ゼファーも片眉をあげて笑うと、地図を丸めて自分の肩をぽんと叩いた。
「おねーさんに任せなさい――なんてね」
●ヴァンパイアハンター
裏路地のひめごと。
扇情的な身体をみせつけ、肩から衣服をすべらせていく女。
それが、みるみる異形の怪物へかわり牙を剥くという恐怖に……いま、名も知らぬ男が晒されていた。
「恐れるな。ただ死ぬだけだ」
逃げ出そうとする男を組み伏せんと伸ばした手が――突如、闇に走った剣によって切り落とされた。
「――!?」
気づいたときにはもう遅い。
裏路地へと飛び込んだサクラの剣が凍気を帯びて吸血鬼の腕を切り落とし、その先端は回転しながらマンホールの上をはねた。
「今の内に逃げて」
「ひ、ひい……!」
うわずった声をあげ逃げ出していく男。それをかばうように立ち塞がり、サクラは剣を突きつける。
吸血鬼はといえば、切り取られ凍結した腕をしげしげと眺めてから、サクラへと視線を移した。
「たった一人で正義の味方か?」
「一人じゃないよ」
刹那、サクラを狙って上空からフリーフォールアタックを仕掛けた別の吸血鬼――を民家の屋根から飛び出した咲耶が刀を突き刺してかっさらっていく。
「紅牙・斬九郎、ここに見参! 吸血鬼共よ、貴様等の悪行ももはやここまで! 人生最後の晩餐をゆっくり味わっていくがよい!」
「そっちも、だろうけどね」
「ぐっ」
背を向けて逃げ出す吸血鬼。
しかしその行く手を阻むかのように着地したマルベートが、闇のオーラを纏った巨大な槍……いや、悪魔のテーブルナイフとフォークを握って飛びかかった。
「数多の血を吸って育った吸血鬼の血はどのような味がするのか。君達が楽しんだ分、私も少しは楽しんでも文句は言うまいね?」
ぺろりと唇を舐め、吸血鬼の胸に巨大なフォークを突き立てる。
もう一体の吸血鬼は駆けつけようと咲耶を振り払いにかかるが、咲耶は繰り出される攻撃をことごとく刀で受け流してしまった。
「変装が上手いのが取り柄の怪物如きにこの斬九郎、簡単には捉えられはせぬ」
細めた目。
わずかな殺意。
「貴様はもはや、これまで」
街の暗がりへとやってくるアーリア。
「ねえ、ここでいいよね。ボク待ちきれないんだ」
爽やかな顔で言う男の声が、少しずつくぐもっていく。
「お姉さんの血、甘くて美味しそうだからさ」
「そう……」
髪をはらうアーリアの背中、むきだしのうなじに向けて牙を立てんとした吸血鬼……その頭を、ラルフの光線が打ち抜いていった。
「な゛、な゛に゛も゛の゛!」
ノイズだらけの醜い声で、首もないのに叫ぶ吸血鬼。
ラルフはすかさずクロノプリズンを放ち、更に錬金紅鎖と魔狼襲で仕留めていく。
アーリアはゆっくりと振り返りながら、物陰から飛び出してきたもう一体の吸血鬼を指さした。
「ねえ、あなた。あなたに王様はいないの?」
「今の貴様ごときに手が届くものか」
せめてアーリアだけでもと手を伸ばしたが、愚かなことだ。
泥水したか弱い女性に見えるそれは、人の形をした猛毒だというのに。
指を一度唇につけると、アーリアは艶っぽく投げキスを与えた。
ぐにゃりと風景が大きく歪み、吸血鬼の頭がはじけ飛んでいく。
「そう……いつかは届くのね」
橋の下の暗がりをゆく、目を閉じた美女。
「もし。道を尋ねたいのですけれど……」
清らかな声に、相手は……異形の怪物は振り返る。
小夜が見ていないのをいいことに、吸血鬼はその姿をさらし、そして大きく口を開いた。
「ああ、教えるとも。地獄への最短ルートだニンゲン!」
小夜の首に食らいついた――と、本人は思った。
「一つ、剣舞をご覧に入れましょう。髑髏の剣士、邪剣士、特異点。三つ巴の戦い、その一幕」
だがそのときにはすでに、小夜の抜いた剣が吸血鬼の首を斬っていた。
回転して飛び、川の中へと落ちる首。
ごぼごぼと空気があがるが、首から下の身体は依然として生きている。
「首を立っても死なぬとは。ここの吸血鬼もたいしたものじゃ」
竜胆は橋の下へと飛び降りると、即座に吸血鬼状態へと変化。
白銀の髪に血の爪。コウモリの翼。
オーラを一瞬ジェット噴射して着地すると、そのまま勢いをつけて吸血鬼へと殴りかかった。
「ともあれ貴様は許されぬ事をした。ならば『悪』じゃ! 儂等が『正義』としてそなたを滅殺しようぞ」
心臓にあたる部分を素手で打ち抜き、内容物を引っこ抜く。
血を吹きあげて崩れ落ちる吸血鬼。
一方で、その様子を影から見ていた吸血鬼が顔をしかめて走り出した。
逃げ出すつもりだろうが……そうはいかぬ。
ゼファーの投げた槍が壁に突き刺さり、吸血鬼は思わず足を止めた。
「質問よ。あなたはこの辺りにいったいどれくらいいるのかしら?」
思わず振り返る吸血鬼。
ゼファーは目を細め、唇の前で人差し指を横に振った。
「答えるなんて思ってないわ。ただ、言っておきたかっただけ」
吸血鬼は訳も分からず叫び声をあげ、ゼファーへと襲いかかる。
反射で飛び出した小夜と竜胆の刀と手刀がそれぞれ吸血鬼の腕を切り落とし、そしてゼファーの鋭い回し蹴りが吸血鬼の頭を吹き飛ばした。
「いずれは皆お掃除しますから……安心(かくご)なさいな?」
脚を上げたまま、ゼファーは言った。
こうして街にはびこる吸血鬼のいくつかは倒され、夜に平和が戻った。
だがこれが全ての吸血鬼だとは思えない。
自分たちを一夜のうちに何体も滅ぼしたローレットを相手に、残った彼らはどう動くのだろうか。
血の夜は、まだ明けてはくれないようだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
■■■オーダー■■■
成功条件:吸血鬼の撃滅(三件以上)
オプション:吸血鬼5体以上の撃破
オプション:吸血鬼8体以上の撃破
これから皆さんには三チームに分かれていただき、それぞれのチームで別々に吸血鬼を撃滅していただきます。
エリアもだいぶ離れているので、依頼中での相互支援や連絡はできないものと考えてください。
戦いに持ち込む方法は二種類あります。
それもチーム内のメンバーの特技や好みで選ぶとよいでしょう。(ないしは、似たような狙いのメンバーどうしで組むのもよいかもしれません)
ひとつは酒場で誘い出すパターン。
一人でやっても二人がかりでも、おかしな邪魔(割り込んでくる関係ないやつら)が入らないように監視する役をたててもOKです。やりやすいように、特技を生かしましょう。
もうひとつは町中を探し出すパターン。
町の政治がしっかりしてるせいか正確な地図があり、道や区画も整備されています。
そのうえ出没するであろうエリアをある程度絞り込んであるので、その情報を頼りに捜索してください。
時間は夜。厳密にってわけじゃありませんが、大体30~60分程度で発見できるような想定で動きましょう。
●戦闘
吸血鬼はいちどに1~3体程度で行動しています。
相手のグループが少なきゃ少ないほど小規模で行動するもんだと考えてください。
相手を油断させて一人で来たところを三人で袋だたきってパターンでもいいですが、より大きな成果をあげたい場合はあえてフルメンバーで誘い出すってのもありでしょう。
吸血鬼の戦闘能力は『やや高い』程度で味方同士での連携能力は低いとされています。
戦闘に関する技能は飛行能力の他に『出血系BS』『HP吸収系攻撃』が強みです。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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